ゲスト
(ka0000)
アヒルvsパルム
マスター:葉槻
- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/27 12:00
- 完成日
- 2015/11/04 22:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ある晴れた秋の日のこと
「パールームーっ!! ぜーったいパルムのほうがかわいいもん!!」
「あーひーるーっ!! ぜーったいアヒルのほうがかわいいもん!!」
「「なにをぉおおお!!」」
冒険都市リゼリオ。この街の一画にあるパン屋さんの前でとっくみあいの喧嘩を始めたのは小さなお客様。
「これこれ、何をしとるのかね!」
「これ、やめなさい!」
2人の保護者がそれぞれの子供を抱きかかえて引き剥がすと、2人は同時に背後の親に向かって訴え始めた。
「だって! あの子、あのパルムのお菓子、可愛くないって言うんだもん!」
「だって! あの子、あのアヒルのお菓子、可愛くないって言うんだもん!」
うわぁーん!! と同時に泣き始めた2人に、親同士は顔を見合わせて思わず溜息をこぼしたのだった。
「はぁ、なるほど。それじゃぁ、ご利用頂くハンターの皆さんのご意見も伺ってみましょう」
その騒動を微笑ましく見守っていた店主はのんびりと言いながら4人へと近付いた。。
「収穫祭にちなんだ何かをしようかなぁと思っていたのですがね、どうにもありきたりになってしまうので、何か良いアイディアは無い物かと悩んでいたところだったんです! いやぁ、有り難う。君達のお陰で楽しいイベントを開けそうだよ」
きょとんと泣き止んだ2人の子供の頭を撫でて、ふわりと微笑むと、呆気にとられている両親に向かって、いたずらっ子のような笑みを向けた。
●そんなこんなで君はどちらがお好み?
ハンターオフィスの掲示板に一枚のポスターが貼られた。
----------------------------------------------------
『収穫祭 ~パルムvsアヒル あなたはどちらがお好き!?~』
秋の気配も深まり、今年も美味しい栗と美味しい南瓜、美味しいサツマイモが沢山取れました。
これらを使ってお菓子を作ってみましたが、お子様達の間で『どっちが可愛いか』でバトルが勃発してしまいました。
これは是非、ハンターの皆様にもご協力いただき、頂上決戦をさせていただけたらと思っております。
つきましては、当店までご足労頂けますと幸いです。
☆ルール☆
お一人様につき、1枚の投票券をお渡しします。
アヒル型かパルム型、この二種類のいずれかを選んで、投票して下さい。
----------------------------------------------------
「……なんぞこれ?」
思わず足を止めたハンターの1人が、通り掛かった説明係の女性を捕まえて説明を要求する。
「なんでも、今年は栗も南瓜もサツマイモも大変豊作だったそうで、それらを使ってお菓子を作ったんだそうです」
そのパン屋としては、みんなから親しみやすいキャラクターをモチーフにしたお菓子にしようと、パルム型のお菓子を作った。
しかし、今回手元にある食材が皆黄色かったことから、黄色い=アヒルでも可愛いんじゃないかと、アヒル型のお菓子も一緒に並べたらしい。
すると、小さなお客様同士でどっちが可愛いか勝負が始まってしまった、という経緯があるらしい。
「味は皆同じです。ただ、形が違うだけなんだそうです」
パルム型はカサの部分に食紅を使って変化を出したりして、個性を出しているらしい。
一方でアヒル型は大中小と大きさに変化を付けて個性を演出しているらしい。
「結局は、『みんな違ってそれがいい』という話しなんですけどね……ただ見た目の可愛さというのは趣味趣向がどうしても出ますしね。今ではこの切欠になった子ども達も自分の好きなほうを頬張るという形で落ち着いて居るそうです」
「もう決着が付いているのならいいじゃないか……」
呆れ口調のハンターに向かって、女性はふふ、と笑う。
「まぁ、店主としては票の多かった方のお菓子の型を使って今後もまたお菓子作りに励みたいそうですよ」
さらに、各地域を飛び回っているハンター達からアイディアを貰って、新作へと繋げたいという職人魂みたいなものもあるらしい。
「まぁ、パン屋さん主催の収穫祭とでもいいますか、お祭りみたいな物らしいので、気軽に行ってみては如何ですか?」
女性にそう言われ、ハンターは頭をぽりぽりと掻いて「ガラじゃ無いんだけどなぁ」なんてぼやきながら、開催の日付と場所を確認したのだった。
「パールームーっ!! ぜーったいパルムのほうがかわいいもん!!」
「あーひーるーっ!! ぜーったいアヒルのほうがかわいいもん!!」
「「なにをぉおおお!!」」
冒険都市リゼリオ。この街の一画にあるパン屋さんの前でとっくみあいの喧嘩を始めたのは小さなお客様。
「これこれ、何をしとるのかね!」
「これ、やめなさい!」
2人の保護者がそれぞれの子供を抱きかかえて引き剥がすと、2人は同時に背後の親に向かって訴え始めた。
「だって! あの子、あのパルムのお菓子、可愛くないって言うんだもん!」
「だって! あの子、あのアヒルのお菓子、可愛くないって言うんだもん!」
うわぁーん!! と同時に泣き始めた2人に、親同士は顔を見合わせて思わず溜息をこぼしたのだった。
「はぁ、なるほど。それじゃぁ、ご利用頂くハンターの皆さんのご意見も伺ってみましょう」
その騒動を微笑ましく見守っていた店主はのんびりと言いながら4人へと近付いた。。
「収穫祭にちなんだ何かをしようかなぁと思っていたのですがね、どうにもありきたりになってしまうので、何か良いアイディアは無い物かと悩んでいたところだったんです! いやぁ、有り難う。君達のお陰で楽しいイベントを開けそうだよ」
きょとんと泣き止んだ2人の子供の頭を撫でて、ふわりと微笑むと、呆気にとられている両親に向かって、いたずらっ子のような笑みを向けた。
●そんなこんなで君はどちらがお好み?
ハンターオフィスの掲示板に一枚のポスターが貼られた。
----------------------------------------------------
『収穫祭 ~パルムvsアヒル あなたはどちらがお好き!?~』
秋の気配も深まり、今年も美味しい栗と美味しい南瓜、美味しいサツマイモが沢山取れました。
これらを使ってお菓子を作ってみましたが、お子様達の間で『どっちが可愛いか』でバトルが勃発してしまいました。
これは是非、ハンターの皆様にもご協力いただき、頂上決戦をさせていただけたらと思っております。
つきましては、当店までご足労頂けますと幸いです。
☆ルール☆
お一人様につき、1枚の投票券をお渡しします。
アヒル型かパルム型、この二種類のいずれかを選んで、投票して下さい。
----------------------------------------------------
「……なんぞこれ?」
思わず足を止めたハンターの1人が、通り掛かった説明係の女性を捕まえて説明を要求する。
「なんでも、今年は栗も南瓜もサツマイモも大変豊作だったそうで、それらを使ってお菓子を作ったんだそうです」
そのパン屋としては、みんなから親しみやすいキャラクターをモチーフにしたお菓子にしようと、パルム型のお菓子を作った。
しかし、今回手元にある食材が皆黄色かったことから、黄色い=アヒルでも可愛いんじゃないかと、アヒル型のお菓子も一緒に並べたらしい。
すると、小さなお客様同士でどっちが可愛いか勝負が始まってしまった、という経緯があるらしい。
「味は皆同じです。ただ、形が違うだけなんだそうです」
パルム型はカサの部分に食紅を使って変化を出したりして、個性を出しているらしい。
一方でアヒル型は大中小と大きさに変化を付けて個性を演出しているらしい。
「結局は、『みんな違ってそれがいい』という話しなんですけどね……ただ見た目の可愛さというのは趣味趣向がどうしても出ますしね。今ではこの切欠になった子ども達も自分の好きなほうを頬張るという形で落ち着いて居るそうです」
「もう決着が付いているのならいいじゃないか……」
呆れ口調のハンターに向かって、女性はふふ、と笑う。
「まぁ、店主としては票の多かった方のお菓子の型を使って今後もまたお菓子作りに励みたいそうですよ」
さらに、各地域を飛び回っているハンター達からアイディアを貰って、新作へと繋げたいという職人魂みたいなものもあるらしい。
「まぁ、パン屋さん主催の収穫祭とでもいいますか、お祭りみたいな物らしいので、気軽に行ってみては如何ですか?」
女性にそう言われ、ハンターは頭をぽりぽりと掻いて「ガラじゃ無いんだけどなぁ」なんてぼやきながら、開催の日付と場所を確認したのだった。
リプレイ本文
●なぜアヒルなのか? それは……
「わたしがアヒル好きだからです!」
ずばばーんという効果音でも鳴りそうな勢いで、胸を張って宣言したのは、今回の収穫祭主催者であるパン屋の店主だった。
収穫祭の開会式。
十野間 灯(ka5632)は店主の言葉を力強く頷きながら聞いていた。
彼女は幼い頃に寝物語で聞いた『幸せを運ぶアヒル』という童話を思い出しながら。
朗々とアヒルへの愛を語り出した店主の耳を女将さんと見られる女性が引っ張って「いい加減におしよ! パンが冷めるよ!」と壇上から引き下ろす。
進行役の女性は苦笑しながら「それでは皆さん今日は一日楽しんで下さい」と開始を告げる鶴の一声で式を締めた。
わぁっと拍手が鳴ると同時に、一斉に人々がパンへ、飲み物へ、または調理台へと移動を始めた。
●パルム達の交流会
「パルムとアヒルのパンかね。これは芸術のセンスを感じるね」
レーヴェ・W・マルバス(ka0276)が楽しげに呟くと、頭に乗っているパルムも同意するようにきゃっきゃとはしゃぐ。
「さぁ、どうぞ!」
天央 観智(ka0896)も飲食コーナーにて手渡されたアヒル型のスイートポテトを頭からほくっと一口囓ると、口の中いっぱいに幸せな香りと甘みが広がった。
「焼きたてパンをそのまま頂ける……というのはよいですよね」
ありふれたロールパンも、焼きたてだと美味しさが段違いである。
観智は朝絞りたてだという牛乳を片手に散策を始めた。
レーヴェが桃の果実酒を手に回っていると、アヒル・パルム両方のカボチャあんパンを手渡されたので、飲食コーナーの空いている席に座り、自分のパルムと並べてみる。
……パルムの子供みたいで可愛い。
そして何より、パルム型のパンをみてはしゃいでいるうちの子(パルム)が可愛い。
パルム型のほうはパルムが気に入ったようなので、レーヴェはアヒル型をおしりからがぶり。
カボチャ餡の素朴な甘さと……なんだろう、ほっこりしたどこか懐かしさを感じる。
餡を味わっていると、知らないうちにテーブルの上にはパルムが2体増えていた。
「どこからきたんだい?」
パンを3体で仲良く分け合いながらきゃっきゃとはしゃいでいる様は大変微笑ましい。
「あぁ! やっと見つけた!」
レーヴェのもと……もとい、テーブルに駆け寄ってきたのは両手一杯に荷物を持ったザレム・アズール(ka0878)だ。
「お前達の分はこっちにあるって……あぁ、すみません」
「いやいや、構わないよ。うちの子も楽しそうだ」
頭を下げるザレムにレーヴェも笑いながら応えると、向かいの席を勧めた。
お互いに軽く自己紹介をして、ザレムは貰って来たスイーツのパルム型の方を3体へと差し出す。
(なお、買おうと思ったら「今日はお祭りだからタダだよ」と言われた。なんて太っ腹)
きゃーっと3体が駆け寄ってきて、仲良くもぐもぐと食している。
……パルム型のスイートポテトを各々食らいつくパルム達……可愛い(可愛い)。
自分もカボチャあんパンを取り出して食べる。
「甘い餡がなんとも……茶が欲しくなるな……? む、これは……」
茶をずずーっとすすると、もう一度あんパンを取り出して今度は割って、餡を確かめながら食べる。
「間違いない、餡にしょう油が入っている! ……ありだな」
「なるほど、しょう油か。謎が解けた」
あまり食べたことはないはずだが、このほんのりと甘さを引き立てる風味は中々良い。
暫くパルムを通しての交流を楽しみ、そろそろお腹もいっぱいになったところでザレムは立ち上がった。
「これからお菓子作りに挑戦するんだ。良かったら食べに後で来てくれないか?」
「あぁ、是非そうさせてもらおう」
ザレムは自分のパルム達――パルパルとパルタを肩へと乗せると、レーヴェとパルムに手を振って去って行く。
レーヴェは果実酒のコップから、小さなおちょこへと少しだけ酒を移すと、パルムへと差し出した。
パルムはふんふんと匂いを嗅いで、きゅっと飲み干すと、きゃーと全身を赤らめた。
「これは酔っ払ったのか……?」
楽しそうにきゃっきゃとはしゃぐパルムを眺めながら、レーヴェは静かに杯を傾ける。
●あぁ、勘違い。
「異世界にまで、あの忌まわしきキノコVSタケノコ対決の魔手が……ここは投票して、戦いに終止符を打っちゃうんだから!」
1人間違った方向に熱意を燃やしちゃっているのはルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)。
なお、周囲にいる人達は彼女が何を呟いているのかよく分からず、静かに距離を取っている。
そして手渡された投票用紙に早速きゅっきゅと文字を書いた。
「私は、【タケノコ】です! これで銀河を2分する長きに渡る戦いに、終止符を打つのです」
ばばーんと効果音が付きそうな勢いで投票用紙を掲げ、投票箱へと入れようとしたその時。
「あの、それ、裏です」
投票箱のそばにいた係りのお姉さん(美人)が申し訳なさそうにルンルンへと声を掛けた。
「え?」
よく見てみると、表だと思って大きく【タケノコ】と書いたその反対側。そちらにはパルムの形とアヒルの形が書いてある。
わざわざイラストになっているのは、字が読めない人への配慮なのだろう。
「可愛いなって思った方の形に丸を打って持って来て下さいね」
係りのお姉さんの優しい微笑みを受けて、ルンルンは耳まで真っ赤にしながら大きく何度も頷いた。
「故郷で似た様な対決があったから、勘違いしちゃいました……可愛さとなると、どっちも可愛くて迷っちゃいます」
ルンルンの言葉を受けて、お姉さんも「そうですね」と頷いた。
「なので、ゆっくり食べて、楽しんで、それからでも良いですよ」
お姉さんの言葉にルンルンは「はい」と頷いて、パンコーナーへと走って行った。
●食い倒れるまで、食べることを辞めない。
残念ながらお持ち帰りは非対応だと聞いた最上 風(ka0891)はがっくりと肩を落としたが、すぐ次の瞬間には顔を上げて、握り拳を胸に熱く誓った。
「持ち帰れないのであれば、食べるのみ!!」
各種3つずつ取って、テーブルに着くとドリンクも果実ジュースにお茶があると聞いて、どちらも取れるだけ取ってきた。
「いっただっきまーす」
風はぱちんと手を合わせると早速黙々と食べることに集中していった。
「……もごもご……正直、可愛さとかはどうでもいいです、お腹に入れてしまえば、何の形も同じですし」
パルム型の一口あんパンを、本当に一口で口の中へ治めた。
「と言うか、黄色なら、キリンとか、ひよことか、狐でもいいんじゃないですかねー?」
ただただアヒルが好きだという店主の好みによる物だと言う事は、最初に聞いたが、やっぱり風としては釈然としない。
「ただ、ま、大きい方が、食べ応えがあるので、いいですねー」
1番大きいアヒルのパンを3口で食べると、ごっきゅごっきゅと葡萄ジュースを飲み干した。
そして、おかわりをするべく、再び席を立ったのだった。
●スイートポテトとちちしりふともも
調理台では、灯がスイートポテトの型抜きに挑戦していた。
少し崩れてしまっても、案外指先で直せたりするのでお菓子初心者でも作りやすいようで、かなり人気らしく、親子連れの姿もちらほらと見えた。
台に向かって身をかがめ、真剣な表情で爪楊枝を使って四つ葉のクローバーを描いていく。
その向かいでは豊かな胸の谷間が、服の間から見えそうで……見えないっ!
その姿に周囲のお父さん達、おませなお兄ちゃん達が「あぁ」と視線を釘付けになっている。
「あーなーたー!」
「お兄ちゃんっ!」
「痛い! 分かった、見てない、俺はなーんにも見てない!!」
「痛い痛い! もー、なんだよー」
漸く一つを納得のいく出来映えに仕上げ、ふぅ、と顔を上げると、周囲の親子連れの様子がなにやらおかしい。
「?」
その原因が自分にあるなど露にも思わず、灯は次の作品へと取りかかっていく。
佐藤 絢音(ka0552)は困っていた。
手に持ったアヒル型のスイートポテトを前にして、硬直していた。
「ど、どうしたの……?」
そのあまりにも真剣な表情に、灯は思わず声を掛けた。
「あひるもかわいいけど、アヒルよりヒヨコの方がかわいいの」
「う、うん?」
絢音は灯を観ることも無く、ただ手元のスイートポテトだけを凝視している。
「でも、こういう形のおかしはどこから食べればいいのか悩むの」
「え、あぁ、なるほど」
「さっき、パルム型のサブレーを貰ったの。あれと同じなのよ……あたまからいくか、お腹からいくか。なんだいなの」
とてもとても真剣に悩んでいる絢音だが、灯からすると、大変微笑ましい悩みでもあった。
思わずクスッと笑ってしまって、この時初めて絢音は灯を見た。
……非常に、非難がましい目線だった。
「どこから食べても一緒とか、そういうのは言っちゃダメなのよ」
「そうだね、ごめんね」
灯は頷いて、絢音と視線を合わせるべくしゃがみ込んだ。
「……たとえば。貴女がまだあと2つ食べられるのであれば、最初の一つは頭からたべて、その次に食べるのはおしりからにしてみたらどうかしら?」
灯の提案に、絢音は大きな瞳を音がしそうな程勢いよく瞬かせた。
「食べ比べてみて、より、食べやすい方があったら、その次からは、食べやすい方で食べたらいいんじゃないかな?」
「すごいの、おねーさん! うん、そうだね。そうしてみるの!」
こくこくと大きく頷いて、絢音はようやく可愛らしい笑顔を見せた。
「ん、それならよかった。……あ、そうだ。よかったらこれも食べてくれる?」
灯が鞄から取り出したのは先ほど灯が焼いていたスイートポテトだ。
四つ葉のクローバーと目の部分にカラメルを使ってアクセントを加えてある。
「わぁ、かわいいの……もらっていいの?」
「もちろん」
そっと大事そうに灯のアヒル型四つ葉のクローバーの意匠入りスイートポテトを受け取ると、絢音は一層嬉しそうに笑ったのだった。
●今回1番の人気商品
リアリュール(ka2003)は事前に焼いて準備して来た生地をそっと取り出した。
丁寧に切り込みを入れ、栗あんを詰めると、さらにマロンクリームを入れる。
粉砂糖で○や☆の模様を入れ、一カ所だけアヒルの形を入れた。
「できた!」
そこにはパルム型のポップオーバーが完成していた。
「とても、可愛らしくて、美味しそうですね」
声を掛けられ振り向くと、そこにいたのはミオレスカ(ka3496)だ。
「お一つどうぞ」
リアリュールは出来たてのポップオーバーをミオレスカに手渡した。
「では、有り難く、いただきます」
丁寧にミオレスカは一礼をすると、そぉっとパルムの傘の部分から口を付けた。
「! これは……、さくっとしているのに、もちもちとした食感っ! ……そしてマロンクリームと餡が、お口の中で素敵なハーモニーを……っ!」
瞳をキラキラと子供のように輝かせながら頬張るミオレスカを見て、リアリュールもつられて笑顔になる。
あんまりにもミオレスカが美味しそうに食べるので、それを見ていた少年が「いいなぁ」と呟いた。
「今、作るから、ちょっと待っててね」
リアリュールは少年に微笑んで再びナイフを手に取った。
こうして、リアリュールが持って来たポップオーバーは作れば作っただけ人の手に渡り、笑顔の素となったのだった。
●でも子ども達の人気ナンバーワンはこちら
「いけません……私もお菓子作りを始めなくては」
ミオレスカは頂戴したお菓子を有り難く食べ終わった後、調理台へと立った。
手際よくカボチャを混ぜたスポンジケーキにサツマイモクリームを纏わせ、栗の甘露煮を飾る。
「すごーい!」
やはり子供にはケーキは特別なのだろう。
ミオレスカの一挙一動を、瞳を輝かせて見守っている。
それを見て、ミオレスカも気合いを入れてケーキを完成させた。
「おぉ、美味そう」
ふらりと寄ってきたザレムにミオレスカは「お久しぶりです」と頭を下げた。
「あぁ、久しぶりだな、ミオレスカ」
「……? ザレムさんのその手にある袋は?」
紙袋を抱えるように大事そうに持っているので、ミオレスカは首を傾げて問う。
「これはな……」
ガサゴソと中身を取り出すと、ミオレスカの手の上に一枚置いた。
「……サブレ?」
「そう、俺のパルム達をモデルにした、パルムサブレだ!」
なるほど、確かにとても可愛らしいパルムが二体寄り添っているように見える。
「へぇ、そんなのもあるんだ」
通りかかった観智が驚いたように足を止めた。
「食べてみるか?」
とりあえず、一枚、と手渡され「じゃ、遠慮無く」と一口食べる。
サクサクとした食感が楽しくて、それなのに口の中で噛む度に溶けるようになくなっていく不思議な感覚もまた楽しい。
香ばしい香りに優しい甘さ……これは生地にサツマイモを使ったのだろうか? 問えば、ザレムは嬉しそうにマロンバージョンとカボチャバージョンも手渡してくれた。
それを手に、観智は再び散策へと出る為、2人の元を離れていった。
「では、こちらもどうぞ」
ケーキを切り分け、順番待ちをしていた子ども達に振る舞った後、テキパキと自分が使った道具を片付けると、取っておいた1ピースをザレムに差し出した。
「おぉ、有り難く頂戴するよ」
ザレムの両肩でパルパルとパルタがケーキを前にしてはしゃいでいるのを見てミオレスカは微笑んだ。
2人はお菓子とジュースを持って飲食コーナーへと戻っていった。
●宴もたけなわでは御座いますが
「皆さんのご協力合って、無事、収穫祭を行うことが出来ました。本当に有り難うございました」
店主が深々と頭を下げると、誰もが口はもごもごと動かしたまま拍手をする。
「投票の結果発表~! じゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃーん♪」
……なお、効果音も店主の口から紡がれている。
「アヒルvsパルム、今年の可愛い形は……パルムに決定しましたー!! ってえぇーっ!?」
アヒル派だと熱く語っていた店主は膝から崩れ落ちた。
なにやら遠いところを見ながらぶつぶつ呟いている店主を、係員が3人掛かりで壇上から引きずり下ろすと、女将さんと思われる女性が再び台に上がった。
「今年、良いものが取れたのは、雑魔や歪虚の脅威から守ってくれているハンターさん達のお陰です。また、毎日やすまず畑の手入れをしてくれた、農家の皆さんのおかげです。今年1年、本当にご苦労様でした。また来年も、こうやって収穫祭が開けますよう、心から祈っております」
そう言うと女将さんは深々と頭を下げた。
熱い拍手が女将さんへと贈られ、祭りは終わった。
観智はそんな閉会式の様子を少し離れた所から見つめていた。
笑顔で行き交う人達。はしゃぐ子ども達。閉会式と共に、片付けの準備に入っている係りの人達……
誰もがここで生きて、今、この時を自分と共有している。
『平穏』がどれほどに愛おしいものか、それを噛み締めるように観智は人々を見渡す。
また明日からはどこか戦場にいるのかも知れない。
誰かの涙を止める為に闘うのかも知れない。
「それでも、僕達ハンターを必要としてくれる人がいる限り、僕は行くんでしょうね」
観智は通り過ぎる母娘の幸せそうな笑顔を眼に焼き付けて、祭会場を後にした。
「うー……」
「……大丈夫かい? お嬢ちゃん」
飲食コーナーの椅子の上。
ぐったりと倒れ込んでいるのは風だった。
お腹は何を詰めたらこんなになるのかというくらい、はち切れそうになっている。
「だいじょーぶじゃ、ありませーん……」
水でも飲むかい? という申し出に、風は手を振ってNOを伝える。
……水なんか飲んだら、胃の中で更にパンが膨張しそうな気がする。
「食べ過ぎて、動けません、というか動きたくないので、どなたか風を運んで下さい」
男達は顔を見合わせて溜息を吐いた。
「……食い放題ってぇのも、考えもんかねぇ」
「?」
「来年からは、食い放題止めるか」
「!! 起きます、動きます、自力で帰りますーっ!」
風はなんとかかんとか身を起こすと、お腹をさすりながらゆっくりと立ち上がり、這々の体でその場を後にしたのだった。
「わたしがアヒル好きだからです!」
ずばばーんという効果音でも鳴りそうな勢いで、胸を張って宣言したのは、今回の収穫祭主催者であるパン屋の店主だった。
収穫祭の開会式。
十野間 灯(ka5632)は店主の言葉を力強く頷きながら聞いていた。
彼女は幼い頃に寝物語で聞いた『幸せを運ぶアヒル』という童話を思い出しながら。
朗々とアヒルへの愛を語り出した店主の耳を女将さんと見られる女性が引っ張って「いい加減におしよ! パンが冷めるよ!」と壇上から引き下ろす。
進行役の女性は苦笑しながら「それでは皆さん今日は一日楽しんで下さい」と開始を告げる鶴の一声で式を締めた。
わぁっと拍手が鳴ると同時に、一斉に人々がパンへ、飲み物へ、または調理台へと移動を始めた。
●パルム達の交流会
「パルムとアヒルのパンかね。これは芸術のセンスを感じるね」
レーヴェ・W・マルバス(ka0276)が楽しげに呟くと、頭に乗っているパルムも同意するようにきゃっきゃとはしゃぐ。
「さぁ、どうぞ!」
天央 観智(ka0896)も飲食コーナーにて手渡されたアヒル型のスイートポテトを頭からほくっと一口囓ると、口の中いっぱいに幸せな香りと甘みが広がった。
「焼きたてパンをそのまま頂ける……というのはよいですよね」
ありふれたロールパンも、焼きたてだと美味しさが段違いである。
観智は朝絞りたてだという牛乳を片手に散策を始めた。
レーヴェが桃の果実酒を手に回っていると、アヒル・パルム両方のカボチャあんパンを手渡されたので、飲食コーナーの空いている席に座り、自分のパルムと並べてみる。
……パルムの子供みたいで可愛い。
そして何より、パルム型のパンをみてはしゃいでいるうちの子(パルム)が可愛い。
パルム型のほうはパルムが気に入ったようなので、レーヴェはアヒル型をおしりからがぶり。
カボチャ餡の素朴な甘さと……なんだろう、ほっこりしたどこか懐かしさを感じる。
餡を味わっていると、知らないうちにテーブルの上にはパルムが2体増えていた。
「どこからきたんだい?」
パンを3体で仲良く分け合いながらきゃっきゃとはしゃいでいる様は大変微笑ましい。
「あぁ! やっと見つけた!」
レーヴェのもと……もとい、テーブルに駆け寄ってきたのは両手一杯に荷物を持ったザレム・アズール(ka0878)だ。
「お前達の分はこっちにあるって……あぁ、すみません」
「いやいや、構わないよ。うちの子も楽しそうだ」
頭を下げるザレムにレーヴェも笑いながら応えると、向かいの席を勧めた。
お互いに軽く自己紹介をして、ザレムは貰って来たスイーツのパルム型の方を3体へと差し出す。
(なお、買おうと思ったら「今日はお祭りだからタダだよ」と言われた。なんて太っ腹)
きゃーっと3体が駆け寄ってきて、仲良くもぐもぐと食している。
……パルム型のスイートポテトを各々食らいつくパルム達……可愛い(可愛い)。
自分もカボチャあんパンを取り出して食べる。
「甘い餡がなんとも……茶が欲しくなるな……? む、これは……」
茶をずずーっとすすると、もう一度あんパンを取り出して今度は割って、餡を確かめながら食べる。
「間違いない、餡にしょう油が入っている! ……ありだな」
「なるほど、しょう油か。謎が解けた」
あまり食べたことはないはずだが、このほんのりと甘さを引き立てる風味は中々良い。
暫くパルムを通しての交流を楽しみ、そろそろお腹もいっぱいになったところでザレムは立ち上がった。
「これからお菓子作りに挑戦するんだ。良かったら食べに後で来てくれないか?」
「あぁ、是非そうさせてもらおう」
ザレムは自分のパルム達――パルパルとパルタを肩へと乗せると、レーヴェとパルムに手を振って去って行く。
レーヴェは果実酒のコップから、小さなおちょこへと少しだけ酒を移すと、パルムへと差し出した。
パルムはふんふんと匂いを嗅いで、きゅっと飲み干すと、きゃーと全身を赤らめた。
「これは酔っ払ったのか……?」
楽しそうにきゃっきゃとはしゃぐパルムを眺めながら、レーヴェは静かに杯を傾ける。
●あぁ、勘違い。
「異世界にまで、あの忌まわしきキノコVSタケノコ対決の魔手が……ここは投票して、戦いに終止符を打っちゃうんだから!」
1人間違った方向に熱意を燃やしちゃっているのはルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)。
なお、周囲にいる人達は彼女が何を呟いているのかよく分からず、静かに距離を取っている。
そして手渡された投票用紙に早速きゅっきゅと文字を書いた。
「私は、【タケノコ】です! これで銀河を2分する長きに渡る戦いに、終止符を打つのです」
ばばーんと効果音が付きそうな勢いで投票用紙を掲げ、投票箱へと入れようとしたその時。
「あの、それ、裏です」
投票箱のそばにいた係りのお姉さん(美人)が申し訳なさそうにルンルンへと声を掛けた。
「え?」
よく見てみると、表だと思って大きく【タケノコ】と書いたその反対側。そちらにはパルムの形とアヒルの形が書いてある。
わざわざイラストになっているのは、字が読めない人への配慮なのだろう。
「可愛いなって思った方の形に丸を打って持って来て下さいね」
係りのお姉さんの優しい微笑みを受けて、ルンルンは耳まで真っ赤にしながら大きく何度も頷いた。
「故郷で似た様な対決があったから、勘違いしちゃいました……可愛さとなると、どっちも可愛くて迷っちゃいます」
ルンルンの言葉を受けて、お姉さんも「そうですね」と頷いた。
「なので、ゆっくり食べて、楽しんで、それからでも良いですよ」
お姉さんの言葉にルンルンは「はい」と頷いて、パンコーナーへと走って行った。
●食い倒れるまで、食べることを辞めない。
残念ながらお持ち帰りは非対応だと聞いた最上 風(ka0891)はがっくりと肩を落としたが、すぐ次の瞬間には顔を上げて、握り拳を胸に熱く誓った。
「持ち帰れないのであれば、食べるのみ!!」
各種3つずつ取って、テーブルに着くとドリンクも果実ジュースにお茶があると聞いて、どちらも取れるだけ取ってきた。
「いっただっきまーす」
風はぱちんと手を合わせると早速黙々と食べることに集中していった。
「……もごもご……正直、可愛さとかはどうでもいいです、お腹に入れてしまえば、何の形も同じですし」
パルム型の一口あんパンを、本当に一口で口の中へ治めた。
「と言うか、黄色なら、キリンとか、ひよことか、狐でもいいんじゃないですかねー?」
ただただアヒルが好きだという店主の好みによる物だと言う事は、最初に聞いたが、やっぱり風としては釈然としない。
「ただ、ま、大きい方が、食べ応えがあるので、いいですねー」
1番大きいアヒルのパンを3口で食べると、ごっきゅごっきゅと葡萄ジュースを飲み干した。
そして、おかわりをするべく、再び席を立ったのだった。
●スイートポテトとちちしりふともも
調理台では、灯がスイートポテトの型抜きに挑戦していた。
少し崩れてしまっても、案外指先で直せたりするのでお菓子初心者でも作りやすいようで、かなり人気らしく、親子連れの姿もちらほらと見えた。
台に向かって身をかがめ、真剣な表情で爪楊枝を使って四つ葉のクローバーを描いていく。
その向かいでは豊かな胸の谷間が、服の間から見えそうで……見えないっ!
その姿に周囲のお父さん達、おませなお兄ちゃん達が「あぁ」と視線を釘付けになっている。
「あーなーたー!」
「お兄ちゃんっ!」
「痛い! 分かった、見てない、俺はなーんにも見てない!!」
「痛い痛い! もー、なんだよー」
漸く一つを納得のいく出来映えに仕上げ、ふぅ、と顔を上げると、周囲の親子連れの様子がなにやらおかしい。
「?」
その原因が自分にあるなど露にも思わず、灯は次の作品へと取りかかっていく。
佐藤 絢音(ka0552)は困っていた。
手に持ったアヒル型のスイートポテトを前にして、硬直していた。
「ど、どうしたの……?」
そのあまりにも真剣な表情に、灯は思わず声を掛けた。
「あひるもかわいいけど、アヒルよりヒヨコの方がかわいいの」
「う、うん?」
絢音は灯を観ることも無く、ただ手元のスイートポテトだけを凝視している。
「でも、こういう形のおかしはどこから食べればいいのか悩むの」
「え、あぁ、なるほど」
「さっき、パルム型のサブレーを貰ったの。あれと同じなのよ……あたまからいくか、お腹からいくか。なんだいなの」
とてもとても真剣に悩んでいる絢音だが、灯からすると、大変微笑ましい悩みでもあった。
思わずクスッと笑ってしまって、この時初めて絢音は灯を見た。
……非常に、非難がましい目線だった。
「どこから食べても一緒とか、そういうのは言っちゃダメなのよ」
「そうだね、ごめんね」
灯は頷いて、絢音と視線を合わせるべくしゃがみ込んだ。
「……たとえば。貴女がまだあと2つ食べられるのであれば、最初の一つは頭からたべて、その次に食べるのはおしりからにしてみたらどうかしら?」
灯の提案に、絢音は大きな瞳を音がしそうな程勢いよく瞬かせた。
「食べ比べてみて、より、食べやすい方があったら、その次からは、食べやすい方で食べたらいいんじゃないかな?」
「すごいの、おねーさん! うん、そうだね。そうしてみるの!」
こくこくと大きく頷いて、絢音はようやく可愛らしい笑顔を見せた。
「ん、それならよかった。……あ、そうだ。よかったらこれも食べてくれる?」
灯が鞄から取り出したのは先ほど灯が焼いていたスイートポテトだ。
四つ葉のクローバーと目の部分にカラメルを使ってアクセントを加えてある。
「わぁ、かわいいの……もらっていいの?」
「もちろん」
そっと大事そうに灯のアヒル型四つ葉のクローバーの意匠入りスイートポテトを受け取ると、絢音は一層嬉しそうに笑ったのだった。
●今回1番の人気商品
リアリュール(ka2003)は事前に焼いて準備して来た生地をそっと取り出した。
丁寧に切り込みを入れ、栗あんを詰めると、さらにマロンクリームを入れる。
粉砂糖で○や☆の模様を入れ、一カ所だけアヒルの形を入れた。
「できた!」
そこにはパルム型のポップオーバーが完成していた。
「とても、可愛らしくて、美味しそうですね」
声を掛けられ振り向くと、そこにいたのはミオレスカ(ka3496)だ。
「お一つどうぞ」
リアリュールは出来たてのポップオーバーをミオレスカに手渡した。
「では、有り難く、いただきます」
丁寧にミオレスカは一礼をすると、そぉっとパルムの傘の部分から口を付けた。
「! これは……、さくっとしているのに、もちもちとした食感っ! ……そしてマロンクリームと餡が、お口の中で素敵なハーモニーを……っ!」
瞳をキラキラと子供のように輝かせながら頬張るミオレスカを見て、リアリュールもつられて笑顔になる。
あんまりにもミオレスカが美味しそうに食べるので、それを見ていた少年が「いいなぁ」と呟いた。
「今、作るから、ちょっと待っててね」
リアリュールは少年に微笑んで再びナイフを手に取った。
こうして、リアリュールが持って来たポップオーバーは作れば作っただけ人の手に渡り、笑顔の素となったのだった。
●でも子ども達の人気ナンバーワンはこちら
「いけません……私もお菓子作りを始めなくては」
ミオレスカは頂戴したお菓子を有り難く食べ終わった後、調理台へと立った。
手際よくカボチャを混ぜたスポンジケーキにサツマイモクリームを纏わせ、栗の甘露煮を飾る。
「すごーい!」
やはり子供にはケーキは特別なのだろう。
ミオレスカの一挙一動を、瞳を輝かせて見守っている。
それを見て、ミオレスカも気合いを入れてケーキを完成させた。
「おぉ、美味そう」
ふらりと寄ってきたザレムにミオレスカは「お久しぶりです」と頭を下げた。
「あぁ、久しぶりだな、ミオレスカ」
「……? ザレムさんのその手にある袋は?」
紙袋を抱えるように大事そうに持っているので、ミオレスカは首を傾げて問う。
「これはな……」
ガサゴソと中身を取り出すと、ミオレスカの手の上に一枚置いた。
「……サブレ?」
「そう、俺のパルム達をモデルにした、パルムサブレだ!」
なるほど、確かにとても可愛らしいパルムが二体寄り添っているように見える。
「へぇ、そんなのもあるんだ」
通りかかった観智が驚いたように足を止めた。
「食べてみるか?」
とりあえず、一枚、と手渡され「じゃ、遠慮無く」と一口食べる。
サクサクとした食感が楽しくて、それなのに口の中で噛む度に溶けるようになくなっていく不思議な感覚もまた楽しい。
香ばしい香りに優しい甘さ……これは生地にサツマイモを使ったのだろうか? 問えば、ザレムは嬉しそうにマロンバージョンとカボチャバージョンも手渡してくれた。
それを手に、観智は再び散策へと出る為、2人の元を離れていった。
「では、こちらもどうぞ」
ケーキを切り分け、順番待ちをしていた子ども達に振る舞った後、テキパキと自分が使った道具を片付けると、取っておいた1ピースをザレムに差し出した。
「おぉ、有り難く頂戴するよ」
ザレムの両肩でパルパルとパルタがケーキを前にしてはしゃいでいるのを見てミオレスカは微笑んだ。
2人はお菓子とジュースを持って飲食コーナーへと戻っていった。
●宴もたけなわでは御座いますが
「皆さんのご協力合って、無事、収穫祭を行うことが出来ました。本当に有り難うございました」
店主が深々と頭を下げると、誰もが口はもごもごと動かしたまま拍手をする。
「投票の結果発表~! じゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃーん♪」
……なお、効果音も店主の口から紡がれている。
「アヒルvsパルム、今年の可愛い形は……パルムに決定しましたー!! ってえぇーっ!?」
アヒル派だと熱く語っていた店主は膝から崩れ落ちた。
なにやら遠いところを見ながらぶつぶつ呟いている店主を、係員が3人掛かりで壇上から引きずり下ろすと、女将さんと思われる女性が再び台に上がった。
「今年、良いものが取れたのは、雑魔や歪虚の脅威から守ってくれているハンターさん達のお陰です。また、毎日やすまず畑の手入れをしてくれた、農家の皆さんのおかげです。今年1年、本当にご苦労様でした。また来年も、こうやって収穫祭が開けますよう、心から祈っております」
そう言うと女将さんは深々と頭を下げた。
熱い拍手が女将さんへと贈られ、祭りは終わった。
観智はそんな閉会式の様子を少し離れた所から見つめていた。
笑顔で行き交う人達。はしゃぐ子ども達。閉会式と共に、片付けの準備に入っている係りの人達……
誰もがここで生きて、今、この時を自分と共有している。
『平穏』がどれほどに愛おしいものか、それを噛み締めるように観智は人々を見渡す。
また明日からはどこか戦場にいるのかも知れない。
誰かの涙を止める為に闘うのかも知れない。
「それでも、僕達ハンターを必要としてくれる人がいる限り、僕は行くんでしょうね」
観智は通り過ぎる母娘の幸せそうな笑顔を眼に焼き付けて、祭会場を後にした。
「うー……」
「……大丈夫かい? お嬢ちゃん」
飲食コーナーの椅子の上。
ぐったりと倒れ込んでいるのは風だった。
お腹は何を詰めたらこんなになるのかというくらい、はち切れそうになっている。
「だいじょーぶじゃ、ありませーん……」
水でも飲むかい? という申し出に、風は手を振ってNOを伝える。
……水なんか飲んだら、胃の中で更にパンが膨張しそうな気がする。
「食べ過ぎて、動けません、というか動きたくないので、どなたか風を運んで下さい」
男達は顔を見合わせて溜息を吐いた。
「……食い放題ってぇのも、考えもんかねぇ」
「?」
「来年からは、食い放題止めるか」
「!! 起きます、動きます、自力で帰りますーっ!」
風はなんとかかんとか身を起こすと、お腹をさすりながらゆっくりと立ち上がり、這々の体でその場を後にしたのだった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/25 19:27:25 |