• 闇光

【闇光】無境界の用心棒

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/12/25 07:30
完成日
2015/12/29 14:33

みんなの思い出

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オープニング

「あの~、私達これからどうするのでしょう? アルミラ隊長……」
「俺達アルミラ小隊は墜落したサルヴァトーレ・ロッソの救援部隊に参加していたんだよね?」
「しかし、出発直後に帝都から救援要請がかかり、どっちに向かうべきかなやんでおられるのでしょう」
 アルミラ小隊は、第一師団に所属する上等兵、シュシュ・アルミラを隊長とする部隊である。
 機械弄りが好きなドワーフのラザニー、イケメンだけが取り柄のエルフ、ステート。そしてアラフォー独身小太り男、ウッドマンという三名の部下と、ブラストエッジ鉱山の戦いで立てた武勲で超スピード昇進を果たしたシュシュ隊長の計四名で構成される。
 ウッドマンの言う通り、シュシュは今後の動き方を決めあぐねていた。
 ラザニーは非覚醒者だがメカオタで、歩いている間ずっと軍用伝話のダイアルを弄くっており、動力源にされていたステートが「いい加減にしてくれないか」とマジギレするとほぼ同時、帝都の軍用通信をキャッチしたのだ。
 地図とにらめっこしていたシュシュだが、正直学がないので帝国式の地図は読めない。アルミラ族の地図はもっと大雑把で絵本のようだったから読めたのだが……。
「隊長、現在地はバルトアンデルス北方3.2km地点。私が帝都の通信を拾えるギリギリの距離だと思います」
「俺の覚醒のおかげでね……?」
「違います! 私の改造のおかげです!」
「まだ出発からそう間もなく幸いでしたな、隊長。して、次はどのように?」
「あーもー……貴様らうるさいぞ! 少しは静かにできんのか!」
 立ち上がったシュシュがひとりずつケツを蹴り飛ばして回ると、反転し帝都方向を指差す。
「帝都の方が全然近い! 一度帝都に戻って状況を把握した後、再度出撃! はいはい、走って走って!」

 シュシュ・アルミラが小隊長に任命されたのは、ゾエル・マハ事件の数週間後のこと。
 任務を完了し帝都に戻ったシュシュは、そこで師団長であるオズワルドから部下を紹介される事になった。
「ラザニーは優秀な錬魔兵だが、非覚醒者でな。頭はいいんだが、ナサニエルが嫌いらしくこっちで預かってる」
「ヒトがマシンを使うのであって、ヒトを消費するようなマシンを作るあの人は間違ってます! そう思いませんか!?」
「わかんね」
「そしてステートはエルフハイムを脱走して帝国各地で女遊びを繰り返していたが、借金で軍に売られた残念なやつだ」
「……オオオ……オズワルド様、その事はご内密にと……ッ」
「ウッドマンは万年二等兵の冴えない男だが……ま、こいつの事は後々わかるだろう。困った時は相談しろ」
「ご紹介に預かりましたウッドマンです。シュシュ隊長、これからよろしくお願いしますぞ!」
 へんてこな三人組を押し付けられたシュシュ。いわゆる窓際族のチームがここに完成したのであった。
 そもそも隊長というのが性に合っていないので困ったシュシュだが、これも自分の思い描く夢の為に必要な事と言われては納得するしかなかった。
 滅んでしまったアルミラ族……だけではなく、すべての迫害され故郷を失った人々の為に、安らげる故郷を作りたい。
 その為には、師団長となって一つの師団都市の運営権限を得るしかない。そう結論づけたのだから……。

 帝都からはあちこちから黒煙があがり、視認した時点で異常事態を感じる事ができた。
 しかしそれと同時にシュシュ達の進行上にいる一体の歪虚も、感じざるを得なかったのだ。
「待って隊長! あの丘の上……かなり強い歪虚がいる……桁外れだ」
 三人の部下の中で唯一の覚醒者であり、猟撃士であるステートが仲間を制止する。
 帝都を眺めるようにして丘の上に立つ鎧姿の怪物に、シュシュは何故か覚えがあった。
「不破の剣豪、ナイトハルト……」
「えっ? それって四霊剣ですか?」
 ラザニーの言葉に頷くシュシュ。途端にラザニーは身体を抱え。
「そ、そういえば寒気が……このぞっとする感じ……四霊剣……ああ……っ」
「隊長、ラザニー殿が失神してしまいましたぞ!」
「見ればわかるだよ……」
 冷や汗を流し、しかしシュシュは部下たちを木陰に隠したまま一人身を乗り出す。
「隊長、何考えてるの!?」
「ちょっと話をしてくる」
「なんですと?」
 頭を両手で抱え、ぱっと手を開く。「あいつイカれてるぜ」と言わんばかりのステートを無視し、シュシュはナイトハルトへと駆け寄った。
「……不破の剣豪、ナイトハルト殿とお見受けする!」
 剣豪は腕を組んだまま半身ほど振り返る。その姿は、あの日見た幻影とはあまりにも違いすぎた。
「どうして見ているだけなのだ?」
「我がわざわざ手を下すまでもないからだ。それにこの国は最初から無理があった。滅びるさだめよ」
「だとしたらそれは、あなたの責任ではないのか?」
 かつて亜人達の楽園であったこの地に侵攻した王国の騎士達。その先陣を切った初代皇帝こそ、ナイトハルト・モンドシャッテではないか。
「それは違うな。我の望みとは少しばかり異なる」
「だろうね。あなたがなりたかったのは“王様”じゃない。立派な“騎士”だ」
 帝国は元々王国の領土だったのだ。それが独立したのは三代皇帝の時代。
 だとしたら彼は“皇帝”などではない。王国に忠誠を誓った、“騎士”の一人に他ならない。
 帝国に来て、歴史を学んでわかった事。この国は、根本からその成り立ちを歪められている――。
「あなたは正義と忠義に殉じた騎士だったはず。それがどうして“ただ見ているだけ”なんてわけがある」
 完全に振り返ったナイトハルトの甲冑が蒼い炎を吹き出し、膨大な負の圧力が満ちていく。
「勘違いするな小娘。剣は既に闇の王に預けた身。この国がどうなろうと興味はない」
「自分が拓いた国だろッ!」
 睨み合う二人。ステートは青ざめた表情で身震いする。
「ちょっとおおお! あの人なんでケンカ売ってんのおおお!」
「いえ、四霊剣をこのまま放置するわけにはいきませんぞ。私はラザニー殿を連れて帝都へ向かい、通信を試みます。ステート殿は隊長の支援を……」
「無理だよ……俺ずっと覚醒しっぱなしでもう時間切れそうなんだもん」
「では、増援を。あちらの方角へ可能な限り全力で走ってください。恐らくはハンターと遭遇できる筈です」
 首を傾げるステートだが、もう恐怖を堪えるのも限界だった。ここから逃れられるのならなんでも良い。
「わかったよ……悪く思わないでよ、隊長!」
 へっぴり腰で走り去るステートだが、腐っても覚醒者。ウッドマンはラザニーを抱え、別方向へ走り出す。
「我は今機嫌が悪い……安価で捌いたその生命、惜しむことすらままならぬぞ」
「自分の国を、故郷を大事にしないで何が王様だ! あったまきた! ぶっ飛ばしてやる!」
 二対の手斧を抜き構えるシュシュ。ナイトハルトは小さく笑い飛ばし、鋼鉄の拳を握り締めた。

リプレイ本文

「どうやら既に始まっているようですね……」
 バイクを走らせながら、近づいてくる強力な闇の気配にメトロノーム・ソングライト(ka1267)が目を細める。
 視線の先では剣豪の蹴りが放つ衝撃で岩と一緒にシュシュが吹き飛んでいた。
 打ちのめされたシュシュと剣豪の間に割って入る様に、騎乗で駆けつけたメトローノムとエステル・L・V・W(ka0548)が立ちはだかると、剣豪は構えを緩める。
「ほう……新手か」
「お初お目もじ致しまして、光栄の至りですわ。“元”騎士皇陛下?」
 馬から降りたエステルは目端でシュシュの無事を確認すると、制するように片腕を伸ばす。
「気を静めなさい。アレは闇雲にいなせる相手ではありませんわ」
 後から仲間のハンターが駆け寄る様子を一瞥し、ナイトハルトは腕を組む。仕切り直したいという気配に、到着を待っているかのようだった。
「……思いの外、お優しいのですね」
 剣豪がメトロノームの言葉を無視している間にハンター達が駆けつける。
「大丈夫、シュシュ? 一人で無茶するから……」
「イェルバート! わざわざ来てくれただか?」
 シュシュを支えるイェルバート(ka1772)。その視線は剣豪に向けられる。
 ブラストエッジの戦いで垣間見た姿とはかけ離れているが、何故かやはり初対面には思えなかった。
「何故揃いも揃って女子供ばかり寄越すのだ。ソサエティは人材不足か?」
「まだ私達を女と侮っているようね」
「ミィリアは確かに女子だけど、その辺の男の子には負けないくらい頑丈でござるよ!」
 ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)の隣でスクワットするミィリア(ka2689)に剣豪はがくりと肩を落とし。
「女を殴るのは趣味ではないのだが……そちらは話が別だ」
 剣豪が殺気を露わにしたのは紅薔薇(ka4766)に対してだ。
「貴様はオルクスから危険だと聞いている。可能なら始末しろともな」
「ほう……不破の剣豪殿にそう言って貰えるのは光栄の至りじゃが……とりあえず、色紙にサインをくれんかのう?」
 笑顔で色紙を差し出す紅薔薇にハンターの視線が集中する。
「この我にサインを、だと……?」
 剣豪の鎧の隙間、赤く眼孔が輝く。亡霊はがしゃりと鎧を鳴らしながら紅薔薇に歩み寄ると、ぬぅっと腕を伸ばし。
「よかろう」
(いいんだ……)
「あっ、“紅薔薇へ”とも入れて欲しいのじゃ」
「よかろう」
(いいんだ……)
 皆が心の中で突っ込みを入れている間に一分の隙もない達筆なサインが完成した。
「東方の文字だというのに流麗じゃの~!」
「武芸百般極めしなれば、筆の誤りある筈もなし」
 二人は見つめ合い、互いに背を向け距離を取る。もう終わったようだ。
「あの……コボルドの王、ゾエル・マハの事を覚えてる?」
「無論だ。強き蛮族であった……むしろ貴様がよく知っているな。オルクスから報告は受けていたが、奴を封じた者の一人か」
「英雄ナイトハルトの話は小さい時から知ってる。だけど、英雄になんかなりたくなかったとか、思ったことはあるのかな?」
 目の前の歪虚がナイトハルト本人ではなく、それをベースに無数の英霊が集ったものだとイェルバートは知っている。
 だが、あの戦いを乗り越えたからこそ、訊かずにはいられなかった。
「小僧。そもそも英雄とは自称するモノではない。後世の人間が勝手に祀り上げるモノだ。我らは英雄を望んだ事などない」
 そう語り、一拍置いて。
「貴様らはここに何をしに来た? 目の前に闇の者を置いて物思いに耽るほど、光の戦士は悠長か?」
「勿論、戦いにきたのよ。ナイトハルト……あなたに一騎打ちを申し込むわ!」

 ナイトハルトとの一騎打ち、それがユーリの望みであった。そして剣豪は断る事なく決闘は始まった。
 ユーリの振動刀は自分専用に最大限の改良と愛着を注いだ逸品で、その刃が剣豪を守護する“天衣無縫”を無効化する事は過去に立証済み。
 しかし剣豪は躊躇いなく拳を繰り出す。ユーリは無闇に攻めず、攻撃を凌ぐ事を優先し、大砲のような威力の拳の連打を受け流していく。
「良く持ち堪えていますが、一騎打ちに勝ち目はありませんわ」
「武神……そう呼ばれた歪虚、ですか」
 エステルとメトロノームが観戦する中、ユーリの身体にダメージが蓄積していく。
「……貴方は確かに強い。だけど、ただ一つ……貴方は勝っていないものがある。それは……他でもない自分自身だっ」
 蹴りの衝撃に地面を滑りつつ、ユーリは構え直す。
「英雄は奴隷だと、自分はそうやって作られた存在なのだと。そして、それを望んではいなかったと。望んでいなかったのなら、自分の手で変えれば良かったんだ」
「小娘が良く言う」
「意識の手綱を手放すな、神経を研ぎ済ませろ、恐怖を超越しろ……これは紛れも無い、貴方自身の祈りだ。自分は逃げてしまったから、自分と同じ結末を辿って欲しくないから……っ」
 鞘に収めた振動刀を腰溜めに構え、一気に大地を蹴る。
 距離を詰めると同時に鞘走りから生じる雷の一撃。それを剣豪は肘と膝の間に挟み込むようにして受け止めた。
 刀を固定したまま、空いた拳に黒炎を纏わせた一撃。ユーリは咄嗟に剣を手放し腕を十字に構えて受けるが、思い切り吹き飛ばされてしまう。
「おお~! 剣豪さんのパンチってたまに爆発してるのなんなのでござろう?」
 瞳を輝かせるミィリア。剣豪はユーリの刀を指先で回転させ持ち直し、斬撃波を放つ。
 大地を刳り突き抜ける光からユーリを救う為、覚醒したエステルがユーリと共に横へ跳んだ。
「世話が焼けますわね!」
「ごめんユーリさん……加勢するよ!」
 リボルバーの引き金を引くイェルバート。放たれた弾丸を剣豪は手の甲で弾く。
「ほう。良く鍛えているな、小僧。我が守りを食い破るか」
「見せてくれぬか、剣豪。かつて、お主等が人々の幸せを願い、強大なる敵を討つために積み上げた武の神髄を」
 紅薔薇が鞘から解き放った刀が光を纏う。舞うように懐に切り込んだ紅薔薇の斬撃に剣豪はユーリの刀を合わせ、打ち払う。
「その刀はそろそろ返してもらいますわ!」
 エステルは側面から槍を繰り出し、剣豪の腕を狙う。衝撃と共に刀は空に投げ出された。
「その戦闘技法……貴様、古い辺境騎士の出か」
「あら、ご存知でしたの? まあ、記憶されているかどうかなど瑣末な事ですわ」
 獅子の精霊から受けた加護で獣染みた姿に変貌したエステルは、両腕の筋肉を隆起させていく。
「わたくしは獅子。ご存知の通り、ずっと古い騎士……いいえ、“戦士”ですわ。相手が例え主家の英霊であろうとも、容赦はしませんわ!」
 繰り出される槍を紙一重で回避し、剣豪は槍を蹴り上げた勢いのまま縦に連続で回転し、エステルを蹴り飛ばす。
「懐かしいぞ、戦士よ。あの頃は“辺境”も“帝国”もなかった。我らの敵は蛮族、そして歪虚共であったな……!」
 追撃で射出された右腕がエステルに迫るが、これをメトロノームは風を纏ったグローブで弾き、炎を纏った聖剣で襲いかかる。
「魔術を扱う剣士……魔法剣士か。エルフの中には、確かにそういう類の者もいたか」
 メトロノームの視界の中で、突如剣豪の腕が多数に枝分かれする。
 否。超高速の連打。早いだけではない。打ち方は多様を極め、フェイントと本命の区別が全くつかない。
(予測できない……集中しなければ)
 辛うじて受け止めるも体勢を崩したところへ回し蹴り。脇腹に直撃するも、風とイェルバートの作った防御障壁で守られ、自ら跳んで衝撃を緩和する。
「凄まじい動きじゃな……。ノータイムで次から次へと技工を凝らした技が繰り出されておる」
「おお!? やっぱりそうなのでござるな!」
 紅薔薇の言葉にポンと手を打つミィリア。じ~っと様子を伺っていたのだが、何かを思いついたように笑みを浮かべる。
「ミィリアにちょっと考えがあるでござるよ!」
 シュシュから投げ渡された刀を手に再び剣豪へ襲いかかるユーリ。
 多人数の攻撃でも剣豪は無思考に次々に的確な手で凌いでいく。
 ミィリアは首をこくこくと動かしリズムを取りつつ、やや距離の離れたところで腰を落とし、鞘に納めた愛刀を握り締めた。
「あれは……私と同じ構え方?」
 首を傾げるユーリ。他のハンターが交戦する中、ミィリアは様子を伺うようにして数歩軽く助走をつけ、一気に大地を蹴り加速した。
 桜の花弁を舞い散らせながら距離を詰めたミィリアの放つ抜刀のモーションは、ユーリのものと完全に同じだ。
 剣豪はそれを目端で捉えただけで、完璧な精度の対応を出す。即ち、肘と膝による噛み殺しである。
 ミィリアの刃は停止した。しかし次の瞬間、衝撃波が剣豪の身体をくの字に折り曲げた。
「かかった!」
 怯んだ姿勢のまま剣豪が繰り出す拳を既に刀から手を離していたミィリアは身体をそらして回避し、更に鞘で剣豪の顎を思い切り打ち上げた。
「神剣開放――狂華月刃!」
 次の瞬間、背後に回りこんだ紅薔薇が膨大なマテリアルを滾らせた斬撃を振り下ろした。
 剣豪は片腕でこれを防ぐが、腕ごと切断。更に鎧に袈裟に大きな刀傷を作った。
「メトロノームさん、魔法を! 霊体は魔法に弱い!」
 様子を窺っていたメトロノームはイェルバートの言葉に頷き、聖剣に雷を纏わせる。
「吼えよ雷鳴――歌のように」
 虎のような幻影を描いた雷は加速すると槍のように形状を変化させる。そこへイェルバートがデルタレイを合わせ、剣豪を吹き飛ばした。
「入った……!?」
「やりますわね……でも、どうやって?」
 驚くユーリとエステルを前にミィリアは頭上に手を伸ばし。
「簡単でござる。剣豪さんの反応は幾らなんでも早過ぎるんだよね。つまり、“意識してやってない”んだよ」
 剣豪の挙動は武人そのものだが、以前本人が言っていたように、その動きは既に“本能”に昇華されている。
 故にどんな技工も実は意識的なものではなく、“反射”に過ぎない。これは恐るべき脅威そのものだが……。
「全く同じ反応を呼び出すのは難しいけど、似たような反射を引き出せれば……」
 ミィリアの居合は刃から衝撃波を放つ“朧月”を纏って繰り出された。刃は止めたが、衝撃波が直撃した。顛末はそういう事であった。

 吹っ飛んで帰ってきた刀を掴み、鞘に戻すミィリア。魔法攻撃を受けた剣豪は焼け焦げながら、崩れた体勢を立て直しつつあった。
「流石にあれじゃ倒しきれないか」
 深く息を吐くイェルバート。剣豪は切り落とされた腕を吸い寄せ、がちゃりと接続する。
「よもや腕を落とされる事になろうとはな……」
「武器も持たずにこんなところに来るからですわ。貴方……こんなところで何をしていたの?」
 エステルの問いに剣豪は遠く、黒炎の上がる帝都を見やる。
「あそこに乗り込み、人間を虐殺する……それが我の役割であった。だが、それは刀鬼に任せた。我の性に合わんのでな」
「性に合わない……? あなたは……本当は弱い存在なのですね」
 メトロノームの言葉に振り返る。そんな事を言った所で意味があるとは彼女も思ってはいないが……。
「自らが望んだ在り方と違うからと、戦いから逃げ出すような真似……わたしは絶対にしません。それが戦いの“覚悟”というものではないのですか……?」
「それは違うな、女。望まぬ戦いなどするものではない。貴様は美しい。争いに遠き場所で歌でも歌う方が良かろう。戦場だけが戦いでもなかろうに。貴様が痛みを背負い戦いに殉じたとしても、過去は変わらぬのだぞ」
「そんな事は……あなたには関係のない……っ」
 余計な話に乗りそうになっていると気づき、意識して口を閉じたメトロノーム。
「最後に聞きたいのじゃが。剣豪、いやナイトハルト殿。お主は……剣王に負けて悔しくは無かったのかのう?」
 刃を収めながら紅薔薇が訊ねる。
「お主の心が剣王によって安らぎを得た事は知っておる。だがお主と、お主に宿る幾多の武人達の想いは、本当にそれで納得したのかのう?」
「王のお陰で我はここにいる。気に入らぬ戦いを突っぱねる事も、我が死ぬ事も、あのお方は受け入れて下さる」
「そして私達と闘いながら伝えようというの? 自分自身から逃げるな、と……」
 ユーリの言葉に剣豪は背を向けたまま応えない。
「私は逃げない。眼前にいる貴方からではなく、私自身から。何度倒れても諦めない……ここで諦めてしまったら、私は私自身に負ける事になる。“大切な人達と共に歩む”という祈りを、その為に戦う意志を捨てる事になるから」
「ヒトの願いが作り出したものなら、打ち倒すのもきっとヒトの強い願い。超えるべき壁として未来への可能性を通せんぼしてくれちゃうんなら、絶対に破ってみせる! 以上!」
 ビシリと指差すミィリア。剣豪は背中を向けたまま低く笑い、肩を竦める。
「ならば乗り越えてみせよ。多くの民を救い、敵を滅ぼし……次世代の英雄としてな」
 帝都に背を向けて歩き出す剣豪。ハンター達へ近づく様子に敵意は感じられない。
 そうしてハンター達の目の前に立つと腕を伸ばし、ミィリアとユーリの頭を撫でた。
「また逢おう。次は戦場で、な……」
 そのままスタスタと歩き去る剣豪を見送り、ハンターたちはどっと息を吐く。
「結局あいつは何しにきただ?」
「わからない……けど、話は通じるんだなって。コボルドの時もそうだったけど、やっぱり話を聞かなきゃわからないことだってあるよね」
 イェルバートはそう言って遠ざかっていく背中を見つめる。例え言葉を交わした結果、闘うことしかできなかったとしても……。
「この国は僕が生まれ育った場所だ。今ここで生きているヒトが大勢いる。どんなに間違いだらけだとしても……滅びていいわけがない」
「オルクスの命令に逆らって帝都襲撃に参加しなかった……それが事の真相かしら? 随分不安定な存在ですわね」
「関係ありません……。わかったような事ばかり言って……英雄のなれの果て? 武神? あれはただの歪虚……ただの敵です」
 微かな苛立ちと共に吐き出した言葉はメトロノームが自分に言い聞かせているかのようだ。
 それはあの歪虚から投げかけられた言葉が憐憫に満ちていたからだろうか。
「自分だって……」
 考えるとまた余計な事を言いそうになる。深く息を吐き、メトロノームは空を見上げた。
「不破の剣豪、ナイトハルトか……。敵ながら、これ以上の師もおらぬかもしれぬな」
 腕組み頷く紅薔薇。ミィリアは撫でられた頭に手をおく。
 今回の戦いは特に、全力を出していたようには思えなかった。
 歪虚として、武神として、とてもアンバランスな場所にいる敵。
 いつかは必ず殺し合い、どちらかが滅びなければ終わらない因果。それでも今は、わずかに交わした言葉があった。
 奇妙な縁が終わるその時を、ナイトハルトは待っているのかもしれない。
 自分を超える、新たな英雄が現れるその時を……。

依頼結果

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MVP一覧

  • 春霞桜花
    ミィリアka2689

重体一覧

参加者一覧

  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • その名は
    エステル・L・V・W(ka0548
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • →Alchemist
    イェルバート(ka1772
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
メトロノーム・ソングライト(ka1267
エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/12/24 21:10:38
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/12/20 23:06:57