ゲスト
(ka0000)
かき氷狂想曲
マスター:えーてる
みんなの思い出? もっと見る
オープニング
●
「かき氷が食べたい」
誰が言い出したかは、今となっては忘れてしまった。
偶然集まった数人でなにとはなしに話をしていると、ちょうどそういう流れになった。
夏。つまりかき氷だ。
それだけなら、街に繰り出して店を練り歩くだけで済んだかも知れない。
「とある氷山で美味しい氷が取れるらしいぞ」
誰かがそんなことを言ったせいで、話は大きく飛躍した。
夏だろうと雪の降る氷山、その麓の洞窟の奥深く。そこでは各国の上流階級がこぞって買い集める氷菓子の原料、宝石のごとく澄み渡る氷が取れるという。
「西で取れる青い果実なんだけど、果汁を絞ってシロップに混ぜると甘くなるんだってさ」
誰かがそんなことを言ったせいで。
「東で小豆っぽい穀物が」
「南の乳製品がリアルブルーのあれによく似て」
「かき氷製造機は中央だな!」
話は拡大しながらもトントン拍子に進んでいき。
「おいおいなんだよ俺も混ぜろよ」
「かき氷って何?」
噂は噂を呼び、人数は気がつけば二桁になり――。
●
「それで、地域の祭事に匹敵する規模になったと」
「はい」
「広場でやるわけにはいかず、施設が必要になったと」
「はい」
「それをハンターズオフィスで借りたいと」
「はい」
「却下です」
受付嬢はピシャリと言い切った。
「ハンターズオフィスは依頼斡旋の場であり、公共施設の貸与を行う場ではございません。ソサエティの施設を貸し出すことも、勿論不可です」
ぐうの根もでない。正論である。
鉄の受付嬢は眼鏡の似合うクールな美貌を一分足りとも歪めることなく、話を続けた。
「ところで、皆様に一つお任せしたい依頼がございます」
嗚呼悲しきかな今日も仕事だ。美味しいかき氷を食べまくる夢は溶けて露と消えてしまった。
項垂れる一同に提示されたのは、とある村の資料だった。夏が非常に暑い地域だ。
「海に近い観光村なのですが、例の狂気のヴォイドの出没を原因に、今年の観光収入が極めて落ち込んでいるそうです」
こんな所にまで波及するヴォイドの影響。世知辛い問題だ。
「そこで、何かの催し物を行って一時的にでも収入を増やしたいとのことなのですが」
妙な話の流れになって、ハンターたちは顔を見合わせた。
「村を一つ丸ごと使っていいそうです。皆様が何らかのアイデアを持っていると言うのならば、先方は快く協力してくださると思いますが」
受付嬢は口元をほんの少しだけ緩めて、契約書類を机上に並べた。
「依頼にご参加なされる方は、どうぞサインをお願い致します」
「かき氷が食べたい」
誰が言い出したかは、今となっては忘れてしまった。
偶然集まった数人でなにとはなしに話をしていると、ちょうどそういう流れになった。
夏。つまりかき氷だ。
それだけなら、街に繰り出して店を練り歩くだけで済んだかも知れない。
「とある氷山で美味しい氷が取れるらしいぞ」
誰かがそんなことを言ったせいで、話は大きく飛躍した。
夏だろうと雪の降る氷山、その麓の洞窟の奥深く。そこでは各国の上流階級がこぞって買い集める氷菓子の原料、宝石のごとく澄み渡る氷が取れるという。
「西で取れる青い果実なんだけど、果汁を絞ってシロップに混ぜると甘くなるんだってさ」
誰かがそんなことを言ったせいで。
「東で小豆っぽい穀物が」
「南の乳製品がリアルブルーのあれによく似て」
「かき氷製造機は中央だな!」
話は拡大しながらもトントン拍子に進んでいき。
「おいおいなんだよ俺も混ぜろよ」
「かき氷って何?」
噂は噂を呼び、人数は気がつけば二桁になり――。
●
「それで、地域の祭事に匹敵する規模になったと」
「はい」
「広場でやるわけにはいかず、施設が必要になったと」
「はい」
「それをハンターズオフィスで借りたいと」
「はい」
「却下です」
受付嬢はピシャリと言い切った。
「ハンターズオフィスは依頼斡旋の場であり、公共施設の貸与を行う場ではございません。ソサエティの施設を貸し出すことも、勿論不可です」
ぐうの根もでない。正論である。
鉄の受付嬢は眼鏡の似合うクールな美貌を一分足りとも歪めることなく、話を続けた。
「ところで、皆様に一つお任せしたい依頼がございます」
嗚呼悲しきかな今日も仕事だ。美味しいかき氷を食べまくる夢は溶けて露と消えてしまった。
項垂れる一同に提示されたのは、とある村の資料だった。夏が非常に暑い地域だ。
「海に近い観光村なのですが、例の狂気のヴォイドの出没を原因に、今年の観光収入が極めて落ち込んでいるそうです」
こんな所にまで波及するヴォイドの影響。世知辛い問題だ。
「そこで、何かの催し物を行って一時的にでも収入を増やしたいとのことなのですが」
妙な話の流れになって、ハンターたちは顔を見合わせた。
「村を一つ丸ごと使っていいそうです。皆様が何らかのアイデアを持っていると言うのならば、先方は快く協力してくださると思いますが」
受付嬢は口元をほんの少しだけ緩めて、契約書類を机上に並べた。
「依頼にご参加なされる方は、どうぞサインをお願い致します」
リプレイ本文
●
氷山の麓の洞窟に、四人は足を踏み入れた。
「カキ氷……なんて魅力的な響きなんでしょう」
メリエ・フリョーシカ(ka1991)はうっとりと手を組んで呟いた。既に帝国でも流行らせる気だ。
「そういえばかき氷ってなにかしら? 知ってる人教えて欲しいわ」
「それはですね!」
日浦・知々田・雄拝(ka2796)の(女子力アピールのための)疑問に目を輝かせながら講釈を垂れるくらいには、メリエはやる気に満ちていた。
「村を盛り上げつつ俺達も楽しめる。素晴らしいね、誰かは分からないけど言い出しっぺには感謝しないとな」
イスカ・ティフィニア(ka2222)は運搬用のリヤカーを引きながら呟いた。
洞窟内部は酷く寒いが、時々凍った床があるくらいでさしたる障害もない。奥に行けば行くほど寒くなり、流石のハンターたちも二の腕をさすった。
「流石に氷あるだけのことはある、涼しい! ……を通り越して寒いぞ……」
ドミノ・ウィル(ka0208)は身震いした。長袖の服を着ては来たが、氷点下はやはり寒い。
「うわぁ寒い! 凄いですね寒いですよ!」
温暖な土地に育ったメリエは初めての体験にはしゃいでいる。
更に歩いて最奥に到着する。開けた空間には巨大な氷柱がいくつも鎮座しており、ところどころ切断されたものも見えた。天井からはぽたぽたと水が垂れており、それが凍っているのだろうと思われた。
「さぁ! カキ氷フェスティバルの為、頑張りましょう!」
テンションの高いメリエが拳を振り上げ音頭を取った。
ドミノはひとまず切りたい大きさに切れ目を入れて、柱の中程へ切りつけた。その剣が柱半ばで埋まってしまう。
「おお? まじかよ」
すわ固まったかと思うとそうでもなく、剣はするりと切れ込みから滑り出た。二回目で柱はあっさり折れた。
「って、やべっ」
「おっと!」
倒れてきた柱をイスカが抱きとめた。
「悪い。力加減が難しいな」
「いいよ、これくらい……よっと」
イスカは受け止めたそれをシートにくるんでリヤカーに積み込んだ。
その横ではメリエがせっせと大鋸で氷を削りだしていた。木を切る要領で十分切れこみを入れた所で、ぽきりと折り取った。
「ふぅ……ほんとに氷だらけですね!」
必要数を集めてもまだまだ氷柱は立っている。林のようだ。メリエは無意味にテンションが上がってくるのを自覚した。
「さぁ削るぞー!」
「よし……俺もやろうか」
切りたい部分を少し削ってから、イスカは腰の剣に手をかけた。イスカの刀が風より早く閃いて七割ほど深く食い込む。更に切っ先が翻り、残る三割を切断した。それを見ながら、雄拝はバルディッシュを取り落とした。
「私こんな重たい物振り回せないわ」
内心で(ここで弱々しくしてか弱さアピールよ!)などと握り拳を作る雄拝を、イスカが見た。
「うーん。ちょっと貸してくれないかな」
と落ちたバルディッシュを拾い、イスカがもう一度柱に叩き込む。今度は一撃で切断出来た。
「お、柱を切るだけなら刀より楽だな」
慣れない武器だが、刃をまっすぐ立てれば綺麗に切れた。これはいい、とイスカは削氷作業を続行する。
太い柱を削り終えたメリエがリヤカーにそれを運ぶと、ドミノが何やらビール缶を氷に入れていた。
「あ」
ドミノはバレたというような顔をした。
「いや、冷えたものに冷えたものくっつければ冷えにくいから……だぞ、うん」
「ええと……はい?」
よく分かっていないメリエと気まずいドミノの隣に、雄拝とイスカが切り出した氷を積んだ。
「そういえば少し多めに持って帰った方がいいんじゃない? 何があるかわからないし」
先を予想出来るあたしすごいと内心考えながら、雄拝が言う。イスカも頷いた。
「運んでる途中に砕けたり、試作品作ったりすると思うし。時間があるだけ持ってこう」
「そうですね! 氷はいっぱいありますし!」
それから削れるだけの氷を削って、一行は村に引き返すことにした。
メリエはリヤカーにシートを被せて、拳を振り上げた。
「さぁ、会場に向かいましょう! わたし達の到着をきっと待ってますよ!」
●
買い出し班、立花 沙希(ka0168)、不知火陽炎(ka0460)、京島 虹花(ka1486)、シルディ(ka2939)。
四人は村長も交えて打ち合わせを終えると、手分けして買い出しを開始した。宣伝も兼ねよう、という話になった。
陽炎は機材の類を担当する。一般的な調理器具やエプロン、掃除道具などは村のものを使用できる。主にシロップのボトルや使い捨ての食器などを買い求めた。アイスクリームは難しいのでホイップクリームで代用だ。その他、手動のかき氷器は殆ど偶然見つけた。昔リアルブルーから来た人間が、同じような発想をしたのだろう。機械類は見当たらなかった。
「地方のお祭り用なんです」
妙な注文に興味を示した店主に陽炎は伝えた。
「出来たらお祭りに来ていただけませんか? リアルブルーの氷菓子をごちそうしますよ」
「へぇ、そいつぁいい。ちょっとまけてやるから、行った時は色つけてくれよ」
「ありがとうございます。勿論です」
大量の機材を担いで、次の店に向かう。宣伝用の画材や提灯などだ。日差しよけにテントも買わねばならない。ソサエティへの飲料系支給品の要請は却下されたが、サルヴァトーレロッソ・へはまだ……やることは山積みだ。陽炎はきびきびと次へ向かった。
シルディは大きなバスケットを片手に近隣の農家などを巡回している。選果落ちの(見た目の悪い、熟れ過ぎなどで市場に出ない)物を安く買い集める算段だ。
「こういう物の方が味も香りもいいんですよねぇ」
「見た目と味は別なのよねぇ」
メロンや葡萄や桃を籠に入れて、農家のお婆様方に礼をする。
「お陰様でカキゴオリなるリアルブルーの食べ物が頂けそうです。お近くに住む方大歓迎だそうで、是非御賞味にいらして下さいませ」
「あらまぁそうなの? 是非行かせてもらうわ」
後は噂話として広まるのを期待しよう。帰ってこれをシロップにしなければ。シルディはにこやかにその場を後にした。
沙希はメモを片手に荷車を引いていた。
「クリムゾンウエストの果物を沢山見られる良い機会ですね♪」
西瓜や葡萄や檸檬などの微妙な違いを検分しながらも、次々買い物を進めていく。蜂蜜、ジャム、砂糖、牛乳。涼し気な食器などだ。後は布地や骨組みも。その様子に興味を惹かれた商売人がその用途を問いかける。
「これから毎年お祭りをするのです」
と答えると「じゃあ是非お得意様にさせてくれ」と話が進んだ。
「でしたら、周知するのを手伝ってほしいのですが」
それくらい任せてくれ、と胸を叩く商人に礼を言い、沙希はいい具合に熟れたメロンを一つ買った。
「楽しみやなぁ~♪」
虹花はリアルブルーの出身だ。こっちの世界でもかき氷が食べれるようになれば万々歳である。装飾用の資材を買い集める傍ら、梅酒と小豆、抹茶にと練乳と買い集める。梅酒のシロップと宇治金時を作る算段だ。
「ほんまに、こっちで食べれる思わんかったからなぁ」
ふと視線を巡らせると、果物屋の軒先には丸々とした西瓜があった。
「あ、スイカ割りもええなぁ」
ちょっとくらいいいだろう、と虹花は西瓜を幾つか購入した。
●
急遽予定された祭りである。当然だが、情報はまだまだ浸透していない。そこで広報担当が必要となった。アカーシャ・ヘルメース(ka0473)と金刀比良 十六那(ka1841)だ。
「なんや突発的な思いつきからお祭り騒ぎになっとるなぁ」
アカーシャのぼやきに十六那が頷いた。
「折角のお祭りだし、楽しめる様にしたいわね……どうせなら、村の祭事で恒例化を狙いましょう」
「お祭り騒ぎと商売で血が騒ぐでーっ!」
二人はまずビラを配ることにした。ちゃんと許可を得て、比較的数の多い場所を選んでだ。かき氷のシロップに合わせた色彩豊かなビラで、かき氷についてをアピール。冷たく甘い食べ物であるという周知だ。
と、十六那の後ろで子供たちが集まっていた。
「どうしたの?」
「これ、冷たくて甘いってほんと?」
十六那はくすりと笑った。
「えぇ。涼しく成れるのは確実ね」
にわかに沸き立つ子どもたちに、十六那は親に伝えてみるようにとビラを渡した。
一方アカーシャは口コミで情報を広めていた。狙いは主婦や商人など情報の流通の早い相手だ。
「今度あの村で催し物があるみたいやで」
「海が荒れてて今年は人がいないって聞いたが」
今も付き合いのある商人と談笑するついでに、こうして話を流している。
「……此処だけの話し、何でも滅多に食べられないリアルブルー伝来の名物が出るらしいで?」
広めたってや、というアカーシャの頼みに「お安い御用」と頷く商人に礼を言って、アカーシャは次に向かった。
十六那は自警団の詰め所から出てきた。宣伝許可を取り次いできたのだ。後はお祭り好きな貴族に、とも思ったが、接触する方法が思いつかない。本名を明かすわけにもいかず、結局そちらは断念した。せいぜい私兵に話をしておくくらいか。
「地味に体力仕事ね……」
十六那は暑いのが苦手だ。水分補給をしながら、広場で一息をつく。それでも出来る限りの事をするしかない。
ふと、彼女は村の様子に思いを馳せた。
●
買い出し組がシロップの製作を始め(沙希だけは何やらちくちくと縫い始め)る中、設営組は資材を受け取るとすぐに仕事を開始した。
「リアルブルーの文化を試せる機会、そうそう見逃せるかよ!」
レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)とコランダム(ka0240)は魔導機械の設営を補佐する。といっても難しいことは特になく、暫くすると無事に魔導機械が冷気を吐き出し始めた。
コランダムの計らいで希望する村人たちにも設置の仕方を教えることになったが、こちらも無事に終了した。村人のみでは難しいだろうが、組合の専門家の補助は出来るだろう。
それならついでにと、試運転としてかき氷器を動かすことになった。
「コレが真夏の庶民のおやつってんだから……とんでもねぇよなぁ」
「こちらと違って、氷の貯蔵は容易でしたからね」
「リアルブルーだと『冷蔵庫』っていうんだっけ? アレが家庭にあるんだよな」
レオーネは大きな貯蔵庫を見上げて感嘆のため息をついた。
かき氷器をしばらくがりがり削った後、出来上がった荒い削りの氷を見て、コランダムは暫く唸った。
「氷はきめ細やかな方がより良いでしょうね……刃の交換が出来る場所があればそこから調整きかないでしょうか」
刃の角度を弄って見れば、すぐに調整出来た。
二人してがちゃがちゃと、組合の人員も交えてかき氷器を弄り回しながら、レオーネはコランダムに様々な質問を投げかけた。日本の祭りの出店と言えばかき氷だったとか、今回は地方の特別なかき氷を作るだとか。果物で飾り付けるかき氷だ。
「白熊というのですが」
「シロクマ! へー。じゃあ果物は凍っちゃうとまずいよな。仕切りでも置いて冷えすぎない部分とか作れないかな」
そんなレオーネの思いつきに対し、その場の皆は嬉々として改造を試みた。
役犬原 昶(ka0268)はコランダムの弟子だ。忠犬と言っていい。そのため、
「あ? てめぇ、俺の師匠に色目使ってんじゃねぇぞ? 師匠に何かあったら覚えておけよ?」
とか、
「師匠! 師匠は少し世間知らずなところがあるから俺心配っすよ……何かあったら呼んでくれれば速攻で駆けつけるっす!」
などと作業の手を止めては師の所に顔を出す。
「騒いでないで、自分の仕事をしっかりしなさい!」
そして叱られるまでが一セットである。
「師匠……俺は師匠の事が心配で……」
「まず自分の役目を果たしなさい」
コランダムはピシャリと言い切った。項垂れる昶が作業場に戻る。彼が所属するのは装飾班だ。
「ふふふ。かき氷祭りで観光客を呼び込むこの依頼、名探偵の私に任せてもらいましょう!」
と胸を張る自称名探偵月詠クリス(ka0750)と、
「そうだ、いいこと思いついちゃった♪ 村の入口んとこに白熊さんの死体をどーんと磔にでもしとけば、とっても目立つんじゃないかしら♪」
という物騒な発想を村人に止められる夢路 まよい(ka1328)、
「師匠……師匠ー……」
などと嘆く叱られた犬状態の昶の三人が担当する。村人は不安で一杯だった。
「祭りの開催前に、張り切って村の装飾をおこないましょう! あとまよいさんそれは事件と勘違いするのでやめましょう!」
そう言いつつクリスはメイン看板を入り口に立てる。先程昶が作ったものだ。他にもクリスは案内標識をあちこちに立てている。
「え~、とっても素敵な思い付きだと思ったんだけど。げ~じゅつは理解されない、ってこういうことだったのね~」
じゃあ、とまよいは次々口を開く。目のボタンがびろんと取れかかった熊のぬいぐるみだとか、かき氷に寝そべる熊の絵とか、センスのズレた発想ばかりだ。最終的に白熊がかき氷を食べてる図に落ち着いた。
昶が泣きながら飾り紐を張っていると、今度はコランダムがやってきた。サボってて大丈夫なのか気になったためだ。
「あら、頑張っているじゃないですか」
「はっ! 師匠!」
「その調子ですよ」
それだけ言ってコランダムは作業場に引っ込む。昶は震えながらそれを見送り、
「うおーッ!!」
吠えた。
「ひえっ!? 何事! 事件!? 事件ですか!?」
「ハッハー! 飾付? 俺に任せておけ! 完璧に拵えてみせるぜ!」
昶が猛烈な速度で作業を開始した。例の『氷』のボードや買い出し班の買ってきた提灯を村中にぶら下げ、謎のスコアボードを村長宅前に設置し出す。運動会の様相を呈していたが、西方の人々には分からないので問題はなかった。
「ねークリス、これここでいい?」
「あ、はい、大丈夫です」
クリスが作ったメニューをまよいがぺたぺたと貼る後ろを昶が駆けまわる。
日が暮れた頃には村の準備が完了し、氷班と広報班も戻ってきた。
●
「ようこそお出で下さいました! リアルブルー名物カキ氷は此方に御座いますよ」
シルディがよく通る声と仕草で、にこやかに呼び込みを行っている。普段の物腰からして適役といえた。
「味も各種用意して御座います、お好きな物をご注文下さいませ」
祭りの当日。村長の予想以上の人数が舞い込み、村は賑わうどころか溢れかえりそうなくらいであった。
沙希の着る「しろくまくん」なるきぐるみも、子どもたちに好評であった。手を振ったり愛らしい仕草を取ったりすると、子どもたちからは歓声が沸いた。
件の白熊かき氷も、色彩豊かな見た目が人気だった。
「うちらのおかげやんな、十六那はん……なにしとん?」
「え、あ、いえ。そうですね」
アカーシャがハリセン片手に出店を手伝う傍らで、十六那はなにかを作っていた。
「ふーん。シャーベットやん。どうかしたん? なんかの真似?」
「や、別に誰の真似をしたとか、その辺は追及しないで……!?」
慌てる十六那にアカーシャは人の悪い笑みを浮かべるが、それも客が来るまでの話だ。大量の人を捌く手腕は流石商人といった様子だ。
「よしっ、今日は食うぞー」
そう気合を入れていたドミノは、できる限り様々なかき氷を食べていた。自分が美味しそうに食べて評判を上げる作戦だ。
定番の果物シロップを食べつくしたドミノは、かき氷を作る虹花の列に並んだ。
「なぁ、リアルブルーだとどんなのかけるんだ?」
「うん? 定番のじゃなかったら、これとかどうや」
と差し出したのは彼女お手製の宇治金時だ。
「なんだこれ、お茶?」
「ごっつ旨いで?」
その言葉に興味をそそられて、ドミノはそれを一つ手にとって、口に運んだ。
「お……茶をかけるってのは最初変に思えたけど意外にありだな」
そのまま彼女は入口付近までいくと、宇治金時の宣伝を始めた。虹花の出店に行列が出来るのはそれから暫く後のことである。
「師匠! 見てください! これ俺が飾り付けしたんすよ! どうっすか? どうっすか!?」
「えぇ、頑張りましたね。派手ですが、祭りならばこれくらいはとも」
昶は昨日の分を取り返す勢いで自己アピールを繰り返し、コランダムも素直に褒める。彼女はかき氷を楽しみながら、機械の様子や客の混雑などにも気を配っていた。
追加の氷を取ってきた陽炎に、かき氷器を回しているイスカが軽く一礼していた。
「手伝いましょうか」
「そしたら、後で交代してくれないかな?」
などと話しつつもイスカはその場で氷を一つかき氷器に入れると、ハンドルをゴリゴリ回し始めた。
「ほらほら、食べてるかい? 折角調達したんだ。遠慮なく持って行ってくれよ」
売り場は問題ない。では村の方はと目を向けると、際どいスリットドレスに身を包む雄拝がいた。
(ふふふ……お祭りという大草原に咲く一輪の薔薇とはあたしの事よ!)
などと胸を張る雄拝は、味が分からないなりに色々頼んでは口にしていた。
「キーンとするけど甘いのね。暑い日にはピッタリね」
リアルブルーの料理に衝撃を受けているようだが、目立つだけで問題ではない。
他には、巡回するクリスが目についた。
「さて、装飾の準備も終わりましたし、祭りの本番では、私は本業の探偵業をするとしましょう!」
迷子や置き引きに警戒しているようだ。
「私の推理によれば、お祭りで事件が起こる確率は98%です!」
パイプ(模型)を手に、ビシッとポーズを取るクリスだが、ちょうどコランダムと目があった。
「……あ、いや、これはサボっているわけではなくてですね? これも、お祭りを成功させるために必要な、れっきとした探偵の仕事で」
ひとまず問題はなさそうだとコランダムが視線を戻すと、昶が観光客を威嚇していた。
「てめぇら俺の師匠に何の用だ?」
これでは忠犬どころか狂犬である。コランダムは頭を抱え、それから昶の頭をひっぱたいた。
「役犬原、他の方に威嚇しない!」
客には祭を楽しんで貰わないといけないのだから。しょげる弟子を引き連れて、彼女は雑踏へと紛れた。
「オレたちはかき氷を作って味わう。村にはかき氷を名物にして賑わってもらう」
ちょうどレオーネたちが並んだ頃にイスカの休憩時間となり、皆並んでかき氷を待っていた。
「そしてオレは、リアルブルーの文化を味わえる! 一石三鳥だな!」
「そうだね。お客さんも楽しんでるみたいだし」
交代した陽炎が淡々と仕事をする中、イスカは黄色いかき氷を口に運んだ。ステージの上では雄拝が「はいはい、種も仕掛けもないのよ~」と前日から仕込んでいた手品を披露している。
「んー、美味いね。頭も痛くならないし、これは良い氷だってことだね」
「素晴らしいですねっ。暑いときに冷たいもの。これはその最たる物です」
イチゴ味を楽しむメリエもご満悦だ。
「へ~なにこれなにこれ? まるで魂まで底冷えしそうなくらい、毒々しくってきれ~な青色~♪」
その横では、まよいがブルーハワイを興味津々に眺めている。センスは相変わらずだ。
「中に硫酸銅でも入っているのかしら~?」
サルヴァトーレ・ロッソから来た客がぎょっと目を剥いた。
「入ってませんよ。ミックスフルーツをベースに色を付けたものです」
陽炎の言葉にまよいはへぇと頷いて、「あ、これ食べてもだいじょぶなんだ?」と彼女が言う頃には、既に陽炎がブルーハワイ味を差し出していた。
「ん~っ、甘いのに爽やかで美味し~♪」
彼女も大満足のようだ。メリエは赤い髪をなびかせて、にこやかに微笑んだ。
「またこういうお祭りしたいですね!」
この様子だと、来年も開催されるだろう。祭りは終始盛況だった。
氷山の麓の洞窟に、四人は足を踏み入れた。
「カキ氷……なんて魅力的な響きなんでしょう」
メリエ・フリョーシカ(ka1991)はうっとりと手を組んで呟いた。既に帝国でも流行らせる気だ。
「そういえばかき氷ってなにかしら? 知ってる人教えて欲しいわ」
「それはですね!」
日浦・知々田・雄拝(ka2796)の(女子力アピールのための)疑問に目を輝かせながら講釈を垂れるくらいには、メリエはやる気に満ちていた。
「村を盛り上げつつ俺達も楽しめる。素晴らしいね、誰かは分からないけど言い出しっぺには感謝しないとな」
イスカ・ティフィニア(ka2222)は運搬用のリヤカーを引きながら呟いた。
洞窟内部は酷く寒いが、時々凍った床があるくらいでさしたる障害もない。奥に行けば行くほど寒くなり、流石のハンターたちも二の腕をさすった。
「流石に氷あるだけのことはある、涼しい! ……を通り越して寒いぞ……」
ドミノ・ウィル(ka0208)は身震いした。長袖の服を着ては来たが、氷点下はやはり寒い。
「うわぁ寒い! 凄いですね寒いですよ!」
温暖な土地に育ったメリエは初めての体験にはしゃいでいる。
更に歩いて最奥に到着する。開けた空間には巨大な氷柱がいくつも鎮座しており、ところどころ切断されたものも見えた。天井からはぽたぽたと水が垂れており、それが凍っているのだろうと思われた。
「さぁ! カキ氷フェスティバルの為、頑張りましょう!」
テンションの高いメリエが拳を振り上げ音頭を取った。
ドミノはひとまず切りたい大きさに切れ目を入れて、柱の中程へ切りつけた。その剣が柱半ばで埋まってしまう。
「おお? まじかよ」
すわ固まったかと思うとそうでもなく、剣はするりと切れ込みから滑り出た。二回目で柱はあっさり折れた。
「って、やべっ」
「おっと!」
倒れてきた柱をイスカが抱きとめた。
「悪い。力加減が難しいな」
「いいよ、これくらい……よっと」
イスカは受け止めたそれをシートにくるんでリヤカーに積み込んだ。
その横ではメリエがせっせと大鋸で氷を削りだしていた。木を切る要領で十分切れこみを入れた所で、ぽきりと折り取った。
「ふぅ……ほんとに氷だらけですね!」
必要数を集めてもまだまだ氷柱は立っている。林のようだ。メリエは無意味にテンションが上がってくるのを自覚した。
「さぁ削るぞー!」
「よし……俺もやろうか」
切りたい部分を少し削ってから、イスカは腰の剣に手をかけた。イスカの刀が風より早く閃いて七割ほど深く食い込む。更に切っ先が翻り、残る三割を切断した。それを見ながら、雄拝はバルディッシュを取り落とした。
「私こんな重たい物振り回せないわ」
内心で(ここで弱々しくしてか弱さアピールよ!)などと握り拳を作る雄拝を、イスカが見た。
「うーん。ちょっと貸してくれないかな」
と落ちたバルディッシュを拾い、イスカがもう一度柱に叩き込む。今度は一撃で切断出来た。
「お、柱を切るだけなら刀より楽だな」
慣れない武器だが、刃をまっすぐ立てれば綺麗に切れた。これはいい、とイスカは削氷作業を続行する。
太い柱を削り終えたメリエがリヤカーにそれを運ぶと、ドミノが何やらビール缶を氷に入れていた。
「あ」
ドミノはバレたというような顔をした。
「いや、冷えたものに冷えたものくっつければ冷えにくいから……だぞ、うん」
「ええと……はい?」
よく分かっていないメリエと気まずいドミノの隣に、雄拝とイスカが切り出した氷を積んだ。
「そういえば少し多めに持って帰った方がいいんじゃない? 何があるかわからないし」
先を予想出来るあたしすごいと内心考えながら、雄拝が言う。イスカも頷いた。
「運んでる途中に砕けたり、試作品作ったりすると思うし。時間があるだけ持ってこう」
「そうですね! 氷はいっぱいありますし!」
それから削れるだけの氷を削って、一行は村に引き返すことにした。
メリエはリヤカーにシートを被せて、拳を振り上げた。
「さぁ、会場に向かいましょう! わたし達の到着をきっと待ってますよ!」
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買い出し班、立花 沙希(ka0168)、不知火陽炎(ka0460)、京島 虹花(ka1486)、シルディ(ka2939)。
四人は村長も交えて打ち合わせを終えると、手分けして買い出しを開始した。宣伝も兼ねよう、という話になった。
陽炎は機材の類を担当する。一般的な調理器具やエプロン、掃除道具などは村のものを使用できる。主にシロップのボトルや使い捨ての食器などを買い求めた。アイスクリームは難しいのでホイップクリームで代用だ。その他、手動のかき氷器は殆ど偶然見つけた。昔リアルブルーから来た人間が、同じような発想をしたのだろう。機械類は見当たらなかった。
「地方のお祭り用なんです」
妙な注文に興味を示した店主に陽炎は伝えた。
「出来たらお祭りに来ていただけませんか? リアルブルーの氷菓子をごちそうしますよ」
「へぇ、そいつぁいい。ちょっとまけてやるから、行った時は色つけてくれよ」
「ありがとうございます。勿論です」
大量の機材を担いで、次の店に向かう。宣伝用の画材や提灯などだ。日差しよけにテントも買わねばならない。ソサエティへの飲料系支給品の要請は却下されたが、サルヴァトーレロッソ・へはまだ……やることは山積みだ。陽炎はきびきびと次へ向かった。
シルディは大きなバスケットを片手に近隣の農家などを巡回している。選果落ちの(見た目の悪い、熟れ過ぎなどで市場に出ない)物を安く買い集める算段だ。
「こういう物の方が味も香りもいいんですよねぇ」
「見た目と味は別なのよねぇ」
メロンや葡萄や桃を籠に入れて、農家のお婆様方に礼をする。
「お陰様でカキゴオリなるリアルブルーの食べ物が頂けそうです。お近くに住む方大歓迎だそうで、是非御賞味にいらして下さいませ」
「あらまぁそうなの? 是非行かせてもらうわ」
後は噂話として広まるのを期待しよう。帰ってこれをシロップにしなければ。シルディはにこやかにその場を後にした。
沙希はメモを片手に荷車を引いていた。
「クリムゾンウエストの果物を沢山見られる良い機会ですね♪」
西瓜や葡萄や檸檬などの微妙な違いを検分しながらも、次々買い物を進めていく。蜂蜜、ジャム、砂糖、牛乳。涼し気な食器などだ。後は布地や骨組みも。その様子に興味を惹かれた商売人がその用途を問いかける。
「これから毎年お祭りをするのです」
と答えると「じゃあ是非お得意様にさせてくれ」と話が進んだ。
「でしたら、周知するのを手伝ってほしいのですが」
それくらい任せてくれ、と胸を叩く商人に礼を言い、沙希はいい具合に熟れたメロンを一つ買った。
「楽しみやなぁ~♪」
虹花はリアルブルーの出身だ。こっちの世界でもかき氷が食べれるようになれば万々歳である。装飾用の資材を買い集める傍ら、梅酒と小豆、抹茶にと練乳と買い集める。梅酒のシロップと宇治金時を作る算段だ。
「ほんまに、こっちで食べれる思わんかったからなぁ」
ふと視線を巡らせると、果物屋の軒先には丸々とした西瓜があった。
「あ、スイカ割りもええなぁ」
ちょっとくらいいいだろう、と虹花は西瓜を幾つか購入した。
●
急遽予定された祭りである。当然だが、情報はまだまだ浸透していない。そこで広報担当が必要となった。アカーシャ・ヘルメース(ka0473)と金刀比良 十六那(ka1841)だ。
「なんや突発的な思いつきからお祭り騒ぎになっとるなぁ」
アカーシャのぼやきに十六那が頷いた。
「折角のお祭りだし、楽しめる様にしたいわね……どうせなら、村の祭事で恒例化を狙いましょう」
「お祭り騒ぎと商売で血が騒ぐでーっ!」
二人はまずビラを配ることにした。ちゃんと許可を得て、比較的数の多い場所を選んでだ。かき氷のシロップに合わせた色彩豊かなビラで、かき氷についてをアピール。冷たく甘い食べ物であるという周知だ。
と、十六那の後ろで子供たちが集まっていた。
「どうしたの?」
「これ、冷たくて甘いってほんと?」
十六那はくすりと笑った。
「えぇ。涼しく成れるのは確実ね」
にわかに沸き立つ子どもたちに、十六那は親に伝えてみるようにとビラを渡した。
一方アカーシャは口コミで情報を広めていた。狙いは主婦や商人など情報の流通の早い相手だ。
「今度あの村で催し物があるみたいやで」
「海が荒れてて今年は人がいないって聞いたが」
今も付き合いのある商人と談笑するついでに、こうして話を流している。
「……此処だけの話し、何でも滅多に食べられないリアルブルー伝来の名物が出るらしいで?」
広めたってや、というアカーシャの頼みに「お安い御用」と頷く商人に礼を言って、アカーシャは次に向かった。
十六那は自警団の詰め所から出てきた。宣伝許可を取り次いできたのだ。後はお祭り好きな貴族に、とも思ったが、接触する方法が思いつかない。本名を明かすわけにもいかず、結局そちらは断念した。せいぜい私兵に話をしておくくらいか。
「地味に体力仕事ね……」
十六那は暑いのが苦手だ。水分補給をしながら、広場で一息をつく。それでも出来る限りの事をするしかない。
ふと、彼女は村の様子に思いを馳せた。
●
買い出し組がシロップの製作を始め(沙希だけは何やらちくちくと縫い始め)る中、設営組は資材を受け取るとすぐに仕事を開始した。
「リアルブルーの文化を試せる機会、そうそう見逃せるかよ!」
レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)とコランダム(ka0240)は魔導機械の設営を補佐する。といっても難しいことは特になく、暫くすると無事に魔導機械が冷気を吐き出し始めた。
コランダムの計らいで希望する村人たちにも設置の仕方を教えることになったが、こちらも無事に終了した。村人のみでは難しいだろうが、組合の専門家の補助は出来るだろう。
それならついでにと、試運転としてかき氷器を動かすことになった。
「コレが真夏の庶民のおやつってんだから……とんでもねぇよなぁ」
「こちらと違って、氷の貯蔵は容易でしたからね」
「リアルブルーだと『冷蔵庫』っていうんだっけ? アレが家庭にあるんだよな」
レオーネは大きな貯蔵庫を見上げて感嘆のため息をついた。
かき氷器をしばらくがりがり削った後、出来上がった荒い削りの氷を見て、コランダムは暫く唸った。
「氷はきめ細やかな方がより良いでしょうね……刃の交換が出来る場所があればそこから調整きかないでしょうか」
刃の角度を弄って見れば、すぐに調整出来た。
二人してがちゃがちゃと、組合の人員も交えてかき氷器を弄り回しながら、レオーネはコランダムに様々な質問を投げかけた。日本の祭りの出店と言えばかき氷だったとか、今回は地方の特別なかき氷を作るだとか。果物で飾り付けるかき氷だ。
「白熊というのですが」
「シロクマ! へー。じゃあ果物は凍っちゃうとまずいよな。仕切りでも置いて冷えすぎない部分とか作れないかな」
そんなレオーネの思いつきに対し、その場の皆は嬉々として改造を試みた。
役犬原 昶(ka0268)はコランダムの弟子だ。忠犬と言っていい。そのため、
「あ? てめぇ、俺の師匠に色目使ってんじゃねぇぞ? 師匠に何かあったら覚えておけよ?」
とか、
「師匠! 師匠は少し世間知らずなところがあるから俺心配っすよ……何かあったら呼んでくれれば速攻で駆けつけるっす!」
などと作業の手を止めては師の所に顔を出す。
「騒いでないで、自分の仕事をしっかりしなさい!」
そして叱られるまでが一セットである。
「師匠……俺は師匠の事が心配で……」
「まず自分の役目を果たしなさい」
コランダムはピシャリと言い切った。項垂れる昶が作業場に戻る。彼が所属するのは装飾班だ。
「ふふふ。かき氷祭りで観光客を呼び込むこの依頼、名探偵の私に任せてもらいましょう!」
と胸を張る自称名探偵月詠クリス(ka0750)と、
「そうだ、いいこと思いついちゃった♪ 村の入口んとこに白熊さんの死体をどーんと磔にでもしとけば、とっても目立つんじゃないかしら♪」
という物騒な発想を村人に止められる夢路 まよい(ka1328)、
「師匠……師匠ー……」
などと嘆く叱られた犬状態の昶の三人が担当する。村人は不安で一杯だった。
「祭りの開催前に、張り切って村の装飾をおこないましょう! あとまよいさんそれは事件と勘違いするのでやめましょう!」
そう言いつつクリスはメイン看板を入り口に立てる。先程昶が作ったものだ。他にもクリスは案内標識をあちこちに立てている。
「え~、とっても素敵な思い付きだと思ったんだけど。げ~じゅつは理解されない、ってこういうことだったのね~」
じゃあ、とまよいは次々口を開く。目のボタンがびろんと取れかかった熊のぬいぐるみだとか、かき氷に寝そべる熊の絵とか、センスのズレた発想ばかりだ。最終的に白熊がかき氷を食べてる図に落ち着いた。
昶が泣きながら飾り紐を張っていると、今度はコランダムがやってきた。サボってて大丈夫なのか気になったためだ。
「あら、頑張っているじゃないですか」
「はっ! 師匠!」
「その調子ですよ」
それだけ言ってコランダムは作業場に引っ込む。昶は震えながらそれを見送り、
「うおーッ!!」
吠えた。
「ひえっ!? 何事! 事件!? 事件ですか!?」
「ハッハー! 飾付? 俺に任せておけ! 完璧に拵えてみせるぜ!」
昶が猛烈な速度で作業を開始した。例の『氷』のボードや買い出し班の買ってきた提灯を村中にぶら下げ、謎のスコアボードを村長宅前に設置し出す。運動会の様相を呈していたが、西方の人々には分からないので問題はなかった。
「ねークリス、これここでいい?」
「あ、はい、大丈夫です」
クリスが作ったメニューをまよいがぺたぺたと貼る後ろを昶が駆けまわる。
日が暮れた頃には村の準備が完了し、氷班と広報班も戻ってきた。
●
「ようこそお出で下さいました! リアルブルー名物カキ氷は此方に御座いますよ」
シルディがよく通る声と仕草で、にこやかに呼び込みを行っている。普段の物腰からして適役といえた。
「味も各種用意して御座います、お好きな物をご注文下さいませ」
祭りの当日。村長の予想以上の人数が舞い込み、村は賑わうどころか溢れかえりそうなくらいであった。
沙希の着る「しろくまくん」なるきぐるみも、子どもたちに好評であった。手を振ったり愛らしい仕草を取ったりすると、子どもたちからは歓声が沸いた。
件の白熊かき氷も、色彩豊かな見た目が人気だった。
「うちらのおかげやんな、十六那はん……なにしとん?」
「え、あ、いえ。そうですね」
アカーシャがハリセン片手に出店を手伝う傍らで、十六那はなにかを作っていた。
「ふーん。シャーベットやん。どうかしたん? なんかの真似?」
「や、別に誰の真似をしたとか、その辺は追及しないで……!?」
慌てる十六那にアカーシャは人の悪い笑みを浮かべるが、それも客が来るまでの話だ。大量の人を捌く手腕は流石商人といった様子だ。
「よしっ、今日は食うぞー」
そう気合を入れていたドミノは、できる限り様々なかき氷を食べていた。自分が美味しそうに食べて評判を上げる作戦だ。
定番の果物シロップを食べつくしたドミノは、かき氷を作る虹花の列に並んだ。
「なぁ、リアルブルーだとどんなのかけるんだ?」
「うん? 定番のじゃなかったら、これとかどうや」
と差し出したのは彼女お手製の宇治金時だ。
「なんだこれ、お茶?」
「ごっつ旨いで?」
その言葉に興味をそそられて、ドミノはそれを一つ手にとって、口に運んだ。
「お……茶をかけるってのは最初変に思えたけど意外にありだな」
そのまま彼女は入口付近までいくと、宇治金時の宣伝を始めた。虹花の出店に行列が出来るのはそれから暫く後のことである。
「師匠! 見てください! これ俺が飾り付けしたんすよ! どうっすか? どうっすか!?」
「えぇ、頑張りましたね。派手ですが、祭りならばこれくらいはとも」
昶は昨日の分を取り返す勢いで自己アピールを繰り返し、コランダムも素直に褒める。彼女はかき氷を楽しみながら、機械の様子や客の混雑などにも気を配っていた。
追加の氷を取ってきた陽炎に、かき氷器を回しているイスカが軽く一礼していた。
「手伝いましょうか」
「そしたら、後で交代してくれないかな?」
などと話しつつもイスカはその場で氷を一つかき氷器に入れると、ハンドルをゴリゴリ回し始めた。
「ほらほら、食べてるかい? 折角調達したんだ。遠慮なく持って行ってくれよ」
売り場は問題ない。では村の方はと目を向けると、際どいスリットドレスに身を包む雄拝がいた。
(ふふふ……お祭りという大草原に咲く一輪の薔薇とはあたしの事よ!)
などと胸を張る雄拝は、味が分からないなりに色々頼んでは口にしていた。
「キーンとするけど甘いのね。暑い日にはピッタリね」
リアルブルーの料理に衝撃を受けているようだが、目立つだけで問題ではない。
他には、巡回するクリスが目についた。
「さて、装飾の準備も終わりましたし、祭りの本番では、私は本業の探偵業をするとしましょう!」
迷子や置き引きに警戒しているようだ。
「私の推理によれば、お祭りで事件が起こる確率は98%です!」
パイプ(模型)を手に、ビシッとポーズを取るクリスだが、ちょうどコランダムと目があった。
「……あ、いや、これはサボっているわけではなくてですね? これも、お祭りを成功させるために必要な、れっきとした探偵の仕事で」
ひとまず問題はなさそうだとコランダムが視線を戻すと、昶が観光客を威嚇していた。
「てめぇら俺の師匠に何の用だ?」
これでは忠犬どころか狂犬である。コランダムは頭を抱え、それから昶の頭をひっぱたいた。
「役犬原、他の方に威嚇しない!」
客には祭を楽しんで貰わないといけないのだから。しょげる弟子を引き連れて、彼女は雑踏へと紛れた。
「オレたちはかき氷を作って味わう。村にはかき氷を名物にして賑わってもらう」
ちょうどレオーネたちが並んだ頃にイスカの休憩時間となり、皆並んでかき氷を待っていた。
「そしてオレは、リアルブルーの文化を味わえる! 一石三鳥だな!」
「そうだね。お客さんも楽しんでるみたいだし」
交代した陽炎が淡々と仕事をする中、イスカは黄色いかき氷を口に運んだ。ステージの上では雄拝が「はいはい、種も仕掛けもないのよ~」と前日から仕込んでいた手品を披露している。
「んー、美味いね。頭も痛くならないし、これは良い氷だってことだね」
「素晴らしいですねっ。暑いときに冷たいもの。これはその最たる物です」
イチゴ味を楽しむメリエもご満悦だ。
「へ~なにこれなにこれ? まるで魂まで底冷えしそうなくらい、毒々しくってきれ~な青色~♪」
その横では、まよいがブルーハワイを興味津々に眺めている。センスは相変わらずだ。
「中に硫酸銅でも入っているのかしら~?」
サルヴァトーレ・ロッソから来た客がぎょっと目を剥いた。
「入ってませんよ。ミックスフルーツをベースに色を付けたものです」
陽炎の言葉にまよいはへぇと頷いて、「あ、これ食べてもだいじょぶなんだ?」と彼女が言う頃には、既に陽炎がブルーハワイ味を差し出していた。
「ん~っ、甘いのに爽やかで美味し~♪」
彼女も大満足のようだ。メリエは赤い髪をなびかせて、にこやかに微笑んだ。
「またこういうお祭りしたいですね!」
この様子だと、来年も開催されるだろう。祭りは終始盛況だった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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準備分担卓 夢路 まよい(ka1328) 人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/08/23 07:08:55 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/19 22:43:52 |
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氷調達班作戦会議室 イスカ・ティフィニア(ka2222) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/08/23 10:51:32 |