ラスト・ダンスは誰に

マスター:湖欄黒江

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/02/13 15:00
完成日
2016/02/21 08:34

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 その日、ハンターオフィスに1件の奇妙な依頼が舞い込んだ。
 依頼主は、帝国南西部のとある町に住む青年。職業は駆け出しの大工。して、その依頼とは、
『町の24時間耐久ダンス大会に参加し、優勝して欲しい』


 青年が住むのは一見何の変哲もない小さな町だったが、
 港町・ベルトルードから帝都へ続く輸送・交易ルートの途上にあり、
 同盟風の賑やかな文化や娯楽が少なからず舶来していた。

 最たるものが、春の訪れと歪虚調伏を祈願する為の、夜明かしの祭だ。
 祭は毎年2月某日の夕方に始まり、翌日の同時刻まで、町全体が無礼講で楽しく飲み明かす。
 まだ雪がちな季節のこと、特に夜間は屋外ではしゃぐのも辛いところだが、
 代わりに町の店という店、家という家が開放され、
 その中で皆が踊り、飲み、食い、暗い冬の夜を陽気に過ごそうという訳だった。

 しかしある者たちは、暖かな家々の明かりも後目に、
 凍えるような冬空の下で過ごさねばならなかった。耐久ダンス大会参加者のことである。
 彼らは町内の大広場の特設ステージにて、祭の間中ひたすら踊り続けなければならない。
 かつては土地に春の精霊を呼び下ろす神聖な踊りだったそうだが、
 時代が下るにつれ、町の若者の根性試し、あるいは見世物、
 一種のスポーツとしても楽しまれるようになった、このダンス大会。
 土地の人間に限らず、物好きな旅行者なども交えた参加者たちは、
 町内会の幹部ら審査員10名、楽隊、そして大勢の見物客の前で24時間、
 食事や用足しの僅かな時間を除いて、不眠不休で思い思いのダンスを披露するのだった。


 ことは一週間ほど前にさかのぼる。町のとある酒場、
「悪いが、これでセニョリータは俺のものに決まりだ」
 と、依頼主の青年にさも残念そうな顔で言ったのは、カウボーイハットの伊達男。
 その名もハイバ・ウッズ。同盟出身の流れ者で本業はハンター、覚醒者ということだが、
 金のあるときは仕事をせず、方々を気ままにぶらついている、早い話が遊び人。
「残念だったな、アミーゴ」
「……」
 歯噛みする依頼主。彼の隣の空席には、松葉杖が立てかけられていた。
 テーブルの下、まっすぐに伸ばされた右脚には包帯。
 昨晩、大広場の特設ステージ建設中に、足場から落ちて折ってしまったのだ。

 本当は、青年もハイバと共にダンス大会へ参加予定だった。
 少年時代は大工の徒弟修業が忙しく、そんな余力もなかったのだが、
 今年こそはどうしても、自ら大会に出なければならない理由があった。
「大会で優勝したほうが、彼女へ求婚する……」
「シ」
 ハイバは真っ白な歯を見せて微笑むと、ふと手を振り上げ、酒場の主人を呼んだ。
「見舞い酒だ、親父! こないだ預けたテキーラ、出してくれ。グラスはふたつ」
 主人は、あいよ旦那、と愛想良い笑顔で答える。
 ハイバが町に来て半年、町中の人間が、この派手好きで金離れの良い男と懇意だった。


 流れ者である筈の彼が、ひとところにこんなにも長逗留している訳。

 ひとつは北伐。歪虚侵攻の余波もあり、近くの街道は混雑続きだ。
 だがもうひとつ、ハイバにとってより重要な問題は、町のパン屋で働く看板娘の存在だった。
 町を訪れて3日で彼女にひと目惚れしたハイバは、以降半年、熱烈なアプローチを繰り返していた。

 その恋敵として立ち上がったのが、依頼主の青年だった。
 彼にとって、パン屋の娘は幼馴染。前々から恋心もあり、大工として一人前になった暁には、
 と思っていたところへ、ハイバが割り込んできたという恰好だ。

 ハイバは流れ者ながら一応の肩書はハンター、顔も人当たりも良く、
 聞けば暇な日――ハイバにとってはほぼ毎日――は、店の配達の手伝いまで買って出ているという。
 いまいち世慣れしていない田舎町のパン屋の娘の目に、ハイバは実に魅力的に映ったが、
 一方で、幼馴染の青年が自分に求婚する機会をうかがっていることも察しており、
「これ以上、彼女を板挟みにしておくのは申し訳ない。
 まずは男同士、決着をつけよう……という約束だったな? アミーゴ」


 そうしてハイバと青年が勝負の舞台に選んだのが、件の耐久ダンス大会。
 24時間かけた勝負なら、作戦次第で覚醒者にも勝てる筈――
 と、青年も毎夜ダンスや体力作りの特訓に励んでいたのが裏目に出た。

「頑張り過ぎたな。その怪我も、特訓の疲れが溜まっていたせいだろう。
 だが約束は約束。それに、俺も大会に向けて色々準備はしてたんだぜ?
 まず俺は従者を雇った。流しのギター弾きだ。
 俺がステージの中央に立ったとき、踊りを引き立てる、情熱的な曲を弾かせるつもりだ。

 必勝法も研究した。
 優勝者の選出には審査員の評価と一緒に、一般の人気投票も考慮される。
 観客が大事ってことさ。だから、俺は人が沢山集まる最初の2時間、
 2日目の正午と、大会終わりの1時間に勝負を賭けることにした。
 踊りと一緒に、俺の華麗なジャグリングで皆を魅了してやる。
 元審査員の爺さんがたにもあれこれ見てもらったが、踊りはちょいと気合を入れれば8人、
 芸もうんと集中すりゃ9人の審査員は点をつけてくれるだろうって話だ。

 夜中や朝方は寒くて人が集まらないから、その間は踊りのテンポを落として体力温存だ。
 ぶっ通しでも16時間くらいは頑張れるだろうが……グラシアス」

 酒場の主人がテキーラを持ってきて、ふたつのグラスに注ぐ。
 それを見ながら、ハイバはなおも得意げな口調で、
「アミーゴの為にも、文句なしの完全勝利ってヤツを見せてやるぜ!」
「……そいつはどうかな」
 青年は、酒の並々と注がれたグラスを両方とも引き寄せたかと思うと、立て続けにぐっと煽ってみせた。
 火がつきそうなに辛い酒を気合で飲み下して、ハイバを睨みつけ、
「あくまで『大会に優勝したほうが』彼女へ求婚できる約束だ。
 例え俺が不戦敗でも、お前が優勝できなかったら、お互い求婚は延期ってことになる」
「ふむ。確かに『優勝したら』という約束だった。そりゃ間違いないが……」
「まだ1週間以上あるんだぜ。お前みたく、流れ者の覚醒者が飛び入り参加しないとも限らない」

 ハイバは青年の思惑を悟るも、かぶりを振って、
「止せ、アミーゴ。君の稼ぎじゃハンターの相場は高過ぎる。将来のことも考えて……」
「考えてたさ。ずっと貯めてた、結婚資金!
 ここで譲ればどの道ご破算だ。脚が治れば、また金は稼げる! 稼いでやる!」
 青年の目に宿った異様な光に、ハイバは彼の本気を見た。
「……それが君の力、君の作戦という訳か。良いだろう、受けて立つ!
 だが半端はやるなよ。ありったけの金を使って、最強の刺客を送ってこい!」
「応ッ!」
 テーブル越しにぶつかり合う熱い想いが、ふたりをして同時に立ち上がらせた――
 そして、右脚と酔いのせいでばったり倒れた青年を、ハイバが慌てて助け起こすのだった。

リプレイ本文

●暗黒皇帝現る
 夕刻、10名の大会参加者がステージへ上げられた。
 優男のハイバが姿を見せるなり、広場に集う観客の中から黄色い声が飛ぶ。
 にこやかに手を振るハイバだが、声援は唐突に途切れた。

 後ろから、覆面姿のデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が現れた為だ。
「暗黒皇帝たる俺様が、貴様らに真のダンスってものを教えてやる。畏れ慄くが良い!」
 マントを翻し、豪快に笑うデスドクロ。
 次いで万歳丸(ka5665)が登場すると、いよいよ観客は唖然とした。
 怯えて泣き始める幼児まで出る始末に、ハイバは帽子の鍔を上げてにやりと笑う。
「アミーゴに雇われた刺客か。そんな物騒ななりじゃ、町の人たちの心は掴めやしないぜ?」
「野郎どもの惚れた腫れただのはクソどうでも良い……」
 デスドクロが、どすの利いた太い声で返す。
「審査員はこの俺様ひとり! デスドクロ様の洗練されたダンシングが、
 この町の連中に理解できるか否か! 評価ポイントはそこだけってこった。グハハハハ!」
「俺もなァ、だんす、ってのはイマイチ分かんねェが」
 万歳丸も自信満々にハイバを見下ろし、
「漢同士の闘いったら、負ける気はしねェな!」

 一方、Holmes(ka3813)は鵤(ka3319)手製のスポーツドリンクを飲みながら、ハイバをじっと観察した。
 引き締まった筋肉、長い手足、僅かな身振りにもありありと分かるリズム感覚、
(覚醒者であることも加味すれば、これは強敵と見るべきだね。
 しかし体力と筋力なら、ボクもまだまだ若人には負けていないよ)
 Holmesは、大会の始まりが如何にも待ち遠しいという顔でステラ=XVII(ka3687)を見やる。
 するとステラもふっと微笑んで、その場で小さくステップを刻んだ。

 舞台袖では、鵤が相変わらずのにやにや顔。
 共に補助係を務める真田 天斗(ka0014)は両肩に大荷物を提げたまま、片手の親指をぐっと立ててみせる。
 そしてステージ前、楽隊の席の並びの後ろでは、
 松葉杖を持った依頼主が、真剣な顔で4人の刺客を見上げていた。

●ダンス・マッドネス
 大会が始まった。少年少女の楽隊が音楽を奏で、参加者が踊り始める中、
 機先を制してステージ中央に躍り出たデスドクロ。
(『ダンス・リアルブルーワールドツアー』……)
 唐突に始まる激しいダンスに、楽隊が慌てて伴奏のテンポを上げると、
(『デスドクロ様と共に』。まずは欧米、いわゆるブレイクダンスってヤツだ!)
 デスドクロはばっと床に寝そべり、鮮やかなバックスピンを決めた。
 風体の異様さに怯えていた子供たちも、これには思わずはしゃぎ出す。

 次に飛び出したのは万歳丸。
 指立て伏せからいきなり逆立ちし、そのままステージ中を歩き回る。
 終いには片手の親指1本で己が巨体を支えてみせると、その怪力に誰もが驚いた。
「掴みは完璧ですね」
 舞台袖の天斗が言うが、鵤は頭を掻き、
「どうかねぇ、例のハイバってのの実力を見ないことには」
 そのハイバが、3人目のアピールタイムに仕掛けてきた。
 楽隊の演奏に代わって助手がフラメンコギターを爪弾くと、
 ハイバが見事な踊りで観衆――特に若い女性の目を釘づけにする。
 更には腰から抜いた松明に火を点け、ジャグリングを始めるに至り、
(成る程、かなりの練習を積んだと見える。しかし、ここで引き離される訳には、ね)
 Holmesも音楽に合わせて身体を揺らしつつ、舞台袖へ合図を飛ばす。

 今度はHolmesとステラが大鎌と洋刀をそれぞれ持ち、剣舞を始めた。
 Holmesが小柄に見合わない豪快な技を見せると、
 対するステラはしなやかな動きで避け、刀で受けてみせる。
 女性の歓声にステラが振り返って微笑むや、少女たちが一斉にきゃあっと飛び上がり、手を振った。
「ステラちゃんも罪作りだねぇ」
 鵤が笑うが、天斗のほうはクーラーボックスの氷や飲食物、それに砂糖や塩の袋を整理しながら言う、
「大会開始から2時間と経っていません。飛ばし過ぎでないと良いのですが」

●夜戦
 21時。急激な冷え込みと共に、夜空に雪がちらつき出した。
(まずいですね)
 太刀による演武を始めたHolmesを眺めつつ、天斗は考えた。
 客、特に序盤で人気を掴んだ子供が家に帰ってしまう。
 夜間のアピールタイムに、どれだけ人を繋ぎ止めておけるか――

 体力では一番劣るステラも、ここまで休憩を取らないまま、再びステージ中央へ。
 鵤が楽隊からギターを借り受け、
(リクエストはジャズ調、ね。そんじゃ、ま、なるたけ艶っぽく)
 地球で聞き覚えたスタンダード・ナンバーを奏でる中、ステラは踊り出す。
「良い曲だ。彼女も……」
 後ろで一緒に踊りながらハイバが呟くと、Holmesがにっとして、
「いっそ勝負は止めにして、彼女のほうにアプローチしてみたらどうだい?」
 ハイバは苦笑し、かぶりを振った。

 深夜帯。デスドクロは日本舞踊、Holmesと万歳丸は合同演武にアピールタイムを費やす。
 が、広場の客は既に大分減っており、ハイバはテンポを落として余力作りを始めていた。
(全ての時間で、評点に値するダンスを行うことはできない。
 どこに体力・気力を集中投入するか、それが勝負だ。残念だが……)
 ハイバは4人の刺客を順々に見た。涼しい顔で踊り続けるHolmes、
(演武は大したものだが、それ以外の時間がいまいちだ。
 身体の動きで魅せる踊りに、小柄は不利だったな)
 万歳丸もぎこちなく、だが一向に疲れた様子はないまま踊り続けている。
(彼も芸達者だったが、踊りは不慣れのようだ。
 いっそ出鱈目でも派手な動きさえ続ければ、審査員の気を俺から逸らすこともできただろうに)
 強敵は目下ふたり、踊りに工夫を凝らしつつ体力も余裕のありそうなデスドクロと、
 やはり踊りに長け、かつハイバと同じく女性人気を集めていそうなステラだ。

 そのステラが合図すると、天斗がレモンの蜂蜜漬けを運んできた。
 ステラは礼を言いつつ受け取り、踊りのテンポをぐっと緩め、動きながらも食事に取りかかる。
 優勝にこだわりはない。あくまでハイバの勝利を阻止し、かつ観客に楽しんでもらうのが彼女の目標だったが、
(どうやら相手も真剣。半端じゃ止められない、か)
 天斗に空の容器を返すと、今度はポケットから飴玉を取り出し、頬張った。

●2日目
 3時過ぎから『休憩』を取ったHolmes。デスドクロも同じく体力回復にかかり、
 夜通しテンポを落とさず踊っていたのは、万歳丸ひとりだけだった。

 夜が明けた頃、ステージに残っていたのは6人のみ。
 例年にない少なさだが、それというのもハイバ、そして4人の刺客が、
 大会開始後6時間に激しいアピール合戦を見せた為だった。
 負けじと張り切った他参加者は疲労困憊し、深夜帯に次々と脱落。
 残るひとりの一般人も8時前に退場すると、いよいよ舞台が広くなった。
 広場には二日酔いの男たちや早起きの老人、子供がぽつぽつと集まり出すが、
「勝負はもうちょい先だな!」
 言いつつ踊るデスドクロ。ジグを試みて足首を痛め、
 今は鵤によるテーピングを受けている最中だった。鵤がぼやく、
「やり辛ぇなーもう。暗黒皇帝さんよ、片足だけでも動かさない踊りって何かねぇの!?」

 慣れないダンスに、流石の万歳丸も疲れてきた。
 しばし握り飯を頬張りつつのろのろと踊っていたが、日が高くなり、気力の戻った頃。
「よゥ、坊主。俺が気になるか?」
 足下に子供たちが集まり始めた。おっかなびっくりといった様子の彼らに、
「俺ァ万歳丸、見ての通りの東方の鬼よ! ……そうだな、見てるだけじゃつまらねェだろ」
 子供たちを5人ほどステージに上がらせると、用意していたロープを彼らに握らせる。
「ズッこけねェよう、気張って引けよ!」
 万歳丸は綱の一端を指先で軽く摘んだまま。
 子供たちが懸命に引っ張るが、びくともしない。10人がかりでも勝てず、
 いよいよ酔いの覚めた大人たちまでもが集まるや、
「もう1本寄越してくんな! 俺に勝ったら、ひとり1万Gくれてやらァ!
 てめェらに見せてやるぜ……怪力無双、万歳丸の本領をォ!」
 子供たちと綱引きしたまま、2本目の綱で大人たちとも勝負する。
 町の力自慢が次々加わるが、万歳丸が負ける気配は一向になく。そうこうしている間に、
(もうじき昼。万歳丸君が、良い感じに場を温めてくれた)
 Holmesは人だかりのできたステージ前、それから横で踊るハイバを見やった。
 ハイバの動きは、既に大会開始直後のキレを取り戻しつつある。
(一所懸命なのは良いが、人の恋路に口を挟むのは褒められたことじゃないよ。
 まぁ、それはボクにも言えることだけどね)

●デッド・ヒート
「真田君。板か何か、探してきてくんねぇかな!?」
「ナイフ投げですね。了解しました!」
 舞台袖で働く鵤と天斗。大会のほうはといえば、
 正午を挟んでデスドクロとハイバが同じフラメンコで対決し、観客を沸かせたばかり。
「あのあんちゃん、やっぱ手強いぞ。審査員のウケも良さそうだ……、
 早いとこ、客の人気だけでも取り戻さねぇと」

 ステラのアピールタイム。鵤が投げる刃物を天斗が板で受け、
 その間に立ったステラが華麗なナイフ避けで魅せる、という内容だった。
 観客前列には万歳丸が集めた子供、それにハイバとステラ目当ての女性が多い。
(畳みかけるとしよう。ベイジル、ウィリアム!)
 13時、客が昼食へ離れる前にと、Holmesが口笛を吹いた。
 駆け込んできたシェパード2匹を交えてスキップすれば、小さな子供たちがわっと喜ぶ。
 天斗も併せてアクロバットと共に飴や花を観客へ撒き、
 一方の鵤は運動強化術で仲間の補助と、忙しく立ち回り始めた。

 午後。参加者全員、いよいよ疲労の色を露わにするが、
 対する楽隊の演奏はテンポをいや増し、張りつめていく。
 やがて薄暮が訪れる頃、万歳丸はふと、ハイバの手足の震えに気づいた。
 彼の踊りそのものは中々衰えを見せず、誰よりも機敏に動いてはいたが、
 汗ばんだ顔は青白く、眼には狂気じみた光が宿っていた。
(なるほどなァ。これが『だんす』、漢と漢の根性試しって奴なのかい。
 そんじゃァ俺も最後にいっちょ――)
 観客に目を戻せば、ちょうど松葉杖の依頼主の姿があった。
 彼の傍らに立つ少女――恐らく、件の求婚相手。
 ステラもそちらを見、それから万歳丸を振り返って、
「行こう」

 デスドクロの巨体が高々と舞い、落日を背に見事な着地を見せた直後。
「覇亜亜亜亜ッ!」
 入れ替わりに中央へ進み出、震脚と同時に金色の炎を身に帯びた万歳丸に対し、
 こちらは七つ星の幻影をまとったステラが、短剣で斬りかかる。
 万歳丸が避け手となって演武が進む内、ステラの手中に閃めいた短剣が、ぱっと赤い花束に変わった。
 ステラはその花束をステージ前の女性客へ差し出し、
「さぁ、これはお嬢さんに」
 鵤がデルタレイの光線を撃ち上げ舞台を飾る中、再びの演武。
 ステラが今度は短剣をキャンディスティックに変え、子供に手渡した。
 今やステージには女子供が大勢かぶりつき、盛んに拍手や声援を送っていたが、
(これで、僕らのアピールタイムは使い切ってしまった。後は……直接対決するしかない)

 大会終了まで残り10分。ハイバが前に出た。
 ギター弾きがかき鳴らすブレリアに併せて、すらりとした腕が、脚が激しく動き出す。
 死力を振り絞ったハイバの鬼気迫る踊りに、観客たちは思わず声を失う。
 残る4人も負けじと食い下がるが、ギターの荒々しいリズムにひとり、またひとりと取り残されていく。
(今の俺には追いつけない、誰も――)
 観客の目が不意にハイバから、ステージ端で踊るステラへと移る。
 汗が飛び、顔には苦悶の表情が浮かぶが、彼女は1歩も引き下がらなかった。

 ハイバの脚がもつれた。背中から倒れ込むと、最早起き上がる気力もない。
 横を見れば、ステラも同じように倒れていた。ギターの音が止む――
 18時、ダンス大会の終了時刻。

●祭の後
 優勝者の発表が行われる筈が、審査員たちは何やら揉めていた。
 評点上は、ほとんどの時間でそつのない踊りを見せたハイバが他を圧倒していたが、
 一方の人気投票ではステラが断然トップとなり、
「規定に従えば得票数は計算の上、最終的な評点に合計されると……」
「だが、それではふたりが同点になってしまう……」
「賞金は等分するにしても、賞品は……」

「同率1位ってのは、白黒ハッキリしなくて詰まらんが」
 言い出したのはハイバだった。いつの間にか、参加者たちが審査員席に詰めかけていた。
「あんたがたの審査と人気投票、どっちも無碍にはできない。俺と彼女が」
 ハイバは震える手でステラと自分を交互に指さし、
「同点なのは構わんが、代わりに優勝は『なし』だ」
 ステラが目を丸くした。万歳丸、そしてHolmesは腕組みし、
「白黒ハッキリしねェと、面白くねェってのは分かるけどよ」
「ボクらの参加動機からすれば、願ってもない申し出だが。本当に良いのかい?」
 ハイバは頷き、依頼主の青年を呼び寄せた。
 そしてパン屋の娘と一緒に駆けつけた青年へ、
「完全勝利の約束は果たせなかった。人気投票で負けちまったから」
「ハイバ……」
「来年だ。来年、改めてお前と戦いたい。アミーゴ」
 依頼主とハイバはしばし見つめ合うと、互いに熱い抱擁を交わした。
 呆気に取られた顔の娘へ、
「男同士は好きにやらせるとして……貴女だってもう子供じゃない、
 共に幸せになる人を、貴女自身が選んでも良いんじゃないかな」
 ステラが言った。それからウィンクひとつして、青い小さな花束を差し出す。
「いっそ、この僕を選んでみるかい?」

「おいおい、これ以上話をややこしくすんじゃないよ」
 鵤がステラを引っ張っていく。
 他のハンターは既にステージへ戻り、審査員による『優勝者なし』の発表を待っていた。
「冴えねぇオチだが……このデスドクロ様の宣伝くらいにはなったか」
 デスドクロは言いつつ、子供たちの声援に手を振って応えた。
「見ろ、大衆は漆黒の時代を待ち望んでるぞ!」
「一応、春を呼ぶ祭ということだったのですが」
 天斗の突っ込みもどこ吹く風、デスドクロはヌハハと陽気に笑うと、
「俺様の世界征服の新たな1歩を記念して、この後は皆で乾杯といこうじゃねぇか!
 俺様のおごりだ、祭はまだまだ続くぜ!」

 こうしてダンス大会の刺客たちは、町の住民に忘れ得ぬ思い出を残していった。
 彼らの死闘はこの先、幾度ととなく語り草となるだろう。
 だが来年は俺たちふたりで更なる激闘を見せてやる、と息巻くハイバと青年を、
 パン屋の娘は困ったような笑顔で見つめるより他なかった。

 彼女の手に握られた青い花――その花言葉は『幸福な愛』。

依頼結果

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MVP一覧

  • は た ら け
    ka3319
  • 星かげのステラ
    ステラ=XVIIka3687

重体一覧

参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • Pクレープ店員
    真田 天斗(ka0014
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師
  • 星かげのステラ
    ステラ=XVII(ka3687
    人間(紅)|22才|女性|疾影士
  • 唯一つ、その名を
    Holmes(ka3813
    ドワーフ|8才|女性|霊闘士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/02/09 22:51:29
アイコン 相談卓
ステラ=XVII(ka3687
人間(クリムゾンウェスト)|22才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/02/13 11:06:13