• 闇光

【闇光】忍び寄る闇

マスター:香月丈流

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/11/25 22:00
完成日
2015/12/04 02:16

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 こんな事態に陥ると、誰が想像しただろう?
 歪虚からの領地奪還を目的に、北狄で始まった大規模な戦い。負のマテリアルを少しずつ浄化し、迫り来る雑魔の大群を蹴散らし、遂には夢幻城へと侵攻するに至った。
 これは人類が一致団結した結果であり、その功績は胸を張って誇れるものだろう。
 だからこそ……人々が歪虚の想像よりも優秀な働きをしたからこそ、歪虚王が2体も動き始めたのは、皮肉な事ではあるが。
 圧倒的な戦力を前に、後退する事は恥ではない。生きていれば、反撃の機会は必ず与えられる。その時まで耐え忍ぶ事も、また『戦い』なのだ。
 様々な想いが交錯する中、歪虚王とは違う『危機』が北狄に迫ろうとしていた。


「ひぃっ!?」
 浄化キャンプの周辺に響く、女性の短い悲鳴。その原因を作ったのは、1人……いや、1体の雑魔だった。
 陽光で銀色に輝く長髪に、冷たいアイスブルーの瞳を備えた男性。長身痩躯で中性的な顔立ちは、芸術品のように美しい。
 一見すると人間と大差無いが……生気を失った蒼白い肌と犬のような牙は、『自分が吸血鬼だ』と主張しているようなモノである。
 その吸血鬼が、突然キャンプに出現。近くに居た術者や兵士の首に噛み付き、噛まれた者は一瞬で膝から崩れていく。想定外の不意討ちに、10人近い人数が数十秒で地に伏した。
 が、残った兵士達は冷静さを取り戻し、すぐに吸血鬼を包囲。10人以上の兵士が四方八方を取り囲み、数人の術者達が倒れた者達の介抱に向かった。
 逃げ道を塞がれ、圧倒的に不利な立場になっても、吸血鬼は焦る様子を見せていない。それどころか歪んだ笑みを浮かべ、両手を広げながら叫んだ。
『さあ、聞かせておくれ。絶望の追走曲(カノン)を!』
 吸血鬼が言葉を口にした直後、倒れていた者達が一斉に跳ね起きた。その瞳に、獰猛な殺意を宿して。
『ウゥ……ウガアアァアァァ!』
 野獣のような雄叫びを上げ、起き上がった者達が剣や槍を振り回す。狙いは吸血鬼ではなく、術者や兵士達。つまりは……同士討ち。
「ちょっ!? おい、何のつもりだ!」
「止めろ馬鹿! 聞こえねぇのか!」
 兵士達が話し掛けるが、返事は無い。手加減も容赦も無く、全力で剣撃が打ち込まれてくる。仲間の攻撃を受け止め、兵士の1人が吸血鬼を睨んだ。
「おい、お前! コイツ等に何しやがった!!」
『何って、見ての通りさ。僕のお人形になって貰ったんだよ。絶望を彩るには、悪くない演出だろう?』
 神経を逆撫でするような、挑発的な口調と言葉。歪虚は人間の血肉や命を奪う存在だが、絶望や恐怖といった『負の感情』を狙う事も少なくない。この吸血鬼も、怒りや不安を煽るために兵士の一部を操っているのだろう。
「悪趣味な野郎だな。反吐が出る……!」
 不快感を露にし、言葉を吐き捨てる兵士達。出来る事なら今すぐ斬り倒したいが、突撃して逆に噛み付かれ、操られてしまっては意味が無い。
 それ以前に、彼らには『浄化キャンプの維持』という任務がある。暴れている仲間達を抑えなければ、浄化施設が壊される可能性が高い。もし『正のマテリアル』の供給が途絶えたら……前線に居る者達を含め、多くの犠牲者が出てしまう。
『おやおや……僕の趣向は、お気に召さなかったようだねぇ。まぁ、君達の意見は関係ないけどさ』
 残念そうな口振りとは裏腹に、吸血鬼は嬉しそうに微笑んでいる。人間が同士討ちしている姿が、焦りの表情が、絶望に染まっていく様子が、楽しくて仕方が無いようだ。
 雑魔は喧騒から若干離れ、小さな岩に腰を下ろした。
『せいぜい、抵抗して見せておくれ。舞台の幕は、上がったばかりなんだからね……!』
 高見の見物を気取り、挑発的な笑みを浮かべる吸血鬼。悔しいが……このキャンプの戦力では、状況を打開する事は出来ない。最後の望みを託すように、術者の1人がハンターズソサエティに連絡を送った。

リプレイ本文


『どうしたんだい? もう降参かな?』
 心の底から無邪気だが、狂気を孕んだ吸血鬼の声。歪んだ双眸の先では、浄化キャンプの兵士達が同士討ちを繰り広げていた。正確には……吸血鬼が一部の兵士を操って暴れさせ、それを他の兵士達が取り押さえているのだが。
 全員を操ってキャンプを壊滅させなかったのは、人間の恐怖や不安を煽るためだろう。戦いが長引くように10人だけ操り、残った20人には手を出していない。
 操られた兵士の斬撃が、幾度となく振り下ろされる。正気の兵士達はそれを必死に防御していたが、強烈な一撃を受けて転倒。無防備な者に向かって、無慈悲な刃が振り下ろされた。
 と同時に、黒い影が2人の間に割って入る。硬い金属音と共に火花が飛び散り、斬撃を完全に受け止めた。
「遅れてすまない。後の事は、俺達に任せてくれ」
 静かだが力強い、ザレム・アズール(ka0878)の声。彼は巨大な盾を構え、兵士を守るように立ち塞がっていた。真紅色の盾には紅玉石が埋め込まれ、まるで炎が燃えているように見える。
 部外者の登場に、混乱が周囲に広がっていく。それが歓喜の声に変わるまで、長い時間は必要なかった。ハンターが次々に駆け付けて来たからだ。
「おまえが吸血鬼か! こすからい真似してくれてんじゃねえかよ……絶対にぶっ潰す!」
 兵士の攻撃を刀で受け止めながら、リュー・グランフェスト(ka2419)が叫ぶ。熱血漢で直情的な彼は、怒りの感情を隠そうとしない。18歳の少年という事もあり、黒い瞳に怒りの炎がメラメラと燃えている。
 感情的になっているリューの肩を、テノール(ka5676)が静かに叩いた。
「熱くなり過ぎては駄目ですよ。怒りは体内に閉じ込め、攻撃時に爆発させるべきです。『悪趣味野郎』が相手なら尚更、ね」
 柔和な表情で、冷静に注意を促す。彼自身、胸の内では吸血鬼に憤りを感じている。が、それを表に出さないのは、理由があった。
 リアルブルーの偉人が遺した、2つの言葉……『敵のため火を吹く怒りも、加熱しすぎては自分が火傷する』、『とじこめられている火が、いちばん強く燃えるものだ』。
 これが、戦いにも通じていると考えたからだ。彼自身はクリムゾンウェストの人間だが、趣味の読書で知識を得たのかもしれない。
『おやおや、僕の舞台を邪魔するつもりかい? 無粋な連中だね、まったく……』
 ハンター達の迅速な登場に、吸血鬼が溜息混じりの言葉を漏らす。その残念そうな語り口とは裏腹に、歪んだ笑みを浮かべて。
 その横顔を、遠方の岩陰から監視する人影が1つ。
(あれが吸血鬼……本で読んだ事はありますが、実物は初めてですね)
 ライフルのスコープ越しに、アメリア・フォーサイス(ka4111)の碧眼が敵を射抜く。普段は物腰の柔らかい淑女だが、依頼中の『今』は凛々しい雰囲気を放っている。高まる集中力に呼応するように、アメリアの双眸が髪と同じ金色に変わり始めた。
 彼女同様、吸血鬼を凝視するアシェ-ル(ka2983)。その瞳が兵士に移り、数秒後にまた吸血鬼を眺め……双方を見比べながら、16歳の少女は想像力をフルに働かせた。
 操られている兵士達は、屈強でムサ苦しい男性が多い。今回の吸血鬼が使ったのは『噛んだ相手を操る』という能力。つまり……。
「悪趣味です。どうせなら、ザレムさんや、リューさんを狙ったなら絵になるのに……」
 兵士に噛みついた姿を想像し、不快感を露にするアシェ-ル。自身の想像を振り払うように頭を振り、気持ちを切り替えて兵士達を守るために動きだした。


 操られた兵士の攻撃を捌きつつ、徐々に浄化キャンプから離れていくハンター達。無事な兵士やキャンプに被害が及ばないよう、戦闘範囲を数メートル移動させている。無論、その間も吸血鬼への注意は忘れない。
「吸血鬼型というのは、こうも人の多い所を好む者なのかの……面倒な奴らじゃ」
 周囲の状況を確認し、星輝 Amhran(ka0724)が溜息を漏らす。過去に吸血鬼型と戦った経験があるのか、敵の性質にウンザリしているようにも見える。
 そんな事情は微塵も気にせず、暴れ回る兵士達。星輝は歪虚に侵食されかけた事があり、その時から外見が全く成長していない。10歳程度のエルフ少女に襲い掛かる、屈強な男性兵士……色んな意味で大問題な光景である。
 星輝は鉄扇を手に、踊るように身を翻した。地につくほど長い銀髪が陽光で煌めき、兵士の斬撃が空を切る。
 反撃するように、星輝は扇を広げて顎に叩き付けた。命中と同時に機械式の細工を作動させ、扇を素早く閉じる。打撃と開閉、2つの衝撃が連続で兵士の脳を揺らし、意識を彼方へと吹き飛ばした。
「まずはテメェらからだ! 歯ァ食いしばれ!」
 拳を握りながら、鬼族の万歳丸(ka5665)が叫ぶ。言うが早いか、素早く両腕を伸ばして兵士の体を掴み、豪快に投げ飛ばした。
 2mを超える長身の万歳丸なら、相手が成人男性でも関係ない。兵士の体が軽々と宙を舞い、弧を描きながら地面に落下。怪我をしないように手加減したが、衝撃で兵士は気絶してしまった。
 その近隣で、ザレムとリューが兵士を取り押さえている。理性を失った人間は何をするか分からないため、ザレムが背後から羽交い絞めにして拘束。次いで、リューが腹部に手刀を叩き込み、意識を刈り取って無効化した。
「アシェ-ル。悪ぃが後始末は任せたぜ?」
「こっちも頼む。その代わり、護衛は任せてくれ」
 万歳丸とリューに声を掛けられ、アシェ-ルはロープを持って駆け寄る。彼女が気絶した兵士を縛り始めると、リューは彼女が襲われないよう、周りに目を光らせた。万歳丸は次の相手をするため、暴れる兵士に向かって駆け出している。
 殺伐とした空気が流れる中、巌 技藝(ka5675)の近辺だけは様子が違った。武術と共に舞踏の研鑚を重ねた事もあり、その動きは優雅にして美麗。紫色のポニーテールは腰まで伸び、動きに合わせて妖艶に揺れている。
 加えて、小麦色の瑞々しい肌と、自己主張の激しい胸部が視線を捕えて離さない。事実、操られていない兵士の数人は、彼女から目が離せなくなっている。人間と鬼……種族は違っても、美的感覚は同じようだ。
「舞手としては不本意だけど……力尽くで抑えさせて貰うよ」
 残念そうに呟き、技藝は兵士の攻撃を避けて一気に間合を詰めた。腕を掴んで捻り上げ、2m近い長身を活かして関節を極めて抑え込む。そのまま相手の動きを封じ、ロープで固く拘束した。
 暴れる兵士は少しずつ減っているが、戦意は微塵も衰えていない。それどころか、凶暴さが増しているような気さえする。
 正面から迫ってくる兵士に対し、Uisca Amhran(ka0754)は杖を構えた。振り下ろされる斬撃をヒラリと避け、相手の後頭部を狙って杖を叩き付ける。殴打が直撃し、兵士の体を衝撃が駆け抜けた。
 が……意識を奪うまでは至らず、兵士の暴走は止まらない。どうやら、彼女の『相手に怪我をさせたくない』という優しさが裏目に出てしまい、手加減し過ぎたようだ。
 失敗を悔いるヒマも無く、兵士が再び刀剣を振り回す。Uiscaは軽く唇を噛みながら、盾を構えて斬撃を受け止めた。そのまま地面を蹴り、盾を押し込んで相手の体勢を態勢を崩す。更に兵士の脚を素早く払い、転倒させて一時的に動きを封じた。
「少しの間だけ、我慢していてくださいね?」
 そう呟き、Uiscaはロープを取り出して兵士を拘束。鮮やかな手捌きとは裏腹に、紫色の瞳には悲しみが浮かんでいた。
「皆さん、バラけないように集まって下さい!」
 操られていない兵士に向かって、アシェ-ルが叫ぶ。護衛対象がバラバラにならないよう、彼女は常に注意を促していた。拘束された兵士達もアシェ-ルの近くに運ばれ、キャンプの喧騒が収まりつつある。
『やれやれ……困った大根役者達だねぇ。折角の演出が台無しだよ……!』
 数分前とは違い、明らかに怒りの籠った言葉。ハンター達の活躍で、兵士は全員無事に保護された。この展開は、吸血鬼も予想していなかったのだろう。
 鎮静化する状況に舌打ちし、怒りの形相で吸血鬼が立ち上がる。岩を軽く蹴って跳び、地面に舞い降りた。
 直後。
 吸血鬼の足元を狙い、無数の弾丸が地面に突き刺さる。それは相手を倒すための攻撃ではなく、動きを止めるための牽制。出鼻をくじかれた吸血鬼は、銃弾が飛んできた方向に視線を向けた。
 雑魔の双眸に映ったのは、ライフルを構えたアメリア。金色の長髪が風に揺れる中、片手で魔導短伝話を操作している。その間も、彼女の視線は吸血鬼から動いていない。2人の視線が空中で衝突し、火花が散っているようにも見える。
「よゥ、アンタ。同じ『鬼』のよしみだ。この俺様が可愛がってやンよ!」
 周囲の空気が張りつめる中、銃声を聞いて駆け付けた万歳丸が、吸血鬼を挑発。言葉と共に自身の角を指差し、不敵な笑みを向けている。自身を『ヤンキー系男子』と評する事もあり、相手を煽るのは手慣れているのかもしれない。
「高みの見物は止めたのかな? 先輩方の邪魔をする気なら……あたいも相手になるよ」
 万歳丸の反対側……吸血鬼を挟む位置から、技藝も姿を現す。本当なら雑魔の対応は熟練のハンターに任せ、自分は兵士達の拘束と護衛に専念するつもりだったが、吸血鬼が動いたなら話は別である。
 鬼族の2人に挟まれ、吸血鬼は大きく溜息を吐いた。
『ふぅ……仕方がない、少し遊んであげるよ』
 ハンター達に対して怒りや苛立ちを感じているが、それは戦闘で晴らせば良い。それに、彼らの『負の感情』を煽り、最終的に操ってしまうのも一興。そんな事を、吸血鬼は企んでいた。
「吸血鬼が岩から跳び下りました。射撃で牽制しましたが、狙いは不明です。既に、万歳丸さんと技藝さんが戦闘を始めています。」
 伝話が繋がった事を確認し、アメリアは仲間達に状況を報告。必要な情報を全て伝えると、伝話を切ってライフルを構え直した。

『どこを狙ってるんだい? 僕はここだよ!』
 それは、異様な光景だった。楽しそうに動き回る吸血鬼と、連携して攻撃を繰り返すハンター達。他の場所に居た者達も集まり、8人で協力しているが……彼らの攻撃は、ほとんど当たっていなかった。
 星輝と技藝、2人の舞姫が華麗なステップを踏み、舞踊から攻撃に転じる。その動きに反応し、吸血鬼も舞踏の要領で後方に跳び退いた。
 回避先を狙い、リューとザレムが振動刀を薙ぐ。大気を裂く斬撃が雑魔に迫るが、敵は着地と同時に大きく跳躍。まるで羽毛のように軽い動きで、2人の攻撃を回避した。
 空中に居る隙を狙い、アメリアが銃弾を走らせるが……吸血鬼は足場も無い中空で一回転。常識の通じない動きに、アメリアは少しだけ苦笑いを浮かべた。
 吸血鬼を3方向から取り囲み、Uiscaの杖が、万歳丸の剛腕が、テノールの拳撃が迫る。連携は完璧だったが、吸血鬼はその軌道を全て見切ったようだ。風に揺れる竹のように攻撃を避け、間合をあけるように大きく移動した。
 攻撃が命中していないが、決してハンター達の実力が足りないワケではない。吸血鬼の回避能力が、異常に高いのだ。これが並みの雑魔だったら、既に3回は消滅しているだろう。
「み……皆さん、頑張って下さい~!」
 遠くから聞こえる、アシェ-ルの応援。彼女は兵士達の安全を確保するため、護衛任務に専念している。攻撃に参加できない代わりに、想いを込めて声援を送った。
 敵の回避能力は高いが、勝負を諦めている者は1人も居ない。相手の隙を探す者、回避のクセを読もうとする者、考えるより先に体を動かす者……方法は違うが、気持ちは全員同じなのだ。
「単独で来るとは凄い自信だな」
 相手の反応を見るため、ザレムが雑魔に声を掛ける。その言葉を聞いた吸血鬼は、歪んだ笑みを浮かべながら鼻で笑った。
『キミ達を倒すのに仲間なんて要らないだろ? 力の差は歴然なんだからねぇ!』
 耳障りで高らかな叫びが空気を揺らし、ハンター達の耳に響く。ザレムは、この雑魔が囮役として動いている可能性も考慮していたが……言動を見る限り、単独行動で間違いないだろう。
「口だけは達者じゃな。以前おぬしの同族と戦うたが、さしたる強さを感じんかったのぅ」
「もしかして、ハンターは怖くて襲えない……という事はないですよね?」
 敵の注意を引き、あわよくば隙を作るため、星輝とUiscaが吸血鬼を煽る。2人は異父姉妹で仲も良く、挑発の時でも息がピッタリ合っている。不敵な表情を浮べながら、星輝は髪を掻き上げた。
「ほれほれ、若い身体の首筋に魅力は感じんかや?」
『随分と安い挑発だねぇ……何を企んでるか知らないけど、正面から噛み砕いてあげるよ!』
 敢えて挑発に乗った吸血鬼は、地面を蹴って一気に接近。きっと、星輝達の策を打ち破る自信があるのだろう。
 その過剰な自信が、敗因になるとも知らずに。
 姉妹との距離を詰め、牙を剥く吸血鬼。星輝は敵をギリギリまで引き付け、鉄扇を全力で薙いだ。渾身の一撃が銀色の軌跡と残像を生み出し、吸血鬼の牙を直撃。その衝撃で牙が折れ、宙を舞った。
 ほんの一瞬遅れて、Uiscaの背中から白竜の翼に似た光が顕現。彼女の狙いも、星輝と同じ。噛みに来た吸血鬼へのカウンターである。
 Uiscaは杖に魔力を込め、敵の脳天目掛けて振り下ろした。その先端に光が収束し、細身の聖剣を形作る。これは、白龍への祈りが具現化した物。杖の殴打が強烈な一撃へと昇華し、雑魔に炸裂した。
『ぐっ……!?』
 今日初めて耳にした、吸血鬼の呻き声。2人の攻撃は想像以上に効いているようだ。攻めるなら、今しかない。
 刹那の隙に滑り込み、敵に関節を極める万歳丸。その全身に『金色の焔』に似た幻影を纏い、激しく燃え上がっている。幾度となく放ってきた関節技が吸血鬼の右肘と左脚を砕き、動きを鈍らせた。
(そういえば、リアルブルーの吸血鬼ならば心臓が弱点だと読んだことがあるな。こちらの世界の吸血鬼は……どうなんだろうか?)
 ちょっとした疑問を浮べつつ、テノールは全身のマテリアルを活性化。体内の気を循環させて力を溜め、前傾姿勢から手甲で拳撃を繰り出した。回転を加えた拳が吸血鬼の脇腹に命中し、大きく抉って鮮血が舞い散る。
 その血飛沫を貫いて、アメリアの銃弾が吸血鬼の両脚を射抜いた。マテリアルを込めた弾丸は氷の力を宿し、傷口から凍結が広がっていく。冷気が一気に押し寄せ、吸血鬼の動きが更に鈍った。
「あんたの舞い、悪くなかったよ。あたいや星輝の方が一枚上だったけどね?」
 軽く微笑みながら、技藝が舞い踊る。武闘に繋がる舞踏……トンファーとグローブの殴打が連続で吸血鬼に打ち込まれ、衝撃が全身を駆け抜けた。
「おまえを倒して、『未来』を切り開いてやるぜ!」
 リューの裂帛の叫びが大気を震わせる。次いで爆音が響き、大量のマテリアルを放出しながら爆発的に加速。手にした振動刀が輝きを纏い、移動エネルギーを衝撃に転化して吸血鬼に突撃した。
 圧倒的な破壊の力が、敵の左半身を喰い尽くす。体の大半を失い、吸血鬼は悲鳴に似た叫びを上げた。
 ほぼ同時に、ザレムが緋色の炎を生み出す。破壊エネルギーを纏った炎が扇状に広がり、一瞬で雑魔を飲み込んで焦がしていく。
 ザレムの放った『炎の矛』は吸血鬼の断末魔すら焼き尽くし、全てを灰に還した。


「皆を癒す、癒しの歌を歌います……怪我をした方は集まって下さい」
 吸血鬼の消滅を確認したハンター達は、兵士の介抱を始めていた。状況的に仕方なかったとは言え、手荒な事をしてしまったし、同士討ちの影響で怪我をしている者も少なく無い。
 全ての負傷者を癒すため、Uiscaは白龍への祈りを込めて歌声を響かせた。切なる祈りが周囲の『正のマテリアル』を活性化させ、柔らかい光が傷を包んで癒していく。
 平行して、アシェ-ルは兵士達の縄を解いていた。が……いくつかの結び目が固いのか、唸り声を上げながら悪戦苦闘している。
「大丈夫ですか? もしかしたら、切った方が早いかもしれませんね」
 苦労しているアシェ-ルに優しく微笑みながら、テノールがナイフを差し出した。彼女はそれを受け取り、ロープを切断。兵士全員の拘束を解いて無事を確認し、ほっと胸を撫で下ろした。
 兵士達の事は仲間に任せ、アメリアとザレムはキャンプ内を別々に歩き回っていた。損害は最小限に抑えたつもりだが、万が一という事もある。念のため、目視で状況を確認しているのだ。
「一通り見回ってきましたが、物理的な被害はありません。兵士の皆さんも全員無事でした」
「向こうも同じだった。有事に備えて、各キャンプに覚醒者を少人数ずつでも配置できたら良いのにな……」
 互いの報告で損害が無い事は分かったが、ザレムの口調には若干元気が無かった。今回は雑魔を撃退できたが、似たような事件が起きる可能性は……否定出来ない。浄化キャンプが重要拠点である以上、それは避けられない事だろう。
 改めて、ザレムは世界と人々を守る決意を固め、拳を強く握った。

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MVP一覧

  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhranka0724
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhranka0754
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズールka0878
  • パティの相棒
    万歳丸ka5665

重体一覧

参加者一覧

  • 大王の鉄槌
    ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271
    人間(紅)|12才|女性|闘狩人
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • 初ヒエン舞
    巌 技藝(ka5675
    鬼|18才|女性|格闘士
  • ―絶対零度―
    テノール(ka5676
    人間(紅)|26才|男性|格闘士

サポート一覧

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アシェ-ル(ka2983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/11/25 21:12:25
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/23 00:39:36