ブリと渡り鳥の騎士 前編

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/11/12 07:30
完成日
2015/11/20 03:56

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 少し前の話になる。
 ハイデマリーの魔導機械型の義手装着手術後、彼女の病室を訪れる者があった。
「自分の技術が別の技術者によって違う物になったのは不満?」
「……成功度の高さに驚いてるのよ」
 そう首を横に振ったのはブリジッタ・ビットマンだ。
 元々はリーゼロッテと共同で開発していた新型魔導アーマーだ。その技術を勝手に使って作った義手なのだから面白くないはずがない。けれど実物を見て「敵わない」と思ってしまった。
「あたしの魔導アーマーはまだ完成してないのよさ……なのに、ボインは……」
 短期間で使えるだけの物を用意してしまった。その頭脳と腕には感服するしかない。
「悔しいのなら作れば良いじゃない。貴女は天才なのでしょう? 貴女と組合長が考えた魔導アーマーの研究簿を見たわ。部分甲冑方式の魔導アーマーなんて良く考えたものね。お蔭で私の腕も動くようになるのだし……何が不満なの?」
 不満? そんなことある筈もない。
 思わず顔を上げたブリジッタにハイデマリーは言う。
「聞いた話だと、貴女の魔導アーマーも試作品は出来ているらしいわね。でも今一歩の所で行き詰っているようね」
「それは……」
 誰にも相談していないが、ブリジッタの魔導アーマーは彼女が望むものより遥かに性能が低い。
 その理由は各所にあり、最大の理由が魔導エンジン。次にエンジンの拡大に伴う装甲の大きさだ。
「ボインの考えた魔導エンジンは凄いのよ……あの技術を応用すればあたしの魔導アーマーも良くなるはずなのよ。でも、あれはボインの」
 リーゼロッテは兵器を作ろうとしている自分とは違う。
 どれだけ破天荒に自分勝手に研究しているブリジッタでも、リーゼロッテの理想を見ているから、彼女の理想をこれ以上兵器に転用するのは――
「ブリジッタ・ビットマン。顔を上げなさい!」
 唐突に強い口調で言われて顔が上がった。そして真っ直ぐに見詰める視線を受け、彼女の目が見開かれてゆく。
「成したい事があるのなら他人の目なんて気にしてはダメよ。失敗を恐れず、前に進む事だけが自分の願いを叶えるの。うじうじと悩んでいる暇があるのなら今すぐ開発に携わりなさい。貴女にはそれだけの頭脳と技術力があるはずよ!」
 言われる言葉にブリジッタの表情が引き締まった。
「組合長も貴女の理想は理解しているはずよ。頑張って、ブリジッタ」
 ハイデマリーはそう囁くと、微かに笑んで輝きを取り戻した小さな開発者の目を見詰めた。

●錬魔院ブリジッタ研究室
 暗所にランプを灯して書き綴るのはハイデマリーの義手の設計図。脇にはそこに搭載されている魔導エンジンの設計図もある。
「やっぱりボインはすごいのよ。こんなエンジンあたしだけだったら出来ないのよ」
 繊細で緻密な計算が施された設計図はリーゼロッテらしい見事なものだ。
「でも、繊細なだけじゃダメなのよさ。ここをこうしてぇ~」
 書き進められる設計図。その姿を部屋の入り口で見ていたヤン・ビットマンは、ほっとしたように微笑んで部屋を出ようとした。
「おっさん!」
「……漸く振り返ったかと思ったら、何よその呼び方」
 ピンクのソフトモヒカンを揺らして苦笑するヤン。
 彼は最近とくに睡眠時間が短くなった彼女を心配して部屋を訪れたのだが、返事をする様子がないので帰ろうとしていたのだ。
「人体実験がしたいのよさ」
「ぶふっ!」
「ツバを飛ばすなオカマぁ!」
「飛ばすに決まってるでしょ! 人体実験なんて許可できないわよ! ここはクリーンでクリアな清浄空間錬魔院なのよ!」
「だいぶ嘘くさいのよさ……ではなくて、あたしがしたいのは魔導アーマーの起動実験なのよ。実際に動いているところを見て改良の参考にしたいのよさ」
「起動実験……そ、そういうことなら、まあ、なんとかなるかもしれないわね」
 とは言え、普通に起動実験したところでブリジッタの希望に添うデータは取れないだろう。
「折角だし、例のお仕事を頼もうかしら」
「お仕事、なの?」
「そうお仕事よん♪」
 首を傾げるブリジッタに頷くと、ヤンはウインクをして「ふふ」と笑った。

●渡り鳥の騎士
 帝都バルトアンデルスから僅かに離れた場所。各師団都市への物資運搬に使用する運河の片隅で、ブリジッタは行く手を塞ぐように佇む大岩を見上げて声を上げた。
「でっかい岩なのよ~。これを壊すのよさ?」
「そうよ。少し前に歪虚の襲撃で落石が起きちゃったのよ。それで道が塞がれて運河の発着場に行きづらくなったのよね」
 帝国側から魔導アーマーに出動させて岩を退かすように指示されていたが、これくらいならブリジッタの魔導アーマーでも動かせるだろう。
「簡単すぎて嫌かも知れないけど、どうかしらってぇ、あんた何してるのよ!?」
 思わず声を上げたヤンの先に居たのは、魔導アーマーを着込むブリジッタだ。
「まずは着方のレクチャーをしないとなのよ」
「着方、って……」
 ブリジッタの作った魔導アーマーは現段階では自分で着る必要がある。
 装着するのは頭、腕、胴、足の4箇所だ。
「か、かなりの重量だけど、あんたたちなら余裕のはず……なのよ」
 全身に魔導アーマーを着込んだブリジッタは辛そうだ。
 それでも稼動方法や、足につけた車輪の外し方などを説明してゆく姿に、同行したハンターたちは頷く。
「背中に付いたブースターは時間の関係で今はスイッチなのよ。ここをONにすると」
 そうスイッチを入れたときだ。
「ふごぉぉおおおお!?!?!?」
 突如、ブリジッタの着込む魔導アーマーが動き出した。
「ちょっ、ちょっと早く止めなさい!」
「む゛ぅり゛ぃぃいいいいいーー!!!」
「はあ!?」
 ものすごい勢いで駆け回るブリジッタ。
 何が起きたのかさっぱりわからないハンターを振り返り、ヤンはある仮説を呟く。
「……そうね、そうよね。普通なら覚醒者でもない人間がアレを動かせるはずないもの。つまりブリジッタの意思で止めることは無理ね。たぶんブースターの燃料供給システムがおかしくてこんな誤作動を起こしたのね。これはリーゼちゃんの研究にまわせる成果だと思うけど」
「おぉぉかぁぁぁまぁぁぁぁああ!!!」
「とと、そうだったわ。ねえ、あんたたち。当初の予定と違うけどあの子を止めてくれない? 魔導アーマーの稼働時間は3分。でもそんなに長いこと動いたらあの子が干からびちゃうわ」
 最初の説明でブリジッタは、魔導アーマーは能力者のマテリアルに反応して動くと言っていた。
 つまり能力者でないブリジッタに魔導アーマーの制御能力はない。このまま放っておけば、ブリジッタの命にも関わってくるだろう。
「まずは魔導アーマーの車輪を外させてあげて。あれが外れれば動きは一気に鈍るはずよ」
 ヤンはそう言うと、真剣な表情で暴走魔導アーマーの停止を求めた。

リプレイ本文

 普通ではない速度で駆け抜ける魔導アーマー。
 それを静かな眼差しで見送ったアルルベル・ベルベット(ka2730)は感心したように「ふむ」と息を吐く。
「魔導アーマーの技術は着実に進歩している……か」
「あら、あーたは。今回もよろしくかしら?」
 アルルベルに気付いたのだろう。声を掛ける彼に頭を軽く下げ、アルルベルは魔導アーマーを見る。
「以前は欠陥が多くあったものだが、随分と成長したな……」
 彼女は以前、ヤンに魔導アーマーのデモンストレーションを依頼された事がある。
 その時から1年足らず。のびしろの大きい技術だとは思っていたがここまでとは思っていなかった。
「……やはり、兵器のみにとどまる技術にしてはおきたくないものだ」
 ここは土木作業に。そう思案した時だ。後ろからツッコミが入った。
「いやいやいやいや! 冷静に分析している場合じゃないっ――うぉぉぉーい!!」
 身を乗り出したレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)が「ああああ!?」と盛大に声を上げる。
 その視線の先で魔導アーマーが旋回に失敗したのか岩場に腕をぶつける姿が見えた。
 物凄い鈍い音を立てて砕ける岩。それに情けない声を上げるブリジッタを見てレオーネとアルルベルの背に冷たいものが走る。
「……おい、岩の方が砕けたぞ」
「やはり日常生活での活用も」
「いや、それは置いておいて……モルモットにさせるはずが自分がモルモットになってどうすんだか……」
 なあ? そう視線を寄越したシン・コウガ(ka0344)にレオーネがプルプルと震えだす。
 その様子にアルルベルと視線を合わせると、シンは首を傾げてレオーネを見た。
「……俺、何か悪いこと言ったか……?」
「……違う。違うよ! アレって冷静に考えると凄くないか!? だって覚醒者じゃないブリジッタがこれだけパワー出せるんだぞ? 真面目にすごいものになるんじゃないか? デザインもすげー好みだしっ!」
「そ、そうだな……」
 ガシッと掴まれた肩と上下に振る勢いにシンの首がガクガク揺れる。だが彼は気にする事なく揺すり続けると、興奮したように言った。
「おし、俄然燃えてきた! 後は調整だけだな、待ってろよ俺の魔導アーマー!」
 拳を掲げて鼻息荒く魔導アーマーに向き直る。
 ここに来てようやく開放されたシンが襟を正しながら息を吐く。
「いや、まだなんだが……まぁさすがになんとかしないとな……元々部分甲冑型魔導アーマーに興味が出て参加したんだしな……」
 とは言え、如何するよ。
 調整途中の魔導アーマーとは言えかなりのパワーがある。それに加えてあまり壊すなとブリジッタ&ヤンの視線が突き刺さるのが難点だ。
「……本当、如何するか」
 盛大な溜息1つ。と、と、その耳にぶっきらぼうながら落ち着いた声が聞こえて来た。
「ずいぶん騒がしいことになっちまったなあ」
 視線を向けると、そこには何処か余裕を覗かせる瀬崎・統夜(ka5046)の姿が。
「俺は瀬崎・統夜だ。よろしく頼む。で、そっちの2人はブリジッタと顔見知りか?」
 他の面子と向ける視線が違うことに気付いたのだろう。問いかける統夜にイーリス・クルクベウ(ka0481)が視線を逸らす。
「まあ、の……」
(関わっておった魔導鎧が気になって来てみれば……この状況、どう言って良いものかのう)
 兼ねてより問題のある娘だと思っていたが、ここまで来ると座った肝も逃げそうになる。
 はたしてこのアホ娘と知り合いと言っていいのかどうか。思わず虚空を見詰めるイーリスは、シンと同様に……いや、それ以上に悩みを含んだ溜息を吐くと、額を押さえて呟いた。
「天才と何とかは紙一重と言うが……彼奴は問題児じゃろうな」
「そこに否定はしないかな……っと、うちは初対面だよ。ただ双子の片割れが世話に……いや、世話した……のか?」
 イーリス同様に遠くを見ていた守原 有希遥(ka4729)が口元を引き攣らせる。
 まさか兄弟の代わりに依頼を受けたらこんなことになるとは。
「代わりを引き受けると、大事になるのは何故だろう……」
 誰の何度目の溜息か。
 漏れる息に「成程」と納得を示して統夜がブリジッタを見る。そして僅かに口角を上げたところで、彼の肩をつつく者があった。
「……ともあれ、このままでは技術もその開発者であるブリジットも危険だ」
 統夜が振り返るのを待ってブリジッタを指差したアルルベルに、全員が「あ」と声を零す。
 その中の1人、レオーネがあることに気付いた。
「あれ? なんか血の気が引いてきてないか?」
「そう言えば、前に盛大に吐いたって話を聞いた気が……」
 これにハッとなったのはシンとイーリスだ。
「皆の衆、早いところ止めてやろうぞ!」
「だな。さすがに何とかしないとな!」
 興味のあった部分甲冑鎧型魔導アーマーがいろいろな被害を被る姿は見たくない。
 そう一致団結した2人が前に出ると、統夜は改めて口角を上げて魔導拳銃を抜き取った。
「了解。魔導アーマーがどんなもんか、見せてもらおうか」


 風を切り走り回る魔導アーマー。その車輪に照準を合わせる統夜とシンは、自分等がこれから行おうとしている行動の難易度に僅かに眉を寄せた。
「このままだとお嬢ちゃんに傷を負わせる可能性があるな」
「近付く方法があれば良いんだが……」
「近付く方法、か」
 チラリと地形を確認してブリジッタに視線を戻す。
 幸いなのはブリジッタが同じ場所をグルグルと回って滑走していると言うこと。
 多少正確さには欠けるが大体の走行位置がわかるので待ち構える事は出来るだろう。だが如何にも速い。
「やっぱ期待しないと駄目か」
 零す統夜の視線の先には、若干顔の形が変わっているブリジッタ。そしてその更に先にはシンや統夜と同じく神妙な面持ちでブリジッタを見詰めるのは有希遥の姿があった。
 彼は意を決したように前に出ると、小さく息を呑んで両腕を広げる。そう彼は無謀にも軌道線上でブリジッタを受け止めると言う選択をしたのだ。これは他の仲間も承知で、
「有希遥さん、後のことは任せてな!」
「骨は拾う」
 レオーネとアルルベルの言葉に引き攣る。だが応える余裕まではなかった。
「ぐほお!? どくのよさぁぁああ!!」
「いや、うちは退かない……ここで受け止め――」

 ドッカーンッ☆

「……パワーが凄いな……組みつきが手こずってるとは……」
「いや、それ以前に嫌な音が……」
 スッと視線を逸らしたシンの視線の先を追ったレオーネが「あわわわ」と口を開く。
 視線の先にあったのはブリジッタと正面からぶつかって吹き飛んだ有希遥だ。
 一先ずイーリスが気転を利かせて防御障壁を使ってくれたのでダメージは低いが、赤くなった鼻は誤魔化せない。
「鼻血……拭くか?」
「……ありがとう」
 差し出された布を受け取り、再び立ち上がる有希遥。彼は走り抜けていったブリジッタを見て表情を引き締める。
「大体の感覚は掴めた……」
「マジかっ!」
 任せろ。そうレオーネに親指を立てて見せて軌道を追いなおす。
 この仕草にシンと統夜が駆け出した。どうやら自分たちから進んでブリジッタに近付こうと言うことらしい。
「ほう、流石じゃな」
「作戦変更か?」
「いや、大まかな作戦は今までどおりじゃが、もしかすると完全に動きを止めるのは無理かも知れん。ならばここは臨機応変に対応して有希遥とブリジッタがぶつかる瞬間を狙って狙撃するのが良いじゃろう」
「つまり、2人はそのために前に出た、と?」
 頷くイーリスにレオーネとアルルベルが顔を見合わせる。
 元々ブリジッタを足止めして車輪を狙撃する予定だったが、有希遥1人で初動を止めるのは厳しいと判断された。
 その結果、確実に足止めできる方法として体当たりと車輪狙撃を足すことにしたのだ。
「有希遥。気にせずにドーンッといくと良いのじゃ」
「……了解っ」
 再び魔導アーマーの軌道上に立った有希遥。その姿を視界に留めながら走り続ける統夜とシン。
 彼らは「3・2・1」の声を上げると、一気に飛び出した。
 響き渡る銃声にブリジッタの目が瞑られる。それと同時に響き渡る衝撃音に、イーリスがすかさず防御障壁を展開する。
「シン、もう1度だ!」
 統夜とシンの放った弾丸は魔導アーマーの車輪に当たったが、車輪が離れるには至っていない。
 しかも魔導アーマーを受け止めた有希遥は吹き飛ばされてはいないものの、既に苦しそうだ。
 表情を歪ませてブリジッタにしがみ付くその足が、徐々にだが後ろに下がり始めている。
「ぐ、長く持たねえ! 早いと助かるッ!!」
「仕方がないのう。わしも援護するのじゃ……ブリジッタ、最低限の破損は我慢して貰うぞ。有希遥も恨み言は無しで頼むぞ!」
「ああ、うちに構うな! ブリジッタの命とアーマーの無事と解除が最優先!」
 狙撃だけでは不十分。そう判断したイーリスが光を放つ。それを見たブリジッタの目と口が開かれるが時既に遅し。
「命中」
 車輪の1つが軸を揺らしたのを目にした統夜がトドメの1撃を放つ。

 ガコッ☆

 勢い良く外れて吹き飛ぶ車輪。それを口開けたまま見送るブリジッタに悲劇が起きる。
「誰かお嬢ちゃんのフォローに!」
「任せろ!」
「行く」
 片側の車輪を外したことで崩れた体勢。それによって、支えていた有希遥共々転げるその体を受け止めようとレオーネとアルルベルが飛び出した。
 ジェットブーツを展開して駆け込むレオーネは、素早く防御障壁を展開。ブリジッタを受け止めるべく手を前に伸ばす。
 しかし――
「あ゛!?」
 若干勢いが強くて通り過ぎた彼に有希遥も驚愕の表情だ。
 だが守り手はまだいる!
「……勝負だ!」
 スライディングの勢いで飛び込んだアルルベルが、自らの体を犠牲にブリジッタと有希遥を受け止める。
 その姿は正にクッション。
 ぼよんっと跳ね返りそうな勢いでアルルベルにぶつかったブリジッタ。そして彼女を包み込む有希遥もまたアルルベルのおかげで重度の怪我は避けられたらしい。
「これで一安心、か……後は脱がせ」
 ゴロゴロと3人一緒に転がること数秒。地面に転がったまま完全に動きを止めた魔導アーマーにシンが近付いた時だ。
「何!?」
 イーリスの目の前で地面を滑走し出すブリジッタ。
 ハッキリ言って奇妙な光景なのだが、魔導アーマーの停止を使命にしているハンターたちにとってこれは由々しき事態だ。
「誰か手伝え……てっ、凄いパワーだ……早く止めないとブリジッタが危ない……」
 咄嗟の勢いでブリジッタの上に乗ったのは、有希遥にアルルベル、そしてシンだ。
 ちなみに有希遥を一番下に重なっているので、彼に微妙な死相が出ている気もするがここは我慢してもらおう。
「ぐ……ぉ、おぇ……でそ、ぅ……」
「辛抱しろ! 必ず助けるからな!」
 思わず激を飛ばした統夜に、ブリジッタが「ぅぷっ」っと頬を膨らませる。
 それを目にしたアルルベルがそっと魔導アーマーに手を伸ばした。
「ブースターのスイッチ……確か、この辺り……」
 装着方法のレクチャー後に押したスイッチ。それさえ見付かれば解決策はある筈。
 だが折り重なって乗っている状態で自由に手が動くはずもない。
 弄るように手を動かすアルルベルを目にしたレオーネは、慌てたように近付いてくると同じ機導師のイーリスを招いて2人で魔導アーマーの構造を確認する。そしてイーリスの手が一角を捉えた。
「ここじゃ!」
 記憶と自身の知識を頼りに押したスイッチ。
 その直後だ。
 ジタバタと暴れていたブリジッタの動きが止まった。それと同時にブースターの騒がしい音もしなくなる。
「お? これで一安心、か?」
 そう零した統夜だったがこれで終わりではなかった。
「ど、どくのよ、さ……もぅ、出……っ!」
「わーわーわー!!」「待て! そこで出すでないっ!!」
 慌てて飛び退く一向だったが、それこそ遅かった。
 魔導アーマーを着込んだ状態で蹲るブリジッタのなんと悲しい姿か。
 傍で逃げ遅れた有希遥が遠い目をしているのは、もうこの際ごめんなさい、としか言いようがない。


「だ、大丈夫か?」
 少し汚れた魔導アーマーを外してもらって自由になったブリジッタへレオーネが炭酸飲料を差し出す。
「ほ、ほら! オレも経験あるし、実験に事故はつきものだよな! けど十分すごかったし、コイツはいけると思うぜ? 修理はオレも手伝いたい。さっさと直して実験開始だ!」
 な! と皆を振り返った彼にイーリスが「う、うむ」と頷く。
 確かに失敗は成功の元と言うが、今回のものはそれとは次元が違う気がする。
 そんな重い空気を感じ取ったのだろう。沈黙に耐え切れなくなったシンが口を開く。
「まあ、アレだ……今回の結果は暴走すると複数人いないと止められないって所がネックだな……セーフティー等と課題はまだまだありそうだし……」
 確かに。今回のように暴走した場合、複数人で止めないといけないと言うネックがある。
「それなら、外から内部を弄れる形にして……ああ、外から弄れると暴走対処や修理等利便性向上にもなるからさ」
 言って構想を口にする有希遥は、少し離れた位置にいるブリジッタをチラリと見る。
 だが視線が合いそうになるとすぐに視線を逸らして俯いた。
「そ、そうだ。軽量化なんだが……避弾経始と傾斜装甲でどうだ? 装着式なら場所は選ぶが巧く使えば軽さと硬さを両立すると思うし近接の受流しにも良さそうだ」
 な? そうだろ? と明後日の方を見ながら熱弁する有希遥に「ん?」と統夜の首が傾げられた。
「もしかしてお前も元CAM乗りか?」
「え? いや、うちはロッソで前線の兵士とCAM開発部門で武術の動きを応用した戦闘動作研究してた兼業技術屋だったんだ」
「へぇ、そりゃ凄い」
 感心したように目を瞬く統夜。
 そんな彼らを見て息を吐くブリジッタの顔色は未だに良くない。
「怪我は、ないか?」
「……大丈夫なのよ。それより……うぷっ……岩が、壊せてないのよさ……」
 言ってブリジッタが見た大岩に全員が「あ」と声を零す。
「それに関してはこっちで別の手配をするわ。それよりも、良いデータが取れたんでしょ? 良かったじゃない。これで完成に一歩近付いたってわけよね?」
 これからもうひと仕事。そんな言葉が頭をよぎった一行に出されたヤンの提案。これに安堵の息を零すと、ブリジッタは少しだけ頷いて自分の嘔吐物で少し汚れた魔導アーマーを見下ろした。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 4
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 【魔装】希望への手紙
    瀬崎・統夜ka5046

重体一覧

参加者一覧

  • 山猫団を更生させる者
    シン・コウガ(ka0344
    人間(蒼)|18才|男性|猟撃士
  • ユレイテルの愛妻
    イーリス・エルフハイム(ka0481
    エルフ|24才|女性|機導師
  • 魔導アーマー共同開発者
    レオーネ・インヴェトーレ(ka1441
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • 真摯なるベルベット
    アルルベル・ベルベット(ka2730
    人間(紅)|15才|女性|機導師
  • 紅蓮の鬼刃
    守原 有希遥(ka4729
    人間(蒼)|19才|男性|舞刀士
  • 【魔装】希望への手紙
    瀬崎・統夜(ka5046
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/09 08:36:02
アイコン 暴走アーマー停止作戦!
守原 有希遥(ka4729
人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2015/11/11 20:03:16
アイコン ブリジッタへの質問所
守原 有希遥(ka4729
人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2015/11/10 21:27:07