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【龍鉱】鉄壁の騎士、遺跡へ往く

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2016/03/06 07:30
完成日
2016/03/17 19:38

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●リゼリオのある一角にて
「テスカ教団……これは、いよいよ、アルテミス小隊も出陣ね」
 報告書の束を確認し、ソルラ・クート(kz0096)が意気込む。
 グラズヘイム王国騎士団第13独立小隊国内潜伏歪虚追跡調査隊、通称『アルテミス小隊』。
 これまで王国内での歪虚に絡む事件を解決してきた。そのノウハウは即席で編成された部隊よりかは動きが良いはずだ。
「それに、この装置もある事だし」
 机の上には四角い魔導装置が置いてある。歪虚の存在を確認できる装置だ。
 返す機会が得られず、ソルラが持ったままである。もっとも、今の状態の皇帝に返したとしても、覚えていないだろうが……。
「急ぎ、支度を!」
 幹部級の兵士達に命ずる。
 国内潜伏歪虚追跡調査隊はソルラが率いる隊以外にも12隊、元々はあった。
 だが、任務の特性上、損耗率は激しく全滅した隊、隊長や主要兵を失い壊滅した隊など、隊の数は減っている。
 その内から行き場のない兵士や騎士をソルラが声をかけて合流させたので、小隊の規模は当初よりも大きくなった。登録ハンターの数も順調に増えており、頼もしい限りである。
「た、大変です! 本国より書状が!」
 慌てた様子で小隊員が飛び込んで来た。
 これから本国に戻ると言うのに、なにをそんなに急ぐのだろうか。
「急いで戻って来なさいという催促だったら、無駄な事なのに……」
 そう言ってから受け取ったソルラは書状の中身を見て驚愕する。
 あまりの驚きに場が静まり、誰もが小隊長の次の一言を待った。

「えと……ハンターズ・ソサエティからの依頼で……」
 そう前置きしたソルラの表情はどことなく寂しげだった。
 なんの事かと小隊員は固唾を飲んだ。
 プルプルと書状を見えるようにソルラは掲げた。そこには、この様に記されていたのであった。

『青の隊所属のソルラ・クートは、転移門にてカム・ラディ遺跡へと向かい、現地で簡易陣地の作成と歪虚迎撃、龍鉱石の探索を命じる』

●鉄壁の騎士の出発
 王国騎士団、青の隊は陣地構築や工作に長けている面がある。
 それ故、この度の遺跡における活動を任されたのだろう。ハンターズ・ソサエティからの依頼であれば、無下に断る事もできないし、適切な誰かを送る必要がある。
 そんな中、長江西から帰還して小隊の再編成中だったソルラがリゼリオに滞在しているという状況であれば、ソルラにその任務が降りて来るのは、ある意味当たり前だったかもしれない。
「うぅ……荷物は重いし……また、私一人……せめて、ノゾミさんか、ミノリさんが一緒だったら……」
 転移門を通過するので、大きい工作道具は持って来れない。
 なので、最低限必要な物資を抱えて移動するだけでも一苦労だ。
「団長はテスカ教団の件で大変な苦労の中にいるのに、私は、剣になる事もできないなんて」
 先程までの凛々しい小隊長の姿はここには無かった。
 しょんぼりとしたまま、見送りの兵士達を振り返り。
「皆さんは、一足先に王国に帰還して下さい。すぐに次の任務がありますから」
 と告げる。兵士達はビシっと敬礼して応える。
(隊長……大丈夫かな)
(『鉄壁』って絶対、婚期の事だけだよな……)
(あれが都合がイイ女っていうのか)
 等々、兵士達の心の声を知らずソルラは転移門に入った。

●転移門付近にて
「皆さんへの依頼は、遺跡西側のこの一角の整理及び歪虚の迎撃並びに周辺での龍鉱石探索になります」
 ソルラがハンター達に説明する。
 ここは、遺跡の西側に位置する大きな一室だった。
 間取りはない。いや、過去にはあったかもしれない仕切りの壁は崩れ去っている。
「この西側で皆さんには分担して行ってもらう事があります」
 その様に前置きしてからソルラは説明していく。
 一つ目は、この一室をどう陣地として構築するか。
 屋上も使えるし、外へと繋がる部屋に通じる扉もある。隔壁を作って部屋を造る事になる。例えば、ハンター達が休められる居住区などだ。遺跡の復興作業でもいいだろう。
 二つ目は、不定期に襲来してくる歪虚への迎撃。
 歪虚と化した龍族――リザードマンなど――を陣地構築の間、迎撃するのだ。
 三つ目は、遺跡内部や周辺での龍鉱石の探索。
 マテリアルの力を秘めた龍鉱石は、イニシャライザーを動かすためにも必要になる貴重なアイテムだ。探せば見つかるかもしれない。
「以上になります。役割や細かい内容については皆さんにお任せ致しますので、よろしくお願いします」
 疲れ切った表情でソルラが営業スマイルをハンター達に向けた。

リプレイ本文

●龍崎・カズマ(ka0178
 鋼鉄では、ない。かと言って、建材として使われる事が多い花崗岩、という訳でもない。
 リアルブルーには見かけない素材かもしれない。そんな風にカズマは思いながら、一人、遺跡の調査を進めていた。
 もちろん、ただ無作為に調査しているわけではない。修理できそうな壁や天井に合う素材を探したり、高い所や危険な所を率先して取り組んでいる。
(何かしらの居住の為なのか……祭祀の為なのか……)
 リグ・サンガマの神殿の一つという事は分かっている。
 比較的原型を保っている中央ドームには大きな龍の彫像を祭る祭壇もあるので、祭祀の為……という可能性はあるだろう。
(祭祀だけではない、理由があるという事か)
 天井が崩落し、崩れ落ちた一角で、カズマはそんな風に思った。
 彼の目の前の一角……それは、見ようによっては炊事場のようにも見えるし、排水路のような作りも見ようによっては確認できた。
(以前の居住インフラ設備を使えるのならと思ったが、これではな……)
 とてもではないが再利用はできないだろう。
 数百年は既に経過しているのだ。これであれば、一から作り直した方が早い位である。

 ふと、手に取った欠片の感触に、カズマの動きが止まった。
「これは……龍鉱石、か」
 高純度のマテリアルを体内に宿していた龍が石化した物を『龍鉱石』と呼んでいる。
 カズマ達が通過してきた転移門を稼働したり、遺跡を復旧するにも必要だという。
 それだけではなく、加工すれば、歪虚汚染地帯の中でも、一定の影響を無視する働きがある『イニシャライザー』と呼ばれるアイテムにもなるのだ。
「……夏草や兵どもが……という所、なんだな」
 祭壇、そして住居のような跡もあるが、遺跡の規模の大きさを思えば、ここが軍事拠点の役割もあったのではないかとカズマは推測していた。
「調べれば、もっと色々な事が分かりそうだな」
 手にした欠片をカランと落とし、カズマは天井にぽっかりと空いた隙間から天を望む。
「夢の跡、見させてもらうぜ」
 静かに呟くとカズマはまた歩き出したのだった。

●ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)×ルーファス(ka5250
 依頼主であるグラズヘイム王国の女騎士ソルラ・クートは彼女自身が率いる小隊の制服を着て、この依頼に臨んでいた。
 ワンピースタイプの軍服だ。長袖でスカートの丈は短く、両肩の肩章と胸元の大きいリボンが特徴的なこの制服を模したワンピースをルーファスは違和感なく着こなしていた。
 スカートの丈が短くて、この北の遺跡での任務では寒そうだ……腰が冷えてしまうのではないかという心配の言葉をユーリは飲み込んだ。
(そんな説教染みた事言うと、きっと、逆効果……)
 どうも、この『少年』には、冷たく扱われているので、少しでも仲良くしたいという気持ちが先行したのだ。
「ルーファス、何があっても、ちゃんと守るか…」
「あ、荷物持ち、お願いしますね」
 ユーリが言葉を言い切る前に少年は持っていたスコップと毛布を手渡した。
「って、荷物持ち……うん、頑張る……」
 ポンと目の前に出された物を勢いでそのまま受け取ったユーリは若干涙目気味になりながらも荷物を大事そうに抱えた。
 これも、仲良くなる為に大事な事。そう、大事な事なのだ。この子はきっと、色々、辛い事があって、今があるのに違いない。それを私が受け止めないで、誰が、受け止められるの! とユーリは気持ち新たにどんよりと曇っている空を仰ぎ見る。
「行きますよ」
 遺跡よりも冷たい視線を向けながらルーファスは言い放った。

 今回、ルーファスは龍鉱石の探索に重点を置いている。
 龍族が生息していた名残や、なにか戦闘跡が無いかと注意深く辺りを見渡す。
 といっても、見捨てられてかなりの年月が経っている遺跡だ。探索する箇所は広大であり、多少の運も必要だろう。
「なにしてるの?」
 意識を集中させているユーリに向かって問いかけた。
 人間と比べるとマテリアルとの親和性は高いと言われるエルフであるユーリは時たま、こうして意識を周囲に張り巡らせているのだ。
 効果があるかどうかは分からない。だが、他に手掛かりが得られる手段がないのであれば、意味がある事なのかもしれない。
「僅かな変化も見逃さないように、ですね」
 ぼんやりと違和感を感じた方向に手を広げるユーリ。
 ルーファスはその広がった先へと向かって自身のマテリアルを集中させる。
「なにか……来たね!」
 正と負、両方のマテリアルを感じた。
 気がついたのはルーファスが先だっただろう。だが、相手もなにか感じとったようで、一直線に二人に向かってきた。
「リザードマン! 強欲に属する歪虚です」
 ユーリが蒼い刀身の刀を抜き放つと、素早い動きでルーファスの前に躍り出た。
 白銀色の長い髪がルーファスを隠すように跳ねる。
「歪虚……私が相手をしてあげる。大事な家族に手は出させない!」
 向かってくる歪虚は3体。ユーリは自分を囮にするように大声を発した。
 護衛として着いてきたのだ。ここで戦わずして何の意味があるのだろうか。
 そして、チラリを振り返る。
 真紅のオーラを纏って輝く、魔導銃を両手で構えるルーファスの姿があった。明らかに訓練された動きだ。
「とりあえず、援護射撃はします。……頑張ったら、お父さんに、『良い』報告をしてあげます」
「が、頑張ります!」
 蒼い瞳を見開いてユーリは応える。
 ここで頑張れば! 頑張れば! と思うと自然に武器を持つ手に力が入った。
 
 ルーファスの掩護の下、歴戦の猛者であるユーリの剣術は歪虚共を微塵切りにした。
 警戒しながら二人は歪虚を見つけた場所へと辿り着いた。そこには、既に瓦礫と化していたが龍の死骸らしきものが転がっている。
「これは……遺跡を守って死んだんですね」
 推測かもしれないが、ルーファスはそう呟いた。
 先程の歪虚らは残ったマテリアルを喰らっていたのだろうか。それとも、集まっていたのはただの偶然だっただろうか。
「大きい鉱石は無いみたいだけど、これなら……」
 ユーリが散らばっている龍鉱石を手に取った。遺跡へと持って帰れば少しはなにかの足しにはなるだろう。
 その一つ一つを確かに掴みながら、ルーファスは口を開く。
「お祈りくらいしかできませんけど……力を借ります」
 きっと、この力は次へと繋げる事になれるはず。そう信じて。

●陣地構築
「ソルラさーん。手伝いにきましたー!」
 央崎 遥華(ka5644)が可憐過ぎる笑顔でソルラ・クート(kz0096)を呼び止めた。
 なぜか遥華の両手には……鍋……そして、なにかの具材。
「遥華さん! 今回もよろしくお願いします」
「アルテミス小隊での豆採集に続いて今回も協力しますっ!」
 ちょうど一ヶ月位前の事だろうか。
 東方の長江西一帯での活動に続いての事だ。
「……あれ、ソルラさんどこか元気がないような……?」
 ちょっとした陰りに気がついて遥華が首を傾げる。
「そ、そ、そんな事ないですよー!」
 ソルラは否定したが、どう見ても涙目だ。
 これはきっと、なにか言われたのに違いない。
 その時、見た目小柄な体格のエルフの少女――星輝 Amhran(ka0724)――がワイヤーを駆使して天井からスタっと降りてきた。
「まぁ、大体予想は着きそうじゃがな。気にする事はないぞ。何事も経験じゃからのぉ」
 バンバンとソルラの背中を叩く星輝。
 陣地作成手伝いと周囲への警戒を兼ねているのだ。
 なにせ遺跡の周囲は強欲の歪虚の支配地域である。何事も無い訳がない。
「さくっと陣地を造ってしまえばいいのじゃ。わしは見張りをしておるから安心して取り組むといい」
 小柄な胸を張って自信満々な表情で言った星輝の横にUisca Amhran(ka0754)が並んだ。
「キララ姉さま、見張りの程、よろしくお願いしますね」
 黄金の輝きを放つ短杖を手にしながら爽やかな微笑みを湛えながらUiscaは言った。
 彼女の脇にはいつの間に用意したのか、白龍の像が置いてある。どうやら、どこかに設置する気のようだ。
 その場の全員の視線が像に向けられるとUiscaは誇らしげに胸を張る。豊かな双丘が跳ね――星輝の視線が一瞬、動いたような動かなかったような。
「龍相手には、白龍様の加護が効果バツグンなのですっ!」
 布教か! というツッコミがどこからか流れたような気もしたが、誰も言い出せず、ちょっとした間が流れた時だった。
 二人の少女が其々、道具を持って声をかけてきたのだ。
「妾は陣地構築に来たのじゃが、ここでいいのじゃろうか?」
「ボクも構築の方を手伝いに混ぜてもらえるかな?」
 紅薔薇(ka4766)とシェラリンデ(ka3332)の二人だった。
 バケツいっぱいに粘土や石材、左官道具が満載された物を軽々と持っている紅薔薇の姿は、さすが覚醒者というべきか。一方、シェラリンデは図面や定規といった筆記用具を抱えている。
「もちろん、お二人とも、よろしくお願いします」
 ソルラが丁寧に頭を下げた。
 陣地を構築するには人手がいる。少しでも多ければ作業も捗るというものだ。
「星輝嬢、なんだか、女性ばかりみたいだね」
 集まった面々を見渡してシェラリンデが凛々しい顔付きでそんな事を言った。
「そ、そうじゃの……ここは男手があってもいいかもしれんのぉ」
 星輝が顎に手をやって考える。
 重たい物程度であれば覚醒者である彼女らには問題はならないが、背の高さはどうしようもない。
「ん? ……ヴァイス殿も一緒と聞いたのじゃが?」
 紫色の瞳をパチクリとしながら紅薔薇が疑問の声をあげた。
 その言葉に反応するようにソルラがビクッと肩を震わす。
「ソルラさん、もしかして元気がないのは……」
 ピンときた遥華が確認するようにソルラに訊ねた。
「や、やだなー。ヴァイスさんに怒られたとか、そういう事なんか、ないですよー」
 目が泳いでいる。
 間が悪いとはこの事か、遺跡の奥から石材を担いでヴァイス(ka0364)がやってきた。
「皆、集合しているか、ちょうどいい。役割を……って、なんだ!?」
 美女だったり美少女だったり、色々なタイプの女性が揃っているが、一斉に向けらた視線にヴァイスは慄く。
 視線が痛い……まるで、各自の瞳から発せられた熱線が身体を貫いているような感覚だ。この視線を快感と感じる者も世の中にはいると聞くが、少なくとも、ヴァイスはそんな男ではない。
 思わず石材を落としそうになる。こんな物、万が一にも足の上に落としたら痛いじゃ済まないだろう。

「……という訳で、ヴァイスさんは悪くないのです」
 ソルラが面々に説明した。
 小隊を率いる者として、人の上に立つ者として、なんたるかをヴァイスはソルラに発破かけてくれたのだ。
 理不尽な事や受け入れ難い事、思っている事と成さなければいけない事。心の葛藤は誰にもあるだろう。だからこそ、小隊を率いる長としての立場としてしっかりしないといけない場合がある。
 人の命を預かっているという立場なら尚更な事だ。緑髪の少女の時と同じように、今後も辛い選択を迫られる時があるだろう。そんな時、長が頼りなく見えてしまっては、ついていく部下も迷ってしまうものだ。
「いや、俺も言い過ぎたと思っている。すまない」
 真面目な顔をしてヴァイスはソルラに頭を下げた。慌ててソルラは両手を振る。
「い、いえ、ヴァイスさんが謝る事ではありません! むしろ、ご指導いただき、感謝ばかりです!」
 女騎士は胸に手を当てて続けた。
「私もまだまだ未熟です。最近は、きつくご指導いただける方も居なかったので……」
「騎士団とは生温い所なのかの?」
 そうだとしたら信じられないと紅薔薇は思いながら訊ねた。
 歴史ある王国騎士団である。心身ともに厳しい訓練を行いそうなイメージではある。
 だが、意外にもソルラの返事はその逆のイメージであった。
「6年前の『ホロウレイドの戦い』で騎士団は大きな損害を出しました。ベテランの騎士も多く戦死しまして……」
「つまり、指導者や教官となるべき、騎士が少なくなったと」
 シェラリンデが推測した言葉にソルラは頷いた。
「はい。もちろん、生易しいもので騎士にはなれませんが、質という点で、『ホロウレイドの戦い』と比べれば見劣りするかもしれません」
「騎士団も厄介な問題を抱えているのじゃのぅ」
 深刻そうに星輝が感想を口にした。
 目に見えない事ではあるが、事の重大さを理解しているからこそだろう。
「なので、今後も皆さんにはご指導の程よろしくお願いします」
 頭を深く下げてお願いするソルラの肩をUiscaが優しく触れた。
「そんなに仰々しくしないで下さい。私達、皆でお互い磨き合って高みへと至ればいいのですから」
「Uiscaさん……」
「さぁ、ソルラさんも、これを機に、白龍様の御加護を……」
 ちゃっかり布教も忘れないUiscaであった。
「小隊としての活動、長江西への遠征、遺跡での陣地構築……実績を着実に積み重ねるソルラさんに、そのうち、もっと大きな椅子があったりするかもしれませんね?」
 これまでの事を振り返りながら遥華が言った台詞にソルラが全身を振るわせた。
「そ、そんな事はないですよ! 私なんかがそんな役目受け持ってしまったら、大変な事になりますよ!」
「意外と大丈夫かもしれませんよ」
 遥華はニッコリと微笑んで言葉を返してあげた。
 まさか、近い将来、その言葉が真になるとは……この時、誰も知るよしもない事であった。

 シェラリンデが大きめのテーブルに紙を広げていた。
「さあ、まずはしっかり拠点を準備して、今後に備えないとだね?」
 一言で陣地構築と言っても目的や規模で大きく変わってくる。
 特に今回は遺跡での陣地構築という事で、一人一人思いや考えもある事だろう。
「…………」
 依頼主であるソルラが気まずそうな顔をしていた。
「ソルラ、言いたい事があれば、遠慮はするな」
 苦笑を浮かべながら言ったヴァイスの言葉にハッとなるソルラ。
 先程の件もあったし、彼女は「そうですね」と溜め息混じりに呟くと、全員を見渡した。
「皆さんを前にこういう事は言いたくはないのですが……」
 そう前置きしてからソルラは言った。
 陣地の構築。それを成すには全体像を明らかに、用途・期間等をしっかりと見通しを立てる必要があると。
 そして、単一の存在ではなく、連携性の強いものでなければならない。
「……要約すると、この一室を陣地構築しても、遺跡全体での全体像に合わなければ、場合によっては無意味な物になる可能性があるという事です」
「今後、わしらが今回構築した陣地を使えない場合もあるという事じゃな」
 星輝の予測にソルラは頷いた。
 今後も遺跡での活動はあるだろう。歪虚からの襲撃に防衛を続ける必要もあるはずだ。
「もし、そうだったとしても、誰かの役に少しでもなるのなら、それはそれで良い事だと思うのです」
 静かに、まるで祈りを捧げるようにUiscaが言った。
「そうですね。意味のない事など、ない。私もそのように思います」
 何度も頷きながら遥華も同意する。
 二人の励ましにソルラは気持ちを入れ変えたみたいだ。
「ありがとうございます。それでは、私達はやれる事をやりましょう」
「それでは、まずはどんな設備が欲しいか、皆ですり合わせて、必要スペースの割り振りを決めるとこからかな?」
 良い流れになりそうと判断し、シェラリンデが全員を見渡して呼び掛けた。
 陣地構築に割り当てられた一室は広い。
 他のハンター達の手伝いもあるとはいえ、役割分担は必要だろう。
「妾の理想は炊事が室内でできるようにと思うのじゃ」
 紅薔薇が宣言した言葉に何人かは頷いた。
 腹が減っては戦はできぬと言うが、重要なポイントだろう。
「それと、この隙間風をなんとかする必要があるじゃろう」
 確かに先程から冷たい風が入り込んでいる。
 天井や壁には大きく穴が開いている箇所もあるので、これでは外気と変わらないはずだ。
「しばらく、ここに居る事になるかもしれんしのう。寒さと食事は最初に何とかせねばいかんのじゃ」
 まとめるように言った紅薔薇の言葉に続くように、遥華も図面を差しながら口を開いた。
「私も同意見です。依頼から遺跡に戻ってきた時、少しでも寛いで休めるよう、整備しておきたいです」
 そして図面に書き込んでいく。
 横になって身体を休める場所や食堂。
「炊事場には水回りも気をつけたいですね。それに、居住スペースには兼用の個室なんかもあると……」
 向かい合った所からUiscaもペンを入れていく。
 二人の創作意欲に火がついたようだ。
「通路は横に3人並んで歩けるくらいに確保しましょう」
「無機質な石室にずっといては、気も滅入りますし、観葉植物が置けるようにもしておきたいです」
 遥華とUiscaの嬉々とした姿に星輝が諦め顔をした。
「これは、しばらくかかりそうじゃのう」
「色々意見があるのは良い事です。アイデアを組み合わせたり、すり合わせたりできますから」
 透き通った爽やかさの笑顔を見せながらシェラリンデが言うと、彼女自身も案を出す。
「属性別にスペースを分けてみたいですね。居住区、納戸、医療区、軍用と」
 白紙だった図面は瞬く間に埋まって行く。
「これなら、俺の言うまでもなさそうだな」
 ヴァイスが頭を掻きながら言った。
 敷居や天幕の設置、住居区の床の手入れなど、少しでも快適に過ごせるようにと思っていたが、この分だろ問題ないだろう。
 計画が立てば、後は身体を動かすだけだ。

 いよいよ作業が始まるが、ハンター達は部屋の中央に居座る巨大な岩に頭を悩ませていた。
 天井が崩れて落ちてきたのか、誰かが運んだのか分からないが、とにかく巨大な岩だ。
「かなりの大きさじゃのぅ」
 ワイヤーを張って大きさを確認した星輝が呟いた。
 これは壊すには難儀するかもしれない。左官道具を持ち、壁を塗っていた割烹着姿の紅薔薇も岩に近付いた。
「……妾は、仕切りの布や机をつくっておこうかのう」
「……俺も同感だ」
 ヴァイスが追随する。
 力には自信はあるが、これは一筋縄にはいかない気がする。
「なにか方法を考えないとね」
「とりあえず、お食事の用意はできましたよ」
 難しそうな視線を向けるシェラリンデ。
 一方、遥華は温かいシチューが入った鍋を石床の上に慎重に置いた。ここは一先ず腹ごしらえするのも悪くはないはずだ。
「私にお任せ下さい!」
 短杖を構えたUiscaが岩に近付いていく。
 神々しい程のマテリアルの光を徐々に放ちながら、意識を集中させて歩く。まるで女神のようだ……とソルラは思った。
「Uiscaさんの身体から溢れ出る女子力が!?」
 驚愕するソルラが見守る中、Uiscaはマテリアルを込めた一撃を岩に叩き込む。
 その強力な一撃は、まさしく、掘削機の如くであったという。
 
●遺跡調査
「フハハハ! 素晴らしい! 素晴らしいぞ!」
 考古学者を自認している久延毘 大二郎(ka1771)が高笑いしていた。
 見るもの全てが彼にとってもはや、遺跡は研究材料でしかない。
 もちろん、遺跡の復興作業を疎かにはしていない。だが、やはり、調査は大事だ。
「初めてこの遺跡に来た時の私は、先遣隊の任を受けたハンターだった、が……」
 あの時は強欲の歪虚との戦いに集中してじっくりしっかりと調査はできなかったが今は違う。
 陣地構築という事で、時間的にはいくらか余裕はあるはずだ。
「……今回、此処に居るのは、遺跡の復興と調査を行う考古学者としての私だ」
 彼の周りには壺っぽいなにかの欠片のような物なのが届く。
 文化の名残は極めて貴重なものだ。それが、戦いという名目で壊されては如何ともしがたい。
 可能な限り、スケッチしたり、パルムに画像保存させたりと余念がないあたり、さすがは考古学を専攻していた事はある。
 そこへ、ヴァルナ=エリゴス(ka2651)が両手に筒のようななにか持って表れた。
「カム・ラディ遺跡……古の神殿にして防衛拠点、でしたか」
 防御装置の名残だったものかもしれない。
 彼女も任務に追われてじっくりと遺跡を観る事ができなかった。今回はちょうと良い機会かもしれない。
「ヴァルナ君、この遺跡はとても興味深いよ」
「私も同感です」
 もっとも考古学者としての本意とは違う所にあるのではあるが。
 少なくとも、過去、防御拠点として存在していたんのであれば、その機能を復旧させれば、陣地構築に役立てると考えた訳だ。
 簡易転移門が設置されている中央ドームは結界によって守られているが、その周囲は無防備状態もいい所だ。
 遺跡周囲は歪虚の勢力域でもあるし、遺跡の持つ力を調査する事も大事な役割の1つ。
「ジャック君からの報告も合わせると、私の見立てでは数百年はやはり、経過していると見ていいね」
「どうして遺跡になってしまったのでしょうか?」
 遺跡の崩れた壁に触れながら悲しげにヴァルナが口を開いた。
「風化もあるだろうが、やはり歪虚だと私は推測する。損傷の激しい所は風化によるものではない、別に力が加わった形にみえるからね」
「……やはり、歪虚との戦いに」
 静かにヴァルナは瞳を閉じた。
 ここでも激戦が繰り広げられたのだろう。そして、その結末は見ての通りなのだ。

 二人が遺跡を調べているのと同じように、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)も遺跡を調査していた。
 あちらこちらを確認し、なにか手掛かりが見つかったら、それを大二郎の下へと運んでいたのだ。
(未開の土地ってのは宝の山だ。んで、その宝の山をどうやって金に変えてくか考えるのが商人ってなワケよ!)
 内心、そんな事を思いながら手に取った龍鉱石の欠片を籠へと放り投げた。
 歪虚との戦いの日々は熾烈を極めている。そんな時に金がどうのこうのという話でもないかもしれない。それでも、いや、そんな状況だからこそ、夢はでっかく描きたい。
 それが未来へと足を進める大事な原動力なのだから。
「どういう事だこりゃ」
 気合いを入れ直して調査や復興に取り掛かろうとした矢先の事だった。
 建築様式を確認していた彼の視線が止まる。
「作りが変わってるって事は……」
 安易にその理由は想像できた。
 つまり、一世代だけの建物では無かったという事だ。必要に応じ、増設していったのだろう。
 もしくは破壊された所を修復した可能性もある。歪虚との戦いが繰り広げられていたのなら尚更な事だ。
「ジャック! ちょっと手伝って欲しいですの」
 魔導ドリルをひっさげて八劒 颯(ka1804)が声をかけてきた。
「お、おぉう!」
 突然の事に顔を真っ赤にするジャック。
 冒険心をくすぐる遺跡で女の子と一緒に調査作業する事になるとは心の準備ができていなかったようだ。手渡されたメジャーの先を震えながら持つ。
「そっちのタイルの端に合わせてですわ」
「こ、こうか」
 床のタイル目に合わせる。
「なるほどなのです。ここの辺りのタイルの大きさはほぼ同じ様ですね」
 感心しながら床に広げた図面にタイルの大きさを記入する颯。
 前かがみの為、若干無防備になった颯にジャックが顔を真っ赤にしながら視線を変えた。
「お、お、お、お、俺、俺様は、あっちまでの数を数えてくるわ」
 1枚のタイルの数が分かれば後は数えていくだけだ。
「それじゃ、そちらはお願いします。こちらは、はやてにおまかせですの!」
 彼女は、陣地構築に地形を調べて地図を造っているのであった。

「良い出来だね。颯君」
 少しずつではあるが出来あがってくる地図に大二郎が褒めた。
 調査した箇所も一目瞭然であり、無駄な手間が省けるというものだ。
「俺様も手を貸したからな」
 ジャックがドヤっとした顔付きで言った。
 この手の調査は手分けした方が早い。
「拠点として長く使うことも視野に入れるなら周辺地理も把握した方がよいでしょう」
「それにしても、まだまだ広いですね、遺跡は」
 颯の言葉の後にヴァルナが続いた。
 確かに調査して地図として記録したのは一部分に過ぎない。
 遺跡全体を網羅するにはそれこそ、もっと人員と日数がかかるはずだ。
「後ほど、ソルラさんにその旨を伝えにいきましょうか」
 ヴァルナの言葉に全員が頷いた。
 今回の依頼だけでは終わらなかったが、颯の言う通り、遺跡や周辺の地形を把握しておいた方が防衛にも役に立つはず。その颯が未記入の所を差した。
「もう少し、地形を確認したいですの」
「だが、そうは簡単にはさせてもらえなさそうだね」
 大二郎が差し棒のような短杖を取りだして外に向けた。
「俺様に向かってきた事、後悔させてやるぜ」
 拳銃と盾を構えてジャックが進み出た。
 ハンター達の視線の先には、強欲の歪虚が群れを成していた。
「……遺跡の周囲には迎撃に出ているハンター達もいるはずですが……」
 颯は魔導ドリルを起動させながら呟いた。
 広大な遺跡である。警戒の網にかからなかった歪虚がいるのはある意味、当たり前な事かもしれない。
「私達で打倒してしまいましょう」
 左右の手に長剣を構えたヴァルナが宣言する。
 幸いな事に、この場に居合わせたハンターは力量ある者達だ。ここで歪虚の数を少しでも減らしておけば、後々、多少は有利になるはず。
 駆け出したヴァルナとジャックを掩護するように大二郎が魔法を唱える。
「……出のは希望の火、沈み逝くは落日の火。興き、滅び、繰り返し、炎となれ。 火弾――八尺瓊勾玉」
 指示棒が描いた勾玉が、高速で回転しながら炎の弾丸と化す。
 それは迫ってくる歪虚の群れの中心部で大爆発を起こした。
 そんな爆発へと一台の魔導バイクが龍の唸りのようなエンジン音を響かせて突入する。颯が疾走しているのだ。
「骸骨の次は蜥蜴ですか、よくもまぁ次から次へと……」
 魔導ドリルを突き出しながら1体のリザードマンに狙いを定めた。
「びりびり電撃どりる!」
 マテリアルの電撃がリザードマンを直撃した魔導ドリルから伝わる。
 麻痺して動きが鈍くなった所に、ジャックの銃撃が叩き込まれた。
「消えやがれ!」
 立て続けに発砲しながら接近すると、強烈な後ろ回し蹴りで吹き飛ばした。
 こうして新しくできたスペースにヴァルナが踊り込む。
「こういう戦い方もできるのです」
 いつもであれば大剣を振りまわしていた所だが、今日は二刀流。
 鮮やかな動きで二本の長剣を操り、歪虚を切り刻む。
「浮足立っているようだね……それでは、もう一発、打ち込むとしよう」
 指示棒で宙に魔法陣を描きながら魔法の詠唱を始める大二郎。
 再び大爆発が歪虚の群れの中で発生した。
 ハンター達は一斉に駆け出し、それぞれの獲物を振い続けるのであった。

●遺跡探索
「ごきげんようですわ、ソルラお姉さま」
 パァァァと効果音が出て良そうな笑顔でチョココ(ka2449)が陣地構築に勤しんでいるソルラに声をかけた。
「チョココさん。探索の方、よろしくお願いしますね」
「はい。探索ですのー。龍鉱石探しですのー」
 両手で愛用の双眼鏡を握る。可愛い。
 思わず撫でくりたい衝動をグッと堪えたソルラに、十色 エニア(ka0370)が声をかける。
「遺跡内の方は……任せても問題なさそうだね」
「はい! 皆さんで頑張ります。むしろ、護衛がいるといっても、女性二人にお願いする事になり、心配です」
「う……う、うん。大丈夫だよ」
 一瞬、返答に困ったがそのまま流すエニア。
「しっかり護衛を兼ねさせて貰うよ」
 檜ケ谷 樹(ka5040)が爽やかな笑顔を3人に向けた。
「よろしくお願いしますね、樹さん」
「大丈夫。僕は、この仕事が終わったら、リルエナにブーケとお土産をプレゼントするんだ。だから、必ず二人と帰還するよ」
 キラっと樹の白い歯が光った。
 サラリとフラグを立てる辺り、一番の危険を感じる。

 3人は遺跡の中でも崩落してもはや外との違いが分からない箇所を進んだ。
 時折、各々が双眼鏡で周囲を見渡す。
「さすがに、簡単にはみつからないか~」
 ショットアンカーを伝って高い場所から降りてきたエニアが残念そうに言った。
「なかなか、難しいのですの……」
 チョココも思ったより成果が上がらない事に心なしか元気がなさそうに見える。
 対して……エニアとチョココは先程からニヤニヤ顔の樹を不気味な物でも見ているかのような視線を向けた。
「おっと、申し訳ない。つい、顔に出てしまった。仕事とはプライベートを充実させるための手段だと思っていたのだが」
 照れながら後頭部を掻く。
「リルエナの笑顔の為と思っていたら、つい」
「……リア充だね、まったく。それに、任務中に女性の話しをしていると戦死するって噂で聞いた事あるのに、大丈夫かな」
「うう、それは怖いですの」
 振え上がっているチョココをよそに樹は照れたままだ。
「まぁ、あくまでも噂だしね。帰ったら、リルエナが得意のサラダを用意してくれるって言ってるし」
 その言葉に、エニアが思わず躓いた。
 危うく、尖がった瓦礫に頭が刺さりそうになった。
「な、な、なに、死亡フラグをさらっと!?」
「え、此れフラグなの? 死ぬの? ごめんね、僕の死に場所はリルエナの胸の中って決めてるんDA!」
 グッと親指を立てた樹にエニアは大きく溜め息をついた。
「あの……リルエナさんって、どなた様でしょうか~?」
 可愛く首を傾げるチョココ。
「えぇ!? 今、そこから~!?」
 左右からの謎の圧力にエニアは先程の溜め息よりも更に大きい溜め息をついたのであった。

「……という人なのよ」
 なんで、一番詳しいはずの樹ではなくて、わたしが説明しているのだろうと、疑問に思うエニア。
「そんな御方だったのですね~」
 感慨深けにチョココは何度も頷いた。
 リルエナという女性は、王国内でのある大きな事件に深く関わりのある、規格外の胸を持つ人なのだ。
「大きい龍鉱石を持ち帰って、ホワイデーのプレゼントにするんだ」
 樹は空を仰ぎ見ながら決意を新たにしている。
 きっと、喜んでくれるはずだ。
 度重なるフラグ発生にエニアはもう諦めた。
「その為には、ちゃんと龍鉱石を見つけないと、だね」
 そのエニアの言葉に二人は双眼鏡をしっかりと握りしめる。
「そうだね」
「そうですの」
 こうして、3人は再び探索に集中する。
 辺り一面は遺跡の残骸で一杯だが、なにか見つかるかもしれない。
「あぁ! 見つけましたのです!」
 チョココの声にエニアと樹が顔を向けた。
 だが、その顔はすぐに焦りと変わる。
「見つけたって……歪虚の群れ!?」
「それも、かなりの数だね」
 発見できたのが早くて良かったかもしれない。
 逃げるには今がチャンスだ。
「あの群れの奥を見てくださいのです」
 尚も双眼鏡を向けたままチョココが言った台詞に従う二人。
 確かに、なにか大きい岩石のようなものが見えないでもない。
「龍鉱石……のような感じが確かにするかも」
 エニアが考え込む。歪虚の群れは迫っている。決断するなら今だ。
「悩む必要はないさ。あの程度の群れなら、僕達でなんとかなるはずだ」
 樹が拳銃と盾を構えた。
 しっかりと杖を握り締めるチョココ。
「が、頑張るのですのー」
「わたしも前に出るよ」
 霊剣を構えてエニアは前に進み出た。
 風の力を纏って、背中から2対の羽のようなものが見える。
「行くよ!」

 戦いは思ったよりあっさりと終わってしまった。
 群れの数が少なかったのか、それともハンター達との実力の差か。
「……フラグってなんだろう」
 ジト目でエニアが呟いていた。
 危なげな所なぞ一回もなく戦闘は終結した。樹が散々立てていたフラグは全てバキバキに折られたようだ。というか、ここまできて回収という事にはなって欲しくないし、フラグが自分に移って欲しくもない。
 快勝の原因は魔術師が二人とも強力な範囲攻撃の魔法をセットしてきた事だろう。
 群れで行動していた歪虚らはひとたまりもない。範囲攻撃されてバラバラにされた所を樹によって各個撃破されていったのだ。
「二人とも、これを見て欲しい」
 鉱石に近付いた樹が驚きを顔を向けて来た。
 まるで宝物でも見つけたような少年の顔をしている。
「大きいですのー」
「凄い……これは、化石燃料みたいなものだし、全部取っても、問題ない……よね?」
 確かに龍鉱石であった。
 大き目の龍鉱石がいくつも重なりあって岩を形成している様子だ。
「お手製のパルム印フラッグですの♪」
 チョココが目印を入れていた。
 こうして、3人は嬉々として岩を削って、龍鉱石を取りだす。
 これだけの量があれば、遺跡で陣地構築にあたっている仲間達にも分けられるだろう。遺跡の復興にも役立つ筈だ。
 全員で全部を持ち帰れるか不安にはなるが、もし、難しそうであれば、後ほど応援を頼めばいいだけの事だ。
「これで、胸を張って、リルエナの所へ帰れるよ」
 樹が満面の笑みを、リア充の笑みを、隠す様子もなく浮かべていた。

●リューリ・ハルマ(ka0502)×アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
「ソルラさんは素敵だから相手も見つかるよ!」
 明るいリューリの声が遺跡に響いた。
 風が吹き抜ける音と、二人の人間の足音が心地よく流れて行く。
「そうだね……いつかきっと、相手が現れるだろうな」
 応えたのはアルトだ。
 鉄壁の騎士ことソルラ・クートとは縁深き仲だ。そういえば、初めて逢った時の依頼は、そんな恋バナだっただろうか。
 『鉄壁の騎士』の二つ名の由来は、彼女の父が交際の申し出を悉く断り続けているからであるという噂だ。本人は、数年前の歪虚との戦い振りからでと思い込んでいる様子ではあるが……。
「私だったら、お婿さんに欲しいくらいだよ!」
「そうだったら、ボクは仲人でもやろうかな」
「いや、アルトちゃんもお婿さんだよ」
 重婚かよっ! というツッコミを心の中でしつつ、苦笑を浮かべるアルトは油断なく周囲を警戒続ける。
 龍鉱石を探しているのではあるが、襲来が予想される歪虚を警戒しての事だ。
「おかえり!」
 その時、瓦礫の隙間からリューリの猫が姿を現した。
 遊びで連れてきたわけではない。霊闘士としての力を使っていたのだ。この力を使うと、相棒である動物の視覚を共有できるのだ。
「瓦礫の先に開けている場所はなさそうだね」
「それだけでも分かれば大したものだよ」
 今度は猫を連想させるような両耳に手を当てるリューリ。
 聴覚を大幅に上昇させるスキルである。耳の先がピンと跳ねた。その耳の動きが猫っぽいなとアルトは心の中で感じた。
「複数の足音……不規則で……靴の音じゃない……」
「歪虚か」
 リューリが聴いた音を解説し、その内容をアルトが推測した。
 そして、リューリが指差した方角を見つめる。水晶森の先、何体かのリザードマン型歪虚の姿が確認できた。
「排除しておこう」
 不敵な笑みを浮かべるアルト。
 歪虚勢力の撃退も依頼では大事な役割の1つだからだ。

 武器を構えて襲来してくる歪虚に立ち向かう二人。
 ちらっとアルトはリューリに視線を一瞬向けた。彼女は、親友は、それは清々しい程の戦士の顔だった。
「強欲の歪虚ってなに考えているか良く分からないけど、問答無用でぐーぱんちでいいよね!」
 リューリが視線に気がついたのかそんな言葉をかけてくる。確かに爬虫類の様な姿形では感情の動きというものは慣れないと分かりにくいのかもしれない。
 今日は巨大なアックスではなく格闘武器を握り締めているので、文字通りぐーぱんちだろう。このぐーぱんちを喰らえば大岩だって粉々は筈だ!
「いいと思うよ」
 だから、笑顔で答えるアルト。そして、これから挽肉にされるであろう歪虚の群れに向かって宣言した。
「せめてもの慈悲だ。おとなしく、私に斬られておけ」
 聞こえているのかいないのか、1体の歪虚が跳躍して迫る。
 それをいとも簡単に斬り伏せる。
 なおも横一列で向かってくる歪虚の群れから1体が突出してリューリに向かってきた。
 スッと身体を沈め、地を蹴って跳び込んだリューリが目にも止まらない速さで左右の拳を繰り出す。
「いっくよ!」
 右ストレートがリザードマンの首元に直撃した次の瞬間、左のフック。立て続けにジャブが入った後、アッパーを放った。
 打撃の勢いで歪虚の身体が浮く――くるっと野生の猫を連想させるしなやかな動きで回転し、強烈な後ろ回し蹴りを叩き込む。
 歪虚は断末魔を上げながら肉塊……ではなく、ボロボロと消滅していった。
「さすが、リューリちゃん!」
 見事な手際に思わず感嘆とするアルト。
「これは、ボクも負けてはいられない!」
 サシでは敵わないと思ったのだろうか数体が同時に向かってくる。
 一斉攻撃を受ける前にアルトが先手を取った。
 バキッ! と床のタイルが割れる音と共に、マテリアルを込めた強い踏み込みの反動で一気に間合いを詰める。
 彼女が通り抜けた後、数体の歪虚がボロボロと崩れ去る。
 あまりの速さに歪虚らは自分達がどうなったのか知るよしもなかっただろう。アルトは駆け抜けながら超高速で切り刻んだのだ。
「……しまった。つい全部倒してしまった」
「アルトちゃん、容赦ない♪」
 強欲の歪虚の中には人語を喋る者もいたので、なにか情報が得られないかと思っていたのだ。
 彼女が知る事はないだろうが、襲ってくる歪虚に限っていえば、話せるほどの知能が高い歪虚は居ない事ではある。
「よし、次に行こう」
 爽やかなイケメン顔したアルトだった。

●ライダーとハンター達
 隔壁の壁を積み上げてヴィルマ・ネーベル(ka2549)は一息ついた。
「休息は何より大事じゃ。その休む場所を作るのじゃ、しっかりやらねばのぅ」
 居住区は確かにある。
 それは中央付近のハンター達が行っている。彼女はそれとは別に休憩所のスペースを造っていた。
 こうしたスペースは臨時の倉庫や必要に応じて負傷者達が運び込まれる部屋にもなる。
「しっかし、この遺跡ってのは何なんだろうね」
 一緒に作業しているのはリンカ・エルネージュ(ka1840)だった。
 額を流れる汗をインコの可愛い絵柄が入ったタオルで拭き取り、周囲を見渡す。
「遺跡に興味もあるから、探索しながら気になったところを見てみようかな」
 リンカが言う通り、興味深い遺跡である。
 龍鉱石というマテリアル鉱石も神秘的だし、遺跡の建築様式も西方や東方とはまた違う。
 調べれば意外な発見があるかもしれない。それに龍鉱石ももしかして見つかる可能性もある。
「それなら、我も行こうかのう。ちょうど資材も使い切りそうじゃしな」
「使えそうな物を選んで行こう!」
 二人は休憩もそこそこに立ち上がった。

「ソルラさん、なんだか疲れているみたいだね。心配かも……」
「あの女騎士の事かえ?」
 二人は遺跡の内部を探索していた。
 使えそうな資材が見つかれば目印をつけ、龍鉱石を見つけたら籠に入れている。
「私も、つらい時ほど笑ってごまかしちゃったりする方なんだけど……彼女がそうじゃないといいけど」
 心配するリンカの横顔を見て、ヴィルマは優しく微笑み、ポンと彼女の肩を叩いた。
「小難しく考える事はないのじゃ、リンカの素直な気持ちを伝えればいい」
「……そっか、そうだよね。戻ったら、お仕事の邪魔にならない程度に声かけるよ」
 気を取り直した所で、魔導バイクのエンジン音が響いた。
 どこから……とキョロキョロとしている二人に向かって、頭上の崩れた天井から紫月・海斗(ka0788)が、試作魔導バイク『ナグルファル』に跨って現れた。
「嬢ちゃん達、気をつけな。歪虚の群れが近付いているぜ」
 海斗はバイクに乗って、遺跡の周囲を警戒している最中だった。
 遺跡は広大な為、狙った目的が達成できたかどうか分からないが、とりあえず、この一角に歪虚が迫っている事をハンター達に伝える事はできた。
「それじゃ、俺は行くぜ!」
 魔導エンジン独特のサウンドを響かせ、向きを変える海斗。
 特徴的な流線形のカウルが近未来感とスピード感を印象つける。実際、この魔導バイクは搭乗者を選ぶが、速度はピカイチだ。あっという間に海斗は見えなくなった。
「…………ヴィルマさん、今の誰でしょう?」
「うむ。下から見上げる事もあって、誰だか分からなかったのう」
 唐突な事に呆気に取られた。
 とりあえず、謎のライダーの忠告に従って二人は戦闘準備に入るのであった。

 宙に印を刻み簡素化された術式を唱えるリンカ。
「リチュエルフラム!」
 彼女が持つルーン文字が刻まれた剣が青白い炎を纏った。マテリアルの炎を武器に付与する事で威力を上げる魔法である。
 接近してきた歪虚に対し、近接戦を挑もうというのだ。
「……氷よ、切り裂く氷の嵐となり、全てを凍てつかせるのじゃ!」
 短杖を迫ってくる歪虚の群れに向けたヴィルマ。
 刹那、肌切り裂くような冷たさが嵐となって歪虚共に襲いかかる。
 動きが鈍くなった所にリンカが突撃し、剣を一閃。
「ちょっと数が多いかも!」
「我もそう思うのじゃ」
 戦況はまだ二人に有利だが、敵の方が数に勝っているのだ。囲まれる心配がある。
 そんな時、再び魔導バイクが疾走してくる音が響いた。
「ヒャッハー! 襲撃してきた馬鹿はどーこだー!」
 海斗だった。
 先程のバイクに跨ったまま、歪虚の群れに向かって突撃してくる。
「出た! 謎のライダー!」
「変身は……しない……ようじゃのう」
 リンカとヴィルマの二人からの熱い視線に気がついたのか、歪虚を吹き飛ばした先でクルッとバイクがターンした。
 土煙りを上げながら止まったバイク。そして、海斗が品のある帽子を大袈裟に被り直した。
「俺の名は、紫月・海斗。冒険が! お宝が! 楽しい事が俺を呼んでいる! 行くぜ!」
 甲高くエンジンを吹かし上げる。
 後輪を激しくスライドさせながらスピードを上げきると、銃を放ちつつ、再び歪虚目がけて駆け出した。
「バイク乗り、伝家の宝刀……轢き逃げアタック!」
 ニヤリと口元を緩め、海斗がスロットルを全開に回す。
 次々と歪虚を吹き飛ばす様子はリアルブルーに伝え聞く伝説のライダーを彷彿とさせた。
「『紫月・海斗』……戦友の知り合いのハンターに、そんな名の者がおった気がするな……」
「おぉ! 有名人なのかな?」
「……有名人かどうかは分からんのじゃが、ガルドブルムとの酒飲み仲間だとか、アレクサンドルに喧嘩を売ったとか、79と対バンして負けたとか、オルクスにナンパしたり、ジャンヌに夜這いしに行って返り討ちにあったとか、まぁ、色々な噂を聞いたような気がしないでもないのじゃ」
 ここまで十三魔と関わりがあるハンターもある意味、珍しいかもしれない。
 普通では命がいくらあっても足らなさそうな強力な歪虚だからだ。
「そうなんだ! 私も負けてられない!」
 グッと剣を握り締めるリンカ。
 張り合う相手が間違っている気がするが、残念な事に、この場にツッコミを入れる人物は居なかった。
「我も全力で立ち向かうぞ」
 資材として持ち込まれていたのが落ちていたのだろうか、ヴィルマは鉄パイプを拾った。
 あろう事か、リンカがその鉄パイプに炎のマテリアルを付与した。青白い炎に包まれた鉄パイプを振りかぶりながらヴィルマは歪虚へと襲いかかった。
「喰らって、ぎゃふんというがいい! 必殺、マジカル☆鉄パイプ!」
 海斗のバイクによって吹き飛ばされていたダメージが蓄積されていた歪虚は、その一撃で崩れ去ってしまった。
「嬢ちゃん達、楽しくいこうぜ!」
 後輪がまるで踊っているかのように巧み魔導バイクを操りながら海斗が叫ぶ。
「一気に畳み掛けるよ!」
「マジカル☆鉄パイプの餌食になるといいのじゃ!」
 リンカとヴィルマは魔法を撃つ事も忘れ、ひたすら目の前の敵を叩き伏せる事になった。
 乱戦にならば範囲魔法も使えないし、接近戦であれば、武器を振りまわしている方が良いというのもあるが。
 結局、この一角に攻め寄せた歪虚の群れは、ライダーとハンター達によって撃退されたのであった。

●リュー・グランフェスト(ka2419)×七夜・真夕(ka3977
 地響きが一帯に轟く。
 爬虫類というか、トカゲというか、直立している強欲の歪虚共が集団で走っている音だ。奇怪な叫び声と共に古びた剣とも槍ともいえない武器を激しく上下させている様は異様に見えた。
「これは、集め過ぎたかもな」
 呆れる様な口調でリューが呟いた。
「あたしたちの連携、みせてやろうじゃないの!」
 一方、真夕は両刃のナイフを器用に回しながら言う。
 二人は遺跡周辺で歪虚を集めては狩り続けていた。陣地構築中に襲撃があるという予想があるのなら、先にコチラから出向いた方が良い……という事だ。
 如何に守りを固め、襲撃に備えても、実は定点での防御には決定的な欠点がある。
 それは、『いつ』襲われるか分からないという事だ。襲撃側は好きなタイミングで好きな場所へ攻撃できる。今回はおまけに築陣という作業を並行している。
 それならば、いっそのこと、積極的に敵を探しまわった方がいい。どうせならある程度集めた方が一網打尽にできる。
「んじゃ、暴れるとすっか!」
 炎のオーラを纏い、リューが叫んだ。
 本物の炎ではない。闘狩人としてのスキルで敵からの注目を集めているのだ。
 誘き出された歪虚十数体に向かって突撃するリューを掩護するように、真夕が後方から魔法を唱える。黒い髪が風でふわりと浮いて流れた。
「……風よ、天空を貫く稲妻となり、我らに仇を成す者に天罰を!」
 真夕の持つナイフで宙にマテリアルの魔法陣を描き、詠唱と共に雷が迸った。
 リューの真横を抜けて行った雷は集団で迫る歪虚の群れを貫通する。射線上の歪虚は地に倒れて行く。
「これで、どうだ!」
 魔法による一撃で乱れた所にリューが飛び込み、刀を横一閃させる。
 側面からの攻撃を盾で防ぎ、返す刀で切り伏せる。
「もう一発、行くよ!」
 気合いの入った真夕の声が響く。
 大気を切り裂くような雷鳴と共に再び稲妻が走る。
 二人は連携して終始、敵を圧倒していた。

 暖かいマテリアルの光がリューの身体を包み込む。
 覚醒者が体内に持つマテリアルを活性化させて傷を癒す術だ。覚醒者にとっては基本的な術だが、長期に渡る戦いでは役に立つ。
「次から次へと沸いて出てくるみたいだな」
 二人の戦いは一段落していた。
「何事もなければそれに越した事はないんだけどね」
 真夕の言った通り、何事もなければそれで問題ない。
 だが、ここは戦場だ。発見した歪虚の群れが迫ってくる。
 先程よりも数は多い。スキルを放てる残り回数も少なくなってきている以上、これが最後の戦闘となるだろう。
 体力を回復したリューは口元を緩めた。
「こい! 俺が纏めて相手になってやる!」
 突貫していく彼の頭の中に、真夕の声が文字通り響く。
 魔法を使って、直接、話しかけているのだ。これならば戦いの喧騒で台詞を聞き落としたりはしない。
“先頭集団に向かって範囲魔法を使うわ!”
 相手の出鼻を挫くのだろう。
 承知との意を伝える為、刀を高々く掲げた。
 それを確認し、真夕は精神を集中させる。
「……炎よ、森羅万象を灰燼と帰す絶対なる力となり、あらゆるものを焼き尽くせ!」
 轟々と立ち揺らぐ炎球が飛翔すると、歪虚の群れで大爆発を起こした。
 吹き飛んで瀕死なのは後回しにして、リューが刀を振り回して生き残っている歪虚へと斬りかかる。
「おおおおおお!」
 軸足で踏ん張りながらグルッと体幹を回した。
 さながら竜巻のようである。触れれば肌は切り裂かれ、骨は断たれる。
“遺跡側の集団に向かって魔法を放つわ!”
 真夕のエレメンタルコールが再び頭の中に響いた。
 リューを取り囲みつつある歪虚の一角を吹き飛ばすつもりなのだ。
「頼んだ!」
 ありったけの大声で叫んだが真夕に届いているかどうかわからない。
 いや、きっと届いているはずだ。
 リューは仲間を信じ、次へと続く一歩を踏みこんだのだった。

●ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)×鞍馬 真(ka5819
「警戒任務もニンジャでプロカードゲーマーな私に、お任せなんだからっ!」
 一人勝ち誇ったドヤ顔でロープを張り終えたルンルン。
 遺跡の陣地構築の傍、いかにもこれから歪虚が通りますよーという所に罠を仕掛けているのだ。
 鳴子代わりのツナ缶が風で揺れている。もちろん、中身は既に美味しく頂いた後だ。
 これに歪虚がひっかかれば、それはもう、盛大な警戒音が鳴るという訳。
「これで、私がここで見張っていなくても問題ないのですっ! これが、ジュゲームリリカル……ルンルン忍法警戒の術!」
 ビシッとポーズを取り、豊満な胸が激しく揺れた。揺れるだけで既に音がなりそうな気もしないでもない。
 とりあえず、今の所、歪虚が現れそうな様子はなかった。
 ルンルンは次の設置ポイントに向かって行く。いくつか怪しいポイントを押さえておけば、うっかり侵入される危険性も低くなるはずだと踏んでの事だ。

 真は遺跡周囲を警戒していた。彼は既に数体程、歪虚を倒している。
 敵を発見したら、積極的に撃破し、陣地構築の憂いを断つ。
(面子をみる限り敵に遅れを取ることはほぼ無いだろうが、な)
 心の中でその様に呟いた。
 今回参加しているメンバーの中には百戦錬磨のハンターもいる。
 それこそ十三魔級か、かなりの強さを持った歪虚が襲来しない限り大丈夫だろう。
(だが、作業の手が止まったり、せっかく復興した遺跡が傷付くのは好ましくないからな)
 だからこそ、彼は迎撃任務を志願したのだ。
 その時、陣地構築している一角に程近い。前方の遺跡の影から戦闘音が聞こえてきて、真は走り出した。

 飛翔した数枚の符からマテリアルの光が伸びて結界を作った。
 そして、結界内が眩い光で包まれる。
 符術師であるルンルンが放った術だ。結界内で強欲の歪虚が光に焼かれ、消滅していくのだ。
「あれれ?」
 結界にまとめて入っていたと思っていた歪虚が1体残った。
 そいつはいやらしい舌の動きをしながら隙だらけのルンルンに襲いかかってきたのだ。
 しかし、その歪虚は次の瞬間、背後から切り刻まれて消滅する。
「しょせんは雑魚の歪虚、か」
 乾いた金属音を立て、真が納刀した。
 タイミングよく居合わす形になった真はルンルンの様子を確認。
「だい……丈夫だな」
「ありがとうです! これは、ほんのお礼です!」
 にっこりと笑って、ルンルンは符を真の額にペタっと張った。
「……あぁ、礼を気にしなくて良かったがな」
 真が額に手を伸ばそうとした時だった。
 ツナ缶同士がぶつかり合う音が響き渡った。猫の餌の時間を彷彿とさせる。
「これ……は?」
「私が仕掛けた一角に歪虚が現れたのです!」
「なら、打ち倒すだけだ」
 シャンと鞘から刀を抜く快音を鳴らし、真が左右両手に刀を握った。
 刀をクロスさせて十時を作ると、その構えのまま、鳴子が鳴った方角へと走る。
「少しでも、討ち洩らさない」
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法分身の術!」
 符が人形型の式神となり、先へと飛び去った。
 どの程度の戦力がいるか確認する為だ。
「これまた、大勢でお越しです!」
 確認した通り、かなりの数の歪虚が遺跡の内部へと侵入しようとしていた。
 が、突然、その動きが止まる。見れば、符が結界を張っていたようだ。
「トラップカードオープンです!」
 結界内の歪虚が移動できずにその場で蠢いている。
 好機とばかりに、真が一気に間合いを詰めた。
 強く踏み込み、両手に持っていた刀を同時に振り下ろすと立て続けに斬りつける。
「ここから先には行かせない」
 彼の台詞通り、ここから歪虚は一歩も先には進めず、次々へと消滅するのであった。
 額に張られたままの符が揺れた。


 ハンター達の活躍により、遺跡の一角に簡易陣地を構築する事ができた。
 また、龍鉱石の探索も良い成果を残し、周辺を跋扈していた強欲の歪虚も相当な数を撃破。
 この成果を持って、鉄壁の騎士ソルラは意気揚々と王国へと帰還したのであった。


 おしまい。

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  • ヴァイス・エリダヌスka0364
  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニアka0370
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhranka0754
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェストka2419
  • 光森の太陽
    チョココka2449
  • 【魔装】花刀「菖蒲正宗」
    シェラリンデka3332
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕ka3977
  • 幸せを手にした男
    檜ケ谷 樹ka5040
  • 雷影の術士
    央崎 遥華ka5644

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 自爆王
    紫月・海斗(ka0788
    人間(蒼)|30才|男性|機導師
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎(ka1771
    人間(蒼)|22才|男性|魔術師
  • びりびり電撃どりる!
    八劒 颯(ka1804
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • 青炎と銀氷の魔術師
    リンカ・エルネージュ(ka1840
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 【魔装】花刀「菖蒲正宗」
    シェラリンデ(ka3332
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士
  • 幸せを手にした男
    檜ケ谷 樹(ka5040
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 竜鱗穿つ
    ルーファス(ka5250
    人間(蒼)|10才|男性|猟撃士
  • 雷影の術士
    央崎 遥華(ka5644
    人間(蒼)|21才|女性|魔術師
  • 忍軍創設者
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    人間(蒼)|17才|女性|符術師

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    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人

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ソルラ・クート(kz0096
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
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最終発言
2016/03/05 16:06:46
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Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
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2016/03/05 20:56:13