【碧剣】なろうよ、魔法少女に

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/12/14 19:00
完成日
2015/12/28 07:51

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伊菜
-
shima*

オープニング


 此処に来ると、シュリ・エルキンズはいつも緊張してしまう。
 王都第3街区の外れ、『Heaven's Blade』という看板が掲げられた店は、シュリにとっては敷居の高い場所だった。来店を店主から厳命されていることとはいえ、心情面での重さが解けるわけではない。
 碧色の刀身が店内の照明に淡い光を返す様にシュリが目を取られていると、碧剣の柄から刀身を眺めたまま、イザヤが口を開いた。
「あれから調子はどうだ?」
 この剣に関する事――騎士たちがひた隠しにしている事を、今後どうやって調べるか、についてハンターに知恵を借りた事に関してのことだとすぐに知れる。
「……あれからすぐにアークエルスに行こうとしたんですけど、例の」
「亜人共の騒ぎか」
「はい……騎士科の学生は待機命令が出て、移動することも出来なくて……結局そのまま、待機だけで終わっちゃったんですけど」
「亜人……茨の王、か。奴らは此処に踏み込む前に力尽きちまったからな」
「ええ。騎士科の学生は――実戦の機会だって浮足だっていたんですけどね……」
 ――王都決戦。その響きが、シュリの奥底を強く揺さぶる。もしそうなっていたら、シュリ達は戦に駆り出されていたのだろうか。
「残念だったか?」
「え?」
「不完全とはいえ、魔剣を握ってんだ。思う様振るえなくて、どうだったよ」
 如何せんこいつはよく斬れる、と。イザヤが軽く振るう。その剣閃の美しさは、イザヤ自身の技量というよりも、刀剣そのもののバランスの良さから来ている事をシュリはしっている。
 静かに、沈思した。

 ――すぐに邪念が入った。

 イザヤとシュリは本来、住む世界が違う。その力量は隔絶していると言っていい。
 そんな彼が無料で整備をしてくれるのだ。有難過ぎる。有り体に言って、手放したくない。
 とはいえ、シュリにはイザヤがどんな答えを求めているか解らなかった。
 そしてそこで自分が思うままに振る舞えるほど、彼は驕慢な人となりではない。
 けれど。
「……解らない、です」
 だからこそ、正直にそう言った。
「あ?」
「残念だったといえば、残念だったかもしれないです。周りは、興奮してましたし……僕も、少しだけ。やっぱり、その剣を意識してました」
「……へえ」
「でも……今は、安堵のほうが強い、です」
 思い起こされたのは、家族のこと。廃れてしまった故郷のこと。あれが繰り返されるのだ、と気になっていたのは事実で。それは杞憂だったのだと、今、確かに安心を抱いているのだった。
「そうか」
 イザヤの答えは短かった。シュリはそこから特別な感情は読みとることはできなかったが、微かに安堵の息を零した。
 この青年だったら、気に入らないことがあれば蹴り飛ばしてる筈だから。

 ――イザヤが細かな手入れを始めると、暖かで、緩やかな時間が流れた。
 シュリはゆるりと、微かな息をはく。この店も、少しだけ居心地が良くなってきた。



 さて。過日ひょんなことでシュリとハンター達が助けた貴族の次男坊クリスライル。ハンターの知恵もあり、シュリは彼を経由してアークエルス領主のフリュイと謁見する機会を得た。
「へえ。魔剣」
「は、はい」
 アークエルスは絶賛復興中のはずだが、フリュイ・ド・パラディは暇そうだった。本当にこの人が領主なのだろうか、と疑問すら覚えるくらいには。暫くの間剣を眺めていたフリュイは改めてシュリを見る。
「……あれ、君、前にも見た事あるね」
「え、と、……依頼をお請けさせていただいたことが……」
「確か学生だった。今もまだ?」
「はい、騎士科の……」
「ふーん」
 意地の悪そうな笑みを浮かべた――少なくともシュリにはそう見えた――フリュイは、
「ねえ、君。魔剣、は何で定義されると思う?」
「……定義、ですか?」
「そうさ。定義は大事だよ。事物は観測する事で初めて事物になるのさ。で、どうだい。考えた事はあるかい?」
「……」
 はっきり言って。ある。凄くある。イザヤに『魔剣』と言われてから、この上なく意識するようになってしまったのだ。それを、彼なりに言葉にすると――。
「その、凄い、剣……です」
「うん、それでいいよ。……まぁ、定義なんて何でもいいんだけど……」
「え?」
「雑駁に言えば、魔剣も妖刀も聖剣も根は一緒だよね。どんな伝説を持っていようと、どんなことができようと、慮外であることこそが魔剣の何たる、だ」
 フリュイの、つんと立てた指が何かを求めてさまよう。すぐに傍らのワイングラスへと至り、満足げに微笑んだ。
「……で、この剣は何ができるの?」
「え!?」
「だって、魔剣なんだろ?」
「あ、え、えええっと、それを探してて、手掛かりとか、教えてもらえたら……って……思って……」
「あのさぁ」
 乾杯、とでも言うようにグラスを掲げたフリュイは。

「答えを教えるのは『教育』じゃない……って、僕、前に言わなかった? 探しているつもりで与えられる事を待ってるようじゃ、君、ちょっとお寒いよ」

 そうして、フリュイは心底美味そうに、血色のワインを呑み干した。
 ――僕は肴ってわけ……?
 がくり、と力が抜けた。その様子が大層愉快だったのか、ケラケラと笑うフリュイは。

「そうだなあ。一つ、頼まれてくれるのなら、ヒントくらいは上げても良いかな」



 フリュイの指示で空き教室に通されたシュリは、怪訝げなハンター達に迎えられた。
「……?」
「揃いましたね」
 それを見て、生真面目そうな学者らしき男が、コホン、と咳払いをした。
「さて。今回の皆様への依頼は、ズバリ! 『魔術実験』への協力です!」
 それを聞いて、シュリは逃げ出したくなった。

 シュリは田舎者の騎士科の学生だ。アークエルスのことも、魔術の事もよくわからぬ。
 だが、その組み合わせにはすこしばかり敏感だった。

「経緯はー、えー、あー、まー、省かせていただきましょうかね。とにかく! フリュイ閣下はこの度、とある強化魔術の再現に成功したのです!」
 強化魔術という響きに、興味を覚えたものも居たかもしれない。シュリは違ったが。
 だが、『これ』が危険だと喚起することは、彼には出来ようもなかった。
(……ごめんなさい)
 ただただ、フリュイがいう『ヒント』とやらが、この上なく気になっていた。それ故に沈黙をよしとする。
 ――いや。彼は正しく、覚悟を、決めたのだ。開き直る。どんなことになっても受け入れよう、と。
 そんなシュリの覚悟を余所に、学者は朗々とこう言った。

「さて。それでは。

 皆様の中で、魔法少女――とやらになりたい方はいらっしゃいませんか?」



 実験の説明が為されている一方で。自室に一人残ったフリュイは愉快げに笑っていた。
 窓の外、蒼天を見上げ、
「……ほんと、君はしぶといよなぁ……でも、今回は乗って上げた方が面白そうだから、手伝ってあげるよ」
 最後に、こう、呟いた。

 ――カルエラ、と。


リプレイ本文


 僕の絶叫が実験場に響く中、至近から放たれる銃弾。それだけは危ない。盾で銃を持つ腕ごといなしながら、続けた。
「こんなのって無いよ!」
 名前を呼ぶか躊躇する。裏切られるかもしれない。それでも。
「ジュードさん!」
 返答は銃声。それらを貫いて、声。
「知らない名だ、ねっ! 俺は」
 ジュード。ジュード・エアハート(ka0410)さんは、人好きのする笑みを浮かべて。

「魔法少女、レヴィアッターノ、さ!」

 もうダメだった。
 ダメダメだった。

 フリフリのメイド服が目に鮮やかすぎて心が砕けそうだ。


●遡ること変身前。
 実験場が物々しく固められている様をメル・アイザックス(ka0520)は苦い顔で見渡した。
「ひーふー……一体何人いるのかしら」
 ホール状になった実験場を囲む研究者達を数えていると、月詠クリス(ka0750)が訳知り顔で頷いた。
「魔法少女という新職業ともなれば当然でしょう」
「新職業?」
「この名探偵が詳らかにしましょう……その性能を」
 小首を傾げるメルだが、めい探偵は取り合う事なく頷いている。
「大掛かりだねー、へへ」
 ノノトト(ka0553)はぽーっと見上げながらふわりと笑った。
「ハンターの中でたぶん最初に見れるんだよね、強化魔術。カッコいいんだろうなー」
「そうですか?」
「うんー」
 シュリの渋い呟きに満面の笑顔である。そこに。
「シュリ、ノノトト、今回はヤってやろうぜ!」
「うんー」
 華蜂院 蜜希(ka5703)が大笑して両の肩を叩く。声と手の力強い響きにノノトトが柔らかく笑うと、蜜希も笑みを深めて、言った。
「いやー、魔法少女、か。強えンだろうな! 楽しみだぜ!」
「魔法少女……」
 言葉に、ヴィルマ・ネーベル(ka2549)の細眉がひそめられる。
「魔女となんかこう……違う気もするのじゃが」
 愛用のオーダーメイド鉄パイプを不満げに掴む。自称霧の魔女にとってその響きはお気に召さないようだ。
「とかいって! 即決だったじゃないですか!」
「そっ、それはそれじゃっ!」
 松瀬 柚子(ka4625)のツッコミは、深く鋭い。
「でも、仕方ないですよねっ! リアルブルーの健全なる乙女ならきっと誰しもが一度は夢見た魔法少女!」
「そ、そうなのかの……?」
「セーラー着ちゃって月に代わって【禁則事項】するのもいいですけれど、もう何も【禁則事項】系魔法少女もダークネスでいいものです!」
「【禁則事項】したらどうなるのじゃ?」
「相手は死にます!」
「ほぅ!」

「あ……」
 魔法少女という言葉にシュリの視線が泳いだ。ジュードはその先で薄く笑う。
「俺、やるよ……大丈夫、俺実験慣れっこだし」
 ジュードに好きな方を選んでよいと言われた結果、彼は魔法少女を選べなかった。ジュードは赦すようにその肩を軽く叩くと。
「頑張ろ、ヒントを見つける為にも」
「は、はい……」
 実験に慣れる、という言葉は気にかかりもしたが、技術者の声がかかりそれ以上の追求も出来なかった。


 頭上で木霊する魔術師達の声の下、ハンター達は変身組と非変身組に分かれて向き合うように立つ。
『――発動』
 声と共に、実験場に緊満していたマテリアルが奔流となって弾けた。光流は瞬く間に変身組を覆い尽くすと、渦巻き、その密度を高めていく。
 蜜希は笑っていた。ノノトトは不安と期待半分の表情だ。「のど、乾きましたね」と、手元の牛乳を口に含む。
 シュリは祈るように手を組んでいた、が――。

 祈りは、届かなかった。



 メルは実のところ、積極的に魔法少女になりたかった訳ではなかった。ただ、年若な者を危険から遠ざけたかっただけだ。
 その、年長者としての自覚(幻想)を――マテリアルがブチ壊す。
 ――うっ、何かが頭の中に……ッ!
 頭を抑えながら、思わず苦鳴が零れ――そして。

「まじかる探偵変身っ!」
 近くでノリノリの声が上がったと同時、メルの意識は何かに飲み込まれた。


「服がっ!」
「えっ!?」
 蜜希の声に、シュリの目が見開かれる。ジュード、クリス、ヴィルマ、メル、柚子と並んでいたはずだ。順番に辿っていく。左から、水流のような清浄な蒼、夜天のような黒、ジュードのそれと比べやや濃紺がかった青、そして大量の☆が舞うドピンク、謎の黒雲と続く。
「ブッ!」
 彼女(?)達の服が光に解けて消える瞬間を目の当たりにしたシュリは天井を見上げた。
「スタイル良いなー」「ですねー」「なんでグルグルまわってるんだ?」「あっ、光がまとまってきましたよ! あー、ノド乾いてきちゃった……」
 蜜希とノノトトは呑気な物だ。徐々に光量が落ちていく、と。

「――ダイブオン!」
 奇妙な声と機械音が響いた。「メルさん?」という声に思わずシュリが目を開くと。

 何かがいた。

「有り余る君のハートをボディごと乱れ打ち! 魔法少女、レヴィアターノ!」
 そのヴィクトリアンメイドは澄んだ海色。エプロンドレスの肩口は海竜を思わせ、可愛らしい尾や散りばめられた装飾品が大層可愛らしい。レヴィアターノ=ジュード!
「天才発明家魔法少女探偵、まじかる☆クリス! この魔法のパイプにかけて、真犯人にお仕置きですっ!」
 夜色のインバネスコートに星光を思わせる光輝が踊る。フリルスカートから伸びる足の白さが目に痛い。まじかる☆クリス!
「ある時は自称☆霧の☆魔女! またある時は酔いどれ☆少女! 果たしてその正体は――」
 Vの字サインを左目の前で可愛らしくキめる。青い魔女服はその丈が短くフリルスカートに変じ、真珠玉に似た飾りが散りばめられている。二本の足をすらりと伸ばした彼女は、こう言った。
「自称☆霧の☆魔法☆少女! ヴィルマ=ネーベル!」
 そして。

「天にかざせ!正義の魔導ブレスレット『マハト』!」
 ガッと拳を突き上げる黒い影。そのシルエットは太く、逞しい。シュコォォと排気音を立てながら彼女――メルの顔に、魔導面が装着される。
「マジ狩ル少女隊めるるん! 見参!」
 ドォォォン、と爆発音がマテリアルの導きによって顕現したと、同時!!

「ブッフーー」
 最早堪える事あたわず、ノノトトの口元から牛乳が噴き出た。
「ちょっと待って。何でみんなそんなにスラスラと名乗れるの……? 今まで考えて温めてたの……?」
 BS狂化は健在だ。誰一人としてノノトトのツッコミに恥じ入る所などなくポージングを崩さな――
「それにメルさん、たった独りでも、実年齢二九歳でも少女隊と言い放ってる……」
「……」
 ピンポイントの指摘にメルの表情が短く痙攣した、瞬後だ。

「ドーモ、ハンター=サン。マホーショウジョ=デス」
「!?」
 最後の一柱。
「世界の闇を血飛沫で紅く照らす! 撲殺眼帯少女・本気狩る☆ゆずりん! 爆誕です!」
「ああ……っ」
 徳高き天使と東方に名高きシノビの如き異質な姿に、シュリの心がとうとうへし折れた。わなわなと崩れ落ちる青ざめた少年。
 しかし、だ。蜜希。この鬼は違った。
「いいねえ!」
 拳を合わせて、高らかにこう叫ぶ。
「みんな可愛くなっちまったな!」
「そこですか……って!」

 実験場にノノトトの悲鳴がむなしく響き渡る中、魔法少女達が一斉に動いた。


「ヒサツカラテ!」
 サツバツ!
「ハート! レス! インパクトォ!」
 ツコミ=ドコロ満載の一撃に合わせて、魔法少女の衣服の下で強化された大胸筋が超収縮!
 物理的に強化された柚子のメカニカルブンドーが魔導機械の推力を得て加速し蜜希に迫る!
「ッツォ……っ!?」
 蜜希は鬼の膂力でそれを支えるが、痛打だ。
「どうですか! 今考えたヒサツ……え、カラテじゃない? 信ずればカラテになります!」
「いや、何も言ってねぇだろ!」
「あれ、そうですか? でも、あれです、それって私の愛なんです! 物理的に見える愛って何かフシギでステキ!」
 狂ってる……と場外で誰かが愉快げに呟いた。柚子は脳裏で撲殺リストに叩きこみ、更に拳を振るおうとした、その時だ。
「そこっ!」
 横合いからショウワの香りがする機械音を剥き出しにしてメルが突入。その姿は全周囲全距離対応型の機械化兵士だ。そのまま彼女は、トーゥ! と気勢と共に、跳んだ。
 その姿が一瞬ブレたかと思うとその背景が採石場のような何かへと変わる。勿論、幻影だ。メルルが握る溶断刀「ブレイジングKAGUTUCHI」がその体積を増し、刀身が白熱。
 超重錬成。殺す気か。
「いいかい? 進歩しすぎた科学は。魔法と見分けがつかないんだって★」
 いいえ、魔法です。
「ッ、しゃァ!」
 溶断刀を前に、蜜希は一歩、前へ。
「脇が、甘ェぜ!」
「おォ……ッ!」
 メルの着地と同時にその背に回った蜜希は、超重化した刀ごとジャーマンスープレックス!
 更に身体に染み付いた動きで脚を取ると、そのまま力の限り海老反りにする。
「KB・クローバーホールド……ッ!」
「ッつぁっ!」
 軋む機械鎧とメルの背骨に、上がる苦鳴――だが。蜜希はひょう、と飛び退った。痛む腰を抑えながら立ち上がったメルの隣には柚子。一対多を心得た立ち回りを見せた蜜希はニィ、と歯を剥いて。
「楽しくなってきたぜ……!」
 と、快活に声を張った。


「遠くから当たらなきゃ近づけば良い! 一発で当たらなきゃ百発撃てば良い!」
 シュリに盾でいなされても、なおも銃撃を浴びせ続けるレヴィアターノ。
「っつ、ぅ!」
 銃弾をいなすシュリにはツッコミを入れる余裕はない。ただ、攻勢にあるレヴィアターノにしても面白くない。狂った頭の中で、故知らぬ想いが鎌首をもたげる。
「ほら……ッ!」
 腕を絡めるようにして、ガン=カタ。至近から浴びせた銃弾が碧剣を掠め、その隙に蹴撃が襲う。
「マジカルニー!」
「ええっ!?」
 仰け反り躱すそこに、素早く持ち替えたや黒刃の短剣が迫った。つくづく猟撃士離れしているが、魔法少女とはかくあるべきものなのだろう。
「っく!」
 刃と刃が噛み合い、高く澄んだ音が響いた。
「言われたでしょ! 答えは貰うものじゃない。自分で見つけて!」
「そう、は言っても……!」
「マジカルハイキック!」
 剣を合わせた所から、レヴィアターノのハイキックが弾けた。シュリは前衛の反射神経で、それを見た。見ようとしてしまった。
 すらりと伸びる白い脚。翻るスカート。その奥。その奥! その奥!!
「……ッ!」
 背徳とともに目を凝らす。だって、あの翻り方は――イケる!
 思った、その時だ。
「つあっ!」
 スカートが不可思議な機動で翻り、その深奥を堅く隠し閉ざしてしまった。同時に、美しい軌跡を描きながら、蹴撃がシュリの顎を撃ちぬく。

 意識を失う間際、シュリは遠くで男の笑う声を聞いた気がした。


「シュリさん……!? たすけ……っ、アアーーーもうだめだーーー」
 あの時は平和だった、と。ノノトトは思う。魔法少女、かっこいいな、なんて。
「わわっ!」
 霊呪で身を固めるノノトトは盾でソレを払った。流れた攻撃が大地を撃つと怨――、と音が弾けた。
「この私のまじかる☆事情聴取をかわすとは……」
 近距離から、クリスの声がノノトトの耳朶を打つ。
「やはり、私の魔法のパイプが囁く名推理に間違いはなかった!」
「え、冤罪ですしっ! 推理してないですし!」
 ハリセンを思いっきり振るったノノトト。スパァン、と快音が響く。
「というか事件なんて起こってないですっ!」
「まだ隠されし事件が……」
「ありません! だめだー、正気に戻ってくれない……」
 そこに。

「待たせたのぅ!」
 胸を張ったヴィルマが現れた。手にした魔杖「マジカル★鉄パイプ」は、炎炎と燃えている。
「見よ、この魔杖の禍々しき様を……! これぞわしのファイアエンチャントじゃ!」
「ひっ!?」
「喰らってぎゃふんというがいい! 必殺、マジカル★鉄パイプ!」
 見た目に派手な蒼い鉄パイプが落ち、爆炎が吹き上がる。
「そぉい! ウィンドスラッシュ!」
「風切る一撃……ってそれ絶対そういう名前のスキルじゃない……!」
 盾で受けたノノトトの身体を炎が包む。まやかしの炎だ。熱くはない。
 ただ、威力に関しては順当に強化されているのだろう。その一撃は、重い。
「っ!」
 カリカリカリ、と技術者達が大急ぎで記録する音を聞きながら、ノノトトは自己治癒を発動する。
 ――依頼、受けたんだし……もっと……!
 頑張ろう、と思ったのだが。ノノトトの中の冷静な部分が悲鳴をあげている。
 シュリは落ちレヴィアターノがフリーになった結果、二対五。圧倒的な数の差は、覆しようも無い。
「うう……もうだめだー……」
 嘆きに暮れそうになった、その時だ。

「顔を上げて!」
「!?」
 響いた力強い声にノノトトが顔を上げる、と。力強くポーズをキメた魔法少女――いや、機巧少女メルの姿が!
「私が助けてあげるわ!」
「ええー……」
 もう何がなんだか解らなかった。ツッコミが追いつかない。
「全員殴り倒せば真犯人はその中にいるはず!」
「シュリ君の仇……!
「蜜希さんのおかげです! 私のカラテ、極まって来てるような……っ!」
「っしゃぁ! 掛かってきなぁ!」
 にわかに騒々しくなる一同を前に、ノノトトは。
 ――早く終わんないかな……。
 なんとなく、そんなことを思った。



 主に鈍器を扱う魔法少女のせいで血腥いことになったりならなかったりしたが、そこは魔法少女化魔法の自己再生のおかげで跡形もなく治った、のだが。
「……ぐぅ、身体が動かんのじゃ……」
「こんなことになるとは……この私をしても推理できませんでした……」
 横たわったヴィルマとクリスは身動き一つ取れそうにもなかった。添えられたそれぞれの鉄パイプにこびり着いた錆色の汚れを拭うことすら出来もしない。
「いやぁ……魔法少女、強かったな」
「……早く帰って眠りたいです」
 ノノトトの苦い呟きに蜜希はそうか? と返しながら、快活に笑う。
「男性でも少女とか、西の文化はおもしれぇなぁ……今度はオレも魔法少女になってみたいぜ!」

「……その、カッコ良かった、みたいですよ?」
「……」
「リアルブルーでは、その、憧れる人も一杯いる感じみたいでしたし」
「……」
「……元気、出してください……?」
 笑い声を背負いながら、愁嘆場のように哀しみに暮れるメルを柚子が慰めているその横で、技術者は快活に笑ってこう言った。
「おかげで興味深いデータが取れたよ」
「……」
 メルの心は澱のように淀みきっていた。

「シュリ君、大丈夫?」
「……その、すみません」
「?」
 震える身体をなんとか支えながら言うジュードに詫びるシュリ。
「今日は、色々試してくれたんですよね」
「あー」
 そうしようとは思っていたが実際に出来たかどうか、さっぱり記憶がなかった。
「おかげで、解った事があるんです」
「へえ、良かっ……」
「誠実に生きなくちゃ、ダメだなって……」
「……そう」
 碧剣を見つめながらの言葉に、ジュードは曖昧に笑うことしか出来なかった。

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MVP一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハートka0410

  • ノノトトka0553
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタインka2549

重体一覧

参加者一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 「ししょー」
    岩井崎 メル(ka0520
    人間(蒼)|17才|女性|機導師

  • ノノトト(ka0553
    ドワーフ|10才|男性|霊闘士
  • めい探偵
    月詠クリス(ka0750
    人間(蒼)|16才|女性|機導師
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • むなしい愛の夢を見る
    松瀬 柚子(ka4625
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 飛翔天蜂
    華蜂院 蜜希(ka5703
    鬼|25才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 魔法少女(物理)控え室
ジュード・エアハート(ka0410
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/12/12 01:02:48
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/12/09 09:29:28