ゲスト
(ka0000)
【闇光】虚ろの巨人
マスター:湖欄黒江
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/24 15:00
- 完成日
- 2015/10/31 23:40
みんなの思い出? もっと見る
- -
オープニング
●
人類連合軍・夢幻城偵察部隊。
浄化ルート最先端付近に到達したところで、見慣れぬ敵と出くわした。
空高くに威容を晒す敵本拠・夢幻城だが、
その下方の雪原から、恐ろしく大きな黒い人影がふたつ、ふらふらと歩み出てくる。
「おい」
非覚醒者の偵察部隊に参加した、帝国軍兵士・シュヴァルツヴェルト。
遠眼鏡のレンズ越しに敵の姿を捉え、慌てて相棒のエドガルを叩き起こす。
分厚い防寒具を着込んで雪の上に座っていたエドガルは、面倒臭げに、
「敵か」
「そうだ」
「女なら俺にも見せてくれ。男だったら要らんぞ」
「どっちでもない。巨人だ」
エドガルはのそのそと起き上がり、シュヴァルツヴェルトから遠眼鏡を受け取った。
冷たい金属部品が顔に触れないよう、慎重に持って覗き込むと、
「でかいな。目測7、8メートルってとこか」
「どうも様子がおかしい」
シュヴァルツヴェルトの言う通り、確かに普通の巨人型歪虚とは一風変わっていた。
遠方を歩く巨人の身体は、何やら黒い靄に覆われている。
靄は巨人の扁平な胴体を中心に立ち込めており、その胴体から伸びる手足はひどくか細い。
長い首の先に小さな頭部、まるでマッチ棒でも刺しているようだった。
歩き方は、足を前へ踏み出す毎、身体ごと左右へ傾いで落ち着かない。
だが時折、足運びと全くタイミングの合わない滑るような動きをして、ず、ず、ずと前進してくる。
敵の動作から感じる強烈な違和感に、エドガルは思わず目を瞬かせた。
「何だありゃ。巨人の幽霊ってとこか」
巨人2体はほぼ横並びを保ったまま、偵察隊のいる浄化済み領域へと接近中――
「気づかれてるのか、いないのか。分かんねぇな」
「どっちにしろ、あの速度じゃもうじきこっちへ来るぞ。撤収準備」
エドガルに敵を見張らせたまま、シュヴァルツヴェルトは1頭牽きの馬橇を動かしにかかる。
相手の正体が何にせよ、歪虚であることは間違いない。
ふたりでは勝負にならない。本隊と合流し、ハンター出動を要請しなければならない。
●
エドガルとシュヴァルツヴェルト、そして偵察隊の任務は、
浄化領域内からの周辺警戒と汚染調査、それに夢幻城付近の敵情視察だった。
「どうしてだと思う」
遠眼鏡を覗きながら、エドガルが尋ねる。
「何が」
「どうして俺たちふたり、最前線送りになったと思う」
「さぁね。雑魔との交戦1回、遭遇と初期偵察1回。
誰かさんが酒の入る度大げさに触れ回って、武勇伝に仕立てちまったのが悪いんだと思うがね!」
シュヴァルツヴェルトは、馬橇に積んだ荷物を結わく縄を締め直しながら、吐き捨てるように言った。
荷物の内容は銃、ピッケル、小型テント、寝袋、簡易食糧、ランプ、汚染検査薬、その他色々。
相棒の持ち込んだウィスキーの瓶と拳銃が、同じ革袋に収められているのが気に食わない。
エドガルがのんびりした口調で、
「もうじき冬が来るって頃に、わざわざ北伐か。皇帝陛下も無茶を言うよな」
と言えば、
「クリスマスまでには終わるさ!」
と答える。
「本当か?」
「そう思わなきゃ、やってられんだろう」
「覚醒者でもない俺たちが前線送りになったって、何にも良いことねぇよなぁ……と、別口だぜ」
エドガルの目が、巨人とは別方向から接近中の敵群を発見した。
黒い毛皮の外套と帽子を着けた、大柄な男たちが全部で8人。
巨人と対照的に、しっかりとした足取りで隊列を組み、雪上を進んでくるが、
今、彼らの歩いている場所は汚染区域内なので、恐らく人間ではない。
橇の準備を終えたシュヴァルツヴェルトが、相棒の手から遠眼鏡をひったくる。
「あれは……ゾンビか? 丘の後ろに隠れて見えなかったんだ、大分近いぞ」
男たちの着衣は見慣れぬ形をしているが、辺境北部の部族の民族衣装に似ていないこともない。
羊の厚い毛皮でできていて、北方から吹き下ろす厳寒や、刃物からすら身を守れる頑丈な服だと聞く。
敵はその衣服と揃いの、黒ずんだ顔をしていて、
ちょうど小高い丘を登り切ったばかりだというのに、口元には呼気の白い湯気が立っていない。
「やっぱり人間じゃなさそうだ。巨人より先に、こっちへ来る」
「長居無用だ……」
妙に落ち着き払った様子で、エドガルがぷいと橇のほうへ戻る。
先んじて御者席に着くと、相方が後ろから橇を押すのを待って、馬に鞭を入れた。
「よし、乗れ!」
シュヴァルツヴェルトが橇の後部にしがみつくと、馬がいななき、走り出した。
1頭牽きで力は弱いが、荷物も少ない。徒歩が相手なら逃げ切れる筈だった。
●
ぼう、と火の燃え上がるような音がして、
さっきまでふたりの兵士が立っていた場所に、濃い黒い煙が立ち込める。
橇上から振り返るシュヴァルツヴェルト。
見れば、遠方の2体の巨人が痙攣して身をくねらせると共に、
胸元から真っ黒な煙の玉を噴き出して、こちらへ撃ち込み始めていた。
まだ、ふたりまではかなりの距離があろうに、
煙玉は放物線を描いて飛び、走る馬橇の軌跡を追って次々と着弾する。
「攻撃されてる!」
「わぁってるよ!」
御者のエドガルは、凍傷で赤く剥けた鼻先をぐっとつまんで気合を入れると、
馬の手綱を巧みに操り、橇をじくざぐに走らせた。
間一髪で逸れた煙玉から強い悪臭を感じ、シュヴァルツヴェルトが手で口元を覆う。
(毒の煙か? 一体、どういう敵なんだ――)
激しく雪を踏む足音。丘を下り終えたゾンビの群れが、踊るような動きをしながら追ってきた。
まるで酔っ払いのような滅茶苦茶な動きだが、存外に素早い。
ゾンビらしからぬ軽快な動作でステップを刻みつつ、巨人の煙玉に紛れて行進する。
それでも、エドガルの駆る馬橇は少しずつ距離を空けていき、
やがてゾンビからも、煙玉の射程からも逃れることができた。
真っ直ぐに偵察本隊のテントへ向かう、その中途、
「北方王国の滅亡に巻き込まれた、何処かの部族のなれの果てか……、
あれも、民族舞踊の類だったのかもな。助かったぞ、エドガル」
相棒は前方を睨んだまま、んん、と唸っておざなりに返事を返した。
最前線送りになってからこっち、彼はやけに達観した雰囲気でいる。
「いい加減俺も学んだ。人生、博打と同じさ」
訳を尋ねられると、エドガルはこう答えた。
「いよいよツキに見放され、賭け金も尽きそうとなりゃ、後は黙って耐えるしかない。
どうにもならん。俺の人生の骰子は今、聖光の御手が握りあそばされてるってことだ」
●
ふたりの帝国軍兵士が帰還した後、
偵察本隊所有のマテリアル観測装置は、浄化ルート先端部に新たな汚染の兆候を検知した。
敵は、連合軍の命綱たる浄化領域を分断しにかかっているようだ。
そして、ふたりを襲ったあの巨人こそが、
汚染拡大の尖兵として夢幻城が送り込んだ戦力なのかも知れない。
夢幻城攻略前途、ハンター部隊による威力偵察が要請された。
人類連合軍・夢幻城偵察部隊。
浄化ルート最先端付近に到達したところで、見慣れぬ敵と出くわした。
空高くに威容を晒す敵本拠・夢幻城だが、
その下方の雪原から、恐ろしく大きな黒い人影がふたつ、ふらふらと歩み出てくる。
「おい」
非覚醒者の偵察部隊に参加した、帝国軍兵士・シュヴァルツヴェルト。
遠眼鏡のレンズ越しに敵の姿を捉え、慌てて相棒のエドガルを叩き起こす。
分厚い防寒具を着込んで雪の上に座っていたエドガルは、面倒臭げに、
「敵か」
「そうだ」
「女なら俺にも見せてくれ。男だったら要らんぞ」
「どっちでもない。巨人だ」
エドガルはのそのそと起き上がり、シュヴァルツヴェルトから遠眼鏡を受け取った。
冷たい金属部品が顔に触れないよう、慎重に持って覗き込むと、
「でかいな。目測7、8メートルってとこか」
「どうも様子がおかしい」
シュヴァルツヴェルトの言う通り、確かに普通の巨人型歪虚とは一風変わっていた。
遠方を歩く巨人の身体は、何やら黒い靄に覆われている。
靄は巨人の扁平な胴体を中心に立ち込めており、その胴体から伸びる手足はひどくか細い。
長い首の先に小さな頭部、まるでマッチ棒でも刺しているようだった。
歩き方は、足を前へ踏み出す毎、身体ごと左右へ傾いで落ち着かない。
だが時折、足運びと全くタイミングの合わない滑るような動きをして、ず、ず、ずと前進してくる。
敵の動作から感じる強烈な違和感に、エドガルは思わず目を瞬かせた。
「何だありゃ。巨人の幽霊ってとこか」
巨人2体はほぼ横並びを保ったまま、偵察隊のいる浄化済み領域へと接近中――
「気づかれてるのか、いないのか。分かんねぇな」
「どっちにしろ、あの速度じゃもうじきこっちへ来るぞ。撤収準備」
エドガルに敵を見張らせたまま、シュヴァルツヴェルトは1頭牽きの馬橇を動かしにかかる。
相手の正体が何にせよ、歪虚であることは間違いない。
ふたりでは勝負にならない。本隊と合流し、ハンター出動を要請しなければならない。
●
エドガルとシュヴァルツヴェルト、そして偵察隊の任務は、
浄化領域内からの周辺警戒と汚染調査、それに夢幻城付近の敵情視察だった。
「どうしてだと思う」
遠眼鏡を覗きながら、エドガルが尋ねる。
「何が」
「どうして俺たちふたり、最前線送りになったと思う」
「さぁね。雑魔との交戦1回、遭遇と初期偵察1回。
誰かさんが酒の入る度大げさに触れ回って、武勇伝に仕立てちまったのが悪いんだと思うがね!」
シュヴァルツヴェルトは、馬橇に積んだ荷物を結わく縄を締め直しながら、吐き捨てるように言った。
荷物の内容は銃、ピッケル、小型テント、寝袋、簡易食糧、ランプ、汚染検査薬、その他色々。
相棒の持ち込んだウィスキーの瓶と拳銃が、同じ革袋に収められているのが気に食わない。
エドガルがのんびりした口調で、
「もうじき冬が来るって頃に、わざわざ北伐か。皇帝陛下も無茶を言うよな」
と言えば、
「クリスマスまでには終わるさ!」
と答える。
「本当か?」
「そう思わなきゃ、やってられんだろう」
「覚醒者でもない俺たちが前線送りになったって、何にも良いことねぇよなぁ……と、別口だぜ」
エドガルの目が、巨人とは別方向から接近中の敵群を発見した。
黒い毛皮の外套と帽子を着けた、大柄な男たちが全部で8人。
巨人と対照的に、しっかりとした足取りで隊列を組み、雪上を進んでくるが、
今、彼らの歩いている場所は汚染区域内なので、恐らく人間ではない。
橇の準備を終えたシュヴァルツヴェルトが、相棒の手から遠眼鏡をひったくる。
「あれは……ゾンビか? 丘の後ろに隠れて見えなかったんだ、大分近いぞ」
男たちの着衣は見慣れぬ形をしているが、辺境北部の部族の民族衣装に似ていないこともない。
羊の厚い毛皮でできていて、北方から吹き下ろす厳寒や、刃物からすら身を守れる頑丈な服だと聞く。
敵はその衣服と揃いの、黒ずんだ顔をしていて、
ちょうど小高い丘を登り切ったばかりだというのに、口元には呼気の白い湯気が立っていない。
「やっぱり人間じゃなさそうだ。巨人より先に、こっちへ来る」
「長居無用だ……」
妙に落ち着き払った様子で、エドガルがぷいと橇のほうへ戻る。
先んじて御者席に着くと、相方が後ろから橇を押すのを待って、馬に鞭を入れた。
「よし、乗れ!」
シュヴァルツヴェルトが橇の後部にしがみつくと、馬がいななき、走り出した。
1頭牽きで力は弱いが、荷物も少ない。徒歩が相手なら逃げ切れる筈だった。
●
ぼう、と火の燃え上がるような音がして、
さっきまでふたりの兵士が立っていた場所に、濃い黒い煙が立ち込める。
橇上から振り返るシュヴァルツヴェルト。
見れば、遠方の2体の巨人が痙攣して身をくねらせると共に、
胸元から真っ黒な煙の玉を噴き出して、こちらへ撃ち込み始めていた。
まだ、ふたりまではかなりの距離があろうに、
煙玉は放物線を描いて飛び、走る馬橇の軌跡を追って次々と着弾する。
「攻撃されてる!」
「わぁってるよ!」
御者のエドガルは、凍傷で赤く剥けた鼻先をぐっとつまんで気合を入れると、
馬の手綱を巧みに操り、橇をじくざぐに走らせた。
間一髪で逸れた煙玉から強い悪臭を感じ、シュヴァルツヴェルトが手で口元を覆う。
(毒の煙か? 一体、どういう敵なんだ――)
激しく雪を踏む足音。丘を下り終えたゾンビの群れが、踊るような動きをしながら追ってきた。
まるで酔っ払いのような滅茶苦茶な動きだが、存外に素早い。
ゾンビらしからぬ軽快な動作でステップを刻みつつ、巨人の煙玉に紛れて行進する。
それでも、エドガルの駆る馬橇は少しずつ距離を空けていき、
やがてゾンビからも、煙玉の射程からも逃れることができた。
真っ直ぐに偵察本隊のテントへ向かう、その中途、
「北方王国の滅亡に巻き込まれた、何処かの部族のなれの果てか……、
あれも、民族舞踊の類だったのかもな。助かったぞ、エドガル」
相棒は前方を睨んだまま、んん、と唸っておざなりに返事を返した。
最前線送りになってからこっち、彼はやけに達観した雰囲気でいる。
「いい加減俺も学んだ。人生、博打と同じさ」
訳を尋ねられると、エドガルはこう答えた。
「いよいよツキに見放され、賭け金も尽きそうとなりゃ、後は黙って耐えるしかない。
どうにもならん。俺の人生の骰子は今、聖光の御手が握りあそばされてるってことだ」
●
ふたりの帝国軍兵士が帰還した後、
偵察本隊所有のマテリアル観測装置は、浄化ルート先端部に新たな汚染の兆候を検知した。
敵は、連合軍の命綱たる浄化領域を分断しにかかっているようだ。
そして、ふたりを襲ったあの巨人こそが、
汚染拡大の尖兵として夢幻城が送り込んだ戦力なのかも知れない。
夢幻城攻略前途、ハンター部隊による威力偵察が要請された。
リプレイ本文
●
亡霊2体の黒い巨体は、白い雪原上に良く目立った。
「巨大な亡霊とはまた、面白いのぅ。一体どういう仕組みなのか、是非教えて欲しいもんじゃのぅ」
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)が、クレール(ka0586)、青山 りりか(ka4415)と共に戦馬を駆る。
先鋒のクレールが魔導銃を構えつつ、
「2体の距離が離れてますね……手前の1体、引き受けます!」
言ったかと思えば早速、遠方の敵が煙玉を放出。3人の手前に着弾し黒い煙が辺りを包む。
「一網打尽にされないよう、分かれたほうが良いかも知れません」
りりかの提案でひとまず散開、100メートル圏内までは敵の狙いも大分甘いようだったが、
「むぅっ」
やがて至近に着弾し、ヴィルマの騎馬が棹立つ。
馬はそのまま騎手の手綱にも応えず、足踏みを始めてしまった。
仲間から狙いを逸らすべく、クレールが突貫。
煙玉をぎりぎりでかわしつつ、まずは1体へ魔導銃を発砲――
亡霊を包む靄が弾丸を呑み込めば、ほんの一瞬、敵の巨体が揺らぐ。
(物理攻撃も、一応効いてる?)
近づくと、敵はまるで黒い壁のようだ。
靄から僅かに覗けた手足は、干からびた巨人のそれだった。
身体のあちこちが欠け、右足など、足首から先がそっくりもげてしまっていた。
歩く動作は形だけで、実際は地上1メートルほどを浮遊しているようだ。
クレールはもう1度銃撃を加えると、機械仕掛けの杖に持ち替えた。
ヴィルマの馬がようやく走り出したのを横目に見て、
「行きます!」
術の射程に敵を収め、ヴィルマと同時に本格的な攻撃を試みた。
巨人の胸にわだかまり始めた煙玉へ、杖を振りかざせば、
「『月雫』ッ!」
青い三日月を模った魔法が黒い靄を散らし、敵を大きく揺るがせた。
(光の魔法が弱点か!)
空中で散った煙玉から、小さな砂粒のようなものがざあっ、とクレールの頭上に降りかかる。
慌てて盾で頭を庇う彼女の下で、馬体がぶるり、と震えた。
●
「えー、これより敵不明ゾンビと交戦します。敵は目測、身長2メートル弱……」
ボイスレコーダーへ戦闘記録を吹き込み始めるアメリア・フォーサイス(ka4111)。
彼女と馬を並べたJ・D(ka3351)は、早速カービン銃を掲げ、
「おお、おお。この寒空の下で随分と元気じゃねえか。もうチョイト冷えたら大人しくなってくれるかよう?」
黒い毛皮を着込んだゾンビの群れが、踊るような身動きで現れる。
「流石に歪虚の領域と化して長いだけあって、北には妙な歪虚が多いようだね?」
ゾンビ対応5人の中で、ひとり馬を置いてきたテリア・テルノード(ka4423)。
敵は未知の歪虚、撤退の足も考えておかねばならない。馬橇も借りてはいたが、
「怪我人を乗せたら、一杯になってしまうかも知れないしね」
「おっと、始まる前から不吉なこと言ってくれるなや」
前衛のエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が軽口を叩くと、隣の神代 誠一(ka2086)が、
「備えは大事です。目的は情報収集、生きて帰ることが先決……ですが、
可能な限りは撃破狙いで。貪欲にいきましょうか」
「流石は先生、悪餓鬼の魂胆を分かってらっしゃる。
誠一の言う通り、当然殲滅が理想だが……まずは全員、記録ができるようしっかり頭に叩き込めよ!」
走り来るゾンビ群へ、アメリアとJ・Dの射撃が飛ぶ。
アメリアは魔法の冷気を込めた弾丸を、J・Dは連射による制圧射撃をぶつけるが、
「とうに死んでるだけあって、頑丈な上にクソ度胸だなァ」
敵はほとんど怯まずに、前衛へとまっすぐ突っ込んできた。
エヴァンスと誠一は同時に突撃を開始するが、
敵は低く身構えたかと思うと、先んじて跳躍からの反撃を挑んできた。
「猿だぜ、まるで!」
エヴァンスは飛び蹴りから身を逸らし、苦無を投じて牽制。
1体が苦無を避けつつ組みつきにかかるが、こちらは肘で殴り倒した。
「速い!」
誠一も絡繰刀を振るうが、敵は柔らかな身ごなしでひょい、と避けてしまう。
ふたりの攻撃をかわしつつ、包囲網を作る敵4体。
(集団戦法の心得もあるか。ここは1度動きを封じて……)
誠一は武器を、炎の魔法を封じた赤い鞭へ持ち替える。
エヴァンスも大剣を握り絞め、敵の一斉攻撃へ備えた。
●
長大な炎の剣が亡霊を撫ぜると、
クレールは炎の起点となっていた杖を戻し、反撃に打ち下ろされた煙玉へ盾を向けた。
煙幕と共に、やはり何かの小さな欠片が勢い良く降り注ぐ。
(一体、どういう攻撃なんだろう……)
思った矢先、敵が滑るような動きで距離を詰めてきた。
(向こうから近づいてくる!? ……それならっ)
咄嗟に振り上げた炎の刃――『火竜』が、敵を全身覆っていた靄を一挙に払う。
敵の正体は、巨人のミイラ。鼻は欠け、目や口はぽかんと開いたまま、虚ろな穴と化している。
着衣はなく、干からびた茶色い皮膚のあちこちに、細かい亀裂が走る。
その亀裂から突如新たな煙が噴出、クレールが退こうとするも、不意に馬の脚がもつれた。
不可視の力が周囲の雪ごと、彼女と騎馬を吹き飛ばす。
(魔法はどちらも効くようじゃ)
ウォーターシュートとライトニングボルト、ふたつの魔法を撃ち分けながら、
ヴィルマは2体目の周囲を騎馬で駆ける。
煙玉はぎりぎりでかわし続けた筈だったが、気づくと頬に不快な痒みを覚えていた。
触れてみれば、小さな棘のようなものが何本か肌に刺さっている。
(む?)
突如、ヴィルマは強烈な胸の痛みに襲われ、咳と一緒に真っ赤な血を吐いてしまう。
「ヴィルマさん!」
異変を察知したりりかが、後方から治癒と解毒の法術を飛ばす。
術の光がヴィルマを包むと、胸の激痛は和らいだものの、
「クレールが危険じゃ!」
もう1体を相手取っていたクレールが落馬した。
彼女の騎馬は亡霊の放つ衝撃波で倒され、騎手を放り出しまま起き上がらない。
ヴィルマの馬も、先程から足取りがおかしい。
(一帯の汚染のせいかのぅ、それとも……)
再びの衝撃波に見舞われる寸前、クレールがジェットブーツで宙を舞う。
残された馬は雪上を転がされた挙句、身動きしなくなった。
敵は心なし薄まった靄をたなびかせ、滑るような不気味な動きでなおも追ってくる。
そして煙玉。クレールはぎりぎりで直撃をかわしつつ、宙を飛んで後退するも、
負傷か、あるいは術の媒介となる装置に故障があったか、
ジェットブーツの噴射が突然止み、地上へ落下してしまう。
(何があっても、ふたりは死なせない!)
りりかが救援に急ぐ。一方のクレールが逃げつつ魔導銃を撃てば、
弾丸がミイラの身体に穴を空け、銃創からは黒い煙と共に、微かな白い光が漏れ出す。
敵が攻撃から身を庇う仕草は全くない。黙々と歩きながら、煙玉を吐き出し続ける。
りりかは思う――
(弱点の核は、一体何処に?)
後方では、ヴィルマの魔法が2体目の巨人を覆う靄を消し飛ばしたところだった。
●
「ちぃっ……!」
エヴァンスが馬上から大剣を振るうが、汚染地帯の影響か、身体の切れがどうも悪い。
それでも、飛びかかってきた3体をまとめて胴斬りにしてみせた。
誠一も鞭で残り1体を拘束、止めを刺すばかりと思えたが、
「俺たちの攻撃だけ、どうも効きが悪いぜ」
後続の4体へ銃撃を加えていたJ・Dが、アメリアにこぼす。
アメリアも同じく射撃を続けていたが、着弾の瞬間、
(発光?)
ゾンビの体表に命中した弾丸が、微かな光を上げて弾ける様を見た。
魔法の光か? ふたりの猟撃士が弾丸に込めた魔力は水の属性、
「――誠一さん、その鞭は!」
後続4体が合流し、エヴァンスと誠一に襲いかかる。
誠一が敵から一旦鞭を解き、防御へ身構えようとするが、
直前でアメリアの声を聞き、咄嗟にワイヤーウィップを腰元から抜いた。
素早く伸びた鋼線がゾンビを絡め取ると、即座にモーターが駆動し、四肢を切り裂く。
「そうかい、合点が行った!」
J・Dが魔力抜きの普通の弾丸を残りの敵を撃ってみると、
撃たれた敵は、先程より大きく体勢を崩したように見えた。テリアが言う、
「彼ら、水の魔法をまとっているね。猟撃士のスキルは同属性で相殺され、威力が半減されてしまう。
それに誠一君の使っていた鞭は火の魔法武器。弱点は水だから」
「ここでは悪手だった、ということですね」
ワイヤーウィップに持ち替えた誠一が、後ろへ抜けそうになったゾンビを捕まえると、
アメリアの、やはり魔力抜きの銃弾が止めを刺す。
残るは3体。エヴァンスが内2体を叩き斬り、最後の敵へは旋棍で挑みかかる。
馬上から身を乗り出して殴りつけようとしたところ、
「おわっ」
ゾンビは鮮やかな動きで、飛びつき腕十字を仕掛けてきた――
が、既に鋼線を仕掛けていた誠一が首を刎ね、敵の攻撃は不首尾に終わった。
「おいおい、獲物を横取りするなよ」
「失敬。しかしもう1班が気になりますから……」
誠一が言うと、
「対ゾンビ戦終了、所感は後ほどまとめます!」
アメリアが大慌てでレコーダーに吹き込む。彼女が見ていたのは雪原の向こう、
巨人に追われるクレールの姿だった。りりかが救援に急いでいるが、
彼女とクレールの間に巨人が割り込んだ恰好で、法術の支援が届くか分からない。
「良かったな、獲物が増えた」
J・Dは用意していた松明に火を点け、エヴァンスへ手渡す。
「お前サンのが敵に近づけそうだからな。実験頼む」
「喜んで。3人は――」
「アメリア君、クレール君を拾ってくれるかい? 誠一君はヴィルマ君の援護に。
私は橇を持って来る。治療と撤収の準備をしておくよ」
テリアが言うなり、4人各々、対巨人班の応援に走った。
●
「やれやれ、脆そうな外見の癖、意外とタフじゃな」
ヴィルマの杖から迸る雷撃が、巨人の頭部を打ち砕いた。
もげた首の断面から光が溢れ出す。恐らく亡霊の核は、巨人の胴部に収められている。
黒い靄は度重なる魔法攻撃に掻き消され、今では表皮や傷口から細々と漏れ出るばかり。
(詳しいことは決着をつけた後、ゆっくり調べさせてもらおうかのぅ……!)
巨人の周囲を走りながら、単騎で戦い続けるヴィルマ。
りりかの法術を受けた後も、彼女と馬の体調は徐々に悪くなっていた。
それでも、自身で決めた撤退条件にはまだ若干の余裕がある。
(術が発動しない……どうして!?)
何度試みても不発に終わる機導術。クレールは焦っていた。
雪に足を取られ、次第に疲労も増す中、巨人は刻一刻とこちらへ近づいて来ている。
決して動きの速い敵ではないが、時折の急加速のせいで移動のリズムが読めない。
必死で逃げる内、ようやくクレールの靴の裏からマテリアルの光が漏れ出した。
再び宙を舞うと、その着地点にJ・D、そしてアメリアが駆け込んできた。
「無事かい姉ちゃん!」
「とりあえずは……きゃあ!」
ふっ、とジェットブーツの推力が弱まり、馬上のアメリアに激突しそうになる。
慌てて減速、アメリアと向かい合わせの恰好で馬にまたがると、
「ご、ごめんなさい!」
「いえいえ、ご無事で良かったです!」
アメリアはクレールの肩越しに進路を確かめ、馬を後方の仲間の下へ走らせる。
「クレールは助けた、お前も下がれ!」
エヴァンスが駆けつけると、巨人に接近しかけていたりりかが馬を反転させる。
「接近戦――10メートル圏内は危険です、間合いを保って戦って下さい!」
りりかのアドバイスを受けたエヴァンスは、敵の煙玉を避けつつ、射程ぎりぎりで苦無を投ずる。
苦無が巨人のミイラに突き刺さると、J・Dの射撃も始まった。
「凍っちゃくれねえか、コイツも抵抗力が高えらしい――火はどうだ!?」
エヴァンスが片手の松明を、目前に着弾直後の煙玉へ放り込んでみた。
松明の火は吹き上げた煙に巻かれて、ふっと消える。可燃性のガス等ではないようだ。
(魔法の煙か? スリープクラウドや何かと同じ……)
後退するエヴァンスの傍へ、駆け込んできた騎馬が2騎。
誠一と、杖を構えたヴィルマだった。
走りざまに彼女が放った水弾が巨人の胴体を粉々に破壊すれば、
内部に隠れていた巨大な光球がぶわ、と膨らんで、そのまま掻き消える。
後に残されたのは、ばらばらになったミイラの欠片と、大量のごみの山。
●
激しく咳き込み出したヴィルマを、りりかが介抱しつつ、
「ゾンビは全滅させたんですね?」
エヴァンスが頷くと、
「亡霊も……2体とも倒してみせたわい」
もう1体の巨人も、やはり直前にヴィルマが仕留めていた。
「北狄も面倒なモノを作りよる。あれはな……」
「話は帰りがてら聞くぜ。これ以上、汚染地帯に長居しないほうが良い」
対亡霊班3人の分析は、以下のようなものだった。
「古い巨人の亡骸に、核を封じていたようです」
りりかが言うと、
「随分と脆い容れ物に思えるけれど」
テリアのその問いには、ヴィルマが答えた。
「霊体を外部に放出し、魔法で防護しとるようじゃ。
この魔法は攻撃にも転用されとる。煙幕や、クレールが受けた衝撃波なんぞじゃな」
「闇の魔法だと思います……弱点は光。
霊体、あの黒い靄の防御は完全じゃないし、1度散らしてしまえば、魔法以外も充分通じる筈」
クレールが言った。そこでJ・Dが、
「あの煙幕みてえなモンは、結局どういう攻撃なんだ?」
「それ、なのですが」
りりかが差し出した革袋には、大量の塵が詰まっていた。中に混じって、
「こりゃァ歯だ。歯の欠片」
「こっちは爪ですね!」
アメリアが摘まんで見せると、誠一が顔をしかめる。
「巨人の身体の一部、ですか?」
「連中が、煙に混ぜて撃ってきた代物じゃ。
恐らく負のマテリアルで汚染されとるから、皮膚に刺さったり吸い込んだりすれば……」
「確かに、君たちの症状は以前、重度汚染区域で見たものと近い。
汚染を撒き散らす歪虚、連合軍の浄化ルート切り崩しを狙う一手という訳だ」
テリアが付け加えた。
ゾンビについては誠一が、
「詳しい体系は分かりませんが、地球で言うサンボに似た格闘技を使うようです。
群れでかかり、素早い動きで敵を攪乱。関節技で拘束したところを袋叩きにする……」
「で、水の防御属性も持ってやがる、と。
こっちは水の魔法以外で遠距離戦するか、殴り合いには土の魔法武器を使うべきだな」
エヴァンスが言ったところでちょうど、偵察部隊の拠点に到着した。
部隊への報告が終わると、今度は部隊『からの』報告――
テリアの読み通り、戦場となった雪原付近に新たなマテリアル汚染の兆候を確認したとの旨。
りりかはひとり、粉々に砕かれ風化していった巨人たちの亡骸を、
そして北方民族の末路と思しき黒衣のゾンビたちを思い出す。
(死してなお、歪虚に苦しめられているの? 彼らの手先に使われて――
北は、必ず人類が取り戻すから……安らかに、眠って)
亡霊2体の黒い巨体は、白い雪原上に良く目立った。
「巨大な亡霊とはまた、面白いのぅ。一体どういう仕組みなのか、是非教えて欲しいもんじゃのぅ」
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)が、クレール(ka0586)、青山 りりか(ka4415)と共に戦馬を駆る。
先鋒のクレールが魔導銃を構えつつ、
「2体の距離が離れてますね……手前の1体、引き受けます!」
言ったかと思えば早速、遠方の敵が煙玉を放出。3人の手前に着弾し黒い煙が辺りを包む。
「一網打尽にされないよう、分かれたほうが良いかも知れません」
りりかの提案でひとまず散開、100メートル圏内までは敵の狙いも大分甘いようだったが、
「むぅっ」
やがて至近に着弾し、ヴィルマの騎馬が棹立つ。
馬はそのまま騎手の手綱にも応えず、足踏みを始めてしまった。
仲間から狙いを逸らすべく、クレールが突貫。
煙玉をぎりぎりでかわしつつ、まずは1体へ魔導銃を発砲――
亡霊を包む靄が弾丸を呑み込めば、ほんの一瞬、敵の巨体が揺らぐ。
(物理攻撃も、一応効いてる?)
近づくと、敵はまるで黒い壁のようだ。
靄から僅かに覗けた手足は、干からびた巨人のそれだった。
身体のあちこちが欠け、右足など、足首から先がそっくりもげてしまっていた。
歩く動作は形だけで、実際は地上1メートルほどを浮遊しているようだ。
クレールはもう1度銃撃を加えると、機械仕掛けの杖に持ち替えた。
ヴィルマの馬がようやく走り出したのを横目に見て、
「行きます!」
術の射程に敵を収め、ヴィルマと同時に本格的な攻撃を試みた。
巨人の胸にわだかまり始めた煙玉へ、杖を振りかざせば、
「『月雫』ッ!」
青い三日月を模った魔法が黒い靄を散らし、敵を大きく揺るがせた。
(光の魔法が弱点か!)
空中で散った煙玉から、小さな砂粒のようなものがざあっ、とクレールの頭上に降りかかる。
慌てて盾で頭を庇う彼女の下で、馬体がぶるり、と震えた。
●
「えー、これより敵不明ゾンビと交戦します。敵は目測、身長2メートル弱……」
ボイスレコーダーへ戦闘記録を吹き込み始めるアメリア・フォーサイス(ka4111)。
彼女と馬を並べたJ・D(ka3351)は、早速カービン銃を掲げ、
「おお、おお。この寒空の下で随分と元気じゃねえか。もうチョイト冷えたら大人しくなってくれるかよう?」
黒い毛皮を着込んだゾンビの群れが、踊るような身動きで現れる。
「流石に歪虚の領域と化して長いだけあって、北には妙な歪虚が多いようだね?」
ゾンビ対応5人の中で、ひとり馬を置いてきたテリア・テルノード(ka4423)。
敵は未知の歪虚、撤退の足も考えておかねばならない。馬橇も借りてはいたが、
「怪我人を乗せたら、一杯になってしまうかも知れないしね」
「おっと、始まる前から不吉なこと言ってくれるなや」
前衛のエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が軽口を叩くと、隣の神代 誠一(ka2086)が、
「備えは大事です。目的は情報収集、生きて帰ることが先決……ですが、
可能な限りは撃破狙いで。貪欲にいきましょうか」
「流石は先生、悪餓鬼の魂胆を分かってらっしゃる。
誠一の言う通り、当然殲滅が理想だが……まずは全員、記録ができるようしっかり頭に叩き込めよ!」
走り来るゾンビ群へ、アメリアとJ・Dの射撃が飛ぶ。
アメリアは魔法の冷気を込めた弾丸を、J・Dは連射による制圧射撃をぶつけるが、
「とうに死んでるだけあって、頑丈な上にクソ度胸だなァ」
敵はほとんど怯まずに、前衛へとまっすぐ突っ込んできた。
エヴァンスと誠一は同時に突撃を開始するが、
敵は低く身構えたかと思うと、先んじて跳躍からの反撃を挑んできた。
「猿だぜ、まるで!」
エヴァンスは飛び蹴りから身を逸らし、苦無を投じて牽制。
1体が苦無を避けつつ組みつきにかかるが、こちらは肘で殴り倒した。
「速い!」
誠一も絡繰刀を振るうが、敵は柔らかな身ごなしでひょい、と避けてしまう。
ふたりの攻撃をかわしつつ、包囲網を作る敵4体。
(集団戦法の心得もあるか。ここは1度動きを封じて……)
誠一は武器を、炎の魔法を封じた赤い鞭へ持ち替える。
エヴァンスも大剣を握り絞め、敵の一斉攻撃へ備えた。
●
長大な炎の剣が亡霊を撫ぜると、
クレールは炎の起点となっていた杖を戻し、反撃に打ち下ろされた煙玉へ盾を向けた。
煙幕と共に、やはり何かの小さな欠片が勢い良く降り注ぐ。
(一体、どういう攻撃なんだろう……)
思った矢先、敵が滑るような動きで距離を詰めてきた。
(向こうから近づいてくる!? ……それならっ)
咄嗟に振り上げた炎の刃――『火竜』が、敵を全身覆っていた靄を一挙に払う。
敵の正体は、巨人のミイラ。鼻は欠け、目や口はぽかんと開いたまま、虚ろな穴と化している。
着衣はなく、干からびた茶色い皮膚のあちこちに、細かい亀裂が走る。
その亀裂から突如新たな煙が噴出、クレールが退こうとするも、不意に馬の脚がもつれた。
不可視の力が周囲の雪ごと、彼女と騎馬を吹き飛ばす。
(魔法はどちらも効くようじゃ)
ウォーターシュートとライトニングボルト、ふたつの魔法を撃ち分けながら、
ヴィルマは2体目の周囲を騎馬で駆ける。
煙玉はぎりぎりでかわし続けた筈だったが、気づくと頬に不快な痒みを覚えていた。
触れてみれば、小さな棘のようなものが何本か肌に刺さっている。
(む?)
突如、ヴィルマは強烈な胸の痛みに襲われ、咳と一緒に真っ赤な血を吐いてしまう。
「ヴィルマさん!」
異変を察知したりりかが、後方から治癒と解毒の法術を飛ばす。
術の光がヴィルマを包むと、胸の激痛は和らいだものの、
「クレールが危険じゃ!」
もう1体を相手取っていたクレールが落馬した。
彼女の騎馬は亡霊の放つ衝撃波で倒され、騎手を放り出しまま起き上がらない。
ヴィルマの馬も、先程から足取りがおかしい。
(一帯の汚染のせいかのぅ、それとも……)
再びの衝撃波に見舞われる寸前、クレールがジェットブーツで宙を舞う。
残された馬は雪上を転がされた挙句、身動きしなくなった。
敵は心なし薄まった靄をたなびかせ、滑るような不気味な動きでなおも追ってくる。
そして煙玉。クレールはぎりぎりで直撃をかわしつつ、宙を飛んで後退するも、
負傷か、あるいは術の媒介となる装置に故障があったか、
ジェットブーツの噴射が突然止み、地上へ落下してしまう。
(何があっても、ふたりは死なせない!)
りりかが救援に急ぐ。一方のクレールが逃げつつ魔導銃を撃てば、
弾丸がミイラの身体に穴を空け、銃創からは黒い煙と共に、微かな白い光が漏れ出す。
敵が攻撃から身を庇う仕草は全くない。黙々と歩きながら、煙玉を吐き出し続ける。
りりかは思う――
(弱点の核は、一体何処に?)
後方では、ヴィルマの魔法が2体目の巨人を覆う靄を消し飛ばしたところだった。
●
「ちぃっ……!」
エヴァンスが馬上から大剣を振るうが、汚染地帯の影響か、身体の切れがどうも悪い。
それでも、飛びかかってきた3体をまとめて胴斬りにしてみせた。
誠一も鞭で残り1体を拘束、止めを刺すばかりと思えたが、
「俺たちの攻撃だけ、どうも効きが悪いぜ」
後続の4体へ銃撃を加えていたJ・Dが、アメリアにこぼす。
アメリアも同じく射撃を続けていたが、着弾の瞬間、
(発光?)
ゾンビの体表に命中した弾丸が、微かな光を上げて弾ける様を見た。
魔法の光か? ふたりの猟撃士が弾丸に込めた魔力は水の属性、
「――誠一さん、その鞭は!」
後続4体が合流し、エヴァンスと誠一に襲いかかる。
誠一が敵から一旦鞭を解き、防御へ身構えようとするが、
直前でアメリアの声を聞き、咄嗟にワイヤーウィップを腰元から抜いた。
素早く伸びた鋼線がゾンビを絡め取ると、即座にモーターが駆動し、四肢を切り裂く。
「そうかい、合点が行った!」
J・Dが魔力抜きの普通の弾丸を残りの敵を撃ってみると、
撃たれた敵は、先程より大きく体勢を崩したように見えた。テリアが言う、
「彼ら、水の魔法をまとっているね。猟撃士のスキルは同属性で相殺され、威力が半減されてしまう。
それに誠一君の使っていた鞭は火の魔法武器。弱点は水だから」
「ここでは悪手だった、ということですね」
ワイヤーウィップに持ち替えた誠一が、後ろへ抜けそうになったゾンビを捕まえると、
アメリアの、やはり魔力抜きの銃弾が止めを刺す。
残るは3体。エヴァンスが内2体を叩き斬り、最後の敵へは旋棍で挑みかかる。
馬上から身を乗り出して殴りつけようとしたところ、
「おわっ」
ゾンビは鮮やかな動きで、飛びつき腕十字を仕掛けてきた――
が、既に鋼線を仕掛けていた誠一が首を刎ね、敵の攻撃は不首尾に終わった。
「おいおい、獲物を横取りするなよ」
「失敬。しかしもう1班が気になりますから……」
誠一が言うと、
「対ゾンビ戦終了、所感は後ほどまとめます!」
アメリアが大慌てでレコーダーに吹き込む。彼女が見ていたのは雪原の向こう、
巨人に追われるクレールの姿だった。りりかが救援に急いでいるが、
彼女とクレールの間に巨人が割り込んだ恰好で、法術の支援が届くか分からない。
「良かったな、獲物が増えた」
J・Dは用意していた松明に火を点け、エヴァンスへ手渡す。
「お前サンのが敵に近づけそうだからな。実験頼む」
「喜んで。3人は――」
「アメリア君、クレール君を拾ってくれるかい? 誠一君はヴィルマ君の援護に。
私は橇を持って来る。治療と撤収の準備をしておくよ」
テリアが言うなり、4人各々、対巨人班の応援に走った。
●
「やれやれ、脆そうな外見の癖、意外とタフじゃな」
ヴィルマの杖から迸る雷撃が、巨人の頭部を打ち砕いた。
もげた首の断面から光が溢れ出す。恐らく亡霊の核は、巨人の胴部に収められている。
黒い靄は度重なる魔法攻撃に掻き消され、今では表皮や傷口から細々と漏れ出るばかり。
(詳しいことは決着をつけた後、ゆっくり調べさせてもらおうかのぅ……!)
巨人の周囲を走りながら、単騎で戦い続けるヴィルマ。
りりかの法術を受けた後も、彼女と馬の体調は徐々に悪くなっていた。
それでも、自身で決めた撤退条件にはまだ若干の余裕がある。
(術が発動しない……どうして!?)
何度試みても不発に終わる機導術。クレールは焦っていた。
雪に足を取られ、次第に疲労も増す中、巨人は刻一刻とこちらへ近づいて来ている。
決して動きの速い敵ではないが、時折の急加速のせいで移動のリズムが読めない。
必死で逃げる内、ようやくクレールの靴の裏からマテリアルの光が漏れ出した。
再び宙を舞うと、その着地点にJ・D、そしてアメリアが駆け込んできた。
「無事かい姉ちゃん!」
「とりあえずは……きゃあ!」
ふっ、とジェットブーツの推力が弱まり、馬上のアメリアに激突しそうになる。
慌てて減速、アメリアと向かい合わせの恰好で馬にまたがると、
「ご、ごめんなさい!」
「いえいえ、ご無事で良かったです!」
アメリアはクレールの肩越しに進路を確かめ、馬を後方の仲間の下へ走らせる。
「クレールは助けた、お前も下がれ!」
エヴァンスが駆けつけると、巨人に接近しかけていたりりかが馬を反転させる。
「接近戦――10メートル圏内は危険です、間合いを保って戦って下さい!」
りりかのアドバイスを受けたエヴァンスは、敵の煙玉を避けつつ、射程ぎりぎりで苦無を投ずる。
苦無が巨人のミイラに突き刺さると、J・Dの射撃も始まった。
「凍っちゃくれねえか、コイツも抵抗力が高えらしい――火はどうだ!?」
エヴァンスが片手の松明を、目前に着弾直後の煙玉へ放り込んでみた。
松明の火は吹き上げた煙に巻かれて、ふっと消える。可燃性のガス等ではないようだ。
(魔法の煙か? スリープクラウドや何かと同じ……)
後退するエヴァンスの傍へ、駆け込んできた騎馬が2騎。
誠一と、杖を構えたヴィルマだった。
走りざまに彼女が放った水弾が巨人の胴体を粉々に破壊すれば、
内部に隠れていた巨大な光球がぶわ、と膨らんで、そのまま掻き消える。
後に残されたのは、ばらばらになったミイラの欠片と、大量のごみの山。
●
激しく咳き込み出したヴィルマを、りりかが介抱しつつ、
「ゾンビは全滅させたんですね?」
エヴァンスが頷くと、
「亡霊も……2体とも倒してみせたわい」
もう1体の巨人も、やはり直前にヴィルマが仕留めていた。
「北狄も面倒なモノを作りよる。あれはな……」
「話は帰りがてら聞くぜ。これ以上、汚染地帯に長居しないほうが良い」
対亡霊班3人の分析は、以下のようなものだった。
「古い巨人の亡骸に、核を封じていたようです」
りりかが言うと、
「随分と脆い容れ物に思えるけれど」
テリアのその問いには、ヴィルマが答えた。
「霊体を外部に放出し、魔法で防護しとるようじゃ。
この魔法は攻撃にも転用されとる。煙幕や、クレールが受けた衝撃波なんぞじゃな」
「闇の魔法だと思います……弱点は光。
霊体、あの黒い靄の防御は完全じゃないし、1度散らしてしまえば、魔法以外も充分通じる筈」
クレールが言った。そこでJ・Dが、
「あの煙幕みてえなモンは、結局どういう攻撃なんだ?」
「それ、なのですが」
りりかが差し出した革袋には、大量の塵が詰まっていた。中に混じって、
「こりゃァ歯だ。歯の欠片」
「こっちは爪ですね!」
アメリアが摘まんで見せると、誠一が顔をしかめる。
「巨人の身体の一部、ですか?」
「連中が、煙に混ぜて撃ってきた代物じゃ。
恐らく負のマテリアルで汚染されとるから、皮膚に刺さったり吸い込んだりすれば……」
「確かに、君たちの症状は以前、重度汚染区域で見たものと近い。
汚染を撒き散らす歪虚、連合軍の浄化ルート切り崩しを狙う一手という訳だ」
テリアが付け加えた。
ゾンビについては誠一が、
「詳しい体系は分かりませんが、地球で言うサンボに似た格闘技を使うようです。
群れでかかり、素早い動きで敵を攪乱。関節技で拘束したところを袋叩きにする……」
「で、水の防御属性も持ってやがる、と。
こっちは水の魔法以外で遠距離戦するか、殴り合いには土の魔法武器を使うべきだな」
エヴァンスが言ったところでちょうど、偵察部隊の拠点に到着した。
部隊への報告が終わると、今度は部隊『からの』報告――
テリアの読み通り、戦場となった雪原付近に新たなマテリアル汚染の兆候を確認したとの旨。
りりかはひとり、粉々に砕かれ風化していった巨人たちの亡骸を、
そして北方民族の末路と思しき黒衣のゾンビたちを思い出す。
(死してなお、歪虚に苦しめられているの? 彼らの手先に使われて――
北は、必ず人類が取り戻すから……安らかに、眠って)
依頼結果
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作戦会議 エヴァンス・カルヴィ(ka0639) 人間(クリムゾンウェスト)|29才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/10/24 15:08:00 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/21 08:48:28 |