• 闇光
  • 龍奏

【闇光】竜の逆襲

マスター:香月丈流

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/03/11 19:00
完成日
2016/03/20 21:44

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 『それ』は、いくつもの偶然が奇妙に重なって起きた、不幸な事件。
 誰にも気付かれる事なく、僅かな違和感も抱かせる事なく、脅威は静かに育っていた。
 恐らく……最悪のカタチで。

 最北の地で起きた、人々と歪虚の新たな戦い。遺跡を巡る攻防に、拠点の防衛、龍鉱石の回収……当初の作戦に比べ、状況は大きく変わっている。
 が、その目的はブレていない。『北部の歪虚支配領域を、人の手に取り戻す』。希望の未来を掴むため、人々は折れる事なく大規模作戦を展開していた。
 人類の抵抗を嘲笑うように、異形の巨体が大地を踏み鳴らす。鋭い爪牙で血肉を裂き、灼熱の吐息は大気を焦がし、形あるもの全てを破壊する存在……強欲(ドラッケン)に属する歪虚、ドラゴン。
 竜の全てが歪虚……というワケではないが、強欲に属する者はドラゴンに似ている。下級雑魔ならトカゲ人間に近いが、力のある上級歪虚ほど竜に酷似しているらしい。
 強欲までもが北狄に出現し、誰もが面食らった事だろう。もしかしたら、逃げ出したいと思った者も居るかもしれない。それでも……ハンター達を筆頭に、歪虚との戦いは続いていた。
 人々の想いが力となり、竜の巨体を打ち砕く。強欲や歪虚であっても、生命力は無限ではない。ダメージが蓄積すれば力尽きるし、死を迎えれば風化して土に還るだけである。
 ただ1つの『例外』を除いては。
 死した竜が大地に横たわり、屍が山を築く。本来なら二度と動く事のない骸を、『負のマテリアル』が包み込んだ。それが全身に行き渡り、血液のように駆け巡っていく。
 歪虚であっても、尽き果てた命を蘇らせる事は出来ない。が、『別の存在』として復活する可能性はある。アンデットと呼ばれる不死の歪虚……暴食(フェレライ)。
 その名が示す通り、命を貪る存在。本能に従って動き、『正のマテリアル』を喰い尽くす事を目的としている。生者が堕落する事もあるが、死して間もない骸が利用される事も少なくない。
 だからと言って、全ての死体が歪虚と化すワケではないが。今回の『暴食化』は、たまたま負のマテリアルが濃い場所に竜の骸があったため、不死者として再誕したのだろう。
 虚ろだった瞳に再び光が宿り、ゆっくりと起き上がった。周囲に人や動物の気配は無く、荒涼とした大地と仲間達の亡骸が広がっている。死竜は重い足取りで亡骸に近付き、思い切り喰らい付いた。
 死体型歪虚の大半は、知能が著しく低い。自身の血肉を補うつもりで、本能のまま目の前にある『肉塊』に喰い付いたのだろう。それが生前の仲間であっても関係ない。
 直後、不満そうに唸りながら死肉を吐き出す。どうやら、周囲にあるのが亡骸だと分かったようだ。新鮮な血肉とマテリアルでなければ、不死者は満足しない。
 命を求め、死竜は歩き出した。北愀から、辺境領域に向かって。

リプレイ本文


 クリムゾンウェスト極北の地は、あらゆる『命』の存在を認めない。動植物の息吹も、人の姿も無い不毛の荒野である。
 普段なら動く物すらない大地に、蠢く影が1つ。10m近い死竜が、腐臭を撒き散らしながらゆっくりと南下していた。4足歩行の巨体に加えて強烈な臭気を放っているため、目立つ事この上ない。
「あれが目標の死竜か……あんまり近付きたくない見た目ね」
 停車したバイクに跨り、双眼鏡で死竜を観察する白金 綾瀬(ka0774)。嫌悪感を言葉にしながらも、鋭い黒眼は敵の動きを追っている。死竜までの距離は、100m前後くらいだろう。
「ちっ! 厄介な時に、厄介なモノが起きたもんですね……! もう一度、眠り直してもらいましょうか!」
 冷静な綾瀬とは対照的に、メリエ・フリョーシカ(ka1991)は表情豊かに闘志を燃やしている。明赤色の瞳も、同色の長い三つ編みも、まるで猛る炎のように見える。
「そうだね……この竜が墓場に行くまで、時間をかけてでも付き合ってやろうか」
 メリエに同意しつつ、敵に視線を向ける央崎 枢(ka5153)。その表情には、怖れも迷いも無い。エクソシストの家系に生まれたためか、敵が向かって来るなら『祓い、刻み、討ち倒す』と考えている。
「まぁ、俺達が道案内してやらねぇとな。墓場に行くのか、あの世に行くかは知らねぇが」
 言葉と共に、アーサー・ホーガン(ka0471)は不敵な笑みを浮かべた。彼は逆境を楽しみ、強敵と戦って勝とうとするメンタルを備えている。そういう意味では、今回の死竜は手頃な相手かもしれない。
「何れにせよ、倒すしかありませんね。早速、任務に入りましょうか」
 丁寧ながらも、感情を感じない淡々とした口調。マッシュ・アクラシス(ka0771)の発言は、どこか投げ遣りで事務的な印象を受ける。とは言え、依頼に対する意欲が無いワケではないが。
 死竜を倒すため、戦闘の準備を進めるハンター達。武器を握り直し、互いに視線を合わせて静かに頷くと、足並みを揃えて一斉に動いた。


「死体になってまで暴れるなんて、迷惑な奴ね。今度こそ永遠に眠らせてあげるわ」
 最初に攻撃を仕掛けたのは、綾瀬だった。敵から30スクエア前後の位置でバイクを停め、長銃を構える。サイトを覗く瞳にマテリアルが集まり、淡い光が宿った。
 その状態で、装填された銃弾にもマテリアルを集中。狙いを定め、素早く引金を引いた。黒い銃身から放たれた一撃は、冷気を纏って宙に薄氷の弾道を描く。鋭く冷たい銃撃が死竜の背を直撃し、氷の粒と腐肉が飛び散った。
「今、此処でわたしに出来る事、出来る範囲でやれる事をやるだけ……」
 呟くような、シェルミア・クリスティア(ka5955)の言葉。マテリアルの活性に伴い、全身に魔術的な刻印が浮かび上がっていく。溢れる魔力が羽衣のように体を包むと、青い長髪が静かに揺れた。
 シェルミアは敵との距離を10スクエアくらいに保ち、呪符を空に向かって投げ放つ。細い指から離れた符が、マテリアルと反応して電力に変換。それが稲妻のように天から落ち、死竜を貫いた。

「あ~……臭いったらありゃしないわね。死んだなら、そのまま眠ってれば良いのに。生者に迷惑かけるんじゃないわよ!」
 敵への怒りを口にし、アルスレーテ・フュラー(ka6148)は鉄扇にマテリアルを込めた。と同時に、緑色の瞳が蒼く変色していく。集めたマテリアルを開放するように、アルスレーテは鉄扇を大きく薙いだ。
 彼女の動きに合わせて衝撃の波が発生し、銀髪が派手に揺れる。衝撃波は悪臭を吹き飛ばしながら、4スクエアを直進して死竜に命中。その威力で、巨体が少しだけ揺れた。
「禍々しいわね……水神ティアの名の下に、彼の者を浄化します!」
 力強く宣言しながらも、セリナ・アガスティア(ka6094)の心には不安が同居していた。彼女はハンターとしての経験が少ない上、故郷の村には竜の伝承が残っている。悪しき竜の話を聞いたのも、1度や2度ではない。
 弱気になりそうな自分に喝を入れるように、セリナは両手で符を構えた。セリナの故郷には独自の多神教があり、彼女が信仰する『水神ティア』も、その1柱。水と清浄を司る女神と伝えられている。
 ティアに代わって悪竜を浄化するため、セリナは符にマテリアルを込めた。符術で『蝶に似た光』を呼び出し、それを弾のように撃ち飛ばす。輝く蝶が光の軌跡を描き、竜を直撃して腐肉が舞い散った。
 腐肉を弾き飛ばすように、枢が大地を疾る。マテリアルの活性化で、左頬に十字架が浮かび上がり、茶色だった瞳が赤く変わっていた。そして、両腕には黒い炎の幻影を纏っている。
 高速移動から大きく踏み込み、枢は大剣を薙いだ。斬撃が太陽に似た光を纏い、死竜の左前脚を斬り裂く。丸太のような太い四肢が深々と裂かれ、腐血が溢れて大地を汚した。
 敵の反撃を警戒し、枢は素早く後方に跳び退く。彼と入れ違うように、蒼い焔が死竜に急接近。その右前脚を派手に斬り裂いた。
 蒼焔の正体は、メリエ。マテリアルを活性化した事で、肩甲骨の辺りから『青い燐光』の混じった陽炎が立ち昇っている。
 この状態で太刀に蒼い焔を纏わせ、虚空に突きを繰り出す。蒼焔は一瞬で数m伸び、軌道上の物を全て刺し貫いた。それが巨体の死竜であっても、関係なく。
 ハンター達の攻撃を連続して受け、南下していた死竜が動きを止めた。双眸に殺意が宿り、ゆっくりと右前脚を振り上げる。どうやら、ようやくハンター達を『敵』として認識したようだ。振り上げた脚で、ハンター達を攻撃するつもりなのだろう。
 死竜の動きを牽制するように、マッシュは地面を蹴って突撃。アーサーは馬を駆り、敵との距離を詰めていく。
「邪魔させてもらいますよ。私達のサイズ差では、攻撃されたら厳しいので」
「と言ったところで、理解する頭は残っちゃいねぇだろうがな」
 移動の風圧で、マッシュの黒髪が風になびく。身長と同程度の両手剣を強く握ると、内蔵された魔導機械が稼働。激しい駆動音が周囲に響き、眩しい光を放った。
 輝く剣を手に、マッシュは武器を突き出す。閃光が敵の左前脚を斬り貫き、その威力で腐肉が抉り取られた。
 次いで、アーサーの騎馬が敵を貫く。手にした武器は、幅広い刀身を持つ大剣。剣であると同時に、盾としての役割も備えている。無骨な刃が左前脚を斬り裂き、骨の一部が露になった。
 敵の意識が前方に集中している隙を狙うように、後方から和泉 澪(ka4070)が急接近。素早い動きから地面を蹴って跳躍し、更に敵の体を蹴って跳び上がる。空中で体を水平にして回転しつつ、振動刀を構えた。
「行きます! 鳴隼一刀流・隼旋斬!」
 叫びと共に、澪の全身から風が巻き起こる。黒い長髪が強風に舞い、黒い瞳が鮮やかな蒼に変化。渾身の力を込め、彼女は刀を振り下ろした。
 刀身が死竜の尻尾を捉え、腐肉を斬り裂いていく。木の幹くらいの太さがあるため、両断までは至らなかったが、斬撃は尾の付け根に深々と叩き込まれた。
 追撃を喰らいながらも、死竜の動きは止まらない。負傷に怯む事なく、振り上げた前脚を大きく薙ぎ払った。強烈な風と共に、鋭い爪が迫る。標的となったアーサーとメリエは、反射的に素早く後退した。
 結果、爪は空振りして虚しく空を切る。が……メリエの髪が数本切られ、宙に舞った。アーサーは上着の一部を切られ、衣服の切れ間から逞しい筋肉が覗いている。
「ッ!? ちっ、鈍重だが緩慢ではないかっ! まぁいい……それでこそ、それでこそだっ!」
「腐っても竜は竜か……かははっ、そうこなくちゃな!」
 アーサーとメリエは死竜の攻撃を間近で体験したが、怯えている様子は微塵もない。むしろ、期待以上の攻撃に喜んでいるようにも見える。2人の言葉を頼もしく思いつつ、ハンター達は敵への警戒を更に強めた。


 銃声と斬撃音、覚醒者の声が幾度となく響き渡る。竜種の特徴なのか、体がデカいためなのか、死竜の生命力は意外と高い。ダメージは重ねているが、止めには至らないまま戦いが続いていた。
 綾瀬の放った銃撃が、敵の首を貫通。弾丸に宿した冷気が全身を駆け巡り、細胞の一部が凍結していく。彼女の一撃で、死竜の動きが更に遅くなった。
 その隙を狙うように、マッシュが敵に向かって突撃。鋭い踏み込みから刺突を繰り出し、死竜の胴を貫く。そこから大剣を薙ぎ、腐肉を斬り裂いた。
「おら腐りデカトカゲ! 余所見するな、斬り散らすぞ!」
 敵を煽るような、荒い言葉。死竜に言葉が通じるかは不明だが、メリエは戦闘が始まってから、ずっと敵を煽っていた。いつもは、元気で礼儀正しい少女なのだが。
 死竜の側面から死角に回り込み、剣を構えるメリエ。踏み込みと同時に蒼い焔が刀身を包み、右前脚を狙って全力で薙いだ。青く燃える斬撃が腐肉を切り破り、骨に到達。そのまま勢いを活かして切断し、脚の1本を斬り飛ばした。
 右前脚を失った影響か、死竜の体勢が大きく崩れる。それを見たセリナは、複数の符を取り出して術式を組み合わせた。
 符術の威力と正確性を上げ、再び蝶の式を召喚。式自体はさっきと同じだが、大きさは倍近いし光度も増している。強化された光蝶を、セリナは敵に向かって放った。
 眩い光が蝶のように舞い、死竜を直撃。光の粒子が周囲に舞い散り、圧倒的な衝撃が全身に押し寄せた。
「遠くからよく見て先を読む。こういうの、蒼の世界で『オカメハチモク』って言うのよね。確か」
「うろ覚えなら、辞書とかで調べた方が良いんじゃない?」
 敵を観察して攻撃したセリナに、シェルミアが鋭いツッコミを入れる。令嬢という事もあり、普段のシェルミアは可憐で大人しい少女なのだが……時折、キツい言葉を告げる事があるようだ。
 苦笑いを浮かべるセリナを尻目に、シェルミアが符を投げ上げる。再び空中で電気が発生し、一気に放電。雷光のような一撃が死竜を貫き、腐体に穴を穿った。
 バランスを失った所に攻撃を喰らい、死竜は頭から地面に崩れ落ちる。が、タダでは倒れない。転倒するイキオイを利用し、左前脚を全力で振り下ろした。
 誰かを狙ったワケでもない、突発的な攻撃。威力自体は高かったが、爪撃はハンター達にカスる事もなく空を切り、地面に突き刺さった。
 それだけでは終わらず、間を置かずに死竜が尻尾を振り回す。これも狙った攻撃ではないが、尾の範囲内には澪が居た。
 即座に、彼女は刀を縦に構える。尾と刀が接触した瞬間、澪は力に逆らわずに回転。そのまま身を翻し、攻撃の威力を無効化した。
「捌くだけじゃありませんよっ! 鳴隼一刀流・隼巻閃!」
 円の動きは、力を循環させる。回転した勢いを活かし、澪は刃に遠心力を上乗せして斬撃を放った。攻撃の軌道が螺旋を描いて上昇し、尾を直撃。そのまま刃を斬り上げ、敵の尻尾を切断した。
「危ないわね! 抉るなら、私の贅肉だけにしときなさいよ!」
 澪の斬撃とほぼ同時に、アルスレーテが叫ぶ。敵の爪撃は当らなかったが、かなりギリギリだったのだろう。ちなみに、彼女は180cmを超える長身だが、体型は標準である。
 アルスレーテは鉄扇を強く握り、気を全身に循環させた。身体機能を強化し、マテリアルを練って武器に集める。気の力とマテリアルを充満させて解き放ち、激しい衝撃波を生み出した。
 衝撃が大気を伝播し、死竜に殺到。目には見えない攻撃が敵の全身を駆け抜け、傷口から腐血が吹き出した。
「今すぐ火葬は出来ないけど……せめて、炎に抱かれてみるかい?」
 地に伏した敵の右側から、枢が迫る。両腕に纏わせた黒炎が刀身を包み、ユラユラと揺れていた。ほんの少しだけ悲しそうな笑みを浮かべつつ、素早い移動から斬撃を放つ。
 黒い剣閃が敵の左前脚を斬り裂いたが、彼の炎は幻影。熱量も質量も無い。黒炎は死竜に燃え移る事もなく、枢の両腕で静かに燃えていた。
 残った前脚を狙っているのは、彼だけではない。アーサーは馬から跳び下り、地面を疾走。敵の左側から距離を詰め、大剣を突き出した。
 全身から緑を帯びた金色のオーラを噴き出し、移動の勢いを攻撃へと転化。全てを貫くような刺突が、死竜の前脚に炸裂した。その威力で腐肉が飛び散り、骨が剥き出しになる。
 アーサーは骨の継ぎ目に切先を突き刺し、力任せに斬り離した。前脚を2本失い、上半身が完全に崩れ落ちる。
 このタイミングで、アーサーは追撃を仕掛けた。素早く死竜の下に潜り込み、地面を蹴るのと同時に全身のバネを使って跳び上がる。敵の1点を狙い、大剣を突き出した。
「その、くせぇ首も貰っといてやるぜ!」
 刀身の先にあるのは、死竜の首。こうやって敵の下に潜り込むため、アーサーは馬から降りたのだろう。落下する力と、突き上げる力。方向の違う2つの力が重なり、死竜の首に突き刺さった。
 オーラの色が赤みを帯びた金色に変わり、瞬間的に威力が増加。このまま首を斬り離そうとしたが、前脚と同じようにはいかない。首への負傷が少なかった事もあり、切先は骨まで届かず、切断までは至らなかった。
 その代わり、刺突の勢いに押されて、死竜の上体が浮き上がっている。首は落とせなかったが、アーサーの一撃は相当強烈だったようだ。
「狙う相手がデカイと、当てやすくて良いわね。一気に攻めさせてもらうわ」
 上体の浮いた敵に、綾瀬が狙いを定める。既に行動阻害に陥っているため、あとは最大火力で押し切るべきだろう。
 綾瀬はマテリアルを目に宿し、視力と感覚を研ぎ澄ませる。更に銃身にもマテリアルを込め、狙いを定めた。アーサーが射撃圏外に移動したのを確認し、引金を引く。1度や2度ではなく、何度も。
 銃声が何度も鳴り響き、弾丸が雨のように降り注ぐ。本来、連続射撃は狙いがズレやすいが、感覚を研ぎ澄ませた綾瀬は標的を外していない。放った弾丸全てが死竜を貫通し、無数の穴を穿っていく。ほんの数秒で弾倉はカラになり、敵に多大なダメージを残した。
 銃撃が止んだ直後、、死竜の全身から『紫色の霧』が噴き出す。爪も尻尾も失った死竜に残された攻撃……毒霧である。
 幸いにも射程は2mもないため、巻き込まれた者は1人も居ない。毒の中に佇む敵を眺め、マッシュは少しだけ溜息を吐いた。前衛である彼が死竜を攻撃するには、毒の霧に突っ込む必要があるからだ。ほんの一瞬だけ迷ったが、マッシュは剣を握り直した。
「毒のダメージは後で回復するとして……そろそろご退場願いましょうか」
「賛成。いい加減、この悪臭とはオサラバしたいしね」
 彼の覚悟に同意しつつ、アルスレーテは鉄扇を構える。2人は視線を合わせて静かに頷き、ほぼ同時に動いた。
 鉄扇に気とマテリアルを集中し、虚空を薙ぐアルスレーテ。鉄扇から衝撃波が一直線に奔り、毒霧の一部を吹き飛ばして死竜に打ち付ける。
 間髪入れず、マッシュは地面を蹴って全力で疾走。移動の速度を大剣に上乗せし、渾身の力を込めて突き出した。刀身が死竜の後脚を斬り裂き、腐血の雨が舞い散る。マッシュは速度を緩めることなく走り、毒霧も血も浴びずに駆け抜けた。
「もう一度、眠ろう? 今度は、ゆっくり眠らせてあげるから」
 小さな子供に話し掛けるように、シェルミアが優しく呟く。死した者が傷付くのを、これ以上は見たくないのだろう。大量の呪符を取り出し、術式を組み合わせて威力を増加。組み合わせた符を強く握り、空に投げ放った。
 符から放たれたマテリアルが膨大な電流と化し、虚空に雷光が奔る。いくつもの閃光が1筋に収束し、巨大な稲妻となって空から落ちた。雷の如き一撃が、死竜の体に大きな穴を穿って傷口を焼き焦がす。
 瀕死状態の敵に止めを刺すため、メリエと枢は懐に飛び込んだ。
 枢は地面を蹴って跳び、死竜の体を蹴って再跳躍。空中で全身にマテリアルを循環させ、大剣に黒炎を纏わせて振り上げる。
 メリエは死竜の下に潜り込み、上に向かって剣を構えた。力強く踏み込んでマテリアルを込めると、蒼い焔が燃え上がる。
「これで終わりだ! 大地に還れ!」
「もう眠りな――オヤスミ」
 天に昇る蒼焔と、空から舞い降りる黒炎。2つの炎が死竜の上で重なり、巨体を大きく斬り裂いていく。枢が着地した時、死竜の体は縦に両断され、偽りの命も尽き果てた。
 ゆっくりと、傷付いた骸が地面に転がる。そのまま、2度と動く事はなかった。
 敵の撃破を確認し、全員が安堵の溜め息を吐く。セリナは竜に歩み寄り、慣れた手つきで地面に符を並べて死体に水を振り撒いた。この符は戦闘用の物ではなく、祈祷用の物である。
「あるべきものは、あるべき姿に。水が標となるでしょう……」
 竜に祈りを捧げ、土地の浄化を願うセリナ。彼女の祈祷に同調するように、ハンター達は死した竜に黙祷を捧げた。
 冷たい風が吹き、9人の頬を撫でていく。死竜は倒されたが、全ての脅威が去ったワケではない。全ての歪虚を倒す、その日までは……。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 7
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471
  • 強者
    メリエ・フリョーシカka1991
  • 祓魔執行
    央崎 枢ka5153

重体一覧

参加者一覧

  • 遙けき蒼空に心乗せて
    ユキヤ・S・ディールス(ka0382
    人間(蒼)|16才|男性|聖導士
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 無明に咲きし熾火
    マッシュ・アクラシス(ka0771
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬(ka0774
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • 強者
    メリエ・フリョーシカ(ka1991
    人間(紅)|17才|女性|闘狩人
  • Centuria
    和泉 澪(ka4070
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 祓魔執行
    央崎 枢(ka5153
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 符術剣士
    シェルミア・クリスティア(ka5955
    人間(蒼)|18才|女性|符術師
  • 旋雪の望み
    セリナ・アガスティア(ka6094
    人間(紅)|22才|女性|符術師
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/03/09 15:39:05
アイコン うわ何あいつ臭い(相談卓)
アルスレーテ・フュラー(ka6148
エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2016/03/10 02:06:32