ニューイヤーらぶらぶ二人三脚

マスター:深夜真世

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
寸志
相談期間
4日
締切
2016/01/13 07:30
完成日
2016/01/25 22:28

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

●物語背景(とばし読み可)
 同盟領のジェオルジ南部にタスカービレという村がある。
 どういう村かというと、発展から取り残された田舎村、というのが一番分かりやすい。
 まずは場所からして内陸部のどん詰まりで人の行き来が乏しく、後背に広がる森からは「鬼ザル」と呼ばれる獣がいるなど安全面でも不安を抱えている。
 そして決定的だったのが、新種の茶葉開発の失敗。
 ジェオルジは農業推進地域として、各村で新たな農産物や既存種の改良を進める政策を推し進めていた。おにぎり草「まめし」などが成功例として挙げられるだろう。
 タスカービレ村は茶葉を担当。
 が、当初からこの選択は危険だと指摘されている。
 理由は、すでに紅茶文化は発達しておりさらなる発展は見込めないから。
 現に、紅茶の製法的には各地で各種の試みがなされ、茶葉以外を取り扱ったり新たな味覚を加えるフレーバーティーに移行すらしている。
 ゆえに、タスカービレは増産特化の改良を推し進めた。
 結果、より枝分かれする品種の開発に成功。
 ただし植物はよくできたもので、葉の数は増えても発育に問題があるなど良好な結果ではなかった。
 このころ、東方でヴォイドとの大規模な戦闘が発生。勝利することで東方文化が伝わって来る。
 さらに、サルヴァトーレ・ロッソからの移民をジェオルジが大々的に受け入れることを発表した。
「これだ!」
 タスカービレ村長のセコ・フィオーリがその重い腰を上げたのは、この時だった。
「天啓だ。……東方文化の流入で茶葉生産は新たな需要が生まれるはず。東方文化系のロッソ民を受け入れれば、茶葉開発の失敗も、若者流出で減少する人口問題も解決するはずだ」
 そんなこんなで、タスカービレは東方かぶれの村になっていくのであった。

●本編
「良かったですね。これであなたの中で眠っていた才能が開花しましたよ」
 冒険都市リゼリオのハンターオフィスで、一人の男が覚醒者となった。
「もしよろしければハンターとして登録されませんか? ハンターソサエティ所属ということで身分も明確になりますし、とりあえず依頼をこなしていけば生活に困ることもないでしょう。ささ、こちにサインを」
 係員の言葉に素直にうなずく男。
 そしてペンを持つ手を止めた。
「名前は……いま改名してもいいのか?」
「その名前に責任を持たれるなら問題ありません。改名を繰り返されてはたまりませんけどね」
「だったら……」
 男、ペンを滑らせた。
 欄には「イ寺鑑」の文字。
「いでら……かん、さん?」
「いや、『にんべんじ、かん』だ」
 イ寺鑑、ぶっきらぼうに言って立ち上がった。
「ロッソの人の名前は難しいです」
「元は違うさ。……ここでは『侍』を目指してみたいと思ってな」
「サムライ……」
「そういえば、日系ロッソ人や中華系ロッソ人の移民を受け入れている村があると聞いたが?」
「はい、タスカービレという村です。ハンターソサエティとしても協力しています。ちょうど、交流イベントの依頼が来ています。まずは見学してみてはどうですか?」
「分かった」
 こうして鑑、ハンターとなった。
 並んだ依頼には確かに、タスカービレからのものもあった。
 内容は、東方の伝統にのっとり、新年に長距離を走る競争イベントをするというもの。距離が約5キロメートルと短めなので、二人三脚での出走者を募っている。
「……駅伝やマラソンの真似ごとか?」
 鑑が顔をしかめたのも無理はない。
 二人三脚もさることながら、スタートとゴールが決まっているだけでルートは自由というのだから。
「まあ、行ってみよう」
 イ寺鑑、35歳。
 こうしてハンターライフの第一歩を踏み出すのだった。

 オープニングが物語背景ばかりの描写になって恐縮だが、そんなこんなで
※「タスカービレ村」での二人三脚競争にペアで出場してもらえる人、求ム!
 
 なお、ジャージ販売に来ている商人組合「テラボ」に同行し、フラ・キャンディ(kz0121)も来場している。

リプレイ本文


 タスカービレ村の北側草原に早春を伝える競走大会の横断幕が高々と掲げられていた。
「へえ、茶畑なんかがあるんだな」
 イ寺鑑(いでら・かん)が周りを見渡して呟いた。
 村の周りには馴染みのある茶畑風景が広がっていたのである。
「ここはいいわ」
 その隣で技術者風の女性が声を弾ませた。
「来たかいがあった。ここなら白茶(ぱいちゃ)の増産にもってこいだわ」
「白茶?」
 イ寺鑑、思わず女性を見た。
「あら、始めまして。私はフィーネ・リスパルミオと申します。……もしもお相手がいないならいかがですか? 大会はあんな名称ですが、ここの人たちはロッソ民の歓迎のため盛り上げたいだけみたいですし」
「はあ、では」
 フィーネに言われ、鉢巻を手に取る鑑だった。

 そんなやり取りは横断幕の下の至る所で交わされている。
「二人三脚だよ! マラソンだよルー君!」
 見て見て、とレイン・レーネリル(ka2887)が頭上の横断幕を指差している。
「レインお姉さん……二人三脚は良いけど」
 呼ばれたルーエル・ゼクシディア(ka2473)は首の後ろに跳ねようかな、と思って手をやった緑色の髪の毛をくりんと指に絡めるように捻じった。ちなみに、ルーエルはレインのことを「お姉さん」と呼んだが実の姉とかではなく年上だから。幼馴染なのである。
「あれ? 何照れてるのー」
 レイン、恥じたルーエルの顔を覗き込む。ちら、と再び横断幕に視線をやったルーエルは改めて大会名を確認する。
 文面は変わることなく、「ロッソ民歓迎! ニューイヤーらぶらぶ二人三脚競走大会」。
「らぶらぶ…らぶらぶ……」
 口にして何を想像したか、ぽわぽわと赤くなる。
「いーじゃん、実際らぶらぶなんだから!」
 ばしばし、とレインがルーエルの肩を叩いた。

 この時、二人の近くで。
「仲良しがらぶらぶっていうの! うー知ってるの!」
 エルフのちびっこ、ウェスペル・ハーツ(ka1065)が大会の横断幕を指差しえへんと胸を張っていた。
「うー物知りだお、るーたちはらぶらぶだお!」
 そうなの? と丸い瞳を大きくしたかと思うとウェスペルとそろってえへんするのは、ルーキフェル・ハーツ(ka1064)。ウェスペルに瓜二つなのは双子だから。ルーキフェルが兄でウェスペルが弟だ。
 現時点で、ルーエルとレインとは違い健全に盛り上がっているのである。

「と、とりあえず走っちゃえばきっと気にならなくなるよね!」
 ルーキフェルウェスペルの様子に気付き、心の整理のついたルーエルがようやく前向きになった。
「そうそう。私だって運動できるところ見せてあげるんだから!」
 これを聞いて嫌な予感に襲われるルーエル。
「あの……レインお姉さん、無理しちゃダメだよ?」
 今度はこっちから彼女の表情を覗き込んで……。
 そして絶句した。
「あ、ルー君知ってると思うけど私負けず嫌いだから! 頑張って!」
 レイン、にこりと爽やかな笑顔。
「……最後の頑張って、って……」
 ルーエルが汗たら~しながら茫然としている間に、鉢巻を手にしゃがむレイン。
 くりくりっと二人の足首を結んで、逃げられな……げふげふ、仲良く出発完了なのである。

「参ったな…らぶらぶ二人三脚? マラソンじゃないのか」
 ああ、ここにも戦場で流れ弾に当たったような人が。
 鳳凰院ひりょ(ka3744)である。
「良く見て依頼を受ければよかったが……」
 引き結んでいた口が、ふっと緩くなった。
(俺もまだ甘い)
 家柄が家柄なので折り目正しい立ち居振る舞いをするよう心掛けているが、まだ若い。時折、肩の力の抜けることもある。
(だが相手などいないぞ、どうする?)
 硬直した。
 何せ、「らぶらぶ」である。
 適当に誰かに、などと頼めるものでもない。
 さりとて受けたからには……。
 しかし、依頼は依頼……。
「相手か…、そんな酔狂な人が出来ればいいんだがな」
「あら、お兄様?」
 腕を組み口元に手を添えて逡巡していたひりょ。そこに声を掛けたのは鳳凰院 流宇(ka1922)だった。姉とここに立ち寄ったところ、偶然ひりょに気付いたのだ。

 こちらも単独参加の星野 ハナ(ka5852)。
 どうしましょう、と周りを気にしていたところ何気ない会話が耳に入る。
「なあ、ルートは決まってないらしいぞ」
「中央に給水所があるから正規ルートはそっちだろ?」
「でも決まってないって」
「それじゃ、レース中に東側の歓迎屋台に行くことも……」
 おっと。
 そんな会話を耳にしたハナがにこーっ、と笑みを浮かべたぞ?
「どなたか一緒にのんびり東側で買い食いしつつ参加したい方いらっしゃいませんかぁ? 一緒に食べる分は私が持ちますよぅ?」
 その笑顔のなんと魅力的なことか。
 食欲をまったく包み隠さない姿勢は顔にも出るようで、まったく後ろめたさのない、非常に爽やかで清々しい、そしてやがて口にするであろう甘味や美味を連想したか、非常にチャーミングな微笑であった。
「じゃ、じゃあ私が」
「いや、この俺が」
「あら~」
 ハナ、モテモテである。相手を誰にするか迷いまくり。
 ここで新たな姿がぬっと前に出た。
「持ち帰り用の重箱、持ってます」
「じゃ、お願いしますぅ」
 ハナ、重箱を手にした眼鏡男の登場に一転即決した。

 そして、弓月・小太(ka4679)。
「これでよし、と。頑張ろうね♪」
 二人の足首を鉢巻きで縛って見上げたフラ・キャンディ(kz0121)の笑顔に少し顔を赤くしていた。



「出場者は前に。……位置について、用意!」
 ――ぱぁん!
 さあ、ついに号砲が鳴った。
「いっきまっすおー!」
「ふおー! るーと一緒に優勝しますなの!」
 ルーキフェル・ウェスペル組が弾かれるように出たっ!
 二人肩を組んでえっちらおっちら……っていうか、速いよ!
 このあたり、双子のなせる技か呼吸もぴったりで足並みも美しくぴったり。何の不安もなく足を出せているのが大きい。
「らぶらぶだお!」
「らぶらぶなの!」
 ……羞恥心がまったくないのも強みかもしれない。
 羞恥心と言えば。
「いっち、に……」
 ルーエル、足元を見ながら自分よりやや身長の高いレインと歩幅を合わせながら慎重に歩を進めている。視線が下なのは彼にとって少し赤くなっている顔を隠すのにもちょうどいい。
「ルー君。ほら、顔上げて胸張って。そんなんじゃ前に追い付かないよ!」
 一緒に肩を組むレインの方はおっきな胸を張って顔を上げて堂々としたもの。
「わ、ちょっと……」
 速度を上げたレインに引っ張られるように仰け反ると背筋が伸びた。
 この時、周りが見えた。
 スタート地点にもまばらに村人が集まっていた。純粋に応援している。
「そうだね。頑張ろう」
 ルーエル、ようやく肩を抱き合い身を寄せ合うこの状態が気にならなくなった。自然と息が合い、歩調もリズミカルになった。

「小太さん、ボクたちも行くよっ!」
 フラも頑張る。
 というか、この娘は一人で旅したり村で一人みっちりいろいろ教えられたりで、実は集団行動に慣れていなかったりする。
「だ、だめですよぉ、フラさん」
 呼吸がいまいちあってないまま急ごうとするフラを止める小太。
「そ、そのぉ……こっちの方がいいかもしれないですよぉ……」
 おっと。
 小太、真っ赤になりながら自分の肩に乗っていたフラの手に手を重ねて動かすと、そっと自分の腰に据えた。自分がフラの肩に乗せていた手も、フラのウエストに回した。ん、とお尻を引いて一瞬むずがゅがるフラ。
「このほうがより一体感があって……ええと、うまくいくとおもいますぅ」
 小太の語尾が少し頼りないのは、自分からそうやったくせにすっかり照れてしまっているから。
「う、うん」
 肩に手を掛け合うより密着したことで、フラも意気が合わないまま急ぐことをしなくなった。
「ふ、フラさん、一緒に参加してくれてありがとうですよぉ。頑張ってゴールしましょうですぅ」
「ボクの方だって声を掛けてくれて嬉しかったんだよ」
 二人仲良く、じっくりと進んでいく。

 少し時は遡り、スタート前。
「はぁ……まったくお兄様は意外とそそっかしい所のあるというかどこか抜けているのですよね、本当に」
 流宇、ゆったりと頬に手を添え首を傾げて流宇がため息をついていた。
「すまない。しかし、声を掛けてくれたことは感謝するが……」
 ひりょは妹と自分の足首を結んだ鉢巻が緩くなっていることに気付き、屈んで結い直していた。ぐっと結び直して顔を上げると、気になることを正そうとするが……。
 ――ぱぁん!
 レースがスタートした。
「お姉様からもしっかりやるよう言われてますし……」
 おっと。
 流宇、まだその場でため息をついているぞ?
「るー、行くぞ。最初に内側の足から出るからな。いいか、内側だぞ? 二度言わないぞ? せーの……」
 ひりょ、のんびりしたままの妹を急かす。
「は、はい。お兄様。せーの……きゃっ!」
 ――どてっ。
「い、いたた。内側の足を上げましたのに……」
「……せーの、の掛け声からまさかあれだけ反応が遅いとは」
 掛け声とともにひりょは足を上げたのだが、流宇の方は掛け声で足を上げようと身構えたところだった。二人仲良くたたらを踏んで前のめりに。
「るーはやはり運動音痴か」
 妹に手を貸しつつ立ち上がるひりょがしみじみと。
「う、その……外側の足からお願いできませんか、お兄様」
「分かった。それじゃ、せーの」
 ひりょ、流宇の言葉に従って外側の足から出した。隣で流宇も外側の足を出している。
(……遅れてる)
 流宇、やはり運動音痴というか少し体の動きが遅かったり。
 が、一歩目で流宇のリズムが何となく分かった。
「わ、お兄様」
「うん」
 二歩目の内側の足は、ばっちりひりょがワンテンポ遅らせて流宇に合わせてやることができた。
 これでうまくいきそうだ。

 そして、ハナ。
「東側を狙う人たちは速いですね」
 二人三脚のペアを組んだ眼鏡の村男性が聞いてきた。
「歓迎用屋台はレース後のもてなし用ですから、早く行っても準備ができてない可能性がありますよぅ」
「ということは、我々が行っても食べさせてくれない可能性もありますね?」
 のんびり話すハナの言葉に、ふむぅと考え込む眼鏡。
「試食はするはずですぅ。先に行った人たちにその交渉役を任せてしまいましょう」
 きゃは、と飛び切りの笑顔を見せるハナ。
 何という計算高さか。
「分かりました。では先頭を追わずにこのまま二番手グループをキープですね」
 ハナ組は戦略的に少し下げた位置でレースを進めるようだ。

 そして、レースはハナの目論見通りに進むッ!



「ふぉー」
 先頭は、双子のルーキフェル・ウェスペル組。
 ルートは【東】を取っていた。すでに建物の集まる村の中心部に差し掛かっている。
「ふぉ!?」
 ききき、と二人同時にビタ止まり。
「いい匂いがしますなの…!」
「屋台がいっぱいだお!」
 二人の目の前にはずらりと美味しいもの屋台が並び仕込みに精を出していた。
「で、でもレース中なの、涙を飲んで進みますなの」
「涙よりジュース飲みたいお…」
 そうそう。
 二人ともえらいですよ。ここはレースに集中しましょう。
 が、数歩進んで!
「ふぉ!?」
「ハッ…あれは」
 ルーキフェルが再び鼻くんくんしたかと思うと、ウェスペルは何かを発見。
 どちらも戦闘時よりも鋭い視線で脳内分析がカタカタと進む!
 そしてついに肉とブロッコリーのシチューと串焼きをターゲットインサイト。
「おにくぅが呼んでますお!」
「ブロッコリーが呼んでますなの!」
 見つめ合い、大きくうんと頷くとスクランブル。
 ぴゅん、と目当ての屋台前まで移動した。
「あら、販売はもうちょっと後だよ」
「お肉ですお」
「ブロッコリーですの」
 屋台のおばちゃんの話、まったく聞いてねぇ!
「仕方ないねぇ。じゃあ試食ということで……」
 二人の食い気に満ち……げふげふ、ピュアピュアでまったく邪気のないつぶらな瞳により交渉成立。早速、ブロッコリーとお肉のシチューに串焼きを手にする。
「おいしいお! おいしいお!」
 並んでシマリスのごとく肉をもちゅもちゅ、ブロッコリーをもきゅもきゅ頬張り幸せな笑顔を見せるのだった。

 続いてハナたちもやって来た。
「これはこれは、何て素晴らしいコースなのでしょうぅ」
 ハナ、思わず両方の手を口元に可愛らしく添えて瞳を輝かせる。
「何から行きましょう?」
「これなんか、私にも作れないかしらぁ」
 青年に聞かれたハナ、ころっと小さく丸い菓子に手を伸ばした。
「アマレッティですね」
「軽い食感で……独特の風味がしますぅ」
 小さくさくっとかじりついて、きゅーんと肩を縮め至福の表情を浮かべるハナ。
「アーモンドを使ってますので、それもあるでしょうね」
「見た目が違うのもありますぅ。珍しいですぅ」
 すっかり夢中になるのだった。

 時は少し遡り、ひりょ・流宇組。
「あっ……」
 流宇が小さく躓いた。
 兄に迷惑はかけまいと、何とか一人の転倒で済んだ。
「大丈夫か?」
 手を貸してもらい立ち上がって、また歩き出したところ……。
「あっ」
 また小さく声を漏らす流宇だった。
 だが、今度は躓いたのではない。
 それまで肩に回されていたひりょの腕が、優しくウエストに添えられたのだ。
「次に転倒するなら、一緒だ」
「お兄様……」
 流宇、少し感激して自分も兄のウエストに手を回した。
 そして息を合わせて歩く。
 新たに感じるのは、先ほどよりも伝わる温もり。
「運動は苦手で、ごめんなさい」
 安らぎから素直にそんな言葉が出た。
「いいさ。伊達に長年兄妹はやっていないしな。……何も変わらない」
 この言葉に小さいころの思い出がよみがえり、さらに安らぎにつつまれる流宇だった。
 と、その歩みが止まった。
 ひりょが立ち止まったのだ。
 この時流宇も、周囲にいい匂いが立ち込めているのに気付いた。
「屋台か……」
 呟くひりょ。
 すぐにはっ、と面を改めたのは、流宇が苦笑しているのに気付いたから。
 その隣を、後から来た組が追い抜いて行った。
 鑑・フィーネ組だ。
「もう屋台に食いついてるのがいるじゃないか」
「村人は罠のつもりはなくとも、罠になってるわね」
 ハナたちのように食い物にはつられず通過しようとする。
 刹那ッ!
「えー、食べ終わるまで待ってて下さいよぅ、地縛符」
 何とハナ、カードバインダーから呪符をドローして二人を足止めしたッ!
「……なんであんたらを待たなくちゃならんのだ」
 つんのめった鑑が呆れた。
「お腹を空かせて疾走するより腹八分目でトットコ行った方が精神衛生上良いですよぅ」
「こっちゃ腹を空かせてるわけじゃねぇ」
 にっこり笑みを見せて言い聞かせるハナ。鑑はそんなん知ったこっちゃねぇな感じ。
「んじゃちょっとサクラに巻かれて迷子になって下さいよぅ…桜幕符」
 ハナ、さらにドロー。
 たちまち桜吹雪が巻き起こる。
「おわっ!」
 今度は幻惑して鑑たちを足止めだ。
 この様子を見るひりょと流宇。
「どうやら少し見て回った方がいいな」
 ひりょ、流宇を伴って屋台へ。
(後で、三人で来ようかな? お礼も兼ねて)
 とか思っているのは内緒だ。
「はい。……お兄様、今度この催しに参加される際は、良い方が見つかっているといいですね」
 流宇はそんなことを言った瞬間、「そうなると寂しくなるかも……」などと思うのだった。
 もちろん、ひりょはそんなこと全く気付いてなかったりする。
「これはリコッタというチーズです」
「癖があまりなくてほんのり甘いですねぇ」
 ハナたちは次の屋台でもきゅもきゅやっている。



 一方、村の中央部。
「良かった。息もぴったり合ってきた。……なんだかんだで幼馴染だし」
 ルーエルがそっとそんなことを呟いている。
「ふぅ」
 ここでレインがため息をついた。
「ほら、お姉さん。無理しないで休憩する?」
 何気なくルーエルが声を掛けたが、まさかこの時、彼は思いもしなかった。
「そろそろスピードアップしない、ルー君? ほら、むしろゆっくりしてると気疲れするっていうか」
 あはは、と後頭部に手をやりそんなことを言い出すレイン。
「……幼馴染だし、知ってるけどね」
 レインがそういう性格なの、というところまでは口にできなかった。
「このまま中央を突っ走ろうか。機導師は色々できるのよー!」
「わっ!」
 速度を上げた瞬間、ルーエルが悲鳴を上げた。
 見事、スピードアップの呼吸が合わずどしーんと地面に倒れ込むのだったり。

 この隙に、小太・フラ組が追い上げてきた。
「小太さん、二人三脚って声掛け合ったりするから一人で走るよりのどかわいちゃうね」
「そ、そう言われればそう……あ」
 小太、進行方向に集まる村人が手を振って応援しているのに気付いた。
 しかも、コップを手にしているではないか。
 給水所である。
「フラさん」
「うんっ」
 励まし合ってそこまで急ぐ二人。
 そして。
「少し水分とりたいですし給水地点は丁度いいですぅ」
「あっ。ボク、もらい損ねちゃった」
「ええと。フラさん、これでよければ……」
「うんっ」
 フラ、小太の飲んでいたコップを受け取りこくこくと喉を鳴らす。
「あ、これって……」
 小太が間接キスとか何とか思った時だった!
「お二人さん、頑張って!」
 突然、沿道の村人からざばーっと水をぶっ掛けられた!
「わひゃ!? 給水ってこういう事なのですぅ!?」
 男子用体操着を着ていた小太、肌にぴっとりくっついて透けるほどずぶ濡れになってしまった。気合を入れて薄着だったのが災い……。
「はぅぅ、びしょ濡れですよぉ。フラさんも……はわわ!?」
「ぶるまって、濡れると太腿が……」
 太腿をすり合わせてもじもじするフラだが、女子用体操着の上着が大変なことになっていたり。

 その背後を、再びリズムに乗ったルーエル・レイン組が駆け抜けていく。
「よーし、一組抜いた。ぶっちぎ……ブハッ!」
「……スピードアップしたところにカウンターで食らいましたね」
 レイン、沿道からバケツの水を食らってびっしゃびしゃ。ルーエルもとほほ顔のままびっしゃびしゃ。
 それでもレイン、くじけない。
 胸で握った拳は元気で活発で能天気の証。転じて先見性が足りないともいうかもだがそんなん気にする彼女ではないっ!
「ふ、ふふん、私には奥の手があるもんね。いっくよールー君!」
 瞬間、瞳に赤金に色が揺らぐ。金色の炎を湛えたかのようで、腕や脚も赤く煌めいたっ。
「え? い、いや、やめておいた方が……」
 ルーエルが制止するが、そんなん知るか―――――っ!
「ジェットブーツ!」
「ちょ、待って待って! わー!?」
 足裏からマテリアル噴射で、どーん!
 一気に。
 一気に加速し跳躍するレイン。
 もちろんルーエルは引きずっているが何か?
「どうだっ……って、あれ?」
 ――どっしーん。
 レイン、3スクエアをひとっ跳びしていつものように着地したが、いつもと違い着地後にルーエルがぶつかってきた。そのままつんのめって転倒することになる。
「いたた……」
「……うん、絶対着地失敗すると思ってた」
 ルーエルがそんなこと言う。
 ちなみに彼の言葉は嘘ではない。
 証拠に、ルーエルがレインの下敷きとなっているから。
 こうなることを見越して、幼馴染を守るため身を挺したのだ。
「……べ、別に失敗じゃないし。実際に距離縮んだし?」
 レインの方は強がるが、あることに気付いて目を丸めた。
「あれ、これドサクサに紛れてキス出来るんじゃ…?」
 言ったのはレインの口ではない。彼女の瞳である。
 ルーエルの鼻の頭と自分の鼻の頭がくっつきそうなくらい顔が間近だったのだ。
 ルーエルも事態に気付く。
「え? ええと……」
 言ったのはルーエルの口ではない。狼狽したのはあくまで彼の瞳だけ。
「だ、だから言ったじゃない」
 ルーエル、押し倒されたまま視線を逸らして赤くなる。
「うぐぅ、帰ったらチーズケーキ作ってあげるから……」
 レインも赤くなって許しを請うのである。



 ――ぱぁん。
 そんなこんなしてたら、村の南の方で乾いた音がした。
 誰かがゴールしたのである。
 この時、東ルートのルーキフェルとウェスペル、ひりょと流宇、ハナや鑑たちははっと顔を上げた。
「そろそろ行きましょうかぁ」
 ミネストローネも味わったハナがレースに戻る。
「あとで三人で来よう」
 ひりょも流宇と一緒にゴールを目指す。

 こちら、中央。
「タオルケットを借りて来ましたぁ」
 小太はフラを気遣いつつ、再出発。
「普通に急ぐよ、ルー君!」
 レインとルーエルも気を取り直してゴー。
 そして。

「ふおーおいしかったの……幸せなの」
「すおいお。二人三脚たのしいお……」
 えっちらおっちらゴールを目指していたウェスペルとルーキフェルが無事にテープを切る。食べて運動してと健康を満喫して……ゴールを祝し、二人でぎゅーっとハグ。
「良かった……無事にゴールです」
「成し遂げる、というのはいいものだな」
 流宇、運動苦手でも頑張って完走。一緒に走ったひりょも満足そうに頷いている。
 全員が無事に走り切った。
 さあ、ここからは健闘を祝して飲食歓談である。……先にお腹いっぱい食べてた人もいるけど。

 こうしてタスカービレ村の交流二人三脚大会は閉幕した。
 レースはスピードを競うより楽しく過ごすといった内容になり、村人はそのことをとても喜んだという。
 今回の雰囲気を気に入って、ロッソ民の移住がより進んだという面もあった。

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  • がんばりやさん
    ルーキフェル・ハーツ(ka1064
    エルフ|10才|男性|闘狩人
  • がんばりやさん
    ウェスペル・ハーツ(ka1065
    エルフ|10才|男性|魔術師
  • 綺麗好き
    鳳凰院 流宇(ka1922
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 百年目の運命の人
    弓月・小太(ka4679
    人間(紅)|10才|男性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

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依頼相談掲示板
アイコン 「二人三脚」参加者待機所
ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/01/12 23:12:53
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/01/12 23:11:39