• 深棲

【深棲】ナミダの傭兵

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2014/08/01 12:00
完成日
2014/08/07 06:40

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「なんでダメなんだよ! おれ知ってるんだぞ! 今この辺りに出て来たヴォイドは、おれたちのコロニーを襲った奴なんだろ!?」
 オフィスに立ち寄ったハンターは依頼を物色中に少年の声を耳にして振り返った。
 そこにはオフィスの職員に詰め寄っている十歳くらいの少年の姿があった。手には彼に釣り合わない剣が握られている。
「こっちの世界に来て、覚醒者って奴になればヴォイドと戦えるんだろ!? なんでおれは駄目なんだよ!」
「えっと、覚醒者には資質のある人間しかなれないんですよ。あなたはその適性がなかったんでしょう?」
「あるよ! リアルブルーの人間には適性がある事が多いんだろ!? おれにだってあるはずだ! もう一回良く調べてくれよ!」
 カウンター越しに駄々をこねる少年だが、それで状況が動く筈もなし。結局追い払われてしまった少年は肩を落としてトボトボ歩いている。
「こうなったら、おれ一人だけでもヴォイドを倒してやる……!」
 そんな危険で幼い決意を耳にしては困ってしまう。当然だが、彼が一人で歪虚と戦った所で返り討ちに遭うのは目に見えている。
 と、その時。ハンターの背後から伸びて来た手が肩を叩いた。いつの間にかそこにはリアルブルー人らしき男が立っている。
「あー、少年少年? ちょっといいかな?」
「誰だおっさん?」
「よくぞ聞いてくれました。僕はヴォイドと戦うさすらいのハンター。こっちの人は僕の相棒」
 初対面の男に急に相棒扱いされては戸惑って当然だが、男は「合わせて」と小さな声で囁きかける。
「この人はまだ駆け出しだけど、この辺じゃそこそこ知れてるハンターでね。腕は確かだ。勿論、この僕もね」
「おっさん達強いのか!? だったらおれと一緒にヴォイドと戦ってくれよ!」
「話は聞いていたけれど、どうしてヴォイドと戦いたいんだい?」
「おっさんはリアルブルー人だろ? だったら知ってるだろ、LH044で起きた事件……。おれ、あそこの出身だったんだ」
 それはサルヴァトーレ・ロッソがリアルブルーから転移してくる直前に起きた事件。VOIDと呼ばれる敵との戦い、そこで人は大きな犠牲を払った。
「コロニーは滅茶苦茶になって、友達とも離れ離れになった。父さんも母さんも死んだ。おれはただあそこから逃げる事しか出来なかった……」
 悔しげに歯を食いしばり、剣を見せつけるように掲げる。
「だけど、こっちの世界でならあいつらと戦えるって聞いたんだ! 皆の仇を討つ為におれも戦いたいんだよ!」
「それ、今の君の保護者は同意してるのかい?」
「……孤児院の先生は関係ないだろ! おれの人生はおれが決める!」
 ぽりぽりと頬を掻き、男は腰を落として少年と目線を合わせる。
「奴らの恐ろしさは君も良く理解しているだろう? 覚醒者なら確かに対抗できる。でも、君はまだ覚醒者じゃない」
「……まだ?」
「そう、まだだ。君もいつか力に目覚める日が来るかもしれないね。だけどそれは今じゃない。そしてそんな未来の英雄を守るのは、僕達先に覚醒したハンターの役割さ」
 男はウィンクしつつ笑うと、少年の頭をポンと撫でる。
「同盟領に現れたヴォイドは僕達が必ず倒す。だからここで待っていてくれるかい?」
「やだよ?」
 がくっと転びそうになる男。少年は腕を組み。
「おっさん達が本当に強くて、あいつらを倒せるのか、しょーこみせてよ」
「証拠って……まさかついてくる気かい?」
 こくりと頷く少年。男は困ったように笑い。
「……写真じゃだめかい?」
「だめ」
「……わかったよ。なら、遠くからこれで見ているといい」
 男は双眼鏡を取り出し少年に持たせた。
「これは高価な物だから壊さないようにね。まずは孤児院の先生に事情を説明してきなさい。僕達はここで仲間を集めて待っているから」
「わかったけど、逃げんなよ! 逃げたらこの双眼鏡ぶっ壊すからな!」
 走り去る少年を見送り苦笑を浮かべる男。それからハンターへと振り返る。
「急にすまないね。僕は遠藤、君と同じハンターだ。話は聞いていたね? 出来れば協力してくれるとありがたいのだけれど……」
 思案するハンター。正直ただ巻き込まれた気しかしない。遠藤と名乗った男は腕を組み。
「君がこの中で一番彼の事を見ていた。優しくて悲しそうな目でね。だから僕は君を信じようと思った。君のお人好しな所を、ね」
 軽薄そうな、しかしどこか優しそうな穏やかな表情で男は語る。差し出された右手は胡散臭さが染みついていたが、ハンターはその手を取ってしまった。
 それは彼の言う通り、お人好しだったからなのか。男は満足げに頷いて言った。
「契約成立、だね。それではしばらくの間宜しく頼むよ、僕の相棒さん」

リプレイ本文

「……泳いだ経験って、少ないから……水中戦はできるだけ……避けたいかな……」
 同盟軍の大型船の甲板に立ち潮風に髪を揺らすアーニャ・リーニャ(ka0429)。フワ ハヤテ(ka0004)はその隣で帽子を片手で抑えつつ海を眺めている。
「いやはや、海の上で戦うなんてゾッとしないねえ。泳ぐ練習しておいてよかった」
 彼らエルフは基本的に森を好むのだから海に馴染みがないのは当然と言える。フワはあっけらかんと笑っているが、アーニャは落ち着かない様子だ。
「それで、少年の名前は何て言うんだ?」
 二人の背後ではザレム・アズール(ka0878)が同行者の少年に声をかけていた。
「俺の名前なら陽介だけど?」
「そうか。俺はザレム。陽介、今回は仲間として宜しく頼むよ」
「俺が仲間? ハンターの?」
 頷いて握手を求めるザレム。手を取り、腰を落として少年と目線を合わせる。
「そうだ、仲間だ。今回の敵は手強い。だから陽介にも力を貸してほしいんだ」
 ザレムが頼んだのは大型船から望遠鏡で戦場の様子を観察し、異常があれば知らせてほしいという事だった。
「だけど、俺だって戦って皆の仇を討ちたいんだ……」
「戦いたい、か。確かに一緒に戦えないんじゃハミにされたと思うわよね。だけどね、武器で戦うだけが戦いの全てじゃないのよ」
 カーミン・S・フィールズ(ka1559)の言葉に首を傾げる陽介。カーミンは靴底で船の甲板を叩き。
「例えばこの船。これを動かしてくれる乗組員がいなきゃ、私達は戦場に向かう事すら出来ないわ。私達ハンターは、そりゃ戦いの花形だし目立つけどね。色んな人達に支えられて前線に立ってるのよ」
 同盟軍の兵士達はハンターの要望に応え、空の樽や木箱等を小型船に積み込んでいる最中だ。カーミンは腰に手を当て彼らを見やる。
「剣を振って戦う事だけが勇敢なんじゃない。彼らだって立派な戦士よ」
 カーミンの言い分は陽介にもよくわかった。だが子供故に理屈では納得できない部分もある。そんな青さを見透かすようにラスティ(ka1400)は腕を組み。
「ガキに理屈や道理を説いても無駄だぜ。俺が同じ立場で付いて来るなと言われれば、間違いなく付いて行こうとする……って、つまりなんだ? 俺もガキって事か?」
 眉間に皺を寄せ自問自答に入ったラスティだが、子供扱いが逆に効いたのか、反発するような形で少年も頷く。
「……わかったよ。今回は言われた通りにする」
「大船の上で警戒とか助かるねえ。背後に触手が迫っても教えてくれる人がいるなんて安心できるじゃないか。是非お願いしたいよ」
 手摺に背をもたれかけながらひらひらと手を振るフワ。
「……こっちに来られても危ないだけで何一つ得がないしさ」
 彼が最後に付け加えた言葉を隣のアーニャは聞き逃さなかった。ともあれ、一応説得には成功したようだ。
「さすがに海の男といったところかしら。頼りになるわ。陽介もウダウダしてる暇があったら手伝ってよ! 実際に剣を振る以外にだってキツい仕事は山ほどあるんだからね!」
 カーミンに引きずられ積み荷の手伝いに向かう陽介。エアルドフリス(ka1856)はパイプをくゆらせながら目を細める。
「俺もあれ位の年齢だったか、もう少し上だったかね……」
 同じく、一部始終を眺めていた紫雲 篝(ka0378)。どこか悲しげな眼差しで少年を見つめていた。
「これで少しは大人しくなるかな? 流石僕が選んだお人好しハンター達だ」
「お人好しとは甚だ心外だね」
「全くだぜ。見る目ねーな、おっさん」
 遠藤の言葉に笑みを浮かべるエアルドフリスとラスティ。そうして暫しの船旅が終わり、小型船で歪虚出現域に出発する時間がやってきた。
「何か歪虚に異常があったら、知らせてくれればいいから……」
 姫凪 紫苑(ka0797)は遠藤が用意していた短伝を陽介に手渡す。ザレムは自らが持っていた武器の一つを陽介に手渡し。
「何かあったらこれで皆を守ってくれ。頼んだぞ、陽介」
 ハンターの本物の武器を貸して貰えたのが嬉しかったのか、少年はしっかりと頷き返してくれた。念の為船の乗組員に監視を頼んでいたカーミンだが、これなら心配はなさそうだと目配せした。
「分を弁えん行動は他人も危険に晒す。くれぐれも付いてくるなんて考えないように。いいね?」
「わかってるよ! 俺、ここで待ってるから! 皆、ヴィオドをやっつけてくれよな!」
 念を押すエアルドフリスの言葉に少年は元気よく応じる。こうしてハンター達は小舟に乗り換え、敵の待ち受ける場所へと向かった。



 目標地点には先に沈められたらしい船の残骸が漂い、迷う事はなかった。船には当然少年の姿はない。
「これで落ち着いて戦えそうだな……」
 遠巻きに大型船を眺めていた篝が気を取り直したように周囲を警戒する。異変はすぐに訪れた。大きな波が数度押し寄せ、巨大な黒い影がゆっくりと近づいてくるのが見えたのだ。
「不自然なんてものじゃないね。ここまでわかりやすいと探すまでもない」
 呆れたように肩を竦めるフワ。ハンター達はそれぞれ武器を手にしザレムとアーニャは攻性強化を発動する。
「船を遠ざけてくれ! 出来る限り時間を稼ぎ、遠距離から攻撃するぞ!」
 ザレムの指示で船は影から逃れるように動き出した。これに反応し、影もまた速度を上げる。
 アーニャ、ラスティ、遠藤は銃で。フワ、エアルドフリス、ザレムは魔法スキルでそれぞれ迎撃する。篝も拳銃で影を狙うが、不慣れな事もあり狙いが定まらない。
「……当然か。射撃訓練なんか受けた事もないしな」
 それに銃を初めて握ったのは、あの事件の時――。
「それでも、やれるだけやるさ」
 銃声や魔法の光が海に瞬く。それでも影はぐんぐんと距離を詰め、やがて大量の飛沫を巻き上げながらその巨体を露わにした。
「……でけぇなおい」
「タコ、多くない? 前の依頼もタコだったような……」
 目を細めるラスティ。紫苑は相も変わらず表情も変えずに呟いた。次の瞬間、長く太い足の一つが小舟に振り下ろされる。
 衝撃に揺れる船。ハンター達は身をかわしたが、絡まった腕は船を離そうとせず、ぎしぎしと軋むような音を立て続けている。
「ヴォイド……ッ!」
「船を壊すつもりか……!?」
 水飛沫の中敵を睨み付ける篝。ザレムの目測通り、足で小舟を破壊しようとしているようだ。篝は船に絡む足を切断しようと刀を抜く。
「その腕だか脚だか分かんねえの、邪魔なんだよ!」
「……篝、だめ……!」
 声をあげる紫苑。次の瞬間側面から伸びて来た別の足が篝を縛り上げる。更に二本繰り出された足がそれぞれカーミンとアーニャを襲う。
 カーミンはうまくかわしたが、アーニャは避けきれずふっとばされて海へ転落する。そして捕縛された篝は強烈に締め付けられ苦悶の表情を浮かべた。
「おっさん、手伝ってくれ。ヤツの眼を潰す!」
 篝に防性強化を施すラスティ。遠藤は銃を構え、エアルドフリスは魔法を発動する。
「船に取りついてる今なら逆に攻撃の好機でもあるってね」
 タコの眼球を狙い岩を放るエアルドフリス。遠藤も銃撃するが、タコは僅かに怯むだけに留まる。
「カーミン、船を! 俺は篝を助ける!」
 ザレムの声に頷き、カーミンは船に巻き付いた足にナイフを突き立てる。ザレムは空中の篝へ飛びかかり機導剣で足の切断を狙うが、一撃では切断に至らなかった。
「くそっ」
 船の上に着地するザレムへ目を向けるタコ。そして身体を大きく膨らませ口を開こうとした瞬間、側面からフワがアースバレットを放った。
 岩の着弾でずれた口から大量の水が噴き出す。高圧で発射された水はまるで光線の様に船の上を通過。ザレムはすんでの所で回避に成功する。
「……ふうっ、間に合ったか」
「あ、危なかった……ありがとう、フワさん」
 どういたしましてとウィンクを返すフワ。紫苑はカーミンに駆け寄ると二人で足の切断にかかり、漸く船を解き放つ事に成功する。
 足を一本失ったタコは篝を握り締めたまま海中へ逃れた。ハンター達が遠距離攻撃で追撃する中、船に復帰したアーニャは水浸しの髪をかき上げ状況を確認する。
「アーニャさん、無事だったか。篝が海中に……って、うお!?」
 アーニャはザレムの目の前で服を脱ぎ始めた。慌てたザレムだが水を吸った服を脱ぎ、下に着ていた水着になっただけである。
「……期待してたの?」
「い、今は仲間の危機だよ!」
「冗談よ……」
 いきなり吹っ飛ばされて水を飲まされたのは流石に頭にくる。海中を動く影を探し、銃を手に船の上を走った。
「敵は……真下……?」
 海中を引きずられる篝だが、防性強化もあり持ち堪えていた。ザレムの一撃のお蔭で締め付けもゆるくなっている。腕を出し刀を構えると、思い切り足に向かって突き刺した。
 悶えるタコだが移動は止まらない。歯を食いしばり刃を振り下ろし続けると、なんとか足を切断し解放させる事に成功。だが別の足で叩かれ、口から泡を吐きつつ海中を吹っ飛んでいく。
 タコは海中から足だけを伸ばし、真下から船に取りついた。うようよと動くタコ足は獲物を探すように船に何度も叩き付けられる。
「ふむ、こりゃあ確かにタコだ。……食えるんだろうかね?」
「言ってる場合か!」
 迫る足を機導剣で薙ぎ払うラスティ。すかさずエアルドフリスが風の刃を放つと、足はまた海中に消えていく。
 銃弾よりも魔法攻撃の方が効き目があると踏み、アーニャは機導砲での攻撃に切り替える。ザレムは再び仲間に攻性強化を施し、フワはウィンドスラッシュで腕を攻撃。更に追撃しようと踏み込んだ紫苑の足元に衝撃が走る。
「……わぷっ」
 船を貫通し放たれた水圧攻撃が紫苑の小柄な体を空中に舞い上げた。回転しながら海に落ちる紫苑。更に大穴が空いた船は耐久性が低くなり、巻き付く足に悲鳴を上げ始める。
「こいつはまずいね。このままだと沈められる」
「真下にいるってんなら……!」
 空いた穴に駆け寄り、穴目がけて機導剣を突っ込むラスティ。急所にでも命中したのか、足を離しタコは再び海中に沈んだ。
「……ぶはっ! くそ、やってくれたな……」
 やっと船に這い上がった篝。だが息を整える間もなく再び叩き付けられた無数の足で船は破壊される。半ば沈没する船、そこから海へ転がり出た空の木箱等を足場にハンター達は何とか展開する。
「まずは目を……!」
 船の残骸に残り機導砲を放つアーニャ。眼球への攻撃は効いているが、まだ破壊には至らない。
「こっちよ!」
 側面に浮かんだ木箱から飛び移り、眼球にナイフを突き刺すカーミン。悶えるタコの足から逃れたカーミンが海に沈むと、エアルドフリスが反対側の目に狙いを定める。
「天地均衡の下……巡れ」
 目を見開き、収束させたマテリアルの刃で眼球を斬りつける。これで片目の破壊に成功。タコは反撃にと水圧攻撃を発射するが、ザレムとラスティは攻撃を中断し海に飛び込む事で回避に成功する。
 落ちて来た二人よりも下、水中から泳いで接近していた紫苑。敵の注意が水上に向いている間に下方から銃で攻撃を仕掛け、それに遠藤も続く。
「……タコの目と目の間、本体を狙え! ただのタコと同じなら、そこが弱点だ!」
 水中から顔を出したザレムが叫ぶ。篝は頷き刃を構え、その隣にカーミンが並ぶ。
 頷き合った二人が左右に跳び、木箱の上に着地。そこを迎撃する足をフワとアーニャが魔法攻撃で弾き、二人は同時にタコへ飛びかかった。
「くたばれ! このくそタコ!!」
 取りつくと同時に刀を突き刺す篝。しかし止めには至らない。歯軋りをした次の瞬間、遅れてカーミンがタコへ飛びかかる。
「大丈夫よ! 私達は、一人で戦ってるわけじゃないんだから!」
 更にカーミンがナイフを突き立て、二人は同時に左右に刃を振りぬいた。悶え苦しむタコ、その大きな隙にハンター達が一斉に遠距離攻撃を放つと、巨体はゆっくりと海へ沈んでいった。



「やれやれ、ひどい目に遭ったね」
 水浸しの帽子を絞りながら溜息を零すフワ。アーニャは浮き輪でぷかぷかしていたので割と楽しかったが、救出されたのでそれも終わりである。
「どうしたの……浮かない顔して?」
 髪をタオルで拭きながら首を傾げる紫苑。陽介はハンター達にタオルを渡した後、落ち込んだ様子で座り込んでいた。
「おれ、見てるだけだった。出来る事はあったはずなのに……怖くて震えてたんだ」
 悔しそうに甲板を拳で叩く少年。そこへ篝は歩み寄る。
「怖くて当然だろ。あんな事があったんだから……」
 顔を上げる陽介に篝は頷きかける。
「俺はお前じゃないから、お前の気持ちは完全に理解出来ない。でも、似てるんだよ……俺とお前は」
 篝もまた、あのコロニーでの事件の被害者だった。その話を陽介は神妙に聞き入っていた。
「俺も怖かった。けどそれ以上に何もできなかった自分が悔しくて……あいつらが憎かった。でも憎んだって何かが戻ってくるわけじゃないし、恐怖が消えるわけでもないんだ。だから……お互い、まずは出来る事をしようぜ。少しでも被害を減らす為に、さ」
「篝兄ちゃん……おれ……」
「ハンターになったら連絡くれよな」
 話を聞いていたザレムが声をかける。
「諦めるつもりはないんだろ?」
「……勿論だ! おれもいつか必ず、兄ちゃん達みたいなハンターになる!」
「そうそう、その調子。落ち込んでる暇なんてないんだからね」
 カーミンに頭を撫でられ、照れくさそうに走り出す陽介。エアルドフリスは湿気た煙草にため息を一つ、話を切り出した。
「ところで遠藤、あんたこそ何故こんなお節介を?」
「うん? 困っている人を助けるのに理由がいるのかい?」
「え? まさか、ただあの子が困っていたから……?」
 首を傾げるザレム。遠藤は暫し考えた後、篝を横目に苦笑を浮かべ。
「……いや。僕もあのLH044の撤退戦に参加していたんだよ。力ある軍人の筈なのに、大勢の人々を見殺しにしてしまった。もう子供が死ぬところを見るのは沢山だった……それだけさ。湿っぽい話をする気はなかったんだけどね。紫雲のような若者がちゃんと過去と向き合って生きているのに、大人がはぐらかすのはフェアじゃないからね……」
「なんだよ、結局おっさんの方がよっぽどお人好しなんじゃねぇか。俺達をダシに使ってる時点でみっともねぇだろが」
 鼻で笑うように言い放ったラスティに遠藤は反論出来ずに情けなく笑っていた。ザレムはその様子を腕を組み、穏やかな目で見つめていた。
 こうして無事に少年の冒険は幕を閉じた。彼がハンターとして再び彼らの前に姿を見せるかどうか、それは少年の努力次第である――。

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MVP一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテka0004
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズールka0878

重体一覧

参加者一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテ(ka0004
    エルフ|26才|男性|魔術師

  • 紫雲 尊(ka0378
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士

  • アーニャ・リーニャ(ka0429
    エルフ|13才|女性|機導師
  • 黒き殲滅者
    姫凪 紫苑(ka0797
    人間(蒼)|13才|女性|疾影士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • all-rounder
    ラスティ(ka1400
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 作戦相談卓
ラスティ(ka1400
人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/08/01 12:02:38
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/28 01:31:39