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【闇光】真実は静寂の彼方

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/03/08 09:00
完成日
2016/03/16 04:49

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「待ってください、ラヴィアンさん!」
 カム・ラディ遺跡は今、人類と歪虚の戦いの最前戦にある。
 度重なる歪虚の襲撃で慌ただしい拠点の中、篠原神薙は女の背中を追いかけていた。
 彼女の名はラヴィアン・リュー。地球軍中尉の階級を持つ、れっきとしたリアルブルー人だ。
「……私に何か用かしら?」
「ラヴィアンさんに質問したいことがあって……」
「私も軍人よ。部外者であるあなたに話せることは多くないけれど……それでも構わないのならどうぞ」
 足を止め振り返りはせども、その視線には明確な拒絶の意志が宿っている。
 冷淡な態度は、ある意味軍人であれば当然と言えるのかもしれない。クリストファーやジョンらロッソクルーが特異なだけで。
「ラヴィアンさんは地球から来たと聞きました」
「こちらの世界に来た理由なら話せないわよ。私達は秘密任務を帯びているから」
「それは……わかってます。いえ、納得したわけではないですけど……」
 なぜ彼女らがこの北方に姿を見せ、青龍と接触を果たしたのか。そしてナディアに連絡を取り、カム・ラディ遺跡へ呼び寄せたのか。
 青龍が座する龍園の事も、彼女らは知っているはずだ。その知識を、現状を語りたがらないのは何故なのか。
 この北方を覆う氷と雪の結晶のように、氷解しない謎を割り切れたわけではない。だが、ヒトとヒトの相互理解が困難なのは今に始まった問題ではないのだ。
「信用してもらうのが大変だっていうのは、わかってるつもりです。でも、俺たちはこの世界でそれを1つずつクリアしてきた。ラヴィアンさん達にもきっと認めてもらえる日が来ると信じてますから」
「そう……。その日が来ることを私も祈っているわ。見たところあなたは地球の学生のようだけれど」
「あ、一応故郷の事を忘れないように制服着てるんですけどね……話っていうのはそのことです。地球は今、どうなっているんですか?」
 その質問にラヴィアンはより険しい表情を浮かべた。
「あ……話せないコトでしたか?」
「そうね。ただ……それを聞いてあなたはどうするのかと思って」
 そう言ってラヴィアンは空を見上げる。冷めた横顔から彼女の心境を汲み取ることは難しい。
「そもそも、二つの世界の時の流れは並行ではないわ。概ね同調しているとは言え、ズレはあるかもしれない。あなたがいつの時代の人間なのか……私の時代のそれと同じなのかさえもわからない」
「それは……そうですけど……」
「LH044事件でサルヴァトーレ・ロッソが失われたその後に続く地球の歴史なら、あなたのような子供にでも想像がつくのではなくて?」
 思わず絶句したのは、薄々その可能性を夢想していたからだろう。
 リアルブルーを、地球を救うために作られた戦闘艦、サルヴァトーレ・ロッソ。
 救済を願って救世主の名を与えられたその船は、きっと多くの人々を救う為に、VOIDを倒す為にあったのだ。
 しかし、その船は初戦闘で転移……消失した。そもそも、転移したかどうかなどリアルブルーの人間にわかるはずがない。
 初陣で轟沈し、サルヴァトーレ計画は失敗した。希望は失われた……そう考えるのが自然ではないだろうか。
「多くのテクノロジーを満載したサルヴァトーレ級を失った世界がその後どうなったか。その真実を本当に知りたい?」
「俺は……」
「この世界の人間と分かり合った……それは確かに美談ね。けれど本当にあの船が救わねばならなかった物は別にあるはずよ。なのに、ダニエル艦長はこの世界でロッソを操舵不能に追い込んでしまった」
「それは、この世界を救うために止むを得ず……!」
「ええ……だから、その善行を否定するつもりはないわ。命を救いたいという衝動は美しい。けれど、私たちは時に自らの手を汚してでも成し遂げなければならない。軍人とはそういうものよ」
 そう話してから、自分でもしゃべりすぎたと考えたのだろう。目を瞑り頭を振って、女は息を吐く。
「……青龍の話もそうよ。その真実と向き合ってあなた達が本当に立ち向かうことが出来るのか。真実は時にヒトを簡単に押し潰してしまう。“希望”はできれば多い方がいい。そうでしょう?」
「ラヴィアンさん……」
「子供相手に大人気なかったわね……。でも、よく考えてみて。これは避けては通れない問題なの。何を優先し、何を切り捨てるのか。何を信じ、何を疑うのか。すべてを救うことはできない。サルヴァトーレ・ロッソがそうであったようにね」
 憎しみ……或いは後悔だろうか。去り際にラヴィアンが見せた横顔は、少しだけ熱を帯びていた。
「う~ん。同じリアルブルー人のよしみで話してくれるかと思いましたが、ガードが硬いですねぇ~」
「はい……って、うわあ!? ナサニエルさん!? なんで帝国のエライ人は皆気配を消して後ろに……」
 いつの間にか背後に立っていたナサニエルはにっこりと微笑み。
「彼女、怪しいですよねぇ。青龍と接触済みというのも本当かどうか」
「……そうでしょうか? 悪い人じゃないと思うんですけど」
「案外、青龍と私達をぶつけるのが目的かもしれませんねぇ。まあ、非協力的な龍なんてその時は叩き潰してしまえばよいだけですが……」
 じろりと睨みつけられ、ナサニエルは肩を竦める。
「冗談ですよぉ♪ しかし、龍が莫大なマテリアルの塊であることは事実です。実は私なりに龍の存在と死について考察してみたのですが、もしかするとこのまま行くと私たちは青龍の怒りを買うかもしれません」
「え? どういうコトなんですか?」
「ただの憶測ですが……何故この地の龍は死後“龍鉱石”となり、黒龍や白龍はそうではなかったのか……」
 真剣な表情でナサニエルの言葉を待つ神薙。しかしその時、ハンターの一人が遺跡に駆け込んできた。
「新手の歪虚だ! 大型の竜種がこっちに向かってるらしい! 手の開いてる奴、迎撃に向かえないか!?」
「……ナサニエルさん、話は後で!」
「ええ。まあ~、覚えていたら♪」
 ひらひらと手を振るナサニエルに背を向け神薙は走り出す。今、拠点であるこの遺跡を失うわけにはいかない。
 青龍にせよラヴィアンにせよ、信頼を勝ち取る為には行動で示すしかない。
 少なくとも、これまで自分たちはそうしてきた。何よりその過去を信じたい。そんな思いが、少年を戦場へと誘っていた。

リプレイ本文

 カム・ラディ遺跡を前に広がる結晶森林。その上空を一体の竜が旋回する。
 機動力において地上を移動するリザードマンを大きく上回る巨竜は先んじて周囲を偵察しつつ、地上戦力と足並みを揃える為時折こうして旋回を行っていた。
 高度から見下ろす地上に広がる雪原に人気を感じる事はできない。しかしその巨影を地上から見上げる者達の姿があった。
 結晶森林に身を隠し敵を待ち伏せするハンター達は、寒さを堪えながら敵地上戦力の到来に備えていた。
 五体のリザードマンが森の中を小走りで進む。その姿を木の陰から花厳 刹那(ka3984)が見つめている。
 気配を消した刹那はリザードマンが通過するのを確認すると雪を蹴って背後へ周り、左手に束ねたスローイングカードを纏めて投擲する。それが開戦の合図となった。
 刹那の存在に気づいていないリザードマン達への攻撃は奇襲として大きな打撃と混乱を与える。慌てて振り返ったところへ、本来の進行方向……つまりまた背後から仲間達の攻撃が降り注ぐ事となった。
 近衛 惣助(ka0510)のフォールシュートによる弾丸の雨がリザードマン達を襲い、飛び出したフィルメリア・クリスティア(ka3380)が剣を振るうと蒼い炎をがリザードマンを焼く。
 銀 真白(ka4128)は後方より矢を放ち、雄叫びを上げるバルバロス(ka2119)とキサ・I・アイオライト(ka4355)が距離を詰め巨大な獲物を叩きつけると、既にリザードマンは二体が倒れ、残りも奇襲の衝撃から立ち直れずに居た。つまり……。
「やりましたっ! ふふん……作戦大成功ですね!」
 奇襲の立役者となった刹那が振動刀を抜きながら笑みを浮かべる。バルバロスは大地に大斧を叩きつけ、やや不満そうだ。
「ふぅむ……それなりに楽しめるかと思ったが、所詮はトカゲ。この程度の策に対処もできぬとはな……これでは一瞬でケリがついてしまうわ」
「一瞬でケリがついたらそれはそれでいいことでしょ……こっちは寒い中ずっと待ってたんだから」
「ぬ? 寒い……か?」
「寒いわよ……当たり前でしょ?」
 鎧をまとっているバルバロスだが、普段から裸でオールオッケーな筋肉男にキサの気持ちはわからなかった。
「キサ殿、上空の竜種に感づかれたようだ……上から来るぞ!」
 真白の声にハンター達は頭上へ目を向ける。次の瞬間、木々の上すれすれを巨大な影が通過し、風と共に雪が舞い上がる。
「なんて大きさだ……!」
「俺達の位置を確認しにきたのか!」
 片手で雪煙を払いながら空を見上げる惣助。神薙の言うように敵はハンター達の位置を確認するために高度を下げたのだ。
 上空へ舞い戻った竜は口にマテリアルを収束させ、炎の球体を構築。咆哮と共にそれを地上へと放った。
 着弾と同時に爆炎が吹き上がり木々を薙ぎ払う。幸い、狙いはさほど正確ではない。散開したハンター達に目立った手傷はなかった。
「流石に竜種ね……あんなの直撃したらただではすまないわよ」
 冷や汗を流すフィルメリア。しかしバルバロスは頭に被った雪も気にせずしきりに頷く。
「そうだ。それで良いのだ。ドラゴンとの戦いというのはこうでなくてはな」
 続けて火球を放つドラゴン。広範囲を吹き飛ばすブレスは、魔術師の魔法にも似ている。
 木々に遮られた視界では狙いは当てずっぽうだが、連続で放たれてはいつ攻撃を受けるかわからない。
「あそこから攻撃し続けられたら厄介だな」
 上空へ銃口を向ける惣助。フォールシュートで竜に弾丸を降り注がせるが、一撃では墜落してこない。
 更に竜に気を取られている間にリザードマン達は慌てて逃走を図る。彼らの狙いは偵察であり、ここでの徹底抗戦ではないのだ。
「敵に背を向け逃げ出すとは……腑抜けどもが!」
「任せてください! 私が足を止めます!」
 バルバロスを追い抜いて雪原を走る刹那は逃亡するリザードマンを背後から次々に斬りつけ、進行上に立ちふさがるように反転、停止する。
 そこへ雄叫びを上げるバルバロスが迫り、身体を横に回転させながら叩きつけた巨大な斧がリザードマンの脇腹にめり込み切断。勢い良く上半身を空に舞い上げた。
「ぶるぁああ! ぬるいわぁ!」
「一体ずつ確実に仕留めて……逃がさないんだから!」
 背後からリザードマンへ駆け寄り、その背を槍で貫くキサ。その一撃でリザードマンは倒れ、残りは一体。
 立ちはだかる刹那へ剣を振り下ろすリザードマンだが、刹那は振動刀でそれを打ち払い、返す刃ですれ違い様に一閃。リザードマンは悲鳴を上げ倒れこんだ。
 キリっとしたクールな横顔で振動刀を鞘に収めた後、頬の横に拳を二つ作り、小さくその場で跳ぶ。
「や、やりました! なんだか今日の私は輝いている気がします!」
 彼らがそうして地上で戦闘している間も竜は攻撃を続ける。フィルメリアは結晶樹の上に登ると、足場にマテリアルを放出し大きく跳躍した。
 上空の竜種はそこで攻撃を中断。飛び出してきたフィルメリアへ吼える。
「くっ、まだ高度が足りない……!」
 攻撃を加えたいところだが、敵にはまだ届かない。落下するフィルメリアへ急襲し尾を叩きつけようとする竜だが、神薙が防御障壁を使いフィルメリアも剣でガードを行う。
 衝撃で空中を横に吹っ飛びながら落下するフィルメリアへ追撃のブレスを放つ為に火炎を集める竜だが、そこへ惣助の凍結弾が命中する。
「着弾確認! たっぷりと歓迎してやろう」
 凍結弾で口を撃たれた竜は怒りに満ちた咆哮を上げる。真白はその最中樹上に登り、和弓を構えていた。
 矢には縄が括ってあり、その先端は結晶樹に結ばれていた。放たれた矢が竜に突き刺さると、上昇しようとする竜の姿勢がぐらつく。
 矢そのものは竜の引きが強くすぐに外れてしまったが、その間に惣助が翼を狙い次々に銃撃を行う。
 竜の攻撃は大雑把だが、地上から攻撃されればハンターの位置は逆算できる。となれば、より正確な反撃も可能だ。
 惣助のいるあたりへ火球を放つと、炎が惣助を襲う。幸い直撃はしなかったし、余波は神薙の障壁が防いでくれた。
「すまないな、篠原!」
「いえ、これくらい……ってぇ、銀さん!?」
 真白は再び縄をつけた矢を放っていた。しかし再度の拘束を嫌がった竜は早々に舞い上がろうとし、その縄を掴んでいた真白の身体がぴょーんと上空へ浮き上がったのだ。
「ん……戻ってきたらマシロが飛んでる」
 呆然とするキサ。縄伝いについてくる真白を嫌がる竜だが、受け続けたダメージもあり上手く振り払う事ができない。
「これは些か予想外の状況だが、やりようはある」
 縄を伝い暴れる竜に近づく真白。隙だらけの姿に惣助は凍結弾を次々と打ち込んでいく。
「篠原!」
「銀さんには当たらないでくれよ……!」
 惣助の声に応じデルタレイを放つ神薙。それで怯んでいる間に真白は竜へ到達し、足へ跳び移ると腹に短剣を突き立てる。
 悲鳴を上げ高度を下ろす竜。しかしここで暴れる竜から真白が振り払われてしまう。
「肉弾戦でなくとも、こうした玩具も扱えるのだ!」
 手裏剣を取り出したバルバロスはこれを全力投擲。そこへ樹上から跳躍したフィルメリアが竜の背後に浮かぶ。
「この位置なら……落ちなさい!」
 両手で振り上げた剣がマテリアルを纏い巨大化する。フィルメリアの一撃を受けた竜は大地へ叩きつけられるように墜落していった。
 空中を落下していく真白は先回りした神薙が受け止め、両手で抱えたまま雪上を滑り、何とか停止する。
「セ、セーフ……」
「手間をかけたな神薙殿。もう少し私の肉付きが良ければ失態を晒す事もなかったのだが」
「そういう問題?」
「武人にとって体格は重要だ。精進しよう」
 真白の救出を見届けたキサはほっと胸を撫で下ろし、惣助はぐっと親指を立てる。
「やるじゃないか、男の子!」
「あいつらサラっと無茶するわね……」
 地へ落とされた竜は口に火炎を集め、今度は放出しハンター達を薙ぎ払う。
 火炎をそれぞれの手段で防ぐハンター達。竜の狙いは自分を墜落させたフィルメリアだ。
「竜種と戦うのは何度目だったかしらね。かかってきなさい……相手になってあげるわ」
 竜は状態を持ち上げ二足で立ち上がると、前足と半身を大地に叩きつける。その衝撃で舞い上がった雪の向こうから迫る長い首から繰り出される牙をフィルメリアは剣で受けるが、牙が脇腹へと突き刺さった。
「こっちだデカブツ! こっちに来い!」
 銃弾を連射し制圧射撃で竜の動きを止める惣助。噛みつかれたまま持ち上げられたフィルメリアを確認し、キサは妖精にマテリアルを纏わせる。
「行きなさい、アリス!」
 妖精はキサの周囲を一回転すると弾丸のように加速。フィルメリアを咥えた竜の顔に命中する。
 更にバルバロスが全身の筋肉を隆起させ、雄叫びを上げながら斧を撃ちこむ。重い一撃が更にもう一発。これには巨体も大きく揺らいだ。
 牙から開放されたフィルメリアは着地すると剣に炎を纏わせ、竜を薙ぎ払う。
 刹那は竜の周囲を走り回りながら振動刀で次々に斬りつけ、煩わしさに振るわれた尾をスライディングで回避。更に戻ってきた真白の矢が竜の首へ突き刺さった。
「これだけの包囲攻撃を受け未だ倒れぬとは……悪に落ちようとも竜には変わらぬか」
「真白さん、これ!」
 神薙は結晶樹に縄で繋げてある矢を真白に投げ渡す。これを受け、真白はすぐに矢を竜へ撃ちこむ。
 移動し別の樹へ縄をくくる神薙。二人はこの作業を繰り返し、竜に次々に縄を打ち込んでいく。
「一本ならすぐ抜ける矢もこれだけ撃てばどうかな?」
 惣助はフォールシュートで巨体に銃弾を降り注がせ続け、刹那は束ねたカードを一気に投擲し、竜の側面に突き刺していく。
 劣勢を感じ取った竜は舞い上がろうとするが縄で穿たれた影響で舞い上がるのに時間がかかる。そこへフィルメリアとバルバロスが下部へ回りこんだ。
 フィルメリアは巨大化させた剣で、バルバロスは元々規格外の大きさの斧でそれぞれ左右の翼を斬りつける。これにより竜は飛行能力を失った。
「どいつもこいつも戦場に背を向けおって……!」
「逃すと思わないでよね……悪いけど!」
 竜はブレスで二人を薙ぎ払う。更にキサへ噛み付こうとするが、間に入り込んだ神薙が防壁を作り、雷撃でその顎を打ち上げた。
「キサ!」
「こんのぉ!」
 マテリアルを纏った槍で竜の顔、眼球を狙うキサ。その一撃に悲鳴があがる。更に火炎をものともせずにくぐり抜けたバルバロスは大斧を担いで跳躍し、竜の頭に刃先をめり込ませた。
 大量の血しぶきが舞い上がりハンター達へと降り注ぐ。竜は首を振り乱しながら吼えるが、やがて瞳から光を失い、その巨体を雪に沈めるのであった。

「火吹きトカゲもピンキリだのう……この程度では楽しめんぞぃ」
 任務を終えたハンター達はカム・ラディ遺跡へと帰還していた。概ね全員疲れた様子だったが、バルバロスだけは例外だ。
「そういえばフィルメリア……貴様、あの竜を落とした一撃なかなかであったな。どうだ、ここはワシと一戦腕試しでも……」
「え、遠慮しておきますね……なんだか模擬で済まない気がしてならないし……」
 鼻息荒く迫ってくるバルバロスに首を横に振るフィルメリア。刹那は大きく背筋を伸ばし。
「うーん、今日は上手く戦えた気がします! 神薙君、私って忍者の才能があるんでしょうか!? でも忍装束は恥ずかしいんですよね……神薙君?」
「え? ああ、すいません……ラヴィアンさんを探していたんですが、見つからなくて」
 頬を掻き苦笑する神薙。そんな二人の間にひょいと真白が顔を出す。
「東方に置いても忍者は斥候や閉所での戦闘、要人護衛等で活躍した。刹那殿には忍の才能があるように思うぞ」
「うわ、急に出てきた!?」
「急ではない。貴殿がぼんやりしていたのだ」
 口元に手をやりくすくすと笑う刹那。神薙はため息を一つ。
「せっかく勝ったのにため息なんてついちゃって。どうしたのよ?」
 キサの問いに代わり、フィルメリアが腕を組み。
「彼女……ラヴィアン中尉の事ね。彼女、随分とロッソ関係者に辛辣みたいだけど……リアルブルー人が戦ってる事自体気に入らないのかしらね。私も睨まれちゃった」
「貴殿らは同郷ではないのか? わざわざ啀み合う必要もないと思うのだが……」
 不思議そうに首を傾げる真白。惣助は肩を竦め。
「リアルブルーの事は考え過ぎない方が良い。実際どうなったかは分からないし、現状帰る手段は無いんだ」
「頭ではわかってるんですけどね……」
「残してきた物もありますからね。LH044はなくなってしまいましたが……故郷は今頃どうなっているのか」
 視線を伏せる刹那。惣助は頬を掻き。
「俺は絶対に帰れると信じている、だから今はこの世界の問題に全力で取り組んでいるんだ。俺達の戦いはきっとリアルブルーを守る事にも通じてる。きっと大丈夫さ」
「だといいんだけど。この目で見る前にリアルブルーがなくなってたなんて笑えないしね」
 キサの呟きにフィルメリアは笑みを浮かべ。
「思う所は多々あるでしょうけれど、今はできることをしていきましょう。本当のところはどうなのか、それも追々ちゃんと聞かせてもらえばいい事よ」
「……そうですね。フィルメリアさんの言う通りです」
「この世界に転移してきて、これまで何度も命がけの戦いを潜り抜けてきた。絶望を知って尚足掻き、前に進もうという意志がなければ私は今此処に居ないわ。あなたもそうでしょう? 神薙さん」
 リアルブルーの常識では測れないような、得体の知れない怪物との戦いをこの世界で経験してきた。
 それはきっとハンター達の力を、そして心を強く育ててきた筈だ。
「この世界での戦いはきっと無意味じゃない。リアルブルーに持って帰る価値のある大切な財産なんですよ」
 フィルメリアの言葉に頷くハンター達。しんみりした空気を打ち破るように、刹那は神薙の手を取る。
「そんなに暗い顔をしていないで、一緒に忍者談義に花を咲かせませんか?」
「そういえばさっき忍装束が恥ずかしいって言ってたけど、なんで恥ずかしいの?」
「えっ、な、なんでって……そんな……乙女の口からは言えませんっ」
「忍装束の何を恥じらうというのだ……?」
「色々あるのよ。色々」
 神妙な面持ちで悩む真白の肩を叩き、キサは首を横に振った。
「ところでバルバロスはどこに?」
「私にフられたから違う人を探しに行きましたよ……ここは人類の最前戦だから、猛者が沢山いるだろうって……」
「そうか……何も壊さないといいんだが……」
 冷や汗を流す惣助。刹那達と語る神薙の横顔にもう迷いはないように見える。
「頑張れよ、少年」
 リグ・サンガマでの戦いは続く。それはきっと、リアルブルーの戦いにも続いているだろう。
 そう。それを誰かが望んでも。望まなくとも……きっと。

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MVP一覧

  • 双璧の盾
    近衛 惣助ka0510
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那ka3984

重体一覧

参加者一覧

  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 狂戦士
    バルバロス(ka2119
    ドワーフ|75才|男性|霊闘士
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 正秋隊(雪侍)
    銀 真白(ka4128
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 境界を紡ぐ者
    キサ・I・アイオライト(ka4355
    エルフ|17才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
近衛 惣助(ka0510
人間(リアルブルー)|28才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/03/08 01:02:42
アイコン 相談卓
近衛 惣助(ka0510
人間(リアルブルー)|28才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/03/08 05:55:48
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/03/03 16:46:58