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【闇光】カム・ラディ遺跡で鬱憤晴らし

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/02/01 22:00
完成日
2016/02/09 02:07

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●奇妙なコンビ
「はあああぁァァッ!!!」
 巨大なハンマーが雪を飛ばし、地面を突出させる衝撃波を放つ。
 それによって吹き飛んだ小石と氷が礫となってリザードマンに降り注ぐと、ゼナイド(kz0052)は眉間に皺を寄せて次なる敵を見据えた。
「貴重な資料なんですが~、あの人にはそんなの関係なさそうですねぇ~」
 後方から様子を見ていたナサニエル・カロッサ(kz0028)はそう語ると自らの手元に視線を落とした。
 ナディアの強制転移後、仲間と分かれて中央ドームを出たのだが、思った以上に歪虚の数が多い。
「やっぱりここは強欲の眷属ばかりなんですねぇ~」
 そう零すナサニエルの手元には出立前に即席で作り上げた魔導機械がある。
 これは今まで重かったマテリアル計測装置の小型版のようなもの。ナディアの負担を考え小さくしたので性能は劣るが、それでも欲しい数値は取れる代物になっている。
「ああーんッ! もう、もうもうッ!!」
 ゼナイドは内に抱える鬱憤を晴らすように出現する歪虚を薙ぎ払ってゆく。
 その勢いは鬼神の如くなのだが、同行するハンターの中には不憫な視線を注ぐものもいるようだ。
「あ、ゼナイドさ~ん、右から敵が来てますぅ~」
「陛下の仇ぃぃぃいいっ! ってェ言うか、わたくしに対する陛下の愛情を返しなさいーーーーッ!!!!」
「あはは、まだ根に持ってるんですねぇ~♪」
 叫ぶゼナイドに笑うナサニエル。何故この2人が一緒に行動しているのか。
 その疑問は今作戦が発表された直後にある。

●その訳は……
 ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)の容態が心配だったゼナイドは、第十師団本拠地アネリブーベに戻らずバルトアンデルスで数日を過ごしていた。
 そこに今作戦の発表である。
 当初帝国側としてはナサニエルとハンターだけを遺跡に送り込むつもりでいた。
 しかしゼナイドがそれに異を唱えたのだ。
「陛下のお身体を傷つけ、わたくしとの目くるめく愛の軌跡を奪った憎き歪虚! その殲滅行動に是非ともわたくしも起用下さいませッ!」
「あー、かなり目が血走ってて怖いゼナイドにこんなこと言うのも悪ぃんだが、お前さんの副官から連絡が来てな。そろそろお前さんを帰してくれって言われてんだよ」
 こんな変態でも――基、ネジの緩んだ人物でも彼女は第十師団師団長。
 彼女がいなければ立ち行かない業務もあるのだろう。だからこそ副師団長直々にオズワルド(kz0027)へ連絡が来たのだが、ゼナイドは頑として引かなかった。
「そんなもの『嫌ですわ!』と電報でも打てば問題ありませんわ! それにそこのうらやワカメに行かせるくらいでしたらわたくしの方が何倍も、何千倍も、それこそ一億二千倍も役に立ちますわよっ!!」
 ダンッと机を割らん勢いで叩いた彼女に肩を竦めながら勝手が呟く。
「……うらやワカメって?」
「羨ましいワカメ、って言う意味ですよぉ~。前に僕が陛下に殴られたからぁ~」
 えー?! と若干引くカッテ・ウランゲル(kz0033)。
 その姿を横目にオズワルドは深い息を吐くと言い辛そうにゼナイドに言った。
「仕方ねぇ。これはお前さんを見た陛下が言ってたんだが、『可憐な美少女が前戦で戦うのか……悲しいことだな』ってな」
「……陛下が? 今の、ですの?」
「そうだ。お前さんは気にするだろうから言わなかったが、憂いげに視線を落として言ってたぜ」
 実際には『可憐な美少女』ではなく『少女』だけだったのだが、そこはオズワルド流脚色だ。
 そう伝えれば陛下LOVEのゼナイドは引くと思ったのだ。しかし――
「わたくしの陛下が……その様な事を言うはずがありませんわ」
「あ?」
「陛下はわたくしに告げるのは『愛くるしくも愛おしいゼナイド』という愛称ですものっ!!」
 誰がいつ言った!! と総突っ込みされる中、ゼナイドは意志を固めたように立ち上がり、拳を掲げて宣言する。
「わたくしは陛下のために彼の地へ向かいます! そして必ずや陛下のわたくしへの愛を取り戻す切欠とするのですわっ!! 憎き歪虚に制裁をぉぉぉおおおッ!!!!」
「……オズワルド」
「……言うな」
 叫び続けるゼナイドの声を避けるために耳を塞いだカッテとオズワルド。
 この数分後。2人は『ナサニエルを同行させる』と言う条件の下、ゼナイドの申し出を受ける事になるのだった。

●そして、鬱憤晴らし!
「ん~、そろそろスメラギ様が転移門を作りあげる頃ですかねぇ~」
 到着してからの時間から考えても目的達成は間もなく。となれば時間稼ぎはもう暫く、と言ったところか。
「ん~? なんだか暗いですねぇ~」
 零し、魔導機械から顔を上げた時だ。
「ふふ……ふふふふふ。皆さん、ここまで体力温存できましたわね? ならわかってますわよね~?」
 口角を上げてハンマーを握り締めるゼナイドの視線の先にあったのは黒い鱗を持つワイバーンだ。
 彼女は不穏な笑いをそのままにハンマーを持ち上げると、降り積もった雪を踏み締めた。
 ゼナイドの言うとおり、ハンターの殆どはここまで未戦闘だ。その理由は彼女が前戦で敵を蹴散らしていたから。
「それではこの間に僕は地形調査をしてましょう~。あ、みなさんはどうぞ戦闘に集中してくださいね~♪」
「言われなくてもやりますわよッ!!」
 何も今開始しなくても! そうは思うがナサニエルは既にノリノリで魔導機械操作し始めている。
 ゼナイドはギリギリと奥歯を噛み締めると、すべての怒りを放つように巨大ハンマーを振り下ろした。

 キュィィィィイーーーーッ!!

 ワイバーンの翼を叩き割ろうとする動きに、敵から奇声が上がる。そしてその声に誘われるようにリザードマンが飛び出してくると、ハンター達は彼女に続いて自らの武器を抜き取った。

リプレイ本文

「こいつらが北の強欲か」
 目を細め、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が刀の柄を握り締める。その目は僅かに据わり、彼女の中に燻ぶる不機嫌さを物語っていた。
「状況が許せば1人で狩ってみたいところだが……まぁいい、私も八つ当たりさせてもらおうか!」
 発生と同時に踏み出した彼女にワイバーンが振り向く。
 開かれた口と羽ばたく翼にアルトの口角が上がった。そして次の瞬間、彼女目掛けて黒炎が吐き出される。
 扇状に広がってゆく炎。それを全力疾走で敵の間合いに飛び込むことで回避を試みる。しかし、
「っ、流石に無茶だねぇ……」
 後方回避を試みたヒース・R・ウォーカー(ka0145)は、寸前で盾を用いて炎を受けたアルトに苦笑する。とは言え、もし自分が同じ状況だったら範囲外に逃げるのはやはり無理だろう。
「思ったよりも範囲が広いわね。大丈夫?」
 炎で負傷したアルトに声を掛け、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は1人外野でリザードマンを相手にするゼナイドを見た。
「マイペースにも程があるわ……それに」
 先に見えたゼナイドの皇帝への執着心。愛情と呼ぶには歪みきった感情はどうにも理解しがたい。
「……まぁ、それはさておいて、まずは目の前の敵をどうにかしないとね」
 思うところは多々あれど、成すべきことを捨て置くわけにも行かない。
 そう声を上げたユーリにヒースが「ふーん」と息を吐く。
「みんな、思うところがある見たいだねぇ」
 まるで他人事だが、彼もまた「その想い」を抱える者の1人だ。
 ゼナイドが人目も憚らず不平不満を漏らすので我慢しているが、彼とて皇帝の現状には不満を持っている。
「それでもまぁ、オズワルド師団長には同情するよ」
「……なんかちょっと、イラッとするよね」
「うん?」
 何が? そう問いかけるように視線を向けた先には、武器を手にゼナイドを見据えるリチェルカ・ディーオ(ka1760)の姿があった。
「八つ当たりするよりも先にすることがあるでしょうに」
 目の前の出来事に正面から向き合わず、ただ周囲に八つ当たりをして現状不満を訴える。その姿はリチェルカにとって後ろ向きに映るようだ。
「貴女の考えにも一理、彼女の考えにも一理……各々思うところはあるでしょう。ですが今は」
「わかってる。今は倒すしかないよね」
 ええ。そう頷き、レイレリア・リナークシス(ka3872)はリチェルカに一瞬だけ微笑みかけた。その時だ――
「いつの間に!?」
 彼女の一瞬の隙を突くようにリザードマンが斬り込んできた。その速さは彼女の、いや、この場全員の予想を超えている。
「フライングは却下だぜ!」
 金色の刃を振り下ろして央崎 枢(ka5153)がリチェルカとリザードマンの間に入る。そうして彼女をワイバーンの元へ促すと、ヴォルフガングがその隣に立った。
「少しは待ってられないのかね。まあ良いや、あっちもこっちも落ち着けって言っても聞かないだろ。なら付き合うだけさ!」
 な? そう同意を求めるようにヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)を見たのだが、彼は火のない煙草を口から離すと、静かに日本刀を構えた。
「……お前もあっちに行け。向こうは人手が多いほうが良い」
 零し、リザードマンを見据える。その姿に礼を向け、枢もまたワイバーンの対応に向かった。
 ここにリザードマン対策として残されたのはヴォルフガング、レイレリア、フィルメリア・クリスティア(ka3380)とナサニエルの4人だ。
「何でこんなにうじゃうじゃ湧いてくるのかしら。ここまで何もせずに済んでた事の方が不思議なくらいね」
 確かに。フィルメリアの言うとおりだ。
 ここまではゼナイドが憂さ晴らしをした結果、ハンターたちが腕を振るう余裕はなかった。だがそれは奇跡的なことである。
「ここまでいくと呆れの範囲だね」
「だな……青いな、第十師団長殿」
 各々の言葉を呟き意識を敵に向ける。
 ナサニエルは先頭が開始していると言うのに地形調査に没頭中だ。この分だとどれだけ騒ごうが彼の注意がこちらに向くことはなさそうに見える。
「目標は敵の殲滅。あとナサニエルの護衛……それじゃ、始めましょうか」
 フィルメリアはそう言うと、魔導拳銃の先端をリザードマンに向けた。


 冷え切った雪原。その中に吹き荒れる冷気の嵐。これはレイレリアが放ったブリザードだ。
「これで身動きできなくなりましたか?」
 問い掛けながら、敵の足元を見つつ新たな術を唱え始める。
 今の冷気で動きが止まったのは3体。その内の1体は既にヴォルフガングが仕留めているが、それ以外にも敵の姿は目視されている。
「残り2体……リザードマン、と考えますとやはり変温動物に近い性質を持っているのでしょうか?」
 チラリと視線を寄越した先ではワイバーンと着実に戦闘を続ける仲間の姿がある。
 レイレリアは自身の杖に集まる精霊の力を確認し、目視できる敵に向かって放とうとした。
「あそこには行かせま――」
「レイレリアさん、後ろです!」
 声に振り返る。
「――っ、ぅ……これでも喰らっていなさい!」
 至近距離から放った炎の球が凄まじい勢いでリザードマンを包み込む。だが、これだけで敵が崩れる保証はない。だから新たな術を刻もうと口を開いた。しかし、
「目は見えてるみたいだな」
 優しく、ぶっきらぼうに降る声に息を呑む。と直後、彼女の目の前でリザードマンの首が飛んだ。
 その傍にはヴォルフガングの姿がある。
 2本の刀を手に持つ様子から二刀流を試しているのだろうか。
「……扱いが難しいな」
 両手で持つよりも力が分散されるため、どうにも扱いが厳しい。とはヴォルフガング談だ。
「レイレリアさん、大丈夫ですか?」
 駆けつけたフィルメリアは警戒した様子で残る1体に銃口を向ける。
 このまま行けばナサニエルには指1本触れさせずに戦闘を終了させる事ができそうだ。
「あちらは、もう少し掛かりそうですね……」
 チラリと見遣った先。そこにはワイバーンと戦う仲間の姿が見える。
 戦闘開始時間はほぼ同じだが、やはりリザードマンとは比べ物にならない力量を持っていると言うことだろう。
「倒して援護に入れればいいですが」
 そうフィルメリアが呟いた時だ。
「残念だが無理そうだ」
 どこから出現したのか、倒した数と同じだけのリザードマンが迫っている。
 ヴォルフガングはナサニエルを背に雪を踏み締めると、刀を1本にして構え直した。
「実験はここまでだ。ここからは本気で行かせてもらう」
 雪を巻き上げ、彼の放った衝撃波が敵へ迫る。
 そしてそれを追いかけるように青い炎の矢が敵に突き刺さった。
 衝撃を受け、炎が薔薇の形を取って砕け散る。まるで花びらが戦場に舞うかのような光景に一瞬だけフィルメリアの表情が和らいだ。あがそれは本当に一瞬のこと。
 彼女は2人の攻撃が集中する場所とは別の箇所に敵を見つけていた。
「残念ですけど、それ以上の進軍は許しません」
 トンッと雪を蹴ると同時に敵の視界から消えたフィルメリア。しかし姿を見失った直後、彼女の刃がリザードマンの首を掻き切った。
「此処で見つけた以上、全て片付けるわ。他の場所へは逃がさないし行かせない」
 そう呟くと、フィルメリアは次なる敵に狙いを定めた。


「成程。少しは歯応えがあるってことか?」
 口角を上げたアルトは浮上するワイバーンを見て駆け出した。
 先の攻撃で受けた怪我は彼女にとって大した事ではないのだろう。
「さあ、トカゲ。少しは私を楽しませろ!」
 言葉と同時に雪を蹴るアルトの姿が消える――いや、消えたのではない。まるで瞬間移動のように高速移動したのだ。これにリチェルカのリボルバーが火を噴いた。
「もう1度」
 翼を掠めた弾丸。より正確に、より精度を上げて狙わなければ、動く翼を撃つ事はできない。
 リチェルカは慎重に照準を合わせると、アルトの刃が翼へ向かうその瞬間を待って撃った。
『キュィィイイッ!』
 命中した弾にワイバーンの体が揺らぐ。が、まだ沈まない!
「いけない、避けて!」
 ユーリが咄嗟に飛び出しアルトの腕を掴む。
 そうしてワイバーンの視界から退いた瞬間、彼の竜が凄まじい勢いで突っ込んできた。
 寸前のところで直撃を免れたリチェルカと、僅かに腕にダメージを受けたアルト。そんな彼女の傷に触れ立ち上がったユーリは、次の攻撃に出ようとするワイバーンに刃を向けた。
「……一箇所にばかり気を取られてると、不意の一撃を受けるわよ」
 きっと彼女なら言われなくてもわかっているだろう。それでも誰かが目の前で傷付くのを見るのは嫌なのだ。
 ユーリは唇を引き結ぶと、完全にターゲットを決めたらしいワイバーンを見据えた。
「私が吹き飛ばされるのが先か、それとも私の剣が切り裂くのが先か……試してみようかしらね」
 幸か不幸か、ワイバーンは今一度突進を掛けるつもりのようだ。
 首を仰け反らせ、翼を大きく広げる姿にユーリの構えが深くなる。そしてワイバーンがスタートを切った直後、彼女の刀が鞘に納まった。そして、
「っ、く……ぅうッ!!」
 ワイバーンの突進と同時に繰り出した一打。腕が軋み、全身から一気に汗が吹き出し、それでも居合いから繰り出した一撃はしっかりとワイバーンの姿を捉えていた。
「おー、無茶するねー! でも嫌いじゃねぇ!」
 援護頼む。そう声を上げ、枢が飛び出した。
 その瞬間、ユーリの体が雪原を吹き飛んだ。と同時にワイバーンの体も大きく揺らぐ。
「このまま翼を落とします」
 機動力さえ削げば勝利は目前だろう。
 リチェルカはワイバーンに接近した枢の動きを援護するように射撃を繰り返す。その精度は先の一撃同様に高い。そしてその弾丸の中、枢が飛び上がった。
「悪しき黒炎には、裁きの黒炎を――その翼、俺達疾影士が貰った……恐怖に慄けぇ!」
 ワイバーンの胴を蹴っていっそう飛び上がった彼の手から、重力と己が体重、渾身の力を篭めて刃を振り下ろす。
『ギィァアアァアアッ!!』
 ゴキッ。そんな音が響き、翼が落ちた。
 だが敵もただ翼を失うだけではない。奪った翼の見返りに、刃を振り下ろし手薄となった枢の頭に喰らいつこうとしたのだ。しかしまたしてもワイバーンにとって邪魔が現れる。
「悪いけど、それは許可できないかなぁ」
 牙を刃で受け止め、顎で枢に退くよう指示するのはヒースだ。
「さて、と。お前たちに対し怒りも恨みもないけどこれも仕事なんでねぇ。敵を斬り、討つ。ボクの役目を果たさせて貰うよぉ」
 歯を断つように振り下ろした刃が敵の顔を退かせる。けれど退散など許す気もない。
 ヒースは退いた分の距離を瞬間的に近づけると、目を剥く敵の喉目掛けて刃を突き入れた。
 もがき、暴れる竜の姿にヒースは感情の篭らない視線を注ぐ。そして終結を迎えるべく最後の刃を振り上げたのだが、ワイバーンはここまで来ても尚足掻いた。
「おい、炎を吐く気だぞっ!」
 ここまでワイバーンの動きを注視し、行動に対する予備動作を覚えていた枢が叫ぶ。
 だがわかった所でヒースが退く時間はない。
「なら、ここで終わらせるだけだよねぇ。お前か、ボク、どっちが死ぬのか……見極めようかぁ?」
 開かれた口腔に薄っすらと炎が見える。
 ヒースはその炎を見ながら刃を振り下ろし、ワイバーンの喉目掛けて突き入れた。
 僅かに漏れる炎。それを頬に受けながら、ヒースはトドメに踏込むユーリとアルトの姿を捉えた。
「アルト様!」
「わかっている。これにて狩りを終焉とする!」
 ワイバーンの胴に青白い雷が襲い、痛烈な一打が胸を討つ。
 彼の敵は見開いた目でヒースを捉えると、悲鳴にもならない息を吐き出しその場に崩れ落ちた。


「終わったわね……」
 ユーリはレイレリア等と合流すると、安堵したようにナサニエルを見た。
 彼は自前の魔導機械を懐にしまって、今はなにやら別の機械を操作しているようだ。
 その様子が楽しそうなので、たぶん「成功」したと言う事なのだろう。
「残党勢力も残っていないようだし、他のハンターと合流しても良いかもな」
 アルトはそう言うと、今まで警戒のために出しっぱなしだった刃を鞘に納めた。
「で、何か有益な情報はありましたか?」
 ん~? と気のない返事を返すのはナサニエルで、そんな彼に眉を寄せるのは問いを向けたフィルメリアだ。
「そのうらやワカメに質問しても無駄ですわよ。今は他部隊と連絡を取っていてそっちに集中してますもの」
 とは言え、ナサニエルならば作業しながら会話をするのは造作もないことだろう。それでも応えないと言う事は、今は語るべきことはない、と言う事なのだろう。
「面倒な人ですね」
「面倒と言えば……」
 一斉に視線がゼナイドに集まった。
「何ですの?」
「いや、第十師団長殿は帝都に帰らないのか……とな?」
 オズワルドの苦労話はハンターたちにも届いていた。故に誰もがゼナイドを帝都に戻すべきだと考えていたのだ。それはヴォルフガングも同じ。
「まぁ、皇帝の近くに居て職務に精励することで見えるものも……ある、か?」
「そんな言い方ではダメだと思う」
 あまりに煮え切らない物言いにリチェルカが前に出る。
「歪虚に八つ当たりなんて後ろ向きだよ。ここは皇帝との関係を築き直そうとしたり、刺激を与えて皇帝の記憶を結びなおすために自分の都市に招待したり、模擬戦挑んだり。ね?」
「そうですよ。新たな関係も勿論ですが、今の陛下は記憶を無くしておりますし……再び傷つけられることのないようにゼナイド様がお近くで護衛なさった方が、宜しいのではないでしょうか?」
 まるで畳み掛けるようなレイレリア。そんな彼女らの言葉に揺れを見せるゼナイドへ、枢が最後の押しを加えた。
「記憶喪失って、人との思い出で印象的なものを何度も見せることで記憶が甦ったってケースがあるって聞いたな。ゼナイドさん『らしい』姿見せ続けてりゃ記憶が戻ることもあるかもね?」
「わたくしらしい姿……陛下に吹き飛ばされ、陛下に罵られる日々。懐かしいですわッ!」
 恍惚とする姿にドン引きしそうになるのを堪え、ヒースが呟く。
「ともあれ、最初の作戦は完了。そちらも一度拠点都市に帰還する事をお勧めするよぉ」
「アネリブーベのことですの? それでしたらお断りしますわ」
「前線での仕事は果たした。ならば次に果たすべきは師団長としての役目だと思うんだけどねぇ。自分の仕事、役目を果たさない者をあの皇帝はどう思うかなぁ?」
「陛下自身もそうですし、問題ないと思いますけど」
 ゼナイドの返事に、ヒースの視線が一瞬泳いだ。そう言えば何度かお忍びで城を抜け出しているなんて噂が……。
「ですがあなた方の言い分はわかりましたわ。残念ですけど1度帝都に戻りますわ」
 そう言葉を発し、ゼナイドは胡散臭いほどに綺麗な笑みを浮かべたのだった。

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  • Stray DOG
    ヴォルフガング・エーヴァルトka0139
  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカーka0145

重体一覧

参加者一覧

  • Stray DOG
    ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 雪の感謝
    リチェルカ・ディーオ(ka1760
    人間(紅)|17才|女性|猟撃士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • 六水晶の魔術師
    レイレリア・リナークシス(ka3872
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • 祓魔執行
    央崎 枢(ka5153
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
レイレリア・リナークシス(ka3872
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/02/01 19:21:42
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/02/01 01:10:27
アイコン 質問場所
ヒース・R・ウォーカー(ka0145
人間(リアルブルー)|23才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/01/31 18:20:07