• 闇光

【闇光】夢幻城城門攻防

マスター:龍河流

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/12/24 22:00
完成日
2016/01/04 07:26

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「――夢幻城を討つ」
 人類連合軍総司令官ナディア・ドラゴネッティは、緊迫した様子でその決を下していた。
 夢幻城は先の作戦展開の中でサルヴァトーレ・ロッソの主砲を受けて墜落。
 今だ沈黙を続けてはいるが……その北の大地で繰り広げられた戦火を彼女も知らないわけではない。
 さらには帝国本土への歪虚の侵攻、そしてヴィルヘルミナの件でハンターオフィスはもちろん世界中が大きなショックを受けている。
 それでも夢幻城を討つ。討たなければならない。
 その決断をナディアに迫ったのもまた、帝国本土侵攻という現実に他ならなかった。
 勢いを増した歪虚の魔の手が、今まさに人類の営みの喉元へと迫っている。
 その中で移動要塞とも言えるあの前線基地が力を取り戻し、此度の侵攻の折に人類の目と鼻の先に定着でもしようものなら――
 不幸中の幸いと言っていいのかどうか、敵兵力はその多くが此度の戦線に出払い、城周辺の戦力自体は最小限であると推測されている。
 場内の様子も先の威力偵察で得ている今、こちらも最小限の戦力で、最大限の成果を得ることも可能なハズなのだ。
「連合軍は帝国の件で混乱している……今この時、頼りとなるのはハンターの皆だけじゃ。どうか、頼んだぞ!」
 北の地の命運を握る大攻略戦が、今、始まろうとしていた。


●夢幻城城門
「そうそう――姫様も、いざという時にご自分の身はご自分で守るのですよ?」
 物憂いも怠惰も通り越して、存在することすら面倒そうなジャンヌ・ポワソンに、カッツォ・ヴォイは一応の警告を投げ掛けた。
 これでジャンヌが発奮するはずもないが、自分の役目は果たしたことになる。
 動くかどうかは、彼女の自由。
 そして。
「さて、私は……帰ってしまってもいいのだが」
 自分がどうしようと自分の勝手とばかりに、カッツォは先程ジャンヌらに告げたのとは異なる気分を口にした。
 夢幻城の墜落から間を置かず、それなりの人数を寄越した人間共に興味がなくはない。
 けれども、ここはジャンヌの城だ。カッツォが執着するかと言えば、否。
 このまま城門を出て、どこへなりと行っても構わないだろう。今この時、幾らでも人間共を血祭りにあげる場所はあるのだから。やはりこの城内は、ジャンヌ達のために取っておくべきだ。
 この心変わりを後押しするように、城内から人間の声が聞こえた。早くも誰かが入り込んで来たらしい。
 カッツォのステッキが、足元に落ちる大理石の破片を横に弾いた。破片が転がった先には、小さな女の子がうずくまっている。
「そういえば……おまえを持ってきたのだったね」
「かっつぉさま、おにもつみてなさいって、いったの」
 巨大な棺にも見える箱の傍らで、見るからに柔らかそうな頬を赤くした女の子は、首のもげた人形を抱えて立ち上がった。随分くたびれてはいるが、袖にも襟にも裾にもレースが遊ぶドレスは上等な物だ。
 目が虚ろだが、可愛らしい顔立ちの女の子は、恐れげもなくカッツォの手を掴もうと小さな手を伸ばす。相手がするりと身を引いたせいで掴めず、不思議そうに眺める彼女自身の手は、陶器のすべらかさと球体の関節を持っていた。
「かっつぉさま?」
「おまえの遊び相手は、あちらだ。中の者達と一緒に、あの人間を全員殺せたら、私を追いかけて来ていい」
 どこで拾ったのだが、カッツォの記憶にももうないが、また頭だけは人間のままの『お人形』。ジャンヌが動く気配があるならくれてやってもと、わざわざ連れて来たのだった。箱の中には、『お人形』のお人形が入っている。
 持って帰るのも面倒だし、人間は元仲間には妙に甘いことがある。
 そういう連中をぶつけて、多少なりとジャンヌに力添えをし、人間共も苦しめられれば、この急ごしらえの脚本もそこそこには面白いものになりそうだ。
「さ、殺しておいで」



 夢幻城の城門前。
 壊れた城の破片が散らばる前庭を見透かす大きな門に、小さな影が立ち塞がっていた。
 その背後には、人間大の影が……三十か、四十か。
「ぜんいんころしたら、おいかけていいの」
 首のない人形を抱えた女の子が、にっこりと極上の笑顔でそう言った。
「おとうさんもおかあさんも、みんないるから、すぐおいかけられるよ」
 いずれも上質の服を着た、裕福な家庭の主や使用人を思わせる人形達が、身形に似合わぬ様々な武器を手に、城門を塞いでいた。

リプレイ本文

 墜落した夢幻城の、半ば崩れた城門の前に、異形のモノを従えるようにして、小さな女の子が立っていた。
「ちょっ、なんで子供がこんなとこに」
 城門を護るなら敵歪虚に違いないと、先頭を切って攻撃する勢いだった時音 ざくろ(ka1250)が、たたらを踏んで動きを止めた。
「何かの術に掛けられているとか」
「後ろは陶器の体ってことは、嫉妬の眷族だな」
 一見すると、頭のない抱き人形をかかえて、薄汚れていてもレースの縁取りがふわふわと揺れるドレス姿の女の子は、普通の人間だった。その姿に、エメラルド・シルフィユ(ka4678)が何かに操られているのではと、辺りを見回す。
 他の者も、柊 真司(ka0705)の指摘に素早く周囲の気配を探る。ここが怠惰の眷族を主とする城なのは知られたことで、この嫉妬の人形兵達は、予定外の敵の存在を知らせるものだからだ。
 そんな中で雨音に微睡む玻璃草(ka4538)だけは、場違いに頭上に差し掛ける混元傘の下から、女の子を見詰めていた。
「お人形さんがいっぱいね。お道具もたくさんで、うらやましいけれど……使うあなたもお人形さんなの?」
「きしさまがりゅうをつれてきたわ。すごいおしばいね、ねえ、みんな?」
 会話にはならない声が行き交って、女の子に騎士と指差されたのはセリス・アルマーズ(ka1079) とフェリア(ka2870)の二人。どちらも聖導士ゆえに、騎士とはいささか違うと思ったかどうか。
 竜のようと言われたシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)の反応は、更に不明だ。全身を覆う魔獣装甲は、人らしい仕草一つ、外に漏らしてこない。
 ただ、担いでいたライフルを構える姿勢で、これからの行動を示している。
 そして。
 他のハンター達も、見た。目が虚ろであっても人のままの頭と違い、自分達を指す指が陶器だと。
「こんな……」
「随分と悪趣味なやり方だな。………やっぱり、コッチにもいるんだな」
 相手が堕落者だと察したセレスティア(ka2691)が、何を続けていいのか自分でも分からないだろう呟きを漏らす。同様に、ほんの一瞬だけ目を細めて相手を見やったリカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)の呟きのうち、口の中に留まった部分は、彼の過去に根差している。
 年齢からして、望んで堕落者になったはずはない。そこに僅かなりと感傷を覚えるか、それとももはや人ではないと滅することに全力を傾けるかは、人それぞれ。
 しかし、ザレム・アズール(ka0878)が呼び掛けたように、ほぼ全員があることを気に留めていた。
「堕落者なら、そうした嫉妬の眷族がいる。この場にいないとは限らないぞ」
「そいつも一緒に滅すればいいのよね」
 セリスはさらりと割り切った様子で、早々に初手のセイクリッドフラッシュを放つ体勢を取っていた。すでに人ならざる存在を助ける術はない。仮に目の前の堕落者が自分の妹でも滅すると断言出来るセリスは、ためらいなど持ち合わせていなかった。
 そこまでは思い切れないセレスティアも、ここでためらえば他の仲間に危害が及ぶと唇を噛みしめた。その傍らで、友人でもあるエメラルドが同様の決心を固めてロッドを握りしめる。
「あの子供が指揮を担当しているかもしれない。言動に気を付けろ」
「そうだね、あの人形兵が城の中に行ったら大変だ」
「城内に逃げ込むようなら、俺が道を潰す」
 柊とざくろ、ザレムの声が飛び交う中、まずは遠距離の攻撃法を持つ者が前に出た。否、リカルドやエメラルド、セレスティアの三人は、人形兵に突撃を掛けられても防げるよう、術者や狙撃手を庇える位置で身を低くしている。シルヴィアの射線を妨げないよう、またいつでも飛び出せる姿勢だった。
「灰は灰に、塵は塵に」
 フェリアの祈るような声を合図に、法具や魔術具、魔導機械、長銃が構えられた。
 そこにセレスティアのレクイエムの歌声が流れていく。
「最初はばぁんって、皆がお人形さんを燃やしてくれるのね」
「わぁ、きしさまたちがなにかしてるよ」
 二つの歓声を消し飛ばし、轟音が城門の在った場所を襲った。


 人形兵は、門を通じて見えただけで四十前後。
 いずれも人型で、老若男女が揃い、服装は上流階級のそれから労働者風まで様々。それぞれが手に武器は持っているが、どこかちぐはぐな印象はぬぐえない。
 なにより、人形達の雰囲気に何か共通するものがある気がしていたエメラルドは、城門から出る間もなくファイヤーボールで焼け焦げ、デルタレイで砕かれ、セイクリッドフラッシュの衝撃で吹き飛び、ファイアースローラーで薙ぎ払われ、そこでまだ動けても制圧射撃に弾き飛ばされる姿を観察している内に、ようやく納得いく思考に至った。
「これは……どこかの屋敷の人間をまるごと人形にしたんだ」
 そう思って見れば、似たような服装はお仕着せの使用人達だろうし、庭師や厩番、下働きと思しき男女もいる。彼らの子供らしい幼児も混じって襲ってくる姿は、哀れで醜悪だ。
 ならばあの子供は、主夫婦の娘だろうと思案に沈みかけたエメラルドの肩を、フェリアが杖で軽く叩いた。
「一刻も早く解放してあげられるように、全力を尽くすべき時でしょう」
 呆としている暇などないと友人に諭されて、エメラルドは自分の役割を思い出した。これから前線に立つ仲間と自分の武器とに、ホーリーセイバーを掛ける。
「こちらが飛び込まないと駄目か。門まで前進、装甲が薄い奴はそこから出過ぎるなよ」
 人形兵が門前から散ったのを見て取り、リカルドが全体に声を掛ける。すぐさま応えたのは、防御では頭抜けているセリスだった。
「任せて。壁代わりにはなれるわ」
 ヒールが必要なら、すぐに呼んでと皆と足並みを揃えることも忘れたように飛び出す姿は、歪虚の殲滅しか考慮していないかのようだ。ここまでの道のりでも、こと歪虚となるとそれまでの優しげな聖職者らしい態度が急変していた彼女は、この場にいる人形全てを壊し尽すまで止まる気配などない。
 しかし、その猪突振りを少しばかり困ると考える者もいた。歪虚は滅さねばならないと考えるのは、誰も同じ。けれども、堕落者はたどたどしくとも言葉を話し、多少なりと知恵がある。
 この状況には、歴とした嫉妬の眷族が関わっている。叶うならば、その情報を得たいと思う者達は少なからず居たからだ。
 そしてなにより、全員が目撃している。
「ふふ、追いかけっこに鬼ごっこ。自分だけ飛んでいくなんて、ひどいわ。私だって、負けないのよ」
 門前にいた堕落者の女の子は、遠距離攻撃の直前に、人形兵の一人に抱えられて後方に飛び退っていた。元は覚醒者の人形兵が幾らかその能力を残しているのかもしれない。
 そうした危険が露わになっているが、セリスは皆を庇う位置取りながら、ためらうことなく前に進む。また玻璃草は、ふわふわと傘を揺らしながら瞬脚の勢いで城壁へと向かっていた。どうやら壁を乗り越えるつもりらしい。
「他に道はないが、後の被害を防ぐために足掻く時間は残してほしいな」
 倒すなと言うのではない。ほんの少しだけ、今後に繋げるための情報を得るのに画策する時間が欲しいのだと、誰にともなく柊が零した。
「でも、一秒でも早く、魂を天に還してあげたいのです」
「……どっちにしても、行かなきゃなんにも出来ないよ!」
 セレスティアの声は掠れていて、ざくろの掛け声めいた言い様にともすればかき消されそうだった。それでも、どちらも城壁の内側へと急いでいる。特にざくろはジェットブーツで、玻璃草を追い越そうとする勢いだ。
 一人遅れそうなシルヴィアをリカルドが振り返ると、彼女は先程の連続攻撃の余波で空いた城壁の隙間から顔を覗かせていた小さな人形兵を撃ってから、すぐにリカルドに追い付いて、報告してくる。
「最初に見ていない個体が複数います。何処かから増えているのかもしれません」
「そうか。そこから潰さないと、数で押し切られると厄介だ」
 装備の割には素早い足運びで、二人は仲間を追い掛けた。


 ハンター達全員が城壁の内側に入るまで、一分程度はかかったかもしれない。
 戦場では長くて短いその間に、確かに敵の数は増えていた。門前にいた分はあらかた滅したはずなのに、まだ同数くらいは見える。
 挙句に、狭くはない前庭に三々五々に散っているから、範囲攻撃の利が薄くなっていた。
「ま、四十か五十いるとして、一人で五体も倒せば終わり! お祈りは浄化してからよ!」
「もう、ばぁんって出来ないの? つまらないわ」
 その不利をものともせず、セリスはサーベルで近寄る人形兵を串刺しにしている。それでいて、盾では玻璃草をも庇うように立ち振る舞っていた。
 玻璃草の方は、思いのほか城までの距離があった上、堕落者の女の子を見失って、盾に背中を守られつつ剣傘でこちらも人形兵を突いていた。彼女が仕留め損ねても、突き転がしさえすればとどめはセリスが刺してくれる。
 当人達が動きやすいと思ってはいなさそうなのだが、この二人はなかなかうまく機能していた。人形兵が四方から向かってくる場所に居続けながらも、くるくると互いの位置を変えて、討ち漏らしはしない。

 見た目はほぼ同様に、しかし長年の経験からくる呼吸の合わせ方で、フェリア、セレスティア、エメラルドの三人も人形兵を相手取っていた。
 基本の作戦は、エメラルドとセレスティアが人形兵を相手取りつつ、フェリアの魔法の範囲に追い込む。流石にファイヤーボールは仲間を巻き込む可能性があるので、今はライトニングボルトが主だ。
 それに合わせて。
「どうだ? 何かいそうか?」
「いいえ。こんなことをする悪趣味な輩、きっとどこかで高みの見物を決め込んでいると思ったのだけれど」
 エメラルドとセレスティアは戦闘に集中しつつ、フェリアは二人に護られて、正面に見える城の奥を窺っていた。この人形兵は、エメラルドの見立ての通りに細かなところで共通点があり、同じ屋敷にいた人々らしい。しかも百人近い人数を、まとめてこんな姿にする歪虚なら、その成果を見たがるだろうと姿を探しているのだが……今のところは、残念ながら何も発見出来なかった。
 いや、城の奥の方から別の騒ぎが微かに聞こえるのは、誰かが向こうに見える塔かその手前で戦っているからに違いない。注意していてようやく聞こえる程度の音だが、そちらにこの人形兵達を向かわせることも出来なかった。
 もとよりそのためにここに馳せ参じたのだし、加えて、
「フェリアさん、足元! また数が増えました、注意してください」
 新手が増えたとのセレスティアの呼びかけに、フェリアも正面に視線を戻す。

 どうやら人形兵の中には、四体の覚醒者に準じた身のこなしをするモノが混じっていた。元がそうだったのか、歪虚化した際の変化かは間近に観察しても分からない。ほとんどが男性で、一人だけが女性だ。しかもドレスを着て、よく見れば女の子と顔立ちがよく似ている。
 彼女達の関係は、推測するまでもなかった。
「おかあさま、このおしばい、こわいよ!」
 女の子を抱えて逃げ回る女性の人形兵を、他の手練れが守るように動く。そういう命令なのか、生きていた時の感情が少しでも残っているのか。分かるのは、女の子にはこの集団を指揮する能力もその気もないということだ。
 ただ母親だった人形兵に抱き付いて、城の奥に運ばれるままに泣き叫んでいる。
 ならば、ここで戦えと命令した誰かがいる。まだ近くにいるかは分からないが、そいつを追うことが出来れば、城内外の戦闘にも有利に働こう。
 最初はそう考えて、堕落者と人形兵達を追っていたザレム、リカルド、ざくろ、柊の四人は、予想外に足の速い人形兵達の対応に苦慮していた。追うだけなら、ざくろとザレムにはジェットブーツがある。
 しかし、二人だけで突出してしまうと、人形兵達は囲んでくるのだ。彼我の数で劣る状態は避けるのが賢明だろう。
 挙句に、どこからか人形兵が少しずつ増えてくる。その一体に、後ろから飛びつかれたざくろが、身ごなしで振り払い、そのまま大剣を振り下ろそうとして、動きを止めた。
 彼の脚にかろうじてしがみ付いていたのは、堕落者よりもなお小さい、五歳になるかどうかの幼児だった。全身が陶器と化していて、最初からその姿だったかのようだが、先程から何度も切り結んでいる男性人形に瓜二つだ。
「なんで、こんな」
 闇色の靴に歯を立てる攻撃しか出来ない人形に、ざくろは駄目だと分かっていつつも動けなかった。他の三人もそれぞれに人形兵と切り結んでいて、割って入れる状況にない。
「時音、元に戻す方法はないんだ!」
 それでもざくろに届けと張り上げた、柊の叫びを半ば消し去って、重い銃撃音が轟いた。
 立て続いたそれは、切り結ぶことで動きを止めていた人形兵達の頭を次々と吹き飛ばし、最後にざくろの足元の子供を粉々にする。頭がなくても人形兵達は動くが、撃たれた衝撃で傾いだ身体を立て直すより先に、ザレムもリカルドも柊も、目の前の相手を塵に変えていた。
 塵に変わるのは、もう人間ではない証拠。
「よし、元凶を探りに行くぞ」
 前庭の戦闘音も収まって来て、残りはあと僅かだろう。すぐに前庭の五人も追い付いて来ると、彼らは女性とその子供が逃げた方向に走る。
 途中、大きな箱とも棺とも見える物に気付いたが、そちらを確かめるより追跡を優先した。中を見れば、まだ数体の子供の人形が外に出ようと蠢いていたのを見付けられただろうが。

 追跡は、それほど掛からなかった。
 相手が二体、うち警戒すべきが一体だけなら、ジェットブーツで先回りして挟撃が出来る。
 追いかける間、ザレムは周囲の気配にも警戒していたが、人形兵達を助けようとするモノは現れなかった。また様子を窺っている気配もない。
「捨て駒か……? 外道な」
 人形兵の前に回り、足を掛ける。転倒した人形兵の手から、堕落者の女の子が投げ出され、すぐ後ろを追っていたざくろが受け止めた。そのままがっちりとしがみ付かれて、先程の比でなく困惑している。
 そのざくろの肩を叩いて宥めつつ、女の子に顔を寄せたのは柊だ。
「君のご主人様の名前はなにかな?」
 出来るだけ優しく尋ねたつもりだが、相手は警戒してざくろにしがみ付いている。あまりに子供っぽい動作に思い付いたか、ザレムがポケットからルミナ人形を取り出した。それをぽんと女の子の手の辺りに落とし込むと、顔が上がる。
「ごしゅじんさまは……おとうさまのこと?」
 最初に持っていた頭のない人形は落としたのか、ルミナ人形を嬉し気に抱えた女の子は質問に答え始めた。が、聞きたいこととずれるので、修正していく。
「いや、君をここに連れてきた人は?」
「それはかっつぉさま。かっつぉさま、さきにいっちゃった」
 全員殺したら追いかけて来ていいって言ったけど、殺すってどうするんだったの。
 その殺すべき対象に問いかけて、女の子は柊を見上げた。ついと横合いに立ったリカルドにも、何か尋ねようとした途端にいきなり手で目を覆われて、はがそうと躍起になる。
「なんで、かくすの?」
「うん、お父さんとお母さんに会えるようにおまじないするから、そのままで目を閉じて」
 ざくろにやさしく言い聞かせられると、返事は素直だった。手を組み合わせ、祈り出す。
「魂に救いあれ……」
 リカルドの手にした魔導拳銃の一撃で、ざくろの手の中に残ったのはルミナ人形だけになった。ザレムの一言に、柊やざくろは口の中で唱和したようだ。
 この『処理方法』が、仲間の精神の安定には幾らかいいだろうと、そんな思惑を抱いていたリカルドはそこに加わっていない。
 他の者とは、黒幕の名前を聞き出した安堵だけを共有している。


 予想通りか、そうでないか。
 嫉妬の眷族で、自分が表に立つことなく騒乱を演出して楽しむカッツォの名を聞いたハンター達が城の入口近くまで戻ってくると、通路で差した傘をくるくると回し、自分も踊るような足取りで壊れかけた窓枠の飾り模様を眺めて回る玻璃草がいた。
 その傘の向こう側では、セリスとセレスティア、エメラルドがエクラ教の祈りの仕草をしている。
「シルヴィア君が、君らが間違いなくしおおせると言ったけれど、無事に終わった?」
「あぁ、カッツォの仕業だった」
 さらりと応えたザレムの様子に、セリスは皆の無事を明るく喜び、シルヴィアは兜の前を城を見てから初めて上げて、全員を見回している。
「この箱に人形が詰められていたようです。箱そのものにからくりはなさそうですが」
 中はもう空だからと、それを潰す前に見た光景は、見た六人の誰も口にしなかった。事細かに教えて楽しい話でも、益がある話でもない。
 それより、まだ上階で戦っている誰かの事を考えた方が良いに決まっていた。
「怪我をしているなら、治してしまいましょう」
「フェリア、お前、自分が治すみたいに言うなよ」
 治すのはセレスティアだと、エメラルドに追及されたフェリアが確かにと友人を振り返る。二人の様子に、セレスティアは苦笑を漏らしていた。
「そうだな、たいした怪我はしていないはずだが、まだ上の手伝いがあるしな。よろしく頼むよ」
 柊のこの一声で、ハンター達はまた動き出した。
 城の奥、今度は怠惰の眷族達と戦うことになるだろう。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 4
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 凶獣の狙撃手
    シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338
    人間(蒼)|14才|女性|猟撃士
  • ……オマエはダレだ?
    リカルド=フェアバーン(ka0356
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 歪虚滅ぶべし
    セリス・アルマーズ(ka1079
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 淡光の戦乙女
    セレスティア(ka2691
    人間(紅)|19才|女性|聖導士
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • 囁くは雨音、紡ぐは物語
    雨音に微睡む玻璃草(ka4538
    人間(紅)|12才|女性|疾影士
  • 悲劇のビキニアーマー
    エメラルド・シルフィユ(ka4678
    人間(紅)|22才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談
リカルド=フェアバーン(ka0356
人間(リアルブルー)|32才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/12/24 21:24:08
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/12/21 21:57:58