• 幻森

【幻森】強襲せし黒い影

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/11/14 22:00
完成日
2015/11/28 14:44

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 激戦の火蓋は、幻獣の森外部のザサキ草原にて開始された。
 右翼、中央、左翼と別れて進軍する歪虚連合軍に対し、幻獣王親衛隊は正面から受け止める形で防衛戦に突入。草原中に怒声と悲鳴が入り交じり、戦争特有の異様な空気が広がっていく。


 一方、幻獣王親衛隊後方に陣取る一匹の巨大なネズミ……否、幻獣王と言えば――。
「この戦、もらったであります! このまま一気に敵を蹴散らすのであります!」
 幻獣王チューダは、バタルトゥ・オイマト(kz0023)の側で高らかに勝利宣言。
 勝手に指揮官を名乗って部隊を編成したかと思えば、戦闘開始直後からこの態度。
 しかし、余裕ぶっこいた態度には理由があった。
「辺境各地の部族に加えて我輩を崇拝するハンターが集結。トドメに天才的頭脳を持つ我輩が指揮官と来れば、負けるはずないのであります」
「……油断するな。……どこで形勢が変わるか分からない」
 無駄と分かっていても、バタルトゥはチューダに釘を刺した。
 ここで調子に乗れば、敵の策略にハマって危機的状況を迎えるかもしれない。
 まして、この戦いで幻獣王親衛隊が敗北すれば幻獣の森に歪虚の侵入を許す事になる。それだけは絶対に避けなければならない。
「大丈夫でありますよ。だってほら、心なしか戦いの声も遠くなっている気がするであります。きっと敵を押し返しているに違いないであります」
「報告するッス! 防衛部隊の善戦により敵は撤退を開始し始めたッス! 今から追いかければ、ヤオト渓谷辺りで敵を捕まえられるはずッス!」
「おお! さすが我が精鋭部隊なのです! ならば、追撃部隊を編成して一気に敵を追い詰めるであります」
 駆けつけたツキウサギの報告に、錫をふりふり胸を張るチューダ。バタルトゥは眉をひそめて足元の幻獣王を見る。
「……本当に追撃を許可する気か? 敵の策である可能性はないのか?」
「だーかーらー、大丈夫でありますよ。敵は我輩にビビって撤退したのでありますから、チャチャっと追撃するべきでありますよ。ささ、ツキウサギ。追撃部隊と一緒に敵を倒してくるであります」
「その言葉、待ってたッス! 仲間を集めて一気に敵を叩くッス!」
「……待て」
 バタルトゥはツキウサギを止めようとするが、ツキウサギは足早にその場を去り――。

 一抹の不安。
 それが――バタルトゥの心に生まれる。
 取り越し苦労であれば良いのだが……。


●策謀
 青木 燕太郎(kz0166)は、ザサキ草原の近くに身を潜めていた。
 手筈通りであれば、進軍していた歪虚連合軍はヤオト渓谷まで撤退。
 突出した敵の後方を塞ぐ形で伏兵部隊が登場。孤立した敵を叩いた後、浮き足だった人類側を一気に叩くのが歪虚側の作戦だ。
 そして――この作戦は、今の所順調に進んでいる。
「敵が罠にかかったか。バタルトゥ・オイマト――噂とは違うな。もう少し骨のある奴だと思っていたが……」
 人類側の追撃部隊があっさり罠に掛かったとの報告は、燕太郎を少々落胆させた。
 東方で歪虚王打倒に貢献したとされる部族会議の大首長があまりにも簡単に罠にかかった。戦い甲斐のある相手だと見ていたが、これではただの猪武者。策を弄するのも馬鹿らしくなる。
「しかし、一度始まった戦いである以上、止められはせん。――俺達も出るぞ。狙うは、敵の指揮官」
 青木は、茂みから姿を現して敵部隊の後方を狙う。
 敵指揮官を倒した瞬間、歪虚達は一気に幻獣の森を目指し始める。

 歪虚連合は解体となるが、それで良い。歪虚同士が勝手に競い合えばいい。
 人間と幻獣の仲を潰せれば、その後がどうなると知った事ではない。
 仮にこの作戦が失敗したとしても、部族会議の大首長を討ち取れるのであれば十分な成果だ。
 ――始めから、連合を呼び掛けた歪虚も捨て駒にするつもりだったのだから。
「ここで敵を討ち果たし……一気にケリを付ける」


●強襲せし黒い影
「申し上げます! 追撃部隊は敵の罠にかかって孤立しました!」
「な、な、な……なんですとぉ~!?」
 悲鳴にも似たチューダの声が木霊する。
 バタルトゥの懸念通り、敵の撤退は罠だったようだ。
「……そ、そんな。我輩の作戦は完璧なはずであります……」
 ショックの余り、その場で固まったチューダ。
 その傍らで、バタルトゥは激しく後悔していた。
 指揮官として有能だと主張し続ける幻獣王を信じた結果、味方の危機を招いたのだ。
 だが、ここで悔やんでいては被害が広がるだけだ。
「……追撃部隊の救出を優先。被害を最小限に抑えろ。……誰も、死なせるな」
「了解しました」
 報告へ来たオイマト族の戦士は、バタルトゥの指示を持って各部隊へ伝達するべく動き出す。
 部下が走り出した後も、未だ固まるチューダ。
 バタルトゥは大きくため息をついた後、つま先でチューダを数回突いた。
「……おい、お前は指揮官だろう。各部隊に指示を出さないのか?」
 その言葉で顔を見上げるチューダ。
 頭を悩ませた結果……。
「あー。えーっと……後はみんなで何とかするであります」
 その指揮官らしからぬ言葉に、顔を顰めるバタルトゥ。
 そこに、再びオイマト族の戦士の戦士が走って来る。
「申し上げます! 当部隊に迫る歪虚の群れを発見! 雑魔と……恐らく青木と名乗る歪虚と思われます!」
「何……?」
 ――奴の狙いは最初からこれだったのだ。
 迎撃部隊の救出に向かえば、幻獣王親衛隊の守りが手薄になる。
 青木は強力な歪虚だ。だがここに兵を残せば――。
「族長、如何しましょう。青木の迎撃を優先しますか?」
「……いや。……予定通り追撃部隊の救出を最優先させろ。残りの兵は雑魔の対応に当たれ。青木は俺が迎え撃つ」
「しかし……!」
「……チューダの案を通したのは俺の失態だ。その責は俺が負う。……後は頼んだぞ」
「畏まりました。どうぞ、ご武運を……!」
 深く頭を下げて、走り去るオイマト族の戦士。
 バタルトゥは手袋をはめ直すと、双剣を手にする。
「……チューダ」
「な、何でありますか?」
「……死にたくなければ俺から離れるな」
「分かったであります!」
 バタルトゥの言葉に頷くと、チューダは彼の頭にしがみついた。


●迫りし危機
 追撃部隊の救出に向けて軍を進めていたハンター達の元に駆けつけてきたオイマト族の戦士。
 バタルトゥの危機を伝えるその言葉に、彼らは驚愕した。
 あの黒い歪虚を一人で何とかしようなんて無謀にも程がある。
「救援に戻るにしても急がないと、駆けつけた頃には決着がついてしまっているな」
「それですが。ツキウサギが幻獣達に話をつけてくれて、皆さんを背に乗せて走っても良いと……」
「そう。それなら間に合いそうね。すぐに救援に向かうわ」
「ありがとうございます! 族長をよろしくお願いします!」
 軍を離れ、幻獣に乗り、来た道を戻り始めるハンター達。

 ――その頃。部族会議の大首長と、闇黒の魔人は対峙の時を迎えていた。

リプレイ本文

「1秒でも早く戻らないと……。貴方の背、お借りしますね」
「ネズミさんには反省して貰いますわ。めーっ、ですの!」
「ネズミさんではなくチューダ様ですよ……。ともあれ、急ぎませんとね」
 大型の狼型幻獣、イェジドに声をかけるサクラ・エルフリード(ka2598)
 幻獣に乗れると最初からテンションMAXなチョココ(ka2449)は仲良くなれるよう、イェジドの背を撫でながらニコニコしたり怒ったり。忙しそうなに彼女にソフィ・アナセン(ka0556)がそっと声をかける。
 勿論、彼女もリーリーを撫でながらであったが。
 あの丸っこい幻獣王に夢中なソフィ、そこだけは譲れなかったのだろうか。
 包帯姿が痛々しい米本 剛(ka0320)は、狼型の幻獣に目線を合わせる。
「……イェジド殿。貴方にお願いがあります。今の自分はこの通り怪我をしていて、戦力にはなり得ません。自分に同行せず、皆さんと共に先行して一緒に戦って貰えませんでしょうか」
「……貴方をここにおいていくのは危険が過ぎます。残存勢力に狙われるかもしれませんでしょう」
「しかし……」
「どうせなら、同行して例のネズミを預かって戴けませんか? バタルトゥさんと共に青木から引き離す必要がありますから」
「ですから、ネズミではなくチューダ様……」
 静刃=II(ka2921)の冷静な声に暫く考える様子を見せていた剛。ソフィのツッコミが続く中、彼女の言葉に納得したのか、小さく頷いてため息をつく。
「すみません、皆さん。こんな時に……」
「やれる事をやりましょう。無理はいけませんよ」
 こんな大事な時に動けないなんて……と悔しそうに唇を噛む剛を宥めるサクラ。
 改めて、到着してから仲間達と共に戦って欲しいと剛が願うと、イェジドはそれに応じる様子を見せ……フラメディア・イリジア(ka2604)もイェジドの思ったより固い毛並みを確かめるように撫でると、颯爽とその背に跨る。
「時間もない事じゃ。急ぐとしようぞ。……二人共、よろしく頼むの」
 彼女に無言で頷き返す尾形 剛道(ka4612)。そのままイスフェリア(ka2088)に目線を移す。
「俺が殿を勤める。先頭で警戒を頼む」
「うん。任せて……! 異常があったらすぐに報せるから。リーリー、よろしくね」
 こくりと頷き、幻獣をそっと撫でるイスフェリア。背にいる彼女に合図するように一鳴きすると、土埃を上げて走り出す。
 仲間達の背を見送った剛道は、派手な飾り羽を持つ鳥型の幻獣を見上げた。
「……てめぇ、臆病なンだってなァ。まあ、悪い事じゃねェ。だからこそ出来る事もある」
 こちらを見つめる丸い大きな目。安心させるように羽に触れる。
「お前は前だけ見てろ。後ろは俺が引き受ける。……よし、行けェ!」
 響く剛道の号令。リーリーは弾かれるように大地を蹴って――。


「わわわっ。……速いですの!」
「結構揺れますね……」
 想定以上の速さに振り落とされそうになりながら、必死にイェジドの背に捕まるチョココ。
 上下に揺すられ、怪我をした身体が軋んで剛が顔を歪める。
 自分達のいる場所から幻獣王親衛隊の待機地点は直線距離だと近いが、途中で他の部隊が歪虚達と交戦中の為、迂回して行かなければならない。
 急いでいる時に痛い時間のロスだが……幻獣達の足は思ったより速い。これならば想定より早く着けるかもしれない。
 不意に顔を横に向けるリーリー。何かの気配を察したらしい。何事かとイスフェリアもそちらを見ると……。
「雑魔……!」
 迫る雑魔に身構えるサクラ。そこにリーリーと剛道が駆け込んで来る。
「てめぇらさっさと行け! ここは引き受ける!」
「剛道さん、わたしも残るよ」
「いいから行け! ここは俺とリーリーで十分だ!」
「彼に任せて行きましょう。時間が惜しい」
「……分かった」
 少し迷ったイスフェリアだったが、静刃の後押しに頷き返す。
 ――リーリーもイェジドも機動力が高い。剛道もいるし、雑魔程度ならば強行突破が可能かもしれない。
「イェジド、このまま全速前進! 敵を蹴散らすのじゃ!」
「リーリーさん、行きましょう!」
 声高らかに叫ぶフラメディアとソフィ。その声に応えるように、イェジドとリーリーはそのしなやかな躯体と逞しい足で雑魔を蹴倒しながら突き進む。
「さァて。露払いと行くかね。出来るか?」
 剛道の声に、任せろ! と言わんばかりに雑魔に蹴りを見舞うリーリー。
 その様子に彼も剣を抜き放ち、ニヤリと笑う。
「……そうだ。それでいい。後ろは俺がやる。前の奴は……蹴り倒せッ!」


 幻獣達と共に、風のように疾走するハンター達。
 まもなく聞こえてくる剣戟を振るう音。そして――。
「……そのネズミを捨てた方がもうちょっとマシな動きが出来るんじゃないのか? オイマト」
 口の端を上げて笑う青木を睨みつけ、無言を返すバタルトゥ。チューダは彼の頭にしがみついたままプンスコと怒る。
「我輩は幻獣王なのです! ネズミじゃないのです!」
「……ほう? 良質なマテリアルの匂いがしたのはそういう事か。お前を吸収したらどれだけの力を得られるだろうな」
「わ、我輩食べてもおいしくないのでありますよ!」
「良く喋るネズミだな。さて、そろそろ終わりにしようか……」
「させません……!!」
 そこに守りの構えをしたまま弾丸のごとく飛び込んで来た静刃。サクラも盾を構え、青木の前に立ちふさがる。
「何とか間に合いましたか……」
「チューダ様! ご無事ですか!?」
「あっ! ソフィ! 我輩怪我をしたのです! 痛いのですうう!」
「まあ……! お可哀想に。後で手当てをして差し上げますからね」
 涙目で飛びついてきたチューダをぎゅっと抱きしめるソフィ。ふわふわの毛並みが、血で汚れてしまっている。
 この血はチューダのものなのか、それとも――。
 顔を上げる彼女。剣を支えにして立っているバタルトゥは既に満身創痍だった。
「ちょっと! バター様になんて事するですの!?」
「思ったより速かったな。こいつらを始末してから相手をしてやるつもりだったんだが……」
「歪虚ごときが減らず口を叩きよって。……これ以上、おまえの好きにはさせぬぞ」
 対峙する青木とチョココ、フラメディア。
 お互いの隙を探るような張り詰めた空気が続く中、静刃がバタルトゥを一瞥する。
「……下がって!」
「……俺はまだ戦える」
「戦えるかどうかは聞いていません。指揮官に何かあれば部隊の士気に関わります! 下がって守りなさい!」
「しかし……」
「あのネズミを守り、貴方も無事に帰る。……それだけに専念して」
 静刃の鋭い言葉に、躊躇いを見せるバタルトゥ。剛は彼の肩に手を置いて首を振る。
「お気持ちは分かりますが、していい無茶としてはいけない無茶というものがありますよ。……今は堪えて下さい」
 本当だったら、自分も戦いたい。
 こんな状況で戦えない自分が情けない――。
 青木の激しい攻撃を耐え続けていたバタルトゥは、重傷こそ負っていないが、これ以上動くのは難しいように見える。
 怪我を負い、制約された状況下であるからこそ、今のバタルトゥの気持ちは痛い程理解できるし……これ以上の無理を許す訳にはいかない。
 剛の強い意志を感じて、バタルトゥはため息をつく。
「……分かった。すまない」
「ありがとうございます。さ、チューダさんもこちらへ」
「ソフィは来ないのです?」
「私はあの歪虚の相手をしますから、いい子にしていて下さいね」
 剛に抱っこされながら、不安そうな顔を見せるチューダの頬を撫でるソフィ。
 後退を始めた剛達が十分に退避出来るまで、目の前の黒い歪虚を引き付けなければならない。
 フッと短くため息をついた静刃は太刀を構える。
「……いいですね、貴方。殺します」
「殺し合いか。別に構わんが……指揮官殿にこのまま帰って貰うのはつまらんな」
 クククと笑う青木。次の瞬間、感じる寒気。周囲のマテリアルが急激に吸い取られるような、何とも言い難い奇妙な感覚――。
 槍を翻し、振りかぶる男が見えて――静刃は考えるより先に、身体が動いた。
「……ダメ! 避けてーーーッ!!」
 響くイスフェリアの悲鳴。バタルトゥ目掛けて投げられた槍は黒い気を纏い、静刃の身体を貫き――。
「静刃さま……!」
「……私は大丈夫です。それより……」
 地に伏した彼女を助け起こすチョココ。静刃の声はこみ上げてきた血で最後まで続かない。
 治療を試みるまでもない。これ以上は……。
「剛さん! 静刃さんを連れて下がってください!」
「了解した! ……すみません、失礼しますよ。イェジド、あの男を頼みます!」
 ソフィの声に応え、断りを入れてから静刃を抱える剛。
 彼の依頼に、イェジドは往く手を遮るように立ち塞がり……後退していく彼らに、青木は舌打ちをする。
「逃がしたか」
 戻れ、という声と共に、主の元へと戻って行く槍。サクラの持っている霊槍と似たような原理だろうか……?
 良く分からないが……今フラメディアにハッキリと分かるのは、青木の槍は投擲が出来るという事。そして状況はあまり宜しくないという事だ。
 静刃は倒れた。剛道は……。
 そこに聞こえて来る大地を蹴る音。振り返ると、剛道とリーリーの姿が見えて……。
「楽しみは残してくれてンだろうなァ、オイ」
「噂をすれば何とやら、じゃな。怪我はないかえ?」
「俺を誰だと思ってンだ」
「その調子なら心配ないようじゃな。……サクラ。剛道」
「はい?」
「ん?」
「すまぬが、5分耐えてくれぬか。それまでに必ず何とかするゆえ」
「分かりました!」
「何でもイイから早く始めようぜ……!」
 フラメディアの声に強く頷くサクラに、心底楽しげに笑う剛道。2人は獲物を構えると、勇ましく前進する。
「青木 燕太郎! 聖導士サクラがお相手します!」
「……来い。死合いを始めようぜ」
 青木の一撃を盾で受け止めるサクラ。
 その居様な重さに歯を食いしばる。
 続く剛道の一閃を、軽く受け流す青木。
 彼はリーリーを方向転換し、続けざまに刀を振るう。
 ぶつかり合う武器。
 飛び散る火花。
 その重さ……。
 ――この男、強い……!
 閃く青木の槍を、盾でひたすら受け止めるサクラ。
 イェジドが飛びずさり、また距離を詰めて……槍の衝撃と、幻獣の激しい動きに視界が揺れる。
 己が攻撃を一手に引き受ければ、剛道や仲間達の攻撃の隙が生まれる。
 何としてでも食らいつく……!
 前衛達の激しい打ち合い。
 青木がそちらに集中しているのを見て取り、フラメディアが手を上げる。
「後衛! 撃ち方始め!」
「はいですの! 天を割り、雷豪を呼んで……雷どーん!」
「炎の矢よ、光りて彼の者を滅せよ!」
「遍く光。集りて光芒の矢となれ!」
 チョココから真っ直ぐに伸びる雷撃。
 燃える炎の矢を撃ち出すソフィ。
 イスフェリアから放たれる輝く光の弾。
 順番に放たれる攻撃に、咄嗟に飛びずさる青木。黒いコートが雷でじわりと焼ける。
 彼は身を翻すと、槍を振るい衝撃波を放つ。
 ビリビリと震える空気。
 衝撃波は盾では受け止めきれない。
 今までのダメージも蓄積していたか……血を流して地に伏したサクラを、イェジドが庇うように覆い被さる。
「人間を守るか、幻獣。だったら一緒に死ぬか?」
「そうはさせぬ……!」
「隙が多いぞ、女」
「我はフラメディアじゃ! 覚えておけ!」
 大きく武器を振り回し、勢いと力で押す彼女。
 飛びずさり、距離を取った途端感じた空気を裂く気配。
 青木は本能でそれを避ける。
「……もう帰るのか? 最後まで楽しませてくれよ、色男」
 薄笑いを浮かべて、迫る剛道。
 その目にはどこか恍惚とした光が宿る。
「アンタにゃどんな景色が見えてるんだ。その強さの先には、何がある」
「それを知ってどうする?」
「俺もその高みに行きたい。その果てに何があるのか……」
「死にたいという事か。ならば手伝ってやろう……!」
 一瞬の間。青木の黒い目に宿る暗い情熱。
 避けようとした途端、腹に感じた衝撃。
 己を貫く槍。
 その強さ。その動き。全てを目に焼き付けて、剛道は笑う。
「……その姿勢、その目。最ッ高じゃねェか! 青木ィ!」
「お前のような死を恐れない人間が一番面倒臭い」
「……ハハ! 褒め言葉と受け取っておこうか」
「剛道、下がれ! 死ぬぞ!」
 剛道の腹から花咲く真紅。その前に割って入るフラメディア。
 赤い髪をなびかせ、彼女の斧が空を切り、青木の槍とぶつかる。
 ――彼は人間を憎んでいるのかな。
 赫風の戦乙女と切り結ぶ青木を見て、そんな事を考えるイスフェリア。
 己が強くなる事よりも、人類側の妨害を優先する。
 歪虚にしては、行動理念が変わっていて……復讐とか怨恨とか、そういった暗いものを感じる。
 過去に裏切られたり、絶望したり――希望を諦めざるを得なかった事情があったから、理想を捨てない人に嫉妬しているのだとしたら……。
 何があったのかは気になるけれど。
 ……それでも、何かを傷つけていい理由にはならない。
 止めなくちゃ……!
「チョココさん、ソフィさん、もう1回合わせて打つよ」
「はいですの! 雷行くですの!」
「フラメディアさん! 避けてください!!」
 再び同時に襲いかかる、後衛の者達の攻撃。
 聞こえる青木の舌打ち。それらを、衝撃波で打ち消そうとしたのが見えて……フラメディアは薄く笑う。
「貰ったぞえ……!!」
 イェジドと共に転身する彼女。
 上段から迷わず斧を振り下ろす――!
「おぬしの負けじゃ。引け」
「……司令官を討ち漏らした時点で勝負はついていた、か。……いいだろう。俺の兵は引き上げさせよう。他の歪虚達についての責任は負えんがな」
「構わぬ。お前が引き、司令官が生き残ったという事実が重要じゃ」
 青木に鋭い目線を向けるフラメディア。
 渾身の力で殴ったというのに、青木はまだ余裕が感じられる。
「……女。フラメディアと言ったか?」
「うむ。フラメディア・イリジアじゃ」
「そうか。覚えておこう」
 踵を返した青木。その背を見送って、幻獣王はエッヘンと胸を張る。
「お前達、良くやったのです! 我輩の獅子奮迅の活y……」
 言い終わる前に聞こえて来たぼぐっ! というイイ音。
 チョココの鉄拳制裁を食らって、チューダが蹲る。
「おおおお……! 幻獣王に何をするでありますか……!」
「ネズミさんのお陰で酷い事になったんですから反省するですのよ!!」
 ぷんすこする彼女をまあまあ、と宥める剛。
 彼はチューダを己の肩に乗せて、草原に向き直る。
「チューダさん、今こそ司令官らしい事をしましょう。全軍に、司令官の無事を伝えて下さい」
「そうだったのです! 皆の者ーー!! 我輩達は無事なのです! お前達も頑張るのですーー!!」
 戦場に響き渡る幻獣王の声。それは、戦う幻獣や戦士達に小さな波のように伝播していった。

依頼結果

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MVP一覧

  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジアka2604
  • 運命に抗う女教皇
    静刃=IIka2921

重体一覧

  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリードka2598
  • 運命に抗う女教皇
    静刃=IIka2921
  • DESIRE
    尾形 剛道ka4612

参加者一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • ふわもふマニア
    ソフィ・アナセン(ka0556
    人間(蒼)|26才|女性|魔術師
  • 導きの乙女
    イスフェリア(ka2088
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジア(ka2604
    ドワーフ|14才|女性|闘狩人
  • 運命に抗う女教皇
    静刃=II(ka2921
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • DESIRE
    尾形 剛道(ka4612
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/09 20:55:34
アイコン 質問板
米本 剛(ka0320
人間(リアルブルー)|30才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/11/12 08:45:26
アイコン 相談卓
米本 剛(ka0320
人間(リアルブルー)|30才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/11/14 14:39:10