【機創】機械仕掛けのナイチンゲール

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/03/03 09:00
完成日
2016/03/11 05:40

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 錬金術士組合の本部は、帝都バルトアンデルスにある。
 先の暴食との戦いで帝都が戦場となった際には、避難民やハンターを受け入れ戦術拠点としても開放された場所だ。
「少し見ない間に雰囲気変わったわね、帝都」
「悲しい事件が重なりすぎたんです。良くも悪くもいつも賑やかな街ですが、今は不自然なくらいに静かです」
 組合の応接室の窓の向こう、戦闘の傷も癒えきらぬ街を眺めるハイデマリー・アルムホルムに、リーゼロッテ・クリューガーはマグカップを差し出しながらそう答えた。
 絶対君主たる騎士皇を失ったこの国に、かつての力強さはない。世界は変わっていく。それを望んでも、望まずとも。
「報告書には全て目を通しています。既に機導式浄化術は実用段階……後はどのような形で世界に普及させるか、ですね」
 エルフハイムの協力でハイデマリーの研究は大きく進展した。その結果が彼女の義手でもあるガントレッド、“ナイチンゲール”だ。
 長老会はヨハネやユレイテル、ジエルデを通じて彼女に一部の過去の遺産を詳らかにし、恐らくはかの先人が辿った痕跡から力を形にしつつあった。
「エルフハイムの技術をライセンス生産する事になるから、組合が支払う技術料はかなり高価になるけど……」
「ゆくゆくは帝国やソサエティにも提供する技術ですから、資金回収の目処は立っていますよ」
「金で買える奇跡は機導の基本……。世界共通言語たる金銭で全ての人が幸福を勝ち取れるなら、別にこれまでだって変わらないわね」
 ハイデマリーの言葉は極端だが、リーゼロッテも概ね同意する。
 機導技術は広く、可能な限り誰でも扱えるべきだ。無論、技術にはコストがかかる。慈善事業で組織は経営できないのだから、どこかでペイしなければならない。
 その為の研究、その為の商業利用、その為の組織、国……だからこそ錬金術は帝国と共にここまで大きくなれた。
 結果としてこの国に光と影を落としたのも機導術。それも、忘れてはならない事実の一つだ。
「何より、浄化の力は機導の悲願ですから」
「そんなにいいものじゃないけどね」
 機械の腕を見つめ、ハイデマリーは目を瞑る。
 エルフハイム式浄化術の再現であるこの力は、結局のところまだ資質を必要とする。
 即ち、ある程度高位の覚醒者でなければ扱うことができない。その時点で真髄を語るには及ばない。
 何より、エルフハイム式の術は“穢れを消す力”ではない。“一時的に別の場所に移す”のが基本式。
 浄化の器や多数の高位術者を用いた浄化結界であれば話は別だが、それにも人柱が必要であるとすれば、結局は痛みの押し付け合い。
「木を切り倒すのは一瞬ですが、育てるのには何十年もかかってしまいますよね。機導師の罪は、それと良く似ています」
「世界全体で捉えるのなら、浄化術なんて結局は結論の先延ばしに過ぎないのよね」
 そう言ってマグカップを呷る。ブラックのコーヒーは苦く、夢の味さえ舌先から奪ってしまいそうだ。
 ふと、物音に二人は目を向ける。執務室に置かれた本棚に背を預け、地べたに座り込んで本を読みふけっている少女の姿がそこにはあった。
「彼女、本が好きなんですね」
「んー、いや、最近まで人間の文字読めなかったんだけどね」
「教えてあげたんですか? 知識の伝達は機導師の本懐、素晴らしい事ですよ」
 頬をぽりぽりと掻き、ハイデマリーは浄化の器を見つめる。
「あんた……読んだ本は元に戻しなさいよ」
 完全無視を決め込む器に歩み寄り頭頂部を小突くと、きょとんと目を丸くしたが、顎で本棚をしゃくるとせっせと本を戻し始めた。
「高価な蔵書散らかしてごめんなさいは?」
「ゴメンナサイでした」
「口先ばっかりで全く謝罪の心が見えないやつね~」
「そ、それにしても、彼女は?」
 リーゼロッテの問いに答えあぐねるのも無理はなかった。
 浄化の器だけがここ、帝国のど真ん中にいる。これは正しく状況を理解できる者からすると正気の沙汰ではない。
「今回の実験のお目付け役って事らしいけど……それに浄化術に関しては森で一二を争うプロフェッショナルだから……コレでもね」
「サウンドアンカーの時以来ですね、お嬢さん」
 器は顔を上げ、リーゼロッテの胸を凝視する。それから思い出したように頷き。
「おっぱいでっかい人」
「ブリちゃんと言いこの子と言い……なぜなのでしょうか……」
「ジエルデよりでっかい人あんまりいないから……いだい」
 ゴツンと鉄拳が頭にめり込むと、器は無表情に涙目になった。
「そういえば彼女、機導術にも理解があるのですか?」
「んー……というか、知識を蓄える事に異常に貪欲なのよね。簡単な読み書きは3日で出来てたし」
「え?」
「新たに覚えているというよりは、まるで思い出してるみたいな……。ま、あのアホのことはいいわ。組合長、例の件だけど……」
「ええ。こちらでも協力は惜しみません。実証実験の精度はより高い方が良いでしょうしね」
 にこやかにそう答えつつ、ふくよかな胸を叩くリーゼロッテ。ドンと任せろと言いたかったのだろうが、ドカンと揺れただけで頼もしさは感じられなかった。

「ハイデマリー、どこに行くの?」
 ハイデマリーの運転する組合で借りたトラックには二人だけではなくハンター達の姿もあった。
 組合に寄ったのは報告と今後の相談の為。エルフハイムを出てきた主目的は別にあった。
「簡単な浄化が出来そうな、軽度汚染地域よ」
「けいどおせんちいき?」
「帝国と組合が提携して作ってるハザードマップの中で、あまり立ち入りが推奨されていない場所。ブラストエッジ鉱山とかラズビルナムとかいきなり高度汚染地域に行ったら実験どころじゃないから」
 先の暴食王の侵攻以降、帝国領各地には軽度汚染地域が出現していた。そのまま放置しても問題にはならないだろうが、実験にはおあつらえ向きだ。
「残留した暴食のザコがうろついてる可能性もあるけど、汚染地域調査は国から悪くない補助金も出るしね。それをハンターへの報酬にあてるってわけ」
 興味なさそうな生返事をしながら、トラックに揺られ楽しげに頬を緩ませる器。
 森を出る時、ジエルデが言っていた。“この子にもっと外の世界を見せてほしい”という言葉の意味は良くわからないが。
「それで、結局どこにいくの? 山? 海?」
「遠足か……。まあ、どっちかって言えば山ね。私が昔出入りしてた森よ」
 ――昔から軽度汚染地域で、浄化術の実験には打って付けだったその場所で、あの男と出会った。
 それももう、随分と昔のように思える。あの男が姿を消してから、無意識にあの場所を避けていたからかもしれない。
 アクセルを少しだけ強く踏み込み、先を急ぐ。
 時は止まらない。望む望まざるに関係なく、世界は変わっていく。
 機械仕掛けの腕が舵を切る。未来に向かって、想いが動き出そうとしていた。

リプレイ本文

「北伐作戦に比べれば汚染は微々たるものですね」
「そうね。でも、覚醒者以外が長居をすれば体調を崩したりもするのよ」
 トラックから降りたソフィア =リリィホルム(ka2383)の言葉にハイデマリーはそう応じつつスキルデバイスを放る。
 ハンター達はそれぞれ自らの装備にデバイスを装着する作業に入っていた。
「たったこれだけで使えるようになるなんて、すごいね」
 新たな装置を追加したスキルデバイスを見つめ、イェルバート(ka1772)は感慨深く呟く。
「機導術で浄化を、かあ……爺ちゃんが知ったら、なんて言うだろ」
「そういえば、あなたも組合に所属していたのだったわね」
「あ、はい。といっても、知識とかは全然ですけど……機導術と魔法公害は切っても切れない関係だし、この実験は良い勉強になります」
 イェルバートのデバイスを見やり、その背中を軽く叩くハイデマリー。デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)はポンと手を叩き。
「なんだなんだ、浄化ったァなんのことかと思っちゃいたが、アレか。暗黒式世界改編波動か」
「え……?」
「暗黒式世界改編波動」
 言い直されても困惑するだけのイェルバート。デスドクロはバサっとマントを翻し。
「このデスドクロ様レベルになると、汚染地域の浄化なんぞ通常能力のひとつよ! あえて機導浄化なんて面倒な手順を取るって発想がなかったぜ!」
 高笑いするデスドクロ。まあともあれ、こうして実験が開始された。

 アルファス(ka3312)が機杖を掲げると、淡いマテリアル光が周囲へ広がっていく。
 それはやがて再度杖へと収束する。それだけで周囲のマテリアルが正常値に近づいているのがわかった。
「身体には……特に問題はないね。術の使用感も引っかかりは感じなかった。身体にも異常はなしか」
「この術、まるで掃除機みたいね。周囲の汚染を吸い取る……でも、その割には肉体への影響はほとんど感じられない」
 感心した様子でコントラルト(ka4753)は呟き、大地に突き刺した機杖を引き抜いた。
「これってどれくらいの間有効なんですか?」
「完全に取り除いてしまえば永続よ。まあ、実は完全にというのはなかなか難しいのだけれど」
 ハイデマリーの質問に首を傾げるイェルバート。そこへコントラルトが歩み寄る。
「知的生命体は概ね、正負のマテリアルを併せ持っており、正のマテリアルの保有量がより多い形でバランスが取れている。マテリアルの基礎知識だけれど、つまり完全な浄化というのは難しいのよ」
「そうだったんですか……」
「それは自然物にも同じ事が言えるわ。木とか土とかね。正負のバランスが維持できる状態まで浄化を進めれば、浄化の必要がない状態に近づける事は可能よ」
 側でその会話を聞きつつ、ソフィアは思案する。
 北伐で行われた浄化作戦は、龍脈に浄化の力を流し続ける必要があった。
「一点を浄化しても周囲が高度に汚染されたままでは、その汚染の影響を受けてバランスが負に傾き、再汚染されてしまう。だから永続ではないって事ですね」
「そっか……じゃあ、ブラストエッジみたいな場所を浄化するのは大変なんだな」
 少しがっかりしたように呟くイェルバート。そんな仲間たちの中、一人だけ未だに術を発動できずにいる者がいた。
「おかしいな。先ほどから試行しているが、デバイスが起動しない」
「あー……やっぱり?」
「やっぱりとは?」
「自身のマテリアルが周囲に広がって、汚染を感じられる感覚はある?」
 ハイデマリーに言われ、目を瞑り剣を構える弥勒 明影(ka0189)。しかし暫くすると構えを解き。
「いや。俺には感じられない」
「私もそれ使えないよ」
「……ホリィもか?」
 器は明影の絡繰刀を手に取り覚醒するが、やはり暫くすると首を横に振る。
「マテリアルっていうか、機械が感じられない」
「皆はどうやってデバイスを起動しているのだ?」
「どうやって……ああ、そうか。僕達機導師は、そもそも生体マテリアルである程度機械を操作できるんだよ」
 それは機導師の特性の一つ。そもそも機導師は戦闘中に様々なデバイスを駆使したスキルを発動しているが、いちいちスイッチを押したりネジを巻いているわけではない。
 その動力も制御も自身のマテリアルによって行っているのだ。当たり前過ぎて機導師たちは気づいていなかったが、渡されたデバイスの表面はつるつるで、何もいじれる部分がなかった。
「なんだぁ? つまり機導師じゃなきゃ使えねェって事か? こいつを大衆に広めるんじゃなかったのか?」
「最終的にはね。でも、今の技術では“魔法”的な力を借りないと難しいのよ」
 デスドクロにそう応じ、ハイデマリーは考える。
 そうでない場合は、例えばサウンドアンカーのようなかなり大型の装備が必要になるかもしれない。
「エルフハイムでも、浄化術には資質が必須……選ばれた者しか使えなかった。その資質に当たる部分をデバイスで補ってるんだけど」
「では、機導師以外では難しいのか。それに魔法的な力が必要という事は、非覚醒状態では扱えないという事でもある」
 明影は非覚醒状態でも使用できるか実験するつもりであったが、既に結論は出てしまった。
「僕達は問題なく力を使えているみたいだけど、もし魔法的な力を利用しているのだとすると、マテリアルの操作技術……修練度も関係してくるよね」
 アルファスの言う通り、一口に機導師と言ってもその質はピンキリである。
 覚醒したばかりであればマテリアルの保有量、操作能力共に熟練者には及ばない。より力を得た高位の覚醒者に順次クラス技能が開放されていくように、適切な力を持つ術者でなければ術を発動できないばかりか、身体に悪影響を及ぼす事もあるだろう。
 腕を組み溜息を零す明影。その上着の裾をくいくいと引き、器は無表情に親指を立てた。
「仲間」

 基本的なところがわかれば、後は細々とした実験に入る。
 ブォンブォンとエンジンを唸らせたバイクに跨ったソフィアが発光し、その周囲が浄化されていく様子はシュールだ。
「魔法だから発動体として効果を発揮さえすればバイクでも良いわけですね」
「そのまま移動しながら浄化できるんじゃない?」
 器に見送られ、発光したソフィアが森の中に消えて行った。余談だが、発動地点でしか効果はなかったゾ。
 一方、コントラルトは眉間に皺を寄せていた。腰溜めに剣を構え、小刻みに震えている。
「何してるの?」
「マテリアルは意志の方向性に大きく依存すると聞いた事があるの」
「魔法の理論にも関わる学説ね」
「だから、思考と感情の内容で術の効果に影響があるか……試しているのよ」
 ハイデマリーに説明しつつ、スゥ~っと穏やかな笑顔に変わっていくコントラルト。だがあんまり変化はない。
「……まあ、そもそも感情の影響で戦闘中に魔法が使えたり使えなかったりしたら困るものね」
 そうですな。
 バイクで戻ってきたソフィアとコントラルトはお互いが目に届く距離でおもむろに短伝を取り出し通話を開始する。
「聞こえるかしら?」
「ノイズが入るほどの影響はないみたいですね」
「軽度汚染地域だし、まあそんなものかしら」
 と言いながら二人は発光し、短伝を中心に浄化されていく。
「……何やってるのかな、あれ」
「伝話で浄化できるかっていう実験と、浄化中にノイズが入るかどうかの実験だって」
 周辺警戒を行いつつ見物していたイェルバートに器は草をむしりながら応じる。
「ていうか、伝話のどこにデバイスつけたのかな……」
 結局、特にノイズは入らなかった。
「ハイデマリーさん、デバイスと自分に負担をかける実験をするけど、構わないかな?」
「別にいいけど、何をするの?」
「連続で使ってみようと思うのですが」
「軽度汚染地域で同じ場所で連続で使っても意味はないから、移動しながらにしたら?」
 なるほど、確かに。納得したアルファスは杖を翳し、走り出す。
「行きます!」
 走りながら光りまくるアルファスが皆の前を通り過ぎ見えなくなる。暫くするとフラフラしながら帰ってきた。
「おう、どうした? グロッキーじゃねぇか」
「連続使用が5回を超えた当たりから、目に見えて体調が悪化しましたね……」
 アルファスの顔色を伺い、ハイデマリーを見やるデスドクロ。
「ああ……多分魔法の使いすぎね。魔法には使用回数の制限が設けられてるでしょ? 普通はそんなに連続では発動すら出来ないのよ。アルファスは高位の術者なのが祟って発動できてしまったけど、それが逆に負担だったみたいね」
 これは汚染がどうこうというより、魔法の問題らしい。
「やっぱりセーフティーは掛けないと駄目か。ある程度高位の術者なら、魔法を最適化すれば使用回数増やせるだろうけど」
「こっちの世界の連中は安全性の検証をおざなりにやってる印象があったが、その結果凡人どもに合わせて能力を制限してたってわけか」
「いや、あんたも回数制限食らってるでしょ」
 そんな二人の話を横目にアルファスは機杖を振り、冷や汗を流す。
「あの……デバイスが止まってしまったのですが」
「壊れたか……」
「す、すみません……」
「いや、試作品だし当然ね。あなたレベルの術者が連発すればそうなるか……デバイスの為にも制限は必要ね」
 実験に参加できずに様子を見ていた明影は絡繰刀を差し出し。
「発動体の属性には依存しないのか? 属性相性は関係ないと踏んでいるが」
「あー、属性は多分関係ないですね。魔導機械であれば何でも良いのでしょう。私も同じ“三日月”を持っていますが、変化はありませんでしたし」
「発動体で浄化の本質が変わる筈もなし、か……。であれば確かに、要求される前提条件は低いものとなるだろう」
 ソフィアの返答に頷く明影。と、その時だ。草陰から突然、狼が飛び出してきたのは。
 飛びかかる狼を蹴り飛ばすデスドクロ。イェルバートが銃口を向けつつ首を傾げる。
「これは……野生動物?」
「ではないわね。さっき話したでしょう? 生物は正負のマテリアルのバランスを保って生きていると。それが何らかの影響で負に傾きすぎた結果、野生動物も雑魔と分類される」
 コントラルトの説明にイェルバートは眉を潜める。確かに見た目は普通の狼と変わらない。が、負の気配を感じられた。
「狼を浄化することは……」
「残念だけど、不可能よ」
 イェルバートが引き金を引くより早く、コントラルトは掌に集めた光を放ち狼を貫いた。
「闇に汚染された生物は凶暴化し、元に戻る事はない。そして体内で膨張した負のマテリアルは生物の生命活動を停止させ、その後完全な歪虚へと転化するわけ、ね」

「アルファス、もう体調はいいのか?」
「うん。体内に汚染という程のものは感じられないし、疲労感も抜けてきたよ」
 デスドクロの問いに笑顔で応じるアルファス。ハンター達は実験を中断し、報告会を兼ねた休憩に入っていた。
 コントラルトが容易してくれたサンドイッチを摘みながら、それぞれが思い思いに提案を交える。
「とりあえず、それぞれのハンターの力と使用限界についてまとめて報告した方がいいかな。やっぱり力の弱いハンターに浄化は危険だと思う」
「だな。まあ俺様が扱うに当たっても、やはりその超常すぎる能力を抑える為に回数制限はやむ無しと見たぜ。なあ明影?」
「おい……それ以上寄るんじゃない。何故俺に話を振った」
「一緒に温泉に浸かった仲だろ?」
「仲だろ?」
「俺は一人で入ったのだ」
 デスドクロに続いてずずいと身を乗り出す器。一方ソフィアはハイデマリーの義手を見つめ。
「その義手みたいに汚染をカートリッジに溜め込んで切り離したりできないんです?」
「できるけど、汚染を詰め込んだカートリッジが悪用されたら困るじゃない」
「悪用ね……。負の力を活用する方法があれば確かに良いのだけれど……」
 口元に手をやりコントラルトは思案する。今のところ、負のマテリアルを人類が活用した歴史はない。
 だがそれが可能になれば、吸収した負の力を別の形に変換し放出するような事も可能なのではないか。そう考えていた。
「一応、負の力の研究は組合でも禁忌とされててね。それに汚染カートリッジは、例えば一箇所に纏めたら人為的な環境汚染とかできるし、反政府組織御用達になっちゃう」
「う~ん……まあ、ヒトなんて所詮そんなものですよね。悪用しないと信じるよりは、できないようにしておく……例え不便だとしてもそれが道理ですか」
 納得したように溜息を零すソフィア。明影は肩を竦め。
「これでも歴史上初の機導式浄化だ。エルフハイムの浄化術を簡易に使えるというのは革新的……最初からそう贅沢は言うまい」
「あなたもどうぞ。好きに食べて頂戴」
 そう言ってコントラルトがバスケットを差し出すと、器は瞳を輝かせバスケットごと持ち去ろうとするが、それをソフィアとハイデマリーに阻止された。
「好きにってのはそういう意味じゃねーよボケ。基本的に全部持ってこうとするのやめろ」
「えっと、ホリィだっけ? 僕の半分あげようか?」
 と言ったイエルバートの手が器の口の中に消えた。
「ゴラァ人様の手を食うんじゃねぇ! 食い意地張りすぎだろ!」
「それもまた人の道理。我執もあるべき」
「……その全肯定スタイル、それはそれで教育に良くないんじゃないですか?」
 穏やかな笑みを浮かべる明影に苦笑を浮かべつつ、イェルバートから器を引っこ抜こうとするソフィアであった。

「やっぱりそうだ。術を使った場所の汚染は消えたままだよ」
 帰り道。アルファスは大地に手をつきそう言った。彼の言う通り、実験で浄化された場所は汚染が取り払われていた。
「軽度汚染地域だから、汚染の揺り戻しがなかったんだ。この力でも、環境を自然に近づける事はできるんだよ」
 アルファスの言葉に嬉しそうに頷き、イェルバートは木々を眺める。
「この魔法の名前、白虹ってどうかな? 人を幸せにする、月光の虹って言う意味で……」
「ギャギャっとクリア汚染 ガンコな汚れまっさら浄化(弱汚染地域用)!」
「え?」
「ギャギャっとクリア汚染 ガンコな汚れまっさら浄化(弱汚染地域用)!」
 くわっと目を見開いたデスドクロの言葉に圧倒されるイェルバート。アルファスは腕を組み笑みを浮かべ。
「いやいや。今後の浄化術の発展を考えれば派生を作りやすくしたほうがいいね。機法陣・浄とか」
「わかりづらくねぇか?」
「きみがそれを言う?」
 ワイワイと語り合いながらハンター達はトラックに乗り込んだ。
 この森の汚染は軽度なもの。ひょっとするとハンター達が浄化術を連発したお陰で、汚染が取り払われるかもしれない。
 そうすればきっと苦しむ生き物も減り、また人が寄り付く場所になるだろう。
 イェルバートはそんな未来を想像しながら、遠ざかっていく森を荷台から見つめていた。

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参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • 輝きを求める者
    弥勒 明影(ka0189
    人間(蒼)|17才|男性|霊闘士
  • →Alchemist
    イェルバート(ka1772
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • 《聡明》なる天空の術師
    アルファス(ka3312
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 最強守護者の妹
    コントラルト(ka4753
    人間(紅)|21才|女性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
アルファス(ka3312
人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/02/29 04:10:37
アイコン 浄化するよーっ。
ソフィア =リリィホルム(ka2383
ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/03/02 04:11:49
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/02/28 02:26:43