• 審判

【審判】王国終末論 天使の導く新世界

マスター:藤山なないろ

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
  • relation
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/04/01 19:00
完成日
2016/04/18 16:56

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●作戦概要

 グラズヘイム王国各地で勃発していた『エクラ教巡礼者襲撃事件』。
 それがエクラ教から改宗した人々を中心に組織される新興宗教『テスカ教団』によって引き起こされている事件であるということ。そして、その教団を導くのが『ベリト』という名の歪虚であることが判明してからしばし──
 今、この国には史上最悪の危機が訪れていた。

「昨年より我が国でエクラ教信者襲撃を繰り返していたテスカ教団が、歪虚の軍勢を率い王都に向けて侵攻中との報せが入った」
 騎士団本部の作戦室の中、集った幹部級、或は役職付きの王国騎士たちはある人物の話に耳を傾けていた。
「敵首魁と思しき歪虚の名はベリト。種別は現時点では不明。過去の交戦実績などから嫉妬か傲慢の類ではないかと予測されている」
 ──その人物の名は、エリオット・ヴァレンタイン。
 王国最強の騎士団を率い、この国の軍事指揮権を持つ最高位の騎士だ。
「此度の歪虚軍の侵攻も、奴が指揮していると目される。ベリトは現在軍本隊の最後尾をゆっくりと前進している」
 歴史ある王国騎士団本部に少々不似合いなモニター。
 国の地図が映し出されていた画面奥より飛び出して来た小窓には、翼を持つ美しい女の絵が表示されていた。
「それと同時に、国内各地のエクラ教の巡礼路にも、同様に歪虚が集いつつある。エクラの巡礼は、この国が、エクラ教会が、長く続けてきた伝統であり国益に関わる儀式でもあると伝えられている。故に、それを阻む歪虚の掃討は、歪虚軍対応と同様に急務であると通達があった」
 エリオットは、卓につく騎士たちの顔を見渡し、そして固い決意を表す。
「我々王国騎士団は、これより聖堂戦士団、貴族諸侯、並びにハンターと共にこの史上最悪の災禍に立ち向かう」
 騎士たちから声が上がった。それは強く示された賛同の意。
「各隊の長に従い、直ちに作戦行動を開始してくれ。ダンテ不在につき赤の隊は俺の指揮下に入ってもらう。質問は」
 騎士の1人が、少し戸惑った表情で手をあげる。
「昨年より騎士団でエクラ教巡礼者の襲撃事件に対応を続けてきた我々は、この事件の黒幕であるテスカ教団が歪虚に与する組織であることを理解しています。ただ、なぜ奴らがエクラの巡礼にこだわるのか。それだけが、解らないのです」
 エリオットは指摘された問いに言葉を選びながら、真っ直ぐにこう答えた。
「先の北方動乱において、茨の王討伐に法術陣という秘術が行使されたことは記憶に新しいだろう。あれは国と教会が長きにわたって守り継いできた国防に関わるものだ。最近の調査では、法術陣はエクラの巡礼によってエネルギー源となる正のマテリアルを吸収、貯蔵していたということが明らかになっている」
 その言葉に、腹心中の腹心──白の隊の女性騎士フィアが声を上げた。
「……それは、我々が“知ってもよい”情報ですか」
「お前たちを見込んで話している」
 一息ついて、仕切り直すようにエリオットは続ける。
「法術陣が発動することで、この国には大いなる加護がもたらされると言われている。古代の技術であり、発動の記録も残っていない以上“それ以上のことは現時点では解っていない”が」
 男の言葉に少し気にかかる部分があったものもいただろう。だが、話はまだ半ば。
「だが、一つ言えるのはそれを歪虚が何らかの形で利用しようとしている、ということだ」
「歪虚が法術陣を利用すると……どうなるのでしょう」
「敵将ベリトの言葉を引用すれば“法術陣を通り、偉大なる存在が顕現する。その時こそエクラに代わり我らが神が世界を救うとき”……テスカ教団における救いとは死による安寧。つまり、法術陣によってこの世界を死に追いやる災厄を生み出そうとしているだろう」
 その言葉にフィアが息をのみ、言葉を失った。しかし、その時──
「なに、事態は深刻だが状況は悪くない」
 そういって、エリオットは自分の椅子に深く腰掛けた。
「頭のおかしな黒大公のように目的もわからず気ままに現れては去っていく歪虚より、ベリトのように目的が明白で計画的な奴を止めるほうが遥かにましだ。敵のやりたいことが分かっているなら、阻止のしようがあるだろう?」
 突然の砕けた物言いに目を丸くするフィアや騎士の中、同席していたハンターたちはどう思っただろう。
「さて、件の軍勢対処に当たり、現在“各地から多数の戦力を集約させている”最中だが、これ以上連中を王都に近づける訳にはいかない。先んじて、第一陣として皆には直ちに出陣してもらう」
「……“第二陣”到着まで歪虚軍を足止めし、合流後全戦力をもって敵を掃討する、と」
「ああ。“増援”まで無茶をすることはないが、倒せる個体は倒してしまえばいい」
 自らの手に視線を落として眉を寄せていた青年だが、ややあって彼は凛とした声で騎士たちを送り出した。
「信頼する部下たちに作戦を託すことができるのは俺の幸運だな。……国の命運を分ける戦いだ。どうか、頼む」

●敵将対応部隊

 ハンターと、エリオットの腹心フィア率いる白の隊の精鋭たちの混成部隊は、王都から西方の都市に設置された転移門をくぐり、巡礼路をゴースロンで全力移動中だった。
「作戦概要は理解していますね? 私達は敵将ベリトの対応を任された特務部隊です」
 馬を駆るフィアは前だけを見つめて声を張る。
「前方、左翼、右翼……敵軍本隊を囲うように王国軍が迎撃を開始します。その苛烈な攻撃の中、私達は本隊最後尾に襲撃を仕掛ける手はずです」
 軍の中央に位置していないあたり人間を馬鹿にしているのか、あるいは最後尾につく理由があるのか──それは解らないが、バックアタックを仕掛けることができれば、ベリトまでは「すぐ」だ。
「当然、ベリトの周囲には取り巻きの歪虚が居ます。前回の報告では、数はさして多くはない……他の王国騎士隊が、ベリトまでの道を抉じ開けます。ですから」
 視線をすいと動かし、ハンターたちの顔を見やる。
「貴方がたには、私達と共にベリトの初動対応に出て頂きます」
 女の視線は、随分鋭かった。
「最も重要で、そして最も危険な役どころでしょう。──私達にお任せ下されば、とも思いました」
 小さく息を零し、けれどフィアは真っ直ぐに告げる。
「ですが、ベリトが頭の切れる個体であるのなら、日頃の訓練や作戦で統率された動きの我らより“未知の力”を試したいという長のご意向に従います。覚悟は宜しいですね」
 前方には黒い影──目標の軍勢まであと僅か。
 その時、前方の黒い影の中から翼を持つ女、ベリトが振り返った。
 纏った白いローブを突き破るようにして除く大きな白い翼。慈愛に満ちた美しい顔。
「安寧への旅路もじき終焉。手緩い歓迎に退屈しておりましたから、少し“休憩”を挟んでも構わないでしょう」
 女は、小鳥がさえずるような声でこう謳った。

 ──さあ、この世の終わりを始めましょう。

リプレイ本文

●初動の焼失

「目標まであと僅か! 各員、担当へ当たって下さい!」
 誠堂 匠(ka2876)の指示に従い、鎌を持つ歪虚を担当する騎士らが馬上から声を上げ突撃行軍中。
 対する歪虚軍首魁ベリトは穏やかな微笑を湛え、彼らを見つめていた。
 何かを仕掛けてくる様子はない。言葉通り、この戦いすら「休憩の余興」とでも思っているのだろうか。
 アイシュリング(ka2787)の視線が鋭さを増す。
 ──弱者の魂を救済するという自信に満ちた言葉や、羽を持ち人間と違いを出した姿もそう。
 少女は、天使の姿をしたそれに強い"傲慢"を感じていた。
「報告書でもそうだったけれど……人間風情に、自ら手を下すつもりはないってこと?」
 だが、彼女の言う通りかもしれない。
 ベリトが人間に直接に手を下した事例は、過去にない。これまでの事件は、彼女が生み出した、或は彼女に畏怖を抱いた者や崇拝した者が起こしてきている。ならば今この時においても、彼女の取り巻きが無防備に待ち受けるなど有り得ない訳だ。
 天使たちはハンターと騎士らの連合部隊を迎え撃つべく、得物をかざし、ある者は何らかの詠唱を開始。
 しかし、それを打ち消すように鳴り響く銃声。それは2人の猟撃士が馬上より放った制圧射撃だった。
 1人が鎌をもつ天使へ、そしてもう1人が右方に位置取る杖を持つ天使へ。
 接近まで連合部隊を集中砲火させないよう、各々が担当に割り振られた歪虚を弾幕で圧倒し続けている。
 けれど、あと一人……杖をもつもう一体の歪虚が詠唱を終えてしまった。
 天使の頭上に巨大な炎が渦を巻き、大きな玉となって連合部隊に向けて放たれる。
 鎌持ちを初手から多勢で囲んで一気に叩くべく“目標への攻撃に向けて既に配置が固まりつつあった連合部隊”を大勢巻き込んで、それは爆ぜた。火玉、直径約25m。途方もなく巨大な炎が、まるで隕石のごとく人間を大地ごと抉り潰すように落ち、高々と炎を巻き上げる。これは、先のテスカ教団拠点襲撃の際に現れた“杖のような棒きれをもつ子供の歪虚”が放った術と非常によく似た技だった。
 離れた場所からそれを見つめていたクリスティア・オルトワール(ka0131)は、再びの惨劇に強く杖を握りしめる。
 こちらにも、本来はあと1人猟撃士が居た。しかし彼がキヅカ・リク(ka0038)に指示されたのは“監視役として後方待機”することだ。この作戦において彼がキーパーソンと定められた以上、それは仕方がないことだろう。
 リスクをどう捉えるかの話だが、“射程の大よそが想像できる鎌”より、“行使する術の未知数が大きい杖”を2名揃って潰しておく手もあった訳ではある。ともあれ──
「どう見ても、杖は回復役じゃあなさそうでやすね」
 乾いた笑いを浮かべるウォルター・ヨー(ka2967)と匠はなんとか炎を回避。
 しかしリクを含む数名の騎士がこれをまともに被弾。騎乗者は無事でも、辺り一帯を焼き尽くす攻撃に巻き込まれれば馬はひとたまりもない。爆撃に焦がされ、炎にまかれたゴースロンは全てがその場で焼死。崩れ落ちる馬から振り落とされる騎士らのなか、リクの体を光の輝きが覆い出した。
 だがその時、少年は身を焼く激痛に眉を顰めることになる。
 ──リンクの加護を得てもこの威力なのか?
 負った炎熱の痛みは途方もない。それは、リクの装甲をもってしてもだ。
 それを理解した時 、少年は瞬時に通信機を握りしめていた。
「今の一撃は尋常じゃない! 鎌から杖の対応に切り替え、すぐにあいつを抑えて下さい!」
 そこへ、畳みかけるように通信が飛び込んでくる。
『鎌への初撃を断念し、我々は治療に回ります!』
 この一撃、放置しては後々致命傷となることが明白だった為、聖導士は炎のつけを支払うべく部隊の治療を宣言。応じる匠は硬く手綱を握りしめたまま応じ、
「解りました。治療は任せます。俺たちはこのまま──」
「鎌を押し潰す」
 馬上でリクが水中用アサルトライフルを構えた。銃口より雷撃が迸り、まるで敵の体を縛りつけるようにして四肢へと巻きついていく。
 そこへ闘狩人3名が同時に矢を番え、放った。リクのESに動きを制限された歪虚めがけ、三つの矢が異なる角度から明確な殺意をもって襲いかかる。
 だが、それでも二つの矢が切り払われて地に落ちた。
 辛うじて一つが敵の肩口に突き立ったところへ、今度は弾幕を迂回しながら二人の疾影士──王国騎士と、そして匠が接近。騎士が回避の隙をついて敵の手首に鞭を巻付け、自由を奪った瞬後に匠の銃撃が食らいついた。
『ぐッ……安寧の、旅路の……邪魔は、させん』
 怒涛の連携攻撃を受け、憎悪に歪む天使を前にすると、匠の表情が曇る。
「安寧……そう、だね。貴方たちが死者の安寧を願う気持ちも……良く、分かる」
 その言葉に偽りはない。彼の脳裏には、“あの日”の光景が、今も焼きついて離れなかったのだ。
 失った優しい人々が、今もどこかで安寧であることを願いたい。
 だがしかし、それは今起きている事件の顛末と重ねられるものでは到底あり得ない。
 匠はそれを正しく理解している。向けるべき怒りの対象も、だ。故に、青年の銃には一部の鈍りもなかった。
 そこへ最後のダメ押しとばかりにウォルターが接近。黒いサーベルを天使の翼へ向けて薙ぎ払うと、ぞり、という感覚と共に黄ばんだ液体が辺りに巻き散った。思いのほか硬い手ごたえを感じ、ウォルターは口角を上げる。それは不敵な笑みと言うよりも、どうしようもなさに笑うしかなかったが故のものだろう。
「これはまた……思いの外しぶとくいらっしゃることで」
 ──辟易しやすな。
 少年の口元から舌打ちが零れそうになるが、そんな余裕すらも今は惜しい。なぜなら……
『ああどうか、安寧がもたらされんことを』
 大鎌の一閃が、刃の届く限り悉くに振るわれたのだから。


●偽りのユーフォリア

 アイシュリングとウィンス・デイランダール(ka0039)、そして疾影士1名は左方の杖めがけ馬を駆っていた。リクの指示で標的は弾幕に制圧されており、対峙までのリスクは潰されている。
 正面の疾影士に気をとられている天使の脇を左から迂回し、目視で距離を時間を刻む。
 ──3、2、1。
 ゼロを唱える一瞬前に馬上で身を翻したウィンスは、着地の衝撃を大地に逃がし、足のばねに全神経を注いで伸びあがった。それはまるで鈍色に曇る自身の心を振り切るように。そして、目の前の障害を倒した先に掴めるものがあるのではないかと、希望めいた何かに手を伸ばすかのように。
 ひたすらに突くことに特化した技とこの槍をもって、渾身の力で放つ刺突一閃──強い衝撃にめり込む穂先から鈍い音が立ち、翼の骨子と思しき部分から僅かな飛沫が漏れ、同時に無数の羽が舞い散った。
 そのカウンターにと歪虚がかざした杖へ巻きつくように疾影士の鞭が放たれ、間髪いれずに正面のアイシュリングがマテリアルを紡ぎ出す。その輝きはやがて強い冷気を伴い収束。硬質な氷の矢を形作ると、刹那に放たれた。
「……悪いけど、誰一人として失うわけにはいかないの」
 矢は歪虚の肉を裂き、突き立った腕を瞬時に凍てつかせてゆく。
 敵の動きが明白に鈍った。
 正直有難いのだろうが、ウィンスにはそれすら「要らん助け」であった可能性はある。
 だが、その事実がどうであれ売られたケンカは当然買う。そして──
「──踏み台は少しでもデカい方がいいに決まってる」
 そう、目の前の歪虚にかかずらう必要は全くない。
「つまり、だ。雑魚は死ね。可及的速やかに死ね」
 穿たれたままのミラージュグレイブに力を込め、抉るように穂先を回転させて埋め込むと、ウィンスは奥歯を噛み締め、“渾身の力で天使を持ち上げると、大地に頭から叩きつけた”のだ。
「一体、なんなの……?」
 再び、辺りに羽が舞い散り、アイシュリングがその光景にただ目を丸くするばかり。
 当の天使は、立て直しまでの僅かな間沈黙することとなる。ただし、死んではいないのだが。



「なんだあの馬鹿力。あいつ、頭悪いんじゃねえの?」
 ウィンスの筋力は、その小柄な──いや、成長途上の体躯に見合わない強さを誇っている。
 筋力だけで言えばあのなりでジャック・J・グリーヴ(ka1305)より数段上なのだから割とエグい話である。
 そのウィンスの“攻撃的行動”を視界の端に認めたジャックが驚き半分、嘲笑半分で毒づくが、それも片手間のこと。青年は剣士の歪虚に照準を合わせると、遠慮もクソもなく、まるで番犬がけたたましく吠えたてるかのように銃撃を繰り返していた。
 聖導士がシールドバッシュで態勢を崩させたところを疾影士の鞭が襲う。エンタングルで敵の盾を強制的に引き剥がすと、ガラ空きになった体を躊躇なくジャックが撃ち抜いた──この連携を前に、剣士は完全に抑えこまれている。
『なぜ人間は……この国は、我らの"最後の希望"すら砕こうとする? 絶望から民を守ることもできなかった弱国が! どうして、今になって、こんな……ッ!!』
 それは怒りではなく、底知れぬ絶望であり、悲嘆だった。
 ジャックの手元から銃声が響くたび、剣士に一つ、また一つと風穴が開く。そこから流れ出る体液は、穴のあいた袋から命という名の代替しようがないコインが零れ落ちていくようで、青年にとっては正直見るに堪えるものではなかったのだ。
「なぁ……堕落者になっちまう程の恨みがどんなモンか、俺には分からねぇ。けどな、これだけは覚えとけ」
『五月蠅い、弱国の犬がッ!!』
 剣士は疾影士の鞭を刃で両断すると、隣接する聖導士を盾で突き飛ばし、そしてジャック目がけて駆けだした。
 間近で振りかざされる剣。それを真っ向から盾で受け止めて見せると、青年は憚ることなく言い放つ。
「いいか、俺が国を変えてやる」
『……なんだと?』
「“俺が、国を変えてやる”って言ってんだ。なに、てめぇがあの世で羨む位に最高の国へ変えてやっからよ」
 これがジャック・J・グリーブという名の“傲慢”であり、青年にとっての絶対の“義”。
 口角を上げ、この上なく高慢な笑みを浮かべてみせるのだから、尚さら性質が悪い。
 だが、歪虚と化した男の瞳は、この青年に“例えようのない光”を見たような錯覚を起こし、思いがけず感情を剥き出した。
『人間如きが、一体何様のつもりだッ!』
「は、知らねえのかよ? “ジャック・J・グリーヴ様”だ。……覚えて逝けよ、クソ天使」



 残る右サイドの杖をもつ天使は、ルカ(ka0962)と猟撃士が対峙し、これを制圧射撃で抑え込んでいた。
 一向に鎌対応班と合流が果たされない状況の中、突然、弾幕の向こうで歪虚が笑いだした。
『くくく……』
 余りの異様に総毛立つ身体を意志でねじ伏せ、ルカは気丈さを取り戻して告げる。
「テスカ教団の方々の多くは、エクラ教の信者だったと訊いています。そしてその多くはこれまで王国で起きた大規模な戦いを通して、何かを失った人々であるとも」
 焦点が合わない目で幸福そうに笑っていた歪虚が、意識をとり戻したようにルカを見つめた。
『それがどうした。エクラが何も救わないという事実がそこに在るだけだ!』
 銃弾が鳴り響くなか、互いの主張を"ぶつけ合う"ようにして声を張る。
「現実を見るのが辛かっただけではないですか? 思い出してください。失われてしまったもののことを」
「ルカさん、もう限界です! これ以上、抑えきれません!」
 猟撃士が叫ぶ。撃ち尽くされた銃弾。制圧射撃の終わり。ここが戦場だと言うことすら忘れるような奇妙な静けさのなか、歪虚に落ち、天使の姿となり果てた元人間の男は心の限りに叫んでいる。
『絶望は悪じゃない、負の感情を抱くことは許されないことじゃない! もし正の感情しか存在してはならないのなら、どうして人は死を“厭う”!?』
 まるでその叫びが詠唱であるかのように、男に呼応して空高くに火玉が生まれ、次第に熱量を増して行く。
「大切な人の死は辛いことです。でも辛くて抱えきれないからって、その事実から逃げ出してしまうのは違うのではないですか? だから、受け入れて進むほかない。死は、再び出会う為の遠い約束……そうは、考えられませんか?」
『違うッ! 俺は、逃げた訳じゃないッ!』
 どくんと、もう一段成長する火玉。その灼熱が周囲を威圧し、ルカの額から一筋の滴が伝う。
 けれど、少女は顔色一つ変えず、再び銃口を翳した。その“さき”に、あるのは──。
 放つ一発の弾丸が男の手指を弾き飛ばし、散った肉片と共に杖が大地にどさりとおちる。
 媒介を失い霧散した炎の下、平原を流れる風と共に届いたのは迫り来る騎士たちの声だった。
 鎌の歪虚が討伐されたのだろう。それを受け、ルカは一足先にベリトへ向かったリクを追うように馬を駆る。

 先の男の悲嘆は、受け止めきるには持て余すほどの激情。
 それを煽り、利用しているのならば──少女は、手綱に込めた力が自然と増してゆくのを感じていた。


●全てを暴く光

 鎌の歪虚を討伐後、すぐさまベリトに向かって駆けだしたリクだが、先の炎で馬を失っただけではなく、もとより少年は重装備で他者より移動力が少なかった。故に、到着まで時間がかかってしまうことは明白。
 同時に首魁へ向け大外から駆けあがろうとしたウォルターだったが、少年は必然それを見送ることとなった。
 リクがベリトのヘイトを取る前に接近するのは明らかにまずい。
 それに、もし奇襲の為に駆け出していたら、危うく単独で突出しかける事態になっていただろう。
 ──ま、どうせすぐルカの姐さんが追いつくでしょうから。
 少年の頭の中でどう言った検討がなされたかは定かではないが、結果、相応しい“時”が来るまでウォルターは杖対応達の間に紛れて戦うこととしたのだ。このウォルターの計算高さは、直後無事証明されることとなるのだが。
「キヅカさん、乗ってください……っ!」
 歩みの遅いリクに追いついたルカが、馬上から精一杯に手を伸ばす。その手を取って馬上にのぼると、リクは安堵の息を吐いた。
「助かります。あとはこのまま……あいつをぶん殴る!」
 想定通りの光景を見送り、ウォルターはにんまりと口角を挙げて目を細めた。
「さて、あたしもそろそろ……」
 出番でやすね。そう言い残し、誰にも気づかれぬように少年は姿を消した。

 二人分の体重で多少移動力は落ちたものの、そこは王国が誇る名軍馬。
 ルカが駆るゴースロンが標的との距離を急速に詰めていく。
『各位へ報告。ここまでベリトに一切動きはありません!』
 そんな通信の中身が、いちいちリクを挑発してやまない。
 ──なめてんのか、ふざけてんのか、人間なんだと思ってんだ。
 既にベリトはリクの射程範囲に収まっているが、少年は一向に馬から降りる気配がない。
「ルカさん、あいつの傍までいけますか」
「もとよりそのつもりです」
 短い会話から数秒後──微笑み待ちうける女の目の前で急カーブを描くようにルカが馬首を巡らし、同時にリクが着地。運動量を保持しながら足を前に踏み出すと、ピースメイカーを振りかざし、まるで殴りかかるように女の眼前で引金を引いた。
「その汚い笑顔、これ以上見せんじゃねえ……ッ!」
 放たれた銃弾一発。それは女の頬を直撃──した途端、硬質な盾にぶつかったのように、別の角度へ弾き飛んだ。
 女の顔には微かな弾痕。血が滲んでいる程度で、正直手ごたえはまるでなかった。だが、しかし。
「……取るに足らない小蠅でも、鬱陶しく思う心はあるのですよ」
 美しい笑顔に暗い影が滲み始めた。整った眉の下、瞳には怒りに似た感情が伺える。
「黙れ、てめぇの存在そのものが鬱陶し……」
『“少年よ、呼吸をやめて楽になりなさい。安寧が、直に貴方を迎えに来るでしょう”』
「……ッ!!」
 それに、リクは抗うことが出来なかった。この感覚をどこかで味わったことを思い出す。
 ──そうだ、クラベルだ。あいつの強制の強度に、僕は抗うことが……
 脱力から武器を手放し、言われたまま体を楽にして大地にごろりと横たわる。そして少年は自らの意思で呼吸を停止した。
 このまま放っておけば、どうなるかは想像に容易い。
 だがその呪詛へのカウンタースペルのように、凛とした声が少年の頭に響き渡る。
『キヅカさん、気を確かに。貴方は生きて“ベリトをぶん殴ってやる”のでしょう?』
「……ッ……! そうだ、くそ、なにやってんだ僕は……!」
 ──告解による状態異常の解除。サルヴェイション。
 強度を増したその術で、リクの意識を引きずり戻したのはルカだった。
「今のは“強制”。となれば、ベリト……やはり貴方は傲慢の歪虚だったんですね」
 女は答えない。それどころか、先程までの微笑を完全に消し、ただただ馬上の少女を見上げていた。
「私の力はそう簡単にほどけるものではない。それを、たった一度の術で……」
 この結果は“運”も多分に味方していた。ルカの治療がたった一度で済んだのは確率を制しただけの話だからだ。
 だが、目に見える結果がすべて。ベリトは「ルカが恐ろしく強力なヒーラーである」という認識に至ってしまう。
 これまで見せることのなかった女の微かな動揺、それを見逃すはずもない。
 後方から迫っていた小さな影──ウォルターが、刹那にランアウトを発動。ベリトへ向けて急速接近する彼の視界には、雪のような銀髪を揺らし、紅玉石に強い意志を灯した少年がこちらに向かってくる姿も映っている。
「ははぁ、どうやら丁度いいタイミングのようで」
 すぐ傍に凶悪な歪虚がいるというのに、ウォルターは悪だくみをした子供のような笑みを浮かべている。頭を低く、低姿勢のまま勢いを殺さずに駆け上がった少年は──
「よ、っと!」
 空を切る鋭い音。ウォルターの手元から繰り出されたドラゴンテールがベリトの片翼に幾重にも絡みついた。
「天使の姐さん、この翼あたしが頂きやしたよ」
 不意の衝撃に女の体がバランスを崩した。ウォルターが地に足をつけたまま手に力を込め、ベリトの動きを一時的に抑え込んだのだ。
「翼を拘束した? “そんなもの”が、足を引っ張るなど……!」
「兄さんがた! あまり持ちやせんよ!?」
「解ってる!」
 一気呵成に畳みかけるはリクのES。銃身から迸る雷撃が女の肌に纏わりついてゆく。幾重にも重ねられる行動阻害に眉を潜めるベリト。その真意がわからずにいた女が、事態を理解するのは直後のことだった。
 思いがけない角度から銀色の輝きが飛び出し、それは問答無用で鋭い刃を繰り出してきた。
 対応していた歪虚を討伐後、状況を見たウィンスがすぐさまベリトへと駆け出していたのだ。
 しかし、槍が女を抉るよりほんの数瞬早く、 “空いている方の翼”が潜り込んできた。それは翼や羽根と呼べるような代物では到底ない。女の体を守る盾のような硬質さが、槍の柄を経てウィンスの掌に衝撃として伝わってくる。
 だが、生憎少年はそこで引く程度の軟弱な技も槍も持ち合わせてはいない。
「はっ、上等だ。勝負しろゴラアアァァァッ!!!」
 一騎打ちの勝者は、少年。ミラージュグレイブはベリトの翼を穿ち抜き、女の腹部へと突き立つ。
「踏み台は踏み台らしく、良い感じで激戦繰り広げた末に死ね!!」
「……ッ!」
 ──おかしい。ここまで徹底して“自分の情報”は絶っていた。気取られることなどなかったはず。
 そんな歪虚の心境等知る由もなく、猛然と“凶悪な槍”を突き出す少年と、それを支援するように“ESとエンタングル”が畳みかけられ、強制をかけようにも“謎の術で解除する女”がいる。
 女の頭の奥、ちりちりと焼けていた何かが、小さく弾けた。
「“慮外の出来事”は、早急に解決するほかないでしょう」
 その時、残る杖対応に助力していたクリスティアが“それ”に気付き、息を呑んだ。
「あれは……ミカエルの羽の?」
 女の頭上高く、禍々しいまでの巨大な魔法陣が姿を現していた。
「でも、あれより遙かに強大で、禍禍しい。……皆さん、範囲攻撃がきます! 警戒を!」
 魔法陣から波紋を伴って生み出されようとしているのは、どす黒い刃のようなマテリアルの塊──それは槍の穂先にも似て。
「すべてに等しく安寧を授けましょう」
 そして、無数の黒塊が陣から射出され、嵐の如く降り注いだ。彼女を中心として直径約100mを容易く一掃するような爆撃。当然“ベリトもそれを食らっている”のだが、当人は平然と口元に笑みを湛えている。
 クリスティアが咄嗟の判断で杖の先にマテリアルを集約。そして赤々としたファイアボールを生み出し、渾身の力で放つ。炎はやがて中空で爆音と共に散ったが、しかし……その後、炎を突き破って黒い槍がそのまま降り注ぎ、少女の胸に深々と突き立った。この威力で打ち消すことはできなかったのだろう。
「貴方の外見は、天使のよう、ですが……中身はまるで、悪魔のよう」
 その薄気味の悪さにクリスティアは心底で嫌悪感を示していた。自らの胸に突き立った黒塊を引き抜いて捨てると、少女は荒い息をおしてベリトに言い放つ。
「容姿と言葉で……人々を騙し、言葉巧みに死に追いやる。……悪魔の名を冠し、挙句その本性は歪虚ですか」
 クリスティアは既に体力がない。
 かろうじて意識を保っているだけなのだが、それでも言わずには居られなかった。
「その、仮面のような綺麗な顔の下も、本当に天使、なのか……先の魔術を見て、理解しました。あれは……光の御技では、ない……!」
 これが“十三魔、黒大公ベリアルに匹敵する”という、その力の一端。
 余りの衝撃に崩れ落ちるアイシュリングの目には、空に浮かぶ魔法陣の威容が焼きついていた。
 ──私達が一体何に抗おうとしていたのか。騎士団が、“彼”が何に焦りを感じていたのか。漸く理解できたわ。
 最後まで杖を握りしめていた少女たちは、やがて意識を手放し、その場に身を横たえることとなる。
 ベリトの傍では、ウィンス、リク、ルカが耐えきったものの、ウォルターが大怪我を負ってダウン。
 一撃で3人──造作もなくハンターの体が地に伏すこととなった。
「くそ……やっぱ女って怖ぇな」
 盾を構えて黒雨を防いだジャックだが、余りの重さに力負けし、意図せず膝を折るほどだった。その衝撃は、骨までイカレるかと思うほどの凶悪さだと青年は感じていたのだが、しかし。
「おい、匠。お前、なんでそんな平気そうなツラしてんだ?」
「え? いや、その……確かに痛いとは思うけど、正直そんなでもないっていうか……」
「はあ? お前、その足、神経通ってないんじゃ……」
 そこでジャックはふと手元に視線を落とした。そこで、気づく。
 自分が“この盾を持ち込んだ理由”を──。
「……まさか、あんのクソ天使……ッ!」
 ジャックの身体を覆っていた癒しの光が消えると同時、青年は立ち上がり、脇目も振らずに馬を駆った。
「ジャックさん? いや……なるほど、そういうことか」
 自分の足を見つめ、そして匠も“その考えに至った”のだろう。
 馬に鞭を入れ、目指すは敵首魁ベリトのもとだ──。



 ベリトのもとでは再びリクが女の顔面目がけて照準を合わせ、放つ。しかし、既にESは警戒の対象とされており、ベリトは着実にそれを回避すると、再び手のひらを翳す。上空では、巨大な魔法陣が未だ渦を巻き、次の射出に向けて力を蓄えている。
「なぜそうまで死を恐れるのです。死の先を知らぬ者よ」
「……るせえ! 死が救いだってんなら勝手に死ねよ!」
 状況は瞬く間に不利に陥った。……だがなぜ、この歪虚は急に大技を繰り出したのだろう?
 先程まで不気味なほど余裕を見せていたし、監視の情報では「一度も空間は歪まず、女は動かなかった」のだ。
 そんなベリトの言動をつぶさに観察していたウィンスが、静かにこめかみに青筋を立てる。
 少年の足元から仄かに立ち昇っていたオーラのような輝き。
 それが、ゆらりと一度大きくたなびくと、途端、爆発的に濃く立ち込め始めた。
「興味深くはありますが、無様に足掻くことが人の性なのですか?」
「黙れ、踏み台」
 無駄口ごと撃ち砕くが如く、武骨な直刃が黄金に輝き、恐ろしいまでの鋭さを伴って繰り出された。
 ──やはり、だ。
 先ほどからリクは気にかかっていたのだ。ベリトは特にウィンスの攻撃に強い警戒を示している。
 故に彼の槍撃は回避に徹され、今も再び空を切るように思われたのだが──
「随分必死だな。──だが、その槍、意地でも受けてもらう」
 馬上から、射程ほぼぎりぎりの場所で放たれた匠の特殊強化鋼製ワイヤーウィップが痛烈な破裂音を伴って飛んだ。大きくしなった鞭の先は瞬く間にベリトの翼の根元に巻き付き、再び拘束。
「この男、何時の間に……」
「お前は死を悼む気持ちを意図的に歪め、利用した。人の弱さに付け込んで、嘆きを増幅させた」
 匠は、ワイヤーのしなりを利用して強引に引き倒すと、重心移動を強制されベリトが大きくバランスを崩した。
「その罪は、もはや傲慢程度で済まされるものじゃない……!」
 そこを当然、情け容赦のかけらもなくウィンスの槍が穿ち抜く。
 今度こそ葬る。こいつを越えて、“その先”に行く──そのためにも。
「くっ……あ……」
 美しい唇から溢れ伝う体液。だが、なぜか女は“笑った”。
 その異様に気づいたウィンスが引き抜くより僅かに早く、女は槍を片手で握りとめ、空いた手を翳す。
「この私に傷をつけた“罰”を……与えましょう」
 刹那、ウィンスに途方もない衝撃が流れ込んできた。
 それはまるで“槍で一直線に貫かれたかのような衝撃”=“自分の技をそっくりそのまま食らったかのようだ”。
「───ッ!!!」
 思いがけないカウンター。先の魔術による傷を癒しきれずにいたことも起因し、少年の意識は混濁。
 だが、それでベリトの手が止まる訳もない。
『“愛らしい銀の少年。お前こそ、今すぐ跪いて永久に私の踏み台に──”』
 酷薄な強制にウィンスの頭の奥が侵される──直前、獅子の如き咆哮が辺りを揺さぶり、強引に割り込んできた。
 そのハウリングに混じる強いマテリアル。気付いたベリトが少年から視線を引き剥がすと、そこには──
「貴族にはな、体張って平民共を守る責務があんだよ」
 体中のマテリアルを華々しく燃やし、煌々としたオーラを纏うジャックが居た。

「しかしお前、天使だなんてよくもまぁうまく化けたもんだな。“そんなナリして闇の属性”もってんだろ?」

 刹那、女の顔が凍りついた。
 リクの攻撃をなめてかかった割に傷がついて怒ったのも。
 ウィンスの攻撃を強烈に嫌がったのも。
 そして、盾で受けたにも関わらずジャックが凶悪なダメージを負ったのも。
 反して匠が足に負ったダメージが軽すぎたことも。
 全てが“この歪虚の本性”を指し示している。
「違うってんなら試してみるか?」
 ジャックは光の属性盾「セラフィム・テフィラ」を突き出し、挑発的に笑う。
「来いよ、クソ天使。俺様が全部受け止めてやる」
「……金色の騎士よ。貴方の光はこの国が求める光……その理想に、近すぎる」
「はぁ? 俺様は騎士じゃねえっつーか、でもまぁお前が“光”を嫌う理由はよーく解ったぜオラァ!」
 再び、ジャックの手元から吠えたてるような銃声が鳴り響く。
 対するベリトは、敢えてジャックに向けて高速で接近を開始。その彼女の掌には、いま過大なマテリアルが集約しつつあった。結果として周囲を一掃する過大な範囲魔法は収束。あともう二撃、あれが降り注いでいたならば、騎士の数人が力尽き、“連合軍は撤退を余儀なくされていた”だろう。ジャックの存在が、運命を切り拓く要となったことは間違いない。
「させてたまるか……!」
 天使の背にピースメイカーで狙いを定めたリクの手は、どうしようもない怒りに震える。
「なんであんたの都合で俺や大事な人が死ななきゃならねぇんだよ……こんなのおかしいだろ!」
 それに呼応し、ベリトに追い縋る匠が再び鞭を構えた。
「退屈していた、だって? お前が安寧を謳うことなど許されはしない!」
 放たれたワイヤーが空を裂く。鞭の先が音速に達し、空気を叩くクラッキング音が歪虚の意識をひくと同時、そのまま女の足を拘束。ぐらりと倒れ込むそれを翼の羽ばたきで持ち直すも、それは好機となるだけだった。
「てめぇも、てめぇの神も……俺が潰す!」
 リクの雷を直撃し、捕らわれた所をジャックの銃撃が穿つ。そして──
「跪くのはてめえだ」
 治療され戦線復帰したウィンスが渾身の一閃──大地から空へ、馬鹿正直なほど真っ直ぐ垂直方向へ槍を薙ぎ払った。衝撃は深く女の背を抉り、遂に片翼を両断。
 呻きも束の間、女はウィンスを認めると目の色を変え、掌に収束させた災厄の火種を少年に向けて解き放った。
「その槍を……私に向けるなッ!」
 だが、その災厄がウィンスを焼くことはなかった。
 少年の目の前には、金色の全身鎧を纏った青年が立ちはだかっていたからだ。
「おいクソ天使、てめえ……よーく、狙えよ……俺が、受け止める、っつったろ……!」
 ジャックの手に光の盾はない。青年は、その体をもって強引に凶行を阻止したのだ。
「見所があると思えば、なんと愚かな。闇に呑まれ、疾く失せよ!」
 再び、女の手に収束してゆく闇の塊。それが放たれれば、ジャックの死は確定していただろう。
 ……だが、幸運の女神は女が苦手な青年にも微笑んでくれるらしい。

 突如、辺り一帯が輝き出した。巡礼路が光を放っていたのだ。
「まさか……!?」
 目を見開くベリトは瞬時に状況を理解するが、時既に遅し。

 直後、光の奔流が視界を白一色に塗り潰していった──。

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  • 白き流星
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    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 古塔の守り手
    クリスティア・オルトワール(ka0131
    人間(紅)|22才|女性|魔術師

  • ルカ(ka0962
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  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 未来を想う
    アイシュリング(ka2787
    エルフ|16才|女性|魔術師
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠(ka2876
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士
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    人間(紅)|15才|男性|疾影士

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アイコン 質問卓
鬼塚 陸(ka0038
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/04/01 00:18:01
アイコン 【相談卓】神性喜劇
ウィンス・デイランダール(ka0039
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/04/01 18:23:35
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/03/28 05:51:59