知追う者、西国にてキリンを見る?

マスター:狐野径

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/12/22 22:00
完成日
2015/12/28 08:47

みんなの思い出

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オープニング

●思い出
 大江 紅葉(kz0163)は夢を見た。
 死んだ妹・若葉が文字を読めるようになった頃、紅葉は十二歳くらいだったはずだ。
「あねうえ、きりんって西にいけばいるの?」
 西の地域がどうなっているのか、歪虚に飲まれてしまったのかなど知らなかった頃でもあり、夢と希望も抱いていた。
「麒麟? 残念ながらいないわよ? だって、空想上の生き物だし」
「え? でも、リアルブルーにはいるって書いてあったよ」
「……? そんな、まさか? 麒麟と言えば瑞兆を示す生き物であり、架空の物のはずよ。あ、でも幻獣とか魔獣とかいう類でいるのかもしれないわ」
 そわそわする紅葉に小さい若葉はきょとんとする。
「そっかぁ、きりんってなんて鳴くのかな」
「それは、楽を奏でるような美しい声だと聞くわ」
「へぇ。あねうえはやっぱり頭がいい」
 尊敬のまなざしの若葉。
 その尊敬が照れくさいが嬉しい紅葉。
 この様子を聞いていた家令は笑いをこらえるのが大変だったと後で聞いた。

 うっすらと涙と微笑を浮かべ、紅葉は目を覚ました。
 今日は念願のグラズヘイム王国に行く日なのだ。
 北伐でいない人の分も働けという直属の上司だが、休みはちゃんとくれる。
「図書館に行きたいですが、仕方がありません」
 休日に外国へ行くために直属の上司に許可を求めたところ、つけられた条件は「今は図書館に行くな」だった。行きたいとごねると国外へ出かけることすら却下されると紅葉は読み、甘んじて受け入れた。
 知識喰いやら知追う者と言われる紅葉にとって、グラズヘイム王立図書館は垂涎の的であり、入ったら出てこられなくなるのは想定の事だった、本人にしても周りの人にしても。

●初めの一歩
 転移門でリゼリオに出て、リアルブルーの船が見られず残念がりながら、グラズヘイムに向かう。
 まずは王都イルダーナか古都アークエルスかと悩み、どっちも時間が足りないと悩む。古都は図書館もあるため、行ったらうずくまって呻いて、柱に張り付いて帰らない自信が紅葉にはあった。
 職員と話して地図を見て、適度な位置にある町に行くことにした。
 王都に近い北東寄りの町に一行は出る。勧められた理由は、時々ゴブリンや雑魔も出るが、街中で大きな事件は現在の所発生していないということからだった。
 町に付いた紅葉たちはその通りの空気を味わう。
 行き交う人々は穏やかな表情をしている。
 舗装された道。
 リゼリオでも一応町は見ていたが、グラズヘイムの町はまた異なった雰囲気だ。建物の洋式や町の規模によるところもあるだろうが、興味が尽きない。
 もっとも、西方にはじめてきた紅葉と護衛の二人にとっては、町に足を踏み出した瞬間、動けなくなるほど衝撃だった。
 しばらく道の端であれこれ眺める。
 それから紅葉の好奇心に任せて進んでいく。
 町の外にも出た。
 街道が伸び、牧草地や畑、遠くには針葉樹林らしい林も見える。
「……緑もある」
 ポツリ五来は目を細めてつぶやく。
「綺麗ですね……え? あれ、あれなんでしょう?」
 紅葉は指を指した。
 街道の上を何か大きな物体が通って行った。
 黄土色の馬の首を長くしたような、皮に包まれた角を持っている謎の生き物。

「きっりーん」

 遠くから聞こえる声に紅葉は硬直して震える。
「そ、宗主? どうかしたんです?」
 善木が心配して声をかける。
「……キリン?」
「はい?」
 善木と五来は同じタイミングで聞き返す。
「瑞兆の動物だったっけ?」
「徳の高い王が出ると現れるんだったか?」
 善木と五来は麒麟の知識を引っ張り出す。
「いえ、あれ、リアルブルーのサバンナにいるとされる、キリンという動物」
 紅葉が目をキラキラさせ、頬を紅潮させ指さしている。どこか違う気がするがひとまず目をそらす。そもそも、キリンなど見たことがないのだから、違うなんて本当かどうか分からない。
「キリンって『キリン』って鳴くんですか、知りませんでした」
 どうやら「麒麟」ではなく「キリン」という実在の動物らしいと理解した善木と五来は、顔を見合わせた。雇い主が楽しそうにしていることはいいことであるとうなずき合う。
「あ、林に入って行きますっ! 見に行ってみたいです」
 紅葉は小走りに向かうため、護衛もため息交じりについてった。
「あの林、やけに変な形しているよな?」
「それは気付いた。灌木の上が食われて、巨木は下が食われて。それに生気がないというか」
 別の所のこんもりとした林を見たときとことなり、キリン(仮)が入って行った林は大きいくせに生気を感じない奇妙さがある。
「妖怪じゃねぇのか?」
「……否定できないが……」
 紅葉において行かれている二人は必死に追いかけた。

●依頼
 紅葉を見送った後、ハンターズソサエティの職員であるロビン・ドルトスは依頼書を取りまとめるといった普段の業務に戻ろうとした。
「エトファリカか……ふーん……げっ」
 ロビンは思わず立ち上がる。紅葉がハンターとして登録しているため、一部情報は知ることができたためつい見ていた。
「え、あの人そんな称号持って……あ、でもまあ、わざわざ町の外まで行かないか」
 ロビンがハンター募集を掛けている依頼は、雑魔退治だった。
 この町からの依頼で、街道に出る雑魔を退治してほしいというもの。姿はキリンという動物に似ているが、雑魔は雑魔であり、凶悪で通りがかる物を踏みつぶそうとし、木々を食い荒らすと言う。
「幸い人的被害がなかったというけれど」
 ため息が漏れ、紅葉がどうしたか気になる。
 扉が開いて近所でよく露店を開く行商人が顔を覗かせた。
「なあ、ロビンさんよぉ、大きくて首が長い化けもの退治は誰かする予定かい?」
「今ハンター募集しているところですよ?」
「なら……追いかけて行った髪が長いお嬢ちゃんと、大きな護衛みたいなやつらがいたんだが」
「なんだってええええええええええええ!」
 ロビンは真っ青になった。
「え、普通追いかける?」
「いや、遠目には動物にみえなくはないが、わしは伝えたぞ?」
 行商人がいなくなった後、ロビンはハンターが仕事を受けてくれることを願った。
「いや、この人たちもハンターなんだよな?」
 装備品等を思い出して、あの三人が町の外に出ることを想定していないと頭を抱えた。

リプレイ本文

●事務所
 依頼よりも最新の目撃情報を聞いて、ミオレスカ(ka3496)は唖然となる。追いかけて行ったという紅葉を知っているため複雑だった。
「い、意外と落ち着かない方だったんですね。いえ、でも、精神的な重みから解放されたということなら……いいのかもしれませんが」
 ミオレスカの言葉を聞き、雪継・白亜(ka5403)は頷く。自身の姉の名を同じ字の紅葉に縁を感じているため、依頼と追加事項に目が引きつけられていた。
「確かに……危ういところは見られたが、直情的というほどでもないはずだが……むう、聞いてみるしかないか」
 白亜は大きく息を吐いた。
 彼女たらが見ている依頼は、首の長い動物の雑魔を退治するというもの。リアルブルーに存在すると言われるキリンという動物に似ているとのことだが、真偽は不明だ。
「キリン……ひょっとすると麒麟か、麒麟なのか?」
 依頼内容に目を輝かせ万歳丸(ka5665)は受付に前のめりで質問を投げかけた。契約する際の精霊がキリンど同音で、神話上の生き物である「麒麟ではないか」と言われているために気になる。
「お、おおう、あくまで雑魔です」
 勢いに押され受付にいるロビンはびくりと身を震わせ後退する。
「キリンというのは神話上の生き物と聞いたぞ? 歪虚なら、何かしらそういう風体になりうるかもしれんが、そもそも、そんなに長い首の動物がいるわけないだろう? 常識的に考えて」
 神話上の生き物が見られるかもしれないと期待もしつつ、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は腕を組みうなずく、自分に言い聞かせるように。
「いるらしいですよ?」
 おずおずとミオレスカは知りえた情報を伝えるとディアドラの心が動いているような思案顔になる。
「キリンはどんな生き物なんだろう。大きい生き物だとは分かるけれど……雑魔なんだよな、やるべきことは痕跡をみつけて追跡して倒す」
 カイン・マッコール(ka5336)は雑魔出現の位置を確認する。町にほど近い林と街道をまたいでうろついている様子がうかがえる。
「キリンか麒麟か知らないですが、大江様がそのあたりにいるなら、助けに行った方が良いのではないでしょうか? その方は護衛と共に出かけて、珍獣だと追いかけているとなると人的被害が出る危険性もあります」
 黒耀 (ka5677)の言葉に、集まったハンターは行動をを開始した。
「だから、雑魔だって」
 ロビンは立ち去るハンターの背中につぶやいた。

●林入口
 街道から問題の林まで行き、人影があるため一行は足を止める。
 相手も武器を構えたが、すぐに構えを解いた。見知った顔があるからだろう。
「失礼、協会から派遣されたハンターですが、お連れ様がキリン見物にいかれたとは聞いております。どちらの方へ走っていかれたか覚えておりませんか?」
 黒耀に丁寧に問われ、善木と五来はおおよそを指さす、林の中央。
「……あの人、こういう時、足が速い……」
「振り切られた」
 善木と五来は肩を落とす。
「愚痴っても仕方がねェだろう? 何かあったときの護衛が、いざという時に守れねェと、鬼の名が廃るぜ?」
 万歳丸が苦笑からにやりという笑みを浮かべる。
「確かになぁ……いさめるのも我らの役割なのだ」
 五来が苦笑して万歳丸をまぶしそうに見る。自分より若い鬼でも、場数を踏み輝いて見えるのだった。
「そうだよな、こんな状況でガキに何言われても反論はないなぁ」
 善木は笑い気を引き締めた。
「本当に紅葉さん、追いかけて行ったんですね」
 ミオレスカが溜息をもらす。
「さて、話が着いたところであなたがたもついてきてください?」
 黒耀の言葉に、善木と五来はうなずいた。
「二人ずつで行くか? 早く見つけたほうがいいだろう」
 ディアドラが提案する。
「分散することは賛成です」
 ミオレスカがうなずき、仲間を見る。
「馬あるし広範囲見られる。トランシーバーで連絡取り合えばいいだろうか?」
「そうだな、二手に分かれるか? 馬がある者が林を回り込んで探す、紅葉殿の足を追うようにこちらから見る」
「追いかけていたからと言って、雑魔と遭遇しているとはかぎらないな」
 白亜とカインが言ったことで行動は固まる。
「雑魔という話だからな。もちろん本当に神話上の生き物がいるかもしれぬ……紅葉だって雑魔に見つかっていなければ、逃げるとか自力で林を出ることもできるだろう? 神話上の生き物なら硬直して見てしまうかもしれぬか……?」
 ディアドラは現実を考えつつも、期待もほのかに残し心が躍る。
「行こうぜ」
 万歳丸は麒麟が見られるかもしれないとそわそわして歩き出した。

●捜索と鳴き声
 戦馬で回り込んでから探すディアドラとミオレスカ、カイン。林自体は大きくないため、簡単に反対側に回れた。
 食害や足跡、異常に折れた枝などがないか確認しつつ進む。
「結構広範囲を移動していますね」
 ミオレスカは折れている枝やむしり取られたような葉を指さす。
「街道近辺でも見られていたみたいだからな……。鳴き声でもあれば、より位置は確定だが?」
 ディアドラは周囲を見ながら、音に耳を凝らす。
「足跡……これか?」
「そうですね……普通の動物ぽくはありません」
 カインが指さした地面をミオレスカは見て判じる。馬のようであり、もっと大きい何かである。
「往復している感じか? なら、中央の方に巣があるのだろうか?」
 カインがつぶやいた。
「さて、気を付けて行こう」
 ディアドラは盾に手を触れて先を見た。

 小走りに周囲を見つつ足跡や荒れた所がないかを見て中央を目指す白亜と万歳丸、黒耀。同道の善木と五来もいる。
 中央に近づいてきたところで、足を止め、周囲に手がかりがないかと見る。
「ここらで一つ、使ってみましょうか……少々失礼」
 黒耀が札を取り出し符術の『生命感知』を使った。
「そういえば、紅葉も符術師なのだな」
「一度も使っていることは見たことがないが」
 白亜の問いに善木が忘れているとばかりに言う。
「普段の生活で使わねェんじゃ?」
 万歳丸のもっともな言葉に二人は異口同音に「そうだ」とうなずく。
「何かいる感じです、反応があります」
 黒耀が指さす。
「紅葉ならいいんだが」
「麒麟ならいいんだが」
 白亜と万歳丸が同時に希望を口にした時、その声が響いた。

 キリーン。

「キリンはキリンと鳴くからその名が付いたのですね!」
「そうか!」
 ミオレスカが理解できて嬉しいとばかりに顔を輝かせ、カインが同調してうなずいた。
「ん? 伝説の片鱗も感じさせない……いや、雑魔でなかったのか?」
 デァアドラは期待が膨らんでいたため、しぼんだ気がした。
 三人はトランシーバーで連絡をしつつ、慎重に馬を進めた。

「麒麟はキリンと鳴くのか」
 おおと打ち震える万歳丸。
「紅葉がいるかもしれない、悲鳴もあげない? いないのかそれとも……急ごう」
 白亜が不安で走り出すと善木と五来が続いた。
「んー、雑魔だと言っていましたよね……でも、キリンも見たいですね」
 黒耀も希望と現実がまじりあっていた。

●落ち着いて!
 ハンターたちは木を遮蔽物に様子をうかがう。呆然としている紅葉と謎の生き物が見えた。
 それの背丈は灌木より高い。足が長く、首がそれ以上に長い細長いが、どこかどっしりとしている。黄色とも茶色とも取れる毛に、黒い網目模様が入っている。首の上にある顔は体にしては小さいが、不敵に笑い獲物を追い詰める狩人のように見えた。角は皮に包まれた物、牙がぎっしりの口……。
「これは違いますっ、キリンではありませんっ!」
 紅葉のつぶやきにそれは反応し、威嚇している。つぶやきと言っても静かな林ではそれなりに通った。
「そ、それは残念です! と言っている場合ではないですね」
「思ったより神々しさを感じないのはまがい物だからだな」
「大型動物なら蹴られる前に後ろ足を狙おう」
 ミオレスカとディアドラ、カインは武器を構えたり、馬の首を向けたり戦闘準備を終える。後はタイミングを計るだけ。
「……なるほど、変わったなりをしているのだな、キリンとは。狙うには十分」
「麒麟じゃねェ? 馬にしては面妖ででっけェナリだが……ンなもん、俺には関係ねェ!」
「あれがキリンというもの……ではないのですか? それは残念です」
 白亜、万歳丸が戦うための準備をし、黒耀もそれらの援護のための札を用意する。
 じわり、彼らは近づく。
「あっ……駄目です、逃げてください、これは、雑魔です!」
 紅葉は雑魔から視線を外さず叫んだ。札が消えて行くため、術を使って周囲を探っていたのだとハンターは見当つけることができる。
 紅葉の叫びは合図となった。
 雑魔は紅葉を尻尾で攻撃して巻き取る。
「ちょ……」
 紅葉はよけきれず、縛られ身動きできなくなった。
「紅葉さん! 今助けます!」
「少し我慢してくれ」
 ミオレスカは少し距離を詰め、白亜はそのまま雑魔を狙う。紅葉を盾にされたり、当てる危険性もあるが、素早く確実に正確に狙う。手ごたえはあり、雑魔は紅葉を離した。
 地面に転がった紅葉は急いで立ち上がっている。
「アンタ! それと相対していたンなら何か気付いたことはねぇか?」
 近づきながら万歳丸が尋ねる。
「……雑魔です。もともとは転移してここにきたキリンだと思いますが死んで……雑魔化したと思われます」
 見たままの噛みつきや首での攻撃は想像付く上、紅葉自身が今食らっている攻撃もありうるわけだ。
「おい、ぼやぼやしていたら己が墓地に送られるぞ! 貴様もデュエリストなら大人しくリバースカードをセットしろ! ターンは待ってくれんのだぞ!」
 札を持ちながら黒耀は紅葉をしかりつける。
「え? え? えと?」
 紅葉は逃げるべきか戦うべきか、懐から札を取り出した。

 仲間が接敵する直前、ミオレスカの『レイターコールドショット』と白亜の『強弾』が雑魔にたたきこまれる。
 雑魔は寒さにより震え始め、困惑の声を上げた。
 ディアドラは雑魔の正面で盾を構え、鋭い突きの攻撃をしたが眉をしかめる。
「むう、少々固いようだな」
「それでも攻撃は効くんだ」
 カインは斜め後方から足を狙って攻撃した。
「が、頑張りますっ!」
 紅葉が火炎符を放ち、命中はしたがあまり威力はなかったようだ。
「いや、宗主、こっちに逃げて来て下さいよ!」
 善木が叫んだ。
 万歳丸が雑魔と紅葉の間に入るように接敵し、攻撃をした。

「きっりーん」
 雑魔は長い首で薙ぎ払うように攻撃をしてきた。前にいるディアドラ、カインと万歳丸、紅葉が巻き込まれる。
 敵の攻撃を見て黒耀が『瑞鳥符』を紅葉に向かって放つ。
「くっ、大王の盾はこのくらいは問題ない!」
 ディアドラは歯を食いしばり耐え、カインも耐える。
「無茶しないで下がれッ!」
 万歳丸は紅葉をかばい敵の攻撃を受け、その力を持って投げ飛ばそうとしたが失敗をした。
「は、はいっ」
 心配そうな顔をしつつも紅葉は急いで善木たちの所に走っていく。
「蹴りより、首か」
 カインは長い首を見て、落とすは難しいと考えた。いずれにせよ、踏ん張る足を狙えばいいのだ。
 一行の反撃が行われた。
 攻撃力や防御力が高くても雑魔であり、次に雑魔が攻撃をしようとしたときには、塵となって消える。

●反省会、紅葉の
「紅葉、怪我をしてる」
 白亜は心配そうに手当をしようとしたが、紅葉は首を横に振る。服の一部が擦り切れているため、気になったのだ。
「私はかばってもらいましたから。みなさんの方が」
「まあ怪我はしたが、大したことはない。それに、雑魔退治に怪我は付き物だ」
 ディアドラが明るい笑顔で応え、ハンターはうなずく。
 雑魔の攻撃は噛みつかれたわけではなかったため、ほぼ打撲だろう。
 紅葉は泣き出しそうな顔で、ハンターと護衛を見渡した。
「大変ご迷惑をおかけいたしました」
 深々と頭を下げる。
「いえ、その、無事で良かったです。雑魔退治の話が出ていたのと、紅葉さんが追いかけていたのを見たという人があって、受付の人が心配していました」
 ミオレスカが説明した。
「キリンに興味があったしな」
 カインはポツリつぶやく。
「それにしても……紅葉殿はどうしてこのような行動を?」
「あの……もともと、その……向う見ずな性格だったのですか?」
 白亜とミオレスカが尋ねる。聞きにくいことは真っ直ぐ聞くに限るだろう。
 紅葉の目が泳いだ。
「本当に申し訳ありません。いえ、その……はしゃぎました……」
「西方は見たことがない物が多いですから」
 黒耀はエトファリカから出てきたばかりのころを思い出していた。
「そ、そうですよね! 町に出ただけでも、建物も匂いも違いますっ! それに、たくさんの本も! 知識が欲しいのです」
 紅葉の声がだんだん上ずってくる。
「知識か? お偉いこった」
 万歳丸の言葉に紅葉ははっとする。妹が『学問なんて役に立たない』と言っていたことを思い出していた。
「そうですか、気晴らしは必要ですし……」
 ミオレスカは紅葉の状況を考えると同情し、肯定する。
「だが、紅葉殿のこれまでの行動を勘案して考えないと同じ事が起こるだけだ」
 白亜は厳しい言葉をかける。心配するんだからやめろと頭ごなしに怒るのではなく、色々と気付いてもらいたかった。
「このままじゃ、アンタ、行く先々で事件に巻き込まれそうだな」
 万歳丸が笑う。
「……そうですね……」
 紅葉は冷静な部分が戻ってきたようで、穏やかな目の色になっている。
「知識は集めて、それを生かしてこそ……エトファリカの役人であり、大江家の宗主ですよね」
「そうだな! 大王としてボクもそう願うぞ。下々の事を考えてこその王だ」
「ふふっ」
 古の大王の生まれ変わりを自称するディアドラの言葉に、紅葉は微笑みながらうなずいた。
「……万歳丸さん、かばってくださってありがとうございます。白亜さん、心配と私を信じてくれてありがとうございます。みなさんもありがとうございました」
「え? あ、うむ」
 白亜の頬は照れでほんのり赤くなっている。
「私……バカでした」
「まずは、我らを振り捨てないで欲しい」
 五来の言葉に紅葉は頭を下げる。
「あのように首の長い生物は初めてみたのですが!」
 黒耀は雑魔だったことを残念そうに告げる。
「キリン……次はぜひ、生きている物をみたいですね」
 しみじみとミオレスカが言う。
「いるわけなかろう! あんなに首の長い物」
「いや……雑魔でいるんなら実際いるだろう?」
「マテリアルが膨れ上がって、首が長くなったのかもしれぬぞ、馬が」
「う、そうか?」
 ディアドラがうなずきながら、カインを納得させる。
「折角、麒麟が見れると思ったンだがな」
 万歳丸が頭を掻きながら天を見上げた。そこを駆ける本物がいれば嬉しいのだが、あいにく見えるのは木々と青い空だった。

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MVP一覧

  • 冒険者
    雪継・白亜ka5403
  • パティの相棒
    万歳丸ka5665

重体一覧

参加者一覧

  • 大王の鉄槌
    ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271
    人間(紅)|12才|女性|闘狩人
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボン(ka5336
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 冒険者
    雪継・白亜(ka5403
    人間(紅)|14才|女性|猟撃士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • 千の符を散らして
    黒耀 (ka5677
    鬼|25才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
カイン・A・A・カーナボン(ka5336
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/12/21 23:41:54
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/12/18 22:07:13