小さな村の解体。大きな少女、覚悟する。

マスター:春野紅葉

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~14人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/01/19 15:00
完成日
2016/01/28 19:36

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●夜陰に乗じて
「ほれ。今日はそっからそこまでの4つと、あそこの2つじゃ」
 腰の曲がった老人が木陰から指示を出していた。村の一角、野晒しにされたそこには幾つもの棺桶が無造作に置かれていた。
「全く、帰って来ぬとは……あの小娘にやられてなんぞはおるまいし、逃げたか、或いは」
「村長殿、彼奴はどうやらギルドに捕まっているようである」
 不意に現れた影がそう告げた。老人は小さく溜め息を吐く。それは呆れや失望ではない。どちらかというと、憤りのそれ。
「捕まったというなら、あやつは今頃ぺらぺらと口を割っておろうの。命と金の為ならなんでもする男じゃ」
 そういった主義の者ぐらいしか――少なくとも、まともな倫理の人間では協力してくれなどしない。それほどのことを行なっている自覚はあった。
「今日中に3つ、明日にはもう3つ入れるんじゃぞ!! ちんたらするでないわ愚か者共!!」
 村長の怒号が轟く。棺桶の一つ一つが重いこともあり、村人の動きはあまり俊敏ではない。村長は苛立ちを露わにしながらも、村人たちに指示を出していく。村の秘密が暴かれた以上、ハンターが、ギルドが来るまで遅くはないはずだった。
「そういえば、女のほうはどこへ行ったんじゃ?」
 再び男のほうへと村長が視線を向ける。
「彼女なら、祠のほうで準備をしているのである」
「そうか、ならいいんじゃ……救世主様のおかげで保たれてきたわが村じゃ。救世主様に頼らせてもらおうかのう」
 村長は笑んだ。滲むように浮かんだ笑みは獰猛であり、凄絶でさえあった。それはまるで、人でさえないようにも思えた。

●小さな村への大きな作戦
 ギルドの一角、そこにはかなりの人数のハンター達が集結していた。ギルドの職員と、その隣にはまだ幼げな風貌に似合わず、高身長の部類に入る赤毛の少女が並ぶ。
「本日はお集まり頂きありがとうございます。つい先日、捕えた覚醒者を尋問した結果、彼女――ユリヤの出身地である村にて信仰されている物が判明しました。つきましてもし残っていれば信仰対象討伐、そして村長と、彼が雇った覚醒者の一派を捕えていただければと思います」
 眼鏡を掛けた知的な女性の職員はそこで一区切りをつけると、質問でも待つように周囲を見渡した。
「あの、それであの村では何が信仰されていたのですか?」
「雑魔です。リアルブルーからの伝承に救世主復活というものがあるようでして、それを拡大、歪曲して解釈したようですね」
 淡々とした口調で告げると、ずれてきた眼鏡をクイッと上げる。
「このまま放置しておけば、何が起こるかわかりませんし、より強力な歪虚を信仰したり、彼らに利用される可能性もあります」
 一つ深呼吸をして、職員は強く告げた。
「今回はギルドから職員が同行します。皆さんには雑魔の討伐を行う班、村そのものに向かう班に別れ行動して頂ければと思います。恐らく、どちらかに一方へ戦力を全投入させると、もう片方の目標には逃げられてしまうでしょう。この依頼は、失敗できません。ご助力、お願い致します」
 そう言って、職員の女性は頭を下げて頼み込む。その隣にいたユリヤが、少し前に出た。
「村への侵入は、私が通ってきた抜け道を使うらしいです。着いてきてください」
 そう、ユリヤが強張った声で言う。少女の様子は、どことなく不安と悲嘆のようなものが入り混じっているようにも見えた。故郷を解体する仕事に同行するのだから、当然であろうが。
 職員の女性が何か質問がないかと問いかける。静まったハンター達を見渡して、女性は小さく頷いた。
「必ず、皆で帰って参りましょう」
 ハンター達の応じる声が空間に響いた。

リプレイ本文

●出撃へ
 14人のハンターと、ユリヤにギルドの職員が2人。ギルドの中で最終の打ち合わせをしていた。
「馬のような騎乗用の動物とかは抜け道を通れるのかな?」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)はユリヤに向けて問いかけた。騎乗用の動物や道具を持って行こうと考えていた一同の目が、ユリヤへと集中する。
「乗り物の類は難しいです。抜け道は木々の生い茂った森の中なので。村の中と洞窟も馬などを使いにくいでしょう」
 それを聞いた一同がどう動くべきか相談を重ねていく。その姿を見つめるユリヤの頭の中を占めているのは両親のことだった。自分の村の異常さを知り、それを教えてくれなかった2人。それでも、ユリヤの大切な両親だった。心配せずにはいられなかった。
「おい、てめェ」
「はっ、はい!!」
 突然、声を掛けられ、上ずった声になりながらもそちらを見ると、そこには小麦色の壁――いや、ユリヤの身長ではそう見間違えかねないほどに並はずれた長身の男――万歳丸(ka5665)がいた。思わず驚きながらも、男を見上げる。
「あの村、悪い事ばかりじゃァなかったンだろ?」
 自然と見おろすような形になってしまう巨躯に半ば圧されるような感覚を得つつも、ユリヤは小さく頷いて、それから声を出した。
「てめェがするのは『解体』じゃねェ」
 言われたことの意味を理解できず、ユリヤは思わず呆けたように男を見た。
「道を正すのさ。それは痛ェかもしれねェが、此処がコレから先を生きる為には必要な事だと俺は思うぜ。てめェは、村を守るンだ」
 そこまで言い切って、男は呵呵とばかりに笑う。
「守る……私が……」
 拳を握り、僅かに俯くようにしてそれを見つめながら、ユリヤが呟く。するとその視界にひょっこりと顔を出した少女がいた。
「ユリヤちゃんよろしく、ユーリヤちゃんだよー」
「よ、よろしくお願いします」
 いきなり現れたようにも思えて、変な声が出そうになりながらも、ユリヤは少女を見た。魔女のようにも見える服装をした茶髪の女性は、笑顔のままにユリヤを見る。
「なーんだか大変なことになっちゃったね。陰謀渦巻く、ってやつ? ま、もし家も生活基盤も無くても、命さえあれば大丈夫だから。安心してね?」
 そう言って笑むユーリヤ・ポルニツァ(ka5815)はその裏で命を落とした妹のことを思い出して心を痛めた。生活拠点を歪虚に追われた彼女としては、村の解体は自分のような物をこれ以上増やさぬためにも絶対に成し遂げねばならないことだ。
「ユリヤちゃん……。少しいいですか?」
「あっ、はい! 火艶さん。どうしましたか?」
 今回の依頼には、ユリヤの命を数度にわたって助けてくれたハンターの数人も参加していた。その中の1人、火艶 静 (ka5731)は普段通りの柔らかな物腰でユリヤへと語りかける。
「これを。私は洞窟に向かう以上、側であなたを守ってあげる事が出来ません。気休め程度かもしれませんが、身に付けて行って下さいね」
 そう言って、彼女が差し出したのはビキニアーマーだった。比較的軽量な防具としては、ちょうどいいだろう。
「えっ、でも。そんな」
 最初はそう言って遠慮するユリヤではあったものの、最後には静の蠱惑的な色香に頷いていた。
「有り難うございます。早速、使わせていただきます」
 そう言うと、少しだけユリヤはその場を離れ、やがてビキニアーマーを着込んで戻ってくる。
「どうですか?」
「よくお似合いです……」
 頷く静を見て、ユリヤは嬉しそうに頬をほころばせた。
「さて、行こうか。あまり遅くなりすぎても後手に回ることになる」
 桃色の髪をした、外見からは少女のようにも見えるドワーフの女性、Holmes(ka3813)がそう言って立ち上がる。同じように他の面々も頷き合うと、目的の村へ向けて歩き出した。

●洞窟探索作戦
 抜け道を、音を立てないように注意しながら走り抜けた17人は、やがて二手に別れて進んだ。
 以前にスケルトンと遭遇した洞窟を探索する班の7人とそれに従う形の1人の職員の計8人は、順当に洞窟の見える位置まで来ていた。
「皆さん、準備はよろしいですか」
 静が洞窟手前の草陰で語り掛ける。暗い洞窟の中を探索するために事前に用意した照明器具をそれぞれが装備しているのを確かめてから、お互いに頷き合うと、8人は洞窟の中へと入って行く。
 以前に来たことのあるバリトン(ka5112)と静が道案内も兼ねて最前列を歩く形だ。冷えた空気に満ちた洞窟の中、時折、滴る水滴の音がやけに響く。それが無ければ耳を澄ませば8人の呼吸音さえ聞こえそうなほど、不気味な静けさがあった。
「そういえば、前にバリトンさん達が見た時には、スケルトンに鈍器で殴られたみたいな傷があったんだよね? 救世主を作ってるとか?」
 リューリ・ハルマ(ka0502)は不意に言葉を発した。
「わからぬのう。しかし、こうなるんじゃったら前回の時に外からエクラの司祭でも呼んでくるべきじゃったな」
 リューリの言葉にバリトンは振り返ることなく答えた。
「歪虚に魂を売り渡すなど……救いようのない愚か者共め」
 2人の会話に触発されたように言の葉を発したのは、コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)だ。まだ軍人であった頃に娘と戦友を歪虚に殺された彼女にとって、それらを崇めるような人間など、許せるわけもない。
 そんな各々の思惑の中で、リン・フュラー(ka5869)は余計な私情を挟まぬよう覚悟を決めて、降魔刀を握る。
「祠です……ということは、もうそろそろですね……」
 静が言うとおり、一同の前に祠があった。洞窟のちょうど中心に鎮座するそれから、左右に向けて注連縄が張られている。露骨にそこから向こうに入るなと言わんばかりであった。
「少し見せて頂いていいですか?」
 落ち着いた物腰で祠に歩み寄った職員は、そのまま祠の様子を見渡し、無造作に中身を開け放つ。
「これは……魔導装置か何かでしょうか」
 中を覗いた職員は、やがてぽつりと呟いた。
「魔導装置?」
 バルバロス(ka2119)が職員の言葉を反芻するようにして問いかけると、職員はずれかけた眼鏡を上げながら、肯定の意を表す。
「詳しくは解析する他ありませんが、これがマテリアルに何らかの影響を与えているのでしょう。恐らくですが。とりあえず、注連縄を切って持ち帰れるように準備だけはしておいて、進みましょう」
「敵のスケルトンどもは近いぞい。下がっておれ」
 前に出ようとした職員を制して、バリトンが再び前に出る。そうやって今まで通りの隊形に戻り、8人は再び歩き出した。

 それからいくら時間が経っただろう。やがて一同の視界が広がった。眼下には、スケルトン共がうじゃうじゃとひしめき合っている。
「20体もいないだろうな」
 鞍馬 真(ka5819)が呟く。
「じゃあ、ドーンとスケルトンを倒しちゃうよ!」
 そんな声と共にリューリの髪が紫色に染まり、耳が猫を思わせる毛におおわれた。その状態で立ち上がると、グッと身体に力を籠める。祖霊たる祖父パウリの力を引き出し、眼下の広場へと落ちていく。
 ギガースアックスが大きく振りぬかれ、風を斬る音が降りていない面々の方まで聞こえて来るかのよう。続くように、各々が覚醒を発動し、広場へと降りていく。
「ぶるあぁぁぁぁぁぁああ!!」
 バルバロスがその手に握るギガースアックスを振り回し、叩き潰していく。
 リューリとバルバロス、2人の周囲には他の面々は誰もいない。連携が取れていないのではない。寧ろ、取れていると言える。2人の持つ、その巨大な斧の一撃を喰らえば、味方であろうとただでは済まない。
「さくさくと殲滅させようかの」
 そう言ってどこか豪快に笑って見せながら、精神を統一すると、気力を籠めた一撃を放つ。鉄塊の如き大剣を握り、そのまま1体、2体とスケルトンが吹っ飛んでいく。
 そんなある種、暴力の塊ともいえる戦闘の横では、風圧か何かで吹っ飛んだスケルトンを倒す者達もいる。
 静は身体を低くすると、ずるずると鉄の棒らしき何かを以って近寄ってくるスケルトンを斬り上げた。地面を擦りあげるような動作を伴ったその剣は、摩擦熱で発火し、赤い軌道を残してスケルトンを紅蓮の炎に包み込んだ。
 その背後、迫っていたらしきスケルトンの一撃を、身のこなしと剣の打ちで受け流す。
「一匹残らず墓場にぶち込んでやる。屍は屍らしくな!」
 全身から稲妻のような閃光を迸らせながら、コーネリアは叫びながらも正確にマテリアルをライフルにこめて狙撃していく。
 真が縫うように剣と銃で味方の援護をする中、リンは降魔刀を用いてスケルトン達を斬り伏せていく。
 前衛、静が前後からの攻撃をうけそうになっているのを認めると、リンは一気にその身にマテリアルを帯びて素早く踏み出すと同時に、静の背中側の1体を斬りおろす。

 そんなほぼ一方的ともいえた殲滅が終わった後、コーネリアは周囲を見渡しながら何か事件の解決につながりそうな物を探し始めた。コーネリアと同じように、他の面々も何かしら見つけようと調査を始めていく。

●崩壊と
 ユリヤの先導の下、9人は村へと侵入に成功していた。
「見えましたね……あれが村長の家だったはずです」
 アティニュス(ka4735)が呟くのを聞いて、ユリヤが頷いた。
「家の前にいる男が1人ですか」
 フィルメリア・クリスティア(ka3380)はそれを確認すると魔導短電話の調子をアティニュスと共に確かめる。大丈夫であることを確認すると、一気に躍り出た。
 男は突如として現れた9人を見て、視線をユリヤの方に向けた直後、村長宅の玄関戸を勢いよく二度叩いた。すると、中からローブを着込んだ女が姿を現わすが、村長の姿は見えない。
 すぐに銃声が響いた。どうやら、村長宅の裏方向からのようだ。瞬間、フィルメリアとHolmes、アルトが走り出す。それを止めようと立ちふさがる女を、フィルメリアは履いていたジェットブーツで悠々と飛び越える。
 Holmesの道を塞ごうとした男は、不意に急転換したアルトの、遠心力が加わった抜刀によって男の肉体が血を吹いた。しかし、ぎりぎりのところでほんの少し急所を外されたらしく、血みどろとなってはいてもまだ死んではいない。
「ハンターか……」
「ちょっと、何人か逃がしてない? やになるわぁ」
 露骨に嫌悪を出し合う2人に対して、5人が展開し、ユリヤと職員が少しだけ離れていく。
「足止め出来てないじゃない。はぁ、厄日だわ。しかも、何だか強そうなのがうじゃうじゃ」
「貴方達は雇われているのですか?」
「ええそうよ。とびっきりの額でね」
 アティニュスの言葉に、だからどうしたと言わんばかりに返答する女に、アティニュスは少し力を抜く。
「それなら仕方ありませんね。貴方達も仕事なのでしょうし。ご安心を、貴方達は仕事を果たした事になりますから」
 そう言いながら、アティニュスの身体は覚醒をはじめていた。肌は浅黒く、髪は白く。アティニュスは語りながらも、そっと刀に手を置き鞘の中のマテリアルを練り込んでいく。
「私達『だけ』は止めたのだから」
 そう言うや否や、居合から、疾風の如く剣を閃かせた。ロッドを弾かんとするその一撃は、しかし、あと一歩のところで風に切っ先を反らされる。
 その後ろでは、金色の麒麟が姿を現わして、万歳丸の身体へ没むように消えていた。
「怖いわ」
 そう言いながら間合いを開ける女の口が動いて行く。
「こんな仕事しなければよかったかも知れないわ……いやだいやだ」
 そう言いながら、女の杖から現れたのは、燃え盛る火の球だった。
「させねェよォ!」
 躍り込んだ万歳丸の腕が煌々と黄金の輝きを強めていく。澄み切った水のように透明な鎚頭が取り付けられた戦闘用のハンマーの切っ先から蒼い燐光を引く麒麟の姿を形どったマテリアルの塊が女を包み込んでいく。
「きゃあ!!」
 ぶちまけられたマテリアルに弾かれたようになった女の手から、火の球が弾かれた。それはやがて着弾し――凄まじい爆音と熱風を伴って爆ぜた。
 しかし、それでも万歳丸は止まらない。そもそも、レベルが違い過ぎるのだ。周囲にいる者達も巻き添えを喰らい、傷を負ってはいるもののやはり動けないという程ではない。
「炎神(スヴァローグ)」
 これまで隠れていたユーリヤの詠唱が響いた。何かを更に唱えようとする女だが、既に遅い。女が全く予期しなかった方向から飛んできた炎の矢は、勢いよくその背中に炸裂する。
「やったみたいだねー」
 ひょっこりと姿を現わしたユーリヤも参戦し、さらなる攻撃が加えられる頃には、女は最早交戦する術を持っていなかった。

 一方、アルトと男の戦闘は少しだけ続いていた。徹底した攻撃力と機動力を削ぐという戦術と、元々の実力差の前に、男は最早ズタボロだった。
「おまえ、誰かの斡旋で来たのか?」
 アルトは倒れる男へ向けて静かに問い掛けた。
「ふん……倫理や善悪など知った事ではないが、死んでも言わぬ。どうせもう仕事もできぬ」
 言いながら、男が吐血する。やがて、その双眸から光は消えた。

●終焉と
 一方、少し遡って。ミオレスカ(ka3496)は他のハンター達とは別の進路を取って村長の家の裏を見ていた所、裏の窓から飛び降りてきた村長の姿を確認し、すぐさま威嚇射撃を放っていた。しかし、老人はそれをみて怯えることなく、すぐさま逃げ出していく。
 その後ろから、フィルメリアとHolmesが走ってきている。とはいえ、覚醒者と一般人の老人では、体力が違い過ぎた。やがて老人はへろへろと倒れ込む。
「おのれ……!!」
 3人が取り囲んだところで、くわっと目を見開き、村長が怒号を上げた。
「あの小娘を村から逃がした事がこんなことにつながるとは……」
「すみませんが、逃すわけにはいきません。諦めてください」
 覚醒して七色の光を漏れ出させる髪を少しいじりながら、ミオレスカは村長に視線を投げる。
「貴様らのような小娘共に追い詰められるとは……焼きが回ってしもうたか」
 舌打ちする村長を縛り上げるHolmesを見ながら、フィルメリアは魔導短電話を鳴らし、アティニュスと連絡を取った。
「……そちらも終わったのですね。ええ、こちらも捕縛できました」
 覚醒によって変色した銀色の長髪をなびかせながら、静かに息を漏らし、電話を切った。
「それにしても、伝わったリアルブルーの救世主復活の伝承って、聖書かしらね……旧約聖書か、新約聖書かは知らないけど……」
 氷の荊と雪の幻を伴って、フィルメリアは老人と視線を合わせる。
「どちらにせよ、伝わった事が間違った拡大解釈をされてると言うのはいい迷惑……別にその信仰の教徒って訳でもないけど」
 更に、フィルメリアはどこか冷酷ささえにじませるように笑みを浮かべると、口に木片を咥えさせられ、自害できないようになった老人を射抜くように見つめた。
「あまり下手な事は考えないでくださいね。簡単に死なせたりはしませんから。あなたのやっていたことは倫理的に見れば赦される事ではないでしょう。自分が殉ずることができるとは思わないで」

●真実と
 やがて、戻ってきた洞窟組を加えて、村の大捜索が行われた。村の中でもしかすると雑魔信仰と関係していたのではないかと思われる物は摘発され、押収されていった。
「さて、村長。きみには答えて貰いたいことがたくさんあるんだよ」
「なんじゃ?」
 アルトの問い掛けに、村長は腰をさすりながら首をかしげた。
「彼女の……ユリヤの叔父はどうしているのか、知っているか」
 それを聞いた村長は、一瞬、呆けたような顔をした後、小さく吹き出し、それでもこらえきれなかったのか盛大に大声で笑いだした。そのあまりの異様さに一同が嫌悪感すら抱いた頃、村長はやっと落ち着いたのか、真っ直ぐにアティニュス、バリトン、静の順で視線を向けた。
「そこの3人なら知っておろうに……いや、知らんかの。知らなくとも、会うとるぞい」
「何を……言っているのです?」
「カカ、じゃから、ほれ、ユリヤの小娘が洞窟でスケルトンに襲われたろう」
 今このタイミングに、そこまで言われれば、否がおうにでも理解はできた。ユリヤが顔を真っ青にしながら、倒れかける。
「その中の大剣を持っとったスケルトンがおったじゃろ?」
「貴様……こんな時にふざけるつもりじゃなかろうな?」
 バリトンの怒気を帯びた声に、村長はからからと笑った。
「嘘もふざけてもおらんわい。あの時、貴様らが殺した――いや違うのう。葬り去った骨こそ、ユリヤの叔父じゃよ」
 ふらふらになりながら、ユリヤが立ち去っていく。誰もがそれを追うこともできないなかで、最初に声を出したのは、コーネリアだった。
「貴様らは悪魔に魂を売り渡すような真似をしたのではない。寧ろ貴様が悪魔だ」
「悪魔に魂を売れば生きていけるなら、魂だって売ってくれようぞい」
 けらけらと笑う村長に掴みかからんと動きかけたコーネリアだが、他のメンバーによって抑えつけられた。
「わしらはのう。必死じゃった。この村は生きていくには危険じゃ。リゼリオにはほど近いとはいえ、ほぼ不毛な土地。しかも周辺は負のマテリアルが籠る不思議な洞窟さえあった。直ぐに逃げればいい? 馬鹿な。長く生きた先祖の土地じゃぞい。それと放り捨てとうないわ」
「それと信仰にどうつながりが」
 ミオレスカの呟きに、老人は目ざとく反応した。
「人をある一つの目的で繋げるのに手っ取り早い方法はいくつかある。歪虚に抗う人類のようにじゃの。じゃが、他にもある。信仰と恐怖、罪悪感じゃよ」
「確かに。何かに縋るのは悪ィことじゃねェ。ただ、曲げちゃならねェ道理があるだろうが」
「道理で飯が食えるかの? 道理だけで生きていけないのじゃよ。少なくともわしらはの。じゃから、信仰と恐怖が要ったんじゃ」
「納得できないが、理解はした。だが、恐怖とはなんのことを言っているんだ?」
 真の言葉に、老人は心底楽しそうに笑う。
「おうおう、そうじゃの、そうじゃ。そちらのお三方。ユリヤの叔父はの頭部には傷が無かったかね?」
「ありましたが……それと何の関係が?」
「あの傷のう、ユリヤの父親がやったんじゃよ。いくら覚醒者とはいえ、スケルトンを退治した直後、全く警戒していなかった後ろから義理の兄に殴られるなんぞ、誰が思うかのう」
「てめェッ!!」
 万歳丸が挑みかかるのを、抑える者はいない。抑えられるほど既に冷静な者は少なかった。
「わしは、救いようのない屑じゃよ。自覚しとるからの。カカッ」
 怒りに震える者が多い中、静とアティニュスは動いていた。そっと外に出て、ユリヤを探す。ユリヤは彼女の家の前で呆然と佇んでいた。その膝辺りには彼女の両親が泣き崩れている。
「叔父さん……死んじゃってるだけじゃないのですね」
 2人がユリヤの肩を叩くと、少女からそんな声が返ってきた。無機質な、どうしようもなく感情を失した声。
「ユリヤちゃん。分かって貰えたとは思いますがハンターは夢と希望ばかりの仕事ではないのですよ……。でも、きっとここまでのことは、他に滅多にないでしょう……」
 だから、と。静はユリヤを抱き寄せた。
「もしもこれからもハンターを目指すなら、覚悟をすることです……」
「でもそれももう少しだけ悩んでもいいでしょう」
「私は……」
 よく考えなくとも、ユリヤはまだ14歳の少女だ。そんな少女に、この現実はとてつもなく重いかもしれない。
 静は声を殺すユリヤを抱きしめ続けた。

 それから数日後、村では盛大な供養が行われた。今までスケルトンにされてきた、多くの村人を一斉に供養する。その様子を見つめるハンター達の視線の先には燃え盛る火の前で炎に向けて語るユリヤが見えた。

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参加者一覧

  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 狂戦士
    バルバロス(ka2119
    ドワーフ|75才|男性|霊闘士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 唯一つ、その名を
    Holmes(ka3813
    ドワーフ|8才|女性|霊闘士
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 世界に示す名
    アティニュス(ka4735
    人間(蒼)|16才|女性|舞刀士
  • (強い)爺
    バリトン(ka5112
    人間(紅)|81才|男性|舞刀士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • 森の主を討ち果たせし者
    火艶 静 (ka5731
    人間(紅)|35才|女性|舞刀士
  • ヨイナ村の救世主
    ユーリヤ・ポルニツァ(ka5815
    人間(紅)|16才|女性|魔術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 紅の鎮魂歌
    リン・フュラー(ka5869
    エルフ|14才|女性|舞刀士

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依頼相談掲示板
アイコン 小さな村のために
ミオレスカ(ka3496
エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/01/19 03:00:00
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/01/16 21:28:25