ゲスト
(ka0000)
【幻森】大霊堂に、知識求め
マスター:四月朔日さくら
- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/19 22:00
- 完成日
- 2015/10/25 07:16
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
幻獣達が隠れ住む安息の地――幻獣の森。
一時は歪虚から逃れて、平穏な生活が訪れると信じていた。
だが、現実はあまりに無慈悲で残酷だ。
白龍が消滅した結果、幻獣達を守っていた結界は綻び始める。
そこへ忍び寄るは、幻獣のマテリアルを狙う影の群れ。
その時、ハンター達は――。
●
「――ツキウサギ? えっと、それって、幻獣なのかな? はじめて聞くけど」
ハンターたちは見知らぬ名前に、きょとんとした顔をする。
「リアルブルーには、月でウサギがもちをついてるなんて伝承もあるけれど……まさかそんな幻獣がいるだなんて」
その中でも特にリアルブルー出身のハンターは、なおのこと驚いているようだ。
「……はい。そんなこともあって、皆さんにお願いしたいのは――ツキウサギと、それらに関連する情報の、収集です」
ジーク・真田(kz0090)が、そう言って頭を下げる。
幻獣に絡む話題――本来ならこういう話題の依頼をするのはリムネラ(kz0018)が行なうべきなのだろうが――彼女はいま、北狄との戦いの小休憩というのもあってか、依頼するのはジークで、細かい質問をされ次第リムネラが反応すると言うことになったらしい。
それにしても、幻獣の情報なんてどこで探せば――
誰かがそう言いかけて、ふと気づいた。ある存在のことを。
「……あ、もしかして……チューダ? チューダに会いに言って、聞いたりすればいいのかな?」
その問いかけにも似たつぶやきに、ジークは笑って頷く。
「その通りです。自称幻獣王のチューダさんであれば、ある程度の情報は収集できるでしょうし、そもそもチューダさんの住んでいる大霊堂であれば、なにがしかの情報を得る手段はある筈です」
大霊堂には口承や書簡なども、あるいは残っているかも知れない。……期待が出来るかはまだ分からない部分もあるが。
●
チューダは夢を見ていた。
『チューダ。お前に頼みたい事がある――』
深く染み渡る、よく通る声は、聞き覚えが確かにある。
『もしも――』
ああ、だけどなにを頼まれたのか。
とても大切な、約束だったはずなのに。
●
――そんなわけで。
ハンターたちはまたもや大霊堂に訪れたわけである、が。
「……それにしても、また突然だねぇ。そうそう、チューダなら今日はかくれんぼとか言ってたよ」
大巫女がハンターたちにそう言って、やれやれと首をすくめる。
……相変わらずチューダは自由奔放らしい。
「まあ、リムネラやファリフから話は聞いてるよ。ツキウサギだけじゃなく、幻獣がらみの伝承も、大霊堂には思いがけないところに眠っているものさ。今回の一件の役に立つものがすぐに見つかればいいけれど、巫女一同、ハンターには力を貸す所存だよ」
大巫女の言葉も、ありがたい。
ハンターたちは大巫女に頭をぺこり、と下げた。
さて、それにしても――
幻獣の森、そして大幻獣とはどんな存在なのだろう――?
一時は歪虚から逃れて、平穏な生活が訪れると信じていた。
だが、現実はあまりに無慈悲で残酷だ。
白龍が消滅した結果、幻獣達を守っていた結界は綻び始める。
そこへ忍び寄るは、幻獣のマテリアルを狙う影の群れ。
その時、ハンター達は――。
●
「――ツキウサギ? えっと、それって、幻獣なのかな? はじめて聞くけど」
ハンターたちは見知らぬ名前に、きょとんとした顔をする。
「リアルブルーには、月でウサギがもちをついてるなんて伝承もあるけれど……まさかそんな幻獣がいるだなんて」
その中でも特にリアルブルー出身のハンターは、なおのこと驚いているようだ。
「……はい。そんなこともあって、皆さんにお願いしたいのは――ツキウサギと、それらに関連する情報の、収集です」
ジーク・真田(kz0090)が、そう言って頭を下げる。
幻獣に絡む話題――本来ならこういう話題の依頼をするのはリムネラ(kz0018)が行なうべきなのだろうが――彼女はいま、北狄との戦いの小休憩というのもあってか、依頼するのはジークで、細かい質問をされ次第リムネラが反応すると言うことになったらしい。
それにしても、幻獣の情報なんてどこで探せば――
誰かがそう言いかけて、ふと気づいた。ある存在のことを。
「……あ、もしかして……チューダ? チューダに会いに言って、聞いたりすればいいのかな?」
その問いかけにも似たつぶやきに、ジークは笑って頷く。
「その通りです。自称幻獣王のチューダさんであれば、ある程度の情報は収集できるでしょうし、そもそもチューダさんの住んでいる大霊堂であれば、なにがしかの情報を得る手段はある筈です」
大霊堂には口承や書簡なども、あるいは残っているかも知れない。……期待が出来るかはまだ分からない部分もあるが。
●
チューダは夢を見ていた。
『チューダ。お前に頼みたい事がある――』
深く染み渡る、よく通る声は、聞き覚えが確かにある。
『もしも――』
ああ、だけどなにを頼まれたのか。
とても大切な、約束だったはずなのに。
●
――そんなわけで。
ハンターたちはまたもや大霊堂に訪れたわけである、が。
「……それにしても、また突然だねぇ。そうそう、チューダなら今日はかくれんぼとか言ってたよ」
大巫女がハンターたちにそう言って、やれやれと首をすくめる。
……相変わらずチューダは自由奔放らしい。
「まあ、リムネラやファリフから話は聞いてるよ。ツキウサギだけじゃなく、幻獣がらみの伝承も、大霊堂には思いがけないところに眠っているものさ。今回の一件の役に立つものがすぐに見つかればいいけれど、巫女一同、ハンターには力を貸す所存だよ」
大巫女の言葉も、ありがたい。
ハンターたちは大巫女に頭をぺこり、と下げた。
さて、それにしても――
幻獣の森、そして大幻獣とはどんな存在なのだろう――?
リプレイ本文
――聖地リタ・ティト、大霊堂。
半年ほど前までは歪虚の手にあったこの地も、元通り――とまでは行かないが、確実に落ち着きを取り戻している。
ハンターたちはその場所にまたもやってきた。
幻獣の情報を、もっと得る為に。
●
「それにしてもチューダはかくれんぼ、かぁ」
猫を放って狩りたいと思いつつそれを我慢しているのはユノ(ka0806)。随分物騒な発想だが、チューダに話を聞きに来たというのにこれはないよなぁ、とちょっとむすくれているわけで、まあ仕方が無いと言えば仕方が無い。
そもそも自称でも『幻獣王』を名乗っているチューダなのだから、普通の幻獣や、あるいは人間の知識の及ばないことを知っている可能性は非常に高い。それが危機感なく【かくれんぼ】となれば、まあそう言う反応をするものもいるというものだ。
「でもチューダさんに! ああ! 会いたい!」
ふだんのクールさはどこへやら、思わずテンションがハイになってしまっているのは動物好きでもふもふ好きなザレム・アズール(ka0878)。黙っていれば真面目なイケメンなのだが、なにしろ先だっての依頼報告書を読んでからと言うもの様子がおかしいらしい。チューダに会いたい、それがちょっと暴走気味だ。
しかし中身はそれなりに真面目なので、色々考えているようではあるが……。
「ツキウサギ、ねぇ。名前だけ聞くと愛らしい幻獣っぽいじゃないか」
ユピテール・オーク(ka5658)はそう言いながら、楽しそうに笑う。姉御肌の彼女も、ふわふわもふもふした生き物を触るのは好きらしい。幻獣王ももふもふと聞いて俄然やる気が上がっているようだ。
「名前はな。しかしツキウサギは、聞けば戦士の種族だと言うが……」
一方こちらも事前に報告書をざっくり読んできたレイス(ka1541)、しかし彼はチューダに頼るばかりでなく、書庫に向かうつもりなのだという。書庫を目指しているハンターは他にもいて、イーリアス(ka2173)などもその一人。ただこちらはチューダにあまり興味が無いという意味合いも含んでいるが。彼を師、いや「せんせ~さま」と仰ぐアイ・シャ(ka2762)もまた、イーリアスについて調査をするつもりだ。
(森にも獣にも興味はたくさん……一番好きなのは鳥ですけど)
チューダが聞いたら落胆しそうだが、まあ仕方が無い。個人の嗜好というものをねじ曲げるわけにも行くまい。
(でも幻獣王様にまたお会いできるなんて……って、あれ? そうか、きっとかくれんぼですね、分かりました)
ミオレスカ(ka3496)はチューダに再会できるとわくわくしつつも周囲を探しに。チューダ狙い(?)のハンターは少なくないのだが、彼らは皆一様になにやらお菓子や食事の類を準備しているというのがなんとなくほほえましいというか、チューダの行動パターンを理解していると言えばいいか――。まあ、ただでさえ大霊堂は広い。多くの巫女たちが何十年何百年とすまいにしていただけあってその広さというのはかなりのものである。大霊堂をチューダひとり(?)の為にくまなく探すわけにも行かないので、まあ、お菓子で釣れれば御の字というわけである。
(しかし……幻獣……興味はあるが、「ツキウサギ」とヤらにガーディナはなにを期待しているのだろう、な)
やや寡黙なエルフウル=ガ(ka3593)は、周囲のざわめきを余所にひとり考え込む。しかし歪虚が幻獣に目をつけているという事実は覆しようもなく、そのために調査をするのは吝かではないと考えたようだ。
とはいえ、彼の視点は他の仲間たちとは少し違う。
大霊堂の中のオブジェに、月や兎にまつわるものがあれば――と考えたのだ。あるいは、「槻(ツキ)」と言うように読ませていた植物――つまりケヤキかも知れない。
オブジェならば、過去の人々がなにかを託したメッセージが残されている可能性はゼロではない。そう言うオブジェ関連に明るい巫女を探すのが、彼の目的であった。
「前に大霊堂を調べた人たちが作った地図は、また利用できますね」
そう言いながらも地道な作業に思わずため息をこぼすのはカイ(ka3770)、場所が場所だけにそう大きな変更はないだろうから、たしかに活用はできるだろう。前回探していたものと今回探すものはまた少し違うが、おおまかな場所が分かればそれだけでも随分と違うはずだ。
「そうそう、神霊樹のライブラリにも情報を確認したいよね」
なるほど、ある程度の情報が残っているかも知れない。
他にも、巫女たちに口伝を聞くもの。
チューダ探しに明け暮れるもの。
書庫探しを徹底するもの。
それぞれ進むべき道はだいたいきまったようだ。
その中でティリル(ka5672)は、大巫女のいる場所から比較的動かないようにして、皆の集めてきた情報を纏めて記録や記憶の精度を高めようと考えているようだった。確かにこういう場所では、そう言う人間が一人いるだけで随分雰囲気が異なってくる。
「よし、頑張ろう!」
皆が声を合わせて、拳を突き上げた。
●
書庫には相変わらず木簡・竹簡の類をはじめとする資料がうずたかく積まれていた。
いにしえからの知識を集積した大霊堂の書庫は、以前ハンターたちが調べた際についでにと軽く仕分けをしてくれていたこともあって、幻獣に関する資料は比較的容易に発見することができた。
セリス・アルマーズ(ka1079)は、さっそく書簡を虱潰しに当たっていく。
「幻獣の森……幻獣の森……」
「ツキウサギと幻獣の森、だよね」
「そうそう」
アリア ウィンスレッド(ka4531)はきょろきょろと周囲を見回しながら、資料をてきぱきと時代ごとに分けていく。
「チューダちゃんの知識って当てになるような、ならないような部分も多そうだし、その辺を補足できるような資料が見つかるといいんだけどな」
幻獣の伝承が減った時期というのが、もしかすると『幻獣達が隠棲生活をはじめた時期』なのかも知れない。口伝や文献のチェックを細かにしつつ、他の大幻獣――例えば、白龍など――の情報で引っかかるものがあればそれを書きとめていく。
「……白龍ちゃんが結界を張ったときに約束とかしてないかな? なにか面白い話が見つかるといいんだけど……」
巫女の口伝を聞くと言う行動に出たハンターは多い。しかし、情報自体が漠然とした状態で、具体性を求めるのは難しいだろう。
「ツキウサギと幻獣の森……」
キーワードは、この二つ。もしかしたら、時代や種族、集落によってはその呼び名も異なっているのかも知れないが。
「あ、興味深い記述がありましたよ!」
アイ、そしてセリスが興味深そうに資料を広げている。
そこには、まさしく幻獣の森と呼ばれる存在についての情報が記載されていた。
どれどれと、他の仲間たちものぞき込む。
――幻獣の森とは、幻獣達が歪虚から身を隠す為に結界をはった場所で、本来なら普通の人間には可視化できないようにされている――
――もしその森が姿を現すことがあれば、それは何らかの事情で結界に綻びが生じているものだと思われる――
――そして幻獣の森の守護者とも言うべき存在は大幻獣ツキウサギであり、彼らが助けを求めるときは幻獣の森が危機に瀕したときと言えるだろう――
「……ふむ」
一番はじめに声を上げたのはイーリアスだった。先ほどまではさっと目を通すくらいですませていたはずだが、この資料を見て流石に素通りはできなかったらしい。
幻獣の森は結界で守られていた、幻獣たちの聖域――なのだとすれば、それが周知のものとなっている現在、その存在はかなり危うい者になっているのではないのだろうか。
「これを見る限り、かなり由々しき事態と思われる、な」
ツキウサギの護ろうとしているのが幻獣の森そのものならば、確かに事態は予想以上に厳しい。レイスもううむと唸って、必要そうな書簡の記事を手持ちのメモにまとめていく。
今回の件で把握できたことは、いずれユニオンなどを経由して、あるいは直接、ファリフたちに渡さねばならないだろう。この事実はおそらく辺境のみならず、このクリムゾンウェストという世界の均衡をも揺るがしかねないのだ。
●
一方、巫女たちに口伝かなにかは残っていないかと聞き込みに回るものも少なからずいた。
チーズで謎の仕掛けを作っておいた――本人曰くお遊びらしいが――グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)をはじめとする多くのハンターたちが、大霊堂のあちこちにいる巫女に声をかけていく。
「聞くのはツキウサギだけじゃなくて、幻獣が出てきたり、不思議な出来事の起こる話――そんなものもチェックした方がいいだろうな」
ツキウサギの正体がわからない現状、今は時間の許す限り関連性のありそうな話題を蒐集していくしかない。
とくにその中でも目についたのは、かわいらしい月うさぎのぬいぐるみを持った時音 ざくろ(ka1250)。
「冒険家としては文献調査は基本だもん!」
そう言いながら、ファンシーなぬいぐるみを巫女に掲げてみせるざくろである。
「月うさぎって言うからにはこんな外見じゃないかなって思うんだけど、なにか言い伝えとかは残ってないかな? ……はっ、ざくろは別にぬいぐるみが好きなわけじゃないよ!」
顔を赤らめながらそう言っても、正直説得力がうすい。
「あとね、」
付け加えるように、懐かしむように、ざくろは言う。
「リアルブルーの故郷では月で兎が餅をついているって伝承があったから……もしかしたらツキウサギも、東方由来の伝承じゃないかな、って思うんだけど」
「ああ、そういえばリアルブルーには確かにその手の有名な話があるな。ただ、目撃証言だと月との共通点はあまりなさそうだな」
しかしその発想は残念ながら外れのようだ、と同じくリアルブルー出身のレイオス・アクアウォーカー(ka1990)がいう。アイデア自体は悪いものではないが、リアルブルーとまったく同じような伝承になっているかはそれこそツキウサギのみぞ知る、だ。
「どちらかというと搗きウサギ、のような気もするしな」
確かに、目撃証言を思い返すと杵らしきものを持っていたという。あるいはダブルミーニングなのかも知れない。
「と言うわけで、なにかそう言う関連性のありそうな口伝でも残っていないか?」
レイオスが尋ねると、
「そうですね……ツキウサギはあまり伝承に残っていないのですけれど……そう言えばこんな話を聞いたことがあります」
巫女の一人がそう言って、物語を紡ぎはじめた。
それは、かつて薬草を採りに行って迷子になった巫女が長靴を履いて杵を持った幻獣に助けてもらったという、まるきりおとぎ話のようのものだった。
「その幻獣は、確かにうさぎを模した姿をしていたそうです。ですので、もしかしたら皆さんの探していらっしゃるツキウサギなのかも知れません」
かなり昔から伝わる伝承らしく、細部は違えどこれと同様の話は多くの巫女から聞くことができた。
そしてその中の一人の話にはこんな台詞があったのだという。
『あなたはどうしてここにいるの?』
『この近くの森には、自分なんかよりもすごい大幻獣さまがいて、それを護る為だ』
「……自分よりもすごい大幻獣、ですか?」
チューダ探しもしつつ資料を集めるというすご技をやってのけているアクセル・ランパード(ka0448)は、二三度瞬きを繰り返す。
もし本当にそんな存在がいるのだとしたら、書簡にあった森の守護者、と言うのも納得がいく。
つまり、森の奥にいる大幻獣を護る為にいるのがツキウサギなのだ、と――そう言うことなのであろう。
なるほど、それなら道理も通る。
「もう少し、調べてみる価値があるかも知れませんね」
大霊堂を探索している合間にも、情報の交換はできる。グリムバルドもこれは聞き逃せないと思ったのだろう、メモにしっかりと線を引いておいた。
「巫女さんも、いろいろ教えてくださってありがとうございます。喉が渇いたでしょう、こんなものを用意していますので、どうぞ」
エステル・クレティエ(ka3783)が、そっとレモンと蜂蜜の入った紅茶を差し出した。月や星の伝承にも期待を持っていたが、ツキウサギに関係しそうなものはあまりないようだった。しかし口伝をいくつかのパターンにまとめてメモを取っていく。パターン数が少なければ少ないほど、真実味を帯びている可能性が高いからだ。
あとは――チューダが、なにか知っているのかも知れない。
●
大霊堂という場所は、巫女の住まいと言うこともあってさまざまなモチーフがそこかしこにちりばめられている。
それは各部族の伝承だったり、巫女にのみ伝わるものだったりと様々だが、その中でツキウサギらしきものが見受けられるモチーフはそれほどなかった。
しかし、ふっと上を見たカイが、不思議なレリーフを見つけた。
「あれ、月……だよね」
天井のごく高いところ。間違いなく月をモチーフにしたと思われる飾りが彫られている。口伝を暗誦しながらぼんやり天井を眺めていたエクセルも、同じレリーフを見つけたようだ。
しかし驚くべきはそこではなかった。
その月らしきモチーフのなかには、まるで蛇を絡ませた亀のような姿が見られたのだ。少なくともその姿は、どう考えてもうさぎの類には見えない。
リアルブルーの極東と呼ばれる地域の出身者ならそれをみて思い浮かぶものがあっただろう。――玄武と呼ばれる神獣の存在を想起させたであろう。
しかし残念ながらカイはクリムゾンウェストの出身で、そのような知識は持ち合わせていない。ただ、月の中に不思議な生き物のレリーフがある、そう感じた。
(もしかして、あれも幻獣なのかな)
近くにいたウルにも声をかけてみると、
「……なるほど、これは面白い。月の中にうさぎでなく、別の幻獣か……」
そう言って黙り込んでしまった。なにやら考えているらしい。やがて近くにいた巫女に声をかけてみる。
「巫女殿、すまないがあのレリーフはどういう意味があるか知っているか?」
「あの、天井のですか? あれは巫女たちから『護り手』と呼ばれています。おそらくですが、世界のどこかに、あのような幻獣がいるのではないでしょうか? 私も残念ながらそれ以上は分からないのですけれど」
「――。いや、参考になった。ありがとう」
ウルの頭の中で、パズルのピースが一つ、カチリと音を立ててはまった。
(つまりツキウサギは、その『護り手』とやらを護っているではないのだろうか……?)
●
神霊樹のライブラリは、幻獣についての情報自体はそれほど多く持ち合わせていないようだった。
それでもレイス、そしてカイは、ないよりはましと言わんばかりに情報を求めていく。
「ツキウサギ、幻獣の森、それから――大幻獣。なにか引っかかるものはないだろうか」
「あと、ツキウサギがリアルブルーの伝承に近い存在なら、月見や団子、なんて単語も調べる価値はあるかも知れない」
先ほど書庫で集めてきた情報などを頼りに、更に細かい情報を求めようとする。
ツキウサギらしき幻獣の目撃例は決して多くなかったが、歪虚に狙われているところを助けてもらったというような例はいくつかヒットした。
そして、幻獣の森は――
「……こちらは手がかりなしのようだな。どうやら本当に、かなり長い間姿を隠していたようだ」
おそらくそれも、幻獣の森に潜むという大幻獣の力だろう。
では、一体何故。
何故今このとき、その幻獣の森は、情報が飛び出したのか。
そこを考える必要は、十二分にありそうだった。
●
ところで、ハンターの一部はチューダに会いたいという目的も兼ねての大霊堂探索だったのだが。
その半分以上が食べものを持ってきているあたり、チューダという存在の食い意地を理解しているというか、なんというか。
当の本人(?)はかくれんぼと称して出てこないが、それを探すのも一興という感じである。
(でも……かくれんぼって言うのはもしかしたらひとりになりたいときの口実かしら? 考え事をしているのかも)
リアリュール(ka2003)はそう考える。人づてに聞く限りでもチューダは出しゃばりの食い意地張りなのは理解ができるので、こんなタイミングで『かくれんぼ』をしているというのは逆に不思議に思えたのだ。
「普段チューダさんはどこで見かけるかとか、わかりますか?」
尋ねてみるも、巫女たちですらチューダの存在を知ったのが比較的最近というものも多い。チューダはもともとキューソという幻獣だ、大霊堂でひっそりと暮らしていたらあまり分からないのかも知れない。
「たまにはこんな仕事も悪くないな」
バルバロス(ka2119)は呵々と笑いながらチューダを探す。研ぎ澄まされた聴覚で、チューダを見つけることができないか、それを試しているのだ。根っからの戦士であるバルバロスにとって、こういうタイプの依頼は決して多いわけではない。だからこそ、興味がわいたとも言えるのだが。
ケイルカ(ka4121)はお気に入りの猫耳帽子を外し、
(チューダちゃんは猫は嫌いかも知れないから……)
……まあ、どんなにでかくても見た目はハムスターだし。
「もーいーかーーい!」
思わずそんなかけ声をだす。反応はない。似たようなことは夜桜 奏音(ka5754)も地図を確認しつつ行なっているが、こちらも芳しい反応はないようで、すれ違うたびに互いにため息。
しかし、確かにここにいるのは事実なので、
「チューダちゃんと一緒にお菓子も食べたいのに~」
ケイルカは心底残念そうに呟いてみせる。ついでにマシュマロをそっと頬張りながら。
――と。
かさかさ、と気配がする。
多くのハンターが「チューダはお菓子で釣れそう」と認識しているのか、菓子持参のハンターが多かったのだが、それが功を奏したのだろうか。
「あっ」
声を思わず上げたのは峰森 ヒイロ(ka5674)。はじめこそハムスターが喋るという事実に半信半疑だったが、ちらりと見えた赤いマントは人間サイズではあり得ない可愛らしさ。
そういえば、とポケットに入れていたクッキーを引っ張り出し、
「チューダ、いるか? せっかくクッキー持ってきたんだけど、みつからねぇんなら残念だけど代わりに俺が食うしかないよな……」
なんてさらりと言い放ってみせる。と、それに反対するかのように高い声がちょっとむすくれた口調で反論する。
「そ、そんなものにつられる我輩ではないのであります!」
「「「あ」」」
「あ」
そんなこんなで、チューダ――発見。
●
チューダはハンターたちが用意してくれたお菓子を次から次へと消費しながら、そのハンターたちの熱い視線に囲まれていた。
なかにはふくふくとしたチューダのお腹を触るハンターもいる。奏音やケイルカもそんな【チューダさわり隊】メンバーだ。
葛音 水月(ka1895)も、さわりこそしないもののチューダと対話する方に興味があるらしく、
「とりあえず幻獣王と呼ばれるチューダさんなら、僕たちの知らない情報をもっと知ってると思うんですよねー」
そんな具合に、うまいことチューダをヨイショ。チューダも悪い気はしないらしく、
「もちろんであります!」
そう言ってひげをそよがせた。ついでにむっちりしたお腹もたぷんと動く。
「ツキウサギは幻獣の森を護っているのであります。幻獣の森にはたくさんの幻獣がいて、結果としてツキウサギは彼らを危険にさらさないようにしているのであります」
ソフィ・アナセン(ka0556)の準備した紅茶を飲みながら、チューダはぺらぺらと喋る。
「ツキウサギのことを以前聞いたときはチューダさんの冗談かと思っていたのですが……本当にいたのですね!」
鷹藤 紅々乃(ka4862)が嬉しそうに頷いた。そのときはチューダは、『百年ほど前から見かけない』と言っていたような気がするが……では何故今現れたのだろう。
「それに加えて、その幻獣の森は今まで見つからなかった。それが今見つかった……それはなにか心当たりがありませんか?」
ソフィの言葉に、チューダはぎくりとする。耳がしょぼんとしているのは、なにか後ろめたいことでもあるのだろうか。
「それなのです……実は、我輩、とんでもない失敗をしていたであります」
「とんでもない?」
「我輩、ある大幻獣と約束をしていたのであります」
「……もしかして白龍ちゃんが結界を這ったときに約束した、とか?」
アリアが尋ねると、チューダは弱々しく頷いた。
「そうなのです。ちょっと言い難いのでありますが……我輩、約束をしていたであります。もし白龍が消えてしまうようなことがあれば、真っ先に幻獣の森に伝えると」
「「「――は?」」」
この発言に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまうのは仕方が無い。
何しろ白龍は先だっての聖地奪還の際に既に消滅してしまっている――もう半年近く前の話だからだ。
この時点で約束に従って白龍消滅の一報を行っていれば、まだ結界を守る事ができたのかもしれない。
しかし、チューダはその事を綺麗さっぱり忘却の彼方へ送り込んでいたようだ。
「それを忘れていた、とか?」
「――夢をみたであります。ナーランギと我輩が、約束したときの夢であります」
「……ナーランギ?」
チューダから聞き慣れない言葉が出たので、思わず問うのはミオレスカだ。
「ナーランギは幻獣の森に住む大幻獣であります。あの森が今まで人目に触れることがなかったのも、ナーランギの力であります。気むずかしい性格ですが、悪い奴ではないのであります」
そう言って、天井のレリーフを指さした。月の中に、亀に絡みついた蛇の描かれたレリーフ。あれがおそらくナーランギなのだろう。
「白龍が消えてしまったことで、マテリアルの減少が発生しているであります。結界はただでさえマテリアルの消耗が激しいので、白龍にもしものことがあったらというのは、約束していたのであります……」
しかしこの自称幻獣王は夢を見て思い出すまで、それをすぱーんと忘れていた。
涙をためているチューダ。幻獣の森が発見されて危機に瀕している原因がチューダにあると分かったのだ。流石に責任を感じているのだろう。
「いや、まだ遅くないでしょう」
そう言ったのはザレムだった。
「今このクリムゾンウェストは一つにまとまりつつあります。西方諸国も、東方も、一つになろうとしています。国やハンターに協力を仰ぐことは、十分に可能です」
たくさんの手を借りるのは難しいかも知れないけれど。
手を伸ばしてくれる人は絶対にいる。ここに集まったハンターたちも、もちろんと頷いてくれる。
「それに知性ある存在が何かと戦うには相応の理由がある筈。そう言うことなら、きっと力を貸してくれる人も多い」
レイスも言う。
「幻獣王さまの配下……というわけではなさそうですけれど、その大幻獣も、ツキウサギも、幻獣王さまにはきっととても大切な存在なのですよね。どうか手伝わせてください」
ミオレスカもにっこり笑って、そっとケーキを差し出した。
「ありがとうなのです……我輩、感激なのであります」
ハンターは、間違いなく幻獣たちに手をさしのべてくれるだろう。
こうやって話をしてくれるのも、力を貸せるだけの意味があると認識しているからに違いない。チューダはそう思って、差し出された菓子をめいいっぱい口に放り込んだ。
「しょんぼりするのはやめであります! いまできるのは、ナーランギに現状を伝えること、そしてナーランギの意見を聞くことであります! もしそのときは、……我輩や巫女たちの名代として、よろしく頼むであります」
チューダも大幻獣、どうやらそうそう簡単に大霊堂を動くのは難しいらしい。加えて後ろめたいのだろうが。
しかしそんなことはどうでもいい。
大幻獣ナーランギ――一体どんな存在なのだろう。
そして、ナーランギはこの現状を、どう受け止めているのだろう。
ハンターたちにはまだまだ課題が多いが、道はきまった。
●
――幻獣の森。
静かなその奥に、ひっそりとその大幻獣は座していた。
「マテリアルが、減少している……ここで滅ぶのも、定めなのかも知れぬ……」
密やかなつぶやきが、森の奥で発せられていた。
半年ほど前までは歪虚の手にあったこの地も、元通り――とまでは行かないが、確実に落ち着きを取り戻している。
ハンターたちはその場所にまたもやってきた。
幻獣の情報を、もっと得る為に。
●
「それにしてもチューダはかくれんぼ、かぁ」
猫を放って狩りたいと思いつつそれを我慢しているのはユノ(ka0806)。随分物騒な発想だが、チューダに話を聞きに来たというのにこれはないよなぁ、とちょっとむすくれているわけで、まあ仕方が無いと言えば仕方が無い。
そもそも自称でも『幻獣王』を名乗っているチューダなのだから、普通の幻獣や、あるいは人間の知識の及ばないことを知っている可能性は非常に高い。それが危機感なく【かくれんぼ】となれば、まあそう言う反応をするものもいるというものだ。
「でもチューダさんに! ああ! 会いたい!」
ふだんのクールさはどこへやら、思わずテンションがハイになってしまっているのは動物好きでもふもふ好きなザレム・アズール(ka0878)。黙っていれば真面目なイケメンなのだが、なにしろ先だっての依頼報告書を読んでからと言うもの様子がおかしいらしい。チューダに会いたい、それがちょっと暴走気味だ。
しかし中身はそれなりに真面目なので、色々考えているようではあるが……。
「ツキウサギ、ねぇ。名前だけ聞くと愛らしい幻獣っぽいじゃないか」
ユピテール・オーク(ka5658)はそう言いながら、楽しそうに笑う。姉御肌の彼女も、ふわふわもふもふした生き物を触るのは好きらしい。幻獣王ももふもふと聞いて俄然やる気が上がっているようだ。
「名前はな。しかしツキウサギは、聞けば戦士の種族だと言うが……」
一方こちらも事前に報告書をざっくり読んできたレイス(ka1541)、しかし彼はチューダに頼るばかりでなく、書庫に向かうつもりなのだという。書庫を目指しているハンターは他にもいて、イーリアス(ka2173)などもその一人。ただこちらはチューダにあまり興味が無いという意味合いも含んでいるが。彼を師、いや「せんせ~さま」と仰ぐアイ・シャ(ka2762)もまた、イーリアスについて調査をするつもりだ。
(森にも獣にも興味はたくさん……一番好きなのは鳥ですけど)
チューダが聞いたら落胆しそうだが、まあ仕方が無い。個人の嗜好というものをねじ曲げるわけにも行くまい。
(でも幻獣王様にまたお会いできるなんて……って、あれ? そうか、きっとかくれんぼですね、分かりました)
ミオレスカ(ka3496)はチューダに再会できるとわくわくしつつも周囲を探しに。チューダ狙い(?)のハンターは少なくないのだが、彼らは皆一様になにやらお菓子や食事の類を準備しているというのがなんとなくほほえましいというか、チューダの行動パターンを理解していると言えばいいか――。まあ、ただでさえ大霊堂は広い。多くの巫女たちが何十年何百年とすまいにしていただけあってその広さというのはかなりのものである。大霊堂をチューダひとり(?)の為にくまなく探すわけにも行かないので、まあ、お菓子で釣れれば御の字というわけである。
(しかし……幻獣……興味はあるが、「ツキウサギ」とヤらにガーディナはなにを期待しているのだろう、な)
やや寡黙なエルフウル=ガ(ka3593)は、周囲のざわめきを余所にひとり考え込む。しかし歪虚が幻獣に目をつけているという事実は覆しようもなく、そのために調査をするのは吝かではないと考えたようだ。
とはいえ、彼の視点は他の仲間たちとは少し違う。
大霊堂の中のオブジェに、月や兎にまつわるものがあれば――と考えたのだ。あるいは、「槻(ツキ)」と言うように読ませていた植物――つまりケヤキかも知れない。
オブジェならば、過去の人々がなにかを託したメッセージが残されている可能性はゼロではない。そう言うオブジェ関連に明るい巫女を探すのが、彼の目的であった。
「前に大霊堂を調べた人たちが作った地図は、また利用できますね」
そう言いながらも地道な作業に思わずため息をこぼすのはカイ(ka3770)、場所が場所だけにそう大きな変更はないだろうから、たしかに活用はできるだろう。前回探していたものと今回探すものはまた少し違うが、おおまかな場所が分かればそれだけでも随分と違うはずだ。
「そうそう、神霊樹のライブラリにも情報を確認したいよね」
なるほど、ある程度の情報が残っているかも知れない。
他にも、巫女たちに口伝を聞くもの。
チューダ探しに明け暮れるもの。
書庫探しを徹底するもの。
それぞれ進むべき道はだいたいきまったようだ。
その中でティリル(ka5672)は、大巫女のいる場所から比較的動かないようにして、皆の集めてきた情報を纏めて記録や記憶の精度を高めようと考えているようだった。確かにこういう場所では、そう言う人間が一人いるだけで随分雰囲気が異なってくる。
「よし、頑張ろう!」
皆が声を合わせて、拳を突き上げた。
●
書庫には相変わらず木簡・竹簡の類をはじめとする資料がうずたかく積まれていた。
いにしえからの知識を集積した大霊堂の書庫は、以前ハンターたちが調べた際についでにと軽く仕分けをしてくれていたこともあって、幻獣に関する資料は比較的容易に発見することができた。
セリス・アルマーズ(ka1079)は、さっそく書簡を虱潰しに当たっていく。
「幻獣の森……幻獣の森……」
「ツキウサギと幻獣の森、だよね」
「そうそう」
アリア ウィンスレッド(ka4531)はきょろきょろと周囲を見回しながら、資料をてきぱきと時代ごとに分けていく。
「チューダちゃんの知識って当てになるような、ならないような部分も多そうだし、その辺を補足できるような資料が見つかるといいんだけどな」
幻獣の伝承が減った時期というのが、もしかすると『幻獣達が隠棲生活をはじめた時期』なのかも知れない。口伝や文献のチェックを細かにしつつ、他の大幻獣――例えば、白龍など――の情報で引っかかるものがあればそれを書きとめていく。
「……白龍ちゃんが結界を張ったときに約束とかしてないかな? なにか面白い話が見つかるといいんだけど……」
巫女の口伝を聞くと言う行動に出たハンターは多い。しかし、情報自体が漠然とした状態で、具体性を求めるのは難しいだろう。
「ツキウサギと幻獣の森……」
キーワードは、この二つ。もしかしたら、時代や種族、集落によってはその呼び名も異なっているのかも知れないが。
「あ、興味深い記述がありましたよ!」
アイ、そしてセリスが興味深そうに資料を広げている。
そこには、まさしく幻獣の森と呼ばれる存在についての情報が記載されていた。
どれどれと、他の仲間たちものぞき込む。
――幻獣の森とは、幻獣達が歪虚から身を隠す為に結界をはった場所で、本来なら普通の人間には可視化できないようにされている――
――もしその森が姿を現すことがあれば、それは何らかの事情で結界に綻びが生じているものだと思われる――
――そして幻獣の森の守護者とも言うべき存在は大幻獣ツキウサギであり、彼らが助けを求めるときは幻獣の森が危機に瀕したときと言えるだろう――
「……ふむ」
一番はじめに声を上げたのはイーリアスだった。先ほどまではさっと目を通すくらいですませていたはずだが、この資料を見て流石に素通りはできなかったらしい。
幻獣の森は結界で守られていた、幻獣たちの聖域――なのだとすれば、それが周知のものとなっている現在、その存在はかなり危うい者になっているのではないのだろうか。
「これを見る限り、かなり由々しき事態と思われる、な」
ツキウサギの護ろうとしているのが幻獣の森そのものならば、確かに事態は予想以上に厳しい。レイスもううむと唸って、必要そうな書簡の記事を手持ちのメモにまとめていく。
今回の件で把握できたことは、いずれユニオンなどを経由して、あるいは直接、ファリフたちに渡さねばならないだろう。この事実はおそらく辺境のみならず、このクリムゾンウェストという世界の均衡をも揺るがしかねないのだ。
●
一方、巫女たちに口伝かなにかは残っていないかと聞き込みに回るものも少なからずいた。
チーズで謎の仕掛けを作っておいた――本人曰くお遊びらしいが――グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)をはじめとする多くのハンターたちが、大霊堂のあちこちにいる巫女に声をかけていく。
「聞くのはツキウサギだけじゃなくて、幻獣が出てきたり、不思議な出来事の起こる話――そんなものもチェックした方がいいだろうな」
ツキウサギの正体がわからない現状、今は時間の許す限り関連性のありそうな話題を蒐集していくしかない。
とくにその中でも目についたのは、かわいらしい月うさぎのぬいぐるみを持った時音 ざくろ(ka1250)。
「冒険家としては文献調査は基本だもん!」
そう言いながら、ファンシーなぬいぐるみを巫女に掲げてみせるざくろである。
「月うさぎって言うからにはこんな外見じゃないかなって思うんだけど、なにか言い伝えとかは残ってないかな? ……はっ、ざくろは別にぬいぐるみが好きなわけじゃないよ!」
顔を赤らめながらそう言っても、正直説得力がうすい。
「あとね、」
付け加えるように、懐かしむように、ざくろは言う。
「リアルブルーの故郷では月で兎が餅をついているって伝承があったから……もしかしたらツキウサギも、東方由来の伝承じゃないかな、って思うんだけど」
「ああ、そういえばリアルブルーには確かにその手の有名な話があるな。ただ、目撃証言だと月との共通点はあまりなさそうだな」
しかしその発想は残念ながら外れのようだ、と同じくリアルブルー出身のレイオス・アクアウォーカー(ka1990)がいう。アイデア自体は悪いものではないが、リアルブルーとまったく同じような伝承になっているかはそれこそツキウサギのみぞ知る、だ。
「どちらかというと搗きウサギ、のような気もするしな」
確かに、目撃証言を思い返すと杵らしきものを持っていたという。あるいはダブルミーニングなのかも知れない。
「と言うわけで、なにかそう言う関連性のありそうな口伝でも残っていないか?」
レイオスが尋ねると、
「そうですね……ツキウサギはあまり伝承に残っていないのですけれど……そう言えばこんな話を聞いたことがあります」
巫女の一人がそう言って、物語を紡ぎはじめた。
それは、かつて薬草を採りに行って迷子になった巫女が長靴を履いて杵を持った幻獣に助けてもらったという、まるきりおとぎ話のようのものだった。
「その幻獣は、確かにうさぎを模した姿をしていたそうです。ですので、もしかしたら皆さんの探していらっしゃるツキウサギなのかも知れません」
かなり昔から伝わる伝承らしく、細部は違えどこれと同様の話は多くの巫女から聞くことができた。
そしてその中の一人の話にはこんな台詞があったのだという。
『あなたはどうしてここにいるの?』
『この近くの森には、自分なんかよりもすごい大幻獣さまがいて、それを護る為だ』
「……自分よりもすごい大幻獣、ですか?」
チューダ探しもしつつ資料を集めるというすご技をやってのけているアクセル・ランパード(ka0448)は、二三度瞬きを繰り返す。
もし本当にそんな存在がいるのだとしたら、書簡にあった森の守護者、と言うのも納得がいく。
つまり、森の奥にいる大幻獣を護る為にいるのがツキウサギなのだ、と――そう言うことなのであろう。
なるほど、それなら道理も通る。
「もう少し、調べてみる価値があるかも知れませんね」
大霊堂を探索している合間にも、情報の交換はできる。グリムバルドもこれは聞き逃せないと思ったのだろう、メモにしっかりと線を引いておいた。
「巫女さんも、いろいろ教えてくださってありがとうございます。喉が渇いたでしょう、こんなものを用意していますので、どうぞ」
エステル・クレティエ(ka3783)が、そっとレモンと蜂蜜の入った紅茶を差し出した。月や星の伝承にも期待を持っていたが、ツキウサギに関係しそうなものはあまりないようだった。しかし口伝をいくつかのパターンにまとめてメモを取っていく。パターン数が少なければ少ないほど、真実味を帯びている可能性が高いからだ。
あとは――チューダが、なにか知っているのかも知れない。
●
大霊堂という場所は、巫女の住まいと言うこともあってさまざまなモチーフがそこかしこにちりばめられている。
それは各部族の伝承だったり、巫女にのみ伝わるものだったりと様々だが、その中でツキウサギらしきものが見受けられるモチーフはそれほどなかった。
しかし、ふっと上を見たカイが、不思議なレリーフを見つけた。
「あれ、月……だよね」
天井のごく高いところ。間違いなく月をモチーフにしたと思われる飾りが彫られている。口伝を暗誦しながらぼんやり天井を眺めていたエクセルも、同じレリーフを見つけたようだ。
しかし驚くべきはそこではなかった。
その月らしきモチーフのなかには、まるで蛇を絡ませた亀のような姿が見られたのだ。少なくともその姿は、どう考えてもうさぎの類には見えない。
リアルブルーの極東と呼ばれる地域の出身者ならそれをみて思い浮かぶものがあっただろう。――玄武と呼ばれる神獣の存在を想起させたであろう。
しかし残念ながらカイはクリムゾンウェストの出身で、そのような知識は持ち合わせていない。ただ、月の中に不思議な生き物のレリーフがある、そう感じた。
(もしかして、あれも幻獣なのかな)
近くにいたウルにも声をかけてみると、
「……なるほど、これは面白い。月の中にうさぎでなく、別の幻獣か……」
そう言って黙り込んでしまった。なにやら考えているらしい。やがて近くにいた巫女に声をかけてみる。
「巫女殿、すまないがあのレリーフはどういう意味があるか知っているか?」
「あの、天井のですか? あれは巫女たちから『護り手』と呼ばれています。おそらくですが、世界のどこかに、あのような幻獣がいるのではないでしょうか? 私も残念ながらそれ以上は分からないのですけれど」
「――。いや、参考になった。ありがとう」
ウルの頭の中で、パズルのピースが一つ、カチリと音を立ててはまった。
(つまりツキウサギは、その『護り手』とやらを護っているではないのだろうか……?)
●
神霊樹のライブラリは、幻獣についての情報自体はそれほど多く持ち合わせていないようだった。
それでもレイス、そしてカイは、ないよりはましと言わんばかりに情報を求めていく。
「ツキウサギ、幻獣の森、それから――大幻獣。なにか引っかかるものはないだろうか」
「あと、ツキウサギがリアルブルーの伝承に近い存在なら、月見や団子、なんて単語も調べる価値はあるかも知れない」
先ほど書庫で集めてきた情報などを頼りに、更に細かい情報を求めようとする。
ツキウサギらしき幻獣の目撃例は決して多くなかったが、歪虚に狙われているところを助けてもらったというような例はいくつかヒットした。
そして、幻獣の森は――
「……こちらは手がかりなしのようだな。どうやら本当に、かなり長い間姿を隠していたようだ」
おそらくそれも、幻獣の森に潜むという大幻獣の力だろう。
では、一体何故。
何故今このとき、その幻獣の森は、情報が飛び出したのか。
そこを考える必要は、十二分にありそうだった。
●
ところで、ハンターの一部はチューダに会いたいという目的も兼ねての大霊堂探索だったのだが。
その半分以上が食べものを持ってきているあたり、チューダという存在の食い意地を理解しているというか、なんというか。
当の本人(?)はかくれんぼと称して出てこないが、それを探すのも一興という感じである。
(でも……かくれんぼって言うのはもしかしたらひとりになりたいときの口実かしら? 考え事をしているのかも)
リアリュール(ka2003)はそう考える。人づてに聞く限りでもチューダは出しゃばりの食い意地張りなのは理解ができるので、こんなタイミングで『かくれんぼ』をしているというのは逆に不思議に思えたのだ。
「普段チューダさんはどこで見かけるかとか、わかりますか?」
尋ねてみるも、巫女たちですらチューダの存在を知ったのが比較的最近というものも多い。チューダはもともとキューソという幻獣だ、大霊堂でひっそりと暮らしていたらあまり分からないのかも知れない。
「たまにはこんな仕事も悪くないな」
バルバロス(ka2119)は呵々と笑いながらチューダを探す。研ぎ澄まされた聴覚で、チューダを見つけることができないか、それを試しているのだ。根っからの戦士であるバルバロスにとって、こういうタイプの依頼は決して多いわけではない。だからこそ、興味がわいたとも言えるのだが。
ケイルカ(ka4121)はお気に入りの猫耳帽子を外し、
(チューダちゃんは猫は嫌いかも知れないから……)
……まあ、どんなにでかくても見た目はハムスターだし。
「もーいーかーーい!」
思わずそんなかけ声をだす。反応はない。似たようなことは夜桜 奏音(ka5754)も地図を確認しつつ行なっているが、こちらも芳しい反応はないようで、すれ違うたびに互いにため息。
しかし、確かにここにいるのは事実なので、
「チューダちゃんと一緒にお菓子も食べたいのに~」
ケイルカは心底残念そうに呟いてみせる。ついでにマシュマロをそっと頬張りながら。
――と。
かさかさ、と気配がする。
多くのハンターが「チューダはお菓子で釣れそう」と認識しているのか、菓子持参のハンターが多かったのだが、それが功を奏したのだろうか。
「あっ」
声を思わず上げたのは峰森 ヒイロ(ka5674)。はじめこそハムスターが喋るという事実に半信半疑だったが、ちらりと見えた赤いマントは人間サイズではあり得ない可愛らしさ。
そういえば、とポケットに入れていたクッキーを引っ張り出し、
「チューダ、いるか? せっかくクッキー持ってきたんだけど、みつからねぇんなら残念だけど代わりに俺が食うしかないよな……」
なんてさらりと言い放ってみせる。と、それに反対するかのように高い声がちょっとむすくれた口調で反論する。
「そ、そんなものにつられる我輩ではないのであります!」
「「「あ」」」
「あ」
そんなこんなで、チューダ――発見。
●
チューダはハンターたちが用意してくれたお菓子を次から次へと消費しながら、そのハンターたちの熱い視線に囲まれていた。
なかにはふくふくとしたチューダのお腹を触るハンターもいる。奏音やケイルカもそんな【チューダさわり隊】メンバーだ。
葛音 水月(ka1895)も、さわりこそしないもののチューダと対話する方に興味があるらしく、
「とりあえず幻獣王と呼ばれるチューダさんなら、僕たちの知らない情報をもっと知ってると思うんですよねー」
そんな具合に、うまいことチューダをヨイショ。チューダも悪い気はしないらしく、
「もちろんであります!」
そう言ってひげをそよがせた。ついでにむっちりしたお腹もたぷんと動く。
「ツキウサギは幻獣の森を護っているのであります。幻獣の森にはたくさんの幻獣がいて、結果としてツキウサギは彼らを危険にさらさないようにしているのであります」
ソフィ・アナセン(ka0556)の準備した紅茶を飲みながら、チューダはぺらぺらと喋る。
「ツキウサギのことを以前聞いたときはチューダさんの冗談かと思っていたのですが……本当にいたのですね!」
鷹藤 紅々乃(ka4862)が嬉しそうに頷いた。そのときはチューダは、『百年ほど前から見かけない』と言っていたような気がするが……では何故今現れたのだろう。
「それに加えて、その幻獣の森は今まで見つからなかった。それが今見つかった……それはなにか心当たりがありませんか?」
ソフィの言葉に、チューダはぎくりとする。耳がしょぼんとしているのは、なにか後ろめたいことでもあるのだろうか。
「それなのです……実は、我輩、とんでもない失敗をしていたであります」
「とんでもない?」
「我輩、ある大幻獣と約束をしていたのであります」
「……もしかして白龍ちゃんが結界を這ったときに約束した、とか?」
アリアが尋ねると、チューダは弱々しく頷いた。
「そうなのです。ちょっと言い難いのでありますが……我輩、約束をしていたであります。もし白龍が消えてしまうようなことがあれば、真っ先に幻獣の森に伝えると」
「「「――は?」」」
この発言に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまうのは仕方が無い。
何しろ白龍は先だっての聖地奪還の際に既に消滅してしまっている――もう半年近く前の話だからだ。
この時点で約束に従って白龍消滅の一報を行っていれば、まだ結界を守る事ができたのかもしれない。
しかし、チューダはその事を綺麗さっぱり忘却の彼方へ送り込んでいたようだ。
「それを忘れていた、とか?」
「――夢をみたであります。ナーランギと我輩が、約束したときの夢であります」
「……ナーランギ?」
チューダから聞き慣れない言葉が出たので、思わず問うのはミオレスカだ。
「ナーランギは幻獣の森に住む大幻獣であります。あの森が今まで人目に触れることがなかったのも、ナーランギの力であります。気むずかしい性格ですが、悪い奴ではないのであります」
そう言って、天井のレリーフを指さした。月の中に、亀に絡みついた蛇の描かれたレリーフ。あれがおそらくナーランギなのだろう。
「白龍が消えてしまったことで、マテリアルの減少が発生しているであります。結界はただでさえマテリアルの消耗が激しいので、白龍にもしものことがあったらというのは、約束していたのであります……」
しかしこの自称幻獣王は夢を見て思い出すまで、それをすぱーんと忘れていた。
涙をためているチューダ。幻獣の森が発見されて危機に瀕している原因がチューダにあると分かったのだ。流石に責任を感じているのだろう。
「いや、まだ遅くないでしょう」
そう言ったのはザレムだった。
「今このクリムゾンウェストは一つにまとまりつつあります。西方諸国も、東方も、一つになろうとしています。国やハンターに協力を仰ぐことは、十分に可能です」
たくさんの手を借りるのは難しいかも知れないけれど。
手を伸ばしてくれる人は絶対にいる。ここに集まったハンターたちも、もちろんと頷いてくれる。
「それに知性ある存在が何かと戦うには相応の理由がある筈。そう言うことなら、きっと力を貸してくれる人も多い」
レイスも言う。
「幻獣王さまの配下……というわけではなさそうですけれど、その大幻獣も、ツキウサギも、幻獣王さまにはきっととても大切な存在なのですよね。どうか手伝わせてください」
ミオレスカもにっこり笑って、そっとケーキを差し出した。
「ありがとうなのです……我輩、感激なのであります」
ハンターは、間違いなく幻獣たちに手をさしのべてくれるだろう。
こうやって話をしてくれるのも、力を貸せるだけの意味があると認識しているからに違いない。チューダはそう思って、差し出された菓子をめいいっぱい口に放り込んだ。
「しょんぼりするのはやめであります! いまできるのは、ナーランギに現状を伝えること、そしてナーランギの意見を聞くことであります! もしそのときは、……我輩や巫女たちの名代として、よろしく頼むであります」
チューダも大幻獣、どうやらそうそう簡単に大霊堂を動くのは難しいらしい。加えて後ろめたいのだろうが。
しかしそんなことはどうでもいい。
大幻獣ナーランギ――一体どんな存在なのだろう。
そして、ナーランギはこの現状を、どう受け止めているのだろう。
ハンターたちにはまだまだ課題が多いが、道はきまった。
●
――幻獣の森。
静かなその奥に、ひっそりとその大幻獣は座していた。
「マテリアルが、減少している……ここで滅ぶのも、定めなのかも知れぬ……」
密やかなつぶやきが、森の奥で発せられていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/19 20:44:14 |
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各種打ち合せ卓 レイス(ka1541) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/10/19 12:47:51 |