• 深棲

【深棲】まるごとルミナちゃん

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/07/29 19:00
完成日
2014/08/02 21:14

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●逃亡
「ああ、そうだ。細かい事はシグルドかエイゼンシュテイン、それぞれの副師団長に確認してくれ。……馬鹿野郎、いちいち狼狽えるんじゃねェ。第一師団の仕事はこの帝都バルドアンデルスを守護する事だ。陛下が何をしでかそうが何も変わらん。普段通りの最善を尽くせ」
 バルトアンデルス城の廊下を歩きながら部下に指示を出すオズワルド。二人の兵士が去っていくのに片手を翳して見送ると、皇帝陛下が仕事中の筈の執務室の前に立った。
 僅かな衣服の乱れを正し、左手に持ったトレーに載せた紅茶とお茶菓子を一瞥する。
「何だかよくわからねェが、例の騎士議会以降大人しいからな……」
 あの小娘が失踪した親父の跡継ぎで皇帝の座に君臨してからというもの、オズワルドはずっと振り回され続けてきた。
「だが、漸く奴にも皇帝としての自覚が芽生えてきたのかねェ……」
 少し嬉しそうに笑った後扉をノックする。すると部屋の中から声が聞こえて来た。
『誰だ』
「俺だ。同盟領での事件に対する第一師団の方針が固まったのでその報告に来た」
『少し待て。今は仕事に集中したい。後でこちらから使いを出そう』
「……そうか、邪魔したな。まあ、なんだ。心機一転真面目に取り組むのもいいが、あんまり無理はするんじゃねェぞ」
 部屋を引き返そうとした所で偶然カッテが近づいてくるのを見かけた。カッテは大量のふかした芋を持っていてオズワルドと扉の前で顔を見合わせる。
「あれ? オズワルドも差し入れですか?」
「おまえさんもか? つーかなんだそら? 差し入れの量じゃねェだろ?」
「ええ。実は姉上が今日は一度も食堂に顔を見せないからって、おばちゃんが心配して作ってくれたんです」
「あのヴィルヘルミナ・ウランゲルがか!? め、飯も食わずに仕事たぁ……こいつぁたまげたぜ」
 脳裏を過る在りし日日の記憶。思えばヴィルヘルミナがまだこーんなに小さかった時から面倒を見ているが、飯を抜いたことなど一度もなかったはずだ。
「昔から勝手に俺の机の上にある菓子とか食い漁ってたあいつがなあ……」
「……あの、オズワルド? 感動を邪魔して申し訳ないのですが、普通に考えてこれは由々しき事態かと」
「そうだな。皇帝が飯も食わずに倒れちまったら一大事だ」
「いえ、そうではなく」
 額に手を当て思案するカッテ。そして扉をノックする。
『誰だ』
 黙ったまま答えないカッテ。オズワルドが首を傾げると。
『少し待て。今は仕事に集中したい。後でこちらから使いを出そう』
 このセリフには聞き覚えがあった。困惑するオズワルド。カッテは再び扉をノックする。
『誰だ』
「カッテです。姉上、両手に蒸かした芋を大量に持ってきました。扉を開けてください」
『少し待て。今は仕事に集中したい。後でこちらから使いを出そう』
 カッテはすぐドアノブに手を伸ばしたが鍵がかかっている。一歩身を引くと、オズワルドに叫んだ。
「偽物です! オズワルド、扉を蹴破ってください!」
「ハァアア!?」
「急いでください! 責任は私が取ります!」
 舌打ちし、左手にティーセットを乗せたまま扉を蹴破るオズワルド。中に入るとぐったりした様子のヴィルヘルミナが執務机に倒れている。
「ヴィルヘルミナ! おい、しっかりしろ!」
「いえ、これはマネキンですね。ドアの所に感知装置があります。簡単な応答を自動で繰り返す魔導機械ですよ」
「ハァッ!?」
 カッテはヴィルヘルミナの机の上に会った伝話装置を取る。
「……私です。ええ。錬魔院院長に確認してください。……はい。ええ。居留守ルミナちゃんを使われました。はい……お願いします」
 連絡を終える頃にはオズワルドも状況を把握しつつあった。無言でティーセットを置き、マネキンを引きずり出す。
『誰だ。……少し待て。今は仕事に集中し――』
 無言でマテリアルを込めた拳でマネキンを粉砕するオズワルド。怒りに震える指先で葉巻に火をつけ、深々と紫煙を吐き出した。
「……ちょっと槍を取ってくる」
「オズワルド?」
「協力したのはナサニエルだな? この落とし前は奴にもつけさせる」
「待ってくださいオズワルド! 彼は脅されただけの被害者に決まっています!」
「ダメなもんはダメっていう心構えが必要なんだよ! NOと言う勇気、俺がそいつを教育してやる!」
 オズワルドの背中に縋りつくカッテ。だがオズワルドはカッテを引きずったまま、猛然と錬魔院へと走り去って行った。


●ダイナミックお忍び
「ふむ。そろそろカッテ辺りに看破されている頃かな?」
 帝都で変装用の装備一式を買い込んだ(オズワルドにツケた)ヴィルヘルミナは、転移門を使いリゼリオにやってきていた。
「カッテの奴なら私が転移門を使う事を推測して衛兵に話を聞き、ここまで探索の手を伸ばしてくるまでさほど時間はかからない筈だが、いつも通りオズワルドが怒ってそれをなだめるのに時間がかかるのを含めればまだ時間的猶予はあるな」
 リゼリオの店に入り、そこで新たな服を購入する。これは現金でないといけないので困ったが、事前にオズワルドの部屋に忍び込み、引き出しに入っていた金を盗んできたので問題ない。
「ここで一度変装を切り替えて、と……」
 ここまで着ていた服はリュックの中に押し込む。カッテは転移門での目撃情報で探索を行うはずだから、このままだと拙いのだ。
 今度は冒険者風の服ではなく、いかにも質素な村娘といった格好だ。ロングスカートをひらりと回し、長い髪は後ろで纏め、野暮ったい眼鏡をかけている。
「で、このままハンター用の店に行ってと……」
 安い剣と盾を購入したところで目についたのは新商品と書いてあるバナナボートであった。
「これも買うか。それと……これもだな」
 こうして買い物を終了させたヴィルヘルミナはその足でAPVへ向かった。裏口から入りタングラムの不在を確認する。
「奴は今頃無茶ぶりに対応する為に依頼に自ら向かっている筈だ。全て計画通りである」
 そしてAPVのトイレに何気なく入り、再び着替え始める。次に彼女がトイレから出てきた時、その様相は一変していた。
 全身着ぐるみのまるごとうさぎという装備を身にまとい、ヨチヨチとぎこちない動きでトイレから出てくる。当然入っていく時と出ていく時で外見が極端に変わっているので、トイレから出て来た着ぐるみにハンター達が度肝を抜かれている。
「ここまですれば私の足跡を辿る事は難しいだろうな。うむ、それにしてもこのまるごと装備とやら……嘗て経験した事のない着心地だ」
 さてと。また適当に協力してくれそうなハンターと依頼を探しに行くとしよう。
 うさぎの着ぐるみに変装した帝国皇帝は、ハンター達の中へ紛れて消えるのだった。

リプレイ本文

「海だ~! う~ん、潮風が気持ちいい~!」
 さんさんと太陽光が降り注ぐビーチに弓月 幸子(ka1749)の声が響く。歪虚の出現により一般人の避難したビーチは今やハンターの独り占め状態だ。
「正直に言おう。俺はこの依頼、楽して生活費を稼ぐ為に参加した」
 木陰で腕を組み、くいっと眼鏡を持ち上げるルオ(ka1272)。
「半魚人退治して海でキャッキャウフフして帰るだけ。楽だ。実に楽な依頼だ。それを……どうしてハードモードで挑む猛者がいるんだ?」
 ルオの視線の先、着ぐるみの女と全身鎧の男が棒立ちしている。眩い太陽の下、二人は限界に挑み続けていた。
「えーと……その格好、暑くない?」
 苦笑を浮かべる鬼灯 玲那(ka1679)。全身鎧のヴォルフ(ka2381)はがしゃりと音を立て僅かに身じろぐ。
「……暑い……な」
「うぁあっつ!? 何これ!? 多分もうこれでバーベキューできるよ!」
 ヴォルフの鎧に少し触れてみたユウカ・ランバート(ka1158)が慌てて飛び退く。幸子はどこからか汲んできた水を鎧に垂らしてみるが、じゅうっと音を立てて直ぐに蒸発した。
「歪虚と戦う前に熱中症で倒れるんじゃ……って、キグルミの人が凄い事になってるねぇ!?」
 うさぎの着ぐるみを纏ったルミナちゃんはもう限界と言わんばかりに砂浜に倒れ込んでいた。メル・アイザックス(ka0520)が慌てて抱きかかえるが反応がない。
「しっかりするんだルミナちゃん。ほら、大好きな芋だよ」
 如月 紅葉(ka2360)の呼びかけに芋を鷲掴みにする着ぐるみ。何故か持ち直したように立ち上がった。
「二人共そんなになるなら脱いじゃえばいいのに」
「そうそう。せっかくビーチに来てるんだから、やっぱり水着を着なきゃ始まらないよね!」
 玲那に同意するように声を上げ、くるりとその場でターンして見せるユウカ。彼女にとっては念願の、そして久々の水着と海だ。
「心遣い痛み入るが、俺はこのままで結構だ……」
「私は正直もう脱ぎたい。同盟の海舐めてた」
 ヴォルフとルミナ、それぞれから真逆の言葉が漏れた。結局ルミナは頭をすっぽりと出し、汗だくの髪を後ろに持ち上げ肩で息をしている。
「ったく、これから戦闘って時に……って、おい、あれって皇て……」
「あーっ! もしかしてルミナちゃん!? ひさしぶりだなぁ、元気だった?」
 ウィンス・デイランダール(ka0039)の声はルオに遮られた。二人は知り合いなのか、親しげに言葉を交わしている。
「只者じゃないとは思ってたけど、やっぱりハンターだったんだな」
「うむ。そんな時もある」
 良くわからない受け答えに首を傾げるがあまり気にしないルオ。改めて声をかけようとするウィンスの肩を左右からメルと紅葉が叩いた。
「気持ちはわかるよ。すっごくわかるけど、多分突っ込んだら負けなんだよねぇ……」
「まあいいじゃないか。来てしまった物は仕方ない。たまのお忍びなら好きにさせてあげよう」
 二人の言葉に思い止まり溜息を零すウィンス。だが……。
「……いや待て待て! そのバナナボートをどうするつもりだ?」
「勿論、背負って戦うのだよ?」
「邪魔なだけだろ。あんた何考えてんだ」
 バナナボートを引きずりながら悲しそうな目のルミナ。
「だめか?」
「あ? ダメに決まってんだろ」
「名前も付けているのだが……」
「知るか。置いて来い!」
 しょんぼりした様子でバナナボートを木に縄で縛りつけるルミナ。
「犬かなにかのつもりなのかな……」
 ぽつりと呟くメル。こうしてハンター達の歪虚殲滅が始まった。



 ビーチを占領していた六体の半魚人は接近してくるハンターに反応し雄叫びを上げた。
「流石狂気の歪虚、引き寄せるまでもなく来てくれる」
 刀を手にニヤリと笑う玲那。ルミナは着ぐるみ姿のまま先行し、盾を構え突撃する。
「私が囮になろう。君達は側面から渾身の一撃をお見舞いしてやれ」
「え、えぇ……まさかの突撃?」
 目を丸くするメル。突っ込んできたルミナは敵の目の前で足を止め、防御を重視した構えを取る。
 当然半魚人は寄ってたかって着ぐるみ女に銛を繰り出すのだが、盾と剣で弾かれ攻撃は上手くいかない。
「隙だらけ……その首貰った!」
 一気に距離を詰めると回転するように刃を繰り出し、玲那が半魚人の首を刎ね飛ばす。敵の注意はルミナに向いている為、反応は鈍い。
「よっと」
 軽い掛け声で半魚人を斬りつける紅葉。見た目に反して威力は中々の物だ。
「悪いけど速攻で終わらせてもらうよ! ボクのターン……ドローッ!」
 腕に付けたカードホルダーから一枚カードを引き出す幸子。特に理由のないカッコイイ動きで背後に跳び、杖を構える。
「ボクは魔法カード集中を発動! 更に魔法カード、アースバレットを発動! 半魚人にダイレクトアタック!」
 岩の塊が発射され半魚人の後頭部にめり込む。そこへユウカが駆け寄り、ふらついている半魚人の顎を拳で打ち抜いた。
 ヴォルフはルミナと背中合わせに盾を構え攻撃に備える。横目でちらりとルミナの横顔を見やり、既視感を覚えた。赤い髪、そして冷静な笑み。最近どこかで見たような……。
「それにしてもルミナちゃん、着ぐるみにしてあの動き……きっと名のあるハンターに違いない!」
 ヴォルフを狙っていた半魚人を大きく振り上げた大剣で切り裂くルオ。その言葉にヴォルフは首を傾げる。
「名のあるハンター……本当にそうなのか?」
「ルミナちゃん!」
 声をかけつつ攻性強化を施すメル。ルミナは盾で銛のガードを上げ、くるりと回り込みながら刃を通し半魚人を切り裂く。
 あれでも一応要人だ。万が一があってはいけないと援護に徹底するメルだが、半魚人にどうにかされる気配はない。機導砲を放ち、苦笑を浮かべる。
「ま、敵さんにとっちゃご愁傷様……なのかねぇ?」
「随分と薄味なシーフードだな」
 切り裂いた最後の半魚人を見下ろし、刃に着いた血を振るうウィンス。そのまま肩にのせ、ルミナの横顔を見やる。
「全く……退屈な仕事だぜ」
 呟きながら太刀を鞘に納める。こうしてあっさりと歪虚の脅威は去り、ビーチに平和が戻るのであった。


「邪魔な歪虚には退場して貰った事だし! それでは皆さん、改めまして……」
「「「 海だ~! 」」」
 幸子の合図でジャンプするハンター達。歪虚殲滅の知らせを受け、海水浴に来ていた一般人達もビーチに戻ってきた。
「あれあれ? ノリが悪いなぁ、ウィンス君~? 一緒にジャンプしようよ!」
「するか。海ではしゃぐとかガキじゃあるまいし。それにノリが悪いならこいつもだろ」
「……彼の事はもうそっとしてあげた方がいいね」
 人差し指を振る幸子。ウィンスはヴォルフを指差すが、ヴォルフはもうそれどころではない。暑いのだ。額に手を当て木に縁りかかっている。紅葉が水を差し出すと、礼を告げ後ろを向いて一気に飲み干した。
「まだ歪虚の脅威が完全に去ったとは限らないからな。俺は警戒を続けよう」
「倒れないようほどほどにな……って、うぉお!? 女性陣が次々に人前で脱ぎ始めたぞ!?」
「大げさだな~。ほら、ちゃんと下に水着来てるよ、水着」
 鼻を押さえて飛び退くルオだが、残念。幸子が見せる服の下には確かに水着が……。
「それでも俺には刺激が強いぜ……!」
 ……そうなんですか。
「あのサルなんとかって宇宙船が来て、いつかは手に入れられると思ってたんだよね、水着!」
 邪魔な鎧等脱ぎ捨てて水着一枚になったユウカ。琥珀色の肌はこの中で誰より海に似合っている。
「クリムゾンウェストにも似たようなのはあるけど……違う、違うの! この質感、懐かしい感触……! う~ん、いっぱい泳ぐぞーっ!」
 無言でサムズアップするルオ。玲那も邪魔な装備を脱ぎ捨て水着になると、汗ばんだ胸元を片手で仰ぎながら気持ちよさそうに風を受けている。
「アフターサービスは大事だよね、うんうん。って事で、海で泳ぎながらしっかり監視してきまーす」
 爽やかな笑みを浮かべるルオ。ルミナも我慢の限界と言わんばかりに着ぐるみを脱いで水着になると、髪をかき上げモデルさながらのポーズを決める。
「で、でかい……やはり只者では……ぐはっ!?」
「……あんた大丈夫か? 色々な意味で」
 鼻血を流しながらよろけるルオをウィンスは冷や汗を流しつつ眺めていた。

「まずは準備運動だ! いきなり海に入るのは危険だからな!」
「わかってるじゃねぇか。まずはこいつをしないと海水浴は始まらねぇ」
「ユウカは端から端まで泳ぐつもりだからね!」
「イッチニイサンシ! ニイニッサンシ!」
 ルオ、ウィンス、ユウカ、ルミナの四名はかなりガチな準備運動を始める。念の為書くけど、最後のが皇帝だ。
「むぅ……早く海に入りたいのに~」
「凄いはりきり様だね、あの四人」
「まあいいじゃないか。これも大事な事だよ」
 付き合いで準備運動をする幸子、玲那、紅葉。そこへウィンスがくわっと目を見開き。
「海をなめるんじゃねぇ! 準備運動を怠る事は海への冒涜と同じだ!」
「……ウィンスさん、楽しんでるよね? 海かなり楽しんでるよね?」
 つっこむ玲那。ようやくお許しが出ると、それぞれの海水浴……ならぬ、警戒任務が始まった。

 海中に潜り自由自在に泳ぎ回るユウカ。ゴーグル越しに見える美しい海の景色を満喫しつつ、索敵も怠らない。
 まだ遊泳客が完全に戻ってきたわけではないのだ。この海の安全を証明する為には、自分たちがこうして遊びつつ安全確認をするのが一番と考えていた。
「やっぱりウィンスさん、海満喫してるよねー?」
「あ? 別に全然楽しんでなんかねーよ。ただ、いざ泳ぐとなったら本気で泳ぐ。それが海への礼儀だ」
 ルミナと玲那を乗せたバナナボートを泳いで牽引するウィンス。玲那は大きく伸びをし、潮風に髪をかきあげた。
「ルミナさん、着ぐるみ暑かったでしょ?」
「正直死ぬかと思ったが、全てはこの時の為にあったのだ」
 髪を後ろで結んだルミナは幸せそうに笑っている。そこへ水中からユウカが顔を出し、上半身をボートに乗りつけた。
「ぷはーっ! どう? 異常はない?」
「異常なしでありまーす」
 微笑みながら敬礼する玲那。そんな海上の仲間たちをルオは砂浜から眺めていた。
「平和だねぇ」
「このまま何事も無ければ良いのだけれどね」
 紅葉が運んできたのは鉄板だ。海の家で借りて来たらしいそれでこれから料理の準備を始める。
「俺も手を貸すよ。……メルは何してるんだ?」
 メルは海を満喫しているルミナを心配そうに見つめていた。
「ああ、いや……まあ、心配ないとは思うんだけどねぇ……」
 彼女が何を目的としてきたのか、そしてその身を案じていたメルだが……この様子なら気にする必要はないかもしれない。
「そういえばこの鉄板はどうしたのかな?」
「帝国兵の人に聞いてみたら直ぐに用意してくれたね」
「……帝国兵の皆さん、お疲れ様です」
 人差し指を立てにっこりと微笑む紅葉。メルは遠い目で兵士たちを労った。
「ヴォルフさんも少し休憩して遊んだらどうだ? 警戒が気になるなら俺が代わるからさ」
 ルオの声に木陰のヴォルフが反応する。遊べと言われても特にする事も思いつかなかったが、一つだけ試してみたい事があった。
 無言で砂浜を進み海へ入っていくヴォルフ。その様子を三人は無言で見送っていたが、ヴォルフの姿が海に沈んでいくのを見て慌てて駆け寄った。
「入水自殺かな?」
「落ち着いてる場合じゃないねぇ! ヴォルフ君、気を確かに!」
「いや、これは入水自殺ではなく、友に教わった鎧を着たまま泳げるという古式泳法の練習で……」
「火責めから即水責めって、ハードモードにも程があるぜ!?」
 皆が必死になって陸を引き上げてくれるので、ヴォルフも仕方なく戻ってきた。が、一度沈んだので少し涼しくなった気がする。
「皆でヴォルフ君囲んでなにしてるのかな?」
 海から上がってきた幸子が異様な光景に目をぱちくりさせる。紅葉は首を横に振り。
「なんでもないよ。それより貰って来たよ、ソース」
 瞳を輝かせる幸子。お目当てはソース焼きそばで、紅葉と一緒に鉄板を使ってジュウジュウ焼いていく。
「う~ん、ソースの焦げる香りがたまらないんだよ。やっぱり海水浴場って言ったらこれだよね!」
「ルミナちゃんもいるからね。芋も焼いておこう」
 そうこうしている間に海から仲間たちが戻ってくると、軽食タイムとなった。
「焼きそば作ったんだけどルミナちゃんも食べない? 美味しいよ」
「ふぅむ……これは食べた事のない味わいだ……」
 神妙な面持ちで焼きそばを食べるルミナちゃん。幸子は暫しその様子を眺めた後。
「ルミナちゃんってもしかして有名人なの?」
 その無邪気な一言に場が戦慄した。
「なんか皆知ってるみたいだし、兵士の人達ざわついてるみたいだし、そうなのかなーって」
「実は俺も気になっていたのだ。カッテ皇子とは似ても似つかないが、もしや……皇t」
「あー、それにしてもー、帝国の皇帝様ってなんて素晴らしいお方なんだろうなー。残念ながら俺は会った事ねーけどー、カリスマ性とか何か色々だだ漏れてるすげーお人なんだってなー」
 突然死んだ魚の様な目でウィンスが大声を上げ、止まっていた時間が動き出した。
「ほら、ルミナちゃんの大好きなお芋だよ」
 焼いた芋を差し出す紅葉。ヴォルフは何となく察したようだが、ルオと幸子が笑いながらウィンスの背中を叩く。
「急に大声で皇帝の事語り出すなんて、どうしたんだ?」
「ウィンス君って結構面白いよね~!」
「こ、こいつら……」
 わなわなと拳を震わせるウィンス。メルがその肩をまたそっと叩いた。
「焼きそば食べ終わったらまた泳ぎに行こうよ! ユウカね、他にも水着持ってきてるんだ!」
「これ食べ終わったらね」
 楽しげに語るユウカの横で玲那が上品に割り箸で焼きそばを口に運ぶ。紅葉は頷き。
「私も泳ごうかな。でもその前にスイカもあるよ」
「せっかくだし、スイカ割りする? ルミナちゃんやったことある?」
「いや、初見だね。どのように楽しむ物なんだ?」
 幸子の声に首を横に振るルミナ。玲那は刀を構え。
「目隠しをして誘導に従いスイカを探し、一刀両断にする遊びだよ」
「あの……玲那君、目が赤くなってるよねぇ?」
 冷や汗を流すメル。こうしてスイカ割りが始まり、ハンター達の楽しげな声が砂浜に響く。
「帰りたくない」
 そんなルミナの声にルオが振り返ると、女は無表情のまま号泣していた。
「仕事したくない」
「ま、また今度海水浴に来ようぜ! なっ!?」
 その様子を遠巻きに眺め、ヴォルフは帝国兵の一人を呼びつけた。今頃彼女を探しているだろう皇子に一言連絡しておくべきだろう。
 刀を手に笑顔で走る玲那から逃げるウィンス。ハンター達の夏は、じゃなくて、警戒任務はまだ始まったばかりだ。

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重体一覧

参加者一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 「ししょー」
    岩井崎 メル(ka0520
    人間(蒼)|17才|女性|機導師
  • 捜索の光
    ユウカ・ランバート(ka1158
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 帰還への一歩
    ルオ(ka1272
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 黒の刀士
    鬼灯 玲那(ka1679
    人間(紅)|14才|女性|闘狩人
  • デュエリスト
    弓月 幸子(ka1749
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 粋な若女将
    如月 紅葉(ka2360
    人間(蒼)|26才|女性|闘狩人
  • 炎天下でも全身鎧
    ヴォルフ(ka2381
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン ルミナちゃんとお魚を倒そう!
岩井崎 メル(ka0520
人間(リアルブルー)|17才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/07/27 17:26:10
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/25 13:58:01