ドキッ! 漢だらけの対人訓練!

マスター:T谷

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2015/10/14 07:30
完成日
2015/10/22 19:26

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「団長が……シュターク団長がいない……」
 帝国軍第二師団上等兵イーリス・ベルファルは、その怜悧な美貌をげっそりとさせて呟きながら兵舎の机にだらりと全身を預けていた。
 時間は早朝。兵舎の中はこれから仕事に向かう団員と、夜間の警備を終えあくび混じりに寝床へ向かう団員とでごった返している。
「……どうかしたんすか?」
 通りすがりにそう問いかけたのは、彼女の部下である団員の一人だ。
 声を掛けずにはいられなかった。凜々しい面持ちで常に人の前に立ち、自分達を導く隊長が、空気の抜けきった風船のような雰囲気を醸し出しているのだから。
 だが同時に、彼は嫌な予感も覚えていた。この、厳格で怠けるという言葉を知らないような人物が、よく分からないことを言い出す時がたまに……いや、割と頻繁にあるからだ。
「団長が……遠くに行っているんだ……」
「え、ああ、そうっすね。大規模な作戦が始まってますし、こっちにも影響あるかもしれないってこの前から忙しいですし……」
 団員がそう答えた瞬間――イーリスは突如目を光らせ、机に拳を叩き付けた。
「何故私は連れて行って貰えなかった!」
 轟音が響く。木製の机は木くずを飛び散らせ、冗談のように二つに割れて近くに座っていた別の団員の朝食を跳ね飛ばし辺りに蒸かした芋が舞う。
 周囲の男達が目を剥き、時間が止まる。その中でイーリスだけが、苦々しい表情を浮かべながら流れるような動きで宙に舞った芋を瞬時に回収していた。
「……私はな、常々、あの人のお側にいたいと願っているんだ」
 芋を皿に戻し隣の関係ない団員に渡すと、イーリスは再び椅子に腰を下ろす。
 関係ある団員は、そのイーリスの悲痛な面持ちに、何も言葉を掛けることが出来ない。その思いは全ての団員共通だろう。だが、何の力も持たない自分のような無力な一般兵士と、戦えると、誰かの役に立てるのだと自負のある彼女のような力のある兵士とでは、抱えているものの大きさが違うのかもしれない。
「私は、あの人のお側にいて! ――あの人の腹筋に思う存分頬ずりをしたいと、そう願っているというのに!」
 違いすぎた。


 それから数日、兵舎でのイーリスの奇行などという日常茶飯事もすっかり頭から消え去った頃。彼女の部下である十人の男達が、要塞内の北部に広大に横たわる北部練兵場に招集を掛けられていた。
 この時期にもなると、カールスラーエ要塞も冬の気配を帯びてくる。
 山から吹き下ろす風は強く冷たく、既に冷水で顔を洗うのもかなりの難事だ。鎧や剣の金属の冷たさに気が引き締まると笑顔で語る者は少なからず存在するが、大半の者は嫌な季節の到来だと口を揃えて愚痴をこぼす。雪が降り始めるのも、時間の問題だろう。
「記憶は気付かぬうちに、少しずつ摩耗していく。思い出す度に現実とは乖離していくだろう。それを補うことの出来ないままに、あの人の筋肉はまた一つ、また一つと戦いを経て更に美しく、強靱に成長していくのだ。……それを目の当たりに出来ないこの悲しみが、貴様らに分かるのかっ!」
「……スザナ副団長とかじゃダメなんすか」
「あの人いつもしっかり鎧着込んでるだろうが!」
 そんな肌寒い早朝の冷気の漂う中、一列に並ばされる男達。遅番だというのにこんな時間から呼び出されても、上司の命令な手前、断ることなどできはしない軍属の悲しい性。
 そして何故か始まったのは、一人小高い土塊の上に立ち、高らかに何か言ってるイーリスを整列して眺めるという謎作業。全員が全員、早く終わらないかなぁと頭の中に暖かいベッドを思い浮かべていた。……誰一人、こんな演説だけで終わるなどと思っていなかったが。
「まあそんなわけでだ」
 イーリスが言葉を止め、彼らを睥睨する。そしてたっぷり時間を掛けてから、ゆっくりと口を開き、
「脱げ」
 ――男達は、死んだ羊の目で去年の冬を思い出していた。

 名目上は、確認済み人型歪虚の増加により必要となった対人戦闘経験、その不足の補完。そして効率を求めるため、回避に重点を置いた今回の戦闘訓練では、当たれば即死の歪虚の攻撃を擬似的に再現するため防具の着用を禁止とする。ついでに、急所である上半身を晒すことによる警戒意識の向上。
 その心は、
「団長に比べればひよっこ同然の、しかしそこそこ素晴らしい筋肉を持つ貴様らの肉体をより完璧とするためには、普段使わない筋肉のフル活用は必須条件と言えるだろう。そうして、より美しい肉体を作り上げるのだ!」
 目の前に理想の筋肉がないならば、作ってしまえば良い。
 キラキラと輝く瞳で謳い上げるイーリスとは対照的に、男達は上半身裸のまま丸太のような腕で自分の体を抱き、小動物のように小刻みに震えて鼻水をすすった。
「……で、あの、相手は?」
 恐る恐る、一人が手を上げる。
「ハンターだ。昨日のうちに、私が依頼しておいた。ポケットマネーでな」
 そしてイーリスはほくそ笑む。もしかしたら、ハンターという軍人とは毛色の違う良い筋肉が見られるかもしれないと。
 ついでに男達は切に思う。これさえ、この異様な筋肉賛美さえなければなぁ、と。

リプレイ本文

 ハンターと団員達は、三々五々に広大な練兵場に散っていく。
 自らの不利を知っている団員は木々に紛れ、地面の窪みに身を隠し……ついでに衣服の少なさを心許なく感じながら、ハンター達の出方を伺うのだった。


「おぉ、さすがに鍛えていらっしゃる。良い体をしておりますな!」
「そう言うあんたもな」
 米本 剛(ka0320)は、乱取りをしたいという彼の提案に乗った団員と向き合っていた。――当然の如く、剛もまた上半身に何も着けていない。
 寒さなど、動けば問題ない。そう共感を求める剛に、団員が「いやいや」と軽く突っ込みを入れるなどを挟みつつ、
「お察しの通り……自分も程よく脳筋で仕立てね。ただただ純粋に、脳筋しに来ました」
「あー、お手柔らかにな?」
「おや、それでは訓練にならんでしょう」
 認め合ったかのような笑みをお互いに浮かべて、半裸の男達は剣を構える。
 剛の求めるのは、ひたすらな乱取り。基礎訓練が必要なくなるほどの、濃密な実戦訓練。
「それでは、胸をお借りします!」
 過酷なこの世界で生きてきた軍人の技術を学ぶにいい機会だと剛は心を燃やし、

「パンツを奪い合う。これが、リアルブルーにおける屈強な男達が勝敗を決める戦いだ」
「……は? パンツ?」
「そうだ、パンツレスリングって言うんだが……ああいや、パンツっつってもハーフパンツな?」

 そんな会話が、隣から聞こえてきたのだった。
 屈強な男達、勝敗を決める由緒ある(?)戦い……そのワードは、剛の琴線に触れる。
「ちょっといいですかな?」
 彼が春日 啓一(ka1621)に詳細を求めるのも、当然のことだったのかもしれない。


 啓一は深く息を吐き、構え、研ぎ澄まされた気が放たれる。
「俺があんたらのパンツを剥くか、あんたらが俺に治癒を使い切らせるか……さあ、俺を人型歪虚だと思って、遠慮無く斬りかかってこい」
 団員達は剣を手に、じりじりと距離を測る。両者の距離は一定に、ゆっくりと旋回しながら時を待つ。
「待ってちゃ、勝てねえわな!」
 先に仕掛けたのは団員だった。一息に最短で距離を詰め、振り下ろされた剣は啓一の体を袈裟に叩き斬ろうと迫る。しかし、寸でのところで啓一の拳が刃の腹を叩き軌道を逸らした。
 次いで啓一の手がパンツに伸びる。だが、別の団員から邪魔が入る。
 心臓を狙った突きをまた逸らせば、横合いから足下を低い剣筋が薙ぐ。襲い来る無数の剣戟を、啓一はしかし冷静に一つずつ躱し、いなし、叩き落とし――そして返す刀でマテリアルを込めた精緻な一撃が、団員のパンツへ向け獲物を狙う蛇のように伸びる。団員は同時に、パンツに意識の行った隙を突こうと剣を振る。
 一進一退の攻防が続く。
 啓一は、人数の差という不利な条件を前に中々目的を、パンツを剥ぐことが出来ないでいる。
「……思った以上だな」
 体力を回復しながら、啓一は呟く。
 だが、動きは読めてきた。相手は脳筋だからということだろうか、その力に任せた豪快な剣術は割と単純なようだ。
「歪虚ってのは、人の姿でもやることは化け物だ。そんなごり押しじゃ、足下掬われるぞ」
 声を掛けながら、啓一は強く一歩を踏み込んだ。

 ――そして、パンツが散る。
「残ったのは、あんただけだぜ」
 ひらひらと舞う白い布吹雪越しに、最後の団員と目が合った。
「……あんたみてえな若いのに、こうもやられちまうとは」
 苦笑し、団員が頭を掻く。だが、
「俺にも、プライドってもんがある。……ただで剥けると、思うんじゃねえぞ」
 だからこそ団員は、より強く武器を構える。
「それくらいでないと、剥き甲斐がないってもんだ」
 啓一もまた、団員の姿に強い覚悟を見て、改めて拳を握り直した。
「――剥かせて貰うぜ」
 次の瞬間に、二人が交錯した。

「あんたらの奪われたこいつは、本来戦場なら命だ。つまりあんたらは、ここで全員死んだ。この意味を、深く受け止めてくれ」
 啓一の手には、白い布きれが勲章のように握りしめられていた。


「……半裸で戦闘訓練か。どういう意図があるのかちょっとよく分からないけど、まあ、そういうオーダーなら仕方ないね」
 疑問は色々とあるものの、ここまで来たからにはとイーディス・ノースハイド(ka2106)はそれらを押し殺す。
「さて、そこに隠れてるキミとキミ、それからそっちのキミも。一人一人訓練するのも馬鹿らしいし、全員纏めて掛かってくるといい」
 そしてあっさりと居場所を看破され、げんなりした顔で団員達は姿を現した。
「それじゃあ合格ラインは……そうだね、私に一撃当てることかな。勿論、盾じゃなくてしっかり体にね」
 団員達の態度は様々で、中には、こんな女の子に何を学ぶことがあるのか、とすら思っている者もいるようだ。そんな態度が透けて見えたが、イーディスは構わず訓練に適切な距離を取る。仕事なのだから、とにかくやることをやるだけだ。

 始めよう。イーディスの発したその一言が団員達に届くか否かの刹那、彼女の振りかぶった木刀が衝撃波を放っていた。
 大地に直線を引くように、発生した力が団員の間を割る。それを見送る彼らは驚きの表情を一瞬だけ浮かべ、そしてすぐに顔を戻して剣を構えた。
「さて、それじゃあ始めようか」
 改めて宣言し、イーディスは盾を地面に突き刺した。

 数の有利を活かすため、団員が散開する。
 イーディスはそれを受け、じりじりと後退しながら転がっていた岩を背にするように移動していく。
 団員達が一瞬だけ目配せをした。
 来る。そう思うが早いか、団員が一斉に地面を蹴っていた。
「キチンと避けないと、痣だらけになると思うよ」
 空気を裂いてイーディスの木刀が目の前全てを薙ぎ払う。団員の一人が潜るように転がって躱すが、それが起き上がるに合わせてイーディスは踏み込み盾で殴りつけた。
「鎧の形状を利用して、力を受け流すように受け止めるのが基本さね」
 そこに左右から迫っていた剣戟を、イーディスは肩当てと手甲で同時に防ぐ。鎧の曲面に対して鋭角に刃が滑るよう、瞬時に角度を考え体勢を変える。
 そしてそのまま体を回転させるように、再び木刀で辺りを薙ぎ払った。
「盾の扱いはもっと簡単。攻撃の軌道上に、盾を置くだけ」
 次いで襲い来る突きや切り払い、体重を乗せたタックルを、イーディスは全て盾で受け止めていく。受けられないと判断すれば、盾を構えたまま目の前の団員にタックルを仕掛け少しでも相手の手数を減らしてから、
「パワーはあるけど、繊細さと工夫が足りないかな」
 幾度目かの木刀がハンマーのように、団員の屈強な体を打ち据えていった。


 砂地の中を、馬が走っていた。
「……馬?」
 しゃがみ込んで警戒していた団員は首を傾げる。確かに、顔合わせの時に馬を連れた少女がいた。だが、今目の前を走っているその馬には、誰も乗っていない。
 飼い馬に逃げられたのだろうか。しかし、少女だろうとハンターはハンターだ。そんな失態を、仕事の最中に犯すとは思えない。
 ならばあれは――
「……囮か!」
 咄嗟に剣を構え、団員は急いで辺りに目を配る。横か、背後か……だが、どこにも少女の姿は見えない。
 そのとき、風を切る音が耳に届いた。
 確認する間もなく、音に向けて剣を振る。馬のいた方向だ。カン、と刃に当たった棒手裏剣が軌道を変え、薄く脇腹を裂いて地面に突き刺さった。
 遅れて目を向ける。張り付いていた馬の脇腹から少女が飛び降り、近くの林に転がり込むのが視界の端に辛うじて映った。
 まずい。相手が投擲物を獲物とするなら、離れられてはただでさえ薄い勝ち目が零になる。
 団員はそう考え、その背を追って林に入る。それが少女――藤林みほ(ka2804)の誘いだとは知りもせずに。

 林の木々の密度はそう高くない。しかし、みほのように立体的な立ち回りを用いる相手に慣れていないのだろう。樹上からの攻撃は、見事に団員の虚を突いた。
 飛び降りながら放った鎖は団員の首に巻き付き、そのまま着地と共に体重を掛けて引き倒す。
「ぐおぉっ!」
「さあ、拙者に一撃入れてみるでござるよ」
 振り下ろした鎖鎌を、団員が首を捻って躱す。そのまま力任せに起き上がり、今度は鎖を引いてみほの体勢を崩そうとし――それを読んでいたように、みほはあっさりと鎖を手放した。
「なんっ……!」
 勢い余った団員が逆に体勢を崩す。次の瞬間に、みほは一気に肉薄し蹴りを放った。それと同時に鎖を外し、片手に握った目潰しを投げつける。
 だが団員は、それでは怯まない。手にした剣を見えないままに振り回し、とにかく距離を取ろうとする。
 体格で圧倒的に上回る一撃だ。まともに受ければただでは済まない。だが、目の使えないその動きは単調に過ぎた。
「甘いでござる!」
 みほは振られた剣の下に潜ると、一息に団員の手首を掴んでいた。そして流れるように極めればぐるんと団員の巨躯が回転し、見事に地面に叩き付けられる。
 天狗倒し。忍術という全く未知の技術に団員は対応することが出来ず――気付いたときには、首元に鎌の先が突きつけられていた。
「忍者は、どこにでもいるでござる。もっと、周囲に気を配った方がいいでござるな」
「あー……参った」
 自分よりも遙かに小柄な少女に組み敷かれ、団員は苦笑いと共に両手を挙げた。


「……テメェはどうだ?」
 死角からの一撃を刀の鍔で受け流し、開いた胴を、殺してしまわないように柄で打つ。その隙を狙い背後から襲った団員を振り返り様に蹴り飛ばし、胴を打っただけでは倒れなかった団員の突進をいなして鳩尾に膝を叩き込んだ。
「……一人ぐらい、骨のある奴ァ居ねェのか」
 退屈そうにピンヒールで地面を叩き、尾形 剛道(ka4612)は倒れた二人を睨め付ける。
「さっきから聞いてりゃ、馬鹿にしやがって」
 そんな剛道の態度に、団員は苛つきも露わに立ち上がり剣を構えた。
「はっ。言われたくなけりゃ、俺を楽しませてみろよ、なァ」
 雄叫びを上げ、団員が斬りかかる。剛道はそれを、ギリギリまで引きつけては受け流していく。
 未だ剛道は覚醒を使っていない。それがまた、殺伐とした空気に拍車を掛けていた。
 とはいえ団員も弱くはない。剛道の動きを徐々に見切り、刃は着実に直撃へと近づく。
 そしてバチンと、受け流しを狙った刀の柄が、団員の攻撃で大きく弾かれる。
「舐めんじゃねえ!」
「……あァ、そうだな」
 少しだけ口角を上げ、剛道が刀を抜く。長大な刃が閃き、剣とぶつかって火花を散らす。
 戦いは打ち合いに発展し、斬り結ぶこと数合――膨張し隆起する団員の筋肉から放たれた一撃が剛道の肩口へと吸い込まれ、
「悪くねェな」
 覚醒した剛道の動きが、刹那にそれを回避していた。
「どうだおい、引き出してやったぞ……!」
 息も絶え絶え汗もだらだらに、団員がにやりと笑う。
 対して剛道が鼻を鳴らし、黙らせようと一歩を踏み出したそのとき――


 帳 金哉(ka5666)が体内で練り上げた気は、激しく循環し力を増幅させていく。
「かかか、公的に喧嘩をし尚且つ給与も出るとは殊勝な仕事よ。これで酒でも用意してくれれば、最高なのじゃがな」
 初めからマテリアルも全開に荒野を駆ける。そして相手が目に付けば、積極的に戦闘を仕掛けていった。
「存分に、拳を突き合わせようぞ!」
「っ、血の気の多い奴だな!」
 団員が迎え撃つように剣を振りかぶれば、金哉はほんの一瞬だけ踵で地面を削る。ぐんとスピードが落ち、剣が鼻先を通り過ぎた。
 次の瞬間に、金哉は前蹴りを最短距離で打ち込んだ。突き刺さった爪先に、団員は呻きを上げるが、
「こういうのは、久しぶりだな……!」
 そのまま足を掴まれる。そして金哉が足を引くよりも先に逆袈裟の刃が奔っていた。
 金哉は、これぞ喧嘩だと鈍痛に笑みを浮かべる。
 ――切り裂くような蹴撃と、鈍色の長剣が交錯する。泥臭いまでの打ち合いに、しかし最後まで立っていたのは、金哉だった。
「人の子にしてはやりおるの。さあ、そこのお主も、遠慮無く掛かってこい」
 次の相手を見つけ、金哉は楽しげに声を掛けた。

 さあ、次だ。
 団員を打ち倒し、勝利の余韻に浸るよりも次の闘争を求めて金哉はまた走る。受けた痛みは熱となって、興奮を後押ししていた。
 そして、彼は次の相手の後ろ姿を認め――


「なんじゃ、貴様ははんたあじゃったか」
「あァ? なんだテメェ」
 金哉の背後からの一撃を、剛道が受け止めていた。
「……ほう、面白い。貴様、俺の相手も頼む」
 より歯応えのある相手を求める。同じ気持ちを持つ二人が斬り結ぶのは、当然の帰結だった。

 そうして剛道と金哉は互いの全力をぶつけ合う。
 刀が閃き、蹴りが奔り、武器がぶつかって火花を散らす。金哉の傘が刀を受け止め、流れるような投げ技を剛道が体捌きで躱していく。
 何故か始まったハンター同士の全力の戦いを、彼らに負けた団員達は遠巻きに見守っていた。
 そしてその戦いが、どのくらい続いただろうか。
「……飽きた」
 唐突に、剛道が刀を引いた。
「っ、主! まだ勝負は付いておらぬぞ! 飽きたとはどういうことじゃ!!」
「……勝負が、付いてない?」
 既に覚醒を解いた剛道が、傷だらけで膝をつく金哉を見下ろした。
「俺は、弱い奴を構うほど暇じゃねェ」
「弱い、じゃと!」
「あァ」
 剛道が金哉に背を向ける。その背中は、既に金哉への興味を失っているようで、
「テメェがもう少し強くなりゃァ、その時はまた相手をしてやる」
 その言葉に、金哉は悔しげに地面に拳を叩き付けた。


 傾く夕日に、ボロボロになった団員達の姿が浮かび上がる。
「……ああ、今日は良い日だったな。素晴らしい」
 イーリスは、肌をつやつやとさせながら今日の記憶を反芻していた。
 そんな中、
「さあ、どうしました! まだ私のパンツは、少しもずれてはいませんよ!」
 もはや何時間の死闘を繰り広げているのか、剛は汗にまみれ荒く息を吐きながらも爽やかな笑みを浮かべて相対する団員に声を掛けた。
「ちょ……待て、もう限界……」
 対して団員は、剣を持つ腕をぷるぷるさせて膝をつく。握力も限界だったのか、同時にカランと手から剣が転げ落ちた。
「む、そうですか。では、誰か他の方を――」
「……済まん、夜間訓練の申請はしていないのだ。私もまだ見ていたくはあるが……今日のところは、ここまでにしておいてくれ」
「おぉ、もうそんな時間でしたか。いや、これは失礼」
 イーリスにそう告げられ、剛はまた爽やかにぺこりと頭を下げた。

 こうして、よく分からない訓練は幕を閉じる。今回の経験は、団員達の大きな糧となるだろう。
「ところで、いったいなんでそんな格好だったのじゃ……」
 金哉の素朴な疑問に答えられる者は、どこにもいなかったが。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • 破れず破り
    春日 啓一(ka1621
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 鍛鉄の盾
    イーディス・ノースハイド(ka2106
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • くノ一
    藤林みほ(ka2804
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人
  • DESIRE
    尾形 剛道(ka4612
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 意地の喧嘩師
    帳 金哉(ka5666
    鬼|21才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
藤林みほ(ka2804
人間(リアルブルー)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/10/12 02:05:47
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/10/10 11:44:41