疑惑を暴く闇夜の使者となれ

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/08/25 15:00
完成日
2014/08/31 22:43

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「クリームヒルト様、失礼しますぞ」
 普段は自分から動くことの少ないアウグストがそう声をかけたのは朝方のことだった。身支度を整えていたクリームヒルトであったが、アウグストの切羽詰まった声色に、スイッチが入ったかのように、クリームヒルトは気を張り詰めて警戒しながらの応答した。
「どうしたの?」
「怪我をした男が、ここに助けに求めてやってきております。こんな時間に申し訳ございませんが、ただならぬ様子ゆえ、ご報告をい」
 アウグストの冗長な言葉を遮るようにしてクリームヒルトは扉を開けると、髪をざっくばらんに整えつつ廊下を走り、階段を三段飛ばしで降りると、メイドに介抱される男の姿を見ることができた。肌の見える部分はあちらこちらにアザが浮かび、ところどころに走る裂傷はムチであることを想像させた。思わず恐怖の感情が沸き起こるが、クリームヒルトは息を軽く飲んだ後、静かに歩み寄った。
「もう、大丈夫ですよ……」
 どんな言葉をかけたらいいのか迷うところはあったが、意外にもその言葉は自然と出てくることができた。男は痛みに堪えて何かを伝えようとしていたが、クリームヒルトの言葉と真っ直ぐな瞳を前にして安息のため息をついた。意志が伝わったのだ、とクリームヒルトは感じ取っていた。そしてそれをしっかり聴きいれるのがこれからの自分の役目なのだと。

 医者の手当を受けた男が話した内容はまるで別の国、王国や同盟領や辺境などではなく、少なくともクリームヒルトが知っている場所の話ではないような気がした。
「ですが事実なのです。12年前の革命以後、生活が立ち行かなくなって借金を抱えた人間はゴマンといます。家も財産もむしりとられた上、鉱山で奴隷のような働きを強いられる。アドランケン鉱山で働くのはそんな人間ばかりです。休みもなく働き続けて、少しでもへたり込もうとしたら拳かムチが飛んできます。死んだらその辺に捨てられて新しい犠牲者が補充される。私は……逃げ出してきました。家族や仲間が傷つけられより酷い運命になるかもしれないけれど……!」
「……大丈夫。あなたは生きてここにたどり着いたよね? それはきっと他の人たちの思いがそうさせたんだと思うの。その思いを失わせることはわたしはしない」
 震える男にクリームヒルトは静かにそう言った。
 意志は人に受け継がれるものだ。意志は遺志となり、また意志に生まれ変わる。そうして関わった人すべてに波及していく。それはクリームヒルト自身がよく分かっていた。
 12年前、帝国の革命が起きた時、クリームヒルトは6歳だった。帝国皇帝の子女としてバルトアンデルスの城に多くの臣民にかしずかれるような生活はもうあまり記憶に残っていないが、革命の戦士と戦う騎士の顔や声はいまだに思い出す。彼らの後ろ姿が語る意志は、いまだにクリームヒルトの中で息づいていた。
 今度は自分が助けるのだ。剣を持つ腕もなければ、奔流のような知恵もなくとも、できることはあるはずだ。
 横で話を聞いていたアウグストはクリームヒルトと男の会話に間ができたのを確認して、ぼそりと呟いた。
「ふむ。アドランケン鉱山といえば小さいながらも国有鉱山でしたな。帝国がそのようなことをしているとは……」
「国有鉱山? いいえ、帝国の役人なんてみたことありません。帝国のシンボルですら見たことありません」
 男の言葉に、一同は顔を見合わせた。
「アドランケンに複数の鉱山があるとか?」
「そんなことしたら採掘権の問題が起きます。考えられるのは、鉱山の所有権を何らかの手法で今のオーナーが手に入れたということですが、恩賞で鉱山を与えられるなど聞いたことはありません。国から買い取るなどとなれば莫大な金が動きます。それならこちらの耳にも入るはず。残る手法は……無断で私物化したということくらいしかありませんな」
「私物化!?」
「革命の際に、かなりの書類などが失われました。大事な物は回収に人手を割いたり、文官が再作成をするなどしてカバーをしているという話ですが、小さなものなら私物化し、関係者に金品を与えて口封じするなどすれば、歪虚との戦いに明け暮れる今の帝国なら隠し通せるかもしれません。今の帝国は首都と前線には詳しいが、その間にある各地方のことにはとんと疎いと聞き及んでおりますぞ」
 アウグストの推察に、クリームヒルトはしばらく開いた口がふさがらなかった。普段は食べることしかしていないあの口から、そんな鋭い推理が出てくることにも驚きだが、政治腐敗を一掃するために革命の狼煙をあげた現帝国においても腐敗が消えてなどいないという事実に唖然とするのだ。
「ということは鉱山のオーナーを懲らしめる方法があるの?」
「鉱山の所有権に関する書類はオーナーが必ず持っているでしょう。無いと万が一の時に言い逃れできませんからな。しかし、同時にそれがアキレス腱にもなりうるでしょう。もし白日の下に晒された場合、オーナーは即監獄行きですな。正当な理由なら書類もちゃんとしているはずですが、人を死ぬまで働かせるようなやり方をするような人間には見込みはありませんな」
 アウグストの答えは明確にクリームヒルトにやる事を示唆しているのは間違いなかった。クリームヒルトは窺うようにアウグストに話しかける。
 人と人をつなぐ。今の出来事においてそれは自分にしかできないことだろう。
「わかった、ハンターにお願いしてみる」
 クリームヒルトは男にもう一度、安心して、と声をかけると早速ハンターソサエティに向かって走り出した。

リプレイ本文

 静まり返った夜のアドランケン鉱山。街灯はなく、オーナーの事務所とされる建物と労働者の宿舎とされる建物の二つだけに明かりが灯っているが、それも小さなもので、辺りを見渡せるような代物ではない。風はなく虫の鳴く音すら聞こえぬ。この世界で唯一輝いていた月すらも雲に隠れて見えなくなってしまう。
 闇は深くなる。影が動き出す時間の始まりだ。

「おーぅ、てめぇ人の飯食らっといてなにいーやがるぅ?」
「あァ? 勝手な言いぐさするんじゃない、証拠でもあるのか、証拠は」
 夜闇にタバコに灯る小さな赤光とともに、大きな声があがった。不明瞭な呂律で、声のトーンもやたらに乱れる。その不意の声に事務所にともっていた光の動きが変わった。事務所を警備していた者がこちらに警戒を向けた証拠だ。
「おい、消灯は過ぎているはずだぞ。どうやって抜け出した」
「よー、警備員さんよぉ、こいつぁーな、配給のメシを配るフリしてぇ、ピンハネしやがるんだ」
「ふざけるな、さっさと食べて、他人のメシまで手を出そうとしたのはお前だろう」
 警備員が上杉浩一(ka0969)と天音 恭一郎(ka3034)の間に割って入って詰問するが、二人は警備員の言葉を聞き流した。周りは異常に酒臭い。これは一人では対応しかねると踏んだのか、警備員は入り口にいたもう一人の警備員に労働者の宿舎にい仲間に応援を頼みつつ、武器を抜き放つ。
「そんな話はどうでもいい。どこで酒を手に入れた、どうやって抜け出したかも聞かせてもらうぞ」
「酒くらいいいだおーが!」
 上杉は喚きながら点けたばかりのタバコを吐き捨てて、警備員に突っかかった。
 その途端真横から風が吹きあがり、宵が払われていく。タバコの火が積んであった藁に引火したのだ。それでもこんなに早くは火は上がったりしない。警備員は辺りの強烈な酒気が二人だけのものではないことにようやく気がついた。
「なんてことするんだ、水だ、水を持ってこい!」
「水ぅ? 水ならここにあるろぉ」
 上杉は手にしていた酒ビンをそのままひっくり返して火の手に落とした。途端に強烈になる炎。
「貴様っ。おい、早く誰か呼んで来い!!」
 警備員は捕縛するか火事の収拾するか、明らかに混乱していた。その為か警備員がいくら武器を振るおうともちっとも当たらない。その隙に上杉はさらに酒を振りまいて火事を広げていく。警備員はもう必死になって火のように顔を真っ赤にしていた。
 そんな警備員越しに天音は宿舎をみやった。そこに向かった警備員の影がちらりとだけ見えた。影は潜んでいたカダル・アル=カーファハ(ka2166)の影と重なり、そしてずるり、と地に闇と同化して消えた。
「鉱山丸ごとの騒動にするのはもう少し後にしてからなんだよ。悪いな」
 これで少なくとも二人の警備を引き離すことに成功した。残った警備員も退屈な夜中の騒動に気はそぞろになっているはずだ。
 上杉は事務所が火事にならないように適当に距離を置きつつ、酒を次々とばらまいていきつつ歌うように叫んだ。
「後は、野となれ山となれ、だおぉ」
 それは仲間たちへの合図でもあった。


 ロビーは外見よりも遥かに豪勢で、高価そうな絨毯が敷き詰められ、精緻な細工を施した壺やら彫刻やら、絵画など、美術品で埋められていた。それがこの鉱山がどれだけの収入を上げているのかうかがわせる。
 リーゼロッテ(ka1864)は仲間に指を3つ立てて見せた。それを見た者たちは軽く頷くと四散して、物陰や天井などの影に溶け込んだ。それぞれが場所を探すでもなく、すぐさま視界から消失するにはそれなりの下見をしてきた証拠でもある。
 リーゼロッテの立てた指は3つから2つ、そして1つへと、一定の間隔で減っていく。そして腕ごと下ろしたのと同時に、警備員の高らかなブーツの足音が響いてきた。警備員は二人。まるで揃えたかのように別々の方向からやって来て、互いの顔を確認して頷いた。
「異常なし」
「異常なし」
 その様子に、思わずスフィカ・ゲーヴェルツ(ka3030)は笑いそうになった。確認をしあうという意味では効果的なのだろうが、その挙動はオモチャのようだったし、何よりも異常は気づいていないだけで視界に存在しているという滑稽さが笑いを誘うのだ。
 警備員がまた違う扉へと向かってロビーから消えていくまでスフィカは何とか吹き出すのを堪えることができた。
「次は30分後。事務所は40分後に来るから気をつけてね」
「分かった。さて、人類の守護者と自称する帝国の影から何が出てくるやら楽しみだねぇ」
「それは同感。どんなのが出てくるか楽しみだわ」
 ヒース・R・ウォーカー(ka0145)は皮肉をこめた笑みをこぼすと、リーゼロッテもさも嬉しそうに答えた。気鋭に富んだ帝国の暗部が見られるということは影に生きる人間たちには、ある種の親近感を見出すようなゲームに感じていた。人は所詮人なのだという結論を見出す、暴露ゲームのようなもの。
 それぞれは再度、頷きあうと執務室へと向かい、ヒースのみ事務室へと向かった。

「お仕事、お疲れ様……っす」
 執務室前に警備員にぽそりとスフィカが囁いた。
「!!」
 反射的に武器を掲げようとするが、次の瞬間、廊下の影から跳ね上がったスフィカのダガーの柄がみぞおちに食い込んだ。
「て、敵……がふっ」
 急所に一撃を叩きこまれた警備員は一瞬、目から光を失いかけたが、それでも持ちこたえた。しかし、Charlotte・V・K(ka0468)のしなやかな足が鞭のように首筋に叩き込まれるとそのまま崩れ落ちてしまった。
「どうするのよ、隠すの面倒よ?」
「扉の前から動かないのだから仕方あるまい。こいつが上杉たちの喧嘩を見物しにいってくれたなら穏便な手段も選んだかもしれないがな」
 リーゼロッテの抗議も馬耳東風とばかりに聞き流し、Charlotteは意識を失った警備員を扉の前から引きはがし、そのまま拘束していく。空いた場所にはレイ=フォルゲノフ(ka0183)が入り、ツールを使って扉の開錠を試み始めた。
「ブラックな職場の割には、けっこう真面目なヤツ多いっすよね!」
「法に従う人間はその外側に生きる人間に憧れなびく。そして外側の人間は既存の社会がなければ生きていけない。互恵関係なのよ」
「はー……リーゼロッテさん、フクザツなこと考えているんすねぇ」
「坊やには少し早かったかしら?」
「坊やじゃないっす!」
 むきーっとスフィカが抗議の声を上げようとした途端、レイが素早くその口をふさいだ。
「あーあー、おまえがべっぴんなお嬢ってのはみんなよう分かってるで? ただ、もうちぃっと静かにしてくれんやろか? これから本番やさかいな?」
「なんだ、もう開いたのか」
 目を丸くするCharlotteにレイは、鍵代わりに使った針金をクルクルと回して笑顔を作った。
「ま、こんなん得意分野やからね。さて……と」
 針金をしまったレイは、少しだけ扉を開けると手鏡で中の様子をうかがう。そこに人のいる気配はしない。のを確認して、そっと扉を押し開けて部屋に入った。Charlotteは意識を失った警備員ごと部屋に引きずり込む。
 部屋の中は、また美術品の塊のようなもので、賞状や絵画などをが一面に飾れたロビーより輪をかけて悪趣味に見えた。
「さーて、お宝はどこっすかねぇ~」
 レイはぐるりと執務室を見回した。生業の勘が自動的に探すべき場所をピックアップしていく。
「にしても成金趣味やなぁ……こういう人間は小心者の割に、気が大きくなって何でも雑に扱うものやで」
 レイの言葉を聞いて、スフィカはさっさと大きな机の前に移動する。ああ、なるほど。大事そうな帳面や、金額の書いたメモなどが乱雑に置かれている。これらをまとめた帳簿と鉱山の権利書があればいいのだが……スフィカは自分の直感を信じて、机から視線を外し壁に飾ってある賞状に目を移した。
「あ、これ、権利書じゃないっすか?」
「本当だな……名義は、オーナーになっている……?」
 Charlotteが近づいて権利書を確認すると確かにこのアドランケンの鉱山の権利を有し地域の採掘権を与えるという帝国からの書面、権利書であった。しかし、話では権利書は国がオーナーは私物化しているはずなので、目の前の権利書とは話が食い違ってくる。
 Charlotteは額縁を下ろし、その中身を取り出そうとして、ようやくその権利書が2枚あることに気付いた。重なって見えなかった方は形式はそっくりだが古めかしく、そして内容国はこのアドランケンに鉱山を作り、管理するというものだ。
「……ビンゴ、やね。帝国がもし見に来たら、入れ替えて後は口八丁ってとこなんやろうな」
「やれやれ久し振りに救えない屑を見た。中身もそうだが、頭も相当だな」
 偽の権利書を破り捨ててやろうか、とCharlotteが考えた時、不意にけたたましい音が鳴り響いた。
「!?」
「あの警備員……!」
 音は先ほどの警備員からだった。権利書に気を取られている間に意識を取り戻したようで、腰につけていた緊急用のベルを動作させたのだ。手も足も拘束しているのに鳴らせるということはそれなりに工夫されているのかもしれない。素早くリーゼロッテが走り、睨みつける警備員の口元を抑え、喉にショートソードの柄を捻じりこんだ。
「いい加減、止まるっす!」
 スフィカが素早くオートマチックピストルを撃ちベルを貫いた。音を立てないように気を付けるために使用は控えていたが、緊急時なのだから仕方あるまい。その間にレイは床に耳を付けて音を探った。明らかに足音を伝える振動は乱れ、話し合うような音も響いている。
「やっぱりあかんな。宿舎側の警備員も来たら、ちょっと面倒になるで。とりあえず権利書だけ奪ってオサラバしよか……オーナーと競争になってしもたな。警備員をかき分けて進んで間に合うか、どうか」
「そういうことなら任せるっす。先に権利書だけ届けてしまえばいいっす! Charlotteさん、窓お願いするっす」
「わかった」
 スフィカは素早く真偽両方の権利書を折りたたむと矢に結びつける間に、Charlotteが魔導銃で、蝶番を壊した後、殴りつけて強引に開けた。そしてスフィカがボウを引き絞り、闇に向かって目を凝らす。闇の向こう側。この鉱山区の彼方。一本のケヤキの袂。そこで息をひそめる彼の元へ。
 矢が、飛んだ。

「ナイスコントロール。あいつ、意外とやりやがる」
 宿舎への連絡をしようとしていた警備員を殴り気絶させておいたカダルは、鋭敏な視覚で飛来した矢を見つけるとへし折って、スフィカからの権利書を抜き去った。
「さて、もう一つ仕事してくるか、こちらカダル、ずらかるぞ。帰り際に『岩』を飛ばしてくれ」
 トランーバーで上杉と天音に連絡をいれると、カダルはクリームヒルトが準備しておいた馬に飛び乗った。連絡をアウグストのいる館まではそう遠くない。オーナーがどんな手を打ったとしても、この時点で彼が地獄行きになったのは確定だ。カダルがきっちりと待機していたのが功を奏したのだ。

「さて、うちらも出ましょか」
「私はもう少しだけ用事がある……騒ぎになった以上は隠れる必要もない。裏帳簿も見つけて帰らないとな」
 Charlotteは今度こそ完全に意識を失った警備員の首根をつかんでぼそりと言った。
「今から!?」
「もちろん今からだ。先に行ってくれて構わん」
 冷ややかな黒い瞳が扉を見ていた。足音が聞こえるのはさて、どんなオーナーだろうか。さて、どうしてやろうか。Charlotteの口元は吊り上がり、心が高揚するのを感じていた。足音が扉の前でぴたり、と止まる。そしてドアノブが回る。
 開いたドアの隙間にむかって、Charlotteは高速で魔導銃を差し込んだ。
 それと全く同じスピードでナイフがCharlotteの喉元に突き付けられる。闇に浮かぶ金色の瞳。
「こんな時のハンドサインも作っておけばよかったねぇ、味方だよ、っていうことと、裏付け証拠も確保したってことをねぇ」
「ヒースか……裏帳簿見つけたのか?」
 ヒースの言葉に、Charlotteは目を丸くした。その証拠に、とヒースはいくつかの資料をパックに入れているのを見せた。
「完全な証拠じゃないけどねぇ、まあ、金の貸付と、労働者の登録名簿と、作業内容の記録、鉱石の卸先……合わせで一本とれると思うけれど……どうかなぁ?」
「なるほどな、金を貸したヤツが労働者に流れる、鉱山の卸先を洗えば癒着している相手も浮かぶだろうということは立派なストーリー組みあがるで」
 レイの言葉にリーゼロッテはやや懐疑的だった。
「そうかしら、役人がそこまで想像力豊かだとは思えないけど。まあ、あのお嬢ちゃん次第よね」
「それじゃ、さっさとずらかるっす!」
 スフィカが勢いよく、窓から飛び出て、残りの仲間たちもそれに続いていった。

「ああ、もう良さそうだね」
 天音は顔の汚れを落としながら、先ほどの演技とは全く別人のような涼しげな声でいった。先ほどの広場をはるか眼下に収める、山の上で二人は少しばかりの休憩をとっていた。
 注意を引きつけていた警備員は警報のベルが鳴ったと同時に上杉の一撃によって沈んでいた。酔ったふりをするだけでも一苦労だが、殺しても問題ないと言わんばかりの警備員の攻撃を避けて続けるのはたいそう骨のある仕事だった。
「予定外も色々あるもんだね、ま、これで片も付くだろ」
 紫煙を吐き出した上杉は邪魔くさそうに立ち上がった。横には大岩、小岩を詰め込んだ木枠があり、太いロープが上杉の目の前を走っていた。そのロープの先端を軽く引っ張ると結び目がほどけ、たちまち岩は引力に従って落下していき、轟音と共に事務所へと目指していく。上杉はロープを束ねて回収すると、先にいった天音の元へと向かいつつ、呟いた。
「全く、やれやれ、だ」


「皆様、ありがとうございました。おかげであの鉱山のオーナーは無事に捕まえられましたの。無理やり働かせていた人達も解放されたんです!」
 クリームヒルトは心底嬉しそうにハンター達に報告してくれた。瞳を輝かせる彼女に天音は優しく頭をなでてて言った。
「お嬢さん。君の願いは叶ったかい?」
「はい、皆様がいなければ叶わなかったことだと思います。わたし、これからも人々が幸せになるよう働きかけていきますねっ。今の帝国で不幸な人がたくさんいるってわかったの。わたしは、わたしの立場でできること、色々やってみつもりです」
 ハンターが救ったのは、労働者だけではない。クリームヒルトが立つ勇気も与えたのだと実感したのであった。

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MVP一覧


  • 天音 恭一郎ka3034

重体一覧

参加者一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 優しさと懐かしさの揺籠
    レイ=フォルゲノフ(ka0183
    エルフ|30才|男性|疾影士
  • 金色の影
    Charlotte・V・K(ka0468
    人間(蒼)|26才|女性|機導師
  • 売れない探偵
    上杉浩一(ka0969
    人間(蒼)|45才|男性|猟撃士
  • Slum Nail
    リーゼロッテ(ka1864
    人間(紅)|20才|女性|疾影士
  • 血の渇望
    カダル・アル=カーファハ(ka2166
    エルフ|35才|男性|霊闘士

  • スフィカ・ゲーヴェルツ(ka3030
    人間(紅)|14才|女性|猟撃士

  • 天音 恭一郎(ka3034
    人間(蒼)|28才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
上杉浩一(ka0969
人間(リアルブルー)|45才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2014/08/24 22:36:34
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/08/24 21:00:17
アイコン 相談卓
ヒース・R・ウォーカー(ka0145
人間(リアルブルー)|23才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/08/25 14:48:33