• 闇光

【闇光】暴氷

マスター:湖欄黒江

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/10/23 22:00
完成日
2015/10/28 08:45

みんなの思い出

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オープニング


 北方――
 厳寒と汚染によって400年来閉ざされたままの、歪虚の領域。
 帝国軍補給部隊の行く手には、かつてこの地に栄えたという北方王国の名残りすらなく、
 ひたすらに白く平板な雪原が続くばかりであった。
 彼方には暗く淀んだ空と、峻険な山々の影。
 歪虚の居城・夢幻城は未だ遠く、攻略部隊の友軍の、背すら見えない。

 先の浄化作戦によって切り拓かれた、僅かな非汚染地帯を縫うように、
 軸重部隊の車列は何処までも長々と続いている。
 前線における物資の消耗は底知らずだ。切り込み隊の覚醒者はいざ知らず、
 彼らを支える連合軍は、要補給物資の膨大さに悲鳴を上げつつある。

 人類連合軍の試金石となるべき今回の北伐だったが、
 緒戦を耐え忍び、遂に敵本拠へ至らんとする今このとき、最大の障害はむしろ寒さであった。


 気温零下の中で十全に兵を働かせるには、平時を遥かに上回る量の食事が必要だ。
 更には汚染の問題によって、一面の雪に囲まれながら、水すら易々とは調達できない。
 開戦直後は辺境経由で容易に行えた補給も、
 歪虚領域への進軍が本格化するにつれ、輸送距離は長大化した。

 軸重隊の兵員も当然食糧を消費するし、彼らの分も防寒具を揃えねばならない。
 馬車馬や荷馬が負う荷物の中身は、段々と馬自体の糧秣で占められる割合が増えていく。
 食事不要の魔導トラックは雪面に難渋し、
 無事走行可能なルートを発見しても、修理や整備には多くの時間が取られた。

 そして、かかった時間の分だけ兵士たちは消耗する。
 ただ立っているだけでも体力を使う土地なのだ。
 刻々と削られていく体力を補うには、食糧、水、夜まともに眠れるように馬車、天幕、寝袋、
 調理や照明に使う燃料、凍傷に塗る薬、何ひとつおろそかにできないが、
 それらを運ぶには、いずれ補給部隊に補給する部隊が必要な有様となるだろう。

 輸送路途上に小基地や貯蔵庫を設置、
 ピストン輸送で少しずつ前線を押し上げていくより、現状まともな手はないが、
 浄化作戦を経てもなお残る、広大な汚染地帯が問題だった。
 人類には進入すら困難な重度汚染地域を、歪虚は難なく移動するのだから、
 こちらは限られた場所にしか設営できない基地を、敵は自由に攻撃ができる訳だ。
 基地防衛に大部隊を配置したとて、今度はその部隊を食わせる分だけ、輸送物資の嵩が増す。
 結果、輸送路は渋滞し、渋滞でかかった時間の分だけ輸送隊は消耗し――


「だから、活路はひとつしかない。覚醒者戦力の一挙投入による電撃作戦。
 輸送の限界に達して連合軍が餓死や凍死する前に、何とか決着をつけてもらう」
 装甲板に囲われた魔導トラックの荷台の中で、銃衛隊長が言った。
「それでも補給は必要だ。行き先に転移門があるなら、あんたらだけ飛ばす手もあろうが、
 大昔に滅んじまったこの北方で、そんなもの残ってる訳がない。
 主戦力が移動でへばっちまったら元も子もない。
 だから、あんたらに必要な分の物資だけでも最優先で、こうして運んでるのさ」

 隊長の話し相手は、トラックに同乗するハンターたち。
 彼らはハンター6名、銃衛兵10名から成る特別作戦隊で、
 2台の改造トラックに分乗しつつ、北伐前線への補給隊の車列に混じっていた。
「だが見ての通り、それでも補給線は伸び伸びだ。
 敵は汚染地帯から迂回して、ここぞとばかりに横腹を突きに来る。
 いや、来た。2回。1週間前と、3日前に」
 そう言って、隊長は革手袋の指を2本、突き出した。
「何人やられたかな……2か月前の『あれ』と併せて……」
 指を順々に開いて、数を数えようとするが、
 途中で止め、平手でばん、と荷台の装甲の裏を叩いた。
「まぁ、今更そんなことは良い。
 『俺たち』は生き残ったんだから、考えるのは、どうやって奴を仕留めるかだ」

 改造トラックの装甲は、魔導アーマーから転用されたものだ。
 分厚い金属板で、砲弾の直撃にも耐えられる。
「ちゃんと計算してある。錬魔院の調査班に、奴の残していった大砲1本を分析させたんだ。
 サンプルは持ち主の歪虚から離れたせいで大分劣化してたが、
 それでも威力を推測する役には立った。おまけに、奴が使うのはばら弾だ。
 表の装甲には傾斜をつけて、弾を逸らすようにしてある。
 間違いなく耐えられる――数発までなら」


「奴の手口は、まるでこっちをからかってるみたいだ。
 他の補給隊を襲ったときも、すぐに切り上げて汚染地帯に引き返してったそうだ。
 俺が考えるに、理由はふたつ」
 また、隊長が指2本を立てた。
 その動作で、手がかじかんでいないか確かめているようだった。
「ひとつ、奴の本命はハンターだ。補給線を人質に、あんたらが出張って来るのを待ってる。
 あのとき、俺たち駐屯部隊を壊滅させながら、いつまでも基地でぐずぐずしていたようにな。
 ふたつ、あんたらと戦うのに備えて、手駒の消耗を抑えてる。
 だが聞けば、奴の手下に亡霊型の歪虚も加わったって話だそうだ。数は少ないが……」

 補給隊右方の雪原から響き渡る、きぃぃん、という甲高い金属音。
 隊長以下、車内の兵士たちがすかさず銃をかき寄せる。
 車が揺れる。2台のトラックが、右に車列を離れていくようだ。
「それで」
 身構えつつ、隊長は続ける。
「俺たちが矢面に立って、他の車を逃がさにゃならん。
 こっちにハンターが居ると分かれば、奴も他の獲物は放っておくだろう。
 あんたらを負かした後に、ゆっくり料理すりゃ良いんだからな……。
 そういうことには、ならない予定だが」


 敵が現れた。
 改造ゾンビ・エルトヌス20体が陣形を保ちながら、雪上を行進してくる。
 その周囲に4体の亡霊。風に煽られ、煌めく白い靄となってゆらゆらと揺らぐ。

 陣形の中央に、一際背の高い、白銀の鎧のデュラハン。
『3度参りだ。いい加減いるんだろォ、高級肉どもォ!?』
 両手に携えた大砲の一方を掲げ、エルトヌスの頭越しに撃つ。
 が、放たれた散弾は距離もあったせいか、
 改造トラック前面の装甲に全て弾かれ、車内の人間を傷つけることができない。
 2台のトラックは雪原に乗り入れ、敵群に鼻先を向けたところで足を止めた。
『……へェ、ちったァ知恵を出したじゃないか。偉いネー良く頑張りまちたネー』

 隊長が言う。
「車にも、俺たちにも遠慮はするな、好きに使い潰してくれ。ろくに仕事もせず帰ったら」
 兵士たちが、一斉に魔導銃の撃鉄を下ろす。
「帝国軍人として、今日まで生き伸びてきた甲斐が、まるでなかったことになる。
 それじゃ連中と同じで、歩く死人も同然だろう?」
『何やってんだよォ、さっさとかかってこいよオラァ!』
 デュラハン――グロル・リッター、"暴氷"のビュクセの耳障りな叫びと共に、車外に轟く砲声。
 呼応するかのように、ハンターと10人の兵士たちは一斉に動き出した。

リプレイ本文


 戦闘は、至って静かに始まった。
 縦に並んだトラック2台へ、降車した8名の兵士が随伴する。
 迎え撃つ構えの敵部隊。双方、未だ射程外――

 風切り音と共に飛来した2本の矢が、敵隊列右端のゾンビを射抜く。
 込められた光の魔法が体組織を破裂させ、標的は腐汁を吹いてくずおれた。
『ちッ』
 ビュクセが振り返れば、遠方、騎馬で接近中のナナセ・ウルヴァナ(ka5497)の姿。

 ナナセは馬上で背をまっすぐ伸ばしたまま、長弓に矢を2本まとめてつがえた。
 右の赤い瞳で狙い定め、引き絞る。束ねた矢羽根が指から滑り出ると、
 魔法の煌めきを放ちつつ、矢は2体目のゾンビへ飛んだ。
(被害は最小、戦果は最大。このまま切り崩せれば)
 命中を確認したナナセは、尖った犬歯を剥き、白い息を吐く。

 ビュクセが咄嗟に大筒を放つも、弾はナナセへ届く前に力を失ってしまう。
 地面に転がった散弾を、歩を進める騎馬の蹄が踏みしだく。


『そういう作戦かい――前進!』
 敵が一斉に動き始める。するとナナセの狙撃に併せ、
 斜めに進んで横腹を見せた後方1台の銃眼より、新たな矢が飛ぶ。
 車内で弓を構えていた、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)の射撃。
「向かって隊列右、ウルヴァナ殿が左へ気を惹いている内に」
「了解」
 アウレールの狙いをなぞるようにして、マッシュ・アクラシス(ka0771)も弓を射る。

「氷使い、か。"氷"を持つ身としては、ちょっと拘ってみたくなりますね」
 後方車両の運転席、フィルメリア・クリスティア(ka3380)が呟く。
「氷?」
 助手席の兵が尋ねるも、前を睨んだまま答えない。
 ハンドルを握り絞め、ペダルを柔らかく踏み、
 前方1台とペースを合わせつつ、じりじりと車を進めた。

「作戦とはいえ、些か手持無沙汰じゃのう」
 アウレールらと共に荷台へ詰めていたバリトン(ka5112)、そして、
「前回の二の舞は御免だ、辛抱するさ」
 答えるアーサー・ホーガン(ka0471)。彼と、マッシュを見やってバリトンが言う。
「先日は、孫娘が世話になったようじゃな?」
「孫」
 射撃を続けながら、マッシュはへぇ、と感嘆の声を漏らす。
「奴さんにも後でたっぷり挨拶せねばのう。え?」
 立てかけられた2振りの大剣を、バリトンが手の甲で軽く叩いた。
 1本は自身の用意、もう1本はアーサーの愛刀だ。
 大地の魔力を封じた剣――"暴氷"への切り札。


 ビュクセは大筒を交互に乱射するが、依然届かず。
 人間側は慎重に距離を開けたまま、執拗にゾンビを撃ち続ける。
『離れたトコからチマチマと。生肉らしい、じめついたやり方だなァ!?』
 アウレールが苦笑する。
「貴様こそ、剣機の盾で守られた砲手だろうに。
 だが良いぞ、奴は焦れてきた。作戦が有効な証拠だ」
 射手3名、特に猟撃士たるナナセの攻撃は、着実に敵の数を減らしていった。
「問題は、我々の機動力の低さを見抜かれたときだな」
 マッシュが矢をつがえながら、
「剣機を残して迂回、補給部隊を追跡される危険がありますねぇ。
 敵大将がそのまま主力ですから、アレをどうにかしないと決め手がありませんよ」
「今、その決め手をお膳立てしてるところだ。後はタイミング次第……」

 ゾンビは前衛の穴を補うべく移動、陣形がV字に変形し始めた。そして、
『調子に乗り過ぎだぜ』
 ビュクセも唐突に歩を速め、前衛の壁へ割り込んだ。
 いつの間にか縮まっていた距離、ぎりぎり大筒が届くと見て砲撃する。

 散弾は、遂にトラック前方1台をまともに捉える。
 貫通こそ免れたが、車体に埋まった弾丸が霜を張って、装甲を侵食していく。
 マッシュがお返しとばかりにゾンビを射抜いて、
「これで6体目、ですが……」
「まだだ」
 まだ早い。アウレールとマッシュの判断で、2両揃って後退する。
 一方のビュクセはここぞとばかりにゾンビの背をどやし、急き立てた。

 2両の運転手は、間合いの調節に神経を使った。
(近過ぎれば砲の餌食、遠過ぎれば突撃の機会がない。バランスが大事)
 北方の寒気に、フィルメリアの手足もかじかみ始めた。
 運転の合間、まめに手首、足首を回して血の巡りを促す。
 いっそ、この身が本当に氷なら、あるいは炎であったなら、凍えることなどなかろうに。
(『生肉』か。それなら"暴氷"、アンタは単なる鉄の塊でなく、本当に氷だとでも言うの?
 これからそいつを、確かめてみようじゃない)


 ゾンビの8体目を倒したところで、もう1度砲撃された。
 車体がへしゃげ、霜が装甲を覆っていく。マッシュが、
「前の車がじき限界ですよ。ご決断を」
「兵士諸君! 死ぬには良い日だ、そうだなッ!?」
 トラック背後の兵士へ、アウレールが檄を飛ばした。

 全速前進するトラック、内1台は途中で脇に逸れ、銃衛兵の盾となる。もう一方は、
「突っ込め!」
 アーサーが怒鳴った。フィルメリアが亡霊2体の接近を知らせると、
 荷台後部から屋根へ上がったアーサーとバリトンに続き、アウレールとマッシュが飛び降りた。
 フィルメリアも兵士に運転を任せ車外へ出ると、
 突撃敢行中のトラックより無防備と見たか、亡霊が早速彼らに襲いかかった。

 敵は霊体を光の触腕に分裂させ、アウレールとフィルメリアを囲う。
 触腕の檻の中に風が起こり、かまいたちが皮膚を切り裂く。アウレールが叫ぶ。
「銃衛兵!」
 亡霊の核に当たる小さな光球は、ふたりの頭上で円を描いて飛び回っていた。
 その片方を、銃衛兵の斉射が見事撃ち抜いてみせる。
 アウレールを襲った亡霊は瞬く間に消滅し、残るはフィルメリア。
 マッシュが核の軌道を見切り、サーベルで打ち落とした。

 車の屋根上のアーサーとバリトンは、それぞれ手裏剣と拳銃で眼下のゾンビを牽制、
 車両がいよいよ敵前衛の壁に肉薄すると、
「往くぞ!」
「応ッ」
 息を合わせ、壁の向こう側へ跳躍した。
『待ち兼ねたッ』
 エルトヌスの後ろで構えていたビュクセ。左右の手で大筒を振りかざし、
 アーサーとバリトンを空中で叩き落とそうとする。
(止めなくちゃ!)
 ナナセが、弓につがえていた2本の矢を瞬時に撃ち分ける。
 敵の両手首に命中させ、打撃を制止すると、
 バリトンが背中の大剣を抜きつつ、ビュクセに身体ごとぶつかった
 思わず上体を逸らすビュクセ。バリトンはその胸を蹴って後ろへ飛ぶと、素早く斜めに走る。
 追撃を試みるビュクセだが、
「こっちが留守だぜ」
 アーサーが背後から脚を切りつけ、注意を逸らした。

 フィルメリアが機導術の火炎放射で、ゾンビの群れを焼いた。
 業火に巻かれて動きの鈍った隙、アウレールが戦槍を手に突進、
 ゾンビ1体を行きがけの駄賃に串刺ししつつ壁の向こうへ。残る剣機は10体ほどか、
「まとめて掃除させてもらう!」
 フィルメリアのガントレットの指先から、再び炎が噴出する。
 と、彼女の視界の端から、飛び込んでくる亡霊の影。
 ジェットブーツで後退するが、相手の速度が僅かに勝る。捕まった。

 銃衛兵の斉射がすぐさま核を破壊し、
「動けますか? 無理はなさらず」
 マッシュがフィルメリアを抱き起す。
 亡霊に2度拘束されたフィルメリアの全身は、かまいたちで傷だらけだ。
 彼女が答えるより早く、今度はマッシュが敵中へ駆け込んでいく。


「貴様の言うところの高級肉だが、老いぼれですまんな。
 じゃが、まあ、肉は腐りかけが美味いから安心しろ」
 言うが早いか、バリトンの姿が雪を散らして消える。
 回り込まれた。振り返ろうと捻ったビュクセの腰を、大剣が打つ。
「ほんとに熟成し過ぎてて、貴様、死ぬかも知れんがな!」
 踏み込み、回り込み、電光石火の打ち込み。
『下す腹などあるかッ』
「1度掻っ捌いて、確かめてみたら良いぜ」
 バリトンと交互に、アーサーの突進。
 こちらも得物の重量を生かした斬撃で、ビュクセの鎧の各部を叩き割る。
 反撃は剣の峰で受け、どうにか跳ね返してみせた。

 バリトンとアーサーが扱う大剣・エッケザックスには、大地の魔力が封じられている。
 対するビュクセがまとうのは水の魔法。属性同士の衝突に、斬撃の威力も増す。
「核さえ見えりゃ……」
 バリトンを狙った敵の大筒を、横合いからアーサーが打って落とす。
「鎧の裂け目から、霊体の光を探せ!」
 ハンター側の攻撃シフトに、アウレールが加わった。
 臆さず飛び込み、割れた鎧の中へ槍を突き立てると、
『おおッ』
 ビュクセは身をよじりつつ全身の関節を駆動、乱舞を始めた。
 巻き込まれたアウレールは敢えて間合いに留まり、盾で敵の動作を抑えつける。
 すかさずバリトンが踏み込んだ。
「『ひ弱な年寄』相手に、力任せで大人げないのう」
 打ち下ろされた大筒を、刀身いっぱいを使って受け流す。2撃目、
「ま、少しは付き合ってやらんこともない」
 真っ向から受け止めた。大筒の鉤に剣の鍔を引っかけ、力で押し戻す。

 バリトンが武器を、アウレールが身体の動きを封じたところで、アーサーが躍りかかる。
「居合わせない仲間の分、きっちり意趣返しさせてもらおうじゃねぇか!」
 その背後から、忍び寄る白い影があった。亡霊型、最後の1体。
 咄嗟に振り向き身構えるも、流れ込む風が、大剣をすり抜けて両腕を切り刻んだ。
「ぐあっ……」
 銃衛兵の射撃が、アーサーの頭上高くに浮遊する核をすぐさま破壊。
 しかし受けた傷は深く、その場に膝を着いてしまう。

 攻めが切れた一瞬、ビュクセはアウレールを弾き飛ばすと、バリトンの排除に注力した。
 歪んだ鎧が軋みを上げるも、なお変幻自在の軌道で乱撃を叩き込む。
 ぎりぎりで受け流していくバリトン、
(これと真っ向打ち合ったか。あの娘も成長したもんじゃのう)
 敵の背後でアウレールが起き上がるのを見、再度鍔迫り合いでの制止を試みる。
(嬉しんどる場合でもない)
 とうとう力負けし、押し返される。
 追い討ちを半身でかわし、その勢いを生かして1回転、逆袈裟に切り上げた。
『きぃッ』
 敵の蹴り技。バリトンは、左肘でその足首を止める。
「足癖の悪い小娘じゃ」
 ビュクセは右脚を蹴り上げた格好のまま、腰部から上を激しく回転させる。
 荒ぶる風車のように打ち下ろされる大筒を、片手打ちで受けるが、
(全く、老いとは――)
 体力の限界が来た。最後の1撃を辛うじて弾くと、足を抑えていた左腕の力を緩めた。
 ビュクセの蹴りが、老兵の巨躯を雪の上へ転がす。


『後はキミだけだねェ。どうする坊ちゃん?』
 アウレールを見下ろすビュクセの鎧は、歪みや亀裂だらけだ。
 しかし、まだ霊体を捉えられていない。要のバリトンとアーサーは戦線離脱した。

「生身と一緒に、両の眼も捨てたか」
 だがアウレールは、悠然と突きの構えを取る。
「私はまだひとりではない。貴様は違う」
 3本の矢が、ビュクセの兜に突き立った。内2本はナナセ、そしてもう1本は、
「ようやく掃除が終わりまして――彼女のお蔭で」
 離れた間合いから、弓を敵大将へ向けるマッシュ。
 その隣、まだガントレットに炎の残滓を残したフィルメリア。
 ふたりと銃衛兵が、エルトヌスを全滅させていた。
「健在のハンター4人と帝国軍精鋭10人、アンタを溶かすには充分ね」
 フィルメリアが言うと、
「ハンター、5人だ」

 自己治癒を終えたアーサーが、
「"フロント・ガード"、"不屈の盾"と呼ばれた俺が、あれしきで倒れると思うかい」
 血だらけの腕で、しかし力強く剣を振るう。
「ラインアウトだ。ボールを投げろよ」


 戦いは、アーサーの渾身の突撃で再開された。
 激しく入り乱れる前衛3人。その合間を縫ってマッシュと、後方のナナセが矢を射った。
(弱ってる筈。けど、腐っても――じゃない、錆びても敵は高位歪虚)
 ビュクセは哄笑とも、悲鳴とも取れない叫びを上げて乱舞する。
(被害を出さずに、倒せるでしょうか)

 フィルメリアのガントレットが、ビュクセの胴を打つ。
 ジェットブーツで加速しての貫手だったが、
(硬い!)
 負傷が堪えたか、鎧の割れ目へ捻じ込むにも僅かに力が足りない。
 敵はガントレットから発動する電撃にも止まらず、むしろ速度を増しつつあった。
 何度目かの飛び込みを打ち落とされた。胸に重い打撃を受け、フィルメリアが倒れる。

 次に倒れたのはアーサーだった。
 ばらばらに動く敵の関節へ目を配りながら、アウレールが作った隙で剣を叩き込む。
 その1撃で胸甲が割れ、隠れていた核が見えた。
 一旦飛び退くと、今度は乱舞を続ける敵の膝へ、剣を構えたままタックルを仕掛けた。
 跳ね飛ばされるも、アウレールが連携して敵胸部を突く。
 槍を大筒で弾かれると、再びアーサーの出番、
『肉がッ』
 ビュクセが大筒を暴発させた。散弾はアーサーの頭上を越していくが、
 耳を聾する砲音のショックで、突進のタイミングがずらされた。

 ビュクセは大筒を持ったまま両腕を畳み、アーサーにベアハッグを仕掛ける。
 アウレールが救い出そうとするも、拘束が硬く振り解けない。
 が、やおらビュクセはアーサーを放り出した。
 彼が寸前で握った手裏剣を拳ごと、胸の裂け目へ押し込んだ為だった。


 ビュクセと対峙するアウレール。
 互いに鎧はへこみ、ひび割れ、無残な有様だが、
「撃て!」
 彼の号令を受け、銃衛兵の斉射がビュクセの前面を叩く。
 何発かは霊体に達し、無視できないダメージを与えた筈だ。
 止めとばかりに突きかかるアウレールだったが、
 乱舞を止め、守りに徹したビュクセに退けられてしまう。

 火花を散らしながら鎧を変形させるビュクセ。
 グロル・リッター特有の動物形態。屈伸のような姿勢から鎧の各部を展開、
(ウサギ……か?)
 兜から伸びた羽根飾りを耳に見立てた、巨大なウサギと化した。
 それから、アウレールの目前で砲を炸裂させたかと思うと、
 反動を生かしての跳躍で、ビュクセはあっという間に雪原の彼方へ逃げていく。

 追跡にかかるマッシュと銃衛兵、ナナセの騎馬。
 バリトンが剣を支えに立ち上がり、彼らを止めた。
「この先は汚染地帯。わしらは特別の防護もなく、傷を負っとる。
 わしはすんででかわしたから良いものの」
 倒れたままのフィルメリアとアーサーを指して、
「ふたりは手当てが必要じゃ」

「惜しい、戦いでしたね」
 ナナセが、敵の逃げ去った方向を見て言った。
 アウレールは深々と息を吐くも、やがて肩をすぼめ、
「死ぬには良い日だ……が、今日じゃなかった。
 撃退は果たした。剣機や亡霊抜きなら充分倒せる相手だとも分かった。
 奴も今回でそれを知った。手駒を失ったまま、うかつに現れはしない筈だ。
 ひとまず、北伐補給線への妨害は防げるだろう」
「じゃが、いずれ残った首も獲る」
 バリトンの深く、強い声がその場に響いた。

 彼らが守った補給部隊の車列は、滞りなく予定地へと向かう。
 北狄本拠、夢幻城の前線へと――

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    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
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2015/10/18 13:11:18