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  • 龍奏

【闇光】北への架け橋

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/02/01 22:00
完成日
2016/02/09 06:27

みんなの思い出

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オープニング

●約束の地へ
 ――それは奇跡であった。
 北伐作戦により大損害を受けた連合軍だが、暴食王ハヴァマールの撃退は歪虚の軍勢にも大きな打撃を与えていた。
 少なくともあの不死王と不死の軍勢は大きく北へ撤退した筈。でなければ“あり得ない”。
 帝国が辺境に対する誤った圧力を認めパシュパティ条約が結ばれる事になり、その調停役としてナディア・ドラゴネッティが辺境へ赴いたのも、全ては北伐戦があってこそ。
「命懸けの挑戦が偶然にも重なって作られる未来。いや……偶然ではないな。これも“宿業”という事かの」
 聖地リタ・ティト。嘗て白龍の座したその場所に立つナディアの足元には大きな魔法陣が描かれている。
「この作戦に二度目はない。一発限りの奥の手じゃ。おぬしらの双肩に、多くの仲間たちの運命がかかっておる」
 足元から立ち上る光に照らされるハンターたちへと振り返り、ナディアはその腕を振るう。
「征くのじゃ、勇者たちよ! 我が主たる青龍との契約を守るため、今こそ“北へ”――!」


「……青龍だぁ?」
 リタ・ティトに集められたスメラギ(kz0158)とリムネラ(kz0018)が顔を見合わせる。
「スミマセン……ワタシも聞き覚えハ……」
「黒龍が俺様に語ってくれたのは盟友たる白龍の事だけだ。まあ、他にも居るだろうって予想はしてたがな」
「ふうむ……まあ当然じゃのぅ。青龍のヒトとの付き合い方は白と黒とは全く異なる。スメラギの言葉を借りるのなら、“盟友ではなかった”という事じゃ」
 歯切れ悪く、しかしゆっくりとナディアは語り出す。
 歪虚の軍勢が南下し、後のグラズヘイム王国分裂の原因ともなったとされる“大侵攻”よりも古い時代。北にはもう一つの大きな国が存在した。
 大侵攻は東方との連絡を断ち、王国から帝国と同盟を分裂させ、そしてこの“北方王国”も例外なく分かたれる事となった。
「今になって思えば、大侵攻はそれぞれの力ある存在を分断する為にあったのやもしれぬな」
 辺境に座する白龍。東方を守り続けた黒龍。
 それらと同等の力を有する青龍に守護された国は、今は北狄と呼ばれる場所にあった。それも遠き過去の話……だが。
「その滅びた国であるリグ・サンガマからわらわに連絡があったのじゃ」
「連絡……ドウやって?」
「ぶっちゃけると、わらわはおぬしらと同じ。青龍の加護を受けた巫女じゃ。リグ・サンガマには龍の血族同士を結ぶ専用の連絡手段がある。ちょっとした大魔法の類故に頻繁には使えぬがな」
 二人は「あ~やっぱり」という様子で、驚きもしなかった。
 名前にドラゴネッティとついているのもそうだが、元々なんとなく自分たちと同じ力を感じていたのだ。
「だからよ、その連絡がずっと途切れてたんじゃねぇのか?」
「北伐作戦で夢幻城が墜ち、暴食の眷属は大きく後退。怠惰も今は沈静化しておる。浄化作戦も相まって、ジャミングが緩和されたのじゃろう」
 通信には有効距離もある。送られてきたのはたった一回。もしその時ナディアが辺境に居なければ受理すらできなかったはずだ。
「奇跡的デスね……」
「って事は、東方の時と同じか? 青龍がリグ・サンガマって国を守ってた。で、救援要請がやっと届くようになった。これから助けに行く……で、移動手段はどうする?」
「転移を使う。聖地リタ・ティトの龍脈を利用した……そうじゃな。古代魔法とでも言うべきかの?」
 リグ・サンガマは遥か北方。間には広大な汚染領域が広がっている。
 その道中を浄化する為の浄化キャンプに使われた龍脈は、元々はこの聖地を起点とするものだ。つまり聖地とリグ・サンガマには神霊樹とマテリアルのつながりがある道理だが。
「なんで最初からやらねぇんだよ!」
「できなかったのじゃ。この転移は一方通行で、無事に帰れる保証はない。かつ、送り込める人数には限界があり、一度しか使えん。それ以上は聖地に負担をかけすぎる」
「だったら送っても犬死じゃねぇか……」
「じゃから、状況が変わったのじゃ。指定された時刻にある場所に転移を行えば、北方の援軍が来る見込みがある」
「デスが……ソレモ確実ではナイと……」
 危険過ぎる掛けだ。重苦しい空気が三人の認識が共通だと語っている。
「ヴィルヘルミナ達が行った北伐直後の今でなければ可能性はない。歪虚が体勢を崩している間でなければの」
「……わかった。しょうがねぇ、俺様も行ってやる」
 驚くリムネラが止めようとする言葉を先に手をかざして制止し。
「つまり、転移門を作るんだろ? コッチに帰ってくる為のよ。それには高位の術者が向こう側とコッチ側両方に必要だ。それも龍の力に適性のあるヤツ」
「ダカラ我々を……?」
「これまでの戦いでおぬしらはそれぞれが龍の力の片鱗を受け継いだ。それも必要な前提条件じゃった」
 思わず息を呑んだ。まるで全てが仕組まれていたことのようにさえ思えてくる。
「無論、残敵はまだ多い。故に通常ルートでも陽動をかね、北伐を再開する。まだ再利用可能な浄化キャンプを繋ぎつつ、別働隊で北を目指す」
「マタ……ヒドイ戦いになるのデスネ……」
 俯き呟くリムネラの言葉にナディアは返す言葉を持たなかった。
 また戦士達を死地へ追いやろうというのだ。言い訳など出来る筈もない。
「強制転移を使った後、わらわはおそらく数日間目覚めぬじゃろう。ひょっとすると死ぬかもしれん」
「おい!」
「それくらい消耗するという事じゃ。ま、わらわの身体は特別頑丈じゃからな。死ぬことはなかろうが……実際の作戦はおぬしらが頼りとなろう」
 左右の手で二人の手をそれぞれ取り、ナディアは小さく頭を下げる。
「どうか……人類の未来を救って欲しい」
 例え――北の地に待つ真実がどんなに残酷だとしても。
「わらわを信じてくれ」
 北伐作戦の第二幕は、時を待たずに開演する事になった――。


●北への架け橋
「時間がねえから簡潔に言うぞ。北の地に転移門を設置しに行く。手伝ってくれ」
 突然そう切り出したスメラギに、ハンターが目を瞬かせる。
「北方王国『リグ・サンガマ』に行くのはいいが、このままじゃ一方通行。帰れねえのよ。それじゃ困るんで、帰り道を作りに行く」
「何でわざわざあなたが行く必要があるの?」
「まー。話すと長いんだが……とにかく、転移門を設置するには龍の力に適性のある高位の術者が向こう側とコッチ側両方に必要なんだよ」
「ああ、それでお前に白斑の矢が立ったと」
「そーいうこった。で、だな。その設置する場所がカム・ラディ遺跡って言うんだけどよ。歪虚が腐る程いるみてぇでな。設置してる間、敵の侵入を防いで欲しいんだ」
「随分簡単に言ってくれるわねえ」
「しょーがねーだろ。転移門設置してる間は俺様戦えねえしよ」
「まあ、適材適所って言葉もあるな。……分かった。護衛を引き受けよう」
 スメラギの言葉に頷くハンター達。
 北への架け橋を作る為に、彼らは行動を開始する。

リプレイ本文

 ――カム・ラディ遺跡。数百年前に建造されたリグ・サンガマの神殿の一つである。
 歪虚による攻撃と、長い歳月による風化は避けられなかったのだろうか。
 原型を保っている場所は、ハンター達の立っている部屋だけと言ってもいい状況だった。
 窓のない白い壁。天井が丸く、ドームのようになっており、点々と龍の彫像が置かれていて……。
「うななっ。やっぱり遺跡ってなんとなく埃っぽいのなっ! でもって北の国っていうだけあって寒いのな!」
「……門の設置っていうけど、これって樹……?」
「ハンターズソサエティでも同じようなの見た事あるような……」
「おう。神霊樹ってヤツだな。今はマテリアルが寸断されちまってて、動いてねーけど」
 自分を抱きしめるようにしてガクブルと震える黒の夢(ka0187)。聳え立つ大樹を見上げる天竜寺 詩(ka0396)と
超級まりお(ka0824)にスメラギが頷く。
 魔導バイクや戦馬で遺跡を走り抜けたハンター達。
 その目前には、天井に届きそうなくらい大きな神霊樹と、そして龍の彫像と……それを奉る祭壇があった。
「この彫像はこの国を守ると言われている青龍でしょうか」
「ここに来るまでにもいくつか見たけど、これはその中でも大きいね」
「すごいなぁ……! 未知の遺跡! 未知の王国! ああ、気になる事が多すぎるよ!」
 龍の彫像をまじまじと見つめるアシェ-ル(ka2983)と霧雨 悠月(ka4130)。目を輝かせるルスティロ・イストワール(ka0252)に、詩がくすりと笑う。
「ルスティロさん、気持ちは分かるけど目的忘れちゃダメだよ?」
「分かってるさ! 大丈夫!」
 胸に手を置き、請け負うルスティロ。
 ――本当はスメラギの行う儀式もじっくり観察したいが、まずは仕事が先だ。
 神霊樹と祭壇の周りをうろうろしていたスメラギは、一人納得したように頷く。
「スメラギ様、どうですか? 出来そうですか?」
「おう。祭壇が残ってっからな。これなら話は早ぇ。あとは龍脈がどこで止まってるか調べねえと……」
「何とかなりそうなのな?」
「おうよ。俺様を誰だと思ってんだ」
 心配そうなアシェールと黒の夢に、を張って見せる彼。
 悠月が小首を傾げながらスメラギを見る。
「転移門の設置って言うのが具体的に何をするのか良く判らないんだけど、門に龍脈に繋げればいいのかな?」
「そ。門の稼動には膨大な量のマテリアルが必要になる。それを、この地に流れてる龍脈から戴く寸法だな」
「そんな膨大なマテリアル供給して、龍脈やこの儀式が歪虚を引き寄せたりしないの?」
「龍脈はいわば正のマテリアルの塊でな。これだけあっても歪虚は使えねえ。儀式も同様だ。狙う理由がねえ」
 スメラギの説明に、ふむふむと頷くまりお。
 ナディアが行った『強制転移』は、膨大なマテリアルを青龍の巫女の力で強制的、かつ一時的に供給し、門をこじ開ける方法だ。
 あまりにも負荷が高すぎる為、二度と同じ手段は取れない。
 だからこそ、こうして……『龍脈』が扱える、龍の力に適性のあるスメラギが派遣されたのだ。
 そして聞こえてくる龍の咆哮。別働部隊が交戦を始めたらしい。
「……始まったみたいだね」
「そうだね……と。そうだ」
 悠月の声に頷くスルティロ。彼は、ああ、と思い出したようにスメラギに向き直る。
「これどうぞ。毛布だよ。寒いでしょ? ここ」
「これ着てたら動けねえんじゃね……?」
「お腹冷やしたらダメですよ!」
 毛布を肩からかけて、紐できゅきゅっと結んだアシェール。
 何か言おうとしたスメラギの首に、黒の夢が笛をかける。
「スーちゃん、儀式終わったらこれ吹いて知らせて欲しいのな! 大声出すより楽なのな!」
「スメラギ君は私達がきっと護るから。だから大船に乗ったつもりでどんと安心しててよね♪」
「……お前らなー」
 ウィンクして見せる詩に、ため息をついて頭を掻くスメラギ。
 大体、ハンター達は過保護にも程がある。
 身体が小さいから、子供だと思われているんだろうか。
 ともあれ、しっかり成功させて、俺様がデキる男だと思わせねーと……!
「あのさ、取り込み中悪いんだけど。僕先に出ていいかな? やりたい事あるんだよね」
「やりたい事、ですか?」
 はい! と挙手をしたまりおに、小首を傾げるアシェール。それに彼女が頷く。
「うん。さっき、スメラギ君が言ってたでしょ。『儀式や龍脈は歪虚を引寄せない』って。という事はさ、僕達が入り込んだ事に気がついて騒いでるんだと思うのね」
「あー。なるほど……」
「全員が門の周りにいたら、かえって危ないかもしれない。ちょっと行って霍乱してくるよ」
「それは悪くないアイデアだけど……」
「一人じゃ心配なのな」
「へーきへーき! 敵を集めたら撒いて逃げてくるよ!」
 ふむふむと納得するルスティロに頷くまりお。
 心配そうな詩と黒の夢に、彼女はびしっと敬礼を返す。
「……トランシーバー、忘れずにね。困った事があったらすぐに連絡して」
「はーい。行ってくるねー!」
 悠月の声にもう一度頷くまりお。魔導バイクに跨り、土煙を上げて走り去った彼女の背を見送って、彼は仲間達を振り返る。
「それじゃ、僕達も始めようか」


『あのねー! 二足歩行のトカゲがいっぱいいる!!』
「リザードマンですね? いっぱいってどれくらいですか?」
『数えるのも面倒なくらい! 数が多くて集めきれないかも!』
「了解です! くれぐれも無茶しないで下さいね!」
『あいあいさー!』
 トランシーバーから聞こえてくるまりおの声に受け応えるアシェール。
 祭壇に向かって集中していたスメラギが目を開けたのに気付いて、黒の夢が首を傾げる。
「スーちゃん、龍脈の位置分かったのな?」
「おう。バッチリだ! それじゃお前ら頼むぜ!」
「はーい! ……色々落ち着いたら、またヴィシソワーズを作ってあげるからね。もうジャガイモが嫌いなんて事ないでしょ?」
 笑顔を浮かべる詩。次の瞬間、不可視の境界が神霊樹の周囲を包む。
 門の近くで様子を伺っていたルスティロは、何かに気付いたように顔を上げてトランシーバーを口に当てる。
「お客さんが来たようだね。そっちはどうだい?」
「こっちもだ! 人気みたいだよ、この部屋!」
 くすりと笑う悠月。
 反対側の門でバイクのエンジンを切り、動物の祖霊を身に宿して聴覚を最大限まで引き上げた彼の耳に届く大地を蹴る音。近づいてくるそれは――。
 あまり来て欲しくない気持ちと、戦ってみたい気持ちが入り混じって、胸が高鳴る。
「足音からすると数はおよそ10。……迎撃する」
「こちらも同じくらいかな。了解。武運を祈るよ!」
 同時に通信を切る悠月とルスティロ。
 扉の先に現れた、鱗を持つ直立の歪虚……リザードマンを見て、2人は薄く笑う。
「……いらっしゃい。さあ、全力でお迎えするよ? 闇路への御案内さ」
「招待状を渡した覚えはないんだ。帰ってもらうよ?」
 風に乗る悠月とルスティロの呟き。
 ――それが、戦端を開く合図となった。


「さて、お手並み拝見と行こうか」
「悠月さん! 下がってください!! あの集団に火球を撃ち込みます!」
 白い刀を抜いた悠月は、アシェールの声に応えるように飛びずさる。
「……炎よ、集い来たれ。かのものを貫き、焼き尽くせ!」
 次の瞬間、彼女の手から放たれる火球。
 続いた炸裂音。リザードマンを巻き込み、桃色の炎が辺り一体を包む。
「おー。派手ー! ……ところでアシェールさん、怒ってる?」
「怒ってません! スメラギ様の邪魔をする存在が許せないだけです!! チョコをお渡ししなきゃいけないのにー!!」
「それは怒ってるって言うんじゃないかな」
 苦笑する悠月。火球を避けたリザードマンがこちらに向かって来るのが見える。
 そして更に後方から、足音が聞こえて――。
「……更に来そうだよ。もう一発頼める?」
「任せて下さい! 私だって、たまには頼りになる所をお見せします!」
「その意気だ! さあ、死にたい奴からかかっておいで!」
 黒い髪が完全に銀色に変わった悠月。
 閃く刀。突撃してきたリザードマンの悲鳴。白い柄が返り血で赤く染まっていく。


「星々の輝きよ、全てを善き方へ。光よ躍れ、汝に祝福を――」
 静かに祈りながら朗々と呪文を歌い、己の力を高める黒の夢。
 これは、何があってもすぐ対応できるようにする為の準備だ。
 今のところ仲間達が向かい来るリザードマンを食い止めてくれている。
 ――それにしても、このドラゴンちゃん達は小さくて美味しくなさそうである。
 彼女がそんな事を考えていると、急に、門の周辺の雰囲気が変わった。
 耳が痛い程張り詰めた空気に振り返る黒の夢。
 そこに響く、スメラギの大地に根を張るような声――。


 ――此れの神床に坐す 掛けまくも畏き龍神に――


 続く詠唱。
 彼の半身にある黒龍の文様が輝き……その途端、彼の周囲から、光がこぼれ出す。
「……綺麗な色。これがスーちゃんの命と、大地が育む光……」
 黒の夢の金色の双眸に映る光。
 感じる、暖かくそして膨大な正の力。大量なマテリアルの流れ。
 地下深く眠り続け、急に出口を得たそれは、スメラギの身体を通って外に飛び出し、光へと変化していく。
 その光はどんどん集まり、線から柱になってゆき――聳え立つ大樹に向かう。


「ああっ。何が起きてるんだ!? 見たいけど結界で見えない!!」
「ルスティロさん、今は目の前の敵に集中してよね!」
 部屋の中心から突如としてあふれ出した光の奔流に目を見開くルスティロ。
 ある意味、不可視の結界で目隠しされていて良かったのかもしれない。
 目の前で、こんな不思議な事が起きていたら、見ないでいるのはきっと難しかったから。
 今だってものすごーく探求心がそそられているが、詩の言う通りだ。
「罪を断つ聖なる光よ。杭となりてかのものを捕らえよ!」
 詩の詠唱と共にリザードマンに吸い込まれる光の杭。
 動きを止めた敵に、ルスティロのナイフが雨のように降り注ぐ。


「うわ。何アレ。あれが龍脈……?」
 ドームから溢れ出た光に、口をあんぐりと開けたまりお。
 あちゃー。すごい派手だわ。こりゃもう絶対何かやってるって気付かれたね……。
 そんな事を考える彼女。案の定、まりおを追っていたリザードマン達は光の方に引き返そうとしている。
 ああ! ちょっと待った! こんなところで戻られたら、上手く行きかけてる作戦が失敗に終わってしまうではないか!!
 てか、誰の許可を得て戻ろうとしてんだ許さねーぞこのトカゲ野郎!!
「ちょっ! こらー!! 勝手に戻るな! あんた達の相手はこの俺だっつーの!!」
 叫び、魔導バイクで往く手を遮るまりお。
 その剣呑な目つきと迫力に、思わずリザードマン達は足を止める。
「分かれば宜しい。っていうかさっさとこっち来いっつーの! バイクで轢いてやろうか!!」
 突如としてエンジンを全開にし、リザードマン達を追い立て始める彼女。
 ――何か、陽動というよりは追い込み漁になってませんかね?


 苦しげな顔をして片膝をついたスメラギ。黒の夢は思わず駆け寄ってその身体を支える。
「しっかりするのな!」
「悪ィ、黒の夢。ちょっと手貸してくれ」
「……いいけど、何すればいいのな?」
「ここに手を置け。あとは供給の道筋を作って、結界を張る。身体を龍脈の力が通るけどちょっとの間だけ我慢してくれ」
 肩で息をしている彼にこくりと頷き、いわれるがままに祭壇に触れる黒の夢。
「うややや!?」
 その瞬間、彼女の身体を通り抜ける大量のマテリアル。
 正の力とはいえ、強すぎる力は既に暴力だ。
 ――こんな事を、彼は一人で成そうとしていたのか。
「……スーちゃん。スーちゃんは独りじゃないのな。それを忘れちゃダメなのな」
「わーってるよ。でもこれは俺にしかできねーんだ。仕方ねーだろ?」
「うん。分かってればいいのな」
 にっこりと笑う彼女。
 スメラギは、再び目を閉じると祭壇に意識を集中する。


「悠月さん、大丈夫ですか?」
「うん。平気。ちょっと手数が増えてきたね」
「まだ……来るのですか……。でも、諦めません!」
 悠月の全身が光に包まれ、傷が治癒していく様を心配そうに見つめるアシェール。
 彼は前方を見たまま、ふう、とため息をつく。
 一時期数を減らした敵が、再び増えた。
 龍脈から出る光でこちらに注意が向いたのかもしれない。
 ルスティロもレイピアで敵の攻撃を受け流しているが、それにも限界があり……じわじわと体力が削られつつあった。
「はは、ちょっと僕の手に余る、ね!」
「まだまだー!! スメラギ君に悪さしたら、私が許さないんだから!」
 ぷんすこ怒りながら、弓でリザードマンをぽかぽかと殴り始める詩。
 そして不意に収まる光。入り口のリザードマンが弾かれ……それと同時に、終了を知らせる笛が鳴り響いた。
「終わったの!? ねえ儀式終わったの!? 僕見てないんだけど!!」
「はいはい。もー。いいから残党を蹴散らすよ!!」
「うあああ! 儀式見たかったああああ!!」
 詩に促され、リザードマンに八つ当たりを開始するルスティロ。
 そんな仲間の様子に、悠月がくすくすと笑う。
「あはは。負けてられないね。アシェールさん、まだスキル撃てる?」
「大丈夫です!」
「じゃ、どーんとやっちゃって。僕は残りを美味しく戴くよ」
「了解です!」
 彼に強く頷き返して、火球を放つアシェール。
 そんな事を何度か繰り返しているうちに、ドームの中は静かになり――。


「お疲れスーちゃん! ほーら汝の大好きなふかふかであるーっ! 後で一緒にお風呂入ろ♪」
「だああ! 俺様別にそれ好きじゃねえっつーの!! てか何だよ風呂って!」
「えっ。嫌なのな?」
 儀式を終えたスメラギに抱きついて撫で回す黒の夢。
 ジタバタと暴れ、言葉を詰まらせる彼に、悠月が同情の眼差しを向ける。
「ちょっとそれは、うら若い男子には刺激が強いんじゃないかなー」
「これで、無事に帰れますね。スメラギ様、チョコ菓子楽しみにしてて下さいね♪」
「ちょこってのは食った事ねーんだけど……」
「大丈夫だよ。甘くて美味しいよ」
 くすくすと笑うアシェールに、小首を傾げるスメラギ。
 悠月の声に、ふーんと彼は呟いて……。そこに、まりおが意気揚々と戻ってきた。
「ただいまーっと!」
「あ、お帰りなさい。お茶どうぞ。怪我しなかった?」
「楽勝楽勝!」
 詩からお茶を受け取りながら、えっへんと胸を張るまりお。
 そしてルスティロがそわそわとしながら仲間達を見る。
「ねえねえ。この後遺跡を観察したいなぁ。ほら、これから使うんだから必要でしょう!?」
「……却下」
「えええ!? 何で!?」
「今回は転移門を作るまでが仕事でしょ! ほら、帰る用意して!!」
 詩にずるずると引きずられるスルティロ。
 仲間達は顔を見合わせて笑った後、その後に続いた。

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  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • 英雄を語り継ぐもの
    ルスティロ・イストワール(ka0252
    エルフ|20才|男性|霊闘士
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士

  •  (ka0824
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 感謝のうた
    霧雨 悠月(ka4130
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士

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アシェ-ル(ka2983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/02/01 18:32:31
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黒の夢(ka0187
エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/02/01 20:35:59
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/01/28 00:58:06