• 闇光

【闇光】不破と黒茨槌

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/10/01 07:30
完成日
2015/10/09 09:35

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 雪に覆われた白い大地。ここは生きとし生けるものの侵入を阻む地、北狄だ。
 この地にハンターと浄化の術を持つ者と共に訪れた帝国第十師団師団長のゼナイド(kz0052)は、自らの師団の者たちと焚火を囲みながら束の間の休息を得ていた。
「本当にあっしが来ちゃって良かったッスか?」
 そう問い掛けるのは、第十師団3階層に配属されているエルフの囚人ジュリだ。
 彼女は首に嵌められた刑期メーターを指で触りながら、温めたワインを口に運ぶゼナイドを見た。
「マンゴルトの推薦ですもの、仕方ありませんわ。特例中の特例ですからせめて死なずに帰って下さいな」
 今回の北狄進軍には第十師団の兵士がかなりの数導入されている。その殆どは覚醒者で戦闘経験も豊富な2階層より上の人材ばかり。
 ジュリが所属する3階層は低級の歪虚の相手をするのが殆どの、精鋭とは程遠い部署にあたる。その彼女が何故抜擢されたのか、それは彼女の種族にあると言って良い。
「それより、体調はどうかしら?」
「んー、少し怠いッスね……ゼナイド様は大丈夫ッスか?」
「まあ、貴女よりは大丈夫よ」
 そう言いながらもため息が漏れる。
 正直、この地に充満する負のマテリアルは彼女にとって――否、エルフにとって不利だ。元々マテリアルに強く反応する種族故、先の北狄侵攻作戦の際には同行させてもらえなかったほど。
 それでも今回この地に来たのは同胞のため、そしてヴィルヘルミナの要請があったからだ。
「この子の体が持つ間は、他のエルフも問題ないですわね……」
 ふぅ。そんなため息をもう1つ零した時だった。

 ゴゴゴゴォォオオッ!

 雪崩のような轟音と共に、物凄い勢いで雪が舞い上がった。
「何事ですの!?」
 思わず飛び上がったゼナイドに次いでジュリも立ち上がる。そうして武器を手にした瞬間、雪と閃光が走り、ジュリの体が吹き飛ばされた。
「ジュリッ!!!」
「そのマテリアル……ウランゲルと共に在りし者か」
 低く、大地を揺らすように威圧する声。この声に眉を上げると、ゼナイドは一歩を下げて戦闘の構えを見せた。
 そして目の前に現れた黒い鎧の騎士を見る。風にマントをなびかせ、腕を組んで仁王立ちし、溢れ出る負のマテリアルを隠しもせず、内から漏れる青い炎を晒すのは、四霊剣が1人――
「不破の剣豪ナイトハルト……何故、貴方がここに」
「……オルクスの命よ……貴様こそ、何故居る。此処は貴様の様な種の居る場所ではない」
「わたくしも陛下の命ですの」
 陛下。この言葉に剣豪の僅かな唸りが響く。
「っ……ゼナイド様……こいつ、なんなんッスか……?」
「ジュリ、貴女意外と丈夫ですのね」
 どうやらジュリは剣豪の攻撃を受けた訳では無さそうだ。
 僅かに切り傷こそあるが体は至って健康。この後の戦闘にも十分耐えるだけの余裕はあるように見える。
 だがここまで考えてある考えが頭を過った。
「貴方、何を従えていますの?」
「……ぅうむ」
 かなり伐の悪そうな唸りに次いで、閃光がゼナイドとジュリの前に走る。
 今度は2人同時に回避したので誰も怪我をしていないが、なんだコレは!!
「斧が勝手に動いてるッすよ?!」
「デュラハン型の歪虚ですわね……貴方、1人で来ないで随分と卑怯になりましたのね?」
「これはだな」
「オズワルド様にも聞きましたわ。本当に情けないですわね」
「いや、だから……」
「ゼナイド様、コイツヤバいッスよ!!!」
 不毛なやりとりを繰り広げるゼナイドと剣豪を他所に、ジュリはすっかり出現した歪虚に気に入られたようだ。
 空を斬り、雪を裂いて迫るガラスのように美しい斧。それが間髪入れずに次々と斬り込んで来る。
 その動きはまさに瞬速。
「くっ、……あっしの動きだって、速いのに……」
 元々タングラムのマネをして賊行為をしたが為に罪人になったジュリだ。素早さには当然自信があった。
 だがこの斧は彼女の上をいっている。しかもこの斧、思わぬ術を持ってジュリを驚かせる。
「ふぉあ?!」
 ジュリ目掛けて振り下ろされた斧が大地を割る。それと同時に舞い上がった雪飛沫が、なんと人の形を取ったのだ。
「雪の鎧と言う訳ですわね。まあ良いですわ。アレを倒さない事には前には進めない……貴方を退けない事にも、ですわね?」
「……うむ」
 ゼナイドの囁きに剣豪は若干不満そうだ。
 それでも状況は彼女が言った通りで間違いないだろう。
 幸いなのは剣豪自身が乗り気ではないと言う点だろうか。にしても気にかかる。
「貴方……そんなに素直でしたかしら? 確かに力に対しては嫌になるほど素直でしたけど……何か隠してません?」
 オルクスの命に従って剣豪が人を襲うことはここのところの常識になっている。
 けれど剣豪はオルクスに自分の力を封じて貰うほどに力に対して貪欲だ。それこそ闘い始めると我を忘れてしまうほどに。
 そんな彼が自分を押してまでここに来る理由はなんだ。もしかしたら――
「ゼナイド様ッ、そろそろ助けッ……うあああああ!」
 風を斬るごとに舞い上がる吹雪にジュリは完全に苦戦している。
 その姿を視界端に留めると、ゼナイドは息を吐いて同行しているハンターに叫んだ。
「わたくしが剣豪を押さえますわ。その間に、その歪虚を倒してくださいな!」
「ほう、貴様1人で我を押さえると?」
「短時間でしたら可能ですわよ。わたくし、あの時より強くなりましたの」
「成程。オズワルドは老いたが、貴様は成長したと……これならば、少しは楽しめるか……?」
 立ち昇る不穏な気。それが剣豪の体を巻き取る鎖に変わると、ゼナイドは自らのハンマーを持ち上げて雪を踏み締めた。
「帝国第十師団師団長、黒茨槌のゼナイド参りますわ!」

リプレイ本文

「うお!? あれが剣豪かッ!」
 睨み合う剣豪ナイトハルトとゼナイド。その双方を見比べたエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が興奮した声を上げる。
「剣豪ナイトハルト……いい加減名乗らないとね」
「そういや3度目だったか」
 エヴァンスの声に頷くユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は過去を振り返るように目を細める。
「……私は前回渡り合った時の私よりも前に進めているのかしら」
 確かめたい。そう拳を握る彼女の前で、剣豪の放つ拳が雪を吹き飛ばす。その中で飛躍するゼナイドを見て彼女の足が動いた。
「ユーリさん?!」
「行かせてやれ」
 ユーリを止めに出たミィリア(ka2689)をエヴァンスが止める。
「慌てる必要はない。まずはこいつを確実に仕留めてからだ」
 エヴァンスの目がジュリと対峙する雪斧に向かう。そして背負う大剣を抜き取った。
「とっとと雪斧を仕留めて向かってやるから、そこで首を洗って待ってるんだな剣豪!」
「やる気満々ですね。それにしてもオルクスの次は剣豪って……デスエンカ続きすぎでしょう」
 まるで帝国厄災フルコースな状況にキヅカ・リク(ka0038)が声を零す。
「とは言え、エヴァンスさんの言うようにまずは雪斧が先ですね。なんとかここを乗り切らないと……!」
 素早い動きで翻弄する斧と同じく、雪の鎧も雪原だと言うのに見た目以上の速さで動いている。
「うぅ、見てるだけで寒す……! いや、僕寒いの苦手なんですけど! あ、暑いのも苦手ですけど……何時もより防寒はシッカリしてますが! これは身体を動かして暖かくするしかないですね!」
 ぶるっと体を震わせるリフィル・エクティード(ka5038)にジュリが叫ぶ。
「そう思うならさっさと助けるッス!」
「ハッ、そうでした! 意外と余裕そうなので忘れてたす!」
「忘れるなッス!」
 いぎゃあああ! 色気のない叫び声を上げて逃げるジュリに追いかける斧。それを見ていたフラメディア・イリジア(ka2604)が息を吐く。
「思わぬところでの強敵との遭遇じゃが……目論見を潰してやるとしようかの」
「はい、もちろんです。わたしにも、守りたいものがありますから……」
 アニス・エリダヌス(ka2491)は杖を握り締めて頷く。
 剣豪ナイトハルトは武神でもあると聞く。土着の神を信仰している身としては複雑な面もあるだろう。
 けれどアニスは表情を引き締めると前を見た。
「どんな相手であろうと……異郷の神とて、お相手いたします……――セイクリッドフラッシュっ」
 雪斧とまるで見当違い方向に放たれた光の波動。それに次いでフラメディアの斧が雪を掻くように振り上げられる。
 キラキラと宝石のように舞い上がった雪が四方に散る。そして再びアニスが光の波動を放つ。
「待ってください」
 2度目の波動が雪を払った時、キヅカが何かに気付いて前に出た。
 予定ではこの後地面が顔を覗かせるはずだった。だがどうだろう。
「こりゃ凍ってるな」
 武器の先端で地面を突いたエヴァンスにフラメディアとアニスが顔を見合わせる。
「雪がある方が安全と言うわけかの。じゃが」
「あ、あの……そろそろジュリさんが……」
 ミュオ(ka1308)の声に全員の目があがる。
「もう限界ッス!!」
 器用に避けてはいるが動きのキレが悪くなっている。確かにそろそろ限界だ。
「……仕方あるまい。予定とはだいぶ違うが呼ぶぞ!」
 声を上げたフラメディアに呼ばれジュリが方向転換する。それを受けたこの場の全員が武器を構える中、ミュオだけが一瞬、ゼナイドを振り返った。
「黒茨槌……二つ名があるなんてさすがゼナイドさんです。すごいなぁ……」
 誇る強さも勇ましさもない。それでも戦場に立つからには決めなければいけない覚悟がある。
「僕もがんばらなきゃ……!」
 幸いな事に防具だけは丈夫だ。痛いのは嫌だがほかの人が怪我するくらいなら自分が引き受ける。
 そんな覚悟を抱いてミュオも前に出た。
「行きます……!」
 ミュオは深呼吸をするように息を吸うと、皆と同じように雪斧へ踏み出した。


「成程。エルフは衰えぬか」
 振り下ろした拳を真っ向から受けるゼナイド。これを見たユーリは一気に足を加速させた。
「ゼナイド、無粋かもしれないけど私も混ぜてもらう――ッ!?」
 覚醒して背後を取りに掛かった直後、攻撃を交える刃が剥がれた。
 拳を雪原に突き刺し吹雪を招く剣豪。
 ゼナイドはこれに対して巨大なハンマーで身を守って回避している。だがユーリは身構える暇がなかった。
「っ、……この程度、耐えてみせる!」
 前に剣豪に言ったのだ。『あなたと同じ武の域へ到達してみせる!』と。
「お下がりなさい!」
 声を上げたゼナイドの気持ちはわかる。だが彼女は知らない。
「私だって過去に2回こいつと交戦してるわ!」
 頬を流れる鮮血をそのままに、剣豪越しに見せるゼナイドへ叫ぶ。
「だから知ってる……足止めと言っても1人でそれを担うのは危険すぎるわ。だから無粋かもしれないけど、私も!」
「我は構わぬ。所詮は小娘2人。増えた所で……否、1人は小娘では」
「お黙りなさい!」
 戯言を放とうとする剣豪を一蹴し、ゼナイドが構え直す。
「護れる保障はありませんわよ」
「必要ないわ」
 勇ましく応えたユーリの声にゼナイドの口角が上がる。
「何処となく似てますわね」
 ゼナイドはそう零すとユーリと視線を合わせ――雪を蹴った。


 ジュリを追い駆ける雪鎧を射程に、キヅカはライフルの引き金に指を掛ける。
「狙撃箇所は鎧中央……まずはここから攻めます。ジュリさん、右へ――っ」
 声と同時に放った弾が雪鎧に迫る。
 本来であれば命中は必須。だがここは雪原だ。
「外れた……なら、これでどうだ!」
 踏み締めきれない足場を捨てて飛び上がる。そうして構えたライフルで照準に合わせ、撃った!
「命中!」
 声を上げて駆け出したリフィルに次いでフラメディアも駆け出す。予定ではこの後すぐに雪鎧は再生する。その前に破損箇所を突いて鎧を破壊する。
「フラメディア、例のものだ。乱雑に扱っても良いからよ。頼むわ」
 雪鎧へ向かう最中、通り過ぎざまにエヴァンスが放ったのは赤の直剣だ。
「ほう。火属性の剣か。随分と重要な役目じゃな」
 零し、双方の目が雪鎧を捉える。
 雪鎧は破損箇所を雪で再生をしつつ、目の前に迫るミィリアに拳を振り下ろした。
「うわっ! 見た目以上に早いっ」
 雪の鎧と中には斧。どう考えても重いはずだが、この敵も重力無視の奇抜な動きをする。
 瞬間的に雪を蹴って回避したミィリアだが、着地の際に態勢が崩れた。そこに遠慮なしの一打が加わる。
――直撃する。
 怪我を覚悟で防御の構えを取った彼女の前に、同じ背丈の壁が現れた。
「ミュオ!?」
「攻撃を、お願いします……っ」
 幅広の刀身で攻撃を受け止め、全身で吹雪を受け止める。
 こんな無謀な防御がいつまでも続く訳がない。
 ミィリアは体制を整えると、僅かに見える亀裂に向かって突っ込んだ。これに合わせてリフィルも踏み込んでくる。
「先手必勝!」
 詰めた間合いは調度良い。
 渾身の力を込めて突き入れた一打が鎧の中に沈む。そして何か硬い物に触れた瞬間、同じように攻撃を見舞ったミィリアとその前に居たミュオが吹き飛ばされた。
「うああああ!」「――ッ、ぅ」「うそぉー!」
 三者三様に雪へ叩き付けられる。この間に雪鎧は再度の再生を試みる。しかし、
「まだじゃ」
 鎧から吹き出る吹雪にフラメディアが飛び出した。彼女はエヴァンスから受け取った直剣を握り締めると、亀裂に向かって突き刺す。

 バギィィインッ!

「出たぞ!」
 金属音と同時に砕け散った雪鎧。その中央に見えた雪斧を見た瞬間、エヴァンスは炎の剣を構えて直進した。
「団長!」
「加勢しますよっ」
 斧の周囲に集まりだした雪を妨害するようにアニスの杖が唸る。繰り出したのは光の弾だ。
 それにキヅカの雷撃が加わる。
「眩しい……」
 思わず片目を瞑ったミュオ。その彼の視界でエヴァンスが雪斧の間合いに踏み込む。
「砕けろォォオッ!」
 渾身の力を篭めて剣を振り薙ぐ。だが抜ききる前に刃が止まった。
 想像以上に硬い斧は1度の攻撃ではビクともしないらしい。
 雪斧はエヴァンスを振り払うと、周囲に集めた雪を自身に纏い始めた。これに再びミュオが前に出る。
「守りは僕が……僕が、守るんです……!」
 身を低くし、剣を地面に突き立てて防御を敷く。そこに雪斧の吹雪が迫ると、彼は微動だにする事なく真っ向からそれを受け止めた。
「ミュオ、そのまま退くでないぞ」
「フラメディア様、それはさすがにですよ!」
「大丈夫……です……っ」
 寒さと雪の礫がミュオを襲う。彼は視界に入ったフラメディアに頷くと攻撃を耐える気概を見せた。
「ああんもう! わかりました! 集中、集中……リフィル、行きます!」
 駆け出して再生途中の雪鎧に向かう。
「気合の一撃です! 召し上がれぇ!」
 鎧と斧の間に滑り込んで繰り出した一打。全身に雪礫を浴び、頬や腕、足も腫上がっている。それでも踏込んだ足をそのままに斧を打つと、フラメディアとミィリアの手が伸びた。
「後は我らに任せるがよい」
「そうそう。無理は禁物……てぇ、ねっ!」
 強引に引っ張り出したリフィルを雪上に放って前に出る。だが足は雪鎧の外。アンカーブーツを地面に撃ち込んで日本刀を構える。
 そして雪鎧が再生を終えようとする瞬間、リフィルが打ち込んだ位置と同じ位置に赤の直剣が叩き込まれた。

 ギィィイイッ!!!

 金属音と振動。その双方を感じながらキヅカが新たな雷を打ち込む――
「クリティカルヒット!」
 飛び出すミィリアの視線の先で、フラメディアが打ち込んだ直剣に雷が当たる。
 弾ける雪と、取り残される斧。
「今度は再生させないよっ!」
 ミィリアの放つ衝撃波が雪を掻き分け道を作った。そこにエヴァンスが滑り込む。
「団長、今度こそお願いしますよ!」
 再生の動きを見せた斧をアニスの光が貫く。それに次いでキヅカの放った炎も援護に加わると、集まりつつあった雪が動きを鈍らせた。
「エヴァンスさん、フォローは任せてでござる。後ろはガッチリ固めるよっ!」
 心強いミィリアの声を糧に、エヴァンスが2度目の踏込みを見せる。
 狙いは先程と同じ箇所、だが攻撃方法は違う。
「先手は任せる!」
「了解でござる!」
 声を掛けて飛躍したエヴァンスの下を通ってミィリアが斧に突撃する。
 凄まじい勢いで激突した2つの刃が衝撃を放つ。それを肌に受けながら、エヴァンスは刃に渾身の力を篭めた。
「今度こそ砕けろォォォオォオッ!!!」
 重力と自らの力を重ねて振り下ろした刃が斧を叩くと、次の瞬間。眩いばかりの光が斧を包み――砕け散った。
 キラキラと雪を纏って落ちてくる光。それを見てアニスが息を吐く。
「終わったのですか……?」
「いや、まだね」
 キヅカはそう言って後ろにいる剣豪らを振り返った。


 真っ向から仕掛けられた拳。それを寸前の所で交わしたユーリが風圧に吹き飛ばされる。
「……っ、まだ……まだよ!」
 ボロボロになりながら立ち上がったユーリに剣豪は唸る。倒れても倒れても立ち向かう姿は正に戦士。だがその力はまだ、
「――足りぬ!」
 足場の雪を物ともせず迫る剣豪に左へ重心を寄せる。注意深く、五感全てを研ぎ澄まして見極めるのは彼の軌跡。
「今は足りないかもしれない。でも私は確実に前へ進むわ!」
「ならば来るが良い!」
 轟音と風、雪を纏い迫る拳。これを寸前の所で交わして踏込む。当然凄まじい圧が体を吹き飛ばそうとするがここを耐えれば反撃の機会が――
「良く耐えたな」
「エヴァンス!?」
「足止めと攻撃機会を作ります。チャンスを活かしてくださいね」
 飛びそうになるユーリを支えたエヴァンスは、真っ向から剣豪に斬り込んでゆくキヅカをサポートするべく飛び出す。
「倒したか……良かろう、掛かってくるが良い!」
 負の波動を放ち迎え撃つ剣豪。足が竦むが見えた仲間の姿に気持ちが前に出た。
「……僕は英雄なんかじゃない。けど、悲しいままの未来が嫌だから、だから、戦う。例え、相手が英雄だろうと……!」
 飛躍して剣豪の上空を過ぎる。そして後方を捉えた瞬間、前を向いていた剣豪の頭が後ろを見た。
「っ……!」
 驚いた隙を突いて、剣豪の足がキヅカを吹き飛ばす。粉雪を上げて雪に消えるキヅカ。
 そんな彼を見るでもなく剣豪が次に標的にしたのはエヴァンスだ。
「ここまで早いのか……だが、面白え……!」
 冷や汗は流し尽くした。後は戦闘で敵の強さを感じるだけだ。
 エヴァンスはユーリと視線を交わし駆け出す。繰り出すのは雪鎧で使い切らなかった力の全て!
「成程……悪くはない……」
 だが物足りない。
 渾身の力を篭めて放ったエヴァンスの攻撃も、ユーリの居合いも、ミィリアの突きも、剣豪にとって不足のものだった。
 受け流して回避して、反撃の様子を見せない彼に問う。
「お久しぶり……かな。なんだかご機嫌ナナメ見えるけど……そうでもない? もしかして、失踪したって噂のヒルデブラントさんを、実は剣豪さんが倒してたっていう前聞いた話。あれが何か関係してたりするのかな?」
「ヒルデブラントって、前皇帝陛下……あわわわわ、ごめんなさいっ!」
 なんでもないです。と盛大に手を振ったミュオの視界に、高速移動した剣豪の腕がミィリアの討つ姿が見えた。
 息を詰め転がるミィリア。
 その彼女の仇を取ろうと駆け出したユーリとエヴァンスも、彼の拳によって吹き飛ばされてしまう。
「動揺、かしら? 折角ですもの、わたくしも聞きたいですわね……前皇帝陛下の行方」
 倒れたハンターの前に立つゼナイド。その彼女に向け、新たな構えを見せる剣豪は、僅かに唸りを持たせて呟いた。
「我が倒した……はずだ」
「はず?」
「どういうことじゃ? お主、覚えておらんのか?」
「刀鬼がそう言っていたのだ。我が倒したと……」
「紫電の刀鬼?」
 何で刀鬼が。そう疑問を抱いた時、思わぬ声が降って来た。
「ボス。よーやく発見デ~ス♪」
「っ……刀鬼、さん?」
 驚くミィリアだったが、刀鬼はまるでお構いなしに剣豪に纏わり付く。
「東方からリターンしたら誰もいなかったデス。ミーを置いて行くなんて酷いデ~ス!」
 ぐいぐいと剣豪の頭を引っ張って催促する刀鬼に「わかったから引っ張るな」と声を掛け、剣豪は空に飛び上がった。
「逃亡ですの?」
「! 待って……! まだ名乗ってないわ……私はユーリ……ユーリ・ヴァレンティヌスよ……!」
 体は動かない。それでも絞り出した声を剣豪は最後まで聞いていた。
 覚えたかどうかは不明。それでも言いたいことは言えた。
 ユーリは音もなく雪に倒れこむと、僅かに耳に届く声を聞きながら意識を失った。
「……休んだら、また進軍、だな……」

依頼結果

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MVP一覧

  • 春霞桜花
    ミィリアka2689

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 純粋若葉
    ミュオ(ka1308
    ドワーフ|13才|男性|闘狩人
  • 勝利の女神
    アニス・エリダヌス(ka2491
    エルフ|14才|女性|聖導士
  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジア(ka2604
    ドワーフ|14才|女性|闘狩人
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • 不屈の刃
    リフィル・エクティード(ka5038
    人間(蒼)|18才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓!
エヴァンス・カルヴィ(ka0639
人間(クリムゾンウェスト)|29才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/09/27 05:22:11
アイコン 相談卓!
エヴァンス・カルヴィ(ka0639
人間(クリムゾンウェスト)|29才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/10/01 06:42:18
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/26 21:33:02