• 郷祭1015

【郷祭】秋色ピッツァ♪ 準備中

マスター:奈華里

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
寸志
相談期間
7日
締切
2015/11/06 12:00
完成日
2015/11/20 01:41

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「農業をメインとしたお祭りでしょ。だったら、秋野菜を沢山使いたいよね」
 村娘達が明るい声で会話に華を咲かせている。
 彼女達の話題に上がっているお祭りとは村長祭の事だ。
 年に二回行われるその祭りは農耕推進地域ジェオルジで一斉に行われるもので、春のが好評だったという事もあり、彼女達の村も秋は本格的な参加を決意したのだ。
 とは言っても小さな村でずっと過ごしてきたからハイカラな事を思いつく筈もなく…あるものと言えば育てている野菜やキノコに見慣れた家畜達のみ。幸い、村で作っている作物の種類は多く、外の村の力を借りずに済むのは大きい。だから、彼女達は自分らの腕を信じ、飲食店で勝負をかける。
「大きな街のお祭り会場だったら、ピザ窯を用意して貰ってピザなんてどうかしら?」
 一つに髪を纏めた娘が言う。
「食べ歩きもしやすいように工夫もしなきゃね」
 とこれはセミロングのもう一人だ。
「だったら四角い形にして半分で切って巻いてみる? それともクレープの様な巻き方の方がいいかしら?」
 それぞれが意見を出し合って、しかし話はなかなかまとまらない。
「まぁ、まだ時間はあるのだし、ゆっくり考えましょ」
 女の子の会話なんて、いつもそんなものだ。三歩進んで二歩下がる。
 あぁでもない、こうでもないと言い合う間にあっと言う間に時間は過ぎて――。

「あ…れ」
 カレンダーに目をやった一人が声を失くす。
「どうしたの…って、ええっ!!」
 もう一人も彼女の硬直理由に気付いたのだろう。頬に一筋の汗が流れる。
「ちょ…これ、どういうことっ! 開催日って来週じゃなかったの!?」
「う、うん。そうだと思ってたんだけどね…なんか記憶違いしてたみたいで…」
 残す所、後二日。会場の準備はおろかメニューも使う食材さえも未だ決まっていない。
「どーーすんの、これ、どーーしたらいいの!?」
 慌てた様子で一人が言う。
「と、とりあえず落ち着こう。一応ピザで出す事は決まってるんだし、食材はほら、畑に行けば何でもあるわよ。それに魚も川に行けばどうにかなるし…」
 滝のように流れる汗をハンカチで拭きつつ、なんとか自分を落ちつけようと整理する。そして、行きついた答えは――。
「すいません。人手を貸して下さい!」
 何をするにしても彼女達では追いつかない。
 そう判断し、彼女らはハンターオフィスに助けを求める。
「はっ、はぁ…わかりました…」
 窓口も彼女らの気迫におされて、早急に募集の告知を作成するのだった。

リプレイ本文

●溢れるアイデア
 生地の上はキャンバスだ。
 村娘達だけでも数々挙がったピザのバリエーション――それに八つの頭が加わると更にそれは無限大となる。
「まずはやはり定番のものからいくべきじゃないかな」
 ピザと言えばトマトソースだ。
 以前トマト祭りに参加した事のあるザレム・アズール(ka0878)がその時食べたピザの事を思い出し提案する。
「でもでも、そう言うのってつまらないのです! だから、ここは私の忍者ピザで度肝を抜くのです!」
 とこれはルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)さん。
 リアルブルー出身の彼女は東方にいた事もあって、ピザは久方振り。
 その味を恋しく思いつつ、全力で道中発案したピザの名を宣言する。
「あのあの、そのニンジャ…ってなんですか?」
 が突然出てきた言葉に疑問を浮かべる村娘達。忍者と言われても連想できないらしい。
「ふふふ~、忍者とはしゅぱっと出てしゅしゅしゅっと手裏剣を飛ばす隠密のスペシャリストの事ですよ。だから、忍者ピザは手裏剣の形にするのです!」
 彼女はそう言って、携帯していた手裏剣を一枚取り出す。
「これにするんですかぁ~。なかなか難しい形なのですぅ」
 手裏剣『八握剣』――八方向に広がる星型は流石にピザでの再現は難しい。
 型抜きがあれば別だが、そんな特殊なものが簡単に作れる筈もなく、頭を悩ませる。
「平凡なのが駄目なら、ザリガニなんてどうかな? 川にはいますよね?」
 魚介類でもいいが、目を惹くならカニやエビを使うよりインパクトはある筈だ。
 天竜寺 詩(ka0396)が提案する。
「ザリガニ、ですか。それは面白いですね。秋の味覚といえばじゃがいもとか、キノコ系かな…と思っていたのですが」
 その意見にすらりとした体格の天央 観智(ka0896)が感心した。彼女はお嬢様風であるが、発想は庶民的だ。
 おてんばさんだったかは定かではないが、でなければザリガニなんて食材が出てくる筈がない。
「うーん、案外難しいな」
 次々と出てくる食材にザレムが首を傾ける。
「あの、一度紙に書き出してみませんか?」
 そこで意見の整理をGacrux(ka2726)提案し、こっそり今出ているピザを頭の中で思い描いて、自分好みのピザが出来たらいいなと考える。
「えーと、今出てるのは定番…つまりトマトソースピザと、形に拘った忍者ピザ、ザリガニにじゃがいも、キノコでしょうか?」
 大きな紙を取り出し、さらさらと書き留める。
「だったら、俺はデザートピザを提案するかね。無難なのはチョコバナナだが、林檎ものとかもよさそうだろ?」
 何処か飄々とした面持ちでロラン・ラコート(ka0363)が言葉する。
「えーと、チョコバナナに林檎っと」
 気だるげであるが言われた通りに書き込む辺りGacruxは真面目だ。
「君の案は?」
 その姿に隣りにいた瀬陰(ka5599)が穏やかに尋ねる。
「えと、俺は…ヘルシーなサラダピザとかどうかと思っています」
 生地を薄めに焼いて、畑にありそうなハーブをふんだんに使う。野菜もいいだろう。仕上げにちょっとした塩味を加えたいから生ハムを乗せたら完璧ではないかと思っていたりする。
「そうか。野菜か…それも確かにいいだろうが、曄は肉が好きだからなぁ」
 そう言って視線を向けた先には彼の愛娘・曄(ka5593)の姿が。
 鬼族である二人の里にはピザ自体が無いようで彼女はあまりパッとしていない様だ。
「つまりあれだろっ、薄い小麦粉の生地に何を乗せるかって話だろ」
 身体の割に口調には幼さを残した物言いで彼女が問う。
 でもまぁ、見た事が無くてはそれも仕方のない事だろう。
 そういう訳で、村娘達が焼いていたマルゲリータピザをハンター達に試食して貰う事にする。
「おおっ、これがピザか!」
 トマトは苦手なのだが…余りソースのかかっていない所を手に取り、彼女が口に運ぶ。
 円盤の上の小宇宙――初めて口にする曄はその味に感動を覚えるのだった。

●助け舟
 一方その頃、会場に乗り込んでいる面々は改めて作業の遅れを痛感する。
 既に別の出店者達はテントを張り、機材の搬入を済ませレイアウトにかかっているのだ。それを目の当たりにすれば、彼等の足取りも重くなる。というか、物理的に重くならざる負えない。何故なら、ここにいるのは村娘を含めても計四名。
「ピザの成否はピザ窯にかかっておる。気合を入れて組み立てるぞ!」
 人一倍荷物を乗せた荷車を引くのはドワーフのシードル ブルトン(ka5816)だ。
 体力自慢でも知られるドワーフの血は伊達じゃない。
 石窯用のレンガを高く積んで、ミシミシ荷台が鳴るのも構わず、積める限界MAXの量を運んでいる。
「お、お兄様…ちょっとお待ち下さいませ」
 そう言うのは兄妹で参加している鳳凰院 流宇(ka1922)。
 見事なロングヘアーをリボンで結んで、手に抱えているのはテント用の帆布だ。
 雨に濡れても大丈夫なように加工されたそれをめいっぱい腕に抱えて、兄の後を追う。
「すまない、るぅ。こっちもそれどころじゃないんだ」
 そして兄・鳳凰院 ひりょ(ka3744)の方はと言えば、シードルよりは劣るもののテントの支柱となる木材を荷車に乗せ、華奢な身体つきながらかなりの重量の荷物を設置場所へと運ぶ。
「本当、ごめんなさい~! 搬入手配をもっと早くしておくべきでした…」
 その後ろには三角巾で髪を纏めたエプロン姿の村娘がいた。
 彼女は設置用の工具やら一切合切を背負って、もはや芝刈りにでも行くおじいさんな様相である。
「で、問題の店舗スペースはあそこでよいのだな」
 先頭を行くシードルが確認する。
「あ、はい、そのようですぅ~」
 地図を確認し、答える彼女の声は既にへろへろだ。
 しかし、これからの作業を考えるとそうも言ってはいられない。
「四人で石窯とか…これはもう徹夜覚悟だよね」
 ピザ窯の組み立てなんてそうそうできる経験じゃないと、楽しみにしてきたひりょであるが、少しばかり後悔が募る。
「なぁに、一日や二日寝なかったところでおぬしはまだ若い。問題ないだろう」
 シードルが言い切る。自分の故郷の若者であれば、簡単にやってのけるだろうとも言う。
「俺は人間なんだけどなぁ~」
 いくらハンターでも種族差はある。が彼は彼でプライドがあって…鳳凰院家次期党主として、弱音を吐いてばかりはいられない。店舗スペースに到着すると、てきぱきと支柱を降ろす。
 村娘達のピザ屋さん――その為に用意されたスペースは思いの外広かった。
 いつもの休日であれば、市場が展開させているであろう大通りに面したその広場は石畳が敷かれている。飲食店を出すにあたって水回りも良いよう近くに小さな水場があり、そこを組み込んだスペース取りになっている。
「石窯はここから遠からず近からずの位置がいいですね。えと…土壌補正はしなくてよさそうですから、そのまままずは土台を組み上げて下さい」
 どの位の人数が訪れるかは判らないが、お店で使う位の大きな石窯は必要そうだ。
 となると、土台となる部分もそれなりにレンガを積み、作っていかなければならない。
「えっと…この通りに組み上げろと言われても…」
 大まかな数と形が記された設計図に手順はない。組み上げ初心者の彼らにとってはとても無謀。
「どうしましたの、お兄様?」
 いつもは頼りになる兄であるが、設計図片手に動きを止めてしまったのを見て流宇が尋ねる。
「何、こんなもんは感覚でなんとかなるもんだ!」
 止まったままのひりょを励ますようにそういうシードルであるが、なんとなくブロックの並びが違って見える。
 そこで村娘に協力を仰いでみた。が彼女も経験があまりないようで、
「え~とですね。その、とりあえず土台用のブロックを積んで…」
 ハッキリ言って心許ない。
 オロオロしながら指示を出すものだから流宇も些か心配になってくる。
(誰か…専門家のような方はいないでしょうか?)
 周囲に視線を走らせて、彼女が見つけたのは大工風の青年達――。彼らならば何か知っているかもしれない。
(一か八かですわ)
 彼女はそう思い、彼らの元へ駆けてゆく。そして、
「すみませんが、人手が足りませんの。石窯作りなのですけれど、助けて頂けないでしょうか?」
 彼女は意を決してお願いした。すると彼らは一度目をぱちくりさせて、その後はニカリと笑って嬉しいお返事。
「おっ、あんたらだな。遅れてるっていうのは…安心しな。俺らは味方だよ」
 そう言い、青年らは早速ひりょらの元にやって来る。
 彼らは運営サイドの人間らしかった。彼女達の遅れを心配して手伝いに来たらしい。
「有難う。正直、たったこれだけでどうすればいいかと思案していたんだ」
 彼らの参戦にひりょが息を吹き返す。村娘などは何度も彼らに有難うを告げ、終いには拝み始めている。
「わしは一人でもやってのける自信はあったぞ!」
 そういうシードルであるが、作業を見てみれば一目瞭然。
 無造作に石を積んでいるだけだから、この助っ人は天の助けと言っていい。
「私達も手伝うわね。何でも言って頂戴」
 それに加えて、彼らの奥さんらも力を貸してくれることとなり、テント張りも進み始める。
「ふぅ、一時はどうなるかと思いましたわ」
 流宇が言う。
「過去形じゃなくて進行形だろ? まだ始まったばかりだ。油断すると手伝って貰っても危うくなるかもだし、頑張ろう」
「はい、お兄様」
 兄の言葉に流宇は笑顔で頷いた。

●収穫万歳
「あー、すまない。メニューは決まりそうなのだろうか?」
 終始ああでもない、こうでもないと聞こえていた声が止んだのを見計らって、メニュー担当に声をかけに来たのは収穫担当のクラウス(ka5819)だ。しかし中を覗いてみれば、さっきほどまでとは打って変わって部屋の中は閑古鳥。皆は調理場に場所を移して、今用意されている食材を使い試作ピザを作り始めているから仰天である。
(収穫担当は三人しかいないんだが…試作してて大丈夫なのか?)
 使われている食材の中にはさっきとってきたばかりのものも混じっている。あまり使われると搬入用がなくなってしまう。が、彼も彼で案外その辺は成り行き任せか。
(まぁ、うまいピザにありつけるならそれでもいいか)
 そんな事を思って、彼はハッと我に返った。
 厨房のいい匂いに負けて油断すると涎が出てきそうだ。慌てて口を拭っていると、彼を見つけた詩から声がかかる。
「あの、ちょっと頼みたい事があるのですが」
 上目遣いで彼女が言う。
「ん、何だ?」
 それに余り愛想なく答えるクラウス。眠い訳ではないのだが、顔立ちからどうしてもそんな印象を与えてしまう。
「すみません。大至急ザリガニを獲って来て貰えないかな~って?」
「へっ?」
 彼女のから飛び出した言葉に思わず、目が点になる彼であった。

(ザリガニはどうやったら獲れるんだ?)
 外に出たものの、リアルブルー出身の彼である。
 しかもひっそり暮らしてきた彼にとって、ザリガニの獲り方が判らない。加えて言えば、彼が住む世界では余りザリガニを食べる機会はなく、味さえ未知だ。
「エビのような味がする、のだろうか…」
 形状からして類似するのはそれ位だ。ザリガニと言うが、蟹とは思い難い。
「ザリガニだったら近くの小川で獲れると思うからよろしくなの~♪」
 そう言う彼女に乗せられて小川に来たものの、うーむやっぱりどうして目視では姿が見当たらない。
(どうしたもんか…)
 彼はそこでなんとなく周囲を見渡して、見つけたのは赤い帽子のオーバーオールの少女だ。
 オーバーオールと言っても下は長スボンではなくて短めで、スカートかキュロットか。ともかく彼女は一心不乱にキノコを採取している。
(ダメ元だ。あの子に聞いてみよう)
 クラウスはそう思って、彼女に近付く。
「うおぉ、ここはまさにキノコ王国かぁ!?」
 するとそんな呟きが耳に入って、反射的に身体が揺れると彼女と目が合う。
「あれ、どうしたの? もしかして、もうお昼? それともどこぞの姫様が攫われた…なんてことはないよね?」
 冗談混じりにそう言い、彼女が腰を上げる。
「あ、いや…もしかしたら、君、ザリガニの獲り方知ってたりしないかと思って」
 やはり何処かぼんやり眼で彼が尋ねる。すると、彼女は少し考えてさらりと回答。
「そんなの簡単だよ。あの海面での厄介者、ゲソさんを使って釣り上げる。スルメが最適だね。これが一番!」
 サムズアップでそう言い切って、彼女はまた別のキノコを探しに走る。
 彼女の名前は超級まりお(ka0824)。キノコには何か特別な思い入れがあるようで籠一杯になるまで止める気はなさそうだ。
「ピッツァの具材と言えばキノコだよね! 採り尽すぞ~!」
 栽培されているものから自生しているものまで。但し、毒キノコが混じってはいけないので慎重に。
 キノコ辞典を村娘から借りて、時に注意深く観察し籠にほおり込んでゆく。
「すごいな。負けてはいられないか」
 競争するつもりはないが、働かざる者食うべからずだ。彼は一旦戻りスルメを拝借して、川へと急ぐ。

 そしてもう一人、収穫作業をするのは阿部 透馬(ka5823)だ。
「よっしゃあ、これを引っ張ればいいんだなっ」
 力仕事には自信がある。格闘士の体力を活かして、彼が向かったのは畑だ。
 秋と言えば薩摩芋の収穫シーズン真っ只中。地面から伸びた芋の蔓を豪快に引っ張れば、その先には枝分かれしたいくつもの芋が彼の前に顔を出す。その芋の大きい事。土壌がいいのだろう丸々と太った芋は焼き芋にしてもとても美味しそうだ。
「おうおう、ガンガン行くぜー!」
 それに嬉しくなって、彼はそこら一帯の芋を掘り起こす。
 そして、粗方終わると次は栗だ。
「木を揺らして落ちてきたのが食べ頃だ。こいつらは自然と自分らの食べ時を教えてくれるんだよ」
 栗を栽培している村人がそう教えてくれる。
 それに従って木を軽く揺らし…落ちてきたイガを見てみれば、あぁ確かに。
「ほう…イガが勝手に開いてるって訳か」
 自然の摂理か。栗はこうやって子孫を残すらしい。
 ちなみに栗のイガから覗く実の部分は本当の所を言うと、実ではない。
 正確には種であり、イガこそが実であったりするらしいが、それは知らぬでもよい事だ。
「開く手間が省けていいっちゃいいが…大変だな、こりゃあ」
 一つ一つ丁寧に…トングを使っても中腰作業というのは大変なものだ。
 さっきと打って変わって、根気のいる作業に苦笑する彼であった。


●作る中で
 村娘達のピザを食べて判った事――それは極単純な事だった。
 それ即ち、口で説明するよりも舌と視覚で感じるのが一番という事だ。
 そこで彼らはそれぞれが考えてきたピザの実物を作り始めている。
 調理場に皆が集まって、各々自分が思い描くピザを作ってゆく。
「ん~、どうやらデザートピザが少ないようですし、俺はデザートからやってみようかな」
 ガッツリ系のじゃが芋キノコピザも作ってみるつもりではあるが、食事ピザを作る者は多い。であるならば選択肢が少なくなっているデザートピザを優先すべきだ。観智はそう思い、近くにあった栗を手に取って…しかし、そこで手が止まる。
「栗って芋と同じように、このまま湯がくんでいいのでしょうか?」
 普通の料理は作れてもお菓子の事となると一般男子は知らないだろう。
 彼も例外ではなくて…マロンクリームにしたいのだが、作り方が判らない。
「どうかされましたか?」
 そこで声をかけたのは村娘の一人だ。
 予め作ってあった生地を配っている合間に彼が固まっているのを見つけたらしい。
「あ、いや…マロンクリームを作りたいんだけど、どうしたらいいかな?」
 そこで彼は恥じる事無く彼女に尋ねて、調理を手伝って貰う事にする。
「林檎林檎っ、やっぱりこの時期はりん…」
「おっと、これは失礼」
 その横では同じ林檎を手に取ろうとしてのちょっとしたハプニング。
 触れた手を同時に引込めるのはロランと詩だ。
「そういえばロランさんも林檎を提案してたっけ?」
 詩が始めのやり取りを思い出し言う。
「あぁ、林檎をグラッセにしてシナモンをかけてみようと思うんだけど、どうかな?」
 それにそう答えて、彼は別の林檎を手に取ると華麗に皮を剥いて見せる。
「いいと思うの~♪ だって、私もそうするつもりだったもの。 あ、もしよかったら、一緒に作りません?」
 そこで彼女は彼を誘う。どうせ同じものを作るのであれば、ひと手間省けるから効率がいい。
「あぁ、勿論。喜んで」
 ロランはそう言うと早速鍋に砂糖を入れる。
「私はチーズも乗せて、出来上がりに蜂蜜をかけたらいいと思うんだよね♪」
 溶けてゆく砂糖を確認しつつ、詩は林檎を準備する。
「なら、折角だから二通りの方法を試してみないか? 俺のはじっくりと、詩のは絡めるくらいで作って…触感も変わるから面白いと思うんだけど」
 同じものでも工夫次第で変わってくる。料理の知識があるロランの提案に彼女は乗っかる。
「ふふっ、双子姉妹の林檎グラッセ…なんか可愛いかも」
 どちらが姉でどちらが妹か。
 自分にも実際に姉がいるものだから、その姿を思い浮かべつつ甘い香りに囲まれての作業は実に楽しい。
「あ、後…村娘さん達がいっていたように少し生地にも手を入れよう。食べ歩きを見越してのクレープ状はいい案だと思うから」
 店内席もある筈だが、デザートピザとなれば持ち歩きも考慮にいれたい。
「ねぇ、君。変わった生地はあるかね?」
 観智に付き添っていた村娘を見つけ、彼女に尋ねる。
「あ、はい。少々お待ち下さいねー」
 彼女はそう言って、いくつかある生地の中から薄めのものと厚めのものを両方差し出した。

 さて、一方食事ピザの方でも調理開始と共に楽しい声が上がっている。
「とーさん、やっぱりがっつり肉系を作ろうぜ。でないと腹一杯にならねーだろ?」
 流石の鬼族…お野菜たっぷりなピザも美味しいけれど、でもやはり育ち盛りも相まって欲するのは肉らしい。
 曄が父にリクエストする。
「そうだなぁ、では鶏肉を使って作ってみようか」
 その言葉に応えるように瀬隠は早速鶏肉を手に取り、イメージを膨らませる。
 さっき食べたもちもちの生地に合う味付けを…とは言っても思い描いた通りに再現できるかは判らない。
「とりあえずやってみるか」
 鶏肉を丁寧に削ぎ切りにして、まずは一口大に切ってゆく。
 そして、つけ込むのは東方ではお馴染みの照り焼きダレだ。
 トマト嫌いの娘の為にベースのソースはこのままで。但し、栄養面を考えて野菜だけは譲れない。
「えー、玉葱も入れるのかよぉ~」
 父が櫛切りを始めたのを見て明らかに彼女の表情に雲が曇る。
「勿論だ。曄、肉だけじゃなくて野菜も食べるんだよ」
 それをそう窘めて、その他にも濃い味付けに合いそうなあっさり目の野菜を刻んでゆく。
「あっ、もうそれ位で…」
 そう言う彼女に、瀬陰は彼女にとっての効果抜群のひと言を投げかける。
「じい様のように強くなりたいなら好き嫌いは無くそうなー」
「う…」
 その後は彼女は何も言えなかった。憧れの存在である彼女の祖父を引き合いに出されては言い返せない。
 それに父の事だ。きっとおいしく仕上げてくれるに決まっている。
「わ、わかった…頑張る」
 気持ち身構えながらも父の作るピザを今か今かと待ち焦がれる彼女。彼女の足元にはペットの柴犬・ノブもうずうずした様子で待機している。そんな彼女達の鼻を擽るのは何も父作るピザだけではなくて。
「おー、ど定番とは言えこれ食べごたえがありそうなのですー♪」
 逸早く窯入れに至って、焼き上がって来たザレムのピザを見て、立ち合っていた村娘が目を輝かせる。乗っけられている具は四種のチーズ。牛のチーズだけでなくヤギのチーズも混じっているし、フレッシュチーズを追加しているからそれだけで色々な味が楽しめる。そして、そのアクセントとなるのはオリーブだ。トマトソースを薄めに作っている為、チーズの濃厚さが一度に味わえる一品となっている。
 加えて、もう一つはこちらもストレートに収穫祭ピザ。秋の実りに感謝するようにふんだんに使われているのは多くの野菜。茄子にピーマン、ブロッコリーにカリカリベーコンを散らしたバジルソースのピザである。
「ぬ、ぬぬぅ…ザレムさん。できる…」
 その様子に思わず口調が変化したルンルンが呟く。
「さすが、料理好きなだけはありますね…」
 その出来にGacruxも思わず言葉を漏らす。
「まぁ、これくらいはね」
 ザレムは少し照れながらも満足げだ。自分の理想とするピザが出来た。それだけでほっとする。
「Gacruxのもそれはそれで美味しそうだけどな」
 そして付け加えるように、彼が手にしていたサラダピザに視線を落とす。
「そう…だったらいいのですが…」
 見よう見まねで作ったピザ――彼のピザもある意味シンプルだ。
 薄めの生地に採れたてのハーブを乗せて、火が必要な野菜は予め生地の焼き上げ時にトッピング。チーズは二種類使い味にメリハリを加えて、最後に生ハムを乗せワインビネガーベースのスパイスドレッシングをかければ完成である。
「健康志向の方やダイエット中の方にもよいかと…」
 ピザと言えばカロリーが高い事で懸念されがちだが、これならば通常のピザに比べてかなり低い。
「くぬぬ、男性方に遅れを取らないのですよっ!」
 ルンルンはその出来に対抗意識をメラメラと燃やし、手にしていたフライパンを掲げて…まず炒め始めたのはキノコ類。何十種ものキノコをフライパンで熱し、良きところで加えるのは山菜類。それを一気に炒めて、長方形のピザ生地に乗せ、チーズを振り短時間で焼き上げる。そうして、四枚の直角三角形になる様に切って放射状に並べれば一枚目の完成である。
「もしかして、これって…手裏剣?」
 八枚の刃にするのは難しいがこれならば、十字手裏剣っぽく見えなくもない。
「ですです♪ んで、もう一つはその名も決闘ピザですよー」
 彼女はそう言って、二枚目のピザに取り掛かる。肉や魚を豪快に捌いては生地の上に乗せてゆくところを見ると、今度のは沢山の食材を使う様だ。
「ここで必殺、使いまわしっですよ!」
 さっき作ったキノコのソテーを取り出して、生地の四分の一にトッピング。その隣には何処から手に入れてきたのか筍が乗っていたりと斬新だ。続いて、残りの半分には魚介類、一方には肉類を盛り付けると後は待つだけ。
「豪華なピザだな」
 ザレムが正直な感想を呟く。
「なんたって決闘ピザですからねー。お肉と魚、キノコとタケノコでバトルです!」
 食べ比べという事か。何にしてもちょっと手間がかかり過ぎる気がするのが難点か。
 そうして彼等考案のピザが出揃えば、ここからはお楽しみタイム突入だ。
「よっしゃ、じゃあこれから大試食会だなー♪」
 曄の言葉に皆が頷いた。

●助言、そして… 
 収穫に回っていたメンバーも晩御飯を兼ねて、一斉試食会が始まる。
 そこで被っている食材や当日の立ち回りが大変そうなモノを吟味し省いてゆく。
「このサイズ感、いい感じですね」
 一枚を小さ目に作って、半分ずつくるくる円錐クレープ状に巻いたロランと詩の合作林檎は好評だ。
 触感の違いもいいアクセントとなるし、二個イチとする販売方法で落ち着きを見せる。
 ちなみにチョコバナナはど定番過ぎてお祭りの特別感が出ないという理由から残念ながら没となる。
「なぁ、この生地もいいんだが…この味付けだったら米粉とかどうだろうか?」
 とそこで意見を出したのは照り焼きピザを食べていた透馬だった。
「ふむ、米粉か。そう言う事も出来るのか?」
 そこで早速村娘に尋ねる瀬陰。
「大丈夫ですよ。けど、そうなると生地を二種類作らないといけないですけど…」
 時間的な面と労力的な面で大丈夫だろうかと不安が過る。
「なぁに、大丈夫だって。体力に関しちゃ、あたしらって普通よりあるしさぁ。次の人達も募集してるんだろ? だったら美味しいものをとことん追求すべきだろ!」
 口一杯にピザを頬張りながら、曄もその案を後押しする。
「うん、米粉の生地は良いと思うの。私のザリガニピザもお食事系だし、お米とコラボしたらもっとしっくりくるかも」
 ちゃっかりあの後ザリガニピザも仕上げていたらしい。手間のかかるアメリケーヌソースをギリギリに作り上げて、ザリガニの身はピザに散らして…トマトの酸味とザリガニの出汁が濃厚に絡まったそれは食べた事のない深みのあるソースを作り出している。が何か後一つもの足りなさを感じていたから、ここは乗っかってみるのも悪くない。
「米は独特の甘みを持っているからな。いいんじゃないか?」
「私の忍者ピザにも使いたいですよー!」
 リアルブルー出身者は基本的に米の方がなじみ深い。そういう訳でルンルンも賛成票を投じる。
「え~と、だったらこうしませんか? ルンルンさんの決闘…つまり、ハーフ&ハーフの案も頂いて米粉に適したピザを一つに合わせちゃうのです」
 例えばこのように――瀬隠と詩のピザを一つになるよう半分ずつ持ってきて村娘が提示する。
「これで一枚か! 超お得だなっ!」
 その出来上がったピザに曄が嬉々とした。何たって、ザリガニと鶏肉のセットだ。
 究極のメインデッシュピザと言えよう。
「では、こちらはヘルシー系で纏めてみてはどうでしょうか?」
 がっつりが好きな人もいればヘルシー志向の人間もいる。彼ら向けの一枚はGacruxとロラン、ルンルンのキノコ系ミックスで決まりだ。折角のインパクトを大事にしたいと米粉ピザには手裏剣型を採用して、残ったのは定番の部。
「秋を前面に出した収穫祭ならではのものも出したいのです」
 村娘の言葉に応えて、浮上してくるのはザレムのピザ――。
「年配層はやはり変わったものには手が出しにくいからな。その二つを一つにしたらいいんじゃないかな」
 まりおが進言する。王道と言うべき一品もやはり外せない。
 それにもう一つ、加えるならデザートも秋を意識した一品が欲しい。
「おう、俺がとってきた芋も栗もこれで無駄じゃ無くなるなっ」
 そこで採用となったのは観智の芋栗ピザ。スティックタイプで食べやすく工夫して。
 計五つのピザが出揃う事となる。
「これ、結構大変ですよね…いけるかなぁ」
 少なくするのは簡単だ。だが、ここまでくるとどうしても拘りを出していきたい。
 腹を括って、余った時間は発案組も収穫と下拵えに奔走する。
 時間は少ない。ブレイン達には果汁100%のジュースが配られ、体力派には搾り立て牛乳が彼らを助ける。
 後少し…祭りの日はいよいよ近付いていた。

●夜明け
 はてさて、会場のメンバーも村娘達が作ったお握りやサンドイッチを齧りつつ、組み上がりかけの石窯に想いを馳せる。
「こんなに大変なんだな…知らなかったよ」
 土台を組み上げた時点で腕が悲鳴を上げ始めた。それ程に耐熱煉瓦を相手にした作業は身体に影響する。
 毎日やっていれば別だろうが、初めての作業は使わない筋肉を使うものだ。
「お兄様、大丈夫ですか?」
 心配そうに兄を見つめて流宇が言う。
「いいねぇ、兄妹って奴は……羨ましいぞ」
 そんな姿を見て、シードルは茶化すように笑う。流石の彼も多少は身体にきているらしい。
「低めに作れば楽だけどなぁ。そうすると、作業するもんが中腰になって辛くなる」
 ピザ窯の高さの事だ。低く作る事も可能であるが、そうなると出し入れが大変だ。
 開店当日、きりきり舞いが必至であろう調理スペースの負担を減らす為にも、ここでの妥協は出来ない。
「しかし、こんな風にピザ窯は出来るんですね…驚きだな」
 専門知識がなくとも手順とコツさえ教えて貰えば、組み上げるのは簡単だ。
 初心者でも要点さえちゃんと抑えれば失敗は少ないという。
「箱型ってな。これは初心者でも組みやすい形なんだよ。アーチで作るとなると骨が折れるがね」
 その言葉にひりょは以前入った事のある店の窯を思い出す。
 確かにレストランで使われる本格石窯はアーチの形をしていた。あの形が一番理想的らしいが、今作っているのは残念ながら箱型。けれど、これも立派な石窯に変わりなく、フライパンで作るのとは味に雲泥の差が出る。
「三基作るとなると…そろそろまた始めるかな」
 具合がわかっている助っ人達の言葉に従って、重い腰を上げる。
「何、もう一頑張りだ。うまい飯を食うには働かないとなっ」
 シードルが汗をタオルで拭いながら言う。
「そうですね。るぅは無理するなよ」
 ひりょはそう妹を気遣って、再び煉瓦を重ね糊代わりの粘度材を塗り固めていく。
「私達も頑張りましょう」
 そこで村娘からも声がかかって、流宇も振り返り作業に戻る。
 素っ気ない白のテント――その下に当日は多くの人が訪れて、沢山の笑顔の華が咲く事だろう。
 その為には椅子も必要だ。近くの酒場から空のワイン樽を拝借しそれを椅子代わりにする。机も組み立てなくてはならない。内装に拘る時間はなさげであるが、少しでもお客が快適に過ごせるように…。一生懸命、配置を考える。そんな彼らの頑張りを煌々とした月が一人静かに見守って…。
 明け方には組み上がった石窯の煙突から煙が上がった。
 火入れだ。煉瓦の定着と窯の強度を増す為に――その煙が上がる頃には村からの食材が会場へと到着する。
「本当の戦いはこれからよ!」
 村娘の一人が戦に出るが如く言葉する。
 がその表情には明らかな疲れが見え始めていた。
 けれど、瞳に灯った熱意の炎はまだ決して消えてはいなかった。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 9
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MVP一覧

  • お茶会の魔法使い
    ロラン・ラコートka0363
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜ka5784

重体一覧

参加者一覧

  • お茶会の魔法使い
    ロラン・ラコート(ka0363
    人間(紅)|23才|男性|闘狩人
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士

  •  (ka0824
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 綺麗好き
    鳳凰院 流宇(ka1922
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人

  • 曄(ka5593
    鬼|19才|女性|闘狩人
  • 見霽かす赫き瞳
    瀬陰(ka5599
    鬼|40才|男性|舞刀士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師

  • シードル ブルトン(ka5816
    ドワーフ|36才|男性|聖導士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 兄妹を笑顔にした者
    阿部 透馬(ka5823
    人間(蒼)|24才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 村長祭の準備手伝い
ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/11/06 10:40:15
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/06 07:27:08