• 郷祭1015

【郷祭】蒼の世界に学んで

マスター:のどか

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/11/03 19:00
完成日
2015/11/30 01:43

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「――やぁ、息災のようで安心しましたよ。カルヴィーニ氏」
 大型機械の稼働音響く蒸気工業都市「フマーレ」の食器工場。
 ゴウンゴウンと唸る機械をゴーグル越しに眺めるフランコ・カルヴィーニへと柔らかい物腰の一声が投げかけられていた。
 フランコはゴーグルをたくし上げながら声のした方向へと向き直ると、すぐによそ行き用の笑顔で目の端を細めて見せた。
「おお、これはこれはエヴァルドさん。来るなら言ってくれりゃぁ良かったのに」
 鉄と油の匂いが漂うこの工場に置いて、場違いなほど整った服に身を包んだ青年――エヴァルド・ブラマンデ(kz0076)は、手を小さく左右へと開いて見せながら静かに首を横に振った。
「いえいえ、こちらこそ急に押しかけてしまい申し訳ありません。調子はいかがでしょう?」
「『ガレージ』のことか? ここ半年、慣れない技術と作業で決して順調たぁ言えねぇがな。まあ、職人連中は意気揚々と働いてるよ。近々試作品もできる予定だ」
「それは良かった。出資してる身としても、その後の進展はそれなりに気がかりでしたから」
「何なら、ちょっと見ていくかい?」
 親指で後ろ手に、くいと大型兵器開発工場「ミシェーラ・ガレージ」の方を指し示すフランコにエヴァルドはまたもや首を横に振ると、代わりに小脇に抱えていた布袋を地面に下して見せた。
 がしゃりと、軽い金属音が響く。
 いったい何を持ってきたのかと興味深げに袋を眺めるフランコへ、今度はエヴァルドが口を開いた。
「カルヴィーニ氏――少々お時間を頂けませんか?」

 工場の事務室へと通されて、エヴァルドは来客用の椅子へと腰を下ろす。
 奥ではフランコがお茶を沸かそうとしているようで、ポットの縁に触れてビクリと手を引っ込めているのが見えた。
「悪いな散らかってて。とは言え、あいにく俺専用のオフィスってわけでもないんでね」
「いえ、構いませんよ。片づける暇もないほど忙しい、と言うのは繁盛の証じゃありませんか」
「ははは、どうだかな」
 机の上に出しっぱなしの資料や、壁に立てかけられた丸まった製図等を尻目に、含んだように笑みを浮かべるエヴァルド。
 フランコは悪戦苦闘しながら淹れ終ったマグカップを自分と、エヴァルドの前に置くと、自らもどっかりと椅子へ腰を下ろした。
「しかし驚いたよ。てっきり俺は、あんたはジェオルジのお祭りの方に行ってると思ったからよ」
「ええ、この後に向かう予定でしたよ。ただ、その前にお聞きしたいことがありましてね」
「そいつか?」
 言いながら、フランコはエヴァルドの持つ袋へちらりと視線を投げる。
「見せてくれねぇか。さっきから気になってよ」
「ええ、良いでしょう」
 エヴァルドは袋の口紐をほどくと、テーブルの上へとその中身をドサドサと落としてみせた。
 金属のぶつかり合うような音と共にテーブルの上へと転がったのは――円柱状の金属の塊であった。
「なんだこりゃ?」
 物体を手に取り、中身を確かめるように耳元で振るフランコ。
 見かけのわりにずっしりと重みのあるその物体の中では、何かスープ状の物がちゃぷりと音を立てているのが聞こえていた。
「先日、リゼリオ沖に停泊していたリアルブルーの軍艦の公開交流会があったのは覚えているでしょうか? 私も足を運ばせていただいたのですが、あれは実に素晴らしいものでした」
 エヴァルドは、身振り手振りを交えながらサルヴァトーレ・ロッソの中で見て聞いた事をフランコへと語り聞かせる。
 クリムゾンウェストいち進んでいると言われる同盟都市も目じゃないほど進んだ文明。
 高度な生活システムに経済システム。
 それを目の当たりにした人間にしかわからず、フランコが首をかしげるようなものも当然あったが、それでも夢のような街を嬉々として語って聞かせるエヴァルドを前に興味深げに相槌を打つ。
「――そして、そのお土産がそれです」
 ひとしきり話を終えた末、エヴァルドはフランコが手に持ったままの円柱物を手で指示していた。
「缶詰――と言うそうですが、単純に言えば薄い金属の容器の中に食品が入っています。今あなたが持っている缶の中には、クリームスープが入っているそうです」
「ちゃぷちゃぷ音がする正体はそれか――って、待て待て。この中に食い物が入ってるって?」
「はい。ちなみに、そっちには魚の水煮。こちらにはトマトスープ。こっちにはタレ焼きの肉が入ってるそうですよ。そうする事でかなりの長期間、食品を保存できているそうです」
 テーブルの上の他の缶を一つ一つ指さしながら、その中身を言ってゆくエヴァルド。
 その傍らで、フランコは缶の表面をまじまじと眺め、時折指先で叩いて見せる。
 先ほどの話よりも興味津々に缶詰を眺めるフランコに、掴みはバッチリだとエヴァルドは満足げに頷いて見せると、ようやく本題へと入るのである。
「単刀直入に申し上げます。『それ』作ることはできませんか?」
 その言葉にフランコはびっくりしたように手を止め、目を丸くして、そしてすぐに勢いよく首を横に振る。
「いやいやいや、馬鹿を言っちゃいけねぇよ。似たような容器を作って溶接で密閉するこたぁできるだろうが……手作業じゃムラはでるし、なにより溶解した鉄で中の食品がどうなっちまうか分からねぇ」
「なるほど、ごもっともです。多少は期待していましたが……当然のご判断かと」
 最初からそう言われると分かっていたかのようにすんなりと納得したエヴァルドに、フランコは大きく胸を撫で下ろす。
「なら他のもの。例えばそう、瓶に詰めて似たような商品を作ってみるとか」
「瓶ねぇ……ここまでの密閉性は出せないが、可能ではあると思う」
 エヴァルドの言葉に、フランコはうんと喉を鳴らす。
「今、村長祭がジェオルジで開かれているじゃありませんか。秋の村長祭は収穫祭。食材は豊富ですし、それを使っての商品考案会を開こうと思っています。もし商品化に至れば、例えば戦時中の食卓事情はより豊かなもとなり、それを作るジェオルジやフマーレも潤い、我々商人も仕事が増えるというものです」
 夢を語って聞かせるかのように、その計画を語るエヴァルド。
「野菜や肉で成功すれば、次は保存が難しい魚介類……そうなれば、ポルトワールだって抱き込むこともできるでしょう。同盟全体が、潤うのです」
 そこまで口にして、エヴァルドはフランコの返事を待つかのように口を閉じた。
 フランコは目を閉じて、天井を見上げ、うーんと大きく唸り声を上げた末に、パンと手を打ち鳴らした。
「よーし、良いだろう乗った! 取り急ぎ知り合いの職人にいろんな瓶を準備させるから、持ってってくれ」
「ありがとうございます、そう言ってくれると思ってましたよ」
 テーブル越しに熱い握手を交わす二人。
 蒼の世界との交流、そして村長祭を背景に、新たな事業が始まろうとしていた。

リプレイ本文

●缶詰を知ろう
「リアルブルーの技術には本当に驚かされてばかりですね……」
 ワークスペースのテーブルに並べられた大小様々な缶詰を前に、マキナ・バベッジ(ka4302)は感嘆にも似た吐息を漏らしていた。
「あっちの世界じゃよくあるものですけど、だからこそすごさを見逃しがちであります。ものによっては年単位で保存ができるでありますよ!」
「年単位!? すげぇなそりゃ……」
 クラヴィ・グレイディ(ka4687)の言葉にジャック・エルギン(ka1522)は目を丸くして答える。
「いきなり同じものを作るというのも難しいと思いますけれど、少しでも技術が培われていくと食卓の賑わいも大きく変わっていくかもしれませんね」
 未来のクリムゾンウェストの食卓に思いを馳せる明王院 雫(ka5738)。
 そんな意気高まるハンター達へと、ワークショップの企画者であるエヴァルド・ブラマンデ(kz0076)がにこやかに微笑み掛けていた。
「商品化のアイディアを出して頂く会ですが、肩肘張らずに楽しんで頂ければと思います。必要なものは何でも仰ってください」
 そう言って柔らかい物腰で会釈をすると、議論テーブルから一歩離れた位置についてハンター達に会話の場を譲るのであった。

「まずは先んずる物を知れ、ですね」
 雫は徐に用意したツナ缶を取り出すと、鋸を使って丁寧に半分に切り裂いてゆく。
「一見溶接のようにも見えましたが、本来の形はこうなっていたのですね……」
 切断された断面をまじまじと眺めながら唸るマキナ。
「二重巻き締めと言うそうです。回しながら少しずつ重ねた金属を押しつぶして密着密閉させるそうですよ」
 円柱状の金版にかぶせられた円形の金蓋が、ぴったりと張り付くように密着した構造を指さしながら、雫が説明を続ける。
「これを手作業で行うのは骨が折れそうですね……リアルブルーではどうやっているのですか?」
「ほとんどの製造過程は機械化されていますよ……機械が勝手にこの形に作り上げてしまいます」
 首を傾げた瑞葉 美奈(ka5691)へ天央 観智(ka0896)の解説が付け加えられる。
「理屈が解らなくても出来る事は、沢山在るんですけれど……ね。それでも……解っている方が通りの良い事も多いんですよ」
 そう言って、観智は傍らの紙とペンを手繰り寄せた。
「そもそも何故ものが腐るのか……その大本は細菌や微生物と言った小さな生き物たちのせいです。生き物ですから……それが死んでしまう、もしくは住みづらい、寄り付かないような環境を作ってしまえば食べ物は腐らない。『保存』とはそもそもそういった仕組みを持っています」
 紙に図で書いて説明する。
「例えば、塩漬けみたいに水分が抜けた状態。他にも密閉されて、そもそも入ってこれない状態……という感じだな」
 ツナ缶を指さし語るバレル・ブラウリィ(ka1228)。
「水っぽいけどこれも油だもんな。水がなけりゃ生きられないのはどの生き物も同じか」
 顎に手を当てて、グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)は今一度缶詰の利便性を思い返す。
 密閉され外から微生物が入って来づらい容器の中に気泡も入らないほど波々の油。
 ここまで完璧に作れるかは分からないものの、何を目指して作っていったらよいかの指標がなんとなく見えてきていた事だろう。

●瓶詰を作ろう
 アイディア出しだけでも議論は尽きないものではあるが、せっかくのワークショップと言う場でもあるので次第にいろいろな「実験」と「試作」へと場は動いて行く。
 キャンプのような簡易的な石積みの竈で火を起こし、小さな鍋で食材を煮出す。
 周囲は次第に香ばしい薫りから甘い匂いまで、ちょっとした食事処のような雰囲気に包まれていた。
「まあ、まずは素直な所をな」
 バレルはくつくつと煮立つ豆の入った鍋をかき混ぜながら、時折火の通りを確かめる。
 隣の鍋では甘辛のソースの中で固形の肉が煮詰められていた。
「穀物と肉はありがたいよなぁ。腹が減っちゃ喧嘩はできねぇが、ただ腹を満たしてもダメってもんだ」
 言いながらもうもうと水蒸気を上げるジャックの鍋ではやや小ぶりのサイズに切ったニンジンやジャガイモといった根菜類と、こちらも肉が鍋に張ったお湯の中でじっくりと煮込まれる。
「おっ……なんだか、煮たような完成系が見えるが、できてからのお楽しみとしておくか」
 そんなジャックの鍋をのぞき込んだグリムバルドもまた、同じようにゴロッとした、しかしこちらは筋張った肉から大量に出て来る「あく」と格闘している。
 そういった「煮込み」がある一方で、美奈が火にかけるいくつかの鍋はどれもぴっちりと蓋が閉められており、時折一筋の蒸気が零れ出す。
「それは何を煮ているでありますか?」
「お米を炊いております。白米もですが、少し味付けを加えたものもいくつか」
「あー、ジャパニーズソウルフードでありますね!」
 他の参加者達から見れば異質なその調理場を問うたクラヴィに、美奈は淀みのない口調で答えていた。
「ジャパニーズ――リアルブルーのそれと同じ物かは分かりませんが、まずこれをこしらえて……それから時間があれば煮物も作ってみようと思っています」
 その仮面でいまいち何を考えているのか読み取りづらい美奈であったが、彼女なりに依頼の事は考えている。
 東方の文化や知識を少しでも後学に役立てることができれば……これは言わば、彼女自身のチャレンジでもある。
「ジャムも考えておりましたが、それはあなたが作ってくださっているようですし、私はこちらに集中いたしますね」
「これならよくママと作ったので、任せて欲しいでありますよ!」
 ビシリと笑顔で敬礼してみせるクラヴィであったが、一方の手は絶えず鍋の中をヘラでかき混ぜ。
 ジャムという食材をほぼほぼ直火で煮詰める製法であるゆえに、ここに並んだ鍋の中では一番目を離す事ができないものである事は間違い無かっただろう。
 小さな気泡を発しながら木べらで返される果物のジャムは、その果実味と砂糖からなるあまーい薫りで美奈の鍋とは別の意味で、独特の雰囲気を纏っていた。

「鍋ものは皆さんにお任せして……こちらは少し単純なものにチャレンジしてみましょうか」
「そうですね。どうせならそのまま瓶で作って密閉してしまえたりすれば、手間も掛からないで良いのですが……」
 一方で観智とマキナは調理場には立たず作業台の方で野菜や果物といった食材といくつかの手ごろな瓶を前ににらめっこ。
 果物は実の大きなものは軽く切り分け、小さなものはそのまま、瓶の中に敷き詰めて砂糖を振ってあえる。
 逆に野菜は手ごろな大きさに切ると、塩を塗して漬け込む準備を行った。
「今日中に完成とはいかないかもしれませんが……少しでも生の素材を保存する事はできるかもしれません」
 手早く準備を済ませると、パンと手についた砂糖を払って観智は小さく一息。
「凍り豆腐とかもアイディアとしてどうかと思いましたが……ちょっとここで再現は難しいですね」
「この場で『完成』できないのはこちらも同じです。それでも、製法を考える場ですから試作としてとりあえずの外面はなんとか。肉も塩漬けにして水分を抜けば、少しは保存が効くでしょうか……?」
「塩気のある肉と野菜……ごはんのおかずにはもってこいですね」
「はい。同盟にはご飯の味がする保存食『まめし』がありますし、地域がらそのお供になるものなら喜ばれるのではないかなと思いまして……」
 こちらも一通りの仕込みを終えて、マキナは集められた空き瓶を一つ、手に取った。
「瓶詰……聞けば、リアルブルーにも昔はそういったものがあると聞きました」
「おう、よく勉強してるな。俺も授業で習った事があるんだ。その製法を今回は試してみようと思ってる」
 マキナの問いに答えたグリムバルドは、簡単にその製法を語る。
 ゆるくコルクを嵌めた瓶を沸騰した湯で加熱し中の空気を絞り出して、そのうえでコルクをしっかりと閉めて松脂や蝋で密封する、という製法だそう。
「なるほど……限られた資材でよく考えるものですね」
 聞いた製法にうんと頷いて見せながら、マキナはもう一度手に取った瓶を眺め回す。
「既に確立した製法は大いに参考になりますが、やはりどうせならクリムゾンウェストの強みもそこに生かしたいですよね……」
「こちらの世界の強み……という事はマテリアルでしょうか?」
 ピンと来たのか、明瞭に口にした観智の言葉にマキナは小さく頷き返す。
「仕組みや製法まで思いついたものではありませんが、例えば冷気を帯びたマテリアル鋼を利用して『魔術的に』細菌というものが住めない環境を作ってしまえば、といったものです」
「なるほど……可否は今は申し上げられませんが、新しい可能性を生み出す事ができるかもしれないですね。是非アイディアだけでも持ち帰らせていただければ」
 その案に、思いの他食いついたのは主催のエヴァルドであった。
 可能不可能の判断も含めて結論は出せないがアイディア自体は持ち帰らせて欲しいと、メモ用紙にペンを走らせながら静かに色めく。
「仮に保存容器そのものでなくとも、容器を保管するための専用の箱のようなものでもいいかもしれませんね……」
「クーラーボックス、いや小型の冷蔵庫でありますね!」
「あれば確かに便利そうだな。持ち運べるサイズならなお良い」
 黒い粉状の物体を詰めた漉し機に湯気立つお湯を注ぎながら、バレルは小さく口元で笑みを漏らした。
 そうして濾し機を通して出てきた真黒な液体を瓶の中に注ぎ込みながら、その香ばしい匂いを鼻先で嗅いで小さく頷く。
「……いい具合だな」
 液体で満たされた瓶をコルクで密閉して、テーブルの上へ。
「そいつも一緒に封蝋しておくか? 俺も今から、さっき言った方法で封じるつもりだが」
 自分の鍋から完成したすね肉のポトフを瓶に移しながら、グリムバルドがバレルの瓶へと目をやった。
「いいのか?」
「ああ。手間も省けるだろう」
 グリムバルドは自分の瓶とバレルの瓶を一緒に抱え、別の鍋にお湯を沸かし始めた。
 バレルはその様子を見やって小さく息を吐くと、エヴァルドを小さく手招いた。
「試したい事があるんだが、道具を準備できるか?」
 そう言っていくつかの物品を言伝ると、エヴァルドは微笑み返す。
「――良いでしょう。物は試しですからね、すぐに用意させましょう」
「頼んだ」
 そう口にしてバレルはグラス1杯分ほど残った黒い液体――コーヒーを静かに口元に運んでいた。

「――その匂い、カレーですね?」
 ジャックの鍋から漂ってきた特徴的な香りを前に、雫はスンと鼻を鳴らしてつぶやくように口開いた。
「おうよ。おかずや飲み物もいけるだろーけど、腹が膨れるモンをってな」
 雫はその言葉を頷きながら聞き添えると、他の人たちに遅れて湯を沸かし始めた自分の鍋から銀色の袋を取り出していた。
「そっちの米と合わせりゃしっかりしたメシが食えそうじゃねぇか?」
 ニカリと笑うジャックの視線の先では炊き立ての米が立つ美奈の鍋。
 並べられた他の鍋からも、五目やキノコなど変わり種と味のついた炊き込みご飯の匂いが香る。
「今回の議題とはあまり関係が無いのですが、同じ保存食としてこういうのも参考になるかと持ってきてみたんです」
 言いながら、熱々の封を切って皿の上にパックの中のカレーをあける雫。
「レトルトカレーですか……確かにそれも……食料保存の1つの完成系ですね」
 湯気立つルーを艶やかに、出来立てそのものの雰囲気を醸し出すレトルトカレーに観智も思い出したように相槌を打った。
「でもこれだけの袋を今の技術で作るのは大変だよな……」
「それでも、保存食としての参考になる部分は多くあると思います」
 例えば、腐る最大の要因である有機物である「食材」は必要最低限に減らしたり。
 また空気を抜く代わりに、液体をなみなみと満たす事で疑似的な真空を作っている事など。
 学べる部分は多くある。
「なるほどなぁ……おっと、俺のカレーも瓶に詰めねぇと」
 手ごろな広口タイプの瓶にカレーを流し込み、コルクを手に取る。
「コルクの空気をよく含んだ性質も保存の面では若干ネックではありますね……油紙などを挟んでみると少しは改善されたりしないでしょうか?」
「ものは試しだ。やってみようぜ!」
「あ、では自分のジャムでもやってみるであります! こっちは空気が入らないくらい波々に瓶に詰めてみたでありますよ」
 クラヴィの瓶詰ジャムも持ち寄っての瓶詰作業。
 グリムバルドの封蝋法に、雫の油紙案を混ぜ込んでのミックスで1つ1つ丁寧に作業を行ていく。
「やはり、米の密封は難しいですね……どうしても粒と粒の間に隙間ができてしまい、完全に密封されているか心配です」
 白米や炊き込みの瓶を前にして、推し量るように自問する美奈。
「代わりに半液体状の粥は良さそうじゃありませんか? そのまま実食可能な穀物の保存は難しいでありますな……」
 熱した瓶が割れないよう、慎重かつ丁寧に流水で冷やしてゆくクラヴィが既に完成品として出していた粥瓶に視線を移す。
 美奈は米瓶の様子や懸念点をいくつかメモに取ると、それをとりあえずの完成品と共に並べて置いたのであった。

「――何とか、一通り形にはなったようですね」
 テーブルの上に並ぶ色とりどりの中身の瓶を前に、マキナは壮観な様子でため息をついていた。
「とは言え……完成と言えるのは、実際に『保存』を行ってみてでしょうね。一週間、二週間と置いてちゃんと食べられるかどうか……戦地なら、もっと長く保存する必要もあるかもしれませんし」
「皆様の試作品とアイディアを元に、その確認は我々で行ってみるつもりです。結果は何らかの形でご報告できるかとは思いますが、まずは今回のワークショップでのご考案、本当にありがとうございました」
 多数の試作品を前にして、エヴァルドが恭しく頭を垂れた。
「ところでブラウリィさん、例のものは……?」
「ああ、一応こっちも形にはなった」
 そう口にしてバレルが取り出したのは1つの円柱状の鉄。
「これって……手製の缶詰でありますか?」
 蓋は何かで焼き付けたのだろか。
 溶接跡を残した口を持った、お手製缶詰を前にクラヴィは小さく唸る。
「それなりに『らしく』できたが……やはり手作業だと時間が掛かって仕方がないな」
「なるほど……やはり、缶詰の生産には長い年月を掛けた工夫が必要になりそうですね。また、皆さんのお力をお借りする事も多々あるでしょうが、是非とも長い目でよろしくお願いいたします」
 この分野に関しては、まだまだクリムゾンウェストの技術環境では課題も多いだろう。
 それでも、目先の商品化としてのアイディアや方針は大まかに形を成して今回のワークショップは無事に幕を閉じたのであった。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 堕落者の暗躍を阻止した者
    バレル・ブラウリィ(ka1228
    人間(蒼)|21才|男性|闘狩人
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 時の守りと救い
    マキナ・バベッジ(ka4302
    人間(紅)|16才|男性|疾影士
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • Earth Hope
    クラヴィ・グレイディ(ka4687
    人間(蒼)|15才|女性|猟撃士
  • サブミッション仮面
    瑞葉 美奈(ka5691
    人間(紅)|16才|女性|格闘士
  • 撫子の花
    明王院 雫(ka5738
    人間(蒼)|34才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談】瓶詰食品開発会議
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
人間(リアルブルー)|24才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/11/03 17:07:16
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/02 14:51:52