王国と、巡礼者の道と、雑魔化した大きな鼠

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/08/23 19:00
完成日
2014/08/31 21:24

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 リゼリオ沖の海に狂気の歪虚が現れ、大量に押し寄せて来ている── そのニュースは王国の各地に支局を持つ報道機関、『ヘルメス情報局』の号外によって、王国の全域に亘って徐々に広まりつつあった。
 クリムゾンウェスト世界の正史に確実に刻まれる大事件。庶民にとっても、御伽噺に、講談に、吟遊詩人の詩の題材となって後世まで語り継がれるであろうその報は、だが、正直なところを言ってしまえば、遠い異国の出来事であり…… 商人たちなどを除いて、王国に住む殆ど大部分の民にとっては日々の暮らしに影響を与えるものではなかった。
 王都イルダーナから王国中北部──巡礼の旅の出発点、トルティア村へと続く道の上── そこを行き交う旅人たちにしてみても、事情はなんら変わることはない……はずだった。

「お嬢様! 見えてきましたよ! あれが『始まりの村』、トルティアですよ!」
 王都より出でて数日──先程まで疲れた、疲れたと荒い息を吐いていた若い侍女が、その村が見えた瞬間、疲れも忘れた様にはしゃぎだした。
 汗まみれの表情を輝かせ、「やっと着きましたね」と背後を振り返る侍女。その変わり身の早さに呆れつつ、お嬢様、と呼ばれた女が釘を刺す。
「まだスタート地点に到着したばかりです。『巡礼』の旅は、トルティアからが本当の始まりですよ?」
 それは分かっていますけど…… と、分かりやすくブーたれて見せる侍女。無理もない。なにせ王都から出て旅をするのは、二人ともこれが初めてだった。不安や緊張はもちろんあるが、それ以上にまだ見ぬ土地を巡るわくわくや高揚感が湧き上がって来るのを、お嬢もまた確かに胸の内に感じている……

 2人は王都の第二街区に住む貴族の娘と侍女だった。侍女はお嬢の教育係でもあった乳母の娘で、幼い時からずっと一緒に育った間柄だ。
 箱入り娘として育てられ、一度も王都から出たことがなかったお嬢は、そんな己の人生に疑問を持ち…… 意を決し、「成人を機に巡礼の旅に出たい」と厳格な父に申し出た。
 『巡礼の旅』を出されては、父も反対のしようがなかった。巡礼は、王国と聖堂教会とが人々に奨励しているもので、王国の民なら一生に一度は必ず巡るとまで言われているものだった。回国型の巡礼で、定められた各地の聖堂を定められた順に巡って回り、最後に王都の聖ヴェレニウス大聖堂へと至る。数年ごとに巡る熱心な信者もいるが、大抵は成人や結婚、子供の誕生など人生の転機にのみ、巡る人が多い。最近では途中で観光地に寄り道したり、等、娯楽としての側面も強くなってきてはいるが、それでも重要な礼拝であることに変わりはない。

 トルティアへと入った2人は予約してある宿へと向かった。
 トルティアは面白い村だった。村民の数は少なく、決して規模も大きくないのだが、全国から巡礼者が集まるとあって宿泊施設や飲食街、おみやげ物屋などが、目抜き通りに並んでいた。盛況ではあるが、人数は(王都に比べれば)そこそこだ。巡礼の出発点とあって、すぐに次の巡礼地に向かう者も多いとか。
 宿に着き、案内された部屋に荷(結局、侍女は身につけられる小さな土産物を買った)を置くと、2人は早速、トルティアの聖堂へと向かった。
 宿から出ると、すぐに自分をガイドに、或いは、護衛に雇わないか、と声を掛けてくる者が多くいた。巡礼の旅は決して危険なものではないが、それでも長く旅を続けていれば、トラブルというものは起こるものだ。
 お嬢はその全てをきっぱりと断った。ガイドに関しては物見遊山で巡礼の旅に出たわけではないし、聖堂や聖地に関しては事前に勉強を済ませてあった。護衛に関しては、旅の途中でどうしても必要になった場合は、出自が確かなハンターズソサエティの覚醒者を雇うと決めている。
 礼拝を済ませると、2人は宿に帰って食事を取った。寝台で横になると、旅の興奮に眠れないのか、侍女が話し掛けてきた。
「それで、明日はどうするのです? 東回りと西回り、どちらから巡るか決めたのですか?」
 侍女の言葉に、お嬢は見慣れぬ天井を見上げたまま思考した。特定の順番で特定の聖堂を回ることが定められた巡礼の旅ではあるが、東から巡るか、西から回るか、それは定められてはいなかった。
 お嬢の脳裏に浮かぶは、リゼリオ沖での狂気の歪虚の大量発生── まさか、王国にまで波及することはないとは思うが……
「西回りにしましょう。巡礼の旅が東に到達する頃には、歪虚の騒動も収まっているでしょうし」
 というか、収まってくれていなければ巡礼の旅どころではないのだが、とは口には出さずに胸にしまう。
 返事はなかった。既に侍女は寝息を立てていた。それを見たお嬢は半眼で笑みを引きつらせると…… 苦笑と共に嘆息し、自らも布団を被った。

 翌日──
 眠気に目を擦る侍女を無理やり引き起こし、2人は早朝にトルティアを発ち、西回りで巡礼の旅に出た。
 女の二人旅。どこかのんびりとした調子で巡礼の旅を往く。まだ出発したばかりとあって、トルティア周辺の巡礼路には同じ道を、同じ聖堂へ向かって歩く巡礼者たちが多く見受けられた。お嬢と侍女と同じく巡礼者の外套姿の者が多かったが、それに捉われない気ままな旅装の者も多い。
 数日後。それぞれの巡礼者のペースもあり、あれだけいた巡礼者たちも日に何組かちらほらと見かけられる程度になってきた。
 2人がいまいるのは王国中部、その北西側。岩と緑の草が広がる土地だった。その中を、巡礼者たちの道がただ真っ直ぐ続いている……
「あっ! あそこに見えるのは何でしょうね、お嬢様?」
 代わり映えのしない風景の中を歩いていても、侍女はとにかく楽しそうだった。その笑顔を見ていると、お嬢もその感情に引っ張られて楽しくなってくる。
 今度も侍女が指差す方向へ視線を振ったお嬢は…… それを視界に認めた瞬間、目を見開き、侍女の頭を抑えて身を伏せた。
 見えたのは、路上に屯する『鼠』── とは言っても、全長が50cm(←翻訳済み)もある巨大なもの。雑魔だ。雑魔化した鼠がこんな王国の内部にまで入り込んでいたのだ。
(なぜ、こんなところにまで──!)
 侍女の口を塞ぎながら、ジリジリと岩陰に身を隠すお嬢。元々、王都西部は海を越えて来る歪虚の多い土地ではあるが、それでもこんな内陸にまで侵入されることは稀だった。
 そう言えば、と思い当たる。リゼリオに歪虚が大量発生したことを受けて、王国からも騎士や戦士団などの戦力が派遣されたと号外には記されていた。或いはそれで王国内の警戒が手薄になってしまったのかもしれない。
「……このまま前の村まで戻り、ハンターたちに駆除を依頼しましょう。雑魔とは言え、歪虚となれば私たちの手に余ります。……一刻も早く駆除しないと、私たちを含め、多くの巡礼者が足止めを喰らいますからね」

リプレイ本文

「体長50cmのネズミ…… いやなデカさだなぁ」
「ネズミが雑魔化したものか。ただのネズミなら猫でも放ってやりたい気分だが……」
 雑魔が発生した巡礼路から、トルティア側に少し戻った小さな村── 足止めされた巡礼者たちが留まる聖堂で、話を聞いた超級まりお(ka0824)とリュトリア(ka0224)は、それぞれの表情で声を唸らせた。……大鼠とて雑魔化すれば侮れないモンスターと化す。軍の兵士が不覚を取ることだってあるのだ。
「コロコロと太った大きな鼠さんだってよ、リゲル! いったいどんな仔なんだろうねー♪」
 そんな中、Capella(ka2390)は一人、大鼠の話にその瞳を輝かせていた。
 主人に名を呼ばれ、姿を現すパンダ柄の肩乗りマウス(♀・短毛)。と、そこで皆の微妙な視線にはたと気づいたCapellaが、やだな、とその手をパタパタ振った。
「確かに僕は鼠好きだけど、敵は歪虚。鼠でも公私混同はしないよ。ん? なんだい、リゲル? んー、そうかそうか。君は今日も可愛いねー!」
 言う側からペットの肩乗り鼠にグッドスマイルで頬ずりするCapella。それを見たアルト・ハーニー(ka0113)は「可愛いのは鼠だけじゃねーぞ!」と埴輪を取り出し、「手乗り埴輪!」とつきつけた。背景に点画を飛ばしながらじっと見詰め合うリゲルと無機物。気づいたCapellaが「見ちゃいけません」と手の平で愛鼠の視界を塞ぐ……
「巡礼路が妨げられているとあっては、聖職者の端くれとして見逃せねーのですよ」
 そんなCapellaたちから離れた場所では、シレークス(ka0752)がお嬢にそう意気込みを語っていた。──聖堂教会には昔、世話になった恩がある。その恩を返す為にも、依頼は必ずやり遂げなければ。
「任せてくだせーよ。鼠どもはわたくしたちが一匹残らず根絶やしにするのです。必ずや巡礼路を解放してみせるのですよ!」
 聖印の乗った豊かな胸をグイと突き出し、意気を見せるシレークス。瞬間、アルトと言い合いをしていたCapellaがぐりんと振り返り。「一匹残らず……?」と真顔でショックを受けてたり。
「……巡礼路と聞くとお遍路なんて思い出します。世界が違ってもやはりそういったものはあるのですねぇ」
 そんな皆の様子を少し離れた場所から見やりながら、水雲 エルザ(ka1831)は呟いた。
 視線の先では、シレークスから意気込みを聞かされたお嬢や巡礼者たちが深々と頭を下げている。ティーア・ズィルバーン(ka0122)は頭を振った。彼等にとって、この巡礼の旅はそれほど重要なものなのだろうか?
「雑魔に限らず、こういった巡礼路ってのは色々と狙われるもんだよな? そうまでして続けたいものなのかね?」
「……巡礼かぁ。エクラ教のことはよく分からないけど…… 巡礼地を色々と巡ると、何か良い事があるのかな?」
 ティーアの言葉に、シアーシャ(ka2507)は考え出した。……例えば、各地の聖堂ごとに、それぞれタイプの違うとってもカッコよくて素敵な聖職者のお兄さんとの出会いが待っているとか! んで、んで、「貴女こそ、私の運命の人だ」(←ボイス再生) とか言って恋に落ちちゃったり!? キャーーー!!!
「それは巡礼せざるを得ないよねっ! 分かる! 分かるよ! だから女の二人旅なんだよね!」
 脳内妄想を炸裂させて、ダッシュでお嬢に詰め寄るシアーシャ。わけも分からず肩を掴まれ困惑するお嬢を他所に、周囲に聖職者の姿を探し…… 聖杖持つ手をぷるぷる震わす老司祭を見て妄想が木っ端みじんこに。
「まぁ、江戸時代のお伊勢参りも庶民の娯楽的な色彩もありましたし……」
 ニコニコと(微妙に)笑いながら、エルザがシアーシャをフォロー(?)する。ティーアは思いっきり眉根を寄せると、やっぱり分からねぇ、と呟いた。
「……ま、俺はそういったのには無縁だからな。けど、それが依頼人の望みなら叶える価値はあるか」


 情報を得たハンターたちは、作戦を立てるとすぐにその準備に入った。
 借り受けてきた荷車に各自が調達した食べ物を載せる。中身は、干し肉、パン、ナッツにチーズ、魚の干物…… それをエルザが試行錯誤し、崩れ易いよう、中身がぶち撒け易い様に木箱や荷袋を積み上げていく。
「雑魔の鼠が群がりそうなエサって言うと、やっぱり肉かなー。もう少し取って来ようか? 囮肉。囮用の肉だから囮肉」
「いや、もう十分だけど…… 何を取ってくるつもりだった?」
「やだなぁ。だから囮肉だってば」
 決して何の肉かは言わないまりお。おい、本当に何を仕込むつもりだった? 亀か? やっぱり亀なのか?

「うわー、雑魔が現れたぞー。逃げろー」
「ひぇぇぇっ、お、お助けやがれですよー!?」
 荷車で餌を運び、路上を進んだ『餌班』の4人──アルト、シレークス、エルザ、シアーシャは、大鼠たちがこちらに気づいた瞬間、荷車の荷をぶち撒けながら後方へと退避した。
 そのまま少し行った所で、シアーシャはお気に入り(?)の迷彩ジャケットをひらひらくるりとさせながら、仲間たちと共に草叢に身を隠し、鼠たちの様子を窺う。
 鼠は餌に興味を示した。雑魔は、生物としては既に死んだ存在ではあるが、食物の多くは正のマテリアルを含んでおり、そう言う意味で摂取をする事はあるらしい。
「んじゃま、一狩り始めますか……」
 餌班が包囲に動き出したのを後方から確認して、別班として周囲を警戒監視していたティーアたちもまた包囲の一翼を担いにかかる。
 続いて動き出すまりおとリュトリア。Capellaは(僕は土……僕は土……)と己に言い聞かせながら、草の間に身を潜め、匍匐姿勢で進んでいく……
「……そろそろ狩り時かね? 俺の埴輪が唸って吠え……たりはしないな、うん。可愛い埴輪は」
 路上の敵を包囲する形で散開を終え、いよいよ攻撃という段になって。アルトは、だが、その直前に、草の間から顔を出した大鼠と至近に顔を見合わせ、絶句する。

 ──大鼠には、どうやら『デブ』と『ガリ』の二種類がいるようだった。
 丸々と太った図体ながら、素早くアグレッシブに動き回るのがデブ鼠──餌に群がったのはこちらのタイプだ。対するガリ鼠はあまり能動的には動かない待ち伏せタイプ。餌に集った路上の鼠を包囲せんと草叢に入ったハンターたちは、このガリ鼠の縄張りに入り込む形となった。
「キシャアァァッ!」
「うわっ!?」
 物凄い形相(劇画)で奇声を発しながら飛びかかって来るガリ鼠の奇襲に、慌てて距離を取るアルト。気づいたシレークスたちが振り返り。路上の鼠もまた戦闘に気づいて顔を上げる。

 草の中に潜んだガリたちは、道の反対側に回り込んだ別班にも襲い掛かっていた。
「なにこの痩せすぎ! 怖い! 鼠なのに可愛くない!」
「冗談でしょ!? また不意の接近戦とか!」
 咄嗟に『防性強化』を己に掛けるCapellaの横で、慌てて長剣を抜き放つリュトリア。今度は前回みたいな事は、と、最小限の動きで素早く突き出される剣先。正確に目標を捉えたリュトリアの一撃は、だが、ギリギリピッタリの値でガリ鼠に回避された。突き出された刀身の腹を蹴り、反撃に転じる敵鼠。リュトリアの胴を狙った体当たりを、革鎧が弾き返す。衝撃を拡散してぷるんと揺れるリュトリアの胸。それはまさに衝突安全ボd(以下略)
 弾かれ、地に落ちたその鼠は反撃の力を脚に込め…… 直後、横合いから踏み込んできたティーアが放った抜刀の一撃により、その胴の半ば以上を刹那に斬り断たれていた。
(これは湿気と…… 湯の香り……?)
 一瞬、遠くの空を見上げて、すぐに我に返るティーア。落ち着いている暇はない。大鼠たちはこちらの襲撃を察知した。路上のデブ鼠たちも既に草叢へと散っている……

「クソッ、こいつ意外と素早いぞ、と……! あ痛っ!? こいつ、防御の薄い俺の腕を……!」
 正面のガリの他、駆けつけて来たデブ鼠に側方からも攻撃を受け、アルトは一旦、後ろに下がって挟撃態勢から逃れた。すかさず距離を詰めて来る2匹。シレークスが戦槌よりボロを解き放ってアルトの元へと走り寄る。
「どうやら、こちら側の草叢により多くの鼠が潜んでいたようですね」
 奇襲により望まぬ接近戦を強いられたエルザもまた、マントの下から無骨な短剣を抜き放ち、眼前の鼠に対応した。……どうやら路上にいたデブ鼠も多くがこちらに流れたようだ。シアーシャもまた複数の鼠に同時に襲い掛かられている。
「あいたたたっ! あたしの腕はチーズじゃないよっ!」
 クリティカルな動きで左腕を噛まれたシアーシャはぶんぶんとそれを振り落とし。さらに別の一匹に狙われた急所をどうにか大剣を立て受け凌ぐ。
 エルザは『闘心昂揚』で己の心を奮い立たせると、さらに『地を駆けるもの』で動物霊の力をその身に宿した。敵の動きを見極め、飛び掛って来たところを斜めに身を落とし。マントをなびかせかわしながら反撃する。ぎゃっ、と地に落ち、飛び起きる大鼠。──ダメージが弱い。だが、今は銃を構えることはできない。反撃の時が巡るまで、エルザはジッと回避中心に機を窺う……

 一方、別班──
 纏わり付く大鼠の攻撃を防性を高めたレザーベストで受け弾きながら、Capellaは構えた魔道銃でまりおに支援射撃を行った。
 マテリアルの力により撃ち放たれた弾丸が、まりおの死角から飛びかかったガリ鼠の1を捉える。ギャンッ、と悲鳴を発して地面を転がるガリ鼠。そこへリボルビングソー──マテリアルを動力とするチェーンソーを構えたまりおがゆるりと振り返り…… なんか物凄い破砕音と共に眼下の鼠を切り刻んで破壊する。
 きっちりばっちり止めを刺した後、「ふぅ」と息を吐くまりお。その表情は味方からは見えないが、眼前の鼠たちはそののこぎりまりおの破壊力に、リスクに合わぬと逃げ出し始める。
 一方、ティーアはリュトリアの支援射撃を受けながら、目の前の鼠を1体ずつ確実に潰しにかかった。敵の攻撃を誘引しつつ、『マルチステップ』で側面へ回避。眼前を通り過ぎる鼠の前肢か後肢を刃で切り裂き、止めを刺す。複数に襲い掛かられても、同様に1匹ずつ仕留めていった。負傷は腕と胴に1回ずつ。残った最後の1匹は抗戦を諦め逃げていく。
「みんな、何匹倒したのかな? 餌に釣られたのは8匹だったけど……」
「わからないよ。草叢にも何匹か潜んでいたみたいだし……」
 逃げ散った鼠に追撃の銃撃を浴びせた後、別班の皆と合流するCapella。出来れば逃がさずなるべく多くの鼠を討ち取りたいところだったが、草が深くてままならない。
 真っ赤な服と帽子でそれを出迎えるまりお。その色が一段と深く、昏くなった気がするのは気のせいか。

 側面の草叢から飛びかかってきたガリを戦槌でもって殴り飛ばす間に、アルトは1匹のデブ鼠に足元へと入り込まれた。
 直後、ゴム鞠の如く直上へと跳ね上がる丸い鼠。その一撃は文字通りアルトの『急所』を『クリティカル』で直撃した。「ぐはあっ……!?」と息を吐き、地に倒れ込むアルト。一撃を受けた瞬間、革鎧の下でガシャリ、と嫌な音がした。
「埴輪がっ!? 俺の埴輪がまた粉々にっ!?」
「あー、もうこの埴輪男は!」
 自身の傷より割れた埴輪を気にかけるアルトの元へ、途上の鼠を蹴散らしながらシレークスが走り込む。アルトに追撃しようとしていた鼠たちは、背後へ回り込まれたことでその追撃を躊躇した。
「挟撃です! タマがあるなら立ち上がりやがるですよっ!」
「タマ、まだあるかな…… いや、たとえなくとも埴輪の仇は取らねばならぬ……!」
 雄叫びと共に立ち上がり、踏み込みながらの強打でもって挟撃した鼠を打ち払うアルト。シレークスもまた「ツマミの仇!」と叫びながら害獣たちを駆逐していく。
 シアーシャは構えた大剣の柄を手の中でクルリと回すと、刃でなくその腹でもって鼠に殴りかかっていった。
「大きければ、敵にぶつかる範囲も広くなるよね!」
 威力を捨て、当てることを最優先に大剣をぶん回すシアーシャ。跳んだ鼠を大剣の腹でゴッ! と薙ぎ払い。へろっ、と落ちた所を更に降り下ろした腹で叩き潰す。
 峰打ちよ! と叫ぶ側から聞こえて来るのは、バキィッ! とかベキャチャッ! とか言う破壊音。剣戟が通り過ぎる度に周囲の草々が剣圧の風にそよぎ、刀身から跳んだ雑魔の体液がパパッと草に色に染める……

 やがて、別班のハンターたちが来援すると、鼠たちは一斉に戦場から散り始めた。
 ティーアは脚を止める事なく加速し、逃げる鼠の背に刀の一撃を叩き込む。
「鼠風情が。『銀獣』から逃げられると思ってんじゃねぇよ!」
 倒れ伏すガリに吐き捨て、更に別の敵を探すティーア。リュトリアとCapellaも脚を止め、揺れる草を目標に追撃の矢玉を放つ。
 エルザもまた即座に武装を魔道銃へと替えると、視力の高い動物霊をその身に宿しつつ、その場で立射姿勢を取った。発砲。……外れ。狙いがタイト過ぎた。ツツ、と銃口を横へ動かし、偏差射撃。前肢に命中弾を受けた鼠がもんどりうって地に転がる……


 Capella、リュトリア、エルザのつるべ撃ちを最後に、鼠たちは現場から追い払われた。
 ティーアはすぐに周囲を回り、草原の中に狩り残しがないかを調べにかかる。
 討ち取った大鼠の総数は10匹以上…… Capellaの足元に、息絶えた鼠たちが死屍累々と横たわっている。だが、いったいどれだけの数を取り逃がしたのか、再びここに戻ってくるのか、今後の不安要素ではある。
「ガリガリに痩せてた鼠たちって、弱くて食べ物にありつけなかったのかな?」
 立ち尽くすCapellaに向かって呟くシアーシャ。もし、歪虚が食べ物を与えることで人を襲わないで済むのなら、共存することも出来ただろうけれど。歪虚と化してしまった以上、二度と人とは交われない。
「リゲル。僕は決めたよ」
 Capellaが言った。君と同じ鼠たちをこんなふうにした歪虚を、僕は絶対に許さない──

 村に帰還して大鼠を駆逐したことを伝えると、それまで足止めされていた巡礼者たちが一斉に動き出した。
「これで安心して巡礼を続けて欲しいのですよ」
 礼を言うお嬢に告げるシレークス。その横でまた埴輪が割られたことに落ち込むアルトに、「どーせ私に割られていたんだから」と妙な慰め方をする。
「さて、お嬢さん。一応最初の難関は突破だな。また、困ったら連絡しな。格安で請け負うぜ」
 ティーアは最後にお嬢たちにそう告げると、道中の幸運を祈りながら、これからも頑張るよう励ましの声を掛けた。
「あ、そう言えば、貴女たちのお名前は?」
 これも何かの縁だし、と、尋ねてくるシレークスに、お嬢と侍女は振り返って自身の名を恩人たちに告げた。

依頼結果

依頼成功度普通
面白かった! 15
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • アックスブレード「ツヴァイシュトースツァーン」マイスター
    ティーア・ズィルバーン(ka0122
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士

  • リュトリア(ka0224
    エルフ|20才|女性|闘狩人
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人

  •  (ka0824
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士

  • 水雲 エルザ(ka1831
    人間(蒼)|18才|女性|霊闘士
  • マウス、激ラブ!
    Capella(ka2390
    人間(紅)|15才|女性|機導師
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼相談卓
Capella(ka2390
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/08/23 13:25:18
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/08/19 12:38:45