『称賛』されない男

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/10/07 07:30
完成日
2015/10/17 02:28

このシナリオは4日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●王国北部のとある村
 一人の男がいた。男は大柄な身体が取り得だった。小さい頃は騎士やハンターに憧れていたが、騎士にも慣れず、覚醒者でもなかった。
 自尊心が高い性格が災いしてか、地道な作業が続く農作業を嫌がり、誰も頼んでもいないのにも関わらず、村の用心棒をやっている。
「ほら、せっせと、働けよ! 俺がいるから、てめぇらは、生きてるんだからよ!」
 身を投げ出して男は、農作業中の村人に叫んだ。
 村人達は困ったような表情を浮かべた。そのうちの一人が我慢ならない様子で返事をする。
「ズールだって、働いたらどうだ?」
 それが、この男の名であった。
 村人のその言葉に、ズールは逆上する。がつがつと近付いて、胸ぐらを掴んだ。
「俺は俺で、働いてるだろ? 文句あるのか? 逃げ出したくせに!」
 一ヶ月程前に、村は亜人の襲撃を受けた。
 ただし、亜人数体程度であり、傷だらけというものもあったが、村長は人命を尊重して避難を呼びかけた。
 その中で、ズールは、大剣を振りまわし、亜人達を撃退したのだ。
「うわぁ」
 畑に投げられる村人。
 様子を見守っていた村人達が心配して集まった。
「ひどい事を……」
「そうだ、そうだ」
 騒ぎを聞きつけ、村人の数は増える。
「なんだ、てめぇら! 誰が村を守ったと思っていやがる!」
 ズールは叫んだ。
「守った? 村の女子や忠告した者に酷い事するような奴が、村を守ったとは言わない」
「そうだよ。あんたが手を出した、あの子。怯えて、外にも出て来ないんだよ!」
「悪魔だ、悪魔! 出て行け!」
 村人達は一丸となった。
 この乱暴者を村に残しておけば、いずれ、大変な事になる……そう思ったからだ。
「はっ! 誰が、こんな村に残るもんか!」
 ズールは村から追い出された。

●ネオ・ウィーダの街
「けっ! 俺の力が分からないとは、まったく、ドイツもコイツもよ!」
 ズールが悪態をついていた。
 騎士として仕官しにきたのだが、あっさりと断られたからだ。
 期限付きの臨時兵士ならという話もあったが、プライド高い彼が、それを許す事はなかった。
「おい、ねぇちゃん。どうだ、俺と楽しまないか?」
 通りがかった女性に声をかける。
 だが、女性はズールの姿を一瞥しただけで、なにも言わず立ち去って行った。
「ブスがっ!」
 去って行く背中に向かって叫んだ。
 街まで来れば、仕事はいくらでもあると思った。それも、自分に相応しい内容で。
 だが、ズールは知らなかった。己の力量を。
 訓練された素人の兵士よりかは少し強い程度の男だ。覚醒者でもないし、剣の腕に才能もない。おまけに努力するという事が嫌いだ。
「しかたねぇ……掃除でもして、稼ぐかな」
 ニヤリと笑った。彼の言う掃除とは、裏路地などに溜まる浮浪者などから金銭を奪い取る事だ。
 新しい街とはいえ、そういう人間もいる。ズールは裏路地を進む。適当な角を何回か曲がった所で、ズールは出逢った。
「おんなかぁ? ガキだが、なかなか、上玉じゃねぇか」
 すれ違いざま、少女の腕を掴んだ。
 その瞬間だった。真っ黒いオーラに包まれたと思った次の瞬間、ズールは地面に転がっていた。
「な、なんだぁ!?」
 あっという間の出来事でズール自体もなんだかわからなかったが、彼は、少女によって投げ飛ばされていたのだ。
「私は、身も心も、ある御方に捧げています。貴方のような人が軽々しく私に触れないでください」
 緑髪の少女がズールを見下ろしながら淡々と言った。
 ただ者ではない雰囲気がしており、ズールは唾を飲み込んだ。
「それでは、失礼します」
「ま、待ちやがれ!」
 立ち去ろうとする少女を呼びとめるズール。これは、チャンスだと思った。
 この少女でこれだけの力を持っているのだ。
「俺を、ある御方という奴の所に連れて行け。必ず、力になる」

●悪縁
「それで、連れて来たのか」
 歪虚ネル・ベルが鋭利な刃物を思わせるような視線でズールを見た。
 どうみても、単なるチンピラレベルである。
「この俺の力、必ず、あんたの役に立つ」
「それで、お前に何が得られるのだ?」
 必死に食い下がるズールに向かって歪虚は訊ねた。
「力を手に入れられれば、村の奴らは誰もが俺を称賛するだろう。この俺が村を支配する。あんたらは村から巻き上げたものを手に入れる」
 歪虚は口元を緩めた。
 この男は……『傲慢』の素質に溢れている。
「いいだろう。ただし、契約には条件がある」
「おう、なんだ! なんだっていいぜ!」
 馬鹿な男だと歪虚は思った。
 こういう人間を集められれば、より大きい悪事ができそうだとも同時に思う。
「貴様が死ぬ事だ」
 その言葉に男は絶句した。
「ちょっと、待てよ!」
「まさか、今更ダメだと? まぁ、田舎の村でやっかい払いされた程度のクズじゃ、無理だったな」
 乾いた笑い声をあげながら歪虚は立ち去ろうとする。
 その言葉で、男は村での仕打ちを思い出した。
(そうだ……俺は……)
 命がけで戦ったのに、誰も称賛しなかった。逆に俺を否定したのだ。
 なら、俺が力を手に入れ、無理矢理でも、言わせてやる。偉大なるズールの名を。
「待て!」
 その言葉に振り返った歪虚が見たのは、ズールが短剣で喉を掻っ切った光景であった。

●支配
 その村は一体の歪虚によって支配されていた。
 当初は亜人の襲撃で滅んだと思われていたが、実はそうではなかった。
「ズ、ズール様! お赦し下さい!」
 一人の村人が土下座している。この村人、大事な家畜を誤まって逃がしてしまったのだ。
「……そういや、お前、俺が作業馬をダメにした時、ぼろくそ奪って行ったよな」
「あ、あれは、違うのです!」
「そうだよな。違うよな! 俺がたかが馬1頭ダメにしたのと、お前が家畜を逃がしたのは!」
 大剣を振り下ろして、村人を文字通り真っ二つに叩き斬った。
 周囲にいる男の世話をしていた女性達から悲鳴があがる。
「ぎゃーぎゃー、うるせいぞ! さっさと掃除しろ!」
 ズールは叫んで命令すると、玉座を模した椅子にどかりと座る。
 酒を持ってきた女の腰を強引に掴んで引き寄せた。
「おら、酒が足らないぞ!」
「そ、それが、もう、備蓄が……」
「なんだと、こらぁ!」
 別の女性に向かって、八つ当たりのように蹴った。
「よし、おまえ、街まで行って、取ってこい!」
「そ、そんな……もう、お金はなくて……」
 言い訳する女性が吹き飛んだ。歪虚が放った気のようなものだ。
「俺はガタガタうるせぇのは嫌いだ」
 そう言って、適当な紙になにか走り書きすると、別の女性に持たせた。
「この手紙を届けろ、期日までに必要なものが来ないと、村がどうなるか……わかるだろ」
 ズールの脅しに女性は震えながら手紙を預かると、脱兎の如く飛び出していった。
「片付けがおせぇぞ!」
 涙を流しながら、遺体を掃除する女達を急かした。
「さぁて、今日は、誰が夜の相手にいいかな」
 こうして、村は地獄と化していた。

リプレイ本文

●ハンターズ・エンジェル
(これが通称『アルテミス小隊』……ですか。悪くないです)
 歪虚が支配するという村の屋敷が間近に迫る中、作戦準備に余念がない仲間達を見渡してセリア・シャルリエ(ka4666)は思っていた。
 今回の依頼に同行するハンター達は偶然か、必然か、全員が女性である。彼女らは商人一行に偽装して歪虚が支配する村に潜入する予定だ。
「よほど、待ち遠しいみたいなんですね。屋敷の前にいるのが、例の歪虚でしょうか」
 ドレス姿のシャルア・レイセンファード(ka4359)が屋敷の前で腕を構えて立つ人影を見つける。
 ハンター達の作戦は、歪虚への接待中に村人達をこっそり救出していくという事で、シャルアは接待担当だ。
「今こそ、あいどる活動で培った演技力を見せるときなのです」
 グッと気合いを入れているのは、Uisca Amhran(ka0754)も同様だった。礼装用のドレスに身を包んだ彼女も接待担当だ。
 ドレスの内側には、魔術具の類を隠している。ドレスを脱がされない限り、バレる事はないだろう。
 その時、馬車が街道の石を踏んだのかガタンと揺れる。
 大型の馬車であるので、たいした揺れではなかったが、その程度でもヴァルナ=エリゴス(ka2651)は傷口を抑えた。
「うぅ……また重体に……」
 王国北部でクラベルに、更に北伐で無数の歪虚との戦闘により、ヴァルナの身体は深い傷を負っていた。
 今回は裏方として仲間達を支援する事に専念する予定である。
 馬車がいよいよ屋敷の前に到着する。商人一行に偽装しているハンター達の中、商人役であるマヘル・ハシバス(ka0440)が全員を見渡した。
「本物の商人ならまず避ける手合いですよ。暴力で解決しようとする相手は。さあ、行きましょうか」
 そして、馬車が止まると同時に、マヘルは荷台の幌から降りる。
 大男が不気味で嫌悪感を覚えるような笑顔を向けていた。
「俺はこの村を治めてるズール様だ。貴様らが例の貢物か?」
「……貢物? いいえ。私は商人のマヘルと申します。商品の紹介に参りました。村に滞在してもよろしいでしょうか?」
 丁寧に頭を下げる。
 さっと、馬車から少女が降り立つと、マヘルの斜め後ろに付く。
「時雨、と申します。我が主同様に誠心誠意、お仕え致しますので……何なりと申し出を」
 小鳥遊 時雨(ka4921)だった。商人の従者と、商品の管理等をしている役どころである。
「酒はあるんだろうな?」
 ズールの言葉にマヘルは頷く。そして、視線を時雨に向けた。
 時雨がパチンと指を鳴らす。荷台の幌の一部から、ワインやら果物を持ったドレス姿の女性達――セリア、シャルア、Uisca――が姿を現す。
「私の『商品』でございます」
 仰々しく頭を垂れて言ったマヘルの言葉。
「よし、いいだろう。屋敷の中で『商談』だ」
 ズールは高笑いを響かせながら屋敷へと踵を返す。
「では……マヘル様。商談に参りましょうか」
 時雨の台詞にハンター達はお互いに顔を見合わせて頷いた。ここからが本番だからだ。

●救出と接待
「……時雨」
 歪虚が通した大広間でマヘルが冷たく少女の呼ぶ。
「はい。ご主人さま。教育が至らなくて申し訳ありません。この女には今まで以上に躾が必要です」
 時雨がマヘルに真面目な視線を向けて返事をした。
 接待が始まる前から反抗的な態度を取るセリアに振り返った所で、背後からズールの言葉が響く。
「その女だけじゃなく、どうせなら、下の階にいる村の奴らも、躾けろ。どうも、田舎の村じゃ、気が効かないのが多いからな」
 と、同時に、時雨に部屋の鍵を投げて寄こす。
 それを受け取ると時雨は丁寧にズールに頭を下げた。
「必ずや、良い成果をお見せします」
「ハハハ。頼んだぞ」
 時雨は鍵をくるくると回しながら、改めて、セリアに向かって歩み出す。
(作戦は上手くいったけど……あなた、どこを睨んでいるのです)
 セリアは苦笑を浮かべそうな所を必死に堪える。
 時雨の残忍な表情と嫉妬の灯を感じる視線が、セリアの顔ではなく、なぜか、胸に向けられていた。
「な、なによ!」
 虚勢を張るように胸を張って、反抗的な態度を演じるセリア。
 豊かなミルクプリンの存在感がハンパない様子を見て時雨が拳に力を入れた。
「早く行け!」
 演技なのか、半分本気なのか、ドスの効いた声で命令する。
 他の村人らと共に、セリアがしぶしぶ大広間から出ていったのを確認した所で、マヘルが残った2人の仲間に視線を向けた。
「例の物を」
 Uiscaとシャルアは頷くとマヘルが特別に持ってきたワインを胸元で抱えてズールに近付く。
「『ロッソフラウ』でございます」
 銘柄をズールに見せながらシャルアが笑顔で説明する。
 グラズヘイム王国北西部、デュニクスの街で作られた銘酒だ。昨年の歪虚襲来以降、市場に出回る数が少なくなっているので、希少なお酒でもある。
「おぉ! そんなものがあるのか!」
 ズールは思わず腰を浮かす。
 サッと、Uiscaがワイングラスを差し出すと、それを受け取るズール。
「お近づきの印にどうぞ、ご賞味の程を」
 営業スマイルのマヘルの言葉と共に、『商談』の接待が始まった。

 下の階に降りた時雨とセリアの2人は人質部屋に入る。
 全員が不安そうな視線を向けていた。一先ず、部屋の中を警戒し、ズールの手下がいないかどうか確認した上で、時雨が人差し指を口元で立てると、その横でセリアが静かに口を開いた。
「私達はハンターです。あなた達を救出しに来ました」
 その言葉に人質達の表情が一変する。
「外に待機している馬車で順番に安全な場所まで行くから、組を作るよ」
 時雨の言葉に村人達は頷く。年齢の若い者や怪我、病気をしている者が優先になるように組みを作っている間、時雨とセリアの2人は、幾枚もの毛布を暖炉の下に重ねる。暖炉の中にスライムが入った壺がぶら下げられているからだ。万が一、壺が落下しても割れなければ問題はない。
 そこへ、傷ついた身体の痛みに耐えながら、ヴァルナがやってきた。
「皆さんを武器を商品に偽装して屋敷に持ち込みましたよ」
 隠し持ってきていないハンター達の武器は、商品に偽装させているのだ。
 これなら、不自然さはない。
「村人を安全な場所まで行けますか?」
 セリアの問い掛けにヴァルナが頷く。
「歪虚のいる部屋から見えない位置に馬車を移動させましたので、いつでも動けますよ」
「なら、物音が出そうな装飾品などは外してから、移動です」
 豊かな胸が踊るだけで音が出そうだが、セリスからはボヨンという音は立たなかった。
「監視はかなりザルみたいですね」
 天井を見上げてヴァルナがそんな感想をつく。
 村を支配しているといっても、歪虚が単独でやっている事のようだ。自ら進んで手下になっている者などがいないのは幸いな事かもしれない。

「一人で村を救ったってお聞きしましたが、聞きしに勝るステキお方……」
 わざとらしくウットリとした表情を作りながらUiscaが歪虚の身体に寄りかかれば、
「そうなんですね! さすがです!」
 と、瞳を輝かせてシャルアが歪虚の腕を掴む。
 両手に花の状態で歪虚の気分は高揚していたようだ。
「そんな強い力、どなたから授かったのです?」
 歪虚が持つグラスにワインを注ぐUisca。
 注がれる赤い液体がグラスの中でぐるぐると回る。
「ある人物からよ、俺の強さを見込まれて得たわけよ。まぁ、緑髪した小娘と出逢ったのが始まりだがな」
 シャルアが掴んでいた腕を振り上げるズール。
 ワザとらしくシャルアが残念そうな表情を浮かべた。
「あの小娘、ノゾミと言ったか。まったく不愉快な目をしやがって!」
 飲んでいたワインをぶちまける。
 その様子を見ながら、マヘルはただ畏まったまま控えていた。
(これだけ美味しくないお酒の飲み方もなかなかないですね)
 この歪虚の飲み方をしていたら上等なお酒も美味しくないだろう。
 逆に不味いお酒でも、仲間と楽しく飲めるのであれば、それは美味しいお酒なのだ。
(結局本心は人に認められたい、褒めて貰いたいのですね)
 そんな風に思っていたら、大広間の扉が開かれる。
 時雨とセリアが木箱を持ってきたのだ。スッと近寄るマヘルに時雨を大きく頷いた。
「準備おーけーだよ。今、最後の組みが馬車に乗り込む所」
「わかりました。では、作戦通りいきましょう」
 小声でそんな会話をして、箱を部屋の中に持ち込む。
 Uiscaやシャルアとも視線が合う。彼女らも状況を察したようだ。
 馬の嘶きが響いたのは、間が悪いというべきなのか、都合が良かったというべきなのか。
「お前らの馬車の中には、まだ、あるんだろ!」
 用意していた酒が無くなってきたという事もあり、立ち上がる歪虚。
 想定外の事に反応が遅れたハンター達を制するように、歪虚が部屋の外に向かって歩み出す。
「直接、馬車の中を見せろ」
 大股で歩き出した歪虚を止める言葉が見つからないが、逆に覚悟が決まる。
 ハンター達はお互い頷くと、持ち込んだ木箱に入っていた其々の武器を手に取った。
 歪虚は意気揚々と振り返りもせずに階段を降りる。人質が居なくなった事に、気がついていないようだ。

●歪虚撃退
 人質部屋にも寄らず、ズールは屋敷の外に出た。
「ん?」
 歪虚が地面を見て異変を感じたようだった。恐らく、大量の足跡でも見つけたのだろう。
 刹那、歪虚は背中に強烈な衝撃を受けて、前のめりで倒れそうになる。
「ごめんなさいませ。つい本気で殴ってしまいましたわ」
 Uiscaが短杖を構えていた。
 彼女が全力で歪虚に殴ったのであった。
「てめぇら! ハンターかぁ!!」
 怒りの籠った視線で叫ぶ歪虚。
 いつの間にか、巨大な大剣を手にしている。
「そういう事です」
 歪虚に一番近い位置にいたマヘルが電撃を帯びた攻撃を繰り出すが、動きを鈍らせるには至らないようだ。
 セリアが歪虚を囲むように移動しながら、鞭を振るい、時雨が矢を放つ。
「邪魔だ、おらぁ!」
 大剣を嵐の様に振り回して攻撃を振り払った所で、シャルアが放ったマテリアルの炎が歪虚を直撃した。
「簡単には倒せないようですね」
 次は前衛を支援する魔法に切り替えようと考えるシャルア。
「俺様に刃向かうとは、良い度胸だ!」
 歪虚が大剣を薙ぎ払う。
 剣の速さと範囲の広さにUiscaとマヘルが逃れる事ができず、打ち叩かれる。
 だが、大振りとなった剣の動きを見て、Uiscaは好機と捉えた。所詮は素人だ。
「これを、受けなさい!」
 細身の聖剣のようにマテリアルを収束させた強烈な一撃を歪虚の腹に叩き込む。その時の歪虚の表情をUiscaは見て、戦慄した。
 歪虚は、歪虚――ズール――は、確かに、不気味な笑顔だったからだ。
 次の瞬間、痛みの余り、崩れ落ちたのは、Uiscaだった。腹部を抑えながら二つ折りの様に倒れる。
「Uiscaさん!」
 シャルアが倒れた彼女を庇う様に歪虚との間に入ると、マテリアルの炎を歪虚に放った。
 その狙いは確実に歪虚の胸を突いたはずだった。いや、確実にダメージを与えている。
「ま、まさ、か……」
 胸を焼けるような痛みをシャルアは受けて、ある考えに至った。
「ハハハハハ。その通りだ! この偉大なるズール様と同じ傷を与えてやったのだ!」
「まさか、歪虚の能力なのですか」
 マヘルがいつでも機導術を放てる用意をしながら問いかける。
「傲慢の歪虚には、いくつか、特殊な能力があるのだ! 俺様の持つ能力は【懲罰】。能力は、見ての通りだ」
「それなら、これでどうですか」
 切りかかったマヘルの剣筋を歪虚は大剣で受け止めた。
「小さい傷を繰り返してダメージを分散させるのは、俺には通用しないぜ!」
 そして、返す刀でマヘルに大剣を振り下ろす。ギリギリの所でそれを避ける。
「てめぇらのせいで、この村の支配はおしまいだ。だが、まぁ、いい。次の村に行けばいいだけだしな。それに、こいつらは頂くぞ」
 目の前で倒れているUiscaとシャルアに剣先を向けた。
「そんな事は、させないから!」
 時雨が鋭い視線で矢を番えながら叫ぶ。
「馬鹿か、てめぇは。てめぇの攻撃が俺に当たっても、てめぇが死ぬだけだ。命を捨てるようなもんだ」
「……私の命は……もう、捨ててる」
「気にいらないな、てめぇの目は、あの小娘と一緒だ!」
 決意の言葉と共に放たれた矢。歪虚はそれを首で受け止めようとする。
 歪虚であるズールでは部位の一つにしか過ぎないだろうが、人間であれば、急所のはずだ。
「させないです」
 しなるように飛んだセリアの鞭が、歪虚の首に絡むとグッと引っ張る。
 バランスを崩した歪虚。間一髪で、大剣を持つ手に、矢が深々と刺さった。
「いったぁー!」
 時雨が次に番えようとした矢を落としてしまう。腕には矢が刺さったような傷が出来ていた。
 一方、歪虚も大剣を落としていた。
「生意気な真似を!」
 火球を作り出すと、それをセリアに叩きつける。
 戒めを解除し、華麗な動きで避ける。
 なおも攻撃を続ける気配の歪虚の動きが止まった。
 歪虚の視線の先には馬車が1台向かってくるのが見えていたからだ。
「ッチ! 援軍か。てめぇら、覚えておけよ! あの小娘も一緒に、てめぇらも、必ず、いたぶってから喰らってやるからな!」
 捨て台詞を吐いて、歪虚は馬車が向かってくる方向とは逆の方向に向かって走り去って行った。
 辺りが暗くなっていたのは幸いだったかもしれない。馬車で向かってきたヴァルナの怪我具合が見えなかったから。
「皆さん、村人達は全員、安全な場所まで避難させましたよ」
 人質達は全員無事のようだ。
 歪虚は取り逃がしたにせよ、目的を達成した事には変わりはしない。
「今は倒すべきときではないということです」
 マヘルが下唇を噛みながら、歪虚が去っていった方角を見つめていた。
(ノゾミちゃん……)
 服の裏側に縫い付けてあった護符がボロボロと崩れ去る中、同時にUiscaの意識が遠のいて行った。
「ノゾミも歪虚になる可能性があるのかな……」
 時雨は空を仰ぎ見る。
 あの歪虚――ズール――を止めなくてはならない。あれは、ノゾミに必ず害をなす存在なはずだ。
「恐ろしい歪虚でしたね。【懲罰】の能力というものがあるのなんて、驚きです」
 胸元を抑えながらシャルアが立ち上がっていた。
 与えたダメージと同様のダメージを与えてくるという事であれば、強力な攻撃は使い方を誤れば、大惨事になりかねない。
「能力が解明できただけでもよしとしましょうか」
「そうね。知っているのと知らないとでは、雲泥の差よ」
 ヴァルナの言葉にセリアが頷きながら答える。
 あの歪虚は、必ず、またどこかで事件を起こすだろうから。


 こうして、ハンター達の活躍により、人質となっていた村人達全員を、無事に救出する事ができたのであった。


 おしまい。

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MVP一覧

  • ミルクプリンちゃん
    セリア・シャルリエka4666

  • 小鳥遊 時雨ka4921

重体一覧

参加者一覧

  • 憧れのお姉さん
    マヘル・ハシバス(ka0440
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 想い伝う花を手に
    シャルア・レイセンファード(ka4359
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • ミルクプリンちゃん
    セリア・シャルリエ(ka4666
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士

  • 小鳥遊 時雨(ka4921
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン ソルラに質問っ
小鳥遊 時雨(ka4921
人間(リアルブルー)|16才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/10/06 06:23:36
アイコン 村人救出作戦!【相談卓】
小鳥遊 時雨(ka4921
人間(リアルブルー)|16才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/10/07 06:38:20
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/10/03 00:11:52