穢れなき者

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/08/24 15:00
完成日
2014/08/28 07:12

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●二つのエルフ
 ハイデマリー・アルムホルムのフィールドワークは主に汚染植物の観察とサンプル採取である。
 帝国にある森の多くは何らかの汚染を抱えている。その程度は極僅かな物から人の立ち入りを拒絶するような物まで様々だが、これが結構ちょくちょく状況変化している事があるのだ。
「この森も以前より明らかにマテリアルが正常化しつつある……」
 採取した植物を手に目を細めるハイデマリー。少なくともこの森に帝国軍や錬魔院の手が入ったと言う話は聞いた事がなかった。
 前回たまたまハンターを同行させてからというもの、今日の様に時折ハンターに声をかけ調査に同行させてきた。
 一人でこの研究を続ける為に覚醒者として腕を磨いてきたのだが、そんな努力をするのが全て馬鹿げて思えてくる。自分が調査に没頭してる間、ハンターに護衛なりなんなりさせておけばいいのだ。
 そして今日も快適な調査の途中だからこそこうして考察する余裕もある。この森で今何が起きているのか。
「……ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたから」
 ハンターの呼び声に振り返るハイデマリー。そしてしおれた白い花を差し出し。
「森の汚染が明らかに浄化されているの。それも、森の汚染を物理的に取り除いたとかそういうレベルじゃなく、根本的に」
 APVのリーダー、タングラムが個人的に森の汚染を取り除く為にあちこちで奮闘している事をハイデマリーは知っている。実際、森に出現した雑魔等を殲滅すれば、かなり遠回りだが森の浄化に繋がっていると言えるだろう。
 だが、これはそんな単純な物ではない。短期間で広範囲の汚染を取り除く浄化……。そんな技術、今の帝国にはない筈だ。
「だとしたら、エルフのお蔭かしらね。エルフハイムにはこういう汚染を取り除く技術があるらしいから……。そうね。確かに帝国が嫌いなエルフも多いわ。だけど彼らにとってここは帝国領である以前に、自分たちの住処の近くにある森なのよ」
 そんな話をしているうちに仲間たちも集まってきた。この近辺に危険はない事が確認されると、ハイデマリーはついでに講釈を始める。
「エルフハイムのエルフは“維新派”と“恭順派”と、大きく二種類に分類する事が出来るわ。この中でも色々とあるらしいけど、要は“今のままでいいと思っているのかどうか”なの」
 歪虚の接近やエルフハイムを脅かす様々な脅威、これを何とか解決しようと言うのが維新派のエルフ。そしてこれまで通り、古くから伝わる風習に従って生活を続け、滅びさえも受け入れようというのが恭順派である。
「維新派の中にはエルフハイムの一部を人間に解放しようなんて考える者もいるそうね。実際、帝国と交流を持っているエルフもいるわ。だけど恭順派のエルフは森の奥に閉じこもって外に出てこない。不幸な事に、エルフにとって重要な技術や文化は殆どこの恭順派が占有しているの。そういう意味で、維新派は若いエルフ、恭順派は年老いたエルフとも言えるかしら」
 別に誰が訊いたわけでもないが、説明を終えて満足そうなハイデマリー。それからふと首を傾げ。
「そういえばさっきから全然敵が襲ってこないわね?」
 言われてみるとその通りで、警戒は続けているが雑魔の一匹にも遭遇していない。
 こんな事もあるのかと自分に問いかけながら移動を開始するハンター達。すると遠くから物音が聞こえてくるのがわかった。
「これは……誰かが戦ってる?」
 顔を見合わせるハンター達。ハイデマリーが頷き、一斉に駆け出した。


●逃走
「ジエルデ様、こちらへ!」
 若い男のエルフが手招きする方へ、女はゆっくりと歩いていく。今は急ぎであったが、彼女には走れない理由があった。
 ジエルデと呼ばれた杖を手にした女のエルフは外見上は年若く見える物の、その落ち着いた様子や豪華な刺繍の施されたローブからそれなりの地位、年齢と推測出来る。彼女の背後には戦闘能力を持たない三人の“従者”が、そしてその三人に囲まれるようにして歩く白いドレス姿の少女が続いていた。
「後続の部隊はどうなっていますか?」
「ゴブリンと交戦中ですが……雑魔が出現し、混戦状態となっているようで……」
 ジエルデは唇に手を当て思案する。今活用できる戦力は自分と二名の護衛のみ。従者とドレスの少女は戦力には数えられない。
「この戦力だけでエルフハイムへ帰還する事は不可能です。せめて“器”を抱えて移動する事は出来ませんか?」
「器は決して穢れのあってはならぬ身です。巫女以外が触れる事は許されません」
 だからこの少女はドレスの上から幾重にもヴェールをかけられ、そのヴェールを持ち支え、雑事をこなす為の巫女が三人もついているのだ。
 もしもこの器と呼ばれる少女を抱えて移動するなりできれば離脱は可能かもしれない。そもそもこんなヴェールがなければ移動は何倍も速くなるのだが……。
「器を外界と隔絶する為の封印具は取り外せません。そんな事になれば、器としての精度に支障をきたします」
 敵の足止めと殲滅に残った戦力は精鋭揃い、ゴブリンや雑魔如きにどうにかされるとは思えない。彼らが戦いを終えて追いついて来るまでの間、どこかに身を潜める必要があった。
「こんな形で儀式を中断されるのは不本意ですが、致し方ありませんね……」
「しかしジエルデ様、何故このような襲撃が? これではまるで我々の行動を誰かに予測されていたような……」
 男の言葉を片手で制すると、ジエルデは振り返って器の前に腰を落とす。
「必ず御身は守り抜いて見せます。どうかご安心を、“姫”」
 少女は言葉を返さずただ小さく頷き返した。その時護衛の一人が腰から短剣を抜き構える。
「ジエルデ様、敵です!」
 怯える従者達。ジエルデは立ち上がり杖を向ける。現れたのはゴブリンで、剣を手に飛びかかろうとした……その時だ。
 ゴブリンの横から飛び出してきたハイデマリーがガンケースでゴブリンを殴り飛ばした。続けハンター達が駆けつけ、二つの集団が邂逅する。
「人間……? なぜこんな所に……?」
「エルフ……の……何? 何の集まり?」
 ジエルデは杖に光を集め、ハイデマリーはガンケースから魔導銃を取り出す。色々と不思議な事はあるのだが……。
「囲まれています!」
 護衛の声に眉を潜めるジエルデ。ハイデマリーは銃をゴブリンに向け、僅かに首を擡げる。
「手助けが必要?」
「……甚だ不本意ですが……信用してもよろしいのですか、人間?」
「こう見えても、それなりに善人だって自負してるわ」
 ぞろぞろと姿を見せたゴブリンと雑魔達。幾重にも遮られたヴェールの向こう、少女はいたいけな瞳でハンター達を見つめていた。

リプレイ本文

 周囲はあっという間にゴブリンとスライムに包囲されてしまった。ゼル・アーガイア(ka0373)は銃撃しつつじりじりと後退、仲間と背中合わせに構える。
「結構な数だね。さーて、どうしたもんかな」
「どのような方たちなのか疑問は尽きませんが、ともかく襲われている人たちを放置はしておけません」
「同感! 良心に従ってってところだね!」
 メイリアス=フロストフォール(ka0869)に同意を示すゼル。ハンター達は善意から戦闘に加勢したのだが、エルフの護衛達からの視線は冷ややかだ。
「何故都合よくこの状況で……本当に偶然なのか?」
「ジエルデ様、もしやこの者らが状況を仕組んだのでは?」
 短刀を構えた男達の声にジルボ(ka1732)は深々と溜息を零す。
「そら見ろ、疑われてるじゃねぇか。ヤル気があるのは結構だが、アンタは俺達の護衛対象だって事を忘れないでくれよな」
 頬を掻きながらばつの悪そうな表情のハイデマリー。確かに護衛を依頼しておいて危険に自ら飛び込んでは話にならない。
「それは、ごめん。反省してるわ」
「だったらいいんだがね。弾代は請求させてもらうぞ」
「ゆっくりお喋りしてる暇はねぇようだぜ! 来るぞ!」
 木々の影から様子を窺っていたゴブリン達が一斉に駆け出す。セレナイト・アインツヴァイア(ka0900)は近づくゴブリンを射抜きながら仲間に声をかけた。
 遠距離攻撃手段を持つ者の多いハンター達は器を中心に構え、近づくゴブリンに射撃を加えていく。そんなゴブリンの集団的な動きとは関係なく複数のスライムが防衛線へと接近してくると、リロードしつつゼルが声を上げた。
「スライムにまで囲まれるとまずいね。スライムは俺が引き付けるよ」
「でしたら援護致しますわ。どの道私も突撃するしかありませんもの」
 得物である大鎌を見せながら笑う紅鬼 姫乃(ka2472)。鎌を手に駆け出す姫乃に続きゼルは前進。敵の中に突っ込む二人を仲間達が支援する。
「さあ、行きますわよ……って、あららっ?」
「うわちょっ……ヒメノ!?」
 思い切りブン回した姫乃の鎌は空振りし、ゴブリンにもスライムにも当たらずゼルの前髪を掠めた。とっさに仰け反ったがあんなものが当たったら大変だ。
「失礼致しましたわね。では、気を取り直して……」
 再び鎌を振るう姫乃。長大な獲物は森の中で振り回すにも向いていない。ゴブリンは慌てて刃をかわすが、その間に後衛がやっつけてくれるので、囮としての役割は果たしている気がする。
 姫乃が暴れているのを横目に太い木の枝に飛びつき、幹を蹴って樹上に駆け上がるゼル。そのままうろうろしているスライムへ狙いを定めた。
「なにやってんだありゃあ……? まあ、敵が来ないならいいんだけどよ……」
 冷や汗を流しつつ猟銃に弾丸を込めるジルボ。これは友人のマテリアルが込められた特別性。放たれた一撃はゴブリンを一発で再起不能に追い込んだ。
 セレナイトも近づくゴブリンに狙いを定め矢を放つ。これも友人の祈りが込められた一撃。光を帯びた矢は吸い込まれるようにゴブリンの頭部を貫いた。
「それにしたって数が多いぜ。これだけの数のゴブリン、一体どこから湧いてきやがるんだ?」
 姫乃とゼルが敵をある程度引き付けて、それでも倒しきれない数が次々に襲い掛かってくる。ゴブリンに至ってはまるで何かに取りつかれたかのような必死さだ。

「敵の動き方が少し変わりましたね……」
 遠距離の敵を弓で射抜いていたメイリアスだが、拳銃に持ち替えながら周囲を見渡す。ゴブリンもただ突っ込むのではたどり着けないと踏んだのか、物陰に隠れ再び様子を窺い始めたのだ。
「近づいてこないだけで新手が包囲を強化しているようです」
「一斉に襲い掛かるつもりかしら?」
 スライムはそんな戦術お構いなしにノソノソ近づいてくる。ゼルは銃撃でそれを引き付け、姫乃が一刀両断。ゼルは樹上からゴブリンの牽制もするが、森の中は隠れる場所には事欠かさない。
「奴らどうやらその子を狙ってるみたいだな。オレ達ももっとその子に近づかないと守りきれねーぞ」
 器と呼ばれる少女に近づくサンカ・アルフヴァーク(ka0720)の足取りをジエルデの杖が制止する。
「見た所同族のようですが、だとしてもそれ以上器に近づく事は許しません」
「しかし、その子にもっと近づかなければ守り切れません。信用しろとまでは言いません。危機が去るまでわたくし達の接近を見過ごすだけでいいのです」
「人間が器に近づく事自体が問題なのです。それとも、どうしても器に近づきたい理由でもあるのですか?」
 メイリアスの言葉にジエルデの目線が厳しくなる。ジエルデの警戒心は明らかにエルフと人間とでは雲泥の差があった。
「オレ達だって物見遊山で首突っ込んでるわけじゃねーよ。それにオレはエルフハイムの出身。エルフヘイムの同胞の守護、これは"大樹の樹皮"たる氏族の義務であり誇りだ」
「貴様……維新派のエルフか!?」
 サンカの言葉に突然護衛の一人が反応する。きょとんとするサンカに刃を向け、器を庇うように身構える。
「ジエルデ様! これはやはり維新派のエルフが画策した罠! こやつらに惑わされてはなりません!」
「い、いし……? オレは何派でもねェよ。勘違いすンなって」
「貴様が人間を率いてゴブリンを嗾けたのであろう!? 逆賊め……何が狙いだ!」
「……おい、いい加減にしろ! おまえ達の森の仕来りは知らねぇが、俺だって森の守人だ。俺もサンカもおまえ達も森やエルフへの想いは同じ筈だろ!?」
 敵を警戒しつつ背中に叫ぶセレナイト。しかし護衛の警戒が解ける気配はない。と、その時だ。これまで様子を見ていたゴブリン達が再び襲い掛かってきたのは。
 ぞろぞろと襲い来るゴブリンへ大鎌を振るう姫乃だが、ゴブリンは相手にせず真っ直ぐ器を目指す。思わず舌打ちしつつ一匹だけは引っかけたが、とても押し留められない。
「抜かれた……っ」
 突撃するゴブリンを慌てて引き金を引くメイリアス。護衛達ももうサンカに絡んでいる余裕はなく、短剣を振るい戦うが敵に抜かれてしまう。
「危ないっ!」
 器の傍に仕えた巫女の一人へゴブリンが振り下ろした棍棒をメイリアスは身を挺して受け止める。腕を十字に構えて受けたが、それでも重く響くような痛みが身体を貫いた。
「メイリアス!」
 メイリアスを襲ったゴブリンを樹上から撃ち抜くゼル。だが既に次の敵が近づいてきている。
「逃げてください……次の攻撃は、耐えられません……っ」
 巫女と器に呟くメイリアス。その身体を今度は剣が切り裂こうとした時、側面から伸びて来たのはジエルデの腕だった。
 ジエルデはメイリアスを抱き寄せると同時に杖で剣を受け、白い光でゴブリンを吹き飛ばした。そしてメイリアスの傷に指先を当てると、マテリアルの力で癒していく。
「ありがとう……ございます?」
 ジエルデは何も言わずにメイリアスを解放した。その時見た瞳には何故か憎しみでも怒りでも疑いでもなく、悲しさが宿っているようだった。
「う~む年季の入ったオーラを感じる。こりゃ相当いってるな……」
「ジルボ、上だ!」
 ジエルデの魔法に独り言をぼやくジルボだが、サンカの声で銃口を上にあげた。樹上に登ったゴブリン達がナイフを投擲しようとしていたのだ。
 樹上のゴブリンが一斉にナイフを投擲する。セレナイトはそれに反応し、咄嗟に矢を放った。きらりと光ったナイフが横から矢に弾かれ空を舞う。
 ジルボも素早く引き金を引いた。これは真正面からナイフを弾き、更にナイフを投げたゴブリンまで撃ち抜いて見せる。Mリンクが発動ォオオオした一撃は正確かつ力強い。
 残りのナイフは三つ。護衛の一人が器を庇って受け止め、ジエルデが障壁を作り弾き……残り一本。
 器目がけ真っ直ぐに迫る刃を盾で弾いたのはサンカだった。器の瞳にヴェールの向こうで振り返ったサンカの横顔が映り込む。
「くっ、体が……」
「……おい、連中ナイフに毒なんか塗ってやがるぞ。嫌な予感が当たったな」
 ナイフを受けた兵士の一人が膝を着くのを見てジルボは深々と溜息を零した。遠距離攻撃が来る事はジルボもセレナイトも読んでいた。だからと言って正確な射撃の腕が無ければ簡単にあんな芸当はできなかっただろうが。
「へっ……そう簡単に攻撃を抜けさせてちゃ、森の守人は名乗れねぇ……ってな……!」
 頭上の敵を射抜くセレナイト。メイリアスも復帰し危険な敵の処理に参加する。ゼルも同じ高所という事で敵を撃ち落すのは簡単だった。
「人間が信用できないのは大いに結構ですが、貴方達が優先すべきことは個人の感情ではなく、護衛だと思いませんこと? 今の攻撃がもう一度来たとして、私達なしで守り切れまして?」
 姫乃の声に悔しそうに大地を叩く護衛。ゼルも頭上から声をかける。
「俺達が敵なら身を挺して器を守ったりしないさ! 今倒すべきはあいつら! なら、協力は有利だろ? 手を貸してよ!」
「ジエルデ様……」
 護衛の声に頷くジエルデ。そして僅かに逡巡し。
「信じても良いのですね?」
「ああ。氏族の誇りにかけて誓おう」
 頷き返すサンカ。こうして器への接近を許されたハンター達はより近くに防衛線を敷く。敵はまだ残っていたが、勢いは徐々に衰えを見せていた。
「さあ、もうひと踏ん張りだ!」
 セレナイトの鼓舞を受け気を入れ直し構えるハンター達。ゴブリンも最後の死力を尽くし突撃をかけてくる。
「おまえらと争う理由はないんだが……依頼人の御守りをしなきゃならんのでね。ま、運が悪かったな」
 がむしゃらに突っ込んでくるゴブリンを撃ち抜くジルボ。メイリアスも引き金を引き、セレナイトは矢を放って迎撃する。
「あぁ、こんな所にゴミがっ。邪魔だから蹴ってしまいましたわぁ♪ フフフ……さあ、どんどんかかっていらっしゃい。みーんなゴミにしてあげますわ!」
 敵の死体を踏みつけながらニタリと笑う姫乃。大鎌を振るいゴブリンを両断し、ついでに他の敵にも引っかけて転倒させる。
 一方器を挟んで反対側ではサンカが太刀でゴブリンを斬りつけていた。まだ動ける護衛と連携し、共に敵を倒していく。
「くっ、維新派エルフと肩を並べて共闘など……」
「納得いかねェか? だが世の中大抵そンなもんだったぜ」
 遠距離攻撃で倒しきれない敵は前衛職が押しとどめ、それでも抜かれるようならばジエルデが迎撃する。
 戦いは随分と長く続いたように思えたが、やがてゴブリンの攻めも途切れる。逃げ出し始めたゴブリン達も、最後まで悔しげに、そして恨めし気に鳴き声をあげながらハンター達を睨み付けていた。


「やっと終わったか……しかし何だったんだ、連中の必死さは?」
 銃を降ろし息を吐くジルボ。人質を取って交渉なんて事も考えていたが、ゴブリンは皆命懸けの特攻と言った有様で通用しなかっただろう。
「それだけ重要な方達なのでしょうか」
 メイリアスの声に振り返るジルボ。戦いがひと段落すると、ジエルデは改めてハンター達と向き合う。
「結果的にとは言え、助けられたことは事実。感謝しています」
「そいつはどうも。見た所、散策に来たようには見えねぇけど……安全な場所まで護衛していかないで平気か?」
「いいえ、護衛は必要ありません。それよりも確かめたい事があります。今回の件、あなた達が居合わせたのは偶然なのですね?」
「偶然だよ、偶然! ほら、敵意もないし! そっちこそ事情があるなら話してみない? 何か助けられるかも知んないしさ!」
 銃を地面に置いて手を上げるゼル。セレナイトも同意するように頷き。
「何かするんならその間護衛を引き受けても構わねぇぜ。な、ハイデマリー?」
 恐らくハイデマリーは彼女らが何をしていたのか気になっている筈だ。気を使い話を振ったセレナイトにハイデマリーは前に出る。
「私達が居合わせたのは偶然。そしてあなた達がここにいるのは、森の浄化の為でしょう?」
「わかるのですか?」
「そりゃ、浄化の研究者だしね」
「オレ達は正式な依頼手続きを踏んできたハンターだ。素性が怪しいってンなら、オフィスに問い合わせてもらっても構わねェぜ?」
 サンカの言葉に納得したのかしないのか、ジエルデはそれ以上ハンター達を追及する事はなかった。
「大体片付けたとは思うが、まだ近くに敵がいるかも知れねェな。こちらでもう少し索敵してみてもいいが……」
「その必要はありません」
 突然ジルボが声をあげたので振り返ると、ジルボの背後に黒装束のエルフが立ち、彼の喉元に刃を突きつけていた。
 それだけではない。今まで気づかなかったが、かなりの数のエルフがハンター達の周囲に音もなく姿を見せていた。
「ジエルデ様、この者……パルムに器を記録させようとしていたようです」
 両手を上げ、冷や汗を流しながら苦笑を浮かべるジルボ。パルムも捕えられ、エルフの手の中で小刻みに震えていた。
「放してやりなさい。器の事は秘密ですが、パルムはその性質上、禁忌をむやみに他人に提供したりはしません」
 男は袖に刃を隠し、すっとジルボから身を引いた。解放されたパルムは泣きそうな様子でジルボの足に縋りつく。
「とはいえ……他人の秘密に踏み入ろうというのは感心しませんね。その下世話さは所詮人間という事ですか」
 腕を組み首を横に振るとジエルデは軽く腕を振るう。隠密の戦士達は器を護衛するように付き添うと移動を開始した。
「あの~、その子に一言ご挨拶申し上げるのは……」
「器は決して言葉を話してはならない立場です。人間と交わす言葉など持ち合わせていません」
 完全な拒絶を受け姫乃は肩を竦めた。サンカは立ち去っていく器の背中をただじっと見つめ送った。
「ふう……あれはエルフハイムの警備隊の中でもやばい類の連中ね。長老クラスの直衛隊って所かしら」
 エルフ達が見えなくなるとぽつりとハイデマリーが呟く。サンカは腕を組み、異様な集団を思い返してみる。
「オレもさっぱり聞いた事がねェな」
「堅苦しいというか、融通の利かない人達でしたわね……ふわぁ~……」
 退屈そうに欠伸をする姫乃。メイリアスは考え込むように唇に手を当て。
「ですが、あの方は……とても辛そうな目をしていました」
 人間を拒絶しているのは間違いないのだが、メイリアスを助け、戦闘が終わった後には傷の手当てもしてくれた。
 腕に巻かれた包帯を見つめていると、ジエルデが何を考えているのかよくわからなくなる。
「エルフハイムの器、か……」
 銃を肩に乗せ呟くと、ハイデマリーはハンター達に引き返すように指示を出した。あの様子なら護衛も必要ないだろう。
 森の中で出会った者達は、また何事もなかったかのようにお互いの道へと引き返して行った。

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MVP一覧

  • 森の守人
    セレナイト・アインツヴァイアka0900
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボka1732

重体一覧

参加者一覧


  • ゼル・アーガイア(ka0373
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士
  • 大樹の樹皮
    サンカ・アルフヴァーク(ka0720
    エルフ|18才|男性|闘狩人

  • メイリアス=フロストフォール(ka0869
    人間(紅)|20才|女性|猟撃士
  • 森の守人
    セレナイト・アインツヴァイア(ka0900
    エルフ|25才|男性|猟撃士
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士

  • 紅鬼 姫乃(ka2472
    人間(紅)|17才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談用卓
サンカ・アルフヴァーク(ka0720
エルフ|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/08/24 13:03:00
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/08/19 23:09:04