ハンター同士の雪合戦対決!

マスター:星群彩佳

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
8日
締切
2016/02/13 19:00
完成日
2016/02/26 07:24

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ルサリィ・ウィクトーリア(kz0133)はグラズヘイム王国の中でも、名高い貴族の一人娘だ。幼い頃から商才に長けていた為に、十歳にしては子供らしくない。
 今も屋敷の窓越しに外の景色を見ているのだが、その表情は今の天気のように曇っていた。
「ねぇ、フェイト。白銀の世界って言葉は、響きからしてもとても綺麗ね」
 そんな彼女に身も心もささげているメイドのフェイト・アルテミス(kz01334)は、いつもの無表情で主の後ろに控えている。
「はい、仰る通りだと思います」
「わたしはね、大人顔負けの仕事をしているけれど、子供心はまだ持っているつもりよ」
「はい、とても素晴らしいことだと思います」
「……でもね、こんなに雪が降り積もっちゃあ喜ぶよりも嘆くわーっ!」
 ルサリィの魂からの叫びで、屋敷の屋根にのっていた雪がドサドサーッと落ちた。
 ここ数日間、豪雨のように雪が降り続け、雪かきをしなくてはならないほど積もっている。天気が曇りになったので、ウィクトーリア家の男性使用人達が防寒着を着ながら雪かきを必死に行っていた。
「ぜぇぜぇ……。まっまあ雪が降り止んだなら、雪かきをすれば生活は何とかなるわ。でも集めた雪はどうしようかしら?」
「そうですね。カマクラや雪だるまなどでも作らせますか?」
「でもそういう作った物が太陽の熱でドロドロに溶けていくのは、見ていてあまり気持ちの良いものではないのよね」
 ウィクトーリア家の使用人達は集めた雪で様々な物を作っては、ルサリィを喜ばせてくれる。
 けれどだんだん気温が上がっていくと、雪の作品が溶けていく姿は少々恐怖に感じるのだ。
「そういえばこういう時のハンター達の仕事って、やっぱり雪かきもあるのかしら?」
「そうですね。一般人ではやりにくい場所でも、ハンターの方達の身体能力を使えばできることもありますから」
「じゃあウチと同じく、雪はどこかに集められているってことね」
 ルサリィはふと腕を組み、何かを考える。
「……街に広場があったわね。割と開けてて、何も置いていない広場が」
「ええ、あそこは主に屋台が集まる場所ですから。今のような季節には屋台は出ていないかと」
「ふむ……。ねぇ、フェイト。その広場に集めた雪を置いて、雪合戦を行うのはどうかしら? ただし、雪合戦の選手はハンターのみで、見物人は一般人を集めて、派手に行うの!」
「ハンター同士の雪合戦……ですか。確かに見応えがありそうなので、見物人は集まりそうですね」
「でしょう? ここ最近は家に引きこもりがちになっていたけれど、こういうイベントなら人々は出てくると思うわ。ハンター達は赤組・青組に分かれてもらおうと考えているの。と言うのもね、雪玉にかき氷にかけるイチゴのシロップと、ブルーハワイのシロップを混ぜた物を作って、敵に当たったらすぐに分かるようにするのよ。衣装もこちらで白い防寒着を用意して着てもらえば、色がついた雪玉が当たれば目立っていいでしょう?」
「ですが一般人が見物人となりますと、ハンター達が使う武器やスキルなどは禁止された方がよろしいと思われます。万が一のことがございますしね」
「ああ、確かに。試合となると、人は熱くなりやすいしね。ではハンター達には、身体能力と策略を存分に披露してもらいましょう」

リプレイ本文

○試合前の青組

 広場の左側が陣地の青組のメンバー達は、各々戦いの準備を進めている。
 雪壁の後ろにいる龍崎・カズマ(ka0178)は、大・小違うサイズの雪玉をせっせと作っていた。
「遠近法を使えば、飛んできた雪玉は避けづらいだろう。こう言っちゃあ何だが、敵の赤組のメンバー達は全体的に年齢がこちらより上だ。少しでも策を講じないとな……って、オイ。まさか『それ』を敵に投げるつもりか?」
 カズマの視線の先には、一メートルほどの巨大雪玉を複数作っている夜桜奏音(ka5754)の姿がある。
「アラ? 『雪ダルマ制作合戦』ではなく、『雪合戦』でしたか。困りましたね……。この大量の巨大雪玉、どうしましょうか?」
 本気で困り顔になる奏音を見て、カズマは不安を感じてガックリ項垂れた。
 一方、ウィクトーリア家で着替えてきたベル(ka1896)と葉月(ka4528)は、はじめて着た防寒着と、大量の雪に興味津々といった様子だ。
「きょうはカウベルをふくのなかにいれとかないと、『しゅーちゅーこうげき』をされてしまうからね。ふふっ、ゆきはしろくてキラキラしててキレー! ハヅキ、そのふく、にあっているよ。モコモコだね♪」
「このゴーグル、おめんみたい。でもベル! 『ゆき』と『てき』はてごわいんだぞ! ゆだんはするな!」
「わかっているよ! しょーぶは『ゆーじょー・しりょく・しょーゆ』がぜったい! だからかつよ!」
「おーっ!」
「盛り上がっているところに、水を差すようで悪いのですが……。ベルさん、それを言うなら『友情・努力・勝利』ですよ」
「「ほえ?」」
 巨大雪玉を転がしながら通りかかった奏音がサラッとツッこむと、ベルと葉月の頭の中に『?』が浮かぶ。
 そんな仲間達の様子を見ていた日高・明(ka0476)は、微妙な笑みを浮かべた。
「勝負にこだわるよりも、童心に戻って全力で楽しもうと思っていたんだけど……。僕がしっかりしないと、ちょっとヤバいかもな。奏音さんが作っている巨大雪玉、防御に使えないか?」
 明は慌てて大量の雪玉を作りだし、エリス・フォンメール(ka6101)も続いて雪を手に取る。
「うふふっ、雪合戦なんて懐かしいです。雪玉はいっぱい作っておいた方が、良いですよね。でもブルーハワイの雪玉は、お腹が冷えそうですけど美味しそうです」
 エリスはのんびりしながらも、雪玉にブルーハワイのシロップをかけていった。


○試合前の赤組

 広場の右側が陣地の赤組のメンバー達は、それぞれ戦いの準備を進めている。
 時雨(ka4272)は雪壁の後ろで、藤切(ka4813)と雪玉を作りながら打ち合わせをしていた。
「だからな、藤切。ごにょごにょ……」
「……まあ時雨お嬢がそう言うのなら、俺はやるだけだが」
 ヤル気満々である時雨に対して、藤切は微妙な反応をしている。
 二人の近くにいるマーオ(ka5475)は、楽しそうに鼻歌を歌いながら雪玉を作っていた。
「雪合戦って僕、生まれて初めてなんですよね。面白そうなので、楽しみです♪ ちなみに雪玉のサイズは、このぐらいで良いのでしょうか?」
 マーオは手のひらサイズの雪玉を、隣で五センチサイズの小さな雪玉を作っている月・芙舞(ka6049)に見せながら尋ねる。
「ええ、上出来よ。私は奇策として、ミニサイズの雪玉を数多く投げてみようと思っているのよね。相手は同業者であるハンター達だから、向こうも何かしら奇策を仕掛けてくる可能性は高いし」
「奇策はとても素晴らしいことだと思いますけど……、頭につけている猫耳カチューシャも奇策の一つですか?」
「ふふっ。見物人の方達から、選手である私を見やすくしただけよ」
 意味ありげに微笑む芙舞を見て、マーオは女性の不思議な感覚を知った。
「はあ……、ベルちゃんは敵になってしまったのだぁ。あのカウベルの音は凄いから、居場所がすぐに分かっちゃうと思うのだぁ」
 玄間北斗(ka5640)はベルが派手にカウベルを鳴らしながら動き回る姿を思い浮かべて、思わず暗い表情になる。
「ううっ……! そうなるとベルちゃんは集中攻撃をされてしまうのだぁ。こうなったらおいらも大きな鈴を身に付けて、動き回るのだぁ!」
 思い立った北斗は、鈴を用意してもらう為にフェイトの所へ向かった。
 そしてメンデルート(ka4840)は手袋をつけず、ドリルナックルをつけたままの両手を見て顔をしかめる。
「くっ、両手が冷える……! ……いや、これも神より与えられた試練だ! ならばこの極寒も受け入れてみせようじゃないか!」
 両手を掲げたメンデルートを見て、時雨と藤切は仮面の奥の眼を細めた。
「……なあ、藤切。メンデルートの『アレ』、大丈夫なのか?」
「さあな。とりあえず、勝負がはじまったら分かるだろう」


◎雪合戦、開始!

 雪合戦の実況中継は判定人である私、フェイト・アルテミスが務めさせていただきます。
 広場の中央に作られた小さな雪山にさしてある赤と青のフラッグを、敵のチームの選手が引き抜いた時点で勝敗は決まります。
 また勝負は点数制になっておりまして、選手は敵を一人を倒すとチームに一点が入ります。なのでフラッグを最後まで抜かれなかった場合は、点数が多かった組の勝ちとなります。
 そして勝負開始の時間となりました。
 開始の笛が鳴ると同時に、メンデルート選手が両手に雪玉を持ちながら、雪壁の上に飛びのります。
「ふっ……、神が私に『勝て』と仰っている。『敵を全て滅ぼせ』と! 私からは逃れられぬぞ! とうっ!」 
 掛け声と共に飛び上がり、雪壁から顔を出していた明選手とエリス選手へ向けて、勢いよく雪玉を投げました。
「フォンメールさん、こっち!」
「ひゃあっ!? あっ……ありがとうございます、日高先輩」
 しかし攻撃にいち早く気付いた明選手がエリス選手の腕を引いて、雪壁に隠れて避けます。
 すると青組のカズマ選手と奏音選手、ベル選手と葉月選手がそれぞれ雪玉を両手に持って立ち上がりました。
「空中じゃあ避けきれないだろう」
「頑張って投げます」
「ちからいっぱい、なげるよ!」
「めんで、ともだちといえど、よーしゃはしない! くらえっ!」
「しまっ……ぐはあっ!?」
 四人から集中攻撃を受けたメンデルート選手は、青い雪まみれになりながら落ちていきます。
「こっこの私が、一番にやられるとは……がくっ」
 どうやらメンデルート選手は気を失ったようですので、一時試合を中断して、ウィクトーリア家の使用人達が担架を使って陣地の外へ運びだします。
「……やっぱりメンデルートの両手の武器、眼を付けられたな」
「俺やお嬢が身に付けている物ならともかく、武器はヤバいだろうと忠告はしていたんだが……聞かぬヤツだからな」
 時雨選手と藤切選手は担架で運ばれていくメンデルート選手を見ながら、重いため息を吐きました。
 お二人は身に付けている物にこだわりを持っているので、汚れたり濡れたりするのを覚悟でブーツ以外は私物を身に付けております。
 メンデルート選手の両手の武器は試合前に注意をしましたが、本人が「武器としては使用しない」と頑なに外そうとしなかったので身に付けることは許可しましたが……。やはり敵チームから見れば、危険物に思えたようですね。
 何はともあれ、青組には一点が入りました。
「う~ん……。隠れてばかりいては、点数もフラッグも取れないな。フォンメールさん、奏音さんが作った巨大雪玉を転がして盾にしながら、赤組のフラッグを取りに行かないか?」
「了解しました。ではたくさん作ったこの雪玉も、持って行きましょう」
 明選手とエリス選手は巨大雪玉を転がしながら、ゆっくりと中央にあるフラッグへ近付き始めます。
「むっ! 敵がフラッグへ近付いている! させるかっ!」
 時雨選手は両腕にたくさんの雪玉を抱えながら、雪壁から出ました。そして雪玉を地面に置くと、青組へ向けて両手を使って素早く投げていきます。
「ふはははっ! 秘技・二刀流投げを受けてみよ!」
「うわっ!」
「きゃあっ!」
 明選手とエリス選手、慌てて巨大雪玉の後ろに隠れました。
「藤切っ、威嚇は成功した! さあ、今こそあの作戦を決行するのだ!」
「はあ……。分かった」
 藤切選手は雪壁をひょいっと飛び越えると、時雨選手の所へ走って行きます。そして時雨選手の胴体を担ぎ、中央のフラッグへ向けました。
「準備は整った。目指すは青組のフラッグ! 藤切、投げるのだ!」
「口を閉じて、歯を食いしばれ。舌を噛むなよ」
 藤切選手、まるで槍投げのように時雨選手をフラッグへ向けて投げます。
「うははっ! 時雨ロケットだぜ!」
「させるかっ!」
 しかし飛んでくる時雨ロケットに気付いた明選手、突如巨大雪玉を持ち上げて中央へ向かって走って行きました。
「てりゃあっ!」

 ズボッ!

「……何だ、アレは」
 呆れた声が藤切選手の口から出ましたが、この場にいる誰もが同じ意見です。
 時雨ロケットが中央に到着する前に、フラッグの前に立ちはだかった明選手が持ち上げた巨大雪玉に、飛んできた時雨選手の顔が『ズボッ!』とハマったのですから。
 『頭は巨大雪玉、体は時雨選手』――という世にも奇妙な生物が誕生しました。
 明選手は巨大雪玉を持ったまま、そっ……と時雨選手の体ごと地面に置きます。
「フォンメールさん、今だっ!」
「はっはい!」
 時雨選手が身動きできない隙に、エリス選手が駆け付けて、至近距離で雪玉を体に当てました。
 巨大雪玉からズボッと顔を出した時雨選手は、アウトになります。
「ぶはっ! ……しまった、やられたか。だがこれも好機! 藤切っ、俺ごとで良いから敵に雪玉を当てるんだ!」
「承知した」
 藤切選手は言われるまま、時雨選手が残した雪玉を両手に持ち、中央にいる三人へ向けて投げました。
「げっ! やられた!」
「つっ冷たいですぅ!」
「イタタっ! 藤切、力を込め過ぎだ!」
 そして赤の雪玉は見事に命中した為、ここで明選手とエリス選手もアウトになります。
 三人は陣地の外へ歩いて行き、休憩場に入りました。ちなみに休憩場は陣地のすぐ側のテントの下にありまして、あたたかいお茶や甘酒、おでんを用意してあります。
 アウトになった選手はそこで休んでもらいながら雪合戦を見続けることは可能ですが、作戦を伝えるのはNGとさせていただきました。
 三人が移動している間に、藤切選手は再び雪壁を飛び越えて身を隠します。
 青組は雪壁の向こうで、カズマ選手が顔をしかめていました。
「ここで雪玉を投げ合っているよりも、赤組のフラッグ目当てに動いた方が良いな。お互いのチーム、既に仲間が二人ずつヤられているわけだし」
「それじゃあカズマ、ベルもいくよ! いっしょにあかぐみのフラッグをめざすの! しゃりしゃり……」
「それは良いが……、ベル、何で雪玉を食ってんだ?」
「だっておいしいんだもん! ブルブルッ……」
 ベル選手は自分で作ったブルーハワイのシロップをかけた雪玉を食べており、何だか顔色が悪いです。
「はあ……。頼りになるんだか、ならねーのか分からないな。それじゃあベルは、俺の後ろを走れ。奏音と葉月は援護射撃を頼む」
「ベル、りょーかい!」
「分かりました。二人とも、お気をつけて」
「ぎょいっ!」
 そしてカズマ選手を前にして、ベル選手の二人は雪玉を両腕に抱えながら、赤のフラッグ目指して走り出しました。
 その行動を見て、北斗選手とマーオ選手、思わずギョッとします。
「はわわっ! ベルちゃんがあんなに動いているのに、カウベルはあまり鳴っていないのだぁ!」
「大事なのは、そこではないですよ! とりあえず止めに行かないと! 彼らに赤組のフラッグを取られたら、僕達の負けになります!」
「はっ!? そうなのだぁ! このままでは赤組のフラッグを取られてしまうのだぁ~。雪玉を持って、行くのだぁー!」
「僕も北斗さんと一緒に行きます! 藤切さんと芙舞さんは援護射撃をお願いしますね!」
「分かった」
「気を付けてね」
 そして赤組の方も、北斗選手とマーオ選手が雪玉を抱えながら走り出しました。
「コレでもくらえなのだぁ!」
 北斗選手は両腕いっぱいに抱えた雪玉を全て、空へ向けて放り投げます。
「チッ! そっちの作戦できたか! ……てか、鈴の音がうるせー!」
 大きな鈴を腰に付けている北斗選手、ある意味、カズマ選手への精神攻撃は成功しているようですね。
「北斗さんも『そう』考えたの。では私も実行するわね」
 芙舞選手も大・小サイズ様々の雪玉を、数多く空高く投げました。
「くぅっ……! 避けきれないなら、道連れにするまで! おいっ、雪玉をありったけ投げるんだ!」
 振り向きながらカズマ選手が叫ぶと、青組の三人は雪玉を北斗選手とマーオ選手へ向けて投げ始めます。
 カズマ選手の強烈な雪玉は北斗選手の顔面に直撃しますが、藤切選手の投げた雪玉を右肩に受けてしまいました。
「ぶほっ! このかき氷玉、甘いけどイタイのだぁ~!」
「クソッ……!」
 北斗選手とカズマ選手はアウトになり、すぐに自らその場から離れます。
「北斗さんっ……! 僕が必ず青のフラッグを取ります!」
「ベルだって、まけないんだから!」
 残った赤組のマーオ選手と青組のベル選手は雪玉を捨てて、フラッグのみを目標として走るスピードを上げました。
「ベルのじゃまはさせない!」
 そこへ葉月選手の渾身の一球が、マーオ選手の胸に当たったのでアウトとなります。
「ううっ……! 残念です……」
「やったぁ♪ あかぐみのフラッグはベルが……って、きゃああん! ゆきだまが、ふってきたぁ!」
 赤のフラッグを掴もうとしたベル選手の体へ、数多くの赤い雪玉が豪雨のように降ってきました。
 これにはベル選手、避けきれず全身に赤の雪玉を浴びてしまいます。
「ひーんっ! あとちょっとだったのにぃ!」
 北斗選手と芙舞選手が空へ向けて投げた雪玉が、時間を置いて落下してきました。
 カズマ選手の後ろにいて、二人の行動を見ていなかったベル選手、盲点でしたね。
 これで両チームとも取得した点数は四点ずつ、残りの選手は二名ずつとなりました。
 赤組の芙舞選手は雪壁の向こうで、困り顔になりながら腕を組みます。
「困ったわね。制限時間が迫ってきているし、そろそろ勝負をつけないと」
「これが本物の戦いならば、俺が出て行って決着をつけるんだがな。観客がいる上での勝負は、案外難しいものだ」
 藤切選手は雪玉を作りながら、仮面の奥で「クククッ……」と笑いました。
 一方で青組の葉月選手は、雪壁の向こうで「はわはわ!」と動揺しています。
「ベルとカズマもやられちゃった! あとは葉月と奏音だけ。奏音、どーしようか……って、アレ? 奏音、どこ?」
 ふと気付けば、奏音選手は雪壁の内側にいませんでした。
 葉月選手は周囲をキョロキョロと見回しながら探しますが、どこにも姿はないようです。
「まさか……あっ! あんなところに……!」
 雪壁からひょいっと顔を出した葉月選手は、巨大雪玉をゆっくり静かに動かしながら中央へ近付いている奏音選手を発見しました。
 しかし作戦会議をしている藤切選手と芙舞選手は、まったく気づいていません。
 どうやら先程のフラッグ攻防戦の途中から、奏音選手は誰にも気付かれずに動いていたようです。
 そして奏音選手の巨大雪玉は、二本のフラッグがささっている小さな雪山の隣まで来ました。奏音選手はコソッ……と巨大雪玉の後ろから出ると、赤のフラッグを抜きます。
「やりました!」
 奏音選手は判定人である私へ向けて、赤のフラッグを振って見せました。
「そこまでっ! 青組の勝利です! 赤組はフラッグを抜かれたことにより、負けとします!」
 私の一言で、会場は一気に騒ぎ出しました。
「何ぃ?」
「アラ、いつの間に……」
 慌てて藤切選手と芙舞選手が雪壁から顔を出すも、既に時遅し。
 奏音選手は満面の笑顔で、赤のフラッグを大きく振っています。

――雪合戦が終了いたしましたので、私、フェイト・アルテミスの実況中継も終わりになります。最後までお付き合いくださり、ありがとうございました(ぺこり)。


○雪合戦・終了

「青組のみなさん、やりましたよ!」
「奏音、すごかった!」
 奏音は赤のフラッグを持って、葉月と共に休憩場にいる仲間達の所へ向かう。
「やったな、奏音。お疲れさん、葉月」
 カズマは笑顔で二人とハイタッチをする。
「葉月も最後まで残って、良かったな」
「お二人の活躍、凄かったです」
 明とエリスは最後まで残った二人を称賛した。
 奏音と葉月は照れ臭そうに笑う。
「皆さんの頑張りがあったからこそ、ですよ」
「そうだよ! みんなでがんばったからな! ……ところでベルはどこ?」
 葉月はベルの姿が見えないことに気付き、仲間達に問う。
 カズマ・明・エリスは互いの顔を見ながら、気まずげな表情を浮かべた。
「あー、それがだなぁ……」
「ベル、試合中に雪玉を食べていただろう?」
「それが原因でお腹が冷えちゃったようで、腹痛で近くにある病院に担架で運ばれました」
「なんとっ!?」


「赤組の皆さん、ゴメンね。負けちゃったわ」
「あちらの作戦勝ち――と言ったところだな」
 芙舞と藤切は仲間達に申し訳なさそうに言いながら、休憩場へ訪れる。
「二人とも、お疲れ。まあまずは、俺と藤切が雪合戦前に作った白玉ぜんざいでも食べろ。体があったまるぞ」
 時雨は二人に、白玉ぜんざい入りの器を渡す。
「もし奏音さんが奇策を実行しなかったら、勝負は分からなかったですよ」
「勝負は時の運と言うのだぁ~。楽しかったし、盛り上がったらこれで良いのだぁ」
「マーオと北斗の言う通り。神は気まぐれな時がある。フッ……、負けることも試練の一つだな」
 メンデルートの言葉を聞いた時雨と藤切は仮面の奥で顔を引きつらせて、近くに積もっていた雪を掴んで雪玉を作った。
「そもそもおまえが武器を二つも身に付けていたせいで最初に眼を付けられて、集中攻撃されたのがダメだったろう!」
「沸騰しているその頭、少しは雪で冷やしたらどうだ?」
 そして二人はメンデルートへ向けて、激しく雪玉を投げつける。
「おおぅっ! これも試練だな!」


 ――その後、ハンター達は広場で余った雪を使って、色々な物を作っていく。
「よっと……。奏音、他に重ねる巨大雪玉はあるか?」
「いえ、今ので最後です。ふふふっ、大きな雪ダルマがいっぱいです♪」
 カズマと奏音は余った巨大雪玉を重ねて、雪ダルマを作っていた。
「日高先輩、泣き・笑い・怒り・悲しみの他に、どんな表情を雪ダルマにつけましょうか?」
「ん~、そうだな。……ここはやっぱり、今回の雪合戦に参加したハンター達に似せたヤツでも作るか」
「そうですね。面白そうです♪」
 エリスと明は、カズマと奏音が作った雪ダルマに表情を付けていく。
「おなかイタイの、すっかりなおったー! ハヅキ、ゆきのどーぶつぞうをつくろう!」
「おーっ!」
 回復したベルと葉月は、雪で動物像を作る。
 そして時雨は雪で、小さな玉をいっぱい作っていた。
「……お嬢、それは何だ?」
「雪で白玉を作っているんだ。『白』に引っ掛けて、なかなか面白いだろう?」
「そう……だな」
 言葉ではそう言うものの、藤切は首を傾げる。
「おいらは雪のたれたぬきを作るのだぁ~♪」
「私は猫の雪像を作るわ」
 北斗と芙舞もそれぞれ雪の作品を作っていく中、マーオは雪まみれで倒れたままピクリともしないメンデルートを心配そうに見つめていた。
「……メンデルートさん、助けなくていいのでしょうか?」
「ああ、いいんだ。アイツにとってはアレも、神が与えた試練になるんだからな」
 マーオの質問に、近くにいた藤切が答える。
「どうせなら、アレで雪像でも作ってみるか。何だか喜びそうだしな」
「ちょっ……!? それは待ってください、藤切さんっ!」
 騒がしい中、空から雪が静かにゆっくりと降り落ちてきた。


 ちなみに勝利した青組には、ウィクトーリア家からカップそば「青」を賞品として全員に贈られたのであった。


<終わり>

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参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 挺身者
    日高・明(ka0476
    人間(蒼)|17才|男性|闘狩人
  • えがおのまほうつかい
    ベル(ka1896
    エルフ|18才|女性|魔術師
  • 「畦一座」座長
    時雨(ka4272
    人間(紅)|18才|女性|霊闘士

  • 葉月(ka4528
    人間(紅)|10才|女性|闘狩人
  • 「畦一座」座員
    藤切(ka4813
    人間(紅)|38才|男性|舞刀士

  • メンデルート(ka4840
    人間(紅)|21才|男性|聖導士
  • 慈愛の聖導士
    マーオ・ラルカイム(ka5475
    人間(紅)|18才|男性|聖導士
  • 芸達者なたぬきさん
    玄間 北斗(ka5640
    人間(蒼)|25才|男性|霊闘士
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • アリス達と過ごす夏の夜
    月・芙舞(ka6049
    人間(蒼)|28才|女性|符術師
  • たたかうはむすたー
    エリス・フォンメール(ka6101
    人間(蒼)|18才|女性|格闘士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン うちあわせ卓
日高・明(ka0476
人間(リアルブルー)|17才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/02/13 16:04:41
アイコン 青組作選卓
日高・明(ka0476
人間(リアルブルー)|17才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/02/13 14:11:40
アイコン 【赤班】作戦会議
時雨(ka4272
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/02/10 01:14:19
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/02/13 14:07:04