• 闇光
  • 龍奏

【闇光】大冒険? 大サプライズ!!

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/03/08 19:00
完成日
2016/03/14 07:08

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「バルトアンデルスも大変なようですね。シグルド副師団長様」
 シグルドの執務室に通されたクリームヒルトはにっこりと、それはもうイヤミたっぷりの満面の笑顔でそう切り出した。
 対するシグルドもそっくりな爽やかスマイルで応対する。
「そりゃあもう。大変すぎるから悩みの種をこれ以上増やすのは勘弁願いたいところだよ」
「復興が遅れている首都を心配した地方の人々からの援助物資をお届けに来たのだけど。悩みの種扱いされるなら、国を通さずそのまま活動してもいいのよ。新興宗教の方々が熱心に活動されているのをさっき見たばかりだし」
 クリームヒルトはそう言うと、机に置いた目録をとって、表紙をめくると都の外で待機させている物資を読み上げた。
 シーツに布団、食糧、レンガのような建築材から金物、人手まで。
 長い項目を延々と読み上げるクリームヒルト。
「随分な量だね。どうしたんだい?」
「歪虚王による帝国各都市が一斉攻撃を受けた際に、地方にもいくつか被害を受けたのを、元ヴルツァライヒメンバーと共に勝手ながら助けさせてもらいました。その報酬として地方の人たちから得た報酬です。あなた方が都市にかかりきりになって地方をほったらかしにしてたこと、誰も恨んでいません、か、ら!」
 そう言った後、咳払いをして、最初に訪れた時のような清ました顔でクリームヒルトは目録をシグルドに差し出した。
「各都市に住まう人々のお役に立てていただければと思います。どうぞお受け取りください」
 地方に歪虚出現しても放ったらかして被害を少しでも食い止めたのはクリームヒルトだ。
 クリームヒルト自身も一般人ながらに町のゾンビと対峙もした。
 その御礼といただいた報酬がこの目録なのだ。
「なるほど。そりゃあ、元首に代わって御礼を申し上げないと」
「結構。口先だけのお礼など、明日のご飯にすらならないもの。特に……貴方のは」
「手厳しいねえ」
 大仰な一礼をしようとしたシグルドであったがクリームヒルトに睨まれると、彼はため息一つついて椅子に座り直した。
「でも、お礼は必要なんだろう?」
「もちろん。第一師団には昨年の魔導アーマーのお披露目会から、北伐、帝都防衛にかけて、更には今現在もずーっと仕事をしてくださっている兵士がいると聞きます。彼らに休養を取らせてほしいの。年越しすらも戦場で過ごした彼らを郷で心配している人達がいるのよ」
 彼女の言葉に、シグルドの目は点になった。
「名前は?」
「これがリストです」
 シグルドはリストに目を通すと残念だねぇと首を横に振った。
「残念だが、彼らは任務中でここにはいない。いたら確かに休みも必要だから可能なら条件を飲んだけど……」
「知ってます。親御さんからカム・ラディ遺跡の輸送任務にあたっていると聞きましたので。というわけで、そのお役はハンターに任せてくださり、危険度の少ない後方支援でありながら1年も頑張り続けた彼らを労っていただきたいと思います。可能なら条件を飲めるのよね?」
 クリームヒルトはもう一度にっこり笑った。
「随分、国や取引に詳しくなったね。まあハンターに任せるくらいは僕の権限でなんとかなるだろう。にしても、カム・ラディ遺跡になんの用だい?」
「ちょっとお肉の保冷材が必要なの」


 時は遡って。
「これが大型冷蔵庫。詳しい説明は省くが、あまり大地に負担をかけずに温度を一定に保てるシステムだ。冬の今は大したことないが、夏じゃ作物を3倍以上長く保存できるだろうよ。ずっとこの温度を維持できるからな」
 元錬魔院の技術者レギンは倉庫の中央に安置された蒼く輝く巨大な水晶玉の光をともしてそう説明した。
 彼の言う通り、部屋は小春日和を思わせる外よりも冷たく、吐く息は意図せずとも白い靄となる。
「芋くらいならこれで1年は持ちます。飢饉などに大いに役立つ他、収穫物の出荷をコントロールし、恒常化することで外貨を稼げます。作成コストは少し高めですが、3年以内に主要な農村に配備できるでしょう」
 この技術を管理していたベント伯の言葉に、村長は信じられないような顔をしていた。
「クリームヒルト様、よろしいのですか? こんな立派な施設を……」
「わたしを育ててくれたのは帝国のみんなだもの。それが都であるか地方であるかなんて関係ない。みんな揃って幸せになって欲しいの。たくさんの人にそう約束したの。これは、その一歩」
 クリームヒルトがそう言うと、村長は何度も何度も深く頭を下げた。
「にしても本当に、デメリットないの?」
 数ある独自技術開発資料の中からこの冷蔵庫を作ろうと考えたのは、梟雄のアミィなのだ。頭は良いが人の犠牲を何とも思わない性格には安心は何一つできない。だが、それはレギンがきっぱり否定した。
「空中のマテリアルを集めるから、多少空気が汚れることはあるが、公害レベルには到底ならないよ。後は肉は一緒に置けないってところかな」
「肉が? どうして??」
「腐敗エネルギーがね。端的に言うと換気できないから腐敗が移りやすくなる」
「問題じゃない! 帝国は芋も多いけど、一番多いのは牧畜なのよ!?」
「ってもなあ。腐敗を遅らせるのは龍鉱石くらいしかないぜ? ほら、連合軍がカム・ラディ遺跡で必死になってかき集めている奴。正のマテリアルの塊なんだ。手を加えるとマテリアル汚染をも撥ね退けるらしいが、そこまでしなくとも鉱石だけでもありゃあな」
 レギンが困ったように呟いたところ、クリームヒルトも村長もベント伯もみんなして視線が注がれる。
「そういえばカム・ラディ遺跡に孫が……」


「結局、龍鉱石を肉の保冷剤にする案は怒られたらしい。人類の存亡を駆けた遺跡の復興に使うモノをそんなものに使うなって。馬鹿なんだよな。あの姫さん」
 兵士の代わりに輸送業務を行うハンターとして発掘された龍鉱石を運ぶレギンは、共となったハンターにそう苦笑いして言った。ここに来る意味は半減してしまったが、それでもずっと戦い続けてきた帝国民である兵士を故郷に帰すことは達成できた。
 覚醒者ではないクリームヒルトは転移門を使えず、留守番だ。
 今頃兵士を故郷へ戻る手伝いをしているはずだ。
「馬鹿げた話に命と智慧賭けるのも悪くないけどな」
 レギンは不敵に笑った。
 帝都に乗り込むのも危険が伴い、実妹を殺した仇敵ともいえるシグルドと話をつけてくるなどして、クリームヒルトが体を張ったのだ。
 残った半分の目的は、サプライズプレゼントしてやればいい。
「他の奴らの研究からヒントを得てもいいし、どこかで新しい素材を探すでもきっとヒントになる。そのくらいの世界へ、帝国に巣食う虫風情が飛び込めるチャンスを作ってくれたんだ」
 レギンの言葉と同時に世界が開けた。
 冷たく全てが刻を失った世界。神秘的ながら、悲しいまでに息遣いのない世界に、レギンは腕を振り上げた。
「冒険の時間だぜ」

リプレイ本文

 天の川が流れるように、光輝く道が風穴へと続いていた。
 小さな輝きが集まってできる道は眩く、また砂時計が刻むかのように、輝く世界の入り口から来る清涼な風に押されて、チリリ、リリと鈴のような音を立てつつ、生まれ、動き、散りゆく。
 足元を見れば輝く砂でできていた。水晶のように結晶化した白銀の砂。その中に時折薔薇を思わせる花弁が混じいるが、触れてみればそれは手の中でポロポロと零れ、他のそれと変わらぬ砂の姿となっていく。
「綺麗すぎて怖いくらい……」
 高瀬 未悠(ka3199)は掌で光の粒になって消えゆく花びらの行方を見つめて小さく呟いた。
「中から結晶が噴き出てくるようですわね。風穴とは溶岩が流れてできるものですけど、関係あるのかしらね」
 音羽 美沙樹(ka4757)は暗闇の世界を確認するためLEDライトを点けると塵がその光に反射して暗闇を彩る様子は星空の中を覗いているようだった。足元は風化していない花弁で埋め尽くされ、真正面には水晶の壁がつきたって人工的な美沙樹の光を分解し、七色に弾かせた。
「上から風が吹き下ろしていますわ。奥へは上に登らないといけないのかも」
「わかった。それじゃ道を作って来るよ」
 ユリアン(ka1664)は馬のカルムに大半の荷物を預けて停めた後、ロープを肩に背負い直して美沙樹のライトを借りて口に咥えた。
 そして軽く助走をつけるとユリアンは覚醒して、新緑に光る風を纏って一気に走った。水晶の壁を蹴っては反対側に飛び移り、更には天井から下る鍾乳石のような石を掴んでは身体を回転させ、遥か上まで一気に登っていく。
「はわわ、すごいです……!」
 星空の中、流星が跳ねていくような。沙織(ka5977)はそんな光景に思わずため息を漏らすばかりであった。
「上に道が続いているよ。今、ロープを固定する」
 遠くから反響して聞こえるユリアンの声に残った一同は顔を見合わせた。特にアウレール・V・ブラオラント(ka2531)とレギン 。
「最近、全身鎧が邪魔になる機会が多いな。この前は落とし穴に苦しめられたところだ」
「研究資材あそこまで持って上がれってか……鬼か」
「アースウォールでできるだけ足場を確保しましょうか」
 フェリア(ka2870)はそう言うと、大地を隆起させて足場を作った。
「それなら私は途中に楔を打ちますね!」
 沙織はジェットブーツを使うと足場とユリアンの間に張られたロープに楔を打ち込み、さらにアウレールのロープも使い、登りやすいように張り巡らせた。
「やるじゃないの」
「リアルブルーの軍隊でCAMの緊急メンテナンスとか搬送に、ロープワーク教えてもらっていたんです」
 フェリアに褒められて、沙織は照れた微笑みを返した。


 風穴にリズムのよい掘削の音が響く。と言ってもつるはしが奏でるそれではなく、未悠の振動刀による鉄火の弾ける音だった。
「アイス♪ アイス♪」
 掛け声代わりに未悠の夢と野望がただ漏れだ。そんな彼女が取り出した鉱石を砕いて試験管に入れるレギンは悩ましい顔だった。
「マテリアル反応はあるな。鉱物マテリアルの代替に使えるかもしれんが……こんなところから輸送するコストを考えるとなぁ」
「考え方を変えてみてはいかがかしら。正のマテリアルといっても属性分類では少なくとも4属性。他にも5~10属性という説もあります。こちらの結晶も特定属性が宿っているからこのようになったとお考えになれば、結晶化も納得できると思いますけれど」
 フェリアの論説にレギンはふむ、と頷いた。
「魔術論だな。ああ、錬金術論とは考え方が違うからな。いや、しかし、周期律を調べれば……いや、冷蔵システムの魔導式をだな」
 レギンは延々と独り言をいうように、あれやこれやと試験を繰り返している。途中からフェリアの話すら聞いていないような始末だった。
「ちょっと時間がかかりそうですね。あの、ご飯にしませんか」
 沙織はレギンのことをきっぱり捨て置いて食事の相談を提案した。何しろリアルブルー時代はCAM乗りだった彼女はあのタイプの人間はよく見てきている。そう、好きな事になると別世界に行って帰ってこない人間。かくいう沙織もCAMを失ったショックは大きく、同僚が次々ハンターとなる中、最近まで仕事が手につかなかったほどではあったわけで。
「そうね。ちゃんと料理素材も準備してきたのよ」
 未悠は刀を仕舞うと、うさぎさん印のエプロンを身に着けた。そして取り出したるは下準備の終わっていない生野菜たち。
「卿。今から下準備をするのか……?」
「もちろんよ。これが醍醐味じゃない」
 遠足ならともかく、こんな水気も火の気もない場所で野外で皮をむいて煮炊きするのか? アウレールの頭に危険信号が灯る。
「冷たいから温かい料理を考えたの。ふふふ、本格的に行くわ。まずホワイトソース!」
 取り出したるは黒いソースと白い岩塩。以上。
「まてまて。ホワイトソースは牛乳と小麦だろう!」
「そして隠し味にバニラ。ふふふ、レギンさんが冷蔵施設の話をするからアイスクリームを作るチャンスをうかがってたのよ」
「却下だ。私がやる!! これでも母様と女中から仕込まれている」
「あら、手伝ってくれるの? じゃあ、野菜を切ってね。私は味付けを……」
「そっちをやらせんか!」
 アウレールと未悠が喧々諤々と料理をする様子を聞いて、沙織はキョトンとするのを、紅茶を高くから注ぎいれるフェリアは見つけた。
「女中さんって、あの人、偉い人なんですね」
「あら、女中は私の所にもいたわ。アウレオス家は広大ですもの。庭師とかもいますし」
「ほう、アウレオス家の人間とこんな依頼で相見えるとは奇遇だな」
 フェリアとアウレールの短い会話に二人の壮大なバックが窺える。
「あたしの家にはいませんでしたけれど、本家筋では女中もいますわね。武家の存続も大変なようですわ」
「ああ、うん。メイドはいないけれど、晩餐会なんかの時は手伝いに来てもらったりとかあったな」
 美沙樹とユリアンの言に、沙織はさらにひきつる。家の存続? 晩餐会!?
「あの高瀬さんは……普通の、お生まれ、ですよね?」
「これでも高瀬家といえばちょっと名は通っているのよ。まあ、あんまり好きじゃないけど」
 ユリアン=王国騎士の家
 アウレール=帝国貴族
 フェリア=帝国の名家
 未悠=RBの良家
 美沙樹=東方の武家の系統
 沙織……。
「はう……」
 沙織はたいそう恐縮しつつ、残る希望のレギンに視線を寄せた。
「さぁ、レギンも疲れたでしょう。食べて食べて」
 他の人間はそのシチューに引いていた。いや、色が漆黒なだけで食べられるかも、しれないが。
「おう、さんきゅ。しかし、代用として……ううん」
 考え事を続ける彼は未悠からシチューを出されても上の空でそのまま口に入れる。
「おいしい?」
「おう。いける。冷蔵保存のユニット制御の抵抗に。いや、まて……」
 レギンは普通の顔で食べていた。そういえば錬魔院時代に料理錬金の実験台になっていたとか言っていた気がする。
 これは成功した!? 未悠はデスクッキングと蔑まれた我が壊滅的な料理手腕が成長の兆しを見せたと瞳に星を浮かべて大歓喜した!
「やった!! ほら、みんなも是非食べて!!」
 振り返ると、味見をしたアウレールがフェリアの紅茶を涙ながらにがぶ飲みしていた。
「舌が壊れる!」
「仕方ありませんわね。塩むすびなら作ってきましたけれど、召し上がります?」
 美沙樹は呆れてバックパックを開けたが、この氷点下の世界で準備したおにぎりは凍り付いていた。
「…… ……」
 残っているのは懐にいれて凍り付かずに済んでいたユリアンのお手製サンドイッチのみ。
「「譲ってください」」
 数名の懇願によって、彼らの危機的状況はなんとか回避された。


「ところでクリームヒルトってどんな人?」
「確か選挙に出てた女の子ですね。こんな面白いことしているなんて思いもよりませんでした」
 未悠の質問に、フェリアも記憶の糸を辿って答えた。
「変わった人、だね。革命によって皇族という地位を失った人だよ」
 ユリアンはそう説明した後、ぽそりと漏らした。
「うん。一言じゃ、言えないな。とても不安定で。まだどうなるのか……」
 そしてどう付き合えばいいのか。歪虚に心を歪められた瞬間の彼女の顔がまだユリアンは忘れられない。
「そんなもんさ。人間がブレずに進めるなんてない。純度100%の人間なんていない。不意の力があれば折れたりもする。だけどな、熱と衝撃で不純物も減る。強くもなるんだ」
 結晶の研究を一旦中止したレギンが、フェリアの紅茶をすすりながらそう答えた。
「あぁ、うん……」
「そっか、その子も自分の道を歩いているのね。私も……いつか」
 未悠はぼんやりと空を漂う煙の糸をぼやりと見て呟いた。
 煙? ふと気づけば、美沙樹が丸い香炉を手にして煙を上らせていた。
「風が、下から吹いていますわ」
「今度は下? つまり私達の立っている結晶の壁を迂回するように、風は昇り、落ちて、外に出ているのですね」
「ええ、最初に見た結晶の花弁が空を舞っていますけれど、もしかして、原形を留めたものがあるかもしれませんわね」
 フェリアの見立てに美沙樹はこくりと頷くと、麻のロープを解いて蝶リボンを作ると奈落へと飛び出たせた。蝶は風にあおられゆらゆらと揺れながら、結晶の闇へと落ちていき、時折、鈴の音を響かせた後、水面に触れる余韻を届けた。
「水音……この氷点下の世界で凍り付いていないのか。何か仕組みでもあるのではないか? ロープを垂らして降りてみるか」
「マテリアルが満ちているのは風だ。風の生まれるところに何かあるのかも」
 一行は食事を片付けるとロープを伝いそろそろと下層へ降りて行った。

 下層は結晶の花が咲き乱れていた。ライトに照らされると飛沫くような輝きを返す花。それは薔薇のように何枚もの花弁に包まれ、花はもちろん、茎も葉も。全て胃が透き通っていた。足の踏み場もないくらいの花に覆われた世界は広くライトの光をも通さない。そんな中、静かな風が降り立ちたハンターの肌を撫で、時折その優しい風から耐えられなくなった花弁が砕けて、彼らの歩んできた道を辿って舞い上がっていく。
 そして。花を生む風の正体を彼らは見た。
「ドラゴン……」
 半分崩れていたが、青水晶のような身体はとても巨大であり、見上げるほどであった。雄々しい翼、透き通る鱗。頭の片側もなくなっていたが、時折その咢から風が漏れてくるのはもるで呼吸をしているようにも感じられた。
「龍鉱石だ。こりゃすげぇ」
「このドラゴンの吐息が風を作り、結晶を作り、冷凍の世界から守っていたかしら。きっと偉大な風竜だったのね」
「持ち帰るのが仕事ですけど、崩すのも申し訳ないですね……あ、そうだ。マテリアルに反応するものとかあるんじゃないでしょうか」
 思わず誰もが目を奪われる中、沙織は思い切って覚醒を改め、花の中に魔導拳銃を突き立てた。そして機導砲としてマテリアルを収束された瞬間。沙織の目の前が虹色に輝いた。
「ふわ」
「これは……」
「マテリアルに反応してるのか」
 景色一面の花が虹色に光りはじめた。刻々と色を変え、光を変え。万華鏡の世界の様だった。空を揺蕩う結晶の欠片も七色に包まれ、僅かな視界を埋め尽くす。
「これだけ反応するなんざ、見た事ねぇ……反応……導通……こりゃ使えるかもしれない」
 レギンがぼやいた瞬間、甲高い硝子の砕ける音と共に、烈風がすべてを吹き消した。そして気分を悪くさせるような蝕む空気が闇に戻った世界を包む。
「!!」
 龍鉱石の塊が踏み潰され、無残な姿になっていた。その上を歩むのは巨大な翼竜だ。奥はまた別の出口があるのだろう。この光を見つけて強襲してきたに違いない。
「強欲の歪虚か……!」
「わざわざ構うことはねぇ。こんだけバカでかいやつなら、さっきの穴は通過できねぇよ。龍鉱石も『発見』もした。とんずらだ! 可能な奴は龍鉱石と花を適当に拾って下がれ!」
 しかし、翼竜は大きさ以上に俊敏だった。
 烈風を巻き起こすと、一瞬で、本当に一瞬としか言えないような速さでレギンの真上に飛翔し、巨大な爪で襲い掛かって来た。
「っ痛。しかしこのスピードなら前に似たような相手もしたのでな。今更どうとも思わんな」
 アウレールはレギンを弾き飛ばして真正面から受け止めていた。
「あれは機械でしたけれどね。でもまぁ、目は慣れましたわ」
 美沙樹が追撃しようとするその翼をいなす間に、ユリアンがその背後の空を駆け抜けるとロープが翼竜の喉に食い込んだ。
 ユリアンは壁を蹴り、竜の身体を足場にして何重にもロープを巻き付けていく、爪に巻き付き、上あごを捕らえ、翼を縛り上げた。
「今のうちにっ」
 ユリアンの視界の外で仲間達が元来た縦穴を抜けていくのがちらりと見えた。あそこまで行けば追ってこられないはずだ。
 怒りを顕にして振り上げる翼竜の身もだえを利用して、わざと吹き飛ばされるとユリアンはスナップを効かせて、掴んだロープを一気に外した。
 と同時に、石花の中に吹き飛ばされた。冷たい水が身軽な装備のあちこちから染みてくるが、即座に起き上がると、ユリアンは縦穴を一気に駆け上った。それを追いかけるのは邪悪な咆哮のみ。


「慌てたから、お花もボロボロ。ううぅ、残念……」
 カム・ラディ遺跡に無事掴みとった龍鉱石を納めた後、帝国に戻って来た未悠は眉尻を下げた。できるだけ綺麗な花を摘んだものの、非常に繊細なそれは移動の途中でかなり割れてしまっていた。
「あら、でもレギンは欠片でも十分だって言っておりましたけれど?」
「違うの。シグルドにあげようと思ってたのに」
 フェリアの問いかけに答えた未悠の一言に数人が目を白黒とさせた。
「本気か……卿。前回の訓練であれだけされたのに」
「ちょっと捕まっている間に話したけれど、遊んでいるようにみえて真面目なのよ。彼も忙しい日々を送っているんだから、こういうのもいいかなと思って」
 高瀬の言葉に、青い顔のユリアンはくすりと笑って言った。
「どんな人でも物でも、見様によって違う。本質なんてものは本人ですらわからないの、かもね。くしゅっ」
 水に触れたのが不味かったか。身体の熱を奪われたユリアンは思わずくしゃみをして身体を身震いさせた。
「大丈夫? 無理しない方がよろしいですわ……あら、レギンさんは?」
 美沙樹が羽織を一枚ユリアンに渡した後、ぐるりと周りを見回した。肝心の成果を聞く相手は忽然と消えていた。
「お手洗いに駆けこんでいきました……」
 沙織の言葉に皆ははっとした。味覚はともかく、彼の胃腸は常人らしい。
「は、ははは。で、でも良い冒険だったわ!!」
 取り繕う未悠の笑顔に応えるようにして、崩れた花の結晶がちらりと輝き、空に舞い上がっていった。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 5
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 戦場に咲く白い花
    沙織ka5977

重体一覧

参加者一覧

  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 清冽の剣士
    音羽 美沙樹(ka4757
    人間(紅)|18才|女性|舞刀士
  • 戦場に咲く白い花
    沙織(ka5977
    人間(蒼)|15才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/03/04 08:07:44
アイコン 質問卓
ユリアン・クレティエ(ka1664
人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/03/08 19:05:14
アイコン 相談卓
ユリアン・クレティエ(ka1664
人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/03/08 18:30:56
アイコン 探索場所の神託場所
音羽 美沙樹(ka4757
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2016/03/06 14:52:57