Strong Arm West

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/08/21 22:00
完成日
2014/08/29 18:49

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 ある男について述べる前に、ハルトフォートについて、字数を割こう。
 王国西部に在る砦である。王国で、もっとも重要な土地の一つだ。ただし、“砦"というには些か規模が大きい。
 住民が居る。そこには数多くの仕事があった。西部は疎開が進んでいる。その過程でハルトフォートに居つく人間は少なくない。
 職人が居る。『数多くの仕事』とは、砦内にある大規模な工廠での仕事が殆どであった。次いで、建築に関わるものも多い。
 騎士や、聖堂戦士団の団員が居る。要衝である此処は、砦の守護に限らず西部にある哨戒場や各都市に騎士や従騎士を送る役割を担っていた。
 そして、商人が居る。王国内では比較的大規模な兵器開発、生産が行われているこの施設では、数多くの商機が転がっている。
 それらを包むように、堅固な城壁があるそこは――要塞都市、とも言うべき砦であった。



 少し、遡る。ヘクス・シャルシェレット(kz0015)がとある用事でハルトフォートに立ち寄った時の事だ。
「やあ、ラーズスヴァン。相変わらず汚らしいね。ちゃんと風呂には入ってるのかい?」
「あァ!? 風呂に入るくらいなら工廠で汗を流すに決まっとるだろう!」
 言いつつ、腰を折るようにして片手を差し出したヘクス。彼と相対する人物――ラーズスヴァンは、ドワーフである。赤銅色の髪と、同じ色の豊かな髭。太い笑みを返すその顔つきには、太陽の恵み多いこの地によく馴染んでいた。力強く、握手を交わす。
「どうやら、色々苦労しているようだね?」
「まァ、現場はな。斃れたり、倒れんでも使え物にならなくなったりと……その点ではワシらより戦士団の面々の方が大変そうだの。傷病者は絶えぬ上に、戦士団自体の数も減っておる……フォーリの一件も大きい」
「……そうだね」
 聖堂戦士団のフォーリ・イノサンティが家族を喪い、彼自身も重傷を負った事は少なくない波紋を生んでいた。経験豊富な彼は良き教師であったからだ。ヘクスは意図して、話題を変えた。
「工廠の方は、どうだい」
「そっちも順調だの。欲を言えば職人がもっと欲しいところだが」
「――おや、昔は戦場に出れないって腐っていたけど、随分真剣になったんだね」
「もう十分発酵してしもうたからなァ!」
 言って、ガハハと大笑するドワーフに、ヘクスは苦笑した。
 ラーズスヴァンの戦好きは有名だったが、もう一点、知る人ぞ知る事実がある。
 ――この男は、当代には珍しい、独自の修練で覚醒に至った変わり種だ。
 故を問われれば凝り性なんだよ、と彼は笑う。そういう生き方、なのだろう。
「……気づいてないかもしれないけれど、君、ほんとに臭いからそのジョーク笑えないよ」
「なァに、誰も気にしとらんわィ」
「いや僕が……まあ、いいけど」
「まァ、なんだ。銃も、砲も兵器として実に面白い。リアルブルーの知識も、な。この先戦争は避けられんのは誰も彼も分かっておるから、物も金もそこそこに回ってくる。ワシはそれで兵器を作って悦に浸れるし、数が揃えられるとなれば、出来る事も多くなる」
「……なるほど砦を弄っているのも、その為か」
「おお。気づいたか。うむ。銃や砲を中心に据えると前の形では不便だからの。それに何より、職人が育つ」
「やっぱり、少し変わったね」
「前線に出たいがの、仕事が山積みでな……くそったれィ」
 そうやって毒づいたドワーフは、ドワーフの身でありながらも、保守的な『この王国』でその才を見出されて、騎士に抜擢された男である。それどころか、ハルトフォートの実質的なトップに立っている。

 ぽつ、と、ヘクスは思ったのだった。
 優れた戦士なら、数百の歪虚を切り捨てる事もできる。
 ――しかし、この男は。この砦は、数万の歪虚を殺し得るのではないか、と。

 尤も、これまでの王国の常識を塗り替える程の金が軍備に消えてはいるのだが。
「ところで、さ」
「おう」
「手。そろそろ離してくれない、かな」
「断る。フォーリ家の件で陳情があったからな……まァ、断ったから苦情か。このアホタレ。この砦に来た記念に匂いの一つや二つ持っていけィ」
「……君とは商売の話をしに来たんだけど、なあ」

 嘆息が、響いたのであった。



「――しかし、銃、か」
 アム・シェリタに戻ったへクスは執務室でぽつと呟いていた。
 彼は放浪癖が極まっていた頃、ハンターズソサイエティに属しハンターとして活動をしていた。
 その頃から彼は一貫して弓を愛用していたのであった。理由はいくつかあるが、その静音性が大きい。それが、彼の性分に合っていたのだった。
 とはいえ、今は事情がやや異なっている。
 歪虚の動きが活発化してきているのも、ある。へクス自身も戦闘に立ち会う機会も増えてきた。

 だが、最たる理由は――サルヴァトーレ・ロッソに連なる、転移者の存在だ。

 彼らはマテリアル無しに文明を高めてきた、という。これまでの転移者との歴史の中でもそれは裏付けられている。
 へクス自身はその全てが真実だとは思っていないが、その在り方は些か奇異に見えた。
 覚醒者になる前の、かつての世界での彼らを考える。
 彼らの軍備は凄まじいの一言に尽きる、が。その軍備を運用するのは――。
「ただの人、なんだよねぇ」
 そこが要所だ。覚醒者ですらなく、騎士団でも、聖堂戦士団でもなく、ただの人が兵器の担い手として大成し得る。
 そしてその運用で、成果を得る。
「興味深い、ね……ラーズスヴァンがハマり込むのも解らないでもない」
 そうして、銃か、ともう一度呟き、
 ――弦を引くのも、疲れるしなあ……。
「一度、意見を聞いてみるのも悪く無さそうだね」
 そんな本音は脇において、そう結んだ。



 後日、ハンターズソサイエティのオフィスにこのような依頼が掲示された。

 ある人物に対して銃について教えて欲しい、という依頼である。
 注意書きの所には――【リアルブルー人限定】、と書いてあり、それを見た幾ばくかの人間が溜息を付いて離れていった。その下に極めて小さく書かれていた【※自称リアルブルー人も可】なる注意書きに気付くことなく。
 転移者が一気に増えたとは言え、その数は限られている。ハンターの多くがクリムゾンウェストの生まれの人間だ。
 集合先はアム・シェリタ、となれば、王国の貴族か何かと知れ、「余った金で好きな事をしてる嫌味な奴だろう」、という声まで上がっていた。


 いやはや。
 正鵠を射る、とはこの事を差すのだろうが――残念ながら、クリムゾンウェスト人である彼らには解りようもないの事であった。

リプレイ本文


 洋館の中を女給に案内され進むハンター達。ロスヴィータ・ヴェルナー(ka2149)はかつてと違う道のりに興味深げだ。廊下を流れる柔らかな風が、少女の金髪を撫でる。
 ――やっぱ王国は都会だねぇ。
 陽炎(ka0142)はほふ、と息を吐く。所在こそリゼリオにあるが、内部は王国らしい格調高い調度品ばかりだ。辺境から流れてきた若き族長には、胸が踊る光景なのだろう。
「なかなかどうして、見目麗しい女が多いじゃん」
 ユハニ・ラハティ(ka1005)。人生も折り返し地点に入って久しかろうが、意気は高い。春日 啓一(ka1621)はそんなユハニの様子に呆れ果てるように目を細めている。彼がそうするとガンを飛ばしているように見えないでもない。

 案内されるままに、一同がたどり着いた一室。厚い革のソファに座る男がハンター達を迎えた。
「どうも、お世話になってるッス!」
「やあやあ」
 テリー・ヴェランダル(ka0911)は迎えたヘクスの姿を見て、快活に笑った。馴染みの顔、だったからだ。
「クラーク・バレンスタイン(ka0111)です。CAMのパイロットでしたが、元々は歩兵でした」
 灰色の長髪を無造作に紐で結んだ男はそう挨拶をしてから、促された一人用のソファに着座。
 ハンター達が座るのを待ってヘクスは口を開いた。
「さて、皆、この依頼がどういうものか解ってると思うけど」

 そんな言葉で、此度の依頼は始まった。



「どんな銃が良いか、となると、どういう状況を想定しているかによりますね」
 まず、クラークが言う。
「基本的には遠間かな。近づく事は考えてないよ」
「護身、ですか?」
「や。戦闘用」
「ならば、ライフルの類が良いかと」
 クラークが言うと、我が意を得たりといった調子で声をあげる者が居た。
「自分としてはVSSやAS Valがお薦めッス!!」
 テリーである。
「ぶい……なんだって?」
「VSSとAS Valッス!」
「……ライフルの類?」
「ッス! 静音性、威力、軽量さ共に優秀な銃っスよ。有効射程も」
「お?」
 以下、ヘクスにはこんな感じに聞こえた。

「――単純設計のAK系――不慣れでも整備が楽――、
 低速――落下――弓使いなら掴み易い筈っス!」

「AKKは整備が楽で弓使いならいい感じなんだね?」
「そうッス! 入手難しそうッスけど、ヘクスさんなら何とかできるかも!」
「……よく解った。今度また、メモでもくれると……凄く嬉しいな」
「任せておくッス。自分も頑張るッスから! 入手待ってるッス!」
 頬を赤らめながら言う乙女に、曖昧に微笑むヘクス。
「……銃は、難しいな」
 似た顔で、陽炎も頷く。
 ――それだけ熱中させるもの、なんだろうか。
 思った、その時だ。

「なあ、お主はどんな女が好みなんだ?」
 ユハニが、そう聞いていた。
「銃てなぁ、音がでかくて扱いも面倒で火薬臭ぇ……手のかかる女みてぇな物さ」
「火薬臭いか?」
「爆弾みてェなモンだからな」
 啓一が怪訝そうに言うが、ユハニはやたらと実感が篭った声で返す。
 ――銃じゃないのか?
 啓一の疑問を他所に、続ける。
「だが、どんなにヘコんじまった時でもどデカい音でぶっ放しちまえばスカッと心に青空が広がるってな!」
 反応は様々だった。テリーはウンウンと力強く頷いている、が。
「お主の心のままに選ぶが良い、手がかかるじゃじゃ馬でも深窓のご令嬢でも、手をかけておぬしの色に染めちまえば良いじゃん!」
「手間暇掛けるのは大事ッスね!」
 ユハニへの前のめりの返事を見る限り――きっと解ってはいまい。
「……結局、女の人の話、関係あるんです?」
「解らない……」
 小首を傾げるロスヴィータと陽炎に。

 ぽつ、と。ヘクスはクラークに耳打ちした。
「下ネタかな」
「……かもしれませんね」
「良かった。僕だけかと思ってちょっとだけ心配になった」
「いえ」
 クラークは小さく苦笑したあとで。 
「ですが、実際の所、手入れを怠ると危ないですからね」
 言う。何故か苦労人の風情が漂う一言であった。



「実際、狙撃銃はいいと思います」
 改めてそう切り出したのは、ロスヴィータであった。
「聞きかじり程度、ですけど……狙撃は狙撃後のサポートや注意は勿論必要ですが、備えていれば安全性もありそう、です」
「へえ……?」
 まじまじとロスヴィータを眺め、ヘクス。正直、意外だった。
「位置を知られている迎撃戦などでは心強い火力になりそう、です」
「習熟はいりますがね」
 ロスヴィータの言葉に、クラークが意見を添えた。
「ですが、射程は武器になる」
「おかげで一般兵でも戦争が容易なのは長所ッスね!」
 頷くテリー。
「安全な遠距離から大勢で、強力な7.62mm弾でもバラ撒けばいいんス。自分と大男が殴り合えば九割方自分が死にますが、互いに銃で打ち合うなら凡そ五分。それが銃のポイントッスね」
「ん〜……」「そうなのかな?」
「そうッス」
 こういう時、ヘクスと陽炎は似た様は反応を返すようだ。CWに住まう者とそうでない者の感覚の差なのかもしれない。
 その時だ。
「一度、実際に撃ってみてはどうだ?」
 啓一が、そう言った。



 それはいい、とヘクスが案内したのは揺籃館内にある練武場であった。石造りの広い室内。入り口から離れた位置に、人型の的が用意されている。
「その銃かい?」
「ああ」
 啓一の手元を見ながらのヘクスの言葉に、頷きを返す。視線を辿るように俯いた啓一は、手元の銃を見つめ。
 ――亡くなった叔父に教えてもらったくらいだが。まあ、なんとかなるだろう。
 故人の影を呑み込んで、続ける。
「銃の撃ち方は知ってるか?」
「そのくらいは、ね」
 啓一の問いに、したり顔で頷くヘクス。
 ヘクスが何気なく了解した言葉に目を剥く陽炎。
 ――知らないの俺だけ?
「……」
 冷や汗を流す陽炎に気づいたか。啓一は小さく息を吐いた。
「基本的に、銃は弾を飛ばすものだ。弾丸を飛ばす仕組みは銃によってやや異なるが」
「ふむふむ……」
「この銃では撃鉄を引き起こすと、バネを圧縮させながら固定される。するとそれに合わせて弾倉が廻り、撃鉄の固定に合わせて弾倉が固定され――これで発射準備は完了だ」
「おお」
 目を剥く陽炎の反応は素直なもの。教える側としても気分は悪くはなかった。
「引き金を引く。すると撃鉄が動いて――弾薬を叩き、火薬が発火、爆発して弾が出る」
 そこまで言い切ったあとで、啓一は陽炎を見つめた。
「……撃ってみるか?」
「撃ちたい!!」
 陽炎が前のめりになる姿に尻尾を振る子犬を想起して、啓一は口の端で小さく笑った。


 ――五分後。


「……何でかなぁ」
 ただの一つも的に当たらずに、首を傾げる陽炎の姿があった。衝撃を押さえ込めなかった手を、不満気に見つめている。手を握ったり、開いたりしながら、いう。
「普段から槍は振ってるし手首の筋肉は付いてるはずなんだけど。やっぱり機械慣れしてないからかな……でも、弓よりも硬い敵を射抜くのに便利そうだし……」
「王国の騎士には、弓を撃つ『俺』が強いから銃など要らん! って豪語する人もいるみたいだけどね」
 真剣に悩む陽炎にヘクスは相槌を打つ。どこか、からかうような色が含まれていた。
「やっぱり筋肉かあ」
「……銃は筋肉で撃つものじゃないぞ」
 違う悟りに至りそうなのを見て取って、啓一は陽炎からリボルバーを受け取ると、構える。
 かつて教えられた通りに、両腕を確りと伸ばすアイソセレススタンス。
 静止画の如き構図の美しさ。そのまま、数発、射撃。
「これが叔父に教えてもらった基本の撃ち方だ」
「おお……当たってる」
 陽炎の感嘆を彩るように、拍手が鳴った。ヘクスである。
「いやあ、見事見事」
「……あんたの性格考えると堅実なのは嫌いかもしれないが。変な撃ち方をするよりかはよほどにいいだろうな」
「うん……いい実例が見れたよね」
「……ごめん」
 カラカラと笑いながら、ユハニが継ぐ。
「まあ、ご覧のとおり銃は残念ながら万能じゃねー。デカい音で小さな穴を開けるだけだ」
 両手を銃に見立てながら、BANG、と。先ほどの的を示す。
「だが、使い方次第だ。銃口を向けちまえば、その相手の命はおぬしの掌の上にあるってことじゃねーか。脅しに使うなら弾すらいらねーぜ?」
「脅しに使うなら剣でも弓矢でも出来そうじゃない?」
「……銃の方がファンキーで格好いいぜ?」
「ファンキー……」
 銃の浪漫を伝えるには、残念ながらヘクスに素養が足りなかったようだった。

 ――だが。
 ユハニが気落ちしたのは、ほんの僅かな間だけだった。

「こーなりゃ儂が面白い遊びを教えてやろう!」
「遊び?」
「まァ見てろ……まず、リボルバーに弾を一つだけ入れる」
「ほうほう」
 CWの住民は興味を引かれたようだった。対照的に、RBの面々は何かに思い至ったのか、その反応を楽しんでいる。弾倉を回転させる。と、しるしると爽やかな音が奏でられた。
 瞬後。
 軽い音が、室内に木霊した。
「「「……」」」
 まさか一発で出るとは、という転移人達の視線に、ユハニまで言葉をつぐんでいる。
「ま、まあ、実際に弾が出ちまえば負けってことさ……」
「賭けみたいなもんかー」
「おぅ。間違っても頭に向けてするなよ? スリルが過ぎて病みつきになるらしーぜ」
「え?」
「……タチの悪い遊びだ。銃は玩具じゃない」
 真に受けた陽炎に、啓一が何度目かの溜息を吐く。
「……あんたらに一つ覚えておいて欲しい。銃は弓よりも命を容易く奪う。それだけ危険なものだ」
 ――玩具じゃない。
 抜き身の刃のような視線で二人を射抜き、繰り返し、言う。
「個人的にはあんたに銃を使って欲しくはない。必要となって使う日が来てしまうその日まではな」
「なるほどね……肝に銘じておくよ」
 ヘクスはそう応じた。苦笑が交じるのは――少年の真摯な口調に、眩みを覚えたからだ。
 話の流れに興味を覚えたか。クラークが口を挟む。
「……ヘクスさんは軍に銃を配備するおつもりは?」
「騎士団や戦士団かい? どうだろうね。彼処には今ひとつ馴染まなそうだ。それに……少し、考えてしまうね」
 それは、つい先ほどの啓一の言葉故に、だろう。銃には魔力がある。それはテリーのような過度の情熱に限らない。
 だから。
「……お使いになるとすれば、適性を確認してからがいいと思います」
 少女の言葉は、ヘクスにとって。
「適性?」
 ――とても、興味深かった。
「えっと、トリガーハッピー……はご存知でしょうか?」
「いや」
「銃を撃つ、乱射することで高揚感を得るパターン。不慣れな銃声や衝撃から感覚麻痺、恐慌に陥ったり、判断力が低下。そこから指揮や連携から外れてしまうパターン。能動的にトリガーを止められず、反射的に引いてしまうパターン……などのこと、です」
 指折り数えて言い終えると、初めてヘクスの真剣な視線に気づいた。まっすぐな視線に、苦笑を零しながら小首を傾げる。
「私も、戦う術にはまだ慣れる段で……苦戦しているんです」
「……君は」
 くすくすと、堪えきれない笑みをこぼして、ヘクスはそう言った。
「真面目だねぇ」
「えっ?」
 少女は僅かに目を見開いて――そうして。
 ヘクスと同じように、笑った。
「……あの、それを言ったら、王国の皆さんもそうだと思いますよ?」
「どこがだい?」
「王国の方々は優しくて頑張り屋の方が多いようですから。――ヘクスさんも、皆さんも、お体を大切になさってくださいね」
「うん……? まあ、うん。ありがとう」
 戸惑い顔のヘクスに、少女はやはり、小さく笑っていた。
 コホン、と小さく咳払いの音が響く。
「先程の、配備の話しですが、ね」
 クラークだ。ヘクスは、やや慌てている。
「あ、ゴメンゴメン!」
「いえ――私は、軍で銃を使うのであれば、艦に乗っている軍人か、元軍人のハンターを雇って教官させた方がいいですよ」
「艦……あの船、か」
「ええ。うちのキャンプでも、もっと教えられますよ。元軍人が多いですから」
「ふーむ……なるほど、顧問、か」
 ――ん。
 つと、ヘクスの中で閃く物があった。
「クラークくん」
「は、はい?」
 突然ぽむ、と肩を叩かれてクラークは戸惑ったようだった。
「貴重な話をありがとう。うん。今回は依頼に出してよかった――」
「あ、ええ……喜んでいただけたのなら、何よりです」
 感慨深げなヘクスに、生真面目に応えるクラーク。そのままヘクスはするすると移動すると、馴れ馴れしくテリーの肩を叩く。
「テリーくん」
「え、は、はい?」
「また今度、詳しく話を聞かせてくれるかな。正直、まだ解らない事ばかりでね」
「……!!」
 途端、ギラギラと輝きはじめるテリーの双眸。
「ちょーっと長くなっちゃうかも知れないっスけど! 基本的な銃の理論、構造、歴史や実際の射撃と調整に関する知識は粗方お教えできるっス!」
 その身に流れるガンスミスの血がそうさせるのか。乙女としてちょっとどうかと思わせる勢いであった。先ほどは置いてけぼりを喰らったヘクスだったが、今や上機嫌に頷きを返している。

 そうして。じきに、ヘクスは解散を宣言した。実ににこやかな宣言であった。



 頃合いを、待っている者がいた。皆が帰るまで時間を潰した後に、ようやく口を開く。
 陽炎だ。
「教えたいっていうか、一緒に考えて欲しいことなんだけど、いいかな?」
「お、恋の悩みかい?」
 上機嫌なヘクスは、特に気にとめるでもなく応じた。
「ちがっ! 僕はその……詳しくは言えないんだけど、とあるグループのリーダーになったばっかりで」
 悩みを晒すようで、少しだけ抵抗を覚えないでもなかった。でも、聞こうと、決めていたから。
「君も僕も、仲間の為に容易に倒れちゃいけない立場で、けど戦場に立つ仲間から目を逸らすわけにもいかなくて……で、どう戦えばいいかな、って」
 聞いた。
「う――――――ん」
 が。
 反応は、凄まじく鈍かった。
「……」
「僕はね、自分が出来ないことはさっさと頼んじゃうクチなのさ。『君』は……そうは行かないのかもだけど」
「え?」
 まるで、自身の事を知っていたかのような口調に、戸惑いを覚えた。
「背負いすぎるのは周りを不幸にするだけだよ。適度に任せて、肩の力を抜いた方がいい――と、先輩からのアドバイスさ。青年!」
「あ……」
 冗談めかして言うヘクスは、手を振りながら何処かへと去っていった。殴りかかる――というと語弊があるが。ひとつ組み手でもしてお茶を濁そうと思っていたのに、機を逸されてしまって。
「しまった……美味しい王国料理……」
 言葉が、足元へと落ちる。
 にぎにぎと、確かめるように握る拳は、果たしてどういう意図だったのかは解らない、が。
 あわよくばと狙っていた食べ物の恨みが揺籃館に根深く沁み込んだ――かもしれぬ珍妙な依頼は、こうして幕を下ろした。
 続く話は――またいつか、描かれる事となるだろう。

依頼結果

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    ロスヴィータ・ヴェルナーka2149

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参加者一覧

  • Adviser
    クラーク・バレンスタイン(ka0111
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士

  • 陽炎(ka0142
    人間(紅)|25才|男性|霊闘士
  • Gun-ner
    テリー・ヴェランダル(ka0911
    人間(蒼)|17才|女性|猟撃士
  • Funky Guy
    ユハニ・ラハティ(ka1005
    人間(蒼)|65才|男性|猟撃士
  • 破れず破り
    春日 啓一(ka1621
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • システィーナのお友達
    ロスヴィータ・ヴェルナー(ka2149
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士

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クラーク・バレンスタイン(ka0111
人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2014/08/16 23:47:01
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/08/21 14:19:21