ビューティ・アンド・ザ・ビースト2

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/02/24 07:30
完成日
2016/03/01 06:21

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 帝国領に墜落したサルヴァトーレ・ロッソとそれを巡る暴食王との戦いが終わり、次の戦場は北へ……。
 そんな事も露知らず、帝国領の田舎町では以前と変わりない時間が流れ続けていた、
 土地だけは余っている山間の街で羊を飼って生活する老夫婦は、二週間に一回だけ村に届く新聞くらいが唯一の娯楽であった。
 ようやく空も白み始めた早朝に安いコーヒーを淹れながら広げた文面には、何やら色々と大変そうな世情が面白おかしく記されている。
「バルツは相変わらずじゃのう~」
「フレーベルニンゲンでしたっけ? 大変よねえ……あの辺りには牧場も沢山あったでしょうに」
「帝都で起きた戦いの傷跡も未だ癒えぬまま、人類は北へ……か」
 それを良いとも悪いとも言う事は出来ない。そもそも彼らの生活からすると全く関係のない事だった。
 同じ帝国領にあってもずっと遠くで起きた、違う世界の誰かの物語でしかない。
 この村はもうじき滅ぶだろう。若者は兵隊か出稼ぎに消えて、残っているのは女子供が少しだけ、後は殆ど老人だ。
 人口30人ほどのこの小さな村は、羊と一緒に歴史の中に消えていくさだめ。それはもう避けられない現実。
 しかしだからこそ、これと言って高位の歪虚に襲われるような事もなく。雑魔くらいなら見かける事も以前はあったのだが……。
「うおおお~! さびぃさびぃ! オレにも一杯くれねぇか?」
「あら。おかえりなさい」
「大丈夫だったのかい?」
 勢い良く扉を開いて駆け込んできたのは2メートルほどのがっしりとした体躯の大男である。
 獅子のような赤髪をあげて、背後で結んだだけのざっくばらんな髪型。服装もいかにも雑で、寝間着に上着を羽織っただけである。
 肩に薄く積もった雪を叩き落とし、男はドカっと音を立て椅子に座り込んだ。もういい加減椅子のほうが悲鳴をあげそうだ。
「おうよ。やっぱりアレだな……雑魔? ってやつだな」
「まあまあ……怪我はないの?」
「ああ。なんだかよくわからねぇが、パンチで倒せた」
 男はニンマリと笑みを作りサムズアップする。老夫婦は呆れたように脱力し、顔を見合わせるのであった。

 この男が村にやってきてからもう何年になるだろうか?
 ある日突然村の外れに全身血まみれで倒れ、羊に踏みつけられながら唸っていたところを介抱してやってからというもの、この村唯一のパワフルな労働力として老人たちを支えている。
 皆で朝食の準備をしていると階段を降りて幼い子供達が姿を見せた。男の子と女の子がひとりずつ。年齢は10にも満たない程だろう。
「おはよう、おじちゃん」
「おう、オハヨウ!」
「おじちゃん、朝出てったよね? 何かあったの?」
「いや、なんかヘンな生き物がいたからぶっ飛ばしてきた。オレ何故かそういうのが近づいてくるとわかるみてぇなんだ」
「えぇ~!? また~!?」
 子供が驚くのも無理は無い。ここ数ヶ月、急に雑魔の出現率があがっていた。
 それが帝国領で起きた歪虚との大きな戦いが影響したものであるという答えに彼らがたどり着くことはない。あまりにも情報が少なすぎたのだ。
 ともあれ本来であればこの村もそれなりの被害を受けるなりなんなりしていたはずなのだが、この男が一人で全てどうにかしてしまっていた。
「この間農作業中にも出たんだよ。おじちゃんが鍬でやっつけたけど……」
「はっはっは! 芋にも劣る奴らだぜ! 直ぐに消えちまうたぁ根性がねぇなあ!」
 豪快に笑い飛ばす男の膝に少女が飛びつく。ぎゅっとしがみつくその手は小刻みに震えていた。
「無理しないで、おじちゃん……」
 男は目を丸くし、大きな手で少女の頭をガシリと掴んで撫で回す。
「大丈夫だ。オレは強いからな。お前らの親父みたいに戦争で死んだりしねぇよ」
「ほんと? ずっとこの村にいてくれる?」
「任せろ! 男に二言はねぇ。ま~そもそもオレ、この村以外に行くところもねぇしな! な~んも昔の事覚えてね~し!!」
 またガハハと笑いながら少女を両手で抱き上げ、部屋の中をグルグルと回る。
 自分も混ぜてくれと駆け寄る少年と少女をムキムキの上腕二頭筋にぶら下げ走り回る。その様子を老夫婦は優しい眼差しで見つめていた。

 男は自分を何も知らないが、別段何も困ってはいなかった。
 発見時に装備していた金色の鎧と炎の刺繍が施されたマント、そして身の丈大の巨大な剣を見れば自分でも何かしらの戦士だったのだとわかる。
 だがさっぱり昔の事は覚えていないし、今はこの村の一員として暮らす事に満足していた。
 若い女が居ないのは残念だが、老人や子供たちを放ってはおけないし、彼らには命を救われた恩義がある。
 あまり安全とは言えない世の中だから、たまに意図せず不思議な力で雑魔を倒せるのもありがたかった。
 しかし、彼のその善意からの行動が、事件の悪化を招く事になってしまったのだ。
 口笛を吹きながら畑を耕していた男の表情が突然変わった。
 村の外にある森を険しい目つきで凝視すると、子供たちの手も止まる。
「おじちゃんどうしたの?」
「……何か来る。これまでの連中とは少し違うな。ただの雑魔じゃない……?」
 森の暗がりから無数の影が近づいてくる。フラフラとした足取りと不気味な気配。人型ではあるが、ヒトではない。
「お前ら、村の連中にこの事を伝えろ。集会場に集めて外に出ないようにしとけ」
「おじちゃんは!?」
「おじちゃんはあいつらを何とかする。大丈夫だ、オレには最強の武器である鍬のようなものがあるからな!」
 ニンマリと笑い、しかし直ぐに男は戦士の横顔に変わる。
 子供たちが普段見るものとは全く異なる、決して異を唱えられないような覇気にただ押し黙るしかない。
「助けを呼んでくるから!」
「はあ~? 帝国兵なんぞ呼ばんでいいぞ。オレ帝国兵嫌いなんだ。あいつら税金取る時しかこねーんだもん」
「とにかく、おじちゃんは一人で無茶しないでね!」
 馬に二人で乗り込んだ子供たちが去っていく。男は鍬を両手に握り締め、近寄る歪虚を睨んだ。
 鍬で襲いかかろうと考えたが、敵の一体が発砲。銃撃を奇跡的に鍬で防げたが、鍬そのものはお陀仏である。
「ぬおっ、武装したゾンビかありゃ!? 数も多いし分が悪いな……」
 再度の銃撃を直感的に跳んで回避し、匍匐状態で物陰に移動。新しい武器を探す。
「農園から村まではまだ距離がある。注意を引きつけ、村から逸らすか……余裕だぜ!」
 ときたま現れる不思議な力が使えればいいのだが、今はその力は感じられない。
 それならそれで仕方ない。恐怖するでも戸惑うでもなく、当たり前にように男は新しい農具を手に物陰から飛び出した。

リプレイ本文

 エルトヌス型が発砲するライフルの銃声は畑に集まったハンター達の耳にも容易にこだました。
 音から察するに、確かに敵は村から逸れた方向へ向かっているらしい。
「剣機……こんな小さな村にまで……」
 馬を走らせ、不安げにエステル(ka5826)は先を急ぐ。
 機動性の高い足を持つハンターが先行して畑の一画へ立ち入ると、そこには土手に縮こまって隠れる大男の姿があった。
「むむ? なんだお前ら、帝国軍って感じじゃあねぇな?」
「……ハンターだ。知らんのか? 歪虚退治の専門家だよ」
 バイクから下車したヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)がそう答えると、男は納得したように手を叩く。
「おお。噂には聞いてるが……こんな女子供を化物退治に使うとはどういう了見だ?」
 確かにこの場にはうら若き乙女ばかりで、いかにも戦士というのはヴォルフガングくらいだ。しかしエステルは首を横に振り。
「わたくし達はただの子供ではありませんわ。覚醒者ですので」
「こっちもプロだ。そんじょそこらの農夫よりは上手くやれるネ。Ladies firstは村に帰るまでとっときな、おっさん」
 ニマリと笑うフォークス(ka0570)。エステルは農夫に歩み寄り、腰を落として様子を伺う。
「それよりもお怪我は……あります、ね?」
「……ぬお!? お主よく見れば傷だらけではないか! 待っておれ、今ヒールを……」
 男の全身には切り傷、銃創、火傷の後と、常人なら死んでいそうな傷跡が見える。
「ありがとうな。でもこいつは古傷だ、心配はいらねぇ」
 カナタ・ハテナ(ka2130)とエステルは顔を見合わせ首をひねる。
「全身傷だらけの農夫ねぇ……どんな極道者だよ。ま、なんだって構いやしないけどネ」
「……ぬはぁ~! 遅ればせながら我輩参上である! 走ってきたらちょっぴり疲れたのじゃ」
「どうやら要救助者の保護は済んだようだな。ただの農夫だ、無事かどうか肝を冷やしたが……」
 遅れて到着したハッド(ka5000)と夕鶴(ka3204)を加え、ハンター達は土手を飛び出し依頼を開始した。

 まず敵への距離を詰めていくのはヴォルフガング、夕鶴、ハッド。
 夕鶴は敵の前で剣を構え、全身に炎のようなオーラを纏う。ソウルトーチ……マテリアルを放出し歪虚の注意を引き付けるスキルだ。
 これにエルトヌス型は機敏な反応を見せる。意志を持たずマテリアルを狙うだけのゾンビには抜群の効果だ。
 距離を詰めてくる敵よりも先に銃撃が飛来するが、夕鶴は守りを固め、手にした剣で銃撃を弾き飛ばす。
「奴らが私を狙っている内に!」
「うむ、任せよ!」
 接近する剣装備タイプ三体に距離を詰め斬りかかるハッドとヴォルフガング。注意を夕鶴が引きつけていた為、初撃から重い一撃を繰り出せた。
「お主もどうやら只のマッチョではない雰囲気。カナタの予備武器を念の為渡しておくのじゃ」
「おお、こいつはいいな。どれ、オレもここは一つ加勢をだな……」
「おっさんは引っ込んでな。でないと後頭部ごとぶち抜くヨ」
「おじ様はもう十分すぎるほどの無茶をしているのです……わたくしがお守りしますから、大人しくしていてください」
 フォークスとエステルの言葉に眉を潜め、大男は溜息を零す。
「オレが無茶をすればお嬢ちゃんを危険に晒しちまうか……そいつは上手くねぇな」
「Good boy!」
 フォークスは舌なめずりしつつスナイパーライフルの狙いを定める。
「コールド・ボア・ショットさ、コイツは譲れないネ」
 引き金を引くと同時に放たれた弾丸は銃を撃ちながら前進していたエルトヌスの一体に命中。腕を攻撃され、銃を取りこぼした。
 フォークスの狙いは武器だ。エルトヌス型はさほど高度な知能を持つ敵ではない。武器を失えば戦闘力は激減する。
 攻撃が弱まると夕鶴も攻勢に出る。接近する剣持ちへ跳躍し、袈裟に深く斬りつけた。
「これ以上はやらせません……」
 エステルは杖を振るい、光弾を発射して攻撃。それに合わせヴォルフガングは敵に突撃し、側面から振動刀を脇腹に突き入れ、大きく振りぬいた。
 そうこうしている間にフォークスは銃型三体の武装解除に成功。武器を失い、三体の敵が呆然としている。
「この程度の相手では我輩の真の実力を示す暇もないの~」
 余裕の様子でエルトヌスの剣撃を弾き、逆に切り返すハッド。ヴォルフガングも問題なく敵の攻撃を捌き、最初に攻撃が集中した夕鶴もエステルのヒールもあって全く問題ない。
「耐久力だけはあるようだけど、七面鳥撃ちネ」
「大した相手ではないようじゃが、こちらは要救出者を抱えておる。さっさと片付けるのじゃ!」
 前に出たカナタは掲げた機杖から謎の光を放つ。帯のように広がるそれは、何故か猫の鳴き声を伴い剣機達に衝撃を与えた。
「気が抜けるな……」
 と言いながら剣持ちを背後から斬りつけ、ヴォルフガングが撃破。更に夕鶴が敵の胸にクレイモアを突き刺し押し倒す。
「Eat shit and die!」
 後方で呆然としていた銃型へフォークスが銃を撃ち込むと、その身体が凍結しつつ停止する。
 ハッドは肩に乗っていたパルムをむんずと掴むと両目を光らせ、高々と片足を持ち上げ投球ポーズを取る。
「ゆくぞパルムん! 消えはせぬが、光りも曲がりもする……これぞ王の魔球!」
 マテリアルを帯びたパルムが投擲されると、すさまじい勢いで銃型の腹にめり込み吹き飛ばした。
「……んん? しかし魔球は王道ではないのう……王球……いや、魔球でもある意味王道か?」
 考えながらも襲ってくる敵の剣撃を受け止めるハッド。夕鶴とヴォルフガングが同時に斬りつけこれを倒すと、背後でうろついていた敵にエステルのホーリーライトが命中。ばたりと倒れ込めば、動く敵影はもう見当たらなかった。
「なんだヨ、もう終わりかい?」
「お前さん達、腕っ節が強いんだなあ。あいつら頑丈で叩いても叩いても死なないんだ。村に入られてたら為す術なかったろうぜ」
「そんなトーゼンのコトで褒められてもネェ……」
 フォークスの言う通り、それなりに腕の立つ覚醒者であればさして苦戦する相手ではない。
 今回はハンター側の自力や行動が噛み合った事もあり、殆ど打撃を受けず一方的に倒すことができた。
 だがそれは覚醒者だからこそ。この男が言うように、きっと村に入られていたら悲惨な結末を迎えていただろう。
「それでも礼は礼だ。ありがとうな」
 そう言ってニカリと笑う男にフォークスは肩を竦めた。

「こいつが連中を運んできたリンドヴルムか……」
 お目当ての元凶は森の中に墜落していた。既に身動きの取れない状態にあるリンドヴルムを前にヴォルフガングは煙草に火をつける。
「ふむ……一般的な輸送型というヤツじゃな。件の暴食王との戦いで多数目撃された個体である」
 ハッドの言う通り、これはあの大規模作戦の余波と見て間違いない。戦いは終わったが、影響はこの国に残り続けている。
「剣機……多くの人々を傷つける敵。ですが……」
 エステルは歩み寄り、リンドヴルムの額に手を触れる。既に抵抗することすら出来ないこの化物が、彼女には哀れに思えた。
「……楽にしてさし上げましょう」
 フォークスはホルスターから拳銃を抜き、リンドヴルムの頭部に突きつける。
 目を瞑り祈るエステルの横顔を、二発のマズルフラッシュが照らした。

「さあ、た~んと食ってくれ!」
 戦いが終わった後、ハンター達は男の招待を受けて集会場へ来ていた。
 山積みになった芋と羊の肉は粗末な歓待ではあるが、この村に出せる精一杯のごちそうである。
「傭兵は常に贅沢なモン食えるとは限らないネ。雨風凌げて暖かいメシが食えるなら上出来ヨ」
「それにしても、本当にただの農夫なのか? 覚醒者ならともかく、一般人に出来る芸当とは到底思えんが」
 ガツガツと芋をかじるフォークスを横目に夕鶴が切り出すと、カナタは腕を組み。
「聞けば一人で雑魔を何度も撃退しておるとか。それに異常な数の古傷……やはり只者とは思えぬ」
「まあ~、ときどき出る不思議な力は覚醒者としてのものと見て間違いないの~。全身の古傷と照らし合わせれば、かつて強力な歪虚と戦ってその力を奪われたといったトコかの」
「そういえばおじ様は、記憶喪失なのでしたね?」
 ハッドの話を聞いてエステルが問えば、男はあっけらかんと頷く。
「ご家族が探している可能性もありますし、一応調べて見ませんか……?」
「優しいんだな、お前さん達は。だが見ての通りオレはどうも普通じゃない。家族にも歓迎されないかもなあ」
「ここでお会いしたのも何かの縁……わたくし達ハンターと一緒にオフィスや各国……帝都に足を運んでみては? 元々戦いを生業にしていたならば、軍かオフィスのどちらかに手がかりがあるかもしれません」
「や……オレはこの村を離れられねぇんだ。チビ達に約束しちまってるしな。もう六年以上も厄介になる。恩は自分の手で返してぇんだ」
 ありがとな、と言いながらエステルの頭を撫でニカリと笑う。夕鶴は腕を組み。
「六年前か……。なあ、皆は彼を見て思い出さないか?」
 赤い髪、そして記憶喪失。只者ならぬ雰囲気も、夕鶴にある人物を彷彿とさせた。
「皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲル……彼は彼女と似ている気がする」
 と、そこへ扉を開きヴォルフガングは入室する。カナタは振り返り。
「ヴォルフガングどん、どこへ行っていたのじゃ?」
「ああ……見回りを少しな。どうした?」
 話を聞きながらヴォルフガングは考えこむ。そうして男の顔を正面から見つめた。
「1009年……俺はその時、まだ帝国軍に所属していた」
「ん? オレに覚えがあるのか?」
「顔が半分焼けているが……確かに似ている。先代皇帝、ヒルデブラントに」
「ヒルデブラント……そいつがオレの名前なのか?」
「覚えていないのか?」
「いやあ、さっぱり」
 呆れたように溜息を零すヴォルフガング。ハッドは顎に手をやり。
「ある武人の言葉によると“兵どもは己が命運を刃と共にする。真の武人は真の得物を持つが道理”とかいっておったの」
「んッ!? 頭いてぇ! なんか聞いたことあるその台詞!」
「発見時に身につけていた装備などはどうされましたか……?」
「それが……かなり高そうな装備だったんで……」
「で……?」
「よくこの村に来る行商人に売り払っちまった……」
 冷や汗を流すエステル。その武具を見ればハッキリと身元が割れたかもしれないのだが……。
「だがもしヒルデブラント本人であるのなら、軍人やハンターに顔を見せればはっきりするかもしれんな」
「皇帝って国で一番エライ奴だろ? 今更それがもう一人居ましたっつっても混乱しねぇか?」
「いや、それは……」
 頬を掻く夕鶴。確かに“今は”そうかもしれない。
「前皇帝は行方不明じゃったの……娘と顔は似て居らぬが同じ赤髪じゃしモト覚醒者っぽい感じといいあり得るかの。しかし親子揃って記憶喪失とはの……」
 困った様子のカナタ。フォークスは頬を芋で膨らませながら。
「このヒゲが誰か、そんなに重要か? 今の帝国に連れ帰った所で、意味はあるのかネェ……」
「確かに今の帝国はヴィルヘルミナの記憶喪失で混乱してる最中だ。元皇帝が出てくれば、いらぬ争いの火種になりかねんぞ」
「なんか申し訳ねぇなあ?」
「そう思うなら色々と自重してくれ……」
 説明しながら眉を顰めるヴォルフガング。カナタは頷き。
「未だ確信には至らぬのじゃ、今はまずヒルデブラント本人かどうかを調べるのが先じゃな。共に帝都に向かうのが嫌でも、似顔絵くらいはよかろう?」
「そうか。確かユニオンリーダーはヒルデブラントと以前行動を共にしていた筈だ」
「うむ。タングラムどんに報告すれば、よしなにしてくれるじゃろう」
「どうせユニオンには立ち寄る。私からも話を通しておこう」
 夕鶴の言葉に頷くカナタ。
「ところで……その装備を売った行商人の身元はわかりますか?」
「ああ。普段は帝都の方で仕事をしていると言っていたな」
 男は思い出したように棚からメモを取り出し、それをエステルに手渡した。
「一緒に行けない詫びになるかはわからんが、もし機会があればこいつを訪ねるといい」

 話を終えて村を立ち去ろうとするハンター達。それを村の入口で二人の子供が待ち伏せしていた。
「ハンターさん達、おじちゃんを連れてっちゃうの……?」
 不安げな少女の言葉に首を横に振るエステル。少年は泣き出しそうな顔で俯き。
「もしおじちゃんがいなくなったら、ハンターさん達を呼んだ僕達のセキニンだ……」
「おじちゃんがいないと、もうおじいちゃんもおばあちゃんも生活できないの。お願いだからおじちゃんを連れて行かないで!」
 一方的に叫び、少女は逃げ出す。少年も続いて姿を消すと、夕鶴は困ったように笑い。
「やれやれ……これでは悪役だな。彼のような人が共に戦ってくれるなら、この上なく心強いのだがな……」
「過去ってのは厄介なモンだぜ。特に、終わったはずの類はな」
 村を振り返りヴォルフガングは目を細める。
 とうに通り過ぎた筈の過去。革命戦争の幻影との邂逅は、彼らに何をもたらすのだろうか。

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MVP一覧

  • Stray DOG
    ヴォルフガング・エーヴァルトka0139
  • 猫の守り神
    カナタ・ハテナka2130

重体一覧

参加者一覧

  • Stray DOG
    ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • SUPERBIA
    フォークス(ka0570
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 猫の守り神
    カナタ・ハテナ(ka2130
    人間(蒼)|12才|女性|聖導士
  • 質実にして勇猛
    夕鶴(ka3204
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 夢への誓い
    ハッド(ka5000
    人間(紅)|12才|男性|霊闘士
  • 聖堂教会司祭
    エステル(ka5826
    人間(紅)|17才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/02/19 00:45:33
アイコン 相談所
カナタ・ハテナ(ka2130
人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/02/24 00:41:35