• 幻森

【幻森】罠の渓谷

マスター:蒼かなた

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/11/14 09:00
完成日
2015/11/21 14:38

みんなの思い出

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オープニング

●幻獣と歪虚の戦い
 幻獣の森を巡る争いは、『歪虚連合軍』と『幻獣王親衛隊』の激突という形へ発展した。
 幻獣を守るべく動き出した親衛隊は歪虚に対して有利な戦いを繰り広げ、敵をヤオト渓谷へ撤退させるまでに至った。
 ここで幻獣王チューダは敵の追撃を命じ、幻獣の戦士ツキウサギがこれに従って敵を追撃した。しかし、この撤退が敵の計略だと判明する頃には、ツキウサギら追撃部隊の退路は伏兵によって断たれていた。

 敵の計略で形勢が逆転する状況。
 危機的状況を招いた王チューダは、頭を掻きながら言い放つ。
「あー。えーっと……後はみんなで何とかすであります」

●伏兵、ルプナートル
 撤退した歪虚連合軍の追撃の為、幻獣王親衛隊は森深く多くの岩場と川の流れるヤオト渓谷へと進撃していた。
 しかし、そこに至って歪虚軍は突如反転。再び交戦を始めたその時、幻獣達の背後を襲う者達がいた。
「ぐあっ!?」
 先頭で再び戦いが始まったと聞き、急ぎ助けに向かおうとしていた猫型幻獣達の最後尾で悲鳴が聞こえた。
 その苦痛の声に数匹の猫型幻獣の仲間が振り返った途端、今度は彼らの横合いにある茂みから数匹の狼が飛び掛り覆いかぶさる。
「歪虚? いつのまに周りこまれたのです!」
「隊長、違います。こいつらはさっきの草原で戦っていた歪虚とは別種のようです!」
 狼は襲い掛かった猫戦士の腕に食いついていたが、レイピアを構えた別の猫戦士が近づいてくるとすぐにそれを止めて茂みの中へと姿を消してしまった。
「野良歪虚でしょうか?」
「どちらにせよこのまま背後を気にしていては前線の援軍には迎えません。先に退治しますよ」
 隊長の言葉に猫戦士達は全員抜剣し、逃げ出した狼型歪虚の後を追う。
 狼型歪虚は森の中でも迷わずかなりの速度で走って逃げているが、猫型幻獣達も長く森で過ごしてきたこともあって追跡するのに問題はなかった。
「妙ですね」
 しかし、そこで隊長は妙な違和感を覚える。狼型歪虚は先ほどからちらちらと姿は見えているのだがなかなか追いつけない。まるでこちらと同じ速度で走り続けているようだ。
 違和感は疑念を生み、そして疑念は警戒へと変わる。
「皆、止まるのです!」
 隊長の命令で猫型幻獣達の部隊は足を止める。
「隊長、どうかしたんです? 歪虚の追撃はいいのですか?」
 部下の言葉に隊長は答えず、目を凝らして周囲を見渡す。
 その時森の中で風が吹いた。木々や葉が揺れその擦れあう音が周囲に響く。
 その時、見覚えのあるソレに気づいた隊長は思わず声を上げた。
「罠です! 皆、戻ってください! 本隊に合流するのです!」
 猫戦士達は突然の指示ではあったが迅速に行動し、元来た道を戻ろうと動いた。しかし、それはどうやら遅かったようだ。
「ん? って、うわああぁぁぁ!?」
 1匹の猫戦士が足元に違和感を覚えて下を覗いた途端、その体は突如逆さ吊りにされ木の上まで物凄い速度で引っ張り上げられて行ってしまった。
 それを機にあちこちで猫戦士達の悲鳴があがる。ある者は落とし穴に落ちてその姿を消し、ある者はトラバサミに足を挟まれ身動きが取れなくなり、ある者は突然地面から生えてきた黒い槍に貫かれる。
 そして、先ほどの黒い狼型歪虚達がどこからともなく現れて襲い掛かってくる。
「隊長っ。これはまさか!」
「ええ、奴です。奴がいます!」
 背中合わせになりレイピアを古いながら隊長と部下が声を荒げながら会話をする。
 想像通りの相手だとしたらこの場所は非常に不味い。完全に敵のフィールドなのだから。
 そしてその敵がここで待ち伏せをしていたということは、こちらは誘い込まれたことを意味する。完全にしてやられてしまったのだ。
「隊長、どうします?」
「おそらく罠は全周囲に張られているでしょう。戻ることも叶わないとなれば、手は一つしかありません」
 隊長は前傾体勢を取ったかと思うと地を蹴り、こちらの様子を窺っていた狼型歪虚との間合いを一瞬で詰めてその頭をレイピアで貫く。
 絶命した狼型歪虚からレイピアを抜き、その腕を掲げて隊長は命令を下す。
「前進あるのみです。目標は魔人ルプナートル! かの怨敵を討ち滅ぼします!」
 窮地に陥った猫型幻獣達は一世一代の大勝負に出る。ただ愚直に前へ、それしか生き残る術はないのだから。

 たいした混乱もなく立て直し、更に武器を構えて進撃を開始した猫型幻獣達の姿をその魔人はしっかりと見ていた。
「ふむ。今回は良い獲物に巡り合えたようだ」
 言葉では喜びを表してはいるもののその声は平坦で、その感情のほどは読み取れない。
 黒肌の魔人は弓に矢を番えて引き絞り、そして森の奥へと向けて放つ。暫くしてそれが1匹の猫型幻獣の胸元を貫いたのを確認する。
「まずは一匹……」
 あと何匹狩れるだろうか? そんな考えに耽りながら魔人ルプナートルは弓を引く。
 そんな中で、彼の傍に1匹の黒い狼が現れた。それは他の狼達より1回り大きく2m近い体躯がある。
「むっ? ……ふむ、なるほど。あの耳無し共が来たか」
 耳無し、人間という種族らしいが中々に強い力を持った個体が多いらしい。あの青木という魔人も警戒していたし、自身も一度交戦したのでその実力は確認している。
 しかし、ルプナートルとしては耳のない人間という種族はどうも狩りをする気が沸かない。特に今は丁度いい獲物も見つかったところだし尚更だ。
「罠で死ぬならそれでよし。もし越えてきたならばお前達が相手をしていろ」
 そしてルプナートルは狩りを優先した。命令を受けた大狼は仲間を数匹引き連れて森の中へと消えて行く。
 ルプナートルはそれを見送った後、再び猫型幻獣達の方へと向き直って弓を構える。
「さて、どちらが先に片付く?」
 必死にレイピアを振るって近寄る狼へ牽制する猫型幻獣の額に狙いを定め、ルプナートルは引き絞った矢を放った。

●黒き罠
 幻獣王親衛隊の追撃部隊を救出する為、ハンターと幻獣の混成部隊が組まれることになった。
 しかしそれには多少の時間がかかる。それまでの間に戦況を確認するべく斥候部隊が先んじて戦場に入ることとなった。
 ザサキ草原の先は木々が鬱蒼と生い茂るヤオト渓谷だ。追撃部隊も伏兵による襲撃を受けたということもあり、二の舞にならぬ為にも警戒は当然のことであった。
 そしてその斥候部隊の一員であるブレアは森に入ってすぐ、覚えのある感覚に顔をしかめた。
「こいつは不味いな。罠だらけだ」
 目に見えてはいない。だが熟練ハンターであるブレアの直感が危険信号を発しているのだ。
「前に会ったアイツか……となれば、大元を叩けばいけるか?」
 ブレアは共にやってきたハンター達の顔を見る。そして反対意見がないことを確認し、ニィっと笑みを浮かべた。
「じゃあ、いくぜ」

リプレイ本文

●強行軍
 森に1歩足を踏み入れた途端、悪意ある仕掛けがハンター達を待ち受けていた。
 藪の中から飛び出してくる槍や木陰から飛び出してくる大型の爪のような罠が次々と襲い掛かってくる。
「いいかお前等ァ! 絶対に俺の後ろから出るんじゃねぇぞ!」
 地上で先頭を進む万歳丸(ka5665)は構えた盾でその罠を受け止め、後に続く仲間たちを庇う。
 と、そこで万歳丸の足首に何かが絡みついたかと思うとそのまま100kg近い巨体を木の上へと釣り上げようとする。
 だがその体がわずかに浮いたところで万歳丸の足に巻き付いたロープは切られ、その体は宙で一回転してすぐに地面へと降り立った。
「ハハッ、危ねぇ危ねぇ。サンキュー、嬢ちゃん」
「いえ、どういたしまして。それにお礼を言うのはこちらのほうですから」
 ロープを切るのに使った剣を片手に青山 りりか(ka4415)はわずかに微笑んで答えた。
 りりかの視線は万歳丸の体を捉えているが、森に入ってまだ数分と経っていないのにそこには無数の傷を負っていた。本当ならすぐにでも治療したいところだが、有限な回復魔法を無闇に使うわけにはいかず流れる血を見ていることしか出来ない。
 そんなりりかの心情を察したのかどうか、万歳丸は不敵な笑みを浮かべた。
「いいか、しっかりと俺の背中に着いて来いよ。未来の大英雄が教えてやるぜ。俺の後ろに道が出来るって事をなァ!」
 啖呵を切った万歳丸は歩みを再開する。
「うわっと、危ないね!」
 一方で木上を進んでいたミクト・ラル(ka3794)は降り立った枝から突如生えてきた棘を飛んで避けたところだった。
「ノイズあり……予想は的中か?」
 ミクトが罠を避けるところを見ていたフェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)は肩に装着した魔導短電話から一瞬だけ聞こえた雑音を聞いていた。
 罠が発動するその一瞬だけだが負のマテリアルが強まったということなのか、何れにしても罠の前兆はこれで知ることが出来るかもしれない。
「発動してからでも避けられないことはないけど、しっかり足止めされちゃうからプラマイゼロだね」
 恐らく罠を張った相手もそれが狙いなのだろう。時間が稼げればそれでいい。傷でも負わせれば御の字といったところだろうか。
「こうやって罠で足を止めて、自分は安全圏からか……フェアじゃ無いねぇ」
 この罠地帯の奥に潜むまだ姿すら見えぬ歪虚にフェイルは嫌悪を感じながら次の枝へと飛び移り、そこで発動した地面から飛び出してくる槍を身を捻って避ける。
「ん~、けどおかしいですよねぇ」
「どうした。何か気になることでもあるのか?」
 やや舌足らずな口調で疑問を口にした桐壱(ka1503)に馬上のベリト・アルミラ(ka4331)が問いかける。
「そのルプナートルっていう歪虚は弓で狙撃してくるんですよねぇ? でも、まだ一発も飛んで来てないですよぉ?」
 言われてみればその通りだ。まだこちらに気づかれていないという可能性もあるが、先ほどから幾つもの罠を発動させて大分大きな音を立ててしまっている。気づかれていないということはまずないだろう。
「確かに……どういうことじゃろうか?」
「恐らく、別の標的がいるんじゃないのかね」
 首を傾げたベリト。そこにブレアが会話に入ってきた。
「別の標的と言うと、それはまさか……」
「十中八九、追撃部隊の幻獣さん達だろうねぇ」
 このヤオト渓谷の入り口付近を押さえているということは、追撃部隊の後方を攻撃しているであろうことは予想ができる。
 その事実にベリトは険しい顔を浮かべる。
「これはもっと急がないといけないようじゃな」
「とは言っても、罠だけでこれだからな」
「前に現れた狼型歪虚もまだ姿を見せていないからね」
 そこで木の上から声が落ちてきた。見上げればシャルル=L=カリラ(ka4262)が靴底からマテリアルを噴射しながらすぐそこの枝に飛び移ってきたところだった。
「つまり敵はまだ本気じゃないってことですねぇ」
「っと、どうやら噂をしていたら来たようだぞ」
 戦場の匂いが変わったことをいち早く感じ取ったブレアはグレートソードを構えなおして周囲へと目を配る。
 他のハンター達も視線を走らせれば、少し離れた岩陰や藪に何か黒い影が動いているのが目に入った。
「ようやく私の出番です。前回の雪辱、果たしますよ」
 その姿を確認したエルバッハ・リオン(ka2434)は胸元に浮かびあがった薔薇の花の紋章を赤く輝かせ、真っ赤な炎を杖先に灯した。

●敵中突破
 渓谷に爆音が響き渡り、赤い紅蓮の炎が舞い上がる。
「どうか、効いて……!」
 りりかが胸元に剣を抱き鎮魂歌のフレーズを口ずさむ。力を持ったその声は死せし魂に作用し、狼達は急にその動きを鈍らせた。
「今だブレア、掻き回せ!」
「たっく、どっから沸いて出てきてんだこいつらは!」
 万歳丸の声にブレアが先頭に出ると、動きの鈍った数匹の狼を横一閃の大振りでまとめて弾き飛ばす。
 しかしそれでも捌ききれなかった1匹がブレアの脇を抜け、その後方のハンター達へと飛び掛かった。
 だがその狼の首筋を万歳丸の大きな手が掴むと、そのまま力任せに地面へと引き倒す。狼は紫色の毒息をまき散らしながら暴れるが、それを意にも介さず万歳丸は力で捻じ伏せる。
「桐壱ィ!」
「了解ですよ~」
 ほぼ至近距離。1mと離れない距離で放たれた桐壱の風の刃は狼の首をあっさりと刎ね飛ばした。
「これなら楽ですねぇ。万歳丸さん、次をお願いします」
「よっしゃぁ。任せな!」
 しかし狼達は早くも今の仲間の死から学習したのか、無理な突撃をしてこなくなった。変わりにハンター達の周囲を走り回りながら毒息を吐いてくる。
 それで一番に深刻な状態になったのは、ベリトの騎乗してきた馬であった。
「拙い、これ以上は無理はさせられぬか。すまんのじゃ」
 むしろ戦闘訓練を積んでいない乗用馬でよくここまで持ったというべきだろうか。倒れた自身の馬を一撫でしてベリトは杖を走り回る狼へと向ける。
 しかし走り回る狼達は狙いが付けづらく、なかなか標的が定まらない。
「お困りのようだね。それなら私にお任せ♪」
 そのとき、木上から伸びた銀色の鞭が1匹の狼の後ろ脚に絡みつく。すかさずベリトは短い詠唱を完了させ魔法の矢を放った。
 木の上のミクトは狼の攻撃が届かないことからただ集中して鞭を振るい、走り回る狼達の動きを妨害する。
「いいアシストです」
 動きの鈍った標的は逃さず、丁度良く数匹纏まった個所にエルバッハの火炎球が直撃した。
 しかし、舞い上がった炎と煙が晴れようとした瞬間、それを割くようにして黒い巨体が迫ってきた。
「っ!」
「おっと、やらせねぇ!」
 エルバッハは杖を構えようとしたが、それよりも早く万歳丸がその間に割り込み突撃してきた黒い巨体を受け止める。
 受け止めた瞬間、万歳丸の体が数センチ後ろに押し戻されるがかろうじて転倒は免れた。
「こいつは、大物じゃねぇか」
 見ればそこには他の個体とは一線を画した2m近い巨体の狼が唸り声を上げていた。
「てめェが狩りの肝か! 相手にとって不足ねェ!」
 一目でこの群れのボスであろうことが分かるその姿に、万歳丸は尖った歯をむき出しにして笑って見せた。
 と、そこで万歳丸の体が少しだけ軽くなる。
「あまり無理をしてはダメですよ」
 そう言うりりかの手が万歳丸の背中に添えられていた。その手に灯る淡い光が万歳丸の傷を塞ぎ活力を回復させる。
「しかし拙いな。こいつは見事に相手の策に嵌ってるんじゃないか?」
 木の上から状況を眺めるフェイルがそう口にする。戦況は悪くないように見えるが完全に足は止まってしまっている。
 狼達のほうもそれが目的なようで、先へと進もうとする動きを見せるとそれを妨害するように集中して襲い掛かってくるのだ。
「……先行しよう」
 そう言葉にしたのはシャルルだった。
「先行って、この状態の仲間を置いてか?」
 その言葉にフェイルは難色の示すが、しかしここで立ち止まっているわけにはいかないのも事実であった。
「いいから行きなぁ!」
 そこで後押ししてきたのはブレアであった。
「このままじゃ前回の二の舞だ。それにすぐに追いつくし心配はいらねぇ!」
 自慢のグレートソードを振り回しながらブレアは大声でそう言った。
「私はここに残って皆を援護するよ! 2人で大丈夫?」
「だそうだが?」
 少し離れた木で手を振るミクト。その言葉を受けシャルルは再びフェイルへと視線を向ける。
「……分かった。行こうぜ」
 シャルルとフェイルはすぐさま木の上を駆けて森の奥へと進み始める。
 勿論それに気づいた狼達はその後を追おうとするが、その為に動いた狼達の正面で赤い炎が爆発する。
「初めて分かりやすい動きをしてくれましたね」
 エルバッハは爆散した残骸を一瞥し、再びこちらを囲むように動きだした狼達へと視線を戻す。

●幻獣狩りの魔人
「これで6匹……」
 幾本目かの放たれた矢が吸い込まれるようにして猫型幻獣の胸元に突き刺さった。
 突然胸元に生えた矢に驚きの顔を浮かべ、その表情のままで倒れ伏す光景は何時見ても素晴らしいものだった。
「だが……ふむ、今回は本当に良い獲物だ」
 まだ6匹しか狩れていないという現状に下顎を一撫でしてからルプナートルは口元に笑みを浮かべた。
 猫型幻獣達も大分こちらに近づいてきている。そろそろ移動したほうがいいと考えていたその時、その『視界』に映ったものにルプナートルは素早く振り返った。
「気づかれたか。しかし、遅い!」
 木々の間から飛び出したシャルルは銀色の銃口をルプナートルへと向けて引き金を引く。放たれた弾丸はルプナートルの腹部へと吸い込まれ、その黒い肌を食い破る。
「耳無しか。まさかもうここまで来るとはな」
 確かに傷を負わせたはずだが、ルプナートルは痛がる様子もなく弓に矢を番えた。狙いは間違いなくシャルルが足を地面に付けたその瞬間だ。
 しかし、その矢は狙いを外れまるで明後日の方向へ飛ぶこととなった。ルプナートルがとっさに抜いたナイフが紫電を纏う刃を受け止めている。
「悪いがやらせないぜ」
 フェイルはその一言と同時に地面を蹴りルプナートルの側面へと回る。それで丁度シャルルと2人でルプナートルを挟み込むような形になる。
「その動きは……ふむ。狩りのようで違う。さて、何だ?」
 ルプナートルは興味深げにフェイルの動きを目で追い始めた。勿論攻撃の手を緩めたわけではなく、手にしたナイフでフェイルと切り結びながらであるが。
 そうなればフリーになったシャルルは撃ち放題なのであるが、しかしそこに新たな邪魔が入る。
「まだ狼を残していたか!」
 数は1匹だけ。しかし魔人ルプナートルを相手にしている上ではこれ以上にない邪魔者だ。
「ちぃっ!?」
 何合か切り結んだところでフェイルは一度飛びのいて距離を開ける。だがそれを隙ととってルプナートルは弓を構え矢を放った。
 鏃が頬を掠め後方へと飛び去るが、フェイルは改めて刀を構えなおしたところで背中に衝撃が走る。
「何……? どこ、から?」
 避けたはずの矢がその背中に突き刺さっていた。そもそも正面から飛んできた矢が何故背中に? その謎の答えを見つける前に、ルプナートルが第二射を放つために矢を番えているのが見える。
 やられる。そう思った途端に、フェイルの視界の端から白い何かがルプナートル目掛けて飛び掛かった。
「ルプナートル、覚悟して貰いましょう!」
「お前か。見ていたぞ、猫幻獣」
 一瞬で狙いを変えたルプナートルの矢が白い毛並みを持つ猫型幻獣に向けて放たれる。
 猫型幻獣は光るレイピアでその矢を弾くと、その反動で後ろに弾かれるがくるりと体を捻り綺麗に地面に着地した。
「隊長に続け!」
 更に繁みの中から別の猫型幻獣達の現れた。同時に狼達も現れ、その場は一気に乱戦状態へともつれ込む。
「貴方達は?」
 その中でリーダー格らしき白猫の幻獣がハンターの2人にそう問いかける。
「救援に来たのだけど、逆に助けられたようだ。ありがとう」
「そうでした。いえ、こちらこそ感謝を」
 白猫幻獣はそれだけ言うとレイピアを構え、ルプナートルとの戦闘に戻る。
 猫型幻獣達の加勢もあり状況は一進一退。いや、ややこちらが不利だろうか。
「おうおう、楽しそうなことになってるじゃねぇか! 俺も混ぜなぁ!」
 しかし、数分としないうちにハンター側の加勢が到着した。一番に万歳丸はルプナートルの姿を見ると白兵戦を仕掛けようと突進していく。
「遅くなってゴメンね。もう、大丈夫だよ」
 りりかは傷ついた猫の幻獣達の治療へと回る。状況は一気に好転した。しかし、それでもルプナートルは余裕の態度を崩さない。
「今日の狩りはここまでか。ふむ、しかし中々に興味深いな、耳無しも」
 怒号と悲鳴が飛び交う戦場でルプナートルは独り言を呟きながら佇む。
「……さて、今度はこちらが狩る番……ですね?」
「狩る? 何をだ?」
 桐壱が黄金色の杖をルプナートルへと向ける。しかしルプナートルはその言葉の意味が分からないとばかりの反応を示した。
「勿論おぬしをじゃ。幻獣達への狼藉、許さんのじゃ!」
 ベリトの言葉と共に2人の魔法がルプナートルへと放たれる。だがそこに割り込んできた大狼の黒い毛並みがその全てを受け止めた。
「ぐぅっ!?」
「この、あっちに行け!」
 更に、藪の中から突然姿を現した別の狼がベリトの肩口に食らいつく。桐壱の炎矢に狼はすぐに飛び退いたが、解放されたベリトはがくんと膝をつきそのまま地面に倒れる。
「毒だっ。おい、早く治療してやれ!」
「はいっ!」
 ブレアの声にりりかが急ぎベリトの治療に入る。
「さて、行くか。あとは任せる」
 ルプナートルはもうこの現状への興味を失ったのか、自分を庇った大狼にそれだけ告げると森の奥へと足を向ける。
「ここまできて逃がしはしません」
 その後ろ姿にエルバッハが火炎球を放つが、それはまたしても大狼が割り込んでその攻撃を受けとめる。
「さて、次の狩りはどうするか」
 既に次のことを考え始めているルプナートルは隙だらけに見える背中を見せながら歩いていく。
 その後を追おうにも残った狼達がそれを阻み、そうしている間にルプナートルの姿は森の奥へと消えていった。
「うーん、逃がしちゃったかー」
「ともかく、まずはこの狼達を片付けるぞ」
「はーい」
 狼に突っ込んでいくブレアを援護するためにミクトは鞭を振るう。

 その後、十数分の戦闘の末に狼型歪虚は撤退した大狼を除き全滅。
 魔人ルプナートルにも逃走を許す形となったが、渓谷内の罠は無事に解除されたことが確認された。

依頼結果

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MVP一覧

  • 藤光癒月
    青山 りりかka4415
  • パティの相棒
    万歳丸ka5665

重体一覧


  • ベリト・アルミラka4331

参加者一覧

  • 酒は命の水
    桐壱(ka1503
    エルフ|13才|男性|魔術師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師

  • ミクト・ラル(ka3794
    エルフ|15才|女性|疾影士
  • 麗しい海賊
    シャルル=L=カリラ(ka4262
    人間(蒼)|17才|男性|機導師

  • ベリト・アルミラ(ka4331
    人間(蒼)|19才|女性|魔術師
  • 藤光癒月
    青山 りりか(ka4415
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 狂喜の探求者
    フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808
    人間(紅)|35才|男性|疾影士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 幻獣さんをお助け隊
桐壱(ka1503
エルフ|13才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/11/13 23:51:40
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/10 23:20:18