万霊節、芋につまった夢と料理パーティー

マスター:DoLLer

シナリオ形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2015/11/04 09:00
完成日
2015/11/10 04:38

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 帝国のとある地方にある農村。
 ピースホライズンに卸す食材を仕入れる為に立ち寄ったミネアの荷馬車の元に、農家のおばさん、そして子供たちが集まってくる。
「ミネアちゃん、いらっしゃい」
「おばさん、いつもありがとう。みんなぁ、今日も色々もってきたよ~」
 ミネアは馬車を降りて丁寧にお辞儀すると、子供たちに野菜の端材で作ったお菓子をプレゼントした。
「やった、おやつ。ミネアお姉ちゃんありがとーっ!」
 子供たちは大喝采。みんなで押すな押すなの取り合いが始まる。そんな様子を大人たちは眩しそうに見つめ、そしてどんな味なのかしら。などと話し合う。
「ほんの少し前までは、もう見捨てられた土地だと卑下していましたけどね。ミネアちゃんが来てくれて本当に良かった。みんなここで暮らすことに辛いと思わなくなったわ」
「そんなことないよ。ここのジャガイモは形が綺麗って、みんな褒めてくれるのよ。あたしもここに来れて嬉しい」
 ミネアはそう言うと、街で仕入れて来た金物なども一緒に下ろす。本来は食品商だから金物など専門外ではあるが、街道から大きく離れたこの村は行商人も中々やって来れない。だからミネアがついでに仕入れてもってきたりもするのだ。
 帝国の地方を活性化してほしい。
 そのお願いから始まった商人の仕事だから、採算はとれなくとも笑顔のためなら頑張りたい。
「前に頼まれてた穴の開いたお鍋の修理のが……これ。新しい鉈がこれね。代わりにいい野菜ちょうだいね」
 そんな努力の甲斐あってか、もうすっかり顔見知りばかりだ。誰が何を頼んだかも顔を見ただけで判別でき、ミネアは次々と品物を渡していく。そんな彼女に村人たちはまた微笑んでくれた。

「ねぇ、ミネアちゃん。今年試しに作った芋があるのよ。見てくれる?」
 ひと段落してから、おもむろにおばさんが持ってきたのは、大き目の籠につめた芋だった。ジャガイモなのはミネアにはすぐ見て取れた。だが、他のジャガイモよりずっと丸々としていて色が濃い。すごく大事に育てたのだろうことはすぐわかる。
「これ凄い甘そう。形も綺麗だし……」
 ミネアはそう言いながら、許可を貰って芋の一つを軽く小型包丁で割ってみた。中は思っていた以上に明るい赤が混ざっており、まるで夕陽のようだと思った。
 これだけ味の濃そうな芋ならきっとどんな食材でも主役になっちゃう。スープにするとかだともったいないくらい。
「これいいよ。絶対高く売れるよ! みんな美味しいって言ってくれると思う」
「よかった。ミネアちゃんにそう言ってもらえるなら安心だ。是非持って行っておくれ」
 と言って差し出されたのは同じジャガイモを入れた籠がもう一つ。合計して100個あるかないか。ピースホライズンでの卸し市場で扱うにはほぼギリギリのラインだ。普段のジャガイモとは明らかに違う扱いをされたそれにミネアはしばらく戸惑った。
「子供たちがみんな幸せになますようにって育ててくれたものさ。……お願い」
 おばさんはそう言うと、ミネアの手をぎゅっと握り締めた。
 ああ。ミネアは直感した。
 また男手が減っている。若い男性はみんな実入りが良くて憧れの職業である兵士にと志願して消えていく。働き手が減り続ける村ではおばさんを始めとした女性陣と子供、そして老齢の人間しかいない。
 子供たちがその中で一生懸命に取り組んだ結果なんだろう。畑仕事を手伝いながら、その上でもっとすごい、もっと立派なジャガイモを作るんだと手間暇かけ続けて。知恵を絞りあって。そんなことが伝わってくる。
 気持ちを背負うのは、わたしなんかにはとてもできない。押しつぶされてしまいそうになる。
 でも、託されたなら応えてあげたい。
「……わかった。いっぱい売るね。来年になったら別の商人が押しかけてやってくるくらいの大人気にするっ」
 ミネアはおばさんの手を握り返した。


 と言っても、卸し市場で売ってしまったら反響はわからないし、使いあぐねる料理人も多いはずだ。
 その辺りは料理人としての経験でミネアはよくよく承知していた。
 それにこんないい品物は、おばさんがそれでいいよ。と言ってくれた額のお金で済ませたくもない。
「あの村の子供たちの傑作だって、伝えるためには……」
 やはりそこは料理しかない。料理を食べてもらって、食材の良さをアピールするのが一番だ。
 でも問題はピースホライズン。流行り廃りの激しい市場。旅人だってそれを理解しているから、食べ物など美味しければそれでいい。明日出会えなくとも構わない、という人が多い。
 そんな中で芋100個なんてほんの少しのことしかできない。
「記憶に留めてくれる人、記憶に残る出会いになること……」
 ミネア今までの記憶で印象的だったことを手繰り始めた。
 商人として駆けだしの時も、ちょうどこんな万霊節の時だった。ハンターがたくさん手伝ってくれた。
 お菓子もみんなで作った。売り出しして大人気で村に持っていく分がなくなるくらい。
 合コンなんてミネア的には前代未聞のことも。スズランも配ってみんな幸せそうだった。
 ミネアのこれ以上ない大切な思い出。みんなと一緒ならミネアも楽しかったし、ピースホライズンの人々もなんだなんだと寄ってきてくれた。
 何より大事な芋ってこと。ハンターの人ならきっと理解してくれる。
「ハンターのみんなと一緒に料理作って、楽しんだら……」
 そうと決まれば。ミネアは立ち上がった。
 この芋が最高の一時を作ってくれるってこと、みんなと分かち合いたい。
 そしたら子供たちの気持ちもきっと伝わるはずだ。

リプレイ本文

●アカン宣伝’s(Adhominem Ads)
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法、分身の術! みんなの視線をお芋に釘付け!」
 ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は一枚のカードを天にシュパァと投げると人形がふわりと落ちて来た。人形は秋桜の念じる通りに踊り、跳ねて、そして彼女の動きに合わせて一緒に舞う。
「さあさ、ご覧あーれー♪ 心は踊り、胸いっぱい、美味しいお芋のパーティー。はっじまりまーす」
 立ちどころに道を行き交う人々は足を止め、その物珍しい符術士による大道芸に目を奪われた。
 看板の方ではなく。
「秋桜さんの見た目が刺激的すぎて、看板まで目が届かないのでしょうね」
 エルバッハ・リオン(ka2434)ことエルにそう言われて、秋桜はショックを受けた。
 おかしい、大ニンジャの系譜を持つ私が目標より目立ってしまうだなんて……まあ忍者カードゲームのプロファイターである以上、当然だけどっ。
「みんなお芋食べていこうよー」
「致し方ありません。ここは私がひと肌ぬぎましょう」
 視線を集めることと、看板を見てもらうことが相反する命題になってしまって困る秋桜に対して、エルは文字通りエンジェルドレスの羽織を一枚脱ぎ捨てて、近くにいた男性にぴっとりと身体をくっつける。
「いきなりですみません。是非(お芋)食べていただきたいのですが……」
 硬直する男性にエルはさらに……
 ごしゃ。
「そういうのは有料サービスでやってください。むしろ管理が必要そうですね。管理料もついでにいただきます」
 最上 風(ka0891) がエルの頭を鈴で殴り倒し、冷徹な瞳で見下ろした。
「ちゃんと農村のためになるアピールを忘れないでください」
 風はクールにそう言うと、唖然として事の成り行きを見守っていた商人にコホンと咳払い一つし、じっと商人の目を覗き込むと軽く営業スマイルを作り出した。
「そこの商人さん、良い儲け話があるのですが、聞きませんかねー?」
 今の流れで、その言葉は曲解されても仕方ない。
 あえなく3人とも仲間達に強制回収されていく。
「おかしい、風は悪いことはしていません。慰謝料を要求する~!!!」
 ずるずると引っ張られていく3人に取り残される通行人たち。
「な、なあ。面白そうだから、行ってみようか」
 ちゃんと宣伝効果は出ているのである。
 
●あまりにもなBEE一族の運命(BEE too been)
「一族集合してるじゃん?」
 BEE一族の顔ぶれを確認した族長Gon=Bee(ka1587)は嬉しそうにそう言ったが、首領であるDon=Bee(ka1589)は目を細めていつもの顔ぶれがそろっていないことを確認した。
「一人足りぬでござる! どこ行ったぁぁァ」
 Donは勢いあまって弓をつがえるがここは街中。撃っちゃうの!? という動揺は一族の破壊神Ya=Bee(ka2049)ことYanの悲鳴によって崩された。
「あああああ、食材の水牛がぁ」
 イキの良い暴れ水牛がYanの持つ手綱を振り切る勢いで突っ込んでくる。あ、振り飛ばされた。
 御者のいなくなった水牛は食われてなるものかと右へ左への大暴れである。さすがは破壊神のペット(本当にペット)。
「一緒に来るはずだった残りの一人もまさか……食べられてしまったのでしょうか」
 Han=Bee(ka4743)は恐ろしい発想に辿りつき、悲しそうに胸に手を当てた。
「もうヤるしかないよね! これも供養!! 今宵の虎徹はお肉に飢えていますーー!!!」
「だね。牛太郎(仮)、いなくなったもう一人と共に、美味しく食べてあげるからね」
 さっきまでの悲痛な顔はどこへやら、薄ら笑いを浮かべるHanと共に、Jyu=Bee(ka1681)も大太刀とレーザーナイフの二刀流で暴れ水牛へと立ちはだかった。
「え、お肉さっそくやるの! じゃあ下ごしらえ、下ごしらえ」
  見た目は美麗なHachi=Bee(ka2450)はコーラにビールの二刀流で立ち向かう。肉の臭みを消してくれるらしい。
「「「いざ、尋常に!!」」」」
 Donの弓の一撃を皮切りに弔い合戦の名の元に命の連鎖へとの戦いの火ぶたがきって落とされ、ようとしたが。
「捕獲」
 街中で暴れるな。ミネアの冷徹な指示の元に、BEE一族(と水牛)は取り押さえられた。
「あらやだ。みんなどうしちゃったの?」
 一人スイートポテト作りに専念していたNon=Bee(ka1604)がHachiのビールを目当てに探し始めたことをきっかけとして助けられるその時まで一族揃って樽詰めの刑。
 だが、そのドタバタ具合は祭り好きのピースホライズンの人々を遠くからも呼び寄せたのは間違いない。

●こんにちは、お隣さん、聞いてって(Dear near. Hear here?)
「うわ、これうまい」
 そんな反響を聞いて、そうじゃろう、としたり顔で頷くのはレーヴェ・W・マルバス(ka0276)。
「ほほう、それはどんな風に?」
 エアルドフリス(ka1856)に感想を求められた訪問客は何かしら表現しようとして口ごもった。そこをさらに追い込むようにメモを片手にパイプを上下させるエアルドフリスを見て、訪問客はますます困ってしまった。それを助けるのはジュード・エアハート(ka0410)。
「もー、そんな質問じゃ困るにきまってるじゃん」
 こくこくと頷くお客に、クッキーのプレゼントをするディアンドル姿のジュード。その純朴で可憐な姿に癒され、そしてエアルドフリスから逃げていった。
「……うーむ」
「真にウマいものは、言葉にできぬものだ。実際、この芋を鉄鍋でバターで焼いて塩で味付けしただけじゃからのぅ」
 レポートをまとめるのに苦心するエアルドフリスに火酒の入ったグラスを渡しながらレーヴェは笑った。
「ほれ、おぬしも食うてみい」
 レーヴェが鉄鍋ごと持ち上げてにっかり笑う。
「あーんしてあげよっか」
 ジュードがそう言うが、如何によいキャッチを創るかに執心しているエアルドフリスはジャガバターをそのまま口にいれてしまった。
 ショック。
 いや、エアさんはそれだけ真剣なんだ。仕方あるまい……とは思いつつも、なんだかレーヴェに美味しいところを取られたようで、ジュードはディアンドルの裾をぎゅぅ、と握り締めて踵を返した。
「こっちも料理完成だよ。アコーディオンポテト」
 ジュードと入れ替わりに、芋をスライスして蛇腹のようにして焼いた料理を持ってくるのはユリアン(ka1664)。その香ばしい匂いに客たちも大歓声を上げる。
「待ってましたー!!」
 さっそくあちこちからフォークが伸びる。ただし、アコーディオンポテトというのは細かくスライスはしているが、下は切れてない。
「あー、こら、取るな!」
「お前こそ!」
 壮絶な取り合いのバトルが開始する。メインディッシュになる料理はレーヴェの鉄鍋ジャガバターと、このアコーディオンポテトだけであり、みんな我先にとフォークを乱舞させる。
「はいはーい。しっかりきっちり並んでください。取り合いしていると罰金刑に処しますよー」
 風がささーっと整理していくことでことなきを得る間に、ユリアンは同じくアコーディオンポテトの調理を担当するルナ・レンフィールド(ka1565)に声をかけた。
「料理の取り合い凄いよ。今だったら、熱々のうちに食べてもらえるかも」
 丁寧に丁寧に、包丁を入れていたルナはええっ、と思わずその一言に愕然とした顔をした。ユリアンはまるで疾風のような包丁捌きをみせたが、ルナは料理は門外漢だ。
 と、その瞬間。手元が狂いかけたのが解った。
「危ない。大丈夫?」
 ユリアンは素早くルナの手を取ると、そのままルナの後ろに回って包丁の使い方を教える。
「芋のそばに箸を置いておけば、下まで切らなくて済むだろ? そこでリズムよく……」
「あ、いいリズム」
 音楽家のルナはユリアンの包丁が刻む音にしばし目を閉じて、聞き入った。料理は本当に難しいけれど、音楽としてとられえば、なんとなく感覚が掴めてくる。ぎこちなかった包丁もどんどんリズミカルに動く。
「そうそう、いい感じ」
 背中越しに心臓の音が聞こえる。ルナは色んな音を体に受けながら、急速に料理が楽しくなっていくのを感じていた。

●特別な秘密、赤裸々に(Select secret, scarlets scatter)
「これは……世界?」
「あ、わかったわかった。ここ、料理って書いているんだよ」
 パーティー会場の手前で、通行人たちはちょっとした暗号解読を楽しんでいた。というのも華彩 惺樹(ka5124)が作り上げたチラシによるものなのだが。
「待て待て、なんでこうなるんだ」
 チラシの原案担当であるエアルドフリスは慌てて惺樹の元に駆け寄ってくるが、それはこっちのセリフだと惺樹にクールな視線が飛んでくる。
「誠心誠意、心を込めて清書したぞ。そもそも古文書の文字で書かれてるとは思いもしなかった。だからこれは興味を引きつける新たな作戦かと思ったわけだが」
「一般的な文字だろう!?」
 しかし惺樹の「暗号解読」に見せかけたチラシ効果は抜群で、何の気なしに歩いていた人達はチラシに真剣に目を落として立ち止まり、ああでもないこうでもないと推測を働かせてホームパーティーへと参加してくれる。
 会場ではルナの演奏でお出迎えされるとどんな人でもウキウキし、料理一つが楽しみになってくる。
「どんなオススメがあるの?」
「うん、今出ている料理なら、鉄鍋のジャガバターか、アコーディオンポテトかな。どれも芋の味がしっかりしている」
 興味を持った通行人にそう答えながら、惺樹はふと自分の姉妹の顔を頭に浮かべた。この芋は是非妹にも食べて欲しいし、姉もこれだけいい芋を使った料理なら耳にするかもしれない。持って帰って家に帰ったら出してやろう。そう心に決めるのであった。
「しかしまあ、楽しんでくれているなら何よりだ」
 ため息一つつくと、エアルドフリスも早速チラシ配りに加わる。まず男、それから女、少女、熟女、淑女。次は生足が魅力的な……。
 あれ、いつもならこの辺でジュードからツッコミが来そうなものだが。いつもと違った感覚に、思わずエアルドフリスはそっとジュードを振り返った。
「わ、このクッキーすごいね。極楽鳥で扱いたいくらい」
「経緯を聞いたら、手を抜くなんてとてもできないさ! 砂糖なしでここまで芳醇な味を出せるのは本当少ないよ。まさに絶品!!」
「じゃあ、これ紅茶のカンにつめたらどうかな。あとはハンカチに少し包んで試食用に……」
 藤堂研司(ka0569)の豪快な笑顔に反応して、興奮が伝わるのか目を輝かせて話が盛り上がるジュード。
 エアルドフリスとしては、ホッとしつつも、心が落ち着かない。
「あれ、エアさん。どしたの?」
 結局。何故か一緒になって研司のクッキーの出来合いを見ているエアルドフリスに、ジュードは驚いた顔をして、それから少しだけ口元を微笑ませた。
 ……狩人の微笑みを。

●可笑しな(お菓子な)さえずり(Sweet tweet)
「できたお料理は、わたくしとパルパルにお任せですの!」
 配膳役に立候補したのはチョココ(ka2449)であった。エプロンドレスに身を包み、パルパルはカボチャスカートでおめかし済み。
「はーい、お待たせしましたですの。芋餅ですのー」
 そう言いつつ、エミリオ・ブラックウェル(ka3840)とデュシオン・ヴァニーユ(ka4696)の合作である芋餅をのせた皿を頭に乗せて歩いていた。パルパルはバランスを崩さないように一緒にお皿にのっかっているのだが。
「きゃー、カワいい。これお菓子? すごい精巧~」
「あ゛ーっ、それは本物ですの! 食べたら血……じゃなくてキノコ汁が出ちゃいますのよ」
 パルパルを食べ物と勘違いされて大慌てするチョココに、芋餅の作成者であるデュシオンはくすくすと笑った。
「芋餅にキノコの出汁はきっとあうかもしれませんわね。醤油で味付けしておりますので、きっと…… 」
「は、はわわ、デュシオン様まで!?」
 真っ青になってふるふる首を振るチョココを見て、デュシオンはくすくすと笑った。
「ご安心くださいな、わたくし、蛇とかの方が好きですわ」
「ま、丸呑みされる未来が見えますの……」
 覚醒もしていないデュシオンの姿が蛇のように見えてチョココは逃げるように配膳へと走った。
「それにしても美味いのう。これ。……ふむ、こっちのと味が違うのか」
 チョココの頭に乗せた皿から芋餅を連ねた串を一つとってレーヴェはほう、と目を丸くした。
「そうそう、ナッツ入り、チーズ入りもあるのよ。色んな組み合わせ試してみてね」
 料理を作ったエミリオ・ブラックウェル(ka3840)は蜂蜜を入れた小皿を差し出し、軽くウィンクした。
「ほう、なるほど。取り合わせによって味を様々に楽しめるというわけじゃな。これはリアルブルーの料理の珍しさも相まってなかなかじゃのう」
「作ったのが私ってことも含めてね!」
 エミリオはリアルブルー出身者ではなくエルフだし、見た目はアレだが、中身は男。取り合わせの妙技というものをよく知っている。一方レーヴェは子供っぽい外見ながらに老獪な言葉遣い。
 多種多様な芋料理を通して、奇妙な取り合わせに二人はニヤリとした。
「酒、どうかの?」
「いいわね、是非! ワインはあるかしら」
「もちろんじゃ、茶もあるぞ」
 ドワーフとエルフ、男と女、見た目と中身のギャップ、そんな垣根を超えて、突然の縁に二人を肩を組みあう。
「なんかどんどん賑やかになってるね」
 キッチンから見える外はそんな様子で、どんどん賑やかになっていく様子を見てアルフィ(ka3254)はなおさら急がないと、とボウルに入った生地種を混ぜるヘラに力を込めた。おかげで種がぴっちぴっちとボウルから跳ね飛び、手元やアルフィの鼻先にまで飛び散る。
「慌てなくていいよ」
 アルフィがそんなこともお構いなしに勢いよくぐりぐり生地種を練る様子をくすくすと笑うアリオーシュ・アルセイデス(ka3164)にアルフィは唇を尖らせた。
「むーぅ。そんなに笑わなくたっていいじゃない。ボク、一人で料理したことないんだから」
 だが、アリオーシュはその様子にもう一度クスリと笑うと胸元からハンカチを取り出し、真っ赤になるアルフィの鼻先についた白い生地種をぬぐってあげた。
「ほぇ」
 きっと変な顔になっていたのだろうか。アルフィは間の抜けた声を一つあげると、アリオーシュのされるままに種をぬぐってもらった。
「えへへ、アリオーシュお兄さん、ありがとっ」
「どういたしまして。疲れたら代わるからね。みんなに温かい想いを届けて上げよう」
「うん!!」
 先程までのむくれ顔はどこへやら。アルフィは弾けんばかりのとびきりの笑顔でアリオーシュに答えた。

●並々ならぬ人波と足長おじさん(Ex! Max! Mr.X!!)
 ピースホライズンに不釣り合いなみすぼらしい身なりの少年少女は呆然としていた。彼らこそこの芋の生産者である村の子供たちであるが、まったく事態についていけていないようだった。
「この芋は本当にすごい」
 ザレム・アズール(ka0878) はそう声をかけるのだが、夢心地の彼らにはその言葉は届いていないようだ。
「ええと、あの」
「……あり、がとうござい、ますです」
「ミネア。この芋はそんなにとれないんだろう? その希少性も価値になると思うんだ。それを加味して売り出せるように、料理店や商人にも声をかけてきたんだ」
 予想外の展開に驚いているのは子供たちを連れて来たミネアもであった。子供たちと合わせてポカーンとしてしまっている。
「は、はやいですね」
「もう料理も準備済みですし、商人や料理店向けの配布も始まっています」
 風がそう言うと、ザレムの作った芋を揚げて作った芋けんぴを差し出した。そして風はもうポリポリ食べてる。
「ああ、その芋けんぴ、ちょ、ちょっと……」
 恐る恐るけんぴに手を伸ばしかけた瞬間、研司が慌ててやってきた。その姿は何故かボロボロだ。
「藤堂さん、どうしたの?」
「いやぁ、土産用にクッキー作ったんだけどさ」
  研司が目をやった方向ではジュードが人の波を果敢に打ち払っていた。
「はいはいはーい。残りは少ないよ。甘味抜群、保存もしやすい、加工もしやすい、奇跡の芋の料理はこちらだよーっ。はい、押さない、押さないで!!」
 ジュードは大声を張り上げ、猟撃士の力を使って、無数に伸びる手にクッキーの缶を投げ渡していった。その正確無比なパスがなければもっと混乱していただろう。そう、秋桜とエルの呼び込み、エアルドフリスと惺樹のチラシ戦術、BEE一族のトラブルが噂を呼び、人を呼び。そしてレーヴェのジャガバター、ユリアンとルナのアコーディオンポテトが、エミリオとデュシオンの芋餅が、やって来た客の心をがっちり引き留めた。
 中でもお土産用のクッキーはモノノフ野営食堂の藤堂研司謹製、同盟のキャンディショップ極楽鳥のジュードによる販売となれば、その反応は際立つばかりで、大きな箱いっぱいに作ったクッキーの缶が飛ぶように消えていく。
 賑やかな空気が芋の力。この芋は話題の中心になる。そう確信した商人や料理人たちは呼び込みの成果著しく、我も我もと手を伸ばしているのであった。
「クッキー、売り切れちゃうよ!」
「すまん、もうタネは使い切っているんだ!! そ、そういうわけで、すまない! クッキーいっぱい作ったけど、足りなさそうなんだ!! ザレムの作った芋けんぴも是非、使わせてほしい!」
 誰がこんな結果になると想像しただろうか、ザレムはその手ごたえに微笑むとミネアと村の子供たちに向き直った。
「これは君たちの分。一番に食べる権利は君たちだから」
 ザレムはそう言って芋けんぴを手渡す。子供たちはそれを食べて、思わず驚いた顔をした。
「すっげ、ウマい。料理の仕方でこんな変わるんだ」
「これ、かーちゃんよりうまいよな」
 自分たちの努力が形になったというのは思いの外、衝撃的だったようだ。そんな彼らにジュードがディアンドルのスカートをひらめかせ手を差し出す。
「良かったら、一緒に配ろう! 大切な1ページになるように」
「はーい!!」
 ジュードの言葉と笑顔に惹かれるようにして、緊張しきっていた子供たちも動き出す。地方衣装のディアンドルが子供たちに親しみを覚えさせてのかもしれない。
「大切な1ページ、か」
 ユリアンは店のサインポストの上からそんな様子を覗いていた。
 思い返せば自分の大切な1ページも随分と増えた。良い物悪いモノいっぱいあるけど。
 彼らのページはどんな風につづられていくのだろうか。

●Bye bye Bee
「かんぱーい!」
 パーティー会場の一角で、ようやく樽詰めの刑から解放されたBee一族は持ち寄ったお酒で鍋の完成を祝っての祝杯をあげた。
「いやー、さすがに手間かかったね。レーザーナイフがあるから焼き締めながらできたけど」
 Jyuは鍋の蓋代わりになっている牛太郎(仮)の頭骨を見て、はふぅと息をついた。ちなみに鍋は牛太郎(仮)は骨と皮以外おおよそ全部使用している。骨も出汁とった。おかげで用意したすべての寸胴鍋が溢れそうになって大変である。
「いっただっきまーす。あ、お肉まだカタい。やっぱり炭酸が足りなかったんだ」
 Hachiは一口串に刺した肉を口に入れるや否や眉をひそめた。そして取り出したるはビール。さっきコーラ入れたのでもうないのでその代用だ。
 どっぽどっぽ。
「ああああ、溢れる!! はっちゃん、もったいない!!!」
「あ、スイートポテト発見!」
 ビールを入れるHachiに見かねて酒豪のNonが止めに入った。が、逆にその為に食後のデザートにととっておいたNon特製スイートポテトが見つかってしまう。ちなみにBee一族では女子力とは男性陣に使われる場合が多い。女性陣にそれを求めてはいけないのはHachiを見て気づくべきである。何故なら彼女はそのスイートポテトすら鍋に投入したのだから。
「何をする! 芋なら芋TENPRA! を用意してござったぞ! そしてUDON、UDONを辱める奴には鉄槌を下すでござる」
 Donは弓を構えようとするが、先の件があって武器は押収済みなのでUDONでHachiの首を絞めた後、そのまま鍋にイン。芋天もついでにイン。
「匂いが急激に甘くなってきたね。私も砂糖混ぜて揚げたの入れたのに!」
「俺は普通に芋入れたじゃん?」
「Gonちゃんが入れたのは甘露煮よぉ~」
「炭酸もかなり入れてしまいましたし、砂糖過多ですね。いえ、でも糖分は疲労・体力回復に効果があるとされています。これはもう、私達の為にある料理だと!」
 Hanはドス黒いキャラメル色に染まる牛鍋を見て、こくりと頷いた。
「そっかぁ。じゃあ、これで味が引き締まるかも!」
 Yanは人間状の干からびた腕をぶち込んだ。
「…………」
 腕、隠れてない。
「おっし、じゃこいつも入れるじゃん。肉はいっぱいあった方がいいじゃん?」
 極め付け(ミイラの手も大抵極まっていたが)に虎猫の首根っこを掴んでGonは笑顔を浮かべた。
 が、次の瞬間。派手な音と共にGonの顔が鍋に埋まった。
 背後には今まで見たこともない冷酷な顔のミネアが立っていた。虎猫だけは彼女が保護している。
「その鍋、臭いも見た目にも公衆害悪です。貴方たちの胃の中に5分で片付けてください」
 歪虚王よりも怖そうな空気にBee一族はごくりと唾をのんだ。

●商人達のカケヒキ(Merchamt's march)
「もうお帰りですか? またこのお芋を見かけることがあったら是非思い出してくださいね」
 ティア・ユスティース(ka5635) は立ち去る客に軽く干した芋を袋詰めしたものを手渡し、見送っていった。もう夕刻。人の姿も夕闇に重なる時間になる頃には、用意していた料理も全て無くなっていた。
 しかし、それでも熱が残るのは……。
「是非、我が商会と契約を!」
「うちの店に直接納品してくだされば、旬の味を伝えられますから!!」
 商人、料理人たちだ。話題性、そして希少性のある芋となれば金のあるピースホライズンの人間はいくらでも食いついてくる。
「あら、まぁ……」
 ティアは熱心な人々と対照的に困惑する村の子供たちを見ると、そっとそちらの方に移動した。安寧に満ちた世界を作るために困った人は絶対見過ごしてはいけない、そんな父と母の言葉が頭をよぎる。
「この額で……!」
「いや、それなら」
 天井知らずの合戦になっている様子にティアはすっと割り込むと丁寧にお辞儀一つして、承認に向き直った。
「お気持ちは大変嬉しいのですけれど、これはお金の問題ではありませんので、子供さんにお話を決めさせてもらえないでしょうか?」
 その一言で騒がしかった人々も押し黙る中、ティアは子供たちを見た。といっても子供たちもどうすればいいのかわからない。戸惑う子供たちにティアはこっそりとチョココの方を見るようにとそっと促した。
『こういう時はこれが一番ですの』
 カンペという名の惺樹が作った絵やスケッチをふりふり、商人たちには見えないようにアイデアを示した。
「どうせなら、笑顔でいてほしい」
 熱心なのはわかる。だが、金に目ざとい商人ではきっと村の人達は振り回されるだけだろう。 惺樹は子供たちに頷いて見せた。
「僕たちね、取引はミネアお姉さんとだけにするって決めてるの」
「え……」
 ミネアも思わずぽかんとしたが、ハンター達はみんなして微笑むだけだった。子供たちも。
「村のこと、今までずっと見てくれてたのはミネアお姉さんだもの。僕たちの芋はこれからもミネアお姉さんに全部預けます」
「そ、そんなぁ」
 がくりと膝をつく商人たち。まあ明日には気を取り直してミネアに商取引を申し込んでくるのだろうが。
 それを見た惺樹は子供たちの肩を叩き笑みを浮かべた。
「よし、ハンターが生産性の改良を考えよう。絶対成功させような。そうだ、芋に名前をつけないか」
「それなら、もう決まっているよね」
 ザレムが微笑み、子供たちも大きく頷いた。
「たいよう!!」
 子供たちの顔も、ミネアの顔も、その名前の如く。

 ハンター達の楽しいひと時が、新たな一時を生み出したのであった。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 豪傑!ちみドワーフ姐さん
    レーヴェ・W・マルバス(ka0276
    ドワーフ|13才|女性|猟撃士
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 龍盟の戦士
    藤堂研司(ka0569
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師

  • 最上 風(ka0891
    人間(蒼)|10才|女性|聖導士
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • Beeの一族
    Gon=Bee(ka1587
    人間(紅)|35才|男性|疾影士
  • 一本UDONマイスター
    Don=Bee(ka1589
    エルフ|26才|女性|猟撃士
  • Beeの一族
    Non=Bee(ka1604
    ドワーフ|25才|男性|機導師
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • Beeの一族
    Jyu=Bee(ka1681
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • Beeの一族
    Ya=Bee(ka2049
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • うっかり
    Hachi=Bee(ka2450
    エルフ|24才|女性|猟撃士
  • 誓いの守護者
    アリオーシュ・アルセイデス(ka3164
    人間(紅)|20才|男性|聖導士
  • 星々をつなぐ光
    アルフィ(ka3254
    エルフ|12才|女性|聖導士
  • 愛しき陽の守護星
    エミリオ・ブラックウェル(ka3840
    エルフ|19才|男性|機導師
  • ライラックは美しく咲く
    デュシオン・ヴァニーユ(ka4696
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • Beeの一族
    Han=Bee(ka4743
    人間(紅)|20才|女性|舞刀士
  • この力は愛しき者の為に
    華彩 惺樹(ka5124
    人間(紅)|21才|男性|舞刀士

  • Q=Bee(ka5185
    エルフ|15才|女性|舞刀士
  • 過去の教訓
    ティア・ユスティース(ka5635
    人間(紅)|30才|女性|聖導士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師

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ジュード・エアハート(ka0410
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/11/04 08:02:42
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/04 00:05:30