ひな人形になってパーティーを盛り上げよう

マスター:星群彩佳

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
8日
締切
2016/03/09 19:00
完成日
2016/03/23 00:16

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ウィクトーリア家では、リアルブルーからの転移者に職を紹介することがある。
 神無月(かんなづき)紗綾(さあや)はウィクトーリア家でメイドとして働くことを選んだ、リアルブルーからの転移者の一人であった。
 ウィクトーリア家で『サーヤ』の愛称で呼ばれ、二十歳になった今ではすっかりクリムゾンウェストの生活に慣れている。
 そんな彼女は今、ウィクトーリア家の廊下に立ち止まり、憂いの表情を浮かべながら窓の外を見ていた。
「はあ……。もう三月、ですか……」
「サーヤ、どうしたの? 何だか重いと言うか、暗いわね」
 サーヤの独り言を、たまたま廊下を歩いている途中で聞いたルサリィ・ウィクトーリア(kz0133)は声をかける。
「あっ、ルサリィお嬢様! これは失礼しました!」
 ルサリィの後ろを歩いていたフェイト・アルテミス(kz0134)は、頭を深々と下げたサーヤを見て首を傾げた。
「先程から窓の外を見ていたようですが、何かあるのですか?」
「それほど重要なことではないのですが……。中庭で咲いている梅の花を見て、故郷を思い出しておりました」
 メイドとしてはフェイトの方が上の立場であり先輩なので、年齢が上のサーヤは敬語を使う。
「ああ、そう言えばこの梅の花はサーヤが生まれた国の花だったわね。以前、お父様がリアルブルーの方から種を貰って、ウチで育てているのよ」
 ルサリィは窓へ近付き、中庭で見事に咲いている梅の花を見る。
「綺麗な花だし、いろいろと使えて便利な植物なのよね。何か思い出でもあるの?」
「はあ……。 ルサリィお嬢様とフェイト先輩は『雛祭り』という行事をご存知ですか? 簡単に言いますと、桃の節句である3月3日に行われる、女の子が主役のお祭りのようなものです」
 ルサリィとフェイトは顔を見合わせて、思い出すように眉間にシワを寄せた。
「まあ何となくは知っているわ。グラズヘイム王国ではあまり有名ではないけれど、リアルブルーの方達からお話しは聞いているからね」
「冒険都市リゼリオでは、本物のひな人形がいくつかあるようです。転移した人形職人が作ったとか、リアルブルーから持ち込んだとか、いろいろ言われておりますが……」
「ええ、そうなんです。クリムゾンウェストでも雛祭りをしようと思えば、リゼリオまで行けば何とかなるんですが……。できればグラズヘイム王国の方達にも、広く知ってほしいと思いまして」
 ルサリィは腕を組み、う~む……と唸る。
「サーヤはこのグラズヘイム王国で、雛祭りパーティーをしたいと思っているのね。まあひな人形はリゼリオまで行って、借りてこればいいけど……」
「あとお料理の方は、ちらし寿司、菱餅、ひなあられ、ハマグリの吸い物、白酒ですね。リアルブルーからの転移者の中には料理人も多数いるようですし、材料もそろえられますので、こちらも何とかなります」
 グラズヘイム王国ではさほど有名な行事ではないとはいえ、雛祭りを行えないことはない。
 寄せ集めのようになるが、何とかパーティーを行える形にはできるのだ。
「それじゃあ女の子達の為に、雛祭りパーティーをやりましょうか。フェイト、イベント屋敷会場、3月3日空いているかしら?」
「ええ。使用することは可能です」
「それなら女の子達を集めて、無料でイベントを行うわね。サーヤ」
「あっ、ありがとうございます……」
 ヤル気のルサリィとは反対に、何故だかサーヤは相変わらず暗い表情のまま。
「サーヤ、お嬢様の提案に何か不満でも?」
「とっとんでもございません! フェイト先輩! お気持ちはとても嬉しいのですが……。ただ、ひな人形を見ながらパーティーをするだけでは、あまり印象というか記憶に残らない気がしまして……」
「うっ! それを言われると、ちょっと……ね」
 ルサリィは胸元を手で押さえて、よろけた。
 貴族はパーティーを好む上に、ウィクトーリア家では一般市民向けのイベントパーティーを何回も行っている。
 その為サーヤが言った通り、ひな人形を見ながら料理を食べるだけでは、内容が薄いと言えてしまう。
「それでなのですが……ワガママを承知で言わせてもらいますが、パーティーのスタッフにひな人形の姿になってもらうのはどうでしょう?」
 サーヤはすがるような眼差しを、ルサリィへ向ける。
「ひな人形の姿……と言うと、あの和服姿になるってこと?」
「ええ。ひな人形の格好を、生きた人間がすればとてもインパクトがあります。特に子供達が大喜びしてくれると思いますが、……どうですか?」
「衣装自体は何とかなりますが、着る人が問題ですね」
 フェイトはウィクトーリア家の使用人達を思い浮かべて、ひな人形のような恰好をするのは少々難しい気がしているのだ。
 使用人のほとんどがクリムゾンウェスト出身の為に、着ても違和感があるだろうし、動きにくいだろう。それではパーティーのスタッフとして、客の前には出せない。
「それなら、フェイト。ハンター達はどうかしら? 和服を着ているハンター達を、何度か見かけたことがあるわ」
「確かにハンターはリアルブルーからの転移者が多いですので、和服を着慣れている方もいらっしゃるでしょう。それに持ち前の身体能力で、和服を着ても動きに問題は無いでしょうが……」
「それじゃあ決まりね! 今回のハンター達への依頼内容は『生きたひな人形』になること! うふふっ、雛祭りパーティーが楽しみだわ♪」

リプレイ本文

○雛祭りパーティー前

 ひな人形の姿になったハンター達は、イベント会場屋敷の大ホールに集まる。
 いち早く着替え終えた閏(ka5673)は、着慣れない男雛の衣装を不安げに触っていた。
「望まれてお内裏様の衣装を着ましたが、やはり少々動き辛いですね。あの子は大丈夫でしょうか?」
 閏が姿が見えないツレを心配して、ため息を吐いた時だ。
「アイヤ! お雛様の衣装、重いアルよ! でも頑張って、着てみたアル!」
 大ホールへ駆け込んで来たのは、女雛の衣装に身を包んだ紅 石蒜(ka5732)。
 石蒜は赤と白を基調とした十二単を選び、着物に施された金色の花の刺繍が眼にも鮮やかで美しい。
「おっ、閏は先に着替え終えたアルか。うむうむ、流石我が選んだお内裏様の衣装、良く似合っているアル」
 閏の衣装は石蒜が選んだもので、黒の束帯には女雛と同じ金色の花模様があった。
 しかし閏は石蒜の女雛姿を見ると、ツー……っと涙を流す。
「どっどうしたアルか! 閏、お内裏様の衣装がキツイアルか?」
「シーちゃん……、とてもお綺麗です。こんなに立派に成長なさったんですね……」
 袖から白いハンカチを取り出すと、閏はソッと涙を拭く。
「……何だか結婚式前の父みたいアルよ。でも今日は雛祭りパーティーにやって来る女の子達を、ちゃんと接客するアルよ! お仕事アル!」
「ええ、分かっています。シーちゃんと同年代の女の子達が招かれているようですし、ちゃんと仲良くするんですよ?」
「もちろんアル! でもこういう雛祭りははじめてアルよ。我の故郷でも桃の節句は行っていたアルが、水辺で宴をしていたアル。けれどこういう宴も楽しいアルし、我は大得意の舞を披露するアル!」
 石蒜が手に持っている金色の扇を開き、その場でクルクルと回り出すのを見て、慌てて閏は止める。
「シーちゃん、いけません! まだお客様はいませんし、衣装が汚れることはしてはいけませんよ。今回は貸し衣装なんですから」
「おっと、そうでアル」
 身に付けている装飾品も借り物なので、多少の汚れは許されても、壊したら流石にタダでは済まされない。
 二人は身を小さくしながら、こっそり隅の方へ移動する。
 そして性別は男性ながらも三人官女の衣装を着た白樺(ka4596)は大ホールに入ると立ち止まり、少し残念そうに壁際に飾られている見事なひな人形を見つめた。
「シロはリアルブルーの絵本でしかひな人形を見たことなかったけれど、実物はこんなに綺麗で立派なのね。本当はお雛様になってみたかったけれど……、今日のシロは三人官女としてお客様をもてなすの!」
 張り切りながら白樺は、今日は裏方担当のウィクトーリア家の使用人達に準備の状況について聞きに行く。
 女雛姿になった星野 ハナ(ka5852)は上機嫌で、鼻歌を歌っている。
「ふっふーん♪ やっぱりお雛様の衣装は綺麗ですねぇ。女の子達、お雛様に接客されたらきっと喜ぶですぅ」
「はしゃぎ過ぎて、転ばないように気を付けてね」
 そこへ三人官女姿になった月・芙舞(ka6049)が声をかけた。
「今日の私はあくまでも接客担当なので、激しく動いたりはしないので大丈夫ですよぉ。ちなみに芙舞さんはご存知ですかぁ? 雛祭りは三月三日の桃の節句に行われる女の子のお祭りですけど、元々は貴族の子女の人形遊びからはじまったそうですぅ。まあグラズヘイム王国では『桃や梅の花が咲いている中で、雛飾りを見ながらパーティーをする』という感覚で良いと思いますよぉ。別世界の歴史はただ語って聞かせても、女の子達には難しいでしょうしねぇ」
「そうね。あんまり小難しいことを考えずに、純粋に楽しんでもらいたいわね。ちなみに私はアクティブスキルの胡蝶符・瑞鳥符・桜幕符を使って、美しい幻術を見せてみようと思っているの」
 楽しそうに芙舞は語るものの、ハナは聞いたアクティブスキルの効果を思い出して真顔になる。
「……あのぉ、桜幕符は良いと思いますけど、胡蝶符と瑞鳥符は対象にぶつかることによって消滅するんですよねぇ? 美しいモノがぶつかって消滅する光景は、子供達にとってはちょっとショックな光景になりませんかぁ?」
「はっ花火みたいに刹那的な美しさで良いと思うんだけど……、ちょっと聞いてくるわね」
 少し不安になった芙舞は、他の者達に意見を聞きに行った。
 そして大ホールに仕丁姿のマーオ(ka5475)と十野間 忍(ka6018)がパーティーに出す料理を、ウィクトーリア家の使用人達と共に運び込んで来る。
「ふう……、大分運びましたね。忍さん、手伝ってくれてありがとうございます」
「いえいえ。今日の私はマーオさんと同じ仕丁ですし、働いている方が合っていますので」
「そう言えば仕丁には、お内裏様の従者兼護衛の役目があるそうです。でも今日の僕達の役目は、可愛いお客様達をちゃんとおもてなしすることですね」
「まあ今日のお内裏様達には、従者も護衛も必要なさそうですしね」
 クスッと笑う忍の視線の先には、楽しそうに石蒜と話をしている閏の姿があった。
 一方で、マーオはテーブルの上に置かれている料理を見て、腕を組んで唸る。
「グラズヘイム王国では珍しい食べ物や飲み物が数多く並びますから、女の子達はどんどん食が進んじゃうと思います。なので無くならないように、気を付けなければなりませんね!」
「こういう明るく楽しいイベントでは、食欲がよりいっそう増すと聞きますしね。相手は幼くても女性ですし、気合を入れて頑張りましょう」
 そして大ホールに女雛姿のフェリア(ka2870)の手を引きながら、男雛姿のカイ(ka3770)が入って来た。
「ふふっ、やっぱり雛祭りにはお雛様とお内裏様ね。カイ君のお内裏様姿、なかなか良いわよ」
 フェリアは満足そうに、開いた扇の向こうで微笑む。
「それはどうも。でも俺はお内裏様ってガラじゃないんですけどね」
 反対にカイは困り顔で、肩を竦める。はじめは五人囃子になり、笛を演奏する予定だったカイだが、フェリアに着替える直前に男雛になるように言われたのだ。
「アラ、私がお雛様になるのに、隣に立つのが五人囃子では格好がつかないじゃない」
「はいはい。では今日一日、お内裏様としてお付き合いいたしますよ」
「当然ね」
 カイの言葉を聞いたフェリアは、上機嫌で頷く。


 大ホールには中庭へ続くガラス扉があり、今は開かれている。
 五人囃子の姿になったディーナ・フェルミ(ka5843)と、随身の姿になったマリィア・バルデス(ka5848)は、春の暖かな庭の光景を見て眼を細めた。
「今日は私、五人囃子の一人となって、笛を演奏するつもりなの。梅や桃の花が咲くこの中庭で、雛祭り関連の曲の演奏したらステキだと思って」
「そう。私は随身として、騎射をやろうと思っているわ。本当は魔導バイクに乗って、両手で魔導銃を持って、的当てをしようかと考えていたんだけど……。残念ながら、そういう庭じゃないのよね」
 随身姿のマリィアが魔導バイクに乗りながら、魔導銃を両手に持っている姿を思い浮かべたディーナは、和と洋のギャップに乾いた笑いが出てしまう。
「あははっ……。そう、ね。カッコイイ随身になりそうだったのに、残念だよ」
 イベント会場屋敷の庭は魔導バイクが走るほどの整備はされていないので、その案は却下された。
「でもこういうイベントパーティーは私もはじめてだから、手探り状態なのよ。とりあえず衣装を着たのは良いけれど、昔は本当にこういう格好で狩りをしていたのかしら?」
 マリィアはその場でクルッと回ってみるも、動き辛さに少々苦い顔をする。
「昔の衣装みたいだけど、そういう格好で狩りをする姿もカッコイイと思うの。私もこういうパーティーは参加するのははじめてだけど、お祭りというものは人々を笑顔にさせてくれるから好きだよ。パーティーに来る女の子達が、『今日は雛祭りパーティーに参加して、とても楽しかったな』って言ってくれる思い出ができると良いなと思っているの」
「そうね。雛祭りのことに関しての質問は他の人に任せるとして、ハンターとして春に出没しやすい変態の撃退方法を教えようかしら?」
「そっそれは頼もしい……ね」
 真剣に語っているマリィアに対して、ディーナはそれしか言えなかった。


 男雛になったザレム・アズール(ka0878)は、大ホールの中をキョロキョロと見回す。
 そして雛祭りパーティーの準備をしているサーヤの姿を見つけると、早足で近付いて声をかける。
「準備中に済まないが、ルサリィとフェイトはどこにいるんだ?」
「ルサリィお嬢様とフェイト先輩はリゼリオまでひな人形を借りに行った時に、捕まっちゃいまして……」
「えっ!? 『捕まった』って誰に……!」
「ああ、危険な方ではありません。実は……」
 サーヤが言うところによると、二人はひな人形を借りる為にウィクトーリア家の人間としてリゼリオまで交渉しに行った。
 ウィクトーリア家ではリアルブルーからの転移者に職を紹介している為に、向こうの人達に大歓迎されてしまったのだ。
「それに今年の春からの勤め人のことについて、お話しがあったそうで……。雛祭りパーティーはあちらでも行われるようでして、お二人はそちらに参加されるそうです」
「仕事絡みのお誘いじゃあ仕方ない、か……。残念だ。二人とは一度じっくりと、話をしてみたいと思っていたんだがな。まっ、今日は訪れる女の子達に楽しい思い出を作ってもらう為に頑張るか」
「ええっ!? ルサリィお嬢様、今日は来られないんでちゅかっ!」
 そこへ突如、大声を発したのは北谷王子 朝騎(ka5818)だ。まだ私服姿で、何故か両手に大工道具を持っている。
「何だ、朝騎。まだ衣装に着替えていなかったのか? もうすぐパーティーがはじまる時間だぞ?」
「それは違いまちゅよ、ザレムさんっ! 既に朝騎が着る衣装は完成しているでちゅ! 朝騎は数日前から会場入りして、ずっと中庭で一般スキルの日曜大工を使って、コツコツ人間のひな人形が乗れるようなひな壇を作っていたんでちゅ!」
 そう言って朝騎が指さした方向には、確かに中庭に作られた巨大なひな壇があった。
 ザレムは中庭に出て、立派に完成したひな壇を見上げて感心する。
「ほお、大したもんだ。既にひな壇の道具は置かれてあるんだな。後はお雛様姿のルサリィが座れれば良かったんだが……」
「そうでちゅ! お雛様姿になったルサリィお嬢様をひな壇に座らせて、朝騎は一般スキルの隠密を使いながらひな壇に潜り込む予定だったんでちゅ!」
 そこでザレムはふと、会話の内容がおかしくなりはじめていることに気付く。
「……うん、それで?」
「お雛様が座る所には細工をしていて、そこから朝騎は顔を……」
「はい、そこまで」
「うごっ!?」
 話をしている途中で、朝騎はザレムに頭をガシッと掴まれた。
「イタタッ! 何をするでちゅかっ、ザレムさん! 朝騎はただ、ひな壇のコスプレをするつもりで……」
「それで何でお雛様が座る場所に、細工をする必要があるんだ? ルサリィの悲鳴が、響き渡って良いと思ったのか?」
 氷のように冷たいザレムの視線を受けて、朝騎は気まずそうに顔をそむける。
「まっまあルサリィお嬢様はいないことでちゅし、ここはお雛様姿の石蒜さんに座ってもら……」
「そんなことさせられるか! 話し声は聞こえていないはずなのに、何かを察した閏がこちらを睨んでいるだろうっ!」
 大ホールの中では、石蒜を朝騎に見せないように体で隠しながら、笑顔でこちらを睨んでいる閏の姿があった。
「ううっ! 顔は微笑んでいるのに、眼が笑っていないでちゅ!」
「ああいうタイプが、怒らせると一番怖いんだ。だから大人しく、ただの生きたひな壇になっておけ」
 ザレムは朝騎の頭を離すと、大工用具を奪う。
「えっ? それってどういう意味で……ひやあああ!」
 ――そして朝騎の悲鳴が、響き渡った。


○雛祭りパーティー、開催!

「雛祭りパーティーへようこそアル! 熱烈歓迎アルよ! 今日は楽しんでいくアル」
 石蒜は大ホールの入り口に立ちながら、やって来る女の子達に声をかけていく。
「ああっ……! シーちゃん、とても立派です。ちゃんとお客様をもてなしていますね」
 そんな石蒜の姿を、少し離れた場所から閏は見守っている。
 しかし石蒜は笑顔を浮かべながら振り返り、『閏も働くアル』と声無き口の動きだけで強く意思を伝えてきた。『自分をただ見守っているだけでは仕事にならないだろう』――という意味を込めて。
「あっ、はいはい! 今、参ります!」
 その意思がしっかり伝わった閏は、慌てて入り口へ向かう。
 大ホールの中では白樺が白酒の意味を説明しながら、女の子達に配っていた。
「この白酒にはアルコールは入っていないから、安心して飲んでね。三月三日に飲む白酒には厄払いの意味が込められているから、どんどん飲んで♪」
「いらっしゃいませぇ♪ 菱餅をどうぞぉ」
 そしてハナもまた、菱餅を配りながらも説明を聞かせている。
「菱餅の形は大地を表しているんですよぉ。一番上の赤いお餅は健康を祝う桃の花を表していましてぇ、真ん中の白いお餅は清浄の雪を模していましてぇ、下の草餅は春先に芽吹く蓬の新芽によって穢れを祓うという意味があるんですぅ。見ても良し、食べても良しの縁起物ですよぉ。今日しか食べられないお菓子なので、たっくさん食べてくださいねー♪」
「ひなあられも美味しいの。お砂糖で甘くしたのもあるけど、お塩やお醤油のしょっぱい味のもあるから、いろいろと食べてみてね」
 ディーナもまた、ひなあられを配りながら歩いていた。
「お菓子も良いですけど、ちらし寿司も美味しいですよ」
「ハマグリのお吸い物も、雛祭りならではです。どうぞ味わってください」
 マーオと忍も笑顔で料理を勧める。
 グラズヘイム王国の女の子達は、はじめて見るお菓子や飲み物、そして料理に眼を輝かせながら群がった――。


 やがて女の子達のお腹がいっぱいになり、テーブルに置かれていた食べ物と飲み物が無くなりつつあった時、ハナは満面の笑みを浮かべて大きな声を出す。
「みなさぁん! そろそろ中庭で催し物がはじまりますから、移動しましょう!」
 梅や桃が咲き乱れる中庭には、特別舞台が設置されているのだが……。
「ひぃっ! ……あー、ビックリしたわ。朝騎さん、何てモノになっているの?」
 中庭へ移動していた芙舞は、巨大なひな壇の一部になっている朝騎を見つけて、思わず立ち止まって声をかけた。
 巨大なひな壇には人間の子供ほどの大きさのひな人形が飾ってあるのだが、何故か朝騎の顔まで飾られている。
「あうぅ~、ザレムさんにヤラれたでちゅ。『放置させておくと女の子達に何を仕出かすか分からないから、拘束しておこう』って言ってたでちゅ」
 朝騎から大工道具を奪ったザレムは、望み通りひな壇から顔を出させた。そしてそのまま朝騎の顔を、ひな壇に固定したのだ。
 借りてきたひな人形の中には人間の子供ぐらい大きなものもあったので、それも一緒にひな壇に飾られた。
「ああ、自業自得なのね」
 芙舞は朝騎が何をしようとしていたのかを察して、ザレムに共感して深く頷いて見せる。
 通りかかったマリィアもまた、朝騎の今の状態を見てギョッとした。
「コレっていわゆるさらし……」
「マリィアさん、ダメよ! 今日は女の子のお祭りなんだから、恐ろしい言葉は言っちゃダメ!」
「むぐぐっ!」
 芙舞はマリィアの口を手で塞ぎながら、その場から去った――。


 舞台の上ではディーナとカイが笛を吹き、白樺が歌う。白樺は歌いながらも主武器のスターライトロッドにアクティブスキルのシャインをかけて、曲に合わせて振って見せた。
 そしてお内裏様とお雛様である閏と石蒜が、舞台上で楽しげに踊り始める。
 場を盛り上げる為に、芙舞が舞台の袖からこっそりとアクティブスキルの桜幕符をかけた。
 美しい笛の音色が響く中、お内裏様とお雛様が幻想的な景色の中で踊る姿を見て、女の子達は喜びの表情を浮かべる。


 女の子達の視線が舞台へ向いている間に、大ホールの中ではマーオと忍は使用人達と共に空になった食器を片付けたり、新たに食べ物と飲み物を補充していく。
「みなさんの舞台を見たいですけど、こっちが忙しすぎて手が離せませーん!」
「裏方の辛いところですね。まあもうしばらくは中庭で催し物が続くようですし、早めに終わらせて私達も見させていただきましょう」


 閏と石蒜が踊り終えて舞台から降りた後も、ディーナとカイの笛の演奏は続く。
 歌い終えた白樺は、次にアクティブスキルのホーリーライトを発動させる。
 舞台にはフェリアが上がり、扇を広げて歌いながら踊り始めた。
 次に舞台に上がった芙舞がフェリアに寄り添うように踊りながらも、アクティブスキルの胡蝶符と瑞鳥符を続けざまに発動する。
 美しい光景が繰り広げられる中、ハンター仲間達も舞台をうっとりしながら見つめていた。
 ――やがて歌と踊りが終わると、白樺・フェリア・芙舞の三人は舞台から降りる。
 すると笛の曲調が変わり、弓矢を持ったザレムが舞台に上がった。
 ザレムは弓を構えて、十メートルほど離れた三十センチの梅の花型の板へ向けて、矢を放った。すると矢は梅の花の中心に刺さり、ザレムは次々と矢を射っては命中させていく。
 矢が全て無くなると、女の子達から拍手と歓声が起こる。
「ふう……。ああいう小道具を作らせるのは安心して任せられるんだが、あの癖はどうにかならないものか……」
 ザレムが呟いて視線を向けた先には、羨ましそうにこちらを見ている朝騎の姿があった。
「ザレムさん、羨ましいでちゅ……。あんなに女の子達の視線をひとり占めするなんて……!」
 憎しみの視線を向けられたザレムは、朝騎からサッと顔を背ける。
「――アレは見なかったことにしよう」
 笛の曲調が激しいものへと変わり、馬の足音が聞こえてくると、ザレムは舞台から降りた。
「お内裏様のザレムの腕前は見事だったけれど、私は随身であり猟撃士でもあるから、負けられないわね」
 白馬に乗りながら登場したマリィアは体が揺れながらも弓を構えて、木の枝に下がっている梅の花型の板に矢を命中させた――。


 一通り催し物が終わると、再び大ホールへ戻る。
「シーちゃん、上手に踊れましたね」
「うふふ♪ 閏のリードが上手だったアル!」
 閏と石蒜は仲良く手を繋ぎながら、大ホールへ歩いて行く。
「この十二単は裾を持ち上げれば、動きやすいアル。ホラ、こうやって……って、ほわぁ!」
 石蒜が閏の手を離して裾を掴み上げながら動こうとした時、グラッと体勢を崩してしまう。
「おっと、危ないよ。可愛いお雛様、せっかくのパーティーでケガしちゃったら大変なの」
 たまたま通りすがりの白樺が、石蒜の体を支えた。
「あっありがとうアル。助かったヨ」
「ウチのシーちゃんがすみませんっ!」
 二人はそろって頭を下げるも、ふと石蒜は白樺の姿を見て首を傾げる。
「白樺はお雛様にならないアルか? きっと良く似合うアルよ」
「う~ん、でもシロは……」
「着たいなら、着るアル! 衣装はいっぱいあるんだし、一緒に選んであげるヨ!」
「えっ、ええっ!?」
「ああ、シーちゃん! いきなり白樺さんの腕を掴んで、走り出しちゃダメですよ!」
 ――そして数分後、石蒜が選んだ女雛の衣装に着替えた白樺が、身を小さくしながら大ホールへ戻って来た。
「なっ何だか照れ臭いの……」
「和服を着たら、背筋を伸ばすのが基本アル! 大丈夫♪ 白樺は我の次に輝いているアルよ」
「……シーちゃん、それを自分で言っちゃあダメですよ」
 白樺を着替えさせて満足顔の石蒜と、付き添いの閏も共に戻ってくる。
 改めて女雛になった白樺は、それでも嬉しそうに広げた扇の向こうで微笑んだ。
 

 観客がいなくなった中庭の舞台の上には、フェリアとカイが残っている。
「カイくんのお望み通り、先程の舞台では私の歌と踊りを披露したけれど、どうだったかしら?」
「もちろん、天女のように綺麗でしたよ。演出も良かったですね」
 フェリアは扇をたたんで腰に差し、カイへ向かって手を伸ばした。
「カイくん、私は貴族の娘よ。さっきはお雛様として扇を持ちながら踊ったけれど、本当は男性に手を握ってもらいながら踊る方が得意なの。カイくんはこういう衣装でも、私が相手だったら一緒に踊ってくれるわよね?」
 フェリアが挑むように微笑みかけると、カイは少しだけ困り顔で笑う。
「ん~、まあ楽器演奏がないんで、上手く踊れる自信はあんま無いんですけど……。たんぽぽさんの為なら、頑張ってみましょう」
 そう言ってカイはその場に跪き、フェリアが差し出した手を恭しく握ると、その手の甲に口付けをする仕草をした。


 フェリアとカイが中庭の舞台で踊る姿を、大ホールの窓際に立ちながらマーオと忍が見ている。
 催し物を終えた仲間達が接客担当を変わってくれたので、今は束の間の休憩時間になったのだ。
「お二人が踊っている姿は、絵になりますねぇ」
「そうですね。先程行われた催し物が見られなかったのは残念ですけど、コレはコレで良いものです。……けれどどうしても、視界に余計なモノが映ってしまいますね」
「……ああ、あの不気味なひな壇ですか」
 中庭のひな壇に飾られているひな人形は借り物なので、大きな傘の日影のもとに置かれている。
 しかし影ができていることで余計に、朝騎の顔が目立ってしまうのだ。
 だが当の本人は顔の近くに食べ物と飲み物が置かれてあり、好き勝手に口に入れているので割と快適そうだった。
 忍はチラッと背後に視線を向けると、女の子達が中庭のひな壇を見てヒソヒソと話をしている姿を見る。
「アレはそろそろ解放しましょうか。お客様達が怖がっていますし」
「忍さんの意見に賛成です」
 見かねた忍とマーオは中庭へ出て、朝騎の所へ向かう。
 そんな二人の姿を大ホールの隅から見かけた芙舞は、手に持っている白い陶器のコップに自ら白酒を注ぐ。
「何だかまた一波乱ありそうだから、ちょっと占ってみようかしら。……うん? 『身近な人の身に危険』?」
 ――その占いの意味を、芙舞はすぐに知ることになる。


 朝騎はマーオと忍が近寄って来るのを見て、ムッと顔をしかめた。
「男二人が何でちゅか? 朝騎はちっちゃくて可愛い女の子にしか、興味はありまちぇん!」
「……やっぱり、放置しておきましょうか?」
「マーオさん、気持ちは分かりますが、ここはお客様第一と考えましょう」
 マーオと忍は朝騎を見捨てたい気持ちを何とか抑え込みつつ、ひな壇を解体しはじめる。
「お二人はぁ、ご存知ですかぁ?」
 そこへ突然ハナがやって来て、語り出す。
「昔のひな人形は女の子の厄を背負って、海や川に流されたそうですぅ。ちなみにぃ、このイベント会場屋敷の裏には大きな川があるそうですよぉ」
「なるほど。ならルサリィの為に、このひな壇を船に乗せて流すというはアリなんだな」
「ハナさんにザレムさん! いきなり何を物騒なことを言い出すんでちゅかっ!」
 流石に我が身の危険を感じ取った朝騎は、バタバタと暴れ出した。
「みんな、落ち着いて。まずはひな人形を回収しなきゃダメよ。リゼリオからの借り物なんだから」
「マリィアさんも止めないんでちゅか! うわわっ! 来るなでちゅーっ!」
 朝騎の叫び声を聞き、ディーナはアタフタと大ホールに残っている閏・石蒜・白樺に声をかける。
「あっ、あの! 止めなくて大丈夫なのかな? このままでは朝騎ちゃんは生きたひな壇として、川に流されるんじゃあ……」
「良いんじゃないですか? 雛祭りの意味を、ちゃんと教える良い機会だと思いますよ」
 閏の口調は優しく丁寧だが、ツレの石蒜が一瞬でも狙われたことに気付いていたので、アッサリと朝騎を見捨てた。
「我も流し雛のことは、知っているアルよ。ある程度流したら、後で回収すれば良いだけヨ」
「そうだね。それにシロはアクティブスキルのヒールを使うことができるから、もしケガしても大丈夫なの!」
「あっ、そうなの……」
 既に何を言っても止められないことを悟り、ディーナは心の中で手を合わせる。


 その間にひな壇に飾られていたひな人形は全て回収されて、未だひな壇と一体化している朝騎はどこからか運ばれて来た木の船に乗せられた。
「ひぃーっ! 後でちゃんと回収してくだちゃいよ!」
「分かっている。可愛い女の子達の教材になるんだから、少し大人しくしていろ」
 ザレムにそう耳打ちされて、渋々朝騎は口を閉じる。
 そしてハナは大ホールにいる女の子達へ、大声で話しかけた。
「みなさぁん! 今から流し雛をやって見せますからぁ、外へ出てくださぁい!」
 女の子達は歓声を上げながら、中庭へ出る。
「……なるほど。占いはこういう意味だったのね」
 その光景を見ていた芙舞は、自分の占いが大当たりしたことを知ったのだった――。 

<終わり>

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参加者一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • 情報屋兼便利屋
    カイ(ka3770
    人間(紅)|20才|男性|疾影士
  • 曙光とともに煌めく白花
    白樺(ka4596
    人間(紅)|18才|男性|聖導士
  • 慈愛の聖導士
    マーオ・ラルカイム(ka5475
    人間(紅)|18才|男性|聖導士
  • 招雷鬼
    閏(ka5673
    鬼|34才|男性|符術師
  • おにぎりやさんの看板娘
    紅 石蒜(ka5732
    鬼|12才|女性|符術師
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎(ka5818
    人間(蒼)|16才|女性|符術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 気配り仕丁
    十野間 忍(ka6018
    人間(蒼)|21才|男性|魔術師
  • アリス達と過ごす夏の夜
    月・芙舞(ka6049
    人間(蒼)|28才|女性|符術師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/03/09 13:10:54