• 闇光

【闇光】ラズビルナム防衛戦

マスター:湖欄黒江

シナリオ形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/01/03 19:00
完成日
2016/01/10 16:33

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 ゾンネンシュトラール帝国でも最悪の魔法公害の現場となった、汚染区域『ラズビルナム』。

 森林部の調査は秋頃に無事完了したものの、
 直後に人類連合軍発足と北伐が発令されたことで、次回調査隊の結成は先送りになった。
 錬魔院側の調査責任者・クリケット(kz0093)もサルバトーレ・ロッソに移ってしまうと、
 駐屯の帝国軍部隊には来客の当てもなく、皆、監視基地に籠って退屈な日々を過ごしていた。
 帝国は先日、南北東三方より歪虚の大規模侵攻を受けたばかりだが、
 帝国領北西に位置するこの陸の孤島は、不気味なくらいに平和なままだった。
「また、ハンターのきれいどころでも訪ねてくれれば、クリスマスも楽しかったんでしょうけどね」
 年の瀬も近いある日の夕暮れどき、基地内の食堂で、とある兵士が仲間に愚痴をこぼす。
「何言ってやがる。去年の今頃、おれたちがどんな暮らしをしてたか……」

 ハンターは来なくとも、彼らがこれまで調査隊参加に併せて残していった設備や物資が、
 監視基地の生活をいくらかなりとも豊かにしていた。
 まともな便所や浴室、薬や包帯の揃った医務室、雨天でも使える屋根つきの訓練場。
 雨水の浄化用プールが成功し、生活水の確保も楽になった。食堂もメニューを改善した。
「毎食しつこくキャベツがつくのは、正直どうかと思うけどな」
 後方の補給基地から、何故か毎月大量に送られてくる自家製ザワークラウト。
 兵士は他の仲間の皿に、そっと自分の分を移し替えた。


 日没と同時に、ラズビルナムの森が赤く、ぼんやりと輝き出す。
 現象自体は以前も断続的に確認されていたもので、今回は1週間前から毎夜続いていた。
 雑魔の大量発生を警戒して日中の哨戒任務を増やした他、夜間は物見櫓からの観測・監視を継続。
 しかしその晩の観測員は、森の上空に見慣れぬ奇妙な影を見つけた。

 物見に取りつけられた鐘が鳴らされ、犬や馬が一斉に吠え猛る。
 兵舎や食堂、資料室、訓練室からどやどやと兵士が飛び出してきて、
 基地の北に敷かれた哨戒線の向こうを見やれば、森がいつにも増して強く輝いている――
「違う、ありゃ燃えてるぞ!」
 観測員が隊長に報告する。森林部上空に剣機・量産型リンドヴルムらしき敵影を発見。
 直後、敵は抱えていた貨物を森に投下した。中身は焼夷弾の類だったと思しく、
 森の南側を中心に煙が上がったかと思うと、あっという間に火が回り出した。
「今月は、雨も雪も例年より少なかったからな……しかし、どうして剣機が森を焼くんだ?」

 かつて『魔女の森』と呼ばれた、汚染区域内の赤く枯れた森。
 内部は雑魔の巣となっており、いっそ焼き払ってしまえればと考える軍人も少なくなかったが、
 煙と共に大量の汚染物質が撒き散らされることを恐れ、錬魔院が許可しなかった。
「汚染が目的か?」
 隊長は訝しみつつも、皆に戦闘配置を命じると、
 自らは基地中央の司令室――と名づけられた小屋に入り、部隊指揮を執った。


 やがて、司令室に設置されていたマテリアル観測装置が、基地の南北3キロ付近に歪虚の集結を感知した。
 北側の物見では、森を焼け出され、哨戒線の向こうからこちらに雪崩れ込む雑魔の大群を視認。
 基地南側は灯りもない荒野で、日没後は敵の目視も難しかったが、
 補給基地より通信で、スケルトンやゾンビ、巨大な亡霊の軍団が汚染区域目指して移動中、と知らされていた。

 南側の戦力、そして森を焼いたリンドヴルムは間違いなく四霊剣、ないし北狄の手によるものと思われたが、
 先日の大規模侵攻を経て何故今更、こんな僻地を襲うのか?
 何故、補給基地の付近を素通りして、ラズビルナムを狙うのか?
『奴らもいい加減、前哨基地が欲しくなったんだろう』
 いくつもの基地を経由して司令室に届いた、ノイズだらけの伝話。ロッソにいるクリケットの声だ。
『覚醒者以外は立ち入れない、重度汚染区域。
 歪虚には恰好の根城だろう。事実、俺たちが調査隊を始めるまでずっとそうだった訳だし』
 歪虚側は当面、主戦力を大規模侵攻に割いてしまっていることだろう。
 しかしラズビルナムの森を焼けば、中に溜まった雑魔を『現地徴発』できる。
『大規模侵攻に乗じて帝国に侵入した北狄や剣機を、焼け跡に集める腹かもな。
 差し当たって、連中の狙いはあんたらの監視基地だ。そこから順次、近場の基地を落して支配域を拡大する。
 ところで、ハンターは要請したのか?』
 要請していた。ハンターたちには、南側の敵を迂回し、
 緊急避難路をさかのぼれば無傷で基地に集合できるだろうと、伝えてあった。
『オーケイ。例の武器も弾だけ入れといて、連中が来たら預けりゃ良い。時間があれば、誰かに資料室から……』
 基地のどこからか、立て続けに銃声がしたかと思うと、
 不意に通信のノイズが激しくなり、クリケットの声が聞き取れなくなった。司令室の扉が乱暴に開かれて、
「剣機が、空から雑魔をばら撒いていきました!」
 伝令役の兵士が告げる。敵は空中投下で直接、基地を攻撃にかかったか。
 爆撃がないのは解せないが、兎も角、基地内部の安全を確保せねば話にならない。
 完全に途切れてしまった通信を諦め、隊長と室内の部下は銃を取った。


 監視基地は、哨戒線を越えて雑魔の襲撃があった場合に備え、様々な防御策を用意していた。

 まず基地施設。敷地は高低2重の、先の尖った砦柵で囲われている。
 四隅には鐘を下げた物見櫓が建てられ、基地の周囲を広く見渡すことができる。
 柵の外側には通路の部分を除いて、深さ1~2メートルの空壕がぐるりに巡らされていた。

 壕には木杭を仕掛けてある他、基地の北500メートル地点に置かれた警戒陣地と、
 1.5キロ地点の前進陣地に繋がる通路としても使われる。
 どちらも土嚢や簡易の柵で囲った上、弾薬箱が少しばかり埋められた小さな野戦陣地だった。
 南側には緊急脱出用の避難路が、やはり壕と繋げて1キロほど先まで掘り下げられている。
 敵が南からも押し寄せている以上、避難路としての役割はあまり期待できないが、塹壕代わりにはなりそうだ。
 基地内部からこれら通路に降りるには、司令室地下から壕へと繋がった、鉄扉つきの短いトンネルを使えば良い。

 基地の東西と北側に数か所、導火線で起爆できる『地雷』、試作品のマテリアル爆薬と弾丸の瓶詰も埋設されていた。
 同じ作りの簡易爆弾も用意があり、物見に取りつけた小型の投石機を使えば、遠くへ打ち出すこともできる――
 機導兵器の導入によって帝国軍各隊で余り始めた旧式砲の火薬が、どういう訳かこの僻地に流れ込んでいた。
 そしてクリケットと調査隊の置き土産、大型魔導銃オイリアンテMK2が1丁。

 後は50名の帝国銃衛兵と戦馬30騎、魔導トラック2台、番犬が2頭。
 これにハンターを加えて、果たして監視基地を守り抜くことができるか――

リプレイ本文


 監視基地に投下された、体長2メートルのクモ型剣機20体。
 5体ずつに分かれ、基地内部の建物を黒い、ねばつく糸で覆っていく。
 量産型リンドヴルムも空のコンテナを投げ捨てた上、4機編隊で機銃掃射を開始。
 頭を押さえられ、クモ型の迎撃も間々ならない中、何人かの兵が隙を見て南門を解放、
 ハンターたちが内部へ雪崩れ込む、その先頭に、巨馬にまたがった水流崎トミヲ(ka4852)の姿。
(気になってたんだ。前回の一件、『何故剣機が「召喚」したのか』って)
 先日、帝国軍の輸送隊を襲った剣魔クリピクロウズ。
 その出現地点は、リンドヴルムから投下された正体不明の石碑だった。
(剣機……あるいはその上役が、剣魔に興味を覚えてる、ってことかな)
 ラズビルナムが剣魔の正体に関わる場所だとすれば、今回の襲撃の目的も――
「来ますっ」
 ミオレスカ(ka3496)の声で、リンドヴルムの狙いがこちらに向いたことに気づく。
 トミヲは咄嗟に杖を構えると、
「高まり、荒ぶれっ! 僕のDT魔力!」
 正面から降下してきたリンドヴルムへ、魔法の火球を放った。
 爆炎に巻かれて姿勢の崩れた2体に、続いてミオレスカが拳銃を連射する。

「装填済みだ」
 兵士からオイリアンテMK2を手渡された白金 綾瀬(ka0774)は、
「ありがとう。北狄で使ったやつと、扱いは大体同じのようね」
 早速腰溜めに構えて、司令室の屋根越しに西へ抜けようとしていたリンドヴルム2体を狙った。
 強烈な反動と共に撃ち出された砲弾は、後方1体に命中。
 敵が墜落、司令室の脇の地面に転がり込むと柊 真司(ka0705)がすかさず駆け寄り、
 巨大化させた光斬刀の刀身で、翼2枚をまとめて切り裂いた。
(これで飛行はできまい!)
 仕留めにかかる真司の視界の端に、ごそごそと動き回る黒い影があった。
 ザレム・アズール(ka0878)が手にした魔導大剣を振りかざせば、
 クモ型の粘着液が真司を見舞う前に、火炎放射が敵を焼き払う。
「残りの敵は――Amhran!」
 ザレムの呼びかけに応えるように、Uisca Amhran(ka0754)の法術の光が建物の陰から放たれる。
 手近な敵はそれで蹴散らしたか、Uiscaのバイクが走り去る音と共に、
『こちらでは、5体の撃破を確認しています』
「了解。まだ基地に居残ってるのは13……いや」
 トランシーバーでUiscaと会話しつつ、ザレムはふと顔を上げる。食堂の屋根に新たな敵影。
「10体程度か」
 ザレムの目前に光の三角形が現れると、デルタレイの3本の光線がクモ型を刺し貫いた。
 敵はあっさりと動かなくなるが、建物を覆った黒い巣はそのままだ。
 ザレムが松明の火を近づけてみるが、糸は中々焼き切れない。
 伝話に対する妨害効果と併せて、単なるクモの糸ではないようだった。

「貪狼(ka5799)様、彼奴らの吐き出す糸に御用心なさいませ」
 月雲 夜汐(ka5780)は相棒の貪狼と共に、残るクモ型を建物の隙間へ追い詰めた。
 ちょうどその先に回り込んでいたボルディア・コンフラムス(ka0796)が、
「コイツで終いか!?」
 長柄の武器を振り回し、後退中の敵をまとめて薙ぎ倒した。テリア・テルノード(ka4423)が言う、
「クモはこれで全部の筈だけど、伝話の不調は直ってないみたいだ」
「そこら辺の手当ては、飛び回ってる連中を墜してからだな……、
 ケッ、クリケットの野郎、冗談にマジで返してンじゃねぇよ」
 ボルディアの攻撃を逃れた敵を、テリアが拳銃で仕留めながら、
「調査隊に長らく関わってきた身として、信頼を裏切る訳にはいかないね?」
「……まぁな。あそこまで期待されて応えないンじゃ、女が廃るってモンだ」

 ミオレスカの銃撃でリンドブルム1体の高度が下がると、
 櫓に登っていたリリティア・オルベール(ka3054)が、その背中目がけて跳躍する。
 左右の手に握った刀を空中で振るい、敵の翼を切り裂くと、自らは厩舎の屋根に着地した。
「これで最後! 止めをお願いします!」
 全機墜落したリンドヴルムへ射撃と魔法が集中し、更には真司、ボルディアが近接で仕留めていく。
 そうして基地内部の歪虚はあっさりと掃討されたが、敵の主力は依然、南北にひしめいている。

 リリティアと入れ替わりに、南側の櫓へ登ったテリア。
 双眼鏡で外をうかがうも、荒野は暗く、敵数とその距離は未だ定かでない。
(大分、準備の時間は作れたと思うが……。
 北の守りも気がかりだけど、今はあちらの面子を信じるばかりだね)


 北の守り――
「うわー……アレ追い払うの? うわー……」
 トルステン=L=ユピテル(ka3946)が呆れ顔で、哨戒線の向こうを見やった。
 煌々と燃える森の裾から、大量の雑魔が波の如く押し寄せてくる。
 北側を守るハンターと銃衛兵部隊は北1.5キロ地点の前進基地、
 実際は小さな野戦陣地に過ぎないが、そこへ陣取り、敵を待ち受けた。

 クリスティン・ガフ(ka1090)の指揮で4小隊、計16人の兵士が陣地の四隅に並ぶ。
「矢面は我々が引き受けるが、数が数だ。討伐漏れや奇襲の可能性もある……、
 ときに、訓練室は使ってもらえているだろうか?」
 兵士たちはハンターへの信頼故か、至って気楽な笑みで応えた。クリスティンが頷いて、
「鍛錬の成果、見せてもらうぞ」
 騎馬の轡を並べていたリュカ(ka3828)が、敵群の上空を見上げて身振りをする。
 片手に留まらせていたイヌワシに何ごとが囁くと、飛び立たせ、
「彼に空中の敵を追い込んでもらう。
 思った程の数ではないが……地上の群れとまとめて相手したくはないからね」
「もう少し前へ、車を出してもらえますか?」
 メトロノーム・ソングライト(ka1267)が、乗っていたトラックの荷台から、運転手に指示を出す。
 トラック護衛の葛音 水月(ka1895)のバイク、それに他の仲間も一緒に進み出て、前線を押し上げた。
 こちらはハンター戦力10名、対する敵は100を優に超えるが、
「見知った顔に、命を落とさせたくはない」
 前進基地を振り返るリュカの言葉に、クリスティンが頷く。それから長柄の斧を高々と掲げ、
「勝つぞ、皆!」

 幸い、敵は指揮官を持たない雑魔の群れ。まずは突出した飛行型の対処に注力する。
(群れの中央を狙って……)
 ユキヤ・S・ディールス(ka0382)が、ぎゃあぎゃあと騒がしく集まってきたカラスへ、
 法術の光弾を撃ち込んだ。1羽に直撃し、群れはわっとばらけてユキヤを取り囲もうとする。
「げっ、気持ち悪っ!」
 こちらは昆虫の群れに狙われたトルステン。
 ルドルフ・デネボラ(ka3749)と、ミコト=S=レグルス(ka3953)がコンビを組んで前に出ながら、
「ステン君、虫、苦手だったっけ?」
「コロニーにはこんな物騒な虫、飛んでなかった……」
「あんまりキツかったら、俺たちに任せて隠れてるかい?」
 冗談半分で言うルドルフに、トルステンは溜め息を吐いて、
「……そういう訳にもいかねーだろ」
 ふたりに防護の法術を施すと、自らは支援に専念すべく後退した。
 ミコトとルドルフは拳銃で群れを牽制しつつ、敵が雲のようにわだかまるや、ルドルフの火炎放射で焼き払う。

「目障りだ、黙って私に狩られるがいい!」
 不動シオン(ka5395)は刀に持ち替え、飛び回るカラスを手当たり次第に払っていく。
 傍ではカイン・マッコール(ka5336)が、やはり頭上へ集まってきた羽虫の塊へ、
(1匹1匹狙ってたら、きりがない)
 長剣の握り方を替え、峰を使って即席のハエ叩きとしながら、
(奴らは――亜人はまだか!?)
 戦い続けるカインとシオンの耳に、不意に届く歌声。振り返れば、夜闇に蒼い炎の翼が羽ばたいていた。
 メトロノームの魔術。リュカのイヌワシが追い集めた敵を、まとめて呑み込んでいく。
(何て威力! 僕も負けてられないな……!)
 水月もさっと手裏剣を投げ上げ、メトロノームのトラックに横合いから接近していたカラスを次々撃ち落とす。

 前進基地に控えた兵士が発砲するまでもなく、
 飛行型雑魔の群れはハンターの防衛線で消化しきってしまったが、
「油断するな、すぐ次が来る!」
 クリスティンの号令で皆が陣形を立て直す中、ユキヤとトルステンが負傷者に法術を施した。
 こちらのダメージはごく僅か、治癒があれば無傷も同然だ。
(表に見える傷は、の話だが)
 ワシを手元に帰らせながら、リュカの眼は地を這う雑魔の群れと、その奥の森に向く。
(森の雑魔には、毒を持つ個体も多い筈だ。それに、低木や下草が身中に留めていた汚染も、
 火事の煙や灰と一緒に飛び散ってしまったことだろう……)
 リュカは森を焼く炎の中から、微かな悲鳴を『聴いた』気がした。


 クモの糸が光属性に弱いと分かると、ザレムは自身の剣で巣を取り払い始めた。作業を手伝っていた隊長へ、
「敢えて爆撃せずに攻めてきてる。何か狙いがある筈だ、どう思う?」
 尋ねるが、隊長もはっきりした考えはないようだった。
「クリケットの言った通り、汚染区域を拠点にする腹積もりとしか……。
 爆撃がないのは確かに解せないが、先日の大攻勢の影響で割ける物資が少なかった、というのは?」
「四霊剣の懐具合となると、見当もつかないな。
 それより、旧錬魔院の巨大施設が森の中から見つかってるんだよな?」
 隊長はしばし考えると、答えた。もしやこの襲撃自体が、何らかの陽動ではないだろうかと。

「こっちの世界のトラックも悪くないじゃん、レトロな感じでさ!」
 倉敷 相馬(ka5950)の運転する魔導トラックが、南門から出発した。
 荷台には真司と綾瀬、オイリアンテと弾薬を積み、南側から接近中の敵迎撃へ向かう。
 斜め右に走る避難路付近では、貪狼の指示を受けた工兵が、地雷の作製と設置に追われていた。
 彼らの護衛に八劒 颯(ka1804)、ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)も加わり、
 やがて来る筈のスケルトンの群れを待つ。
 自慢のドリルを担いだ颯が、ライフルを抱くツィスカに話しかけた。
「ここ最近は、ゾンビや骸骨の相手ばかりですねぇ~」
「四霊剣始め暴食の歪虚は、帝国の宿敵ですからね。
 ところで先程、どなたか単騎で南へ出立なさっていましたが……ご存じですか?」
 颯は首を横に振った。偵察か足止めか、どちらにしろ単独行動とは度胸がある。

 単独行動の騎馬――ウィンス・デイランダール(ka0039)が、
 闇の向こうに蠢く白い大群を馬上からねめつけた。愛用のミラージュグレイブを握り、
(銃だの爆弾だのは肌に合わない。俺の武器は槍。何時だってそうだ)
 押し寄せるスケルトンの姿がはっきりと視認できる距離になると、馬に鞭を入れ、更に前へと進み出た。
 その間に、彼の頭上遥かを巨大なコウモリらしき影が飛び去っていく。
 後続を足止めせねば、基地周辺が混戦状態に陥る恐れもある。地雷に誘い込むより早く、
(俺ひとりで連中をぶっ叩く。無茶は承知――というより、上等だ)
 ウィンスの馬が駆け出す。スケルトンの進路に立ち塞がり、敵がこちらを向いたと見るや、斬り込んだ。


 コボルド、大蛇、多足昆虫、その他小動物の雑魔が雪崩れを打って、前進基地を押し流そうとする。
(何体来ようと、有象無象の灰塵に変えてやる!)
 シオンが臆さず踏み出すと、吠え猛るコボルドの群れが彼女に襲いかかった。
 拳銃を連射し、怯まないと見ればすかさず刀を取り、斬りつけた。
 先頭の1匹を押し返すも、左右と後方から別の個体が飛びかかる。
 十重二十重の敵をひたすらに斬って捨てる内、彼女の脚に何者かが食いつき、激痛が走る。

 カインの騎馬が、敵群の中央を切り拓く。
(――亜人!)
 憎悪を込めたカインの剣が、コボルドの鼻面を2、3まとめて斬り飛ばした。
 爪が、牙が四方八方からカインを叩くも、彼の甲冑は敵の攻撃を通さない。
 後方の前進基地からリュカが叫ぶ、
「大蛇に気をつけろ、彼らは有毒だ!」

「混戦になる前に、毒持ちを止めないと!」
 ちょうど大蛇の群れと向かい合っていた水月が言うと、
 背後のトラックより、メトロノームの新たな魔法が飛ぶ。
(成り立ての雑魔なら、生物の本能がまだ残ってる筈)
 歌声に乗せて、彼女の手元から飛び立っていく妖精の幻――
 催眠魔法が敵群を取り巻いて、彼らを不意の眠りへ就かせた。
 水月が手裏剣を放ち、有毒の個体を優先して仕留めると、
 次いで現れたコボルドの群れへ、今度はメトロノームの雷撃が突き刺さる。
 傍らでは、ルドルフの放つ火炎が敵の足元を焦がし、ミコトの魔導鋸が撃ち漏らしを処理していく。
 前進基地からも銃声、銃衛兵部隊の一斉射撃が群れを薙ぎ倒すが、
(多勢に無勢、全ては押し止められないか)
 リュカが騎馬で駆け回り、銃衛兵を狙って迂回してきた敵を槍で追い返す。
 何匹かは、既に監視基地のほうへ抜けてしまったようだ――後方に控えた兵たちで、手が足りるかどうか。


「飛行型、敵数8っ」
 ミオレスカの目が、夜闇に紛れて飛来した量産型ファウエムの姿を捉える。
 テリアがトランシーバーで基地内部へ伝達する間、彼女は弓に矢をつがえ、空中の敵を狙った。
(距離がぎりぎり、けど狙えなくは)
 弓を構えたミオレスカの髪が七色に光り出す。意識を集中し、次々に矢を送り出すが、
(牽制は効かない。ここで落とさないと、基地が危ない)
 ファウエムの内4体が、監視基地のほうへ逃れてしまう。残りは基地南側へ降下を開始した。
 避難路の向こうから、オイリアンテの砲声が響いた。厄介な毒霧に巻かれる前に、
「撃ち落とせ!」
 トラックの荷台にて、真司が綾瀬の給弾を手伝う。先の1発は空中で炸裂し、飛行中の2体に手傷を与えたが、
「あの高度じゃ、翼を直接狙うのは難しいわね」
 オイリアンテの砲撃を危険視したか、先の2体が急降下でトラックに襲いかかった。真司の檄が飛ぶと、
「了解、ちょっと揺れるぜ!」
 運転席の相馬がペダルを踏み込み、地雷敷設中の避難路からトラックを離していく。

 敵がトラックに気を取られると、綾瀬は再び銃架を巡らせ、大型魔導銃で先頭の1体を撃墜するが、
「降りてくる気?」
 後方1体が旋回、綾瀬の照準が間に合うより早く、トラックの横腹へ突撃を敢行してきた。
 真司が機導術の火炎放射で迎え撃つも、ファウエムはさっと炎を飛び越えると、
 毒霧を撒き散らしながら、その鉤爪でオイリアンテの銃架を掴み、留まってしまった。
 狭い荷台の上では、大がかりな武器は振り回せない。真司は刀を敵の脇腹へ突き立てた。
 脇腹の装甲に空いた傷口から青い体液が流れ出すが、敵はなおも首を振り立て、毒霧を吐き散らす。
 拳銃を抜きかけた綾瀬も毒液を吸ってしまい、その場に膝を着く。
「何だよ、これ……!」
 毒の粒子は運転席へも侵入し、相馬は喉と胸の痛みでハンドルさばきが覚束なくなる。
 走行中のトラックにぶれを感じた真司は、
(このままじゃ、ふたりがやばいな)
 ファウエムの脇腹に刺したままの刀へ、マテリアルを一挙に流し込んだ。
 敵の体内で、刀身がばきばきと凄まじい音を立てながら巨大化していく。
 やがてトラックが急停止すれば、銃架に留まっていた敵の身体が、ふたつに別れてごろりと転がり落ちた。


(私としては、帝国軍人にして一個人として、
 この戦乱が人の世に何をもたらすのか、何が変わるのか見届けたい。
 汚染区域が狙われた意味も――それを知る為にも、ここで基地を落とさせる訳には!)
 ツィスカのライフルが、基地の目前でファウエム1機を撃ち落とす。
 次いでミオレスカの弓も後続を落とすが、敵は地面へ叩きつけられてなお、
 毒霧を吐き、翼を打ち振るって荒れ狂う。ボルディアが言った、
「奴が隙を見せるまで、近づくンじゃねぇ!」
 ボルディアは離れた間合いで拳銃を使い、まずはファウエムを弱らせる。
 基地の櫓から、トミヲの火球が飛ぶ。敵が身体を焼かれ、毒霧を吐く量が衰えたと見れば、
「行きます!」
 リリティアが飛び出し、敵が抵抗する間も与えず、二刀の連撃でその喉元を切り裂いた。

 避難路付近では、Uiscaが白龍の歌を歌い上げ、相馬と綾瀬の治療に当たっていた。
 同じく聖導士のテリアも法術で解毒を引き受ける中、
 避難路に潜っていた兵士たちが地雷敷設を完了させる。
「最悪、あそこの放棄も考えるなら。いっそ置き土産くらいはな」
 貪狼が言いつつ、夜汐と共に監視基地を振り返る。
 残り4機のファウエムも、射撃と魔法で辛うじて基地目前で撃ち落とせたようだった。

 一面に広がる人骨を踏みしだいて、ウィンスの騎馬が荒野を駆ける。
 群がるスケルトンをミラージュグレイブで薙ぎ払いながら、
 彼は左右に馬を走らせつつ、少しずつ北側へ後退していく。しかし、
(何体倒したんだか――)
 無我夢中で長刀を振るう内、気づけばウィンスはスケルトン50体をそっくり平らげ、
 人骨の山の向こうには今や、跳ね回るゾンビと、地上を滑り来る巨人の影だけが見えた。
(馬が限界だな。俺も、腕がいい加減くたびれちまった)
 ウィンスは地面に降りると、馬の尻を叩いて、ひと足先に基地へと帰した。
 自らはグレイブを両手に握り絞め、じりじりと後ずさりしながら、新たな敵と向かい合う。


「ミコ!」
 ルドルフはミコトと身体を入れ替えながら、
 死角から飛びかかろうとしたコボルドをマテリアルの障壁で跳ね返す。
 仰向けに倒れた敵にミコトが止めを刺すと、トルステンが、
「あっちの姉御がやばそーだぜ。動けるか?」
「うちは行けるよ!」
 ミコトが答え、ルドルフも頷く。
 前方では、ちょうどクリスティンのバイクが死骸に乗り上げて横転し、昆虫雑魔に囲まれてしまっていた。
(大雑把な攻撃では却って仕留め切れんか。だが、手加減をすればたちまち集られてしまう……!)
 クリスティンは斧を振り、脚に食いつこうとする昆虫を剣風で吹き飛ばす。
 そのままくるりと反転して、背後に回った敵を薙ごうとするが、狙いが僅かに高い。
 斧の一閃を掻い潜って、敵が寄り集まる寸前、
 ジェットブーツにて空中より駆けつけたルドルフの火炎放射が、昆虫の群れを焼いた。
 ルドルフは顔についた煤を拭いながら、
「いつかの調査では、どうも」
「こちらこそ、助かった」
 クリスティンが息を吐き、辺りを見回せば、残る敵はほんの僅かとなっていた。

 敵の返り血と、自身の血に塗れたシオンが拳銃と刀を手に、コボルドの群れと相対する。
 しかしこれまでに受けた傷と、それ以上に毒の影響もあり、動きが振るわなくなってきた。
 後退を決意する直前、カインの騎馬が彼女の目前へ躍り込む。
「ご無事ですか?」
 次いで現れたユキヤが、さっと杖の先をシオンの脚に宛がう。法術の光が傷を癒していくが、
「毒を貰ったようだ……済まんな」
「気にしなくていい」
 カインは馬上からコボルドと対峙しつつ、振り返らずにシオンへ言った、
「亜人狩りなら、僕の仕事だ」


(これ以上は、俺ひとりの仕事じゃねーな)
 巨人亡霊の煙幕が辺りに立ち込め始めるや、ウィンスはゾンビとの睨み合いを止め、
 避難路の先端目指して駆け出した。
 亡霊が吐き出す煙玉の射程は明らかに彼の間合いを超えており、ゾンビと同時に相手するのは不利と見えた。

 南側の残敵がウィンスを追って、やがて地雷敷設後の避難路へ差しかかる。
「このまま引き込みますの!」
 バイクを駆って、颯がゾンビの群れへ突撃する。
 彼女が敵群の背後から機導術の炎を撒き、避難路へと追い込むと、
「こちらへ!」
 夜汐が声をかけ、ウィンスに地面の溝を飛び越えさせた。
 テリアも拳銃を撃ち、敵を惹きつけると、
「地雷を!」
「溝から離れろ! チビ助、お前もだ!」
 貪狼の指示に応えて、工兵が地雷の導火線に着火した。
 敵が避難路を飛び越えようとする、まさにその瞬間に起爆。
 爆炎と共に無数の弾丸が打ち上げられるが、敵の跳躍力は予想外に高かった。
(地雷の爆発を抜けてきやがった!)
 何体かのゾンビが脚をもがれて転がるが、最大効果範囲を逸れた個体は、
 下半身に弾を食っても構わず、真っ直ぐに貪狼たちへ殺到してきた。
「そう来るならそれで……望むところだ」
 貪狼が刀を抜く。夜汐と、息を整えたばかりのウィンスも得物を手に、彼と並んだ。
「格闘は、君たちに任せたほうが良さそうだね。援護する」
 3人の後ろには、拳銃を携えたテリア。避難路に沿って北側では、ツィスカも膝立ちで銃を構えていた。

 一方、監視基地の周囲には、巨人亡霊の長射程の煙玉が次々と着弾し始めていた。
 停車中のトラックに綾瀬が上がり、オイリアンテで応射するも、
 物理攻撃に耐性を持つ亡霊相手では、砲撃も思うようにダメージを与えられない。
「車、もっかい出すか!?」
 相馬が言うが、彼も解毒を終えたばかりで、まだ顔色が悪い。彼のトランシーバーへ、
『あの敵は、私が避難路のほうへ誘導します。今の内に、体勢の立て直しを』
 Uiscaの声だった。ファウエムを処理し終えたばかりの仲間が戦線復帰する中、
 彼女のバイクがいち早く巨人亡霊の迎撃に向かう。闇を切り裂くように、Uiscaの法術の閃光が瞬いた。


「僕らの法術も、これでほとんど使い切ってしまいますね」
 小型雑魔の襲撃を何とか退けた後、トルステンと共に仲間の治癒を急ぎながらユキヤが言う。
 乱戦の最中に傷を負った兵士数名には、リュカが撤退を指示した。
「監視基地の戦況も気がかりだ。交替のついでで、知らせを持ってきて欲しい」
 後方で、恐らく待機警戒中の兵のものらしき砲声がしていたのも気になる。
 こちらで討ち漏らした敵を処理したものと思いたいが、
「もし、基地のほうが苦戦してるとしたら。今ここで僕らが下がっちゃうと危ないですよねー」
 水月は言いつつ、治癒で塞がったばかりの腕の傷を撫でる。

 侵攻速度の遅い四足獣型の雑魔が、ようやく防衛線に差しかかりつつあった。
「硬い敵って聞きましたけど、用意した魔導鋸で、さっくり片づけられると良いですね」
 普段は元気一杯のミコトも、流石に疲れた様子でしばし座り込む。
 隣にはクリスティンと、深手から立ち直ったばかりのシオン。クリスティンがシオンに声をかける、
「下がるなら今の内だぞ」
「何、毒さえ治ればまだ戦える」
 シオンは拳銃の弾倉を入れ替えながら、
「敵を狩るなら機を逃さず、必ず根絶やしにせよ……幼い頃から叩き込まれた、教訓だ」
 離れて立っていたカインも、その言葉に無言で頷く。クリスティンはすっと目線を上げ、
「成る程。ならば予定通り、我々であれを狩り尽しておくこととしよう」


 Uiscaの杖から放たれた光弾が、巨人の体躯を覆う黒い靄を眩い光で晴らしていく。
 反撃に絶え間なく送り出される、大量の汚染物質を含んだ煙玉も、
 あるいは白龍の加護の賜物か、Uiscaの攻撃を遮りはしない。
 少しずつ、北へ向いていた敵の進路を逸らして東側の避難路へ引き込んでいくが、
 溝の向こうでは、ゾンビの群れが貪狼たちと白兵戦を繰り広げている最中だ。
「申し訳御座いませぬが……そちらにはお通しすること、許可致しかねます」
 ツィスカの援護射撃に気づき、移動しようとする敵の前へ、夜汐が回り込んだ。
 その脇を貪狼が固め、掴みかかろうとするゾンビの腕を斬り飛ばす。
 電光石火の踏み込みで先手を取り、近づく隙を与えぬようにと戦うが、
「貪狼様!」
 1度は切り伏せた筈の敵が、乱戦の最中に這い寄って、貪狼の脚にしがみつく。
 身動きを封じられた彼を助けようと夜汐が振り返るが、
「馬鹿……ッ!」
 気の逸れた一瞬で、ゾンビが一斉に彼女へ飛びかかる。
(魔導拳銃が効かない、ならば)
 ツィスカが貪狼に運動強化の術を投げ、自身も機導砲で夜汐を囲んだ敵を撃つ。
 貪狼はしがみついていたゾンビを振り払うと、
 夜汐を組み伏せようとしていた敵に前蹴りを入れ、引き離した。起き上がる夜汐へ、
「俺の心配、してる場合じゃねぇだろうが」
「そちらこそ――」
 夜汐は貪狼をそっと押し退けると、彼の背後に回っていた敵を刀で刺し貫いた。
「相変わらず不用心で御座いますね?」
 微笑む夜汐に、ぶすっとした顔を見せる貪狼。ふたりは再び背中を合わせ、周囲の敵へ身構える。

 Uiscaの指示で、工兵が残りの地雷に着火。爆発は巨人亡霊の内2体を巻き込むが、
 元より中空を浮遊していた亡霊に対して、ほとんど効き目が見られない。
(それでも……絶対死守ですっ)
 黒い煙幕に視界を封じられながら、Uiscaはなおも光弾を撃つ。
 残る亡霊2体は監視基地に向いてしまうが、トラックからの綾瀬の砲撃、
 そして櫓に登ったミオレスカとトミヲが、集中攻撃でその侵攻を食い止めていた。
「ここまで来たら、基地は無傷で終わらせたいよね……!」
 トミヲの火球に続いて、ミオレスカが投石器で爆弾を発射した。
 亡霊も狙いを櫓に定め、黒い煙がふたりを包む。トミヲが咳き込みながら、
「ミオレスカ、くん……この煙、やば、けほっ」
「一旦降りましょうっ」
「その……マナー的にはどうかと思う、けど。
 ボクが先に……うっかり踏み外すと、君が下だと危な、ごほっ、体重的に」

 ふたりの攻撃が中断されると、その隙を埋めるように、地上のハンターたちが駆け出した。
 ボルディアが、亡霊に向けて拳銃を撃ちながら叫ぶ、
「あの靄さえ消えりゃ、俺たちの武器も通用する!」
 まさに1体の亡霊を覆う靄が晴れ、核である巨人の亡骸が剥き出しになると、
 真司とリリティアが左右から、挟み込むようにして接近した。
 ボルディアも背負っていたハルバードを取り、近接戦を挑むが、
 突如として巨人から放たれた衝撃波が、3人を吹き飛ばす。
(こんな隠し玉まで!)
 リリティアは咄嗟に受け身を取り、他のふたりもそれぞれに立ち上がるが、
 あの衝撃波の前では接近のしようがない。手詰まりと見えたところへ、
「はやてにおまかせですのっ!」
 ドリルに突き刺さったゾンビの残骸を振り落しながら、颯がバイクで駆けつけた。
 避難路付近のハンターもゾンビを掃討、亡霊撃破に合流し始めたらしい。
 Uiscaの法術とトミヲの魔法が、それぞれに亡霊を直撃、靄を払っていくと、
 颯は走行中のバイクから飛び降りて、勢いもそのままに、
「びりびり電撃どりる!」
 亡霊の1体にドリルを突き立てた。迸る電光が敵を包み込むと、
(今ならやれるか!?)
 再び真司と、近接武器を携えたハンターたちが一斉に踏み込んだ。
 彼らの渾身の攻撃を受け、巨人の亡骸は脆くも崩れ去る。


「闘牛みたいだね、これは!」
 ルドルフが四足獣の頭にレイピアで突きかかると、
 その横合いから、ミコトも魔導鋸で敵を切り裂きにかかった。
「殻を削り取れ! 弱点さえ剥き出しになれば、そう厄介な敵ではない!」
 クリスティンはバイクの後輪を大きく横滑りさせ、
 敵の突進を寸前でかわすなり、その背中を斧ですくうように切りつけた。
 背を覆っていた甲殻が剥がれ落ちると、そこを狙ってメトロノームが雷撃を打ち込む。
(今1度祈りましょう。精霊よ……、
 願わくば、枯れ穢れたこの地に在りても、マテリアルの恵みもたらし給え!)
 メトロノームが魔法に専心する中、トラックの護衛に就いた水月も、巨大なパイルバンカーを抱えて応戦する。
 四足獣の突撃を真正面から腰溜めに待ち受けると、高速で撃ち出された杭が、敵の頭部を易々と貫いてみせた。
(さっすが、重たい思いをした甲斐がありました!)
 他のハンタ―もそれぞれに敵を仕留めていく内、
 前進基地に残っていた兵たちも、隊列を組んで取りこぼしの敵に一斉射撃を加えた。

 魔導銃で蜂の巣にされながら、なおもよろめき歩く最後の1頭。
 リュカは兵士に射撃を中断させると、その1頭に馬を寄せ、首筋を狙って槍の穂先を突き刺した。
 槍を引き抜けば黒い、汚れた血が流れ出し、四足獣はどっと横倒しになる。
「終わったようだ」
 リュカは深い溜め息を吐く。トラックのライトに照らされた地面は、
 血の染みと、蹄や車輪の跡、そして風化が終わらない雑魔の亡骸で埋め尽くされていた。
 ラズビルナムの森が孕んでいた穢れを、この荒野へ一時にぶちまけたような有様だった。

 交代要員兼伝令の兵士を引き連れて、ザレムが前進基地へ駆けつける。辺りを見回し、
「こちらは全員、無事で終わったみたいだな」
「南の守りは、どーよ?」
 トルステンが尋ねると、そちらも無事だと告げられた。
 現在は負傷者の手当てで手一杯だが、幸いにも駐屯の兵士を含めて死者はなく、
 基地設備の損害もごく軽微だと言う。前進基地を突破した僅かな敵も、待機中の兵士が順次処理したようだ。
 しかし、ユキヤが夜空を見上げてふと、
「はっきりとは分からなかったのですが、
 僕らが戦っている間、何かがまた、森の上を飛び回っていたように見えました」
「森が燃えているのも、南側だけだろう?」
 ザレムが言う。森の北側は監視基地からも死角で、汚染区域への侵入者を感知できない。
「火事と監視基地襲撃を目くらましに、北側から侵入した敵があるということか?」
 クリスティンが言って、リュカと顔を見合わせる。
 敵の目的が、汚染区域の占拠にあるのだとしたら――


 監視基地の設備・兵員は、ハンターの奮戦により守られた。
 だがその翌日、駐屯部隊は哨戒線付近の土壌より、急激な汚染の悪化を検出した。
 火災と、それに誘発された雑魔の大量脱出の影響とも考えられたが、
 汚染の程度は日増しに強まり、もはや森の内奥で何ごとかが起こったことを、疑う余地はなくなっていた。

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MVP一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダールka0039
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフka1090

重体一覧

参加者一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 遙けき蒼空に心乗せて
    ユキヤ・S・ディールス(ka0382
    人間(蒼)|16才|男性|聖導士
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬(ka0774
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • びりびり電撃どりる!
    八劒 颯(ka1804
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • The Fragarach
    リリティア・オルベール(ka3054
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • カウダ・レオニス
    ルドルフ・デネボラ(ka3749
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 不撓の森人
    リュカ(ka3828
    エルフ|27才|女性|霊闘士
  • Q.E.D.
    トルステン=L=ユピテル(ka3946
    人間(蒼)|18才|男性|聖導士
  • コル・レオニス
    ミコト=S=レグルス(ka3953
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士

  • テリア・テルノード(ka4423
    人間(紅)|24才|女性|聖導士
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲ(ka4852
    人間(蒼)|27才|男性|魔術師
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボン(ka5336
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 飢力
    不動 シオン(ka5395
    人間(蒼)|27才|女性|闘狩人
  • 力を請い願う銀鬼
    月雲 夜汐(ka5780
    鬼|14才|女性|闘狩人

  • 貪狼(ka5799
    鬼|18才|男性|舞刀士
  • アウレールの太陽
    ツィスカ・V・A=ブラオラント(ka5835
    人間(紅)|20才|女性|機導師

  • 倉敷 相馬(ka5950
    人間(蒼)|18才|男性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
カイン・A・A・カーナボン(ka5336
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/01/03 14:50:53
アイコン 南側防衛線相談卓
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/01/03 14:03:09
アイコン 司令室の机に置かれた伝話
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/01/02 22:46:41
アイコン 北側防衛線相談卓
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/01/03 14:36:20
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/01/02 00:20:27