ゲスト
(ka0000)
王国西方 ─防人たちと棘の歪虚─
マスター:柏木雄馬
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/02 12:00
- 完成日
- 2015/12/28 18:50
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国西部・リベルタース地方──
かつて王国第二の穀倉地帯であったこの地は、ホロウレイドの戦いにおいて王国軍が敗れて以降、歪虚どもの徘徊する危険極まりない土地と化していた。
上陸してきた歪虚の軍勢は先王アレクシウス・グラハムらの奮戦によりイスルダ島へと退けられ、失陥こそ免れたものの…… その代償として王国は王と数多の熟練騎士を失い、戦場となった広大な地域が負のマテリアルに汚染された。
黄金色に輝いていた小麦の原はかつての実りを失い、多くの村落が歪虚軍が残していった──或いは、新たにこの地で発生し始めた雑魔によって蹂躪された。
のどかな田園風景は、荒涼とした廃村へと変わった。多くの人々が故郷を失い、難民として各所に散っていった。
広大な領域が、何の生産性もない『空白』と成り果てた。だが、かの地における王国の戦いは、それで終わったわけではない。
それ以上の歪虚の──負のマテリアルの『侵食』を防ぐ為、王国はハルトフォート砦を拠点とし、積極的に雑魔の掃討に当たった。
駐屯する戦力は、騎士団以外に常備軍を持たぬ王国では珍しい特別編成。主戦力は王国西部の諸侯から派遣された貴族配下の私兵たちで、そこに王都より派遣された騎士や現地で雇われた傭兵団、自由参加のハンターたちらが加わり、『砦内町』(『城下町』ではなく、文字通り砦の中にある兵隊と出入りの商人たちの『商店街』)には王国では珍しい混然とした空気が漂う。
彼らの任務は多岐に亘った。
街道の安全を確保するべく定期的に哨戒し。いや、それだけでは飽き足らず、自ら無人の野を索敵しては見敵と同時に撃滅し。未だ故郷を捨てられぬ人々が残る町や村々を巡察し、時には支援物資を届けつつ。いつか再び来るであろう歪虚軍の襲来に備えて砦の守りを固め、戦力の拡充と質的向上を希求する……
その中で、兵たちに『最も過酷』と言わしめる任務の一つに『海岸野営地勤務』があった。砂浜に立てた監視塔や崖の上の哨所に詰めて、海と、そして、イスルダ島を観察。歪虚軍の大規模侵攻を警戒し、いざその兆候を察知した際にはいち早く砦へ警報をもたらす、という極めて重要な役割を担っている。
文字通りの最前線── 雑魔のうろつく危険な地域に突出しているというだけでなく、イスルダ島からは時折、思い出したかのように、海を渡って来た歪虚が単体、或いは少数で上陸してくる事もある。
だが、兵の最も『過酷』と言わしめる最大の原因は── 緊張を強いられる割に、それがひどく『退屈』であるという点であった。
●
「班長~! 組長~? 分隊長殿~? 海から何かが揚がって来ます~」
砂浜に設けられた監視塔の上から、部下の女兵士の間延びした声で発した警報に呼ばれて、班長だか分隊長だか…… ともかく、その場の指揮を任されたベテランの中年兵士は、部下の緊張感の無さに眉間を指で揉みながら頭を振りつつ、急ぎ監視塔の梯子を上った。
「どこだ。何が揚がって来た?」
「あっちですぅ~」
海の方を指差すばかりで要領を得ない女兵士の報告に、班長は「報告は明確に行わんか!」と怒鳴りかけたが、すぐに時間の無駄だと諦念した。自分で見たほうが早い──という話ではなく。どうせ泣かれた挙句に彼女は何も変わらない、という、ここ数日一緒に任務に当たって思い知った、そういった意味での諦念である。
班長は舌打ち一つで罵声を飲み込むと、女兵士の指差す先に望遠鏡を向けた。──同盟製の舶来品である。最前線であるハルトフォート砦には、比較的優先的に最新の装備が融通されるのだ。
望遠鏡を捻ってピントを合わし…… 上陸してくる『ソレ』を視界に収める。
そこには何か金属の様にキラキラ輝く、球状の『何か』がいた。……いや、よく見れば隙間の方が多い。あれは棘か何かの集合体か?
「何だ、あの毬栗(イガグリ)みたいな奴は。いや、海だから海栗(ウニ)と言った方が相応しいのか?」
「リアルブルーの人に見せてもらった毬藻(マリモ)っていうのにも見えますね~」
可愛いですね~、とほんわか微笑む女兵士の頭を遂に我慢できずに叩いて、班長は監視塔に備え付けられた半鐘を三度鳴らした。地上から見上げ、注目する他の部下たちに歪虚の上陸を報せ、命を発する。
「野営地に通報。狼煙を上げろ。ハンターたちの派遣を要請するんだ。班員は全員集合。増援が到着するまでに一当たりし、出来得る限り奴の情報を集めとくぞ。やれる様なら俺たちで片をつける!」
「え~、倒しちゃうんですか~?」
あんなに可愛いのに~、と不満そうに文句を垂れながら、だが、誰よりも早く戦う準備を整え終える女兵士。トロそうな外見とは裏腹に素早く監視塔の梯子を滑り降り、片手半の長剣と大型盾を手に、まだか、まだか、とワクワクしながら敵を待つ。
水際を越えて現れたのは、まさに『水銀製のウニ』といった外観をした中型雑魔だった。まるで水中にいるかの如くふわふわと浮きながら、まるで水底を歩く様に、下側の棘をうねうね動かし砂浜の上をゆっくり『歩いて』いる。
「仕掛けるぞ」
班長が命令を発し、班で唯一の銃手が『ウニ』に向けて魔導銃を撃ち放った。初弾は外れて砂浜に着弾し…… 敵性勢力の存在を知った『ウニ』が身体をより鋭角化させ、体色を白銀から黒銀──ブラックメタルへと変える。
銃手が放った2発目、3発目は見事、目標に命中し── だが、甲高い金属音と共に棘の内部を幾重にも跳弾し。空気を切り裂く音と共に、周囲へランダムに跳ね返した。
直後、ウネウネと動いた棘の1本が銃手を指向し、ボッ! と言う音と共に打ち出された。とっさに庇った女兵士の盾を容易く半ばまで貫き、止まる棘。それを目の当たりにした女兵士が「おぉ~!?」と歓声(悲鳴ではない)を上げる。
「銃手の人数的に撃ち合いは不利だ。包囲してタコ殴りにするぞ!」
「班長~!」
「なんだ!?」
「全周に棘を撒かれる嫌な予感しかしません~!」
「……俺もだ」
それでも情報は得る必要がある。盾をかざして敵を取り囲む兵士たち。正面は女兵士が担当した。先陣を切り、雷の如く肉薄して斬撃を繰り出すも、その衝撃の多くは後ろに跳ね跳ぶ事で逃がされてしまった。
「感触が軽い~! まるで風船を殴っているみたいに衝撃が伝わらない~!」
半泣きで告げる女兵士に、真裏側の棘を数本、引っ込めた『ウニ』が、直後、数本分の棘を纏めて槍の如く突き出してくる……
数十秒後── 予想通り、兵たちの盾を棘だらけにされた班長は、自分たちだけの討伐を諦め、部下たちに距離を取らせた。
「だめだこりゃ。お前ら、とっととズラかるぞ。後はハンターたちに任せろ」
「ええ~! 私はまだ遊べますよぉ~」
「(ギロリ)」
「……いえ、何でもないですぅ」
かつて王国第二の穀倉地帯であったこの地は、ホロウレイドの戦いにおいて王国軍が敗れて以降、歪虚どもの徘徊する危険極まりない土地と化していた。
上陸してきた歪虚の軍勢は先王アレクシウス・グラハムらの奮戦によりイスルダ島へと退けられ、失陥こそ免れたものの…… その代償として王国は王と数多の熟練騎士を失い、戦場となった広大な地域が負のマテリアルに汚染された。
黄金色に輝いていた小麦の原はかつての実りを失い、多くの村落が歪虚軍が残していった──或いは、新たにこの地で発生し始めた雑魔によって蹂躪された。
のどかな田園風景は、荒涼とした廃村へと変わった。多くの人々が故郷を失い、難民として各所に散っていった。
広大な領域が、何の生産性もない『空白』と成り果てた。だが、かの地における王国の戦いは、それで終わったわけではない。
それ以上の歪虚の──負のマテリアルの『侵食』を防ぐ為、王国はハルトフォート砦を拠点とし、積極的に雑魔の掃討に当たった。
駐屯する戦力は、騎士団以外に常備軍を持たぬ王国では珍しい特別編成。主戦力は王国西部の諸侯から派遣された貴族配下の私兵たちで、そこに王都より派遣された騎士や現地で雇われた傭兵団、自由参加のハンターたちらが加わり、『砦内町』(『城下町』ではなく、文字通り砦の中にある兵隊と出入りの商人たちの『商店街』)には王国では珍しい混然とした空気が漂う。
彼らの任務は多岐に亘った。
街道の安全を確保するべく定期的に哨戒し。いや、それだけでは飽き足らず、自ら無人の野を索敵しては見敵と同時に撃滅し。未だ故郷を捨てられぬ人々が残る町や村々を巡察し、時には支援物資を届けつつ。いつか再び来るであろう歪虚軍の襲来に備えて砦の守りを固め、戦力の拡充と質的向上を希求する……
その中で、兵たちに『最も過酷』と言わしめる任務の一つに『海岸野営地勤務』があった。砂浜に立てた監視塔や崖の上の哨所に詰めて、海と、そして、イスルダ島を観察。歪虚軍の大規模侵攻を警戒し、いざその兆候を察知した際にはいち早く砦へ警報をもたらす、という極めて重要な役割を担っている。
文字通りの最前線── 雑魔のうろつく危険な地域に突出しているというだけでなく、イスルダ島からは時折、思い出したかのように、海を渡って来た歪虚が単体、或いは少数で上陸してくる事もある。
だが、兵の最も『過酷』と言わしめる最大の原因は── 緊張を強いられる割に、それがひどく『退屈』であるという点であった。
●
「班長~! 組長~? 分隊長殿~? 海から何かが揚がって来ます~」
砂浜に設けられた監視塔の上から、部下の女兵士の間延びした声で発した警報に呼ばれて、班長だか分隊長だか…… ともかく、その場の指揮を任されたベテランの中年兵士は、部下の緊張感の無さに眉間を指で揉みながら頭を振りつつ、急ぎ監視塔の梯子を上った。
「どこだ。何が揚がって来た?」
「あっちですぅ~」
海の方を指差すばかりで要領を得ない女兵士の報告に、班長は「報告は明確に行わんか!」と怒鳴りかけたが、すぐに時間の無駄だと諦念した。自分で見たほうが早い──という話ではなく。どうせ泣かれた挙句に彼女は何も変わらない、という、ここ数日一緒に任務に当たって思い知った、そういった意味での諦念である。
班長は舌打ち一つで罵声を飲み込むと、女兵士の指差す先に望遠鏡を向けた。──同盟製の舶来品である。最前線であるハルトフォート砦には、比較的優先的に最新の装備が融通されるのだ。
望遠鏡を捻ってピントを合わし…… 上陸してくる『ソレ』を視界に収める。
そこには何か金属の様にキラキラ輝く、球状の『何か』がいた。……いや、よく見れば隙間の方が多い。あれは棘か何かの集合体か?
「何だ、あの毬栗(イガグリ)みたいな奴は。いや、海だから海栗(ウニ)と言った方が相応しいのか?」
「リアルブルーの人に見せてもらった毬藻(マリモ)っていうのにも見えますね~」
可愛いですね~、とほんわか微笑む女兵士の頭を遂に我慢できずに叩いて、班長は監視塔に備え付けられた半鐘を三度鳴らした。地上から見上げ、注目する他の部下たちに歪虚の上陸を報せ、命を発する。
「野営地に通報。狼煙を上げろ。ハンターたちの派遣を要請するんだ。班員は全員集合。増援が到着するまでに一当たりし、出来得る限り奴の情報を集めとくぞ。やれる様なら俺たちで片をつける!」
「え~、倒しちゃうんですか~?」
あんなに可愛いのに~、と不満そうに文句を垂れながら、だが、誰よりも早く戦う準備を整え終える女兵士。トロそうな外見とは裏腹に素早く監視塔の梯子を滑り降り、片手半の長剣と大型盾を手に、まだか、まだか、とワクワクしながら敵を待つ。
水際を越えて現れたのは、まさに『水銀製のウニ』といった外観をした中型雑魔だった。まるで水中にいるかの如くふわふわと浮きながら、まるで水底を歩く様に、下側の棘をうねうね動かし砂浜の上をゆっくり『歩いて』いる。
「仕掛けるぞ」
班長が命令を発し、班で唯一の銃手が『ウニ』に向けて魔導銃を撃ち放った。初弾は外れて砂浜に着弾し…… 敵性勢力の存在を知った『ウニ』が身体をより鋭角化させ、体色を白銀から黒銀──ブラックメタルへと変える。
銃手が放った2発目、3発目は見事、目標に命中し── だが、甲高い金属音と共に棘の内部を幾重にも跳弾し。空気を切り裂く音と共に、周囲へランダムに跳ね返した。
直後、ウネウネと動いた棘の1本が銃手を指向し、ボッ! と言う音と共に打ち出された。とっさに庇った女兵士の盾を容易く半ばまで貫き、止まる棘。それを目の当たりにした女兵士が「おぉ~!?」と歓声(悲鳴ではない)を上げる。
「銃手の人数的に撃ち合いは不利だ。包囲してタコ殴りにするぞ!」
「班長~!」
「なんだ!?」
「全周に棘を撒かれる嫌な予感しかしません~!」
「……俺もだ」
それでも情報は得る必要がある。盾をかざして敵を取り囲む兵士たち。正面は女兵士が担当した。先陣を切り、雷の如く肉薄して斬撃を繰り出すも、その衝撃の多くは後ろに跳ね跳ぶ事で逃がされてしまった。
「感触が軽い~! まるで風船を殴っているみたいに衝撃が伝わらない~!」
半泣きで告げる女兵士に、真裏側の棘を数本、引っ込めた『ウニ』が、直後、数本分の棘を纏めて槍の如く突き出してくる……
数十秒後── 予想通り、兵たちの盾を棘だらけにされた班長は、自分たちだけの討伐を諦め、部下たちに距離を取らせた。
「だめだこりゃ。お前ら、とっととズラかるぞ。後はハンターたちに任せろ」
「ええ~! 私はまだ遊べますよぉ~」
「(ギロリ)」
「……いえ、何でもないですぅ」
リプレイ本文
●事前準備
龍崎・カズマ(ka0178)とサクラ・エルフリード(ka2598)は先行して廃村に来ていた。
目的は廃村の状況、地形の確認。できれば全員で実地を把握したかったが、悠長にしていれば敵が野営地に向かいかねない。
「雲丹なのか毬藻なのか何なのか判りませんが、聞くところによれば厄介そうな相手ですね……」
「そいつを厄介でなくするのが上手いやり方だ。ここなら砂浜で高所から棘を射出されるよりマシだろう。――その為にも」
言葉を区切るや、カズマが光鞭を振るう。同時、物陰から飛び出してきた野良犬が悲鳴を上げ霧散した。
犬型雑魔。廃村を寝床にしていたようだ。続いて背後から溢れる殺気。振り向き様に払われたサクラの霊槍が犬の胴を捉えた。
「お前らに恨みはないが……生きているのか死んでいるのか解らん状態で存在し続けるのも辛いだろうからな」
「私は残りがいないか見回った後、入口近辺に潜みます」
サクラが半壊した家屋に入る。カズマは生返事をし、嘆息した。
「野良犬、か」
カズマは廃村を歩き回り、瓦礫倒壊により袋小路となった場所を二つ見つける。
ここに追い込めれば楽だが……。
敵を誘引してくる六人の為、カズマは標識でも描いてみるかと思案した。
「何かすっごく刺々しいんだけど? ジャンプで踏んづけられそうにないんだけど?」
双眼鏡で観察しながら超級まりお(ka0824)はぐぬぬと漏らす。青いオーバーオールに赤いシャツと帽子の某有名人リスペクトが非常に板についている。
敵は砂浜を歩いたり(?)、時折止まって棘を回したり(?)している。
女兵士が我が子を褒められたように笑い、
「可愛いですよねぇ~」
「……言われてみれば」
と同意しかけたのは時音 ざくろ(ka1250)。えっ、なんて思わず反応したシレークス(ka0752)の声で我に返り、ざくろは頭を振る。
「これ以上兵士さんの盾が棘だらけにならないよう、ざくろ達がやっつける!」
「でも~、これはこれで好きですよ~。茹でたブロッコリーみたいで~」
「……確かに……いやいや!?」
兵士の盾を見て早速釣られそうなざくろである。黒耀 (ka5677)が尤もらしく頷き、
「栗に卵ときて今度は雲丹とブロッコリー、ですか。いやはや西方は食べ物で溢れているのですかね?」
真面目じゃない事をのたまった。続いて眉目秀麗な顔を険しくし、レイ・T・ベッドフォード(ka2398)。
「アレが本物でしたら当家の食卓にぜひ持ち帰りたいものですが……」
「……割って焼いたら食べられないでしょぉか、アレ」
じゅるりと声に出すのは星野 ハナ(ka5852)。シレークスが嘆息して冷静にツッこむ。
「歪虚か雑魔か知らねぇですが、どう考えてもアレは『なりたて』じゃねぇですよ。塵一つ残さず消え失せやがります」
約三名が露骨に肩を落した。
「…………、とは限らない、可能性もなくはない……ような……」
雰囲気に耐え切れずに言うと、約三名がぱぁっと輝いた。シレークスが自らの気持ちに打ち勝つべく、声を張り上げる。
「き、気張っていきやがりますよ!」
●誘引
「福ちゃん、昼間で申し訳ないけど向こうで見ててくださいぃ。棘のタイミングとか見えたら教えてくださいねぇ」
廃村方面へ飛び立つ梟を見送り、ハナは呪符を指に挟む。隣の黒耀も札を確認し、敵をじっと見据えている。
まずは敵を戦いやすい廃村へ誘き出す。ハナ、黒耀、ざくろ。三人でローテして敵を引けば楽になるだろう。
「じゃあい……」
「やーい、こっちこっち! ふぁいあー!」
まりおの投石が敵に当たった。
……。
…………。
どがががが! と強烈な音がしたと思うや、何かが敵から飛び出してくる。唸りを生じて飛来したそれがまりおの耳元を一瞬で通過し、一行は呆然とその後を目で追った。
既にそれ――おそらく石は見えなかった。
「……、うわぁぉ」
「何しやがりますかっ!?」
「いえ、実際に観られたのは重畳です。これなら……」
全身を鎧と盾で固めたレイが言う。
改めて敵攻撃のイメージを固め、黒耀とハナが符に力を注いでいく。
「射程ギリギリは……よし……いっけぇっ、胡蝶符!」
「カードドロー! コンボアクション、マジックカード火炎符発動! ――これが! 私の! バーンデッキだ!」
「お前の相手はざくろ達だ!」
そして、三者の光と炎が、極大の奔流となって敵を灼いた。
『――■■!?』
どこから発声しているのか、苦悶の声を漏らし明確に『こちらを向く』敵。顔すらない敵がこちらを認識したと解る、その感覚にゾッとする。
騎乗したシレークスが鎖付星球をぶん回しながら回り込むや、敵背後から全力で星球をぶつけた。が、敵は風船の如く弾かれ、廃村側へ跳んでいく。シレークスは舌打ちして後を追う。
「厳つい外見のくせにふよふよと……外見相応でありやがれ!」
――!? これは……声が聴こえる……?
何やら不思議な気配を受信したサクラが物陰に隠れたままその声に応えてみた。
「それを貴女が言いますか……」
――!? これは……声が聴こえやがるのです……?
「うるせぇですサクラ!」
八つ当たりのようなシレークスの打撃が敵をさらに廃村側へ追いやり、そこに光が、炎が浴びせられる。
ざくろ、黒耀、ハナの誰かが必ず敵を撃ち、残る二人が装填と移動を済ませる。綺麗に誘引していく六人だが、直後、棘が赤熱した。
「きます! 私を壁に使ってくださいませ! さぁ! お早く! 全力で!!」
レイの警告と同時に放たれる棘、棘、棘。盾と鎧に次々突き刺さり、レイは体勢を崩――さない。微動だにせず防ぎきるレイ。その強靭な肉体はナニによって鍛えられたのか地味に気になるハナだが、訊く暇はない。
「なかなか鋭利な棘ですが……姉上達のそれと比べるとまだまだ耐えられますね」
「あ、姉上!?」
「ええ。あれは何というか、心が深く抉れるのです……」
何か妖しい答えを言われたが、それもスルーだ。棘が止んだ隙に肉壁から出て符を放つハナ。蝶弾が敵を貫く。敵が前方へ棘を集める。咄嗟に黒耀が符を抜き放つ。
「リバースカードオープン! トラップカード桜幕符発動! 夢幻の花びらに酔いしれるがいい!」
舞い散る符。桜花の幻影。直後、棘の雨が降り注ぐ。ボッと鈍い音を立て砂浜に突き刺さるが、続けて飛来した棘がレイと黒耀を貫いた。黒耀が顔を顰めて退く。敵が一気に跳ぶ。
その棘先を掠める一筋の光。続けて二本の光条が敵を捉えた。ざくろがやや離れて腕を突き出している。棘の予備動作もない単発射出。身を捻るが躱しきれない。横腹が痛む。が、稼いだ時間は無駄ではない。
騎乗したまま敵側背を動き回っていたシレークスが再び敵を打ち据えた。
「いつまでも受け流せると思うんじゃねぇですよ!」
駆ける。駆ける。駆ける。
地面はいつの間にか砂から砂利道に変っており、前には廃村が大きく見えている。ハナが駆け込んでいくのを見、シレークスは微笑んだ。
「この世に砕けねぇ物なんてありやがりません……今度はこっちの番ですよ!」
●廃村の攻防
廃村入口、正面の半壊した家の壁には地図が描かれていた。
廃屋や塀の位置と、×印二つ。それはカズマのメッセージだ。
ハナ、黒耀、ざくろと現時点で最も敵の憎悪を集める三人が真っ先に物陰へ飛び込み、シレークス、まりお、レイが正面に残る。
敵の殺気が膨れ上がった。それでも地図を読み取る三人。軋むような敵の音。三人が散開するや、棘が大気を燃やすように伸びてきた。半壊していた家が一瞬で倒壊し、盛大に音と粉塵を上げる。
「Bだーっしゅ! 雲丹は丁度丸裸だけどもここは仕切り直すよ!」
こいんこいんと跳ねてまりおが塀の裏へ飛び込むと、後には白煙と敵のみが残された。雲丹は何やら所在なさげに浮遊している。
その隙に、一行は秘かに物陰を利用し包囲していく……。
「ん、相手が相手ですし少しでもマシになるようプロテクションをかけておきます……」
サクラは一旦合流したシレークスに加護をかける。彼女は両手を組んでエクラに感謝し、サクラと目を合せた。シレークスは既に下馬しており、その背の鎖付星球が何とも凶悪に見える。
二人は頷き、再び分かれていく。
プランAで。多分そんな感じだ。サクラがそっと霊槍を構え、敵を挟んでシレークスと逆位置へ移動する。
そして――。
いつだったか、体術極めたじーさんも似たような事してやがったな……。
カズマは事前に集めておいた木片を握り、崩れかけの塀を伝って敵正面へ移動する。
思い出すのは敵の防御手段。自ら跳んで損傷を軽減する。高等技術だが、それとて万能ではない。軽減させない状況に持ち込めばいいだけだ。自分一人なら骨の折れる仕事だが、今は味方がいる。
だからこそ自分は、敵を崩す為の第一手を、やる。
カズマは敵を見据えた。敵は棘の装填を済ませ、フラフラ廃村内部へ入り込んできている。
通信機でもあれば味方と完全に合せられたが、まあいい。これが初手で、後は味方が合せてくれる。内心でカウントしていく。
そして――。
「来いよ雲丹野郎、ご自慢の棘でも見せてみろ!」
響く怒声。宙を飛ぶ木片。カズマが立ち上がりながら投擲したそれが敵至近に迫り、反応した棘に貫かれる。だが割れない。腐食しかけた木片がそのまま棘に食らいつく。
「いけ!」
「飛んで火に入る冬の雲丹、ってね!」
廃屋窓枠から飛び出し黒耀が腕を振るうや燃え上がる敵。敵が引き寄せられるように黒耀の方へ踏み出した(?)瞬間、さらなる炎が渦を巻く。ハナの一撃。敵がよろめいた。敵背後から飛び出すのはざくろとまりお。光が廃村を突き抜ける。瞬後、肉薄したまりおの刺突が敵を貫くが、やはり敵は跳んで逃げる。
が、それは想定の範囲内。敵が着地した地点へ、左右から走り込む二人。右にサクラ、左にシレークス。二つの攻撃が微塵も狂う事なく同時に敵へ吸い込まれ、敵は直上へ跳び――上がれなかった。
ぐじゃあ、と柔らかい音が響き、敵が前へ転がる。
「ったく乙女の柔肌穴だらけにしてくれやがって! 万倍返すのですよ!」
「チンピラっぽい物言いがまた輝いていますね……!」
シレークスの快哉の声とサクラの謎の感想。続けてまりおとレイが接近しかけ――敵の変化に気付いた。
「ぃやっふー! 遮蔽物に一直線だよ!」
「射出、きます!」
それは、敵が膨れ上がるような感覚だった。
肥大化したかと思うや、次の瞬間に棘があらゆる場所へ突き刺さっている。
至近にいたシレークスとサクラが。丁度移動していた黒耀とハナが。まともにそれを浴びる。
――が。
あるいはそれは、本来ハナにとって致命傷となり得たかもしれない。しかしハナは未だ五体満足だった。それは瑞鳥符のおかげでもあり、僅かに鈍った棘のおかげでもある。そして棘が鈍ったのは、木片のおかげだ。
流れを断たれかけた一行はしかし、隙間を縫うように再度放たれた木片によって繋がり続ける。
「追い込め!」
棘を再装填する敵。後退したシレークスとサクラが一足飛びに突撃する。
「サクラ、やりますですよ! せ~~のぉっ!!」
「これはそうそう回避できないでしょう……!?」
二度目の同時攻撃。敵の体躯が歪み、真上へ弾けた。棘射出。目標は黒耀。盾を構えたざくろが射線に割って入る。隣、ハナを庇い前進するレイ。敵が頭上30mで滞空し棘を射出射出射出。レイに、シレークスとサクラに降り注ぐ黒の嵐。三人が後退、敵はその隙に距離を取らんとし――、
まりおとカズマがそれを許さなかった。
「軽いのは厄介だね~。だけど必ずしもそれが長所とは――限らないよね」
「こいつを封じる。それが俺の――役目だ」
まりおのショットアンカー。カズマの光鞭。
左右から敵へ伸びるそれら。錨が棘のない所に突き刺さり、鞭が棘に巻き付いていく。さらには敵を貫き天へ抜けるデルタレイ。ざくろが敵の下へ入り込んでいる。敵は拘束に抵抗するが、膂力に任せたカズマとまりおが強引に地に引き倒した。
「袋小路に追い詰めるまでもない……!」
「状況はメイクした! 今のうちにやっちゃって!!」
落とされて尚拘束される敵へ肉薄するシレークス、レイ、サクラ。黒耀が符をドロー、最後の火炎符を放つや、ハナが焔を合せて業火と成す。
「フフフフフ、私はカードを選ばない符術師ですからぁ、雲丹如きにそうそう負けませんよぉ!」
「一気に畳み掛ける!」
「レイさん!」「承知しております」
業火が渦を巻き消えてゆく。
敵はもはや虫の息だ。が、それでも棘を蠢かせる。
『――――■■!!』
裂帛の気合(?)と共に放たれる全周放射。その射線を跳んで躱したのは、
「私は最後の最後まで諦めません。此処で諦めたら何の為の斧かと存じます……!!」
食材への執念を燃やし続けるレイだ。跳びながら大上段に構えた雷神斧を、重力のまま真下へ一気に振り下す!
雷光の如き閃光。雷鳴の如き轟音。
斧と地面に挟まれ衝撃を逃がせなかった敵は動きを止め、軋みを上げる。そしてレイが斧を引くと、敵は真っ二つに裂け、その輝けるぷりぷりの身が――!
「やっ……!?」
霧散、して、いった。
後には何もない。ただ磯の香りだけが漂っている……。
●夢の跡
「シレークスさんは相変らず無茶をしますね……」
野営地へ戻る道すがら、サクラがシレークスの腕を取って抱き寄せヒールを施す。暖かい光に包まれ、外見だけはシスター然としたシレークスは決まり悪げにそっぽを向いた。
「今回はサクラも同じようなもんでありやがりますよ」
間近から棘を受けた二人が顔を見合せ苦笑する。
「海、できれば泳げる時に来たかった気もしますけど……」
夏でも傷に沁みて痛いだけじゃねぇですかね。
シレークスは内心でツッこんだ。
砂浜ではレイとハナが体育座りで黄昏れていた。
「雲丹パーティ……できませんでしたねぇ……」
「姉上、やはりダメでした……高級食材……無念です……」
目の前に確かに存在していたのだ。それが、夢のように消えた。こんな空虚になるなら初めから夢など見なければよかった。
そんな二人の後ろに、まりお。
「あの雲丹が一匹だけとはボクには思えないんだよね」
もし砂浜一面にあの雲丹が押し寄せて来たら。
一撃で致命傷を与えづらいだけに面倒だと、そんな意味で言ったまりおの言葉はしかし、
「本当ですか……!?」
「パーティ!」
レイとハナには希望に聞こえたらしい。
まりおは一瞬渋い表情になりかけ、それはそれでいいかと思い直した。
「2mはあったしね~。一匹でも残ったら食べ放題だよね」
「パーティですぅ!」「ええ、ええ……!!」
見果てぬ夢を追いかけ三人は盛り上がる。
雲丹は死して尚ハンターの心に残る。
これこそがあの敵の目的であった……のかも、しれない。
(代筆:京乃ゆらさ)
龍崎・カズマ(ka0178)とサクラ・エルフリード(ka2598)は先行して廃村に来ていた。
目的は廃村の状況、地形の確認。できれば全員で実地を把握したかったが、悠長にしていれば敵が野営地に向かいかねない。
「雲丹なのか毬藻なのか何なのか判りませんが、聞くところによれば厄介そうな相手ですね……」
「そいつを厄介でなくするのが上手いやり方だ。ここなら砂浜で高所から棘を射出されるよりマシだろう。――その為にも」
言葉を区切るや、カズマが光鞭を振るう。同時、物陰から飛び出してきた野良犬が悲鳴を上げ霧散した。
犬型雑魔。廃村を寝床にしていたようだ。続いて背後から溢れる殺気。振り向き様に払われたサクラの霊槍が犬の胴を捉えた。
「お前らに恨みはないが……生きているのか死んでいるのか解らん状態で存在し続けるのも辛いだろうからな」
「私は残りがいないか見回った後、入口近辺に潜みます」
サクラが半壊した家屋に入る。カズマは生返事をし、嘆息した。
「野良犬、か」
カズマは廃村を歩き回り、瓦礫倒壊により袋小路となった場所を二つ見つける。
ここに追い込めれば楽だが……。
敵を誘引してくる六人の為、カズマは標識でも描いてみるかと思案した。
「何かすっごく刺々しいんだけど? ジャンプで踏んづけられそうにないんだけど?」
双眼鏡で観察しながら超級まりお(ka0824)はぐぬぬと漏らす。青いオーバーオールに赤いシャツと帽子の某有名人リスペクトが非常に板についている。
敵は砂浜を歩いたり(?)、時折止まって棘を回したり(?)している。
女兵士が我が子を褒められたように笑い、
「可愛いですよねぇ~」
「……言われてみれば」
と同意しかけたのは時音 ざくろ(ka1250)。えっ、なんて思わず反応したシレークス(ka0752)の声で我に返り、ざくろは頭を振る。
「これ以上兵士さんの盾が棘だらけにならないよう、ざくろ達がやっつける!」
「でも~、これはこれで好きですよ~。茹でたブロッコリーみたいで~」
「……確かに……いやいや!?」
兵士の盾を見て早速釣られそうなざくろである。黒耀 (ka5677)が尤もらしく頷き、
「栗に卵ときて今度は雲丹とブロッコリー、ですか。いやはや西方は食べ物で溢れているのですかね?」
真面目じゃない事をのたまった。続いて眉目秀麗な顔を険しくし、レイ・T・ベッドフォード(ka2398)。
「アレが本物でしたら当家の食卓にぜひ持ち帰りたいものですが……」
「……割って焼いたら食べられないでしょぉか、アレ」
じゅるりと声に出すのは星野 ハナ(ka5852)。シレークスが嘆息して冷静にツッこむ。
「歪虚か雑魔か知らねぇですが、どう考えてもアレは『なりたて』じゃねぇですよ。塵一つ残さず消え失せやがります」
約三名が露骨に肩を落した。
「…………、とは限らない、可能性もなくはない……ような……」
雰囲気に耐え切れずに言うと、約三名がぱぁっと輝いた。シレークスが自らの気持ちに打ち勝つべく、声を張り上げる。
「き、気張っていきやがりますよ!」
●誘引
「福ちゃん、昼間で申し訳ないけど向こうで見ててくださいぃ。棘のタイミングとか見えたら教えてくださいねぇ」
廃村方面へ飛び立つ梟を見送り、ハナは呪符を指に挟む。隣の黒耀も札を確認し、敵をじっと見据えている。
まずは敵を戦いやすい廃村へ誘き出す。ハナ、黒耀、ざくろ。三人でローテして敵を引けば楽になるだろう。
「じゃあい……」
「やーい、こっちこっち! ふぁいあー!」
まりおの投石が敵に当たった。
……。
…………。
どがががが! と強烈な音がしたと思うや、何かが敵から飛び出してくる。唸りを生じて飛来したそれがまりおの耳元を一瞬で通過し、一行は呆然とその後を目で追った。
既にそれ――おそらく石は見えなかった。
「……、うわぁぉ」
「何しやがりますかっ!?」
「いえ、実際に観られたのは重畳です。これなら……」
全身を鎧と盾で固めたレイが言う。
改めて敵攻撃のイメージを固め、黒耀とハナが符に力を注いでいく。
「射程ギリギリは……よし……いっけぇっ、胡蝶符!」
「カードドロー! コンボアクション、マジックカード火炎符発動! ――これが! 私の! バーンデッキだ!」
「お前の相手はざくろ達だ!」
そして、三者の光と炎が、極大の奔流となって敵を灼いた。
『――■■!?』
どこから発声しているのか、苦悶の声を漏らし明確に『こちらを向く』敵。顔すらない敵がこちらを認識したと解る、その感覚にゾッとする。
騎乗したシレークスが鎖付星球をぶん回しながら回り込むや、敵背後から全力で星球をぶつけた。が、敵は風船の如く弾かれ、廃村側へ跳んでいく。シレークスは舌打ちして後を追う。
「厳つい外見のくせにふよふよと……外見相応でありやがれ!」
――!? これは……声が聴こえる……?
何やら不思議な気配を受信したサクラが物陰に隠れたままその声に応えてみた。
「それを貴女が言いますか……」
――!? これは……声が聴こえやがるのです……?
「うるせぇですサクラ!」
八つ当たりのようなシレークスの打撃が敵をさらに廃村側へ追いやり、そこに光が、炎が浴びせられる。
ざくろ、黒耀、ハナの誰かが必ず敵を撃ち、残る二人が装填と移動を済ませる。綺麗に誘引していく六人だが、直後、棘が赤熱した。
「きます! 私を壁に使ってくださいませ! さぁ! お早く! 全力で!!」
レイの警告と同時に放たれる棘、棘、棘。盾と鎧に次々突き刺さり、レイは体勢を崩――さない。微動だにせず防ぎきるレイ。その強靭な肉体はナニによって鍛えられたのか地味に気になるハナだが、訊く暇はない。
「なかなか鋭利な棘ですが……姉上達のそれと比べるとまだまだ耐えられますね」
「あ、姉上!?」
「ええ。あれは何というか、心が深く抉れるのです……」
何か妖しい答えを言われたが、それもスルーだ。棘が止んだ隙に肉壁から出て符を放つハナ。蝶弾が敵を貫く。敵が前方へ棘を集める。咄嗟に黒耀が符を抜き放つ。
「リバースカードオープン! トラップカード桜幕符発動! 夢幻の花びらに酔いしれるがいい!」
舞い散る符。桜花の幻影。直後、棘の雨が降り注ぐ。ボッと鈍い音を立て砂浜に突き刺さるが、続けて飛来した棘がレイと黒耀を貫いた。黒耀が顔を顰めて退く。敵が一気に跳ぶ。
その棘先を掠める一筋の光。続けて二本の光条が敵を捉えた。ざくろがやや離れて腕を突き出している。棘の予備動作もない単発射出。身を捻るが躱しきれない。横腹が痛む。が、稼いだ時間は無駄ではない。
騎乗したまま敵側背を動き回っていたシレークスが再び敵を打ち据えた。
「いつまでも受け流せると思うんじゃねぇですよ!」
駆ける。駆ける。駆ける。
地面はいつの間にか砂から砂利道に変っており、前には廃村が大きく見えている。ハナが駆け込んでいくのを見、シレークスは微笑んだ。
「この世に砕けねぇ物なんてありやがりません……今度はこっちの番ですよ!」
●廃村の攻防
廃村入口、正面の半壊した家の壁には地図が描かれていた。
廃屋や塀の位置と、×印二つ。それはカズマのメッセージだ。
ハナ、黒耀、ざくろと現時点で最も敵の憎悪を集める三人が真っ先に物陰へ飛び込み、シレークス、まりお、レイが正面に残る。
敵の殺気が膨れ上がった。それでも地図を読み取る三人。軋むような敵の音。三人が散開するや、棘が大気を燃やすように伸びてきた。半壊していた家が一瞬で倒壊し、盛大に音と粉塵を上げる。
「Bだーっしゅ! 雲丹は丁度丸裸だけどもここは仕切り直すよ!」
こいんこいんと跳ねてまりおが塀の裏へ飛び込むと、後には白煙と敵のみが残された。雲丹は何やら所在なさげに浮遊している。
その隙に、一行は秘かに物陰を利用し包囲していく……。
「ん、相手が相手ですし少しでもマシになるようプロテクションをかけておきます……」
サクラは一旦合流したシレークスに加護をかける。彼女は両手を組んでエクラに感謝し、サクラと目を合せた。シレークスは既に下馬しており、その背の鎖付星球が何とも凶悪に見える。
二人は頷き、再び分かれていく。
プランAで。多分そんな感じだ。サクラがそっと霊槍を構え、敵を挟んでシレークスと逆位置へ移動する。
そして――。
いつだったか、体術極めたじーさんも似たような事してやがったな……。
カズマは事前に集めておいた木片を握り、崩れかけの塀を伝って敵正面へ移動する。
思い出すのは敵の防御手段。自ら跳んで損傷を軽減する。高等技術だが、それとて万能ではない。軽減させない状況に持ち込めばいいだけだ。自分一人なら骨の折れる仕事だが、今は味方がいる。
だからこそ自分は、敵を崩す為の第一手を、やる。
カズマは敵を見据えた。敵は棘の装填を済ませ、フラフラ廃村内部へ入り込んできている。
通信機でもあれば味方と完全に合せられたが、まあいい。これが初手で、後は味方が合せてくれる。内心でカウントしていく。
そして――。
「来いよ雲丹野郎、ご自慢の棘でも見せてみろ!」
響く怒声。宙を飛ぶ木片。カズマが立ち上がりながら投擲したそれが敵至近に迫り、反応した棘に貫かれる。だが割れない。腐食しかけた木片がそのまま棘に食らいつく。
「いけ!」
「飛んで火に入る冬の雲丹、ってね!」
廃屋窓枠から飛び出し黒耀が腕を振るうや燃え上がる敵。敵が引き寄せられるように黒耀の方へ踏み出した(?)瞬間、さらなる炎が渦を巻く。ハナの一撃。敵がよろめいた。敵背後から飛び出すのはざくろとまりお。光が廃村を突き抜ける。瞬後、肉薄したまりおの刺突が敵を貫くが、やはり敵は跳んで逃げる。
が、それは想定の範囲内。敵が着地した地点へ、左右から走り込む二人。右にサクラ、左にシレークス。二つの攻撃が微塵も狂う事なく同時に敵へ吸い込まれ、敵は直上へ跳び――上がれなかった。
ぐじゃあ、と柔らかい音が響き、敵が前へ転がる。
「ったく乙女の柔肌穴だらけにしてくれやがって! 万倍返すのですよ!」
「チンピラっぽい物言いがまた輝いていますね……!」
シレークスの快哉の声とサクラの謎の感想。続けてまりおとレイが接近しかけ――敵の変化に気付いた。
「ぃやっふー! 遮蔽物に一直線だよ!」
「射出、きます!」
それは、敵が膨れ上がるような感覚だった。
肥大化したかと思うや、次の瞬間に棘があらゆる場所へ突き刺さっている。
至近にいたシレークスとサクラが。丁度移動していた黒耀とハナが。まともにそれを浴びる。
――が。
あるいはそれは、本来ハナにとって致命傷となり得たかもしれない。しかしハナは未だ五体満足だった。それは瑞鳥符のおかげでもあり、僅かに鈍った棘のおかげでもある。そして棘が鈍ったのは、木片のおかげだ。
流れを断たれかけた一行はしかし、隙間を縫うように再度放たれた木片によって繋がり続ける。
「追い込め!」
棘を再装填する敵。後退したシレークスとサクラが一足飛びに突撃する。
「サクラ、やりますですよ! せ~~のぉっ!!」
「これはそうそう回避できないでしょう……!?」
二度目の同時攻撃。敵の体躯が歪み、真上へ弾けた。棘射出。目標は黒耀。盾を構えたざくろが射線に割って入る。隣、ハナを庇い前進するレイ。敵が頭上30mで滞空し棘を射出射出射出。レイに、シレークスとサクラに降り注ぐ黒の嵐。三人が後退、敵はその隙に距離を取らんとし――、
まりおとカズマがそれを許さなかった。
「軽いのは厄介だね~。だけど必ずしもそれが長所とは――限らないよね」
「こいつを封じる。それが俺の――役目だ」
まりおのショットアンカー。カズマの光鞭。
左右から敵へ伸びるそれら。錨が棘のない所に突き刺さり、鞭が棘に巻き付いていく。さらには敵を貫き天へ抜けるデルタレイ。ざくろが敵の下へ入り込んでいる。敵は拘束に抵抗するが、膂力に任せたカズマとまりおが強引に地に引き倒した。
「袋小路に追い詰めるまでもない……!」
「状況はメイクした! 今のうちにやっちゃって!!」
落とされて尚拘束される敵へ肉薄するシレークス、レイ、サクラ。黒耀が符をドロー、最後の火炎符を放つや、ハナが焔を合せて業火と成す。
「フフフフフ、私はカードを選ばない符術師ですからぁ、雲丹如きにそうそう負けませんよぉ!」
「一気に畳み掛ける!」
「レイさん!」「承知しております」
業火が渦を巻き消えてゆく。
敵はもはや虫の息だ。が、それでも棘を蠢かせる。
『――――■■!!』
裂帛の気合(?)と共に放たれる全周放射。その射線を跳んで躱したのは、
「私は最後の最後まで諦めません。此処で諦めたら何の為の斧かと存じます……!!」
食材への執念を燃やし続けるレイだ。跳びながら大上段に構えた雷神斧を、重力のまま真下へ一気に振り下す!
雷光の如き閃光。雷鳴の如き轟音。
斧と地面に挟まれ衝撃を逃がせなかった敵は動きを止め、軋みを上げる。そしてレイが斧を引くと、敵は真っ二つに裂け、その輝けるぷりぷりの身が――!
「やっ……!?」
霧散、して、いった。
後には何もない。ただ磯の香りだけが漂っている……。
●夢の跡
「シレークスさんは相変らず無茶をしますね……」
野営地へ戻る道すがら、サクラがシレークスの腕を取って抱き寄せヒールを施す。暖かい光に包まれ、外見だけはシスター然としたシレークスは決まり悪げにそっぽを向いた。
「今回はサクラも同じようなもんでありやがりますよ」
間近から棘を受けた二人が顔を見合せ苦笑する。
「海、できれば泳げる時に来たかった気もしますけど……」
夏でも傷に沁みて痛いだけじゃねぇですかね。
シレークスは内心でツッこんだ。
砂浜ではレイとハナが体育座りで黄昏れていた。
「雲丹パーティ……できませんでしたねぇ……」
「姉上、やはりダメでした……高級食材……無念です……」
目の前に確かに存在していたのだ。それが、夢のように消えた。こんな空虚になるなら初めから夢など見なければよかった。
そんな二人の後ろに、まりお。
「あの雲丹が一匹だけとはボクには思えないんだよね」
もし砂浜一面にあの雲丹が押し寄せて来たら。
一撃で致命傷を与えづらいだけに面倒だと、そんな意味で言ったまりおの言葉はしかし、
「本当ですか……!?」
「パーティ!」
レイとハナには希望に聞こえたらしい。
まりおは一瞬渋い表情になりかけ、それはそれでいいかと思い直した。
「2mはあったしね~。一匹でも残ったら食べ放題だよね」
「パーティですぅ!」「ええ、ええ……!!」
見果てぬ夢を追いかけ三人は盛り上がる。
雲丹は死して尚ハンターの心に残る。
これこそがあの敵の目的であった……のかも、しれない。
(代筆:京乃ゆらさ)
依頼結果
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作戦相談卓 シレークス(ka0752) ドワーフ|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/12/02 02:00:39 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/29 23:29:55 |