【禁断】教会と盗賊と謎の十字架

マスター:蒼かなた

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
普通
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/02/18 09:00
完成日
2016/02/25 21:38

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●広がる噂
 クリムゾンウェストでは日々様々な事件が起きている。
 迷い猫や落とし物の捜索なんていう小さな事件から、殺人や強盗などといった凶悪事件まで種類も多様だ。
 そして今、冒険都市『リゼリオ』でまた1つ噂になっている事件があった。
「おい、また出たみたいだな」
「ああ、これで5件目だ」
 リゼリオの表通りにある酒場は何時だって人で溢れている。そんな賑やかな店内の一角で、その噂話がまた囁かれていた。
「今度は商人の屋敷から家宝の壺が盗まれたんだってな」
「何でも宝石か何かキラキラしたもんが大量にくっついた趣味の悪いものだったらしいけどな」
 そんな話を肴に男達はジョッキに並々と注がれたエール酒を呷る。
 ちょっと詳しく話すと、盗まれた商人も壺を仕舞ってあった場所を確かめるまで気づかなかったので、実際には何時盗まれたのかすら分かっていないらしい。
 屋敷には主人のいない昼間でも常に使用人達がいたし、夜になっても警備の者が見回りをしていたにも関わらずだ。勿論その使用人達や警備の者が疑われたが、結局はシロだということが判明しているそうだ。
「で、不思議なのがその盗まれた壺。裏でもまだ流れてないらしいだよな」
「おい、ここでその話はすんなって……でも、そりゃ確かにおかしいな」
 盗人達のセオリーでは盗品は早く捌くに越したことはない。荷物になって嵩張るし、そもそも金が欲しいからこそ盗むのだ。
 だからその道のプロなら盗品を売る相手をあらかじめ決めてから仕事をすることが多いのだ。
「同じ手口であと4件やられてんだよな。そっちの品はどうなんだよ」
「ご想像の通り、どれも裏のルートでも流れてないらしいぜ」
「そいつはまた。よっぽど特殊なルートを持ってるか、個人からの仕事だったのかね」
 謎の多い窃盗事件に男達は揃って肩を竦めた。
「一応その事件の容疑者として挙がってるのが、最近ここらを荒らしてる盗賊の連中だな」
「ああ、あいつらか。最近羽振りもいいらしいし、可能性はあるか?」
 その盗賊というのが、灰色の狼≪グリスロボ≫と名乗る最近現れた犯罪集団だ。
 盗みもするが殺しもする危ない連中が集まっており、最近も街道で商隊を襲撃し略奪したという話が男達の耳にも入っていた。
「まあ、こんだけ目立てばそろそろ潰されるだろうな」
「だろうな。名前なんて売れないのに越したことはねーんだよ。俺らみたいにな」
 男達はくつくつと笑いながら、何かを祝うように互いのジョッキをぶつけあった。

●ハンターオフィス
「はい、依頼の申請はこれにて完了です」
「分かりました。それではよろしくお願いしますね」
 そんなやり取りをしてから、聖職者のローブを羽織った男がハンターオフィスから出て行った。
「先輩、今のって聖堂教会の人ですか? ハンターオフィスに依頼してくるなんて珍しいですね」
 カウンターで依頼受付を担当していた男性職員に、奥の席に居た女性職員がそう言って話しかけてきた。
「ああ、司祭様らしいんだが。どうやら個人的な依頼ってことらしくてね」
 男性職員はやや口調を崩してそう話しながら、今回受理した依頼書を女性職員に渡す。
「えーっと……歪虚に滅ぼされた村にある教会から十字架の置物を回収して欲しいですか。これ、個人的なんですか?」
「何でもその村がさっきの司祭様の故郷らしくてね。十字架自体も高価なものではあるけど、教会としては危険を冒してまで回収が必要かと言われたらそうでもないらしい」
「なるほど。そういう理由もあって個人的なわけですか。つまり、ハンターの皆さんの出番なわけですね」
 女性職員は納得がいったようで、依頼書のデータを端末に入力していき早速ハンターに向けて張り出す準備を始める。
「歪虚に滅ぼされた村ということは、まだその歪虚がいるんでしょうか?」
「滅ぼされたのは10年近く前らしいからどうだろうな。確かその辺りは最近盗賊による被害が頻発してるし、そいつらの根城にされてる可能性もあるな」
 女性職員の問いに男性職員は特に考える間もなくそう返した。
「流石先輩。そういう情報がぱっと出てくるの凄いです」
「褒めても何もでないぞ。それよりさっさと手を動かせ」
「はーい」
 こうして、依頼受理から1時間もしないうちに新しい依頼がハンター達に向けて張り出された。

●少女と白猫
 その廃村はなだらかな草原を越えた先にある。多くの建物は壁や屋根が崩れ、家屋としての機能を失っている。
 そんな中で村の丁度中央に建つ石造りの教会だけが建物としての形をしっかりと保ったまま残っていた。
 そして、そんな廃村の後ろには丁度村全体を見渡せる小高い丘があった。そこに今、1人の人影が立っていた。
「……ここ?」
 黒いマントを羽織った小柄な少女は、自分の足元へ向けてそう問いかけた。するとそこにいた小さな白猫が一声ニィと鳴く。
 少女が再び廃村の方へと視線を向けると、教会の正面の扉が開いて数名の人影が出てきたのが見えた。遠目だが歪虚には見えない。腰や背中に剣や弓を携えていることからも人間で間違いないだろう。
 廃村の教会から出てきた武装した集団と怪しい事このうえないが、それでも少女は動じることなく背負った大剣へと手を伸ばす。
「……行こう」
 そう呟き、少女は丘を下り始めた。

リプレイ本文

●滅びた村と盗賊とハンターと
「あの村か。依頼書の注意事項には賊がいるかもって書いてあったが……見えるか?」
 デルフィーノ(ka1548)が仲間達にそう問う。
「見える範囲に人影はなしよ。でも廃屋が邪魔で村の中心は見えないし、そもそもここからじゃ遠すぎるわ」
 続けてケイ(ka4032)は言葉を零した。草原と言う場所の悪さもあり、これ以上近づけば賊がいたとしても相手の方が先にこちらに気づくかもしれない。
「さて、ここからは僕達の出番だね」
 そう口にして一歩前に出たのはナタナエル(ka3884)だ。
 ナタナエルが手袋の裾を掴んで掌との馴染み具合を調整すると、それが合図であったかのようにその髪は栗色から煌めく銀へと変色し、優し気であったその瞳は縦に割れ蛇のような冷たさを帯びる。
「それじゃあ何かあれば連絡しますね。暫しお待ちをー」
 葛音 水月(ka1895)もまた覚醒し黒い猫尻尾を揺らす。
 2人を見送って待機することになった残りのハンター達であるが。勿論警戒を解くことはせず廃村の様子を伺いながら連絡用の魔導短電話に意識を向ける。
「これで盗賊も何もいなければ、十字架を取ってくるだけの簡単な仕事で済むんだけどな!」
「そうね。依頼は十字架の回収だし、何事もないのが一番よね」
 凰牙(ka5701)の言葉にリアリュール(ka2003)は頷いて見せた。
 彼ら、彼女らがここにいるのは盗賊と戦うためではない。十字架を回収する為なのだ。
 ただ、そこに人々を苦しめる盗賊が居たならば、その時は……それぞれやることは決まっていた。
「もし盗賊がいたとしたら。あの噂の通りリゼリオで泥棒してる盗賊なのかな?」
 そこでネムリア・ガウラ(ka4615)がリゼリオで最近流れている噂のことを口にした。
「例の壺とかが盗まれてる事件ね。けど、どうかしら? 同じ者を奪うにしても、盗賊と泥棒じゃ随分と手口が違うものだし」
「そもそもここはちょいっとリゼリオから離れてるしな。一応ギリギリ活動範囲内だとは思うが……」
 ケイ、デルフィーノがそれぞれの考えを述べる。もしここに例の盗賊がいるならという前提だが、そうだとしても噂に関しては懐疑的なようだ。
「もしここに盗賊がいて、もしその盗賊が噂の盗賊だったとしても、やることは変わりませんよ。穏便に済ませられればそれが一番ですが、それはまず無理でしょうしね」
 鳳城 錬介(ka6053)は首を横に振りながらそう言う。彼は争いが好きではないが、盗賊を相手に平和を説く気はない。それが無駄であることはこれまでの経験でよく分かっているのだろう。
 そこでケイの手にしている魔導短電話に通信が入った。
『こちらナタナエル。盗賊の姿を確認、どーぞ』
 通信機の向こうからナタナエルが聞こえてくる。その内容にハンター達は意識を切り替えた。
「ケイよ。確認するけど、盗賊で間違いない?」
『水月です。剣とか銃で武装してますし、まず間違いないかとー』
 ケイの質問には水月が代わって答えた。滅びた廃村に武装した集団。まず盗賊で間違いないだろう。
「オーケー。それじゃあ依頼の品の回収の前に、盗賊退治だな」
 予想通りの依頼外の戦闘。それにも慣れたものなのか、ハンター達の動きは迅速であった。

●白猫と教会と戦闘と
 音もなく教会裏口の扉が開く。それに気づいた盗賊の1人が視線を向けるがそこには誰もいない。
 風かと思い扉を閉めに行こうとしたところで、足元を何かが走り抜けて扉の外へと出た。
「うおっ!? ね、猫……?」
 そこにいたのは一匹の白猫。そしてその口には小振りながら丸々太った魚が咥えられていた。
「あっ、それは俺の昼飯の魚! てめぇ、この泥棒猫!」
 男は猫を捕まえようと扉を潜り外へと飛び出す。その瞬間――
「ぐひぃっ!?」
 バチンという音と共に男の体に何かが駆け巡る。そして次の瞬間には意識を失い地面の上に倒れ込んでいた。
「……ごめんね」
 倒れた男にマントを羽織る少女は一言謝罪を述べた。そして足元に寄って来た白猫を一瞥すると、そのまま教会の中へと入っていった。

「っしゃあっ! 戦闘開始だぁ!」
 廃屋の影から飛び出した凰牙は、一番近くにいた盗賊の懐に飛び込んだ。
 虚を突かれ驚いて目を丸くする盗賊の顔を見たところで、ニィと笑った凰牙の拳が盗賊の腹に突き刺さる。
「――ごぁ!?」
 悲鳴を上げることも出来ず、盗賊は体を僅かに痙攣させると目をグルんと回して白目になり、力を失ってその場に崩れ落ちる。
「て、敵襲だぁ!」
 その光景を見ていた盗賊の1人が大きな声で叫び始める。教会を中心とした廃村のあちこちで怒号や武器を鳴らす音が聞こえ始めた。
「追われている身というだけあって、警戒は怠っていなかったようですね」
「ゴロツキにしては良い心がけね」
 錬介の隣でケイが弓を引き絞る。金色に輝く瞳の先で、こちらと同じく弓を構えた盗賊が1人。盗賊は先に矢を放つが、焦っていたのか見当違いの方向へと飛んで行った。
「下手ね。弓はこうやって射るのよ」
 ケイは呟くようにそう告げ、弓の弦を引いていた指を放した。解放された矢は風を割いて飛び、慌てて次の矢を矢筒から引き抜こうとしてた盗賊の肩を貫く。
「スズメ、おねがい!」
 さらにネムリアの言葉で1匹の柴犬が走り出した。
 銀光のマテリアルを纏った柴犬は大地を疾駆し、剣を手に駆け寄ろうとしていた男の胸へとぶつかる。その瞬間、銀光は弾け衝撃となり盗賊を後ろへと吹き飛ばした。
「強ぇぞ、何だこいつら!」
「まさか、ハンターか!」
 その強さを目の当たりにした盗賊達は浮き足立ち始めた。それを見たデルフィーノは口の端を上げて笑みを作る。
「その通りだ。俺様達が来たからには1人たりとも逃がさないぜ」

 一方その頃、教会の裏手に回っていた3人のハンターにも正面で始まった戦闘音が聞こえていた。
「派手にやっているようだな」
 感情をそぎ落とした声色でナタナエルが言う。そして物陰から教会裏の入り口へと視線を向け、そして眉を潜めた。
 ナタナエルはそのまま物陰から出て、そして扉のすぐ傍で倒れている男に近寄る。
「不意打ちで一撃か……息はしているな」
 倒れている男は身形からして盗賊の一味に間違いはなさそうだが、何故こんなところで倒れているのかが謎であった。
「どういうことなのかな?」
「どうやら僕達以外に誰かいる可能性がある」
 リアリュールの疑問にナタナエルはそう答え、一先ずこの気絶している盗賊は縛り上げる。
「それじゃあ僕は一先ず上の人を片付けてきますねー」
 水月は2人にそう告げると、地面を蹴って壁へと迫った。そこでくるりと体を丸め壁に手足を『置』いた。普通ならそこで重力に引かれて地面へと落ちるはずなのに、水月の体はそうなることはなかった。
 水月はそのまま壁を駆け、そのまま鐘楼塔を登りつめる。そして、窓から覗き込んだその先に、弓を構えて背を向けている盗賊の姿を見つけた。
「悪い子見ーつけた」
 その声に驚いて振り返る盗賊であったが、その目に揺れる黒い猫耳が見えたところで紫電を纏う刃に意識を刈り取られた。
「……誰もいない」
 鐘楼塔の天辺で水月が盗賊を1人倒している間に、ナタナエルとリアリュールの2人は司祭室に踏み込んでいた。
 そこには何本もの空き瓶が転がり、酒の匂いと共に少し甘い煙草の香りも漂っている。
「司祭様の部屋なのに、罰当たりね」
「神も恐れぬ。いや、そもそも神を信じていないんだろう」
 2人は小声で言葉を交わす。扉一枚向こうの礼拝堂では先ほどから銃声が響き始めていた。
「闖入者の件もある。まずは地下を調べる」
「そうね。地下室への入り口は確か鐘楼へ登る梯子の下ってことだったけど……」
 梯子は司祭室の奥にあった。そしてその足元は汚れきった絨毯が敷かれている。ナタナエルがそれを捲ってみると、木造の床が姿を現し、そして取っ手らしき窪みもそこにあった。
「お待たせしましたー」
 そこで梯子の上から水月が降りてきた。水月は天井付近まで降りてきたところで梯子から飛び、音もなく床に降り立つ。
 3人が揃ったところで互いに顔を見合わせ、1つ頷いたところで地下室への扉が開いた。

●少女と十字架と盗賊頭と
 教会の地下は窓1つなくとても薄暗かった。天井から僅かに差す明かりは、恐らく1階部分の床に開いた隙間から零れてきているのだろう。
 ハンターと盗賊の戦闘は教会の礼拝堂内での戦闘に入ったらしく、喧噪と剣劇と銃声が絶え間なく頭上から聞こえる。
 するとその時、かたんと何かが音を立てて倒れた。上の戦闘による衝撃の所為かもしれないが、ハンター達の視線は思わずそちらへと向いてしまう。
 そんなハンター達の視界に映ったのは何かが動いた影のみ。薄暗いこの地下室ではハンターの超人的な動体視力をもってしてもそれが何なのかは判別できなかった。
「――っ!」
 そこで突如水月の体が震えた。まるで首筋に氷を押し当てられたかのような悪寒に、水月の体は本能と直感に従って手にした雷撃刀を暗闇に向けて構える。
 瞬間、刃が擦れ合う音と共に黄金色と空色に似た閃光が地下室内で瞬いた。雷光に照らされた地下室内で、ハンター3人とは別の人影が浮かび上がる。
 燃えるような緋色の髪が揺れ、黒いマントがはためき、その小さな人影は再び訪れた暗がりの中へとその姿を消す。
 そのまま刀を構える水月の背後で、ナタナエルとリアリュールが荷物から取り出したライトで地下室の中を照らした。
 暗闇が取り払われたその先に居たのは、身の丈ほどある大剣を構えた小柄な少女であった。
「誰……って、あなた、シャル?」
 改めてその姿と顔を確認して、リアリュールはその少女に見覚えがあることに気づいた。
「本当だ。シャルじゃないか。凄く久しぶりだね。僕の事覚えているかな?」
 同じくナタナエルもこの少女のことを知っていた。覚醒中ではあるが、いつものような優しい感情のこもった声色になり話しかける。
「あれ、お2人のお知り合いですかー?」
 唯一彼女のことを知らない水月は2人の仲間の様子にそう問う。まだ警戒を解かず武器を構えたままだが、どうも相手の少女の敵意が薄れたのは水月にも感じ取れた。
「……2人は、覚えがある。1人は、知らない顔」
 少女――シャルは構えを解いて頷きながらそう言った。
「覚えていてくれて良かったわ。えっと、私達は依頼でハンターとしてここに来たのだけれど、あなたはどうしてここに?」
「……」
 リアリュールの言葉にシャルは答えない。というよりも、何と口にすればいいのか迷っているようにも見えた。
 そこで暗闇の中でまた動くものがあった。その影は音もなく床を蹴ると、シャルの足元に着地する。
「おや、やっぱりセインも一緒だったんだね……って、それは?」
 シャルの足元に現れたのは白猫であった。セインという名のその白猫にも覚えのあるナタナエルが視線を向けると、セインは何かを口に咥えているのが見えた。
 シャルは少しかがみ、セインの咥えている物を受け取る。明かりに照らされたそれは銀色に輝き、その十字の輝きの中央にはまた別の赤い輝きを宿していた。
「それは、僕達の探してた依頼の品に見えますねー」
 純銀製の十字架の置物。輝く宝玉も付いているのを見るにそれで間違いないだろう。
「シャル、それは私達が探していたものなのだけど。あなたもそれが必要なの?」
 リアリュールの言葉にシャルは返事をしなかったが、僅かな間を置いてこくりと頷いた。
「そうなの。困ったわね。となると一度オフィスを通して――」
「下がって」
 そこで突然、シャルがそう告げた。同時にシャルも一歩後ろに跳び退く。
 ハンター達も迫るナニカの気配に気づき後ろに下がる。すると、突然天井が砕けてその破片が周囲に降り注いだ。それと一緒に白目を剥いた男も一緒に落ちてくる。
「やべぇ、床をぶち抜いちまった!」
「安心しろ。修理代請求されることはないからよ!」
 穴の開いた天井、その上の礼拝堂からそんな声が聞こえてきた。どうやらただでさえ脆くなっていた床が戦闘の衝撃に耐えきれなくなり砕けてしまったようだ。
 そこでシャルが再び一歩前に踏み出すと片手を真上に向けて振るった。そして次の瞬間、ハンター3人の前から突然その姿が掻き消えた。
「うおっ、何だ!?」
 礼拝堂で盗賊達との戦闘をしていた凰牙は、自分の開けた穴から飛び出してきたモノを目で追った。
「でかい剣に、女の子?」
 ちぐはぐな印象を受けるそんな出で立ちの少女に、凰牙は首を傾げた。
「新手……にしては、ちょっと様子がおかしいですね」
 錬介は突如現れた少女の様子を伺う。少女、シャルは礼拝堂内を見渡すと1点でその視線を止めた。
「あっ、やっぱりシャルだ! 声は聞こえてたんだけど……あ、それより。えへへ、元気だった?」
「うん……ネムリアも、元気そう」
 ほにゃっと破顔して笑うネムリアに、シャルは無表情のまま頷いて返した。
「テメェもハンターの仲間かぁ! なら死ねぇ!」
 そこで、突然の乱入者であるシャルに向けて盗賊頭が銃を向けた。次いで発砲。だが、その時にシャルの姿はそこにはなく、その体は宙を駆けるかのようにして礼拝堂の天井の梁に飛び移った。
「おい、知り合いとの再会を邪魔するなんて無粋じゃねーか?」
「うるせぇ! 糞ハンターがっ」
 デルフィーノの放った雷撃を避けた盗賊頭は、今度はデルフィーノに向けて銃を撃つ。そして一瞬戦闘が止んでいた礼拝堂内はまた乱戦状態に戻った。
「ねえ、あなた。そこのお嬢さん」
「……」
 ケイの言葉に反応してシャルはそちらに視線を向ける。
「あなたのその手にしてる十字架、あなたの物ではないわよね。それをどうするつもり?」
 そう問われてシャルは十字架を見る。そしてすぐにケイへと視線を戻し、一度首を横に振った。
「教えられないってこと?」
 その問いにシャルは答えなかった。その場で手を軽く振る動作をすると、突然礼拝堂に光を入れる天窓が割れた。
「……ごめんね」
 シャルはそうぽつりと言い残すと、その体をまた宙に浮かせ割れた天窓から外へと飛び出していった。
「あっ、おいっ。このままじゃ持ち逃げされるぞ!」
「これは、困りましたね」
 盗賊との戦闘はまだ続いている。盗賊をこのまま鎮圧するか、謎の少女シャルを追うか。そう迷っている間に、後者の選択肢は選ぶことが出来なくなっていた。

 結局、依頼の品の回収は失敗という形に終わった。しかし盗賊を捉えたことによりその分の報酬はしっかりと出た。
 依頼主は十字架を回収できず非常に残念そうであったが、人々を困らせていた盗賊が壊滅したことは喜ばしいとハンター達を責めたりはしなかった。
 そして数日後の夜、6件目の泥棒事件が発生する。噂はまだ終わらない。

依頼結果

依頼成功度普通
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MVP一覧

  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月ka1895
  • よき羊飼い
    リアリュールka2003
  • 希望の火を灯す者
    ネムリア・ガウラka4615

重体一覧

参加者一覧

  • 誘惑者
    デルフィーノ(ka1548
    エルフ|27才|男性|機導師
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • よき羊飼い
    リアリュール(ka2003
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • 《死》を翳し忍び寄る蠍
    ナタナエル(ka3884
    エルフ|20才|男性|疾影士
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • 希望の火を灯す者
    ネムリア・ガウラ(ka4615
    エルフ|14才|女性|霊闘士
  • 全身全霊の熱血漢
    凰牙(ka5701
    鬼|16才|男性|格闘士
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/02/18 08:28:50
アイコン 十字架の置物回収 作戦相談卓
ナタナエル(ka3884
エルフ|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/02/18 08:50:02