戸惑いの用心棒

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/08/07 12:00
完成日
2014/08/10 07:11

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「ダンチョー、言われた通り盗賊をやっつけてきただよ……」
「おう、ご苦労だったな」
 しょんぼりと肩を落としながら部屋に入ってきた少女、シュシュ・アルミラに目を向けオズワルドは笑みを浮かべた。
 バルトアンデルス城内。自らの執務室で書類仕事を片付けながら待っていたオズワルドはソファに腰掛けたシュシュに温かい茶を淹れてやった。
「今回は帝国兵とうまく連携できたか?」
「できるわけないべ? 帝国兵はシュシュの事嫌いだし、シュシュは帝国兵嫌いだかんな?」
「帝国の兵士は確かにハンターを軽視するフシがある。まあ、個人差は大分あるがな。当然の事だ。戦場で命を預ける相手は見知らぬ傭兵よりも同じ目的意識を持った仲間の方がいいに決まっている」
 両手でカップを持ちながらシュシュは両足をぶらぶらと投げ出している。オズワルドは腕を組んだ体勢でその様子を見下ろしていた。
 シュシュ・アルミラはハンターだが、訳あってここ一か月ほどの間、第一師団の詰所で生活していた。名目は長期的な依頼を帝国政府から受け滞在中という事になっていたが、これはそう単純な事でもなかった。
 以前、シュシュは帝国軍の作戦を意図的に阻害した罪で第一師団に逮捕された。しかしオズワルドの温情によって罪人として裁かれる事なく、彼の管理下に置かれる事で監獄都市行きを免れていたのだ。
「ダンチョー、シュシュはいつまで帝都で暮らさなきゃいけないだよ? 帝都は変なにおいがするし、帝国人が一杯で住みづらいだよ……」
「アネリブーベ送りになるところを助けてやったんだ。感謝はされどもケチつけられる謂れはねェぞ」
 アネリブーベの名前が出た途端、シュシュは小刻みに振動を始めた。第十師団管理下の巨大監獄要塞。帝国唯一の刑務所は入れられたが最後、過酷な強制労働につかされるとオズワルドに教えられていたからだ。
「ダ、ダンチョー……刑務所はやだかんな? 刑務所だけはシュシュやだかんな?」
「心配すンな。ハンターを裁くのは、帝国としても色々面倒なんだよ。まあ、そうだな……次の仕事が終わったらお前さんを解放してやってもいい」
「ほんとだべか!? 家族に手紙書くだよ!」
「お前さんの家族は、今は保護区に住んでるんだろ?」
 嬉しそうに小躍りするシュシュ。しかし保護区という言葉に表情が陰ってしまう。
 正式には部族保護区と呼ばれるその場所は、帝国領内に保護された辺境部族を保護している区画の事で、その中で部族はある程度の自由を約束されている。しかし生活は決して楽ではなく、彼らの中で尊重されるべきルールが軽視されているのが実情だ。
「あんなのは保護じゃないべ。檻の中に閉じ込めてるのと一緒だ……」
「それの何が悪い?」
「悪いに決まってるべ!? 皆大切な故郷を奪われて、無理矢理働かされて……! 帝国の服を着せられて、帝国の食べ物を食べて……そんなのもう部族じゃないべ!」
 瞳に涙をためながら叫ぶシュシュ。その声に反応したのか執務室に兵士が顔を覗かせたが、オズワルドは片手を上げて制止する。
「お前さんの最後の仕事は、開拓地に出現する敵性亜人の殲滅だ。それが終わったら晴れて自由の身だ」
「開拓地……? それって……?」
「そうだ。集められた有志の人間が田畑を耕し、荒れた大地を人の住みやすいように作り変えている場所だ。お前達部族の力も借りている。アネリブーベの囚人も中にはいるだろうな」
 自分たちが囚人と同じ扱いを受けている。その事実に悔しさが溢れ、堪え切れずに歯軋りする。うめき声にも似た声を無視し、オズワルドは静かに語り続けた。
「元々帝国は人の住める土地じゃなかった。今よりずっと荒れていて、亜人共が跋扈していた。帝国に初めて領土を築き上げた初代皇帝とその騎士達は、この地を人の住める場所にする為に努力し、そして故郷を勝ち取った」
「それがなんだべ……? 帝国皇帝の話なんか関係ないべ?」
「関係はある。何故そいつらは人の住めない場所を住めるようにしたと思う? 危険で過酷な生活だ。何故それを好き好んでしただろう? 開拓地の連中はどうだ? 連中は何故帝国にこき使われ働いているのか……興味がないか?」
 正直、オズワルドの言いたいことはよくわからなかった。だがシュシュは知っている。この男は決して悪人ではない事を。
 罪人として裁かれるべき自分を救い、寝る場所と温かい食事を与え、戦いを教えてくれた。帝国兵は嫌いだ。けれどこの男を嫌いにはなれない。
「いいか、シュシュ? この世界の全てを知る事は出来ない。だがわからない事をわからないままでいいと思うな。いつかは理解できる事を夢見続けろ。決めつけの上に胡坐をかくな。お前が目を閉じ耳を塞いでも、決してこの世界はそのあり方を変えたりはしねェんだ」
 厳しい言葉で、しかし温かさのある声で、男は少女の頭を撫でた。話の内容はやっぱりわからない。けれど、この仕事にもきっと何か意味がある。そんな気がした。
「今回の仕事はハンターだけで行って来い。本来は帝国兵がやるべき仕事をお前さんに任せる。その意味も考えろ。APVに連絡をしておくから、依頼の募集と仲間集めには時間はかからん。その間、お前さんはこの仕事から何を学ぶべきなのか、そいつを考えておけ」
 話は終わったと言わんばかりに肩を叩かれシュシュは席を立った。部屋を後にし、バルトアンデルス城の廊下からくすんだ街を見渡す。
「シュシュにはわからないだよ、ダンチョー。わからない事ばっかりで、どうしたらいいのかも……わからないだよ」
 目で見た事だけしか信じられないけれど、その目で見つめる世界はいつも色を変えていく。
 差し伸べられた温かい手と、自分をどこかへ連れ去ろうとする冷たい手。そのどちらも現実で、どちらも嘘ではなくて。
 迷いを振り払うように激しく頭を振って踏み出した一歩でさえも、やはりどこか心許なかった――。

リプレイ本文

「だいいちしだんで寝泊り!? シルバリーヴァントでっ!? オズワルド様の!?」
 開拓村に響くメリエ・フリョーシカ(ka1991)の叫び声。それを目の前で浴びせられたシュシュは目がまん丸くなっていた。
「兵舎ってどんなの!? 兵士様の訓練ってどんな事してるの!? 師団の騎士様達は普段どうやって過ごしてるの!? オズワルド様は……」
 メリエにとって帝国師団の一員となる事は夢の足掛かり。当然興味は尽きないが、シュシュから得られた情報は「ごはんがあんまりおいしくないけど量は多い」とか「オズワルドはこわいけどお菓子くれる」とかそんな程度で、有用な物はなかった。
「今のうちに班分けを発表するっすよ~」
 終わらないメリエの質問攻めに放心するシュシュを放置して神楽(ka2032)が作戦を切り出した。
 今回は九人のハンターを三つの班に分け、長時間村の警備を維持する為のローテーションを組む事になった。それは良い作戦だと思うのだが……。
「まさか僕とマリアが別の班分けになるなんて……」
 ノーマン・コモンズ(ka0251)が震える声で呟いた。視線の先、守るべき幼馴染であるマリア・ベルンシュタイン(ka0482)は同班のヴァイス(ka0364)と和やかに相談している。
 問題は彼、ヴァイスだ。ノーマンの目から見ても彼はイケメン。羨望のフィルタを通して見るその横顔は必要以上に輝いている。
「マリアを傍で守れない上にイケメンと一緒だなんて……」
「さっきから妙な視線を感じるんだが……」
「ノーマン? どうかしたのですか?」
 びくりと背筋を震わせるノーマン。慌てていつもの自分を取り繕いマリアに笑顔を返す。
「なんでもないよ。ただ、マリアをすぐ傍で守れないのが心配で……」
「ノーマン……ありがとうございます。でも大丈夫です。ノーマンが一緒に依頼に来てくれた……それだけで心強いですから」
「マリア……。そうだね。お互い悔いのないように頑張ろう」
 ノーマンの手を取り微笑むマリア。その天使のような笑顔から一瞬目を逸らし、ノーマンはニヤリと笑う。
「……コボルドを殲滅して、さっさと終わらせてしまえばいいだけだしね」
「しかし……どこの世界も鉱山労働は過酷なもんだな。仕方ねえと言えば仕方ねえが……過労で倒れる人間が後を絶たないって事はシフトというか労働環境自体がよくねえんだよな」
「そうだな。それに今回のコボルドの襲撃は、奴らの生活圏内に踏み込んだのが原因だ」
 山を眺めるリカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)にヴァイスは頷く。依頼はコボルドの殲滅だが、この場所の問題はそれだけではない。
「ま、ソレに関しちゃ依頼者側とお国の事情だから俺が口出すことじゃ無いからな。仕事に関しては確実にさせてもらう」
「今は開拓民の安全が第一、か……」
「ともあれ……今回は長丁場になるぜ。連中がいつ襲ってくるのかもわかんねェわけだからな」
 オフィスを通じ第一師団に要請した松明等の道具を担ぎ、妻崎 五郷(ka0559)が首を鳴らしながら声をかける。マファルダ・ベルルーティ(ka2311)は道具を受け取りつつ、村の様子を眺めた。
「いいじゃない。常に気を張って過ごすのは良い訓練になるし……それに、ここでの暮らしには興味もあるから」
 開拓者達は日々過酷な労働環境の中、コボルドや雄大な自然と戦う日々を送っている。マファルダはそんな彼らの生活に興味があった。
 こうしてハンター達は開拓村へ話を通し、コボルドの襲撃に備える事になった。



「今の所異常なし、と……」
 A班の三人は村の周囲を巡回し警戒していた。各班順番に巡回しているが、未だ異常は見受けられない。ノーマンが呟く背後でメリエは腕を組み、鉱山で働く人々を眺めていた。
「どうした、ぼーっとしてよ?」
「いえ、ちょっと懐かしくなりまして」
 首を傾げ、メリエと並んで鉱山を遠巻きに見やる五郷。メリエの足元にはドーベルマンがいて、視線のあった五郷は何となく通じ合うように見つめ合っていたが、やがてノーマンの呼ぶ声に応え、二人も気を取り直したように歩き始めた。

「ふわぁ~……暇っすねぇ」
 一方B班。退屈そうに見張りを続ける神楽の横でリカルドは慣れた手付きで何かを作っている。
「なにやってるんすか?」
「鳴子を作ってるんだよ。こいつがあれば俺達がいない時も警戒しやすくなるかもしれないしな」
「真面目っすねぇ」
「手作りだからな。効果の保障まではしないが」
 B班三人目のマファルダは小さな見張り台の上で周囲を警戒していた。主に襲撃が予想される山側を見ているが、今の所のどかなものだ。
 畑を耕す者、採掘した岩を運ぶ者……。労働量は見るからに過酷だが、それでも人々は汗まみれで笑顔を浮かべている。
「やはり襲撃があるとすれば夜……」
 季節的にまだ日は高いが、そろそろ夕方の時間だ。太陽が茜色に輝きそれが沈めば、恐らく敵がやってくるだろう。

「シュシュちゃん、ご一緒にいかがですか?」
 温めた牛乳とパンを手に声をかけたのはマリア。C班は休憩中で、シュシュは茜色に染まっていく空を見つめていた。
「食べていいのべ?」
 マリアからパンを半分貰ったシュシュ。二人は一緒に座って村を眺める。
「どうでしたか? 村の人から話を聞いてみて」
「……よくわかんなくなっただよ」
 マリアは休憩中、シュシュと共に村人から話を聞きに行っていた。
 確かに労働は過酷だ。だが望んでここにいる者が殆どだった。彼らは自分達の新たな故郷を作る為、毎日懸命に働いていたのだ。
「帝国は“わる”だ。だけんど、ここの人達は自分をかわいそうだと思ってなかった」
「私も帝国の人間ではないから……分からないのは一緒です。でも、自分の目で見て、聞いて、確かめた事はどうですか?」
 優しく語り掛けるマリア。シュシュは俯き、両手で持ったカップを傾ける。
「この世界にはまだ私の知らない事が沢山あります。それは皆が私を大切に育ててくれたお蔭で、決して間違いではありません。今でも大切な人達が傍にいてくれて、私を守ってくれる。こんなに素敵な事はありません」
 ゆっくりと立ち上がり、マリアは背後で手を組み微笑む。
「けれど自分で確かめなければわからない事もあります。自分に何が出来るのか……。広い世界、そこで過ごす毎日は、私をとても充実させてくれます。きっとそれは、知ろうと思わなければ知る事の出来なかった幸せだから」
「自分で感じた事、その中から“自分がどうしたいか”をハッキリさせる事が必要なんだと思う。……まあ、それが難しいんだけどな。でも、不可能じゃない。そうやって毎日を生きてる奴は、きっとこの世界に沢山いるんだ」
 いつの間にか背後に立っていたヴァイスが声をかける。シュシュは黙っていたが、その瞳が何かをずっと考えている事は物語っていた。



 日が暮れるとハンター達の行動は警戒へと大きく傾いた。そしてそれは間違った判断ではなかった。
「あれは……コボルドか?」
 松明を片手に闇の中に目を凝らすノーマン。山側から接近するコボルドの集団を発見し、見張り台の上から下にいる二人に声をかけた。
「敵襲だ! B班とC班に連絡を!」
 頷いてトランシーバーを取り出す五郷。メリエは連れて来たペットのケリーに指示を出し、遠吠えをさせた。
 村の中に犬の遠吠えが鳴り響く。村人たちはそれを合図に慌てて避難を開始した。
「皆さん、安全が確認されるまで家から決して出ないでください!」
 村人に声をかけるマリア。ヴァイスは山側の闇を凝視し、剣を担いで走り出す。
「近いのは……B班か。マリア、シュシュ、急ぐぞ!」
 マリアはシャインを発動。ロッドの先端に眩い光を宿すと二人の後を追った。
「コボルドがえーっと……八体? げっ、結構いるっすね……」
「望む所。仲間が合流するまで時間を稼ぐわ」
「異論なし。ま……戦闘開始と行くか」
 空に銃声を轟かせるリカルド。マファルダは敵を片手のライトで照らし出すと、剣を握り一気に前に飛び出した。
「こっちに来るなっす~!」
 銃撃で援護する神楽。マファルダは先頭のコボルドを斬りつけると直ぐに背後に跳び、襲い掛かるコボルドの牙をかわす。次々に飛びかかってくる敵だが、マファルダはすんでの所で全て回避に成功した。
「このくらいなら時間を稼ぐくらいは出来そうね」
 脚部に収束させたマテリアルが淡く光を放つ。爪や牙、こん棒をかわし、バック転で飛び退くと入れ替わりでリカルドが前に出てくる。
 勢いよく踏み込むと同時にコボルドの顎をトンファーで打ち抜くと、襲い掛かる敵の攻撃を受ける。が、素早く抑え込み頭に拳銃を押し当て引き金を引いた。
「截拳道の技術は亞人とやり合うときでも通用はするが、再考の余地ありか」
 敵が二人だけを襲うわけもなく、コボルドは神楽にも襲い掛かる。狙われた神楽はびくりと背筋を震わせたが、トンファーで反撃に出る。
「寄るなっす~!」
「俺とあんた、装備の選択が似てるな。どうせならもっと引き寄せて、こう相手の腕を絡めとり……」
「急にそんな事言われてもできないっすよ! 何の技なんすか!?」
「コックの技じゃない事だけは確かだな……」
 そうこうしている間にC班が到着。ヴァイスは銃を撃ちながら駆け寄ると仲間の無事を確認する。
「俺が前に出て敵を食い止める」
 ヴァイスは剣を手に敵陣に飛び込むと大きく刃を振るった。敵の攻撃がヴァイスに集中すると、リカルドとマファルダは攻撃に転じ、それぞれコボルドを撃破する。
「えっと、シャイン中は魔法を使うと光が消えてしまうから……私も、杖で!」
 両手で杖を握り締めコボルドに向かうマリア。杖を振るうが、コボルドにかわされてしまう。
「――マリア!」
 反撃の牙がマリアを襲うよりも早く、側面から飛び込んだノーマンの刃がコボルドを切り裂いた。ノーマンは胸の高さで逆手にナイフを構え、マリアの前に立ちはだかる。
「ノーマン……! ありがとうございます」
「マリアは後ろで敵を照らしていてくれれば大丈夫だよ。後は僕達がケリをつける」
「他に敵はいないようですね! なら、一気に片付けましょう!」
「陽動と撹乱なら任せてくれ。俺はあんま戦闘経験ねェから、これくらいしかできねェしな……」
 追いついたメリエと五郷がノーマンと並ぶ。五郷はヴァイスを襲う敵集団に飛び込み、メリエとノーマンはそれに追従する形で強力な一撃を放った。
「ふぃ~。これでもう勝ったも同然っすね!」
「どこ行くの? 最後まで気を抜かないで」
 こっそり後ろに下がろうとした神楽だがマファルダに見つかる。ともあれ神楽の予想通り戦いはハンター優勢で進み、間もなく幕を下ろすのであった。



「ヴァイスさん……何をしていたの?」
「ああ、ちょっとな。コボルドの墓を作っていたんだ」
 殲滅後、念の為朝まで警備を続ける事になった一行。手を土で汚して戻ってきたヴァイスにマファルダが問う。
「奴らは確かに人を襲ったが、元々ここらは奴らの生活圏だった筈。言わば人間の方が侵略者なんだ。それを咎めるつもりはないが……せめてこれくらいはと思ってな」
「ケケケ。哀れっすよね~。ある日突然住処に人間がやってきて追い返そうとしたら殺されちまうんすから。しかも近々巣も駆除されるじゃないっすか。いや~、女子供含め皆殺しなんて哀れっす!」
 頭の後ろで手を組み笑う神楽。シュシュは俯き、血に染まった手を見つめていた。
「ま、全部弱いこいつらが悪いっすね。弱いから住処を奪われ誇りを奪われ命を奪われる。弱さは罪っす!」
「……神楽、そのくらいにしておけ」
 ヴァイスの声につまらなそうに唇を尖らせる神楽。シュシュは渇いた血を握り締め、きつく目を瞑る。
「神楽の言う通りだ。シュシュのやってる事は……帝国と同じだ」
「俺の育ったところも、帝国のような事をしていてな。保護というのかは分からないが、自分たちの勢力圏にある村を保護する代わりに仕事をしてもらっていたのだが……やっぱり迷惑だったんだな。俺が言う事ではないが、済まない」
「それは、皆が望んだ事だったんか?」
「わからん。他人の気持ちを代弁するのは傲慢だしな。何をどう考えるのかはそいつの自由だ」
「しょうがないんすよ。弱者は強者に逆らえないっす。だから俺達弱者は強者に守って貰うために従うっす。それが嫌なら守りたい物を守れる強さを得るといいっすよ。ま、無理だと思うすっけど。それに面倒っす! 強者に従って守って貰いながら今回みたいな弱い者虐めした方が楽で賢いっすよ~?」
 再び喋り出した神楽だが、五郷の咳払いでびくりと背筋を震わせた。顔がおっかないので少し距離を取ろう。
「わたしはこの村を“理想のある村”だと思います」
 声をかけたのはメリエだ。懐かしそうに村を眺め、穏やかに微笑む。
「わたし、炭鉱夫の娘なんです。パパは、何時も汚れて、ヘトヘトで帰ってきてたけど、とても明るくてよく笑ってたの憶えてます。お父さんともよく飲んでて……あ、お父さんはドワーフで、わたしを育ててくれた人。パパは、ずっと昔に事故で……」
 少し寂しげに語った後、慌てて手を振り。
「……パパ、何時も言ってた。“自分達が掘った鉱石が、帝国の道を作る”って。だからわたしは、その道を守りたいって思った。陛下が道を示し、パパの石が道を作る。それをわたしが守る……それがわたしの夢」
 笑みを作り、改めてメリエはシュシュと向き合う。
「シュシュさんの夢や理想って何ですか?」
「シュシュの夢は……家族を守る事。また皆で一緒に暮らす事……」
「難しい事は僕にはわからないけど、目の前に守るモノがあれば守る。それが正しいのかどうか考えるのは守りきってからでも良いかもよ」
 マリアに目くばせし語るノーマン。五郷はシュシュの頭に手を乗せ。
「……視野を狭めるなって事だよ、今自分に見えるもの総てが、世界の総てじゃねェって事だ……。わかんねえ、わかんねえって言って耳塞いで、手前が自分から世界を閉ざしてどーすンだ。今回だけでも新しい発見、山ほどあったんじゃねェのか?」
 シュシュの前に並んだハンター達、それぞれの過去、考え。それらは確かにシュシュの視野を広げてくれた。
「……世界を閉ざすな、色々なものに触れて見ろ……怖がらず、恐れず、ってな」
 わしわしとシュシュの頭を撫でる五郷。少女は俯き、それから不器用に笑って見せた。
「さて、飯でも作るか。こう見えてもコックだからな……リクエストは?」
 リカルドの声に頷く一行。ほんの少しの苦味を伴い、少女は歩き出す。まだ見ぬ世界の先を行く、ハンター達の背中を見つめながら。

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MVP一覧

  • 《思いやる》心の聖女
    マリア・ベルンシュタインka0482
  • 強者
    メリエ・フリョーシカka1991
  • 大悪党
    神楽ka2032

重体一覧

参加者一覧

  • まめしの伝道者
    ノーマン・コモンズ(ka0251
    人間(紅)|24才|男性|疾影士
  • ……オマエはダレだ?
    リカルド=フェアバーン(ka0356
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 《思いやる》心の聖女
    マリア・ベルンシュタイン(ka0482
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • 蒼狼奮迅
    妻崎 五郷(ka0559
    人間(蒼)|36才|男性|霊闘士
  • 強者
    メリエ・フリョーシカ(ka1991
    人間(紅)|17才|女性|闘狩人
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士

  • マファルダ・ベルルーティ(ka2311
    人間(紅)|20才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2014/08/07 11:03:47
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/08/05 20:02:49