血の杯

マスター:湖欄黒江

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2015/10/31 07:30
完成日
2015/11/05 22:13

みんなの思い出

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オープニング


 難民の一団に紛れた、流れの職人・ターク氏とその妻子。
 夜明け頃、戦火に巻き込まれた名も知れぬ村を通り抜ける間、
 彼らは2頭立ての馬車の中で息を殺していた。

 列の先頭では、革命軍が検問を敷いていた。
 近く、帝都への進撃が始まるらしい。帝国軍との交戦が予想される侵攻ルート上の村々から、
 いち早く逃れて来た住民を、革命軍が自らの占領地域へと誘導していく。
 ターク一家の番が来ると、金子を預かっていた御者が車外で、
「4人です。男ふたり、女ひとり、子供ひとり」
「見せろ」
 難民には保護と引き換えに、財産の供出が求められる。
「良し、行け」
「革命万歳!」
 金を払い終えた御者が、再び馬車を動かす。
 ターク氏の一人娘は小窓のカーテンをそっとめくって、外の様子をうかがった。

 魔導銃で武装した革命戦士たち。
 彼らの頭上、村の出入口のアーチには、首を吊られた裸の死体がいくつもぶら下がっている。
 内ひとつ、絶叫の表情をしたままどす黒く腐った死体の口から、大きな蠅が何匹もわっと飛び出した――


「ドリス」
「おうっ」
 応接間のソファでうなされていたドリスを、編集長のヴァルターが叩き起こした。
 帝都地元紙『バルトアンデルス日報』、通称・バルツの社屋。壁かけ時計の針は午前5時を指す。
「出られるか?」
「そりゃもう。火事? 殺人? 水難事故? 現場は」
 起き抜けに、まずは煙草をくわえて火を探すドリスだったが、
「バルデンプラッツ。ヴェールマンが殺られた」
 現場を教えられるなり、ヴァルターを押し退け、玄関ホールへ駆け出した。
 フロックコートの裾を翻し、走り去っていく彼女の背に編集長が言う、
「クリストフをつける。現場で落ち合え!」

「どきな」
 社屋前で配達の準備をしていた少年から、自転車を奪い取る。
 目指すはイルリ河北岸・バルデンプラッツ区。
 バルトアンデルス城はじめ、帝国軍・政府の施設が集まる帝都の中心部だ。
 同時に、新興ブルジョワや企業の事務所が数多く立ち並ぶ、ビジネス街でもある。
 銀行家にして悪徳高利貸のヴェールマンも、そこにオフィスを構えていた筈だが、
 今回の事件現場となったのは――


 同僚のクリストフが着く頃には、おおよその状況が分かっていた。

 現場は、区内にある高級ホテル上階の一室。
 明け方、まずは廊下に転がっていた男の死体ふたつをボーイが見つけた。
 ヴェールマンは2部屋に仕切られたその階を、丸ごと貸切していたようだが、
 彼自身の遺体は、イルリ河を見下ろす南側の部屋にあった。

 死因は頸部断裂。首をばっさり切り落とされた。
 胴体は半裸でベッドに放り出され、首は床に転がっていた。
 室内には他に旅行鞄ふたつと、血だらけのドレスが放置されていたが、持ち主の姿はなし。
 廊下の死体はどうやらボディガードだったらしいが、
 どちらも刃物で胸をひと突きされ、ドアの前に倒れていた。
「プロの仕業だな」
 クリストフが言う。
「何らかの方法で室内へ侵入、ヴェールマンを殺った後、
 異変に気づいて駆けつけた用心棒を、ドアを開けるなり、ぶすっと」
 そう言って、彼はペンで突き刺す真似をする。
「となると、ドレスを着ていた女は何処へ行ったんだ?」

「その女が犯人だったに決まってるでしょ」
 手帳を持つ手を宙に遊ばせながら、ドリスが答える。
「ヴェールマンを殺して、返り血を浴びたドレスを着替える。
 それから部屋を出がけ、異変に気づいてやって来た護衛を始末し、退散した」
「その辺の理屈は通るが……ヴェールマンの護衛となりゃ『オルデン』の喧嘩屋に決まってる。
 経験豊富、武装した屈強な男ふたりを簡単にぶっ殺せる女なんて……」
「あんたの言った通り、プロか、覚醒者。その両方かも」
「誰の差し金だ?」
 ドリスは通りから、ホテルの建物を見上げた。
 他の宿泊客、近所から集まった野次馬、記者、それに憲兵たちで辺りは大騒ぎだ。
「恨まれる当てのあり過ぎる男だからねぇ。本命、反体制過激派。対抗、オルデンの内紛。尤も」
 人だかりを半ば押し退けて、帝国軍第一師団の紋章を掲げた馬車がホテル前に現れる。 
 降りてきたのは、第一師団兵長・ダネリヤ。
「現場を押さえた第一師団のほうで、まだ何か隠してそうだけどね」


 事件の翌日。
 第一師団による新情報の開示はなかったが、一方、バルツ社屋に詰めていたドリスの下へは、
 ヴェールマンの葬儀の日取りについて、情報屋から知らせが届いていた。

「取材に行きますよ」
 と、ドリスは編集長に告げる。
「葬儀には市長も出席します。で、まぁ、再開発計画の件も絡めてね。
 フリクセルのほうもそれでいけるでしょ」
「お前さんの狙いはそれだけじゃない、オルデンのことがある」
 図星を突かれたドリスは苦笑し、
「ヴェールマンを殺ったのは十中八九、ブルジョワ嫌いの反体制派でしょうが、
 オルデンのほうも間違いなく報復に動き出す。その予兆が掴めるか……、
 そこまで踏み込めなくても、こりゃ、公の場で幹部が一堂に会する滅多にない機会かも」
「ドリス」
 編集長は赤入れの最中の原稿から顔を上げ、彼女を見つめた。
「お前さん、貧民街特集の絡みで奴らに睨まれてるんだろ。
 これ以上無茶をするな。俺では責任が負えん」
「ご心配なく。取材費さえ相談させてもらえりゃ、後はこっちに考えが」


 オルデン――正式名称は『バルトアンデルス革命騎士団』などと言うらしい。
 帝都に縄張りを持つ暴力集団『ジッペ(氏族)』大小各派の連合で、
 元革命義勇兵にして暗黒街の顔役、オラウス・フリクセル団長の下、
 ジッペ間の利害調整や、他地方の犯罪組織に対する団結を目的として運営されている。
 組織はまず団長・フリクセルとその一家をトップとしつつ、
 幹部格は主にフリクセル直参のファーター(父君)で占められる。

 主な幹部はまず、次期団長候補最有力、帝都南部を手広く仕切る『剃刀』フィリップ・ルディーン。
 帝都南東を押さえる武闘派、レオ・ラングハイン。
 北東、同盟系商人の大物、マヌエル・ガスコ。
 他、革命以前から続く古株の博徒・ユングや、職工ギルドの用心棒・プラトーノフ、等々。

 亜人や辺境移民のジッペもいくつか参加しているが、外様扱いで、運営の中枢に加わることはできない。
 尤も、工房や職人と繋がりの深いドワーフたちは、プラトーノフを通じて一定の影響力を保持しているそうだ。

(銀行家として長らくオルデンの金庫番もやってたヴェールマンが、今回殺された。
 葬儀には必ずフリクセル以下、大物が詰めかける)
 葬儀の後には、参列者を招いての食事会も用意されているそうだ。
 顔の割れていないハンターたちを使えば、正面切っての取材では得られない情報が手に入る筈。

 ドリスは編集長からふんだくった取材費を元手に早速、ハンターへ依頼状を出した。

リプレイ本文


「本当に、この部屋ですか」
 第一師団兵長・ダネリヤを訪ねた真田 天斗(ka0014)が、そう訊くのも無理はなかった。
 ヴェールマンが殺されたホテルの一室は、
 家具が運び出され、絨毯も剥され、壁まで塗り替えられていた。

 それでも間取りを調べつつ、当時の状況を脳裏に思い描く。
「何故、氏はこの階を貸切っていたのでしょうか」
「彼はホテルの常客だった。この階には2部屋しかない、片方は用心棒の為だ」
 調べを進めながら、天斗は気のない様子の兵長に質問をぶつけた。
 被害者に抵抗の痕はあったか? 同室の客の素性や残された荷物の中身は?
 犯人が逃走した形跡や目撃証言は? 共犯者のいた可能性は? そして、
「プロの暗殺なら証拠は残さない。何故……」
「タカト」
 兵長が言った。
「我々はあらゆる証拠を記録・保管の上、全力で捜査に当たっているが、
 目下、ハンターへ協力を依頼する予定はない。君を通したのもあくまで好意によるものだ。
 依頼主へは好きに伝えたまえ。だが、我々は君の推測に一切の肯定も否定も与えない」


「この事件は犯人からのメッセージに違いありません。
 不自然な点が多過ぎる……それ以前に、多くの情報が師団によって遮断されていますが」
 天斗はヴェールマンの葬儀へ合流、ドリスと顔を合わせる。彼女が言った。
「真田さんのコネでも壁抜けは無理、か。となると、後は今日の首尾次第……」

(警備はFSDと憲兵が半々)
 礼拝堂の前をぶらつきながら、ダリオ・パステリ(ka2363)は周囲を観察した。
 FSDが六尺棒を、憲兵が剣を帯びつつ、殴り込みを警戒するかのように表通りを見張っている。
(反体制派のテロに備える、といった具合だな。故人の評判からして無理からぬことではあるが)
 その他、陰険な目つきで弔問客を見張る喪服姿の男たちが、あちらこちらに。
 師団の捜査員か、オルデンの兵隊。判別は困難だったが、
 もし師団が弔問客を監視しているのであれば、専ら抗争を疑っていることになる。
(宿主である帝国同様、オルデンも一枚岩ではあるまい。
 ヴルツァライヒ辺りの仕業とすれば分かり易かろうが、果たしてそう単純なものか……)

 黒塗りの馬車が、通りにずらりと並ぶ。オルデンのお出ましだ。
 黒服の強面に囲まれたフリクセル。脇を固める腹心・ロートとブラウ。
(そして、あれが)
 遠巻きに見ていたメリル・E・ベッドフォード(ka2399)が、新たな一団を確認する。
 手下を引き連れた、細面に鷲鼻、額の広い黒髪の男。フリクセルに追いつき、話し込み始めた。
(組織の第2位、ルディーン様ですね)
 メリルが一足先に礼拝堂で待つと、やがて入ってきたフリクセルたちは最前列に座った。
 強面たちが1列後ろに着き、最前列は幹部専用、と言わんばかりに睨みを効かせ始める。

「落としましたよ、お嬢さん」
 瀟洒な礼装に身を包んだ肥満漢が、礼拝堂前でドロテア・フレーベ(ka4126)にハンカチを差し出す。
 泣き腫らした目で振り返るドロテアに、肥満漢は微笑み、
「お入りにならないのですか」
「ごめんなさい、ご立派な方ばかりで気が引けてしまって」
 ドロテアは女優と身分を騙りつつ、
「一介の役者風情、いくらヴェールマン様をお慕い申し上げていたとて……」
「何を仰いますか。故人も男なら、貴方のような美人に見送られてこそ、ですよ」
 きざな身振りで腕を差し出す肥満漢。
 やはり黒服の男数人を引き連れた、彼の名はマヌエル・ガスコと言った。

 色黒、赤毛の大男が、どすどすと足音を立てて教会へ入って来た。
 男はかけていた色眼鏡を外しつつ、フリクセルへぶっきらぼうに一礼する。
(レオ・ラングハイン)
 メリルが見当をつける。バルツのバックナンバーの、意外な記事でその人柄を知った――
 『ブレーナードルフの巨人』。
 数年前、港の乱闘騒ぎを『仲裁』して、水夫を5人ばかり河へ叩き込んだそうだ。
「ガスコさんよ、葬式に女連れたぁ豪儀じゃねぇか。え?」
 空席にどっかと腰を下ろすや否や、ラングハインは高くしゃがれた声で呼ばわった。
 ガスコは彼を無視してフリクセルに挨拶する。席を勧められたドロテアは、
「あたしのような者が、よろしいので……」
 フリクセルが目配せすると、
 ルディーンが彼女を頭から爪先まで眺め回し、黙って首を振る。フリクセルが言う、
「どうぞ」
 許しを得たドロテアとガスコは、ラングハインから間を空けて座った。


 幹部連から後列、顔を伏せて座るレイ・T・ベッドフォード(ka2398)の耳に、
 フリクセルとルディーンの小声のやり取りが入ってきた。
 霊闘士の超聴覚が聞き分けた会話――
「例の小僧は?」
「闘技場のほうに。吐かせはしましたが、女の居所までは知らんようです」
「式がはけたら、私も話を聞きに行くとしよう」
「師団の探偵を撒かにゃなりません。連中――」
 他の幹部が現れ、会話が途切れる。
(『闘技場』? 手がかり、かも知れませんね)

 新たな幹部の現れるたび、メリルが顔と名前、挨拶の順を控えた。
 若衆ふたりを連れた角刈りの男・プラトーノフ。
 柔和な顔つきをした初老の男・ユングには、用心棒と思しき連れがひとり。
 どちらもごく当たり前の挨拶をして、ラングハインとガスコの間の席を埋めた。
 続いて格下のジッペの『父君』らも集まるが、
 最前列には、故人の親族に残された部分を除いてまだひとつ空席がある。
(大物は、既に揃った筈ですが)
 レイが視線を上げたところで、思いがけない人物の来訪を目撃した。
 思わず顔を背ける。前方では、かの来客の挨拶が済むと共に、
 喪主のダニエラがやっと姿を現したようだった。


 ダニエラ・ヴェールマンはまだ10代の終わりと思しき、美しい女性だった。
 癖のない長い金髪を束ね、細身の黒いドレスを着こなしている。
 表情や口ぶりはあくまで冷静そのもので、
 最前列で女中にかしずかれ、咽び泣く未亡人とは対照的だった。

 葬儀自体は一般的なエクラ式の手続きで進み、やがて墓地での祈祷と棺の埋葬に終わる。
 その間、未亡人の他に涙を見せる者はいなかった。白い花で敷き詰められた墓穴を見下ろして、
 ウィンス・デイランダール(ka0039)はふと、遺体の首はちゃんと繋がったのだろうかと気になった。

 弔問客が食事会へ河岸を移し始めると、ウィンスは隙を見て喪主を捕まえた。
 彼がさらりと吐いた、思ってもいない悔やみの言葉を、ダニエラはすんなりと受け入れる。
 故人と仕事で縁のあったハンターと名乗り、
「あんたのお父上の訃報を聞いて、悲しんだ奴だとか、或いはその逆の奴だとか、
 まあ沢山いるようだが……俺はその何方でもなかった。分かるか?
 どうせ死ぬなら、俺にもうひと儲けさせてからにしろ、だった」
 冗談紛れに言うが、ダニエラは曖昧な笑みで応えるばかり。
「実際、金持ってんなら覚醒者を雇えば良かったんだ。
 あの世で帝都の人間に死亡理由のアンケートを取ったら『人間』が1位で、『歪虚』は15位ぐらいだろ」
「仰る通りですね。貴方がいれば、父は今頃息災だったかも分かりません」
 ああ全く残念だ、と返すと、
「しかし貴方がたも、北伐などでお忙しいでしょう」
「さてね。戦場で命を張るより楽に儲かりゃ、嬉しいってこともある」
「私たち家族は精々慎ましく生きていくつもりです。お生憎ですが」
 世話になる当てはないと言い、ダニエラは微笑んだ。

 ウィンスはしばし考えた後、頭を掻いて、
「喪の席で売り込みとは、我ながら下品だった。謝る。
 だが残されたあんたらが心配なのも本当だ……親父さん、何で死んだんだ」
「恐らく、世間で言われている通りです。父は成功を妬まれ、恨まれていました」
「革命成金は他に幾らもいるぜ」
「運が悪かった、隙が多かった、他の人より余計に恨みを買っていた――
 何かの陰謀があった。訊きたいのはそれですか?」
 ウィンスは、墓穴を振り返るダニエラの後ろ姿を見つめた。
 小柄な女だ。しかし背筋を張った立ち姿と、
 身にまとう空気――迫力とすら言えるそれが、彼女を実際以上に大きく見せかけていた。
「……あんた、親父さんのことは好きだったか」
「愛していた、と口先で答えるのは簡単です。降って湧いた不幸としか思えない、と答えるのも。
 でも、その言葉だけで納得頂けるかどうか。

 訂正します。再開発事業の件で、貴方がたには今後お世話になるでしょう。
 加えてもうひとつ。父が斃れてなお、『我々』は健在ですよ」
 墓地の出口へと歩き出したダニエラへ、ウィンスが言う。
「親父を継いでオルデンと組むか。単なる義理でやってんなら、止めとけよ。
 抜けられねー事情があんなら俺が力に……」
 ダニエラがこちらを向いた。笑顔だった。
「ご心配なく。見た目ほどに、私は小娘ではありませんから」


「協会は、既に彼とは『切れて』いた。
 あの蜂起事件を機に、労働者の債権や地権については整理したからね」
 シュレーベンラント紡績協会会長・シュトックハウゼン氏がダリオに語る。
 墓地からの帰りに連れ立ったふたりは、人目を気にしつつ、
「では、貴公の仕事と故人とは、直接には関係なかったと?」
「責任が全くない訳じゃないが、彼との取引はFSDと同じで前会長の判断だったから」
 氏の歯切れの悪さは、協会所有の土地、及び労働者の身元が未だ、
 生前のヴェールマンから買い上げたもので占められているせいらしかった。
「1度、個人的に融資を求めたこともあるが、それも立ち消えで。
 単なる知り合い以上ではなかった、と言えば言えるだろう」
「SKMの件もあり、そちらの事業に悪影響がないか気になり申したのでな。此度の事件……」

 自身も反体制派に賞金をかけられ、襲撃されたことさえあるシュトックハウゼン氏。
 彼はてんから、ヴェールマン殺害は反体制派の仕業と考えていた。
「第一師団は、何の発表もしておらなんだが」
「政治だよ。ヒルデガルドの反乱が片づき、北伐で改めて帝国の健在を示そうって矢先、
 反体制派がブルジョワの有名人を暗殺したなんて話、大事にしたくないのさ。
 犯行声明があったか、今後出されるのか分からないが、それも当面は黙殺されるだろう」
「実はオルデンの内紛だった、という落ちはあるまいか」
 氏は辺りを見回すと、声を落とし、
「僕にはそこまで分からないけど、どちらにせよ、オルデンが報復の動きを見せるの間違いない。
 師団に任せきりじゃ、彼らの面子が立たないからね」


 食事会の席で、ドリスと天斗は正面からフリクセルへ取材を申し込んだ。
 フリクセルは市長、それにルディーンを脇に置いて、質問に答える。
「許し難い犯罪によって、盟友の命は失われた。だが我々は歩みを止めんということだ。
 市長殿と私と、この席に集った事業主の皆の協力も得て、計画はますます発展する」
 市長も似たような答えだった。ドリスの相棒を名乗った天斗が、
「ルディーンさん、貴方も関わっておられるのですか?」
「ほんのお零れですがね、何せ大計画だから……」
 ルディーンの受け答えはあくまで実業家といった風情だったが、
 そうして当り障りのない話を続ける内、彼の天斗を見る目が笑っていないのに気づく。

「まぁ、嫌だわ!」
 ドロテアが、ガスコに抱かれて笑い声を上げる。
 プラトーノフとユングも同席し、その場は至って和やかな雰囲気だった。
 ふたりの幹部は振る舞いも上品だが、時折見せる目の暗さは流石、年季の入った侠客らしい。
 一方、こちらは酔いの回り始めたらしいガスコをあしらいつつ、
(外様幹部の集まりね。今回の事件には深く立ち入らないつもりかしら。
 まぁ良いわ、コネを作っておいて損はないし……)
 気になったのはユングの用心棒。
 頬に大きな傷跡のある精悍な男で、席上でただひとり、ドロテアに対する油断がない。
 彼女が目を逸らした先、フリクセルたちを挟んで奥の席では、ラングハインがむすっとした顔でいる。

「何者だ」
 ラングハインは、王国貴族というメリルの自己紹介を信じなかった。
 微笑みで紛らそうとする彼女を、腕組みして睨みつけ、
「河原の女の知り合いだろう。何者だ」
 河原――マティのことか。
「ラングハイン!」
 ルディーンが諫めに来た。
「ヴェールマンさんのお客だろうが――」
「じゃかあしい、何が客じゃ! 得体の知れん者をほいほいと招きおって!」
「レオ」
 フリクセルが一喝すると、ラングハインは椅子を蹴って立ち上がり、
「女。ワシに用なら事務所へ来い、おべんちゃらは結構じゃ」
 言い残して、どすどすと歩き去っていく。

 ルディーンに詫びを言われつつ、メリルははたと気づいた。
(FSD……アトリエ完成パーティの警備で、わたくしたちの顔を控えていたのですね)
 もうひとつはっきりしたこと――
 ラングハインは組織の第3位にありながら、オルデンという壁から外れかけた煉瓦だ。
 揺さぶれば向こう側が覗けるかも知れない。尤も、壁ごと倒れてくる恐れもあるが。


「済まなかったな。仕事仲間が、お姉さんにとんだ失礼をした」
「いえ、お気になさらず」
 レイとフリクセルが、献杯の手を交わす。
「計画の件が気になって来たのだろう?」
「ええ。まさかウェールズ様が……」
「ヴェールマン」
 すかさず訂正され、気まずい顔で見つめ合うと、
「全く、正直な男だな!」
 やおら相手は笑い出した。レイがこほん、と咳をひとつして、
「ヴェールマン様、の後継者は、計画はどうなるのですか?」
「記者さんにも言った通りだ、問題ない。彼を失ったのは痛手だったが、
 彼の遺産、債権も含めてヴェールマン婦人が相続する。
 故人の意を汲み、当初の予定通りに出資してくれるそうだ」
 フリクセルがふっと首を傾ける。未亡人は食事会の席におらず、
 代わりに示したのは、お酌をして回るダニエラだった。
「実際にはご息女のダニエラ様が、ということですか?」
「大変な才女でな。塞翁が馬、思いがけない助っ人さ。若い力が我々を助けてくれる」

 そこで、フリクセルが『彼』を手招きした。
 葬儀でも、食事会でも出しゃばらず隅に控えてはいたが、
 その傲慢なにやけ顔は、貧民街で会ったときからそのままだった。
「彼もそうだ。新設の北ブレーナードルフ商工会議所……」
「所長のライデンだ。久し振りだな、ハンター」
 貧民街少年ギャングのリーダー・ライデンが、フリクセルの隣に座る。
「……そう、なりましたか。何はともあれ、おめでとうございます」
 レイに酌をさせながら、ライデンは言う。
「今後、地元商店の仕切りは俺がやる。
 用事はシュタートゥエ……じゃねぇ、商工会議所を訪ねてくれや。場所は分かるだろ?」
「帝都の発展と、我が亡友の冥福を祈って」
 何食わぬ顔のフリクセルが音頭を取り、3人で乾杯をする。
 レイの口に、その酒はやけに苦い味がした。

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参加者一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗(ka0014
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 帝国の猟犬
    ダリオ・パステリ(ka2363
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • SKMコンサルタント
    レイ・T・ベッドフォード(ka2398
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 闊叡の蒼星
    メリル・E・ベッドフォード(ka2399
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • 燐光の女王
    ドロテア・フレーベ(ka4126
    人間(紅)|25才|女性|疾影士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/10/27 22:10:11
アイコン 相談しましょ♪
ドロテア・フレーベ(ka4126
人間(クリムゾンウェスト)|25才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/10/31 00:42:23