• 深棲

【深棲】森の中のブリギッド街道

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/07/29 22:00
完成日
2014/08/06 11:43

みんなの思い出

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オープニング

 グラズヘイム王国・王都イルダーナには、ヘルメス情報局という名の新聞社がある。
 王国内の各都市に支局を持ち、その販売網と情報網はほぼ王国の全土に及ぶ。その規模は『人里離れた村落に住んでいても、一週間から一ヶ月程度の間に王都の最新の情報が入手できる』と言われるほど。『王国に住む者でヘルメス情報局の名を知らぬ者なし』と謳われる所以である。
 日刊紙ではあるが、そちらの方の売り上げは都市部の一部に限られている。なぜなら、扱っている情報が、『とある文豪の論説』とか、『とある貴族の談話』とか、たまに『なんかえらいひとのえんぜつ』とか、連載小説とかポエムとか…… ぶっちゃけ、大多数の一般人にはどうでもいい内容が殆どだからだ。円卓会議(王国の最高意思決定機関)が決定した王国の政治・外交方針等が紙面にでかでかと載ることもあるが、臣民である王国の民にとっては、所詮、雲の上の話でしかない。王都の人々にとってはむしろ、『○○家の御曹司と××家の夫人が密会していた』とか、上流社会の醜聞とか噂話の方が『娯楽』としての関心は遥かに高かったりする。
 にもかかわらず、ヘルメス情報局の名が王国の民の多くに認知されている理由は、不定期に発行される号外新聞の存在があるからだ。王国で祭事や重大事件が発生する度、発行される特集記事── ヘルメス情報局の号外新聞は庶民にとって、正確な情報を自分たちに伝えてくれる媒体であると同時に、数少ない娯楽を提供してくれるものでもある。

 同盟領、リゼリオ沖に大量の歪虚が発生。陸に向け押し寄せているらしい──
 幾つかのルートによって王国にもたらされたその最新の情報も、ヘルメス情報局・イルダーナ本局はその日の内に入手していた。
 どうやら事実であるらしい、との確証を得る。伝手によれば既に大司教が王女に謁見し、同盟への支援を決定する円卓会議が開かれるらしい。
「こいつは大きな事件になるぞ」
 突然、舞い込んで来た重大なニュースに騒然とする編集部。だが、王国内に多数の支局を構えるヘルメス情報局も、外国にはただの一つの支局も開局してはいなかった。これまで、王国の民にとって殆ど需要がなかったからだ。
 だが、リアルブルーの船がこの世界に現れて以降、世界は確実に『狭く』なった。今回の件にしても、他国の出来事と無視できるニュースではない。かのサルヴァトーレ・ロッソが漂着したリゼリオとなれば尚更だ。
「自分が行きます! リゼリオに…… 現場に行かせてください!」
 主筆のデスクの周りに集まった記者たちの中で、まだ若い記者の一人がそう言って挙手をした。漂着事件以降、王国ユニオン『アム・シェリタ』――揺籃館があるリゼリオには、ヘルメス情報局からも記者が派遣されてはいたが、今回の規模の事件となればとてもじゃないが手は足るまい。
「よし、行け!」
「はいっ!」
 満面に喜色を隠しもせず、飛び出していく若き記者。その身の軽さから、記者たちを『韋駄天』呼ばわりする者たちがいることを思い出しながら…… 主筆は、ベテラン記者の何人かにフォローしてやるよう指示を出した。


 商人たちの情報網は、国家や報道の情報よりも早く到達する場合がある── リゼリオへ便乗できる船を捜して王都南方の港街へ早馬を飛ばしてやって来た若い記者が目にしたのは、『リゼリオ沖の怪』の第一報に接して、とりあえず出発を取りやめた商船の群れだった。
 困惑し、陸に上がった商人や船主たちの間を回って互いに情報を交換する。この時点においては、いずれの船主たちもまだ正確な情報は入手していなかった。ただ、リゼリオ沖の航路上で、何隻かの商船や軍船が歪虚の襲撃を受けたことは事実であるようだった。
「なんとかボルトワール(同盟の港湾都市)までだけでも行く船はありませんか?」
 若い記者は食い下がったが、この時点で同盟沖に繰り出そうと言う勇敢な(或いは無謀な)船主はいなかった。今後、詳細な続報が入るなりすれば出発する船もあるのだろうが、この時点ではまだ無茶以外のなにものでもない。
(まいったな……)
 人気のなくなった港町に一人佇みながら、若い記者は途方に暮れた。王国と同盟との交易は海上交易が主であり、海路が取れないとなるとどれだけ大回りになることか……
 そんな若手記者の肩を、厳つく力強い手がポンと掴んだ。驚いて振り返るとそれは、ヘルメス通信社のベテラン記者だった。
「やはりここにいたか、若造」
 ニヤリと笑うベテラン記者に、若手記者はしょげつつ状況を説明した。船便が無いと聞いても、ベテラン記者は慌てなかった。ガッと若手の肩に腕を回し、悪戯な表情でポツリと呟く。
「なに、海路がダメなら陸路があるさ」
 その言葉に若手はその顔面を蒼白にした。王国と同盟を結ぶブリギッド街道──それは王都東部から南東部にかけて広がる広大な森を横断する唯一の陸路だった。一応、街道ではあるのだが、森に入った瞬間、その道幅は途端に狭くなる。街道ではあるのだが、森の中を通る間は道は悪く、昼間でも薄暗い。街道ではあるが、広大な森の中には中継地となる村や集落は一切ない。そも、街道の両脇に鬱蒼と茂る森は、一度迷い込んだら二度と出られぬなどとまことしやかに噂されている。
「そっ、そんな所を通る商人なんているわけないでしょう!? だからこそ同盟とは海上交易が主であるわけですし……!」
「いや、ある。王都からリゼリオへと向かう荷馬車が2台。既に手配も済んでいる」
 一段、声を低めた先輩の顔を見て、新人もまた怯えた表情を消した。
「表向きは一般の商人の荷馬車ということになっている。……が、実際には王国の方で裏から手を回して用意した馬車だ。本格的に物資を搬送する前に、陸路の確認をしておこうというのだろう。勿論、現時点においては、王国として同盟への支援は(内定しているとはいえ)正式に決定されたわけではないから、王国として表立って行動するわけにはいかない。荷馬車の護衛も、騎士や兵士ではなく、ハンターが雇われる」
 つまり、『支援の準備』すら決定していない段階で、『準備』の為の『前準備』を行っておこうというのだ。政治的なリスクを背負っても、危機管理の為にやれることはやっておく── そういう政治家が王国にはいるらしい。
「ま、みんな俺の想像に過ぎないんだがな」
「えっ!?」
「いや、案外今頃正式に決定されてるかも」
「ええっ!?」
 最後の最後で混ぜっ返し、驚く若手の顔を見て熟練記者がニカリと笑う。
「だが、この時期にリゼリオに向かう馬車が都合よく見つかったのは事実だ。俺たちがその馬車に乗ることが認められたことも含めてな」
 先輩記者はそこで話題を切り上げると、すぐに早馬の背に跨った。
「おら、ぐずぐずしている暇はないぞ? 事件は待っちゃくれないんだからな!」

リプレイ本文

「はじめまして、ハンターの星乙女和です。リゼリオまでの旅路、よろしくお願いしますね」
「うわぁん、はじめての依頼……どきどき緊張するよ~! でも重要そうなお仕事だし、頑張るよっ」
 新人記者が1号車の御者の隣りに乗り込むと、星乙女 和(ka2037)とシアーシャ(ka2507)の2人が荷台からそう挨拶した。
「まぁ、ブン屋さんなのですね。この世界についてまだ右も左も分かりませんし…… 道中、おもしろいお話とかお聞かせくださいね」
「こちらこそ、是非! リアルブルーの話題は最近、読者の人気が高いのですよ」
 急ぎ挨拶を返し、談笑する2人をよそに。記者という身分を聞いたシアーシャが慌ててその身を荷台の陰へと引っ込め、夢想する。──新聞社さんの記者がなぜこんなところに……? ハッ!? もしかしてあたしのデビュー戦の特集の為に!?(←違)
「やだぁ、もっとおめかししてくればよかったよー!」
 妄想を爆発させ、慌てて手櫛で髪を梳き始めるシアーシャ。そうこうしている間に馬車は出発するが、森へ入るまでは特に何も起こらない。
 途中、幾つかの宿場町へ立ち寄り、早朝、森の中へと入る。日が昇りてなお暗い森──その鬱蒼とした威圧感に、記者がゴクリと唾を呑む。
「危険に自ら飛び込まれるとは…… 蛮勇と斬り捨てるには些か誇り高いか。ならば俺は大いなる蒼の従僕が名に賭け、貴君らを無事にリゼリオまで送り届けてみせよう」
 色彩豊かな洒落たローブを身に纏った伊達男、リュグナート・ヴェクサシオン(ka1449)が、荷台の上から記者を見下ろしながら自信ありげに笑ってみせる。一見すると軽薄そうな立ち振る舞いであるのだが、その所作や佇まいには堂々とした風格の様なものを感じさせる。聞けば、リュグナートはハンターになる以前は『蒼の奏者』なる神獣を祀る海洋民族の神子であったとか……
「大丈夫だって。あたいなんか、こないだポルトワールへ行ったばかりで、この辺通るの2度目だし!」
 記者の背中をばんばんと叩いて励ますエルフのリケ・アルカトゥラ(ka1593)。礼を言う記者の視線はリケの頭に生えた(?)立派なキノコ(パルム?)に釘付けになってたり。

 森に入りて、数時間──
 リゼリオの名物料理について記者と談笑していた和のお腹が、ぐー、と一際大きく鳴った。硬直し、顔を真っ赤に染める和。「くっ、熊さんもお腹が減ったのですねっ」と無茶な言い訳を言い出してみる。
 だが、その指の先、森の木の幹の陰に、直立し、じっとこちらを窺う全長2~3mの熊(?)がホントにいた。一瞬の硬直の後、慌てて得物を構えるハンターたち。シアーシャ(唇真っ赤なお子様メイク済み)もまた、小型拳銃を手に荷台の端へ寄る。
 幸いなことに、その熊(?)はこちらに近づいても来なかった。恐らく、白い貝殻の小さな何かを誰も落とさなかったからに違いない()
 一応、その姿が見えなくなるまで警戒を続け…… 襲撃がないことを確認して脱力する。シアーシャもまたホッと息を吐いた。道程は長い。覚醒するにも時間や回数の制限がある。無駄な戦闘は避けるべきだ。
「こういう森に入るのは心躍るし、非常に心地が良いんだけど……」
 2号車の荷台で弓の弦を緩めながら、エルフのリュトリア(ka0224)は改めて森を見渡した。人の手の入った里山レベルの山林とはまるで違う、ただひたすらに立ちいる者を拒むような深くて暗い原初の森── エルフにとってはむしろ心休まる情景なのだが、護衛という仕事の関係上、そうも言っていられない。
「あれは『手甲熊』だな。なに、ああ見えてそう凶暴というわけでもない。むしろ、この辺りなら『鉤爪猿』の方が厄介だな。その名の通り大きな鉤爪を持つ子供程の大きさの猿で、雑食だが肉よりも木の実などの雑穀を好む。基本的に臆病なものの、群れになれば集団で馬車の荷を襲うこともある」
 森の生物の生態と習性についてそらんじるベテラン記者に、リュトリアは「詳しいんだね」と感心してみせた。仕事柄ね、とウィンクを返すベテラン。荷台の最後尾に腰掛け、後方の警戒に当たっていた藤堂研司(ka0569)は、その会話を小耳に挟んで「ふぅん……?」と一人、声を洩らす。
「……つまり、数が集まると調子に乗り出す輩でありやがるのですね?」
 戦槌を肩に掛けて荷台に座り込みながら、女ドワーフのシレークス(ka0752)が、陽光遮る木々の枝を見上げてそう訊ねた。瞬間、馬車がガタリと揺れて、隣の木箱を慌てて押さえる。それはシレークスが持ち込んだリアルブルーの酒だった。たしか、うぉっか、とか、なんとか……
「これが終われば祝杯なのです。向こうに着いたら酒盛りに付き合いやがれーなのですよ?」
 異世界の酒と聞いて「ほぅ!」と興味を示すベテラン。研司は己の思考を続け…… やがて、よっ、と立ち上がり、記者の所まで歩み寄る。
「すみません、今後の為にも、これを機会に森の情報を地図に記録しておきたいのですが、私たちも護衛の任務と同時にはなかなか…… できれば、情報を扱うプロであるあなたに記録をお願いしたいのです。脅威となる動物の出現位置とか、区間ごとにかかる時間とか……」
 研司のその要請にベテラン記者は微かに驚きを表情に出したものの…… すぐにそれを消して、頷いた。
「わかった。確かにそれは俺らの仕事だ」
 研司は礼を言いながら、内心で「やはり」と思った。とりあえず、飯さえ食えればなんとかなる──逆に言えば、飯がなければどうにもならない。それは個人でも集団でも変わらない。
(長期戦なら兵站は必須って、確か軍でも習ったな……)
 つまり、これは王国による陸路の事前調査であり、記者たちはその記録係としてリゼリオ行きの席を確保した……? いや、全て想像で、確証は何もないのだが……
「……道中の様子は出来るだけ記録しておくのが良さそうですね。私の方でも警戒ついでに観察、記録しておきます」
「うおっ!?」
 それまで一言も口を利かず、馬車の端にちょこんと座っていたサクラ・エルフリード(ka2598)が、誰にともなく頷いた。その頭の上には『猫耳』がひょこひょこ揺れている。
「(まさかとは思うがクリムゾンウェストの人だし……)その猫耳は、もしかして、自前……?」
「はい、いいえ。これは自前のアクセサリーです……」
 そう言ってカパッと猫耳カチューシャを外すサクラ。そして、返事を待たずに再びそれを(真顔のまま)頭に嵌め直した。

● 
「そろそろ、件の『鉤爪猿』たちが多く見られる辺りだな」
 夜営翌日── 事前に記憶していた幾つかの情報を元にそう判断したリュグナートが皆に注意を促す。
 2号車のリュトリアもまた同様に警戒レベルを引き上げた。荷台で身体を休めたまま、周囲に警戒の視線を飛ばすシレークス。1号車のシアーシャもまたキョロキョロと左右や頭上を見回し、葉っぱの音が鳴る度にビクリと身を震わせる……
「……いた」
 研司は荷台に片膝立ちになると、馬車の右斜め後方へ弓を構えた。木々の枝から枝へと飛び移る、鉤爪の大きい猿たちを確認。威嚇の為の矢を放つ。
「4時の方角、距離30mに猿、数は4。弓で威嚇射撃を実施。その後の動きは……」
 うまく追い払えたか? 矢による攻撃を受けた猿たちは一旦、ばらけて離れたものの…… 再び距離を取ってこちらを追いかけ始めた。キーキーと森に響く猿の鳴き声。御者が馬に手綱を叩き、馬車の速度を上げる。
 時間の経過と共に、猿たちはその数を8まで増やした。それぞれ4匹ずつに分かれ、道の左右からこちらに迫る。
「我等が主の御使いよ。蒼の奏者たる我に狩り人の祝福を!」
 リュグナートは覚醒すると、近づいて来る猿に向けて威嚇の光弾を撃ち放った。そして、仲間に声をかけて互いの遠距離攻撃の回数を確認し合う。スキルの数には限りがある。無駄撃ちするわけにはいかない。
「来たぁ!」
 叫ぶシアーシャの視線の先、地を駆ける猿たちが度重なる威嚇にも関わらず両翼より馬車へと迫り。瞬間、和は引き絞っていた弓の弦を解放し、遂に必中を期した矢を放つ。
「弓はエルフの嗜み、得手不得手はあれども使えないやつはいないものさ!」
 リュトリアもまたそう叫ぶと、矢を弦から放ち、攻撃の為の矢を放った。だが、猿たちは和とリュトリアの矢を命中する直前で跳びかわした。思った以上にすばしっこい。
「……現れましたね。馬車の護衛と皆の回復は任せてください。一応は専門ですし」
「働いた後の酒は格別なのです。さーさー、お仕事頑張りやがりますよー!」
 盾を手に冷静に立ち上がるサクラ。その横でシレークスが戦槌を手に荷台の上に飛び上がり、首からかけた聖印共々、豊かな胸をぽよんと弾ませる。
 右と左、視界の両端で、馬車が揺れる度にたゆたゆ揺れるリュトリアとシレークスのたわわな果実。ベテラン記者はただ手元のメモに『眼福』とだけ書き記す。
「来ぉい! すばしっこさならこちらも同じだ! 悪さするサル共にはきつい仕置きを与えてやらんとな!」
 一方の1号車。接近戦仕様のリケがジャマダハルを手に待ち構えながら、精霊に祈りを捧げて己の戦闘意欲と身体能力とを『揚げて』いく。
 その横でシアーシャもまた小型の回転式拳銃を構えると、射程に入った敵に向かって(目を瞑ったまま)引き金を引いた。弾丸は大きく逸れたが、聞き慣れぬ火薬の炸裂音は猿たちを驚かせた。
「あれ? 逃げてくれた?」
 つまんなそうにブーたれるリケの横で、シアーシャがきょとんと目を瞬かせ…… だが、直後、直上に気配を感じて顔を上げる。複数の猿たちが、木の枝の上から一斉に馬車目掛けて降り下りてきたのだ。馬車上は瞬く間に乱戦の舞台と化した。
「……やれやれ、どうせ爪痕を残されるなら、麗しき美女のものだと嬉しいのだがな」
 舞い下りてきた猿の1に鉤爪で背を斬りつけられて。リュグナートは舌を打ちつつ、その口の端に笑みを浮かべる。
「荒事は俺たちに任せてくれ。……奴等の悲鳴も幾許か我が主神の無聊となろう!」
 そのまま御者と記者とを背後に庇い、打撃武器による戦闘技術を精霊からその身に下ろすリュグナート。手にしたロッドを軽妙に振るい、こちらへ近づく猿を相手に近接戦闘を仕掛けていく。
 シアーシャは悲鳴を上げながら銃をバンバン撃ち捲くっていたが、やがて弾が切れるとその顔面を蒼白にした。迫る猿たち。目をぐるぐる回しながらシアーシャは大剣を引っ掴み、逆にこちらから敵へと突っ込み、その得物をぶん回す。
 リケはと言えば、周り中を猿たちに囲まれながら、むしろ本領だ、といった風情で活き活きと暴れ出していた。互いに己の得物を振るい、獣特有の俊敏な動きで互いに見切り、かわし合う。横殴りに振るわれた鉤爪の一撃を『髪』一重で膝を落として下げかわし。直後、眼前に現れた『きのこ』に気を取られた猿を膝蹴りでもって蹴り落とす。
 弓を手にした和に対し、物陰から荷台の床を蹴って飛び掛る。ハッと息を呑み、振り返る和の腰に組み付いた猿は、その鉤爪を防御の弱い箇所──ミニスカとニーソックスの絶対領域へ振り下ろし。直後、その一撃を和がかざした盾によって阻まれる。
「あらあら~? ダメですよ、お猿さん。ハンターへのおさわりは厳禁ですから」
 防御の弱い部分を狙うという敵の習性を聞いた和は、なんとわざと弱い部分を残し、敵の攻撃を誘導していたのだ。際どくプリーツスカートを翻しながら、盾で猿を跳ね上げる和。そのまま近接戦用の小型拳銃で、おイタをした猿を狙い撃つ……
 一方、2号車もまた、上方からの奇襲によって乱戦、混乱の最中にあった。
「知恵と環境と物量を使ってこそのサル! という意見も聞いたけど……!」
 頭上から降ってきた猿を相手に、リュトリアがとっさに剣を抜く。反撃の剣身が空中に弧の形に軌跡を描き──直後、ファンブルしてすっぽ抜けた。ぽーん、と剣が飛んでいって森の中へと消えていき。一瞬、時が制止した馬車の上で、「一族の習性上、剣の腕に難があるのはご愛嬌?」と小首を傾げてみたりする。
「クッ、肉薄されたか……!」
 同じく、遠距離射撃を得手とする研司もまた、猿に集られ、弓を捨てた。小型拳銃を取り出し、爪を立てる猿を振り払いながら足元へと牽制射撃。跳び上がったところをすかさず立て続けの銃撃でもって撃ち落とす。
 サクラはそんな弓組に回復の光を飛ばしながら、御者と記者の背後に立って防御の光をその身に纏った。飛びかかってきた猿に表情一つ変えず(猫耳付き)、横殴りにスイングし。荷台の後ろで暴れるシレークスに向かって打ち投げてみたりする。
「シレークスさん、パスです…… そしてナイス、迎撃です……」
「あー、もう! わたくしの酒を邪魔する獣は、肉塊になりやがれなのです!」
 戦槌を手に縦横無尽に暴れ回っていたシレークスは、背後──荷物の上──に回り込んだ猿に対してぶるんと戦槌を振り下ろす。それをとぼけた顔してひょいとかわす猿。槌は猿がそれまで立っていた麻袋を直撃し、中身の穀物を周囲へぶちまける。
「ああっ!? わたくしの酒のツマミが!(←違)」
 次の瞬間、周りにいた猿たちが一斉にそちらへと群がり、豆や穀物をかき集め始めた。慌ててシレークスが打ちかかるも猿たちはあっという間に散って、それ以降はもう戻って来もしない。
 その光景を見て和はハッと気づき…… 皆に向かってある作戦の指示を出す。
「そうか。猿の目的はあくまで食べ物なんだから──!」
 シアーシャもまた頷くと、リュグナートと共にその力で荷台の麻袋──穀物の入ったそれを担ぎ上げ、2台の馬車の間へ放り投げた。
 地へ落ち、その口から穀物を零す麻袋。気づいた猿たちが一斉にそちらへと殺到していく。
「今です。遠距離班、撃てーーーっ!!」
 和が号令を発し、ハンターたちはそちらへ一斉に遠距離射撃を放った。前と後ろからの十字砲火。矢玉が、光弾が、荷の周りで動きを止めた猿たちへ降り注ぎ、直撃する。
「うらーっ! 人は怖いモノと思い知れー!」
 そこへ、馬車から飛び降りたリケとシレークスが突撃をかけ、その場や周囲に残った猿たちを追い散らしにかかる。その勢いと損害に恐れをなしたのか、猿たちは一匹残らず逃げ去った。


 空が開け、空気が変わる── 森を抜け、同盟領に入ると、一行はホッとしたように息を吐いた。
 ただの一戦で回復は使い切っていた。もう一戦あったら、と想像してみてゾッとする。
 そこからは特に変わったこともなく、無事にリゼリオへと着いた。
 ハンターと記者たちが揺籃館へと入り──彼等が収集した情報は、ネットワークを通じて王城へと伝えられた。

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参加者一覧


  • リュトリア(ka0224
    エルフ|20才|女性|闘狩人
  • 龍盟の戦士
    藤堂研司(ka0569
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人

  • リュグナート・ヴェクサシオン(ka1449
    人間(紅)|21才|男性|聖導士
  • 笑顔を咲かせて
    リケ・アルカトゥラ(ka1593
    エルフ|13才|女性|霊闘士
  • 超弩級大和撫子
    星乙女 和(ka2037
    人間(蒼)|19才|女性|機導師
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士

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アイコン 作戦相談卓
シレークス(ka0752
ドワーフ|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/07/29 21:33:35
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/24 21:39:33