サヨナラの代わりに

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/01 19:00
完成日
2016/04/02 18:06

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 とても長い時間のような。いや、瞬く間だったかもしれない。
 探した。探した。探した――。せめてもう一度、そして終わりはそうあれかしと。
「会ってどうするつもりだ?」
 バイクを運転するゲルトの背中にしがみつきながらスバルは過ぎ去っていく景色を見ていた。
「わからない……でも、時間がないんだ。私が完全に私ではなくなってしまう前に……もう一度だけ」
 お尋ね者となった二人の逃亡兵は、追手から逃れつつ、帝国領を旅していた。
 反政府組織の根城から、歪虚の痕跡が残る地を渡り歩き、探して、探して……しかし、結果は実を結ばない。
 不変の剣妃、オルクス。ヒトの手で家族を奪われたスバルの命を救ってくれた恩人。
 いや、ただの気まぐれ。使い捨ての道具に過ぎない。それでも彼女は自分の命を繋いでくれた。新しい家族をくれた。
 皮肉屋で口は悪いが情に厚かったメイズ。楽観的でムードメーカーだったジルコ。
 たくさん居た姉妹たちもほとんど死んで、闇に堕ちた二人は心を壊してしまったけれど、それでもオルクスを憎めなかった。
「私があの人を救ってあげたかったけど……多分、私には過ぎた願いだったんだね」
 ゲルトはバイクを走らせながら、振り返ることも返事を返すこともしない。
「私は物語の主人公にはなれなかった。ヒトの英雄になることも、歪虚の怪物になることもできない」
 少年の背中に顔を埋め、少女は目を瞑る。こんなに哀しいのに、心は冷えきって、涙の一つもこぼれない。
「なりたかったなぁ……特別な何かに……」
 純白の雪のような少女を見た。
 吸血殺しの聖剣は、きっとああいう特別な存在にこそふさわしい。
 あれだけの深さを持つ器でなければ、きっとオルクスにはふさわしくない。
 闇を消すことも、闇を抱くことも出来ない自分。もう役割の終わってしまった自分。
 どうにもならない自分だけが、未だに終わりを拒絶して、ありもしない未来を模索していた。

 吸血鬼になった以上、歪虚になってしまった以上、もう人間らしい生活はできない。
 生半可に力があるせいで人里には近づけないし、覚醒者にそれと悟られれば命も狙われた。
 夜に眠ることはできなくなり。人間らしい食事もできなくなり。代わりにヒトを襲いたいという衝動が強くなった。
 それは日に日に増してゆき、もう近くに人間がいたらうっかり襲ってしまうほどに悪化している。
 だから結局帰ってきたのはもうとっくに誰も住むこともなくなった故郷の孤児院で、教会に一人膝を折って夜明けを待っていた。
「……ベルフラウ。言われた通りに依頼したぞ」
「ありがとう、ゲルト」
 両開きの扉を片方だけ開き、ゲルトはそこに背を預ける。
「本当によかったのか?」
「うん……。もう私は歪虚だから。自分で命を断とうにも、ダメージを受けて自我を失ったら危険だし……」
「だからハンターに頼むのか……」
 ため息を零し、ゲルトは目を瞑る。
「これまで通り、俺の血で何とか持たないのか? まだオルクスに会えないと決まったわけではないだろう。諦めるには早過ぎる」
「ここまで付き合ってもらっただけでも十分だよ。ゲルトこそよかったの? せっかくのエリートコースだったのに」
「良くはないな。俺が逃亡兵として手配されれば、当然故郷の家族を裏切ることになる。今頃弟や妹達がどうなっているか……」
 そうまでして付き合う程のことだったのか。それはゲルトにもいまいちわからなかった。
 だが、ベルフラウの存在はそもそも錬魔院の闇に通じているように思えたし、自分たちが扱っている試作兵器も無関係には思えなかった。
 これまではただイルリヒトから帝国軍に入り、そこで安定した収入を得て故郷の家族を養えればそれでよかった。
 しかしこれまでの戦いの中で、自分のなすべきことはなんなのか、それがわからなくなってしまった。
「ゲルトはもっとクールな人だと思ってたよ」
「ふん……まったくだ」
 二人はただのクラスメイト、ただのチームメイトだった。
 けれど二人の間には大きな隔たりがあった。それにゲルトはいつも気づいていなかった。
 人為的に作られた強化兵であり、オルクスに見捨てられた眷属でもあるスバル・ベルフラウと、その命を使って吸血鬼を倒す聖機剣。
 これは人事ではない。もしもイルリヒト機関の兵士見習いたちが、何らかの実験に参加させられているのだとしたら……。
「……こんばんは。いい夜ですね」
 か細い男の声が響いて視線を向けると、教会の入り口に誰かが立っていた。
 全身をすっぽりと黒い外套で包み、顔は紫色の花が覆っている。いや――これは仮面か?
 帽子を脱いで胸に当てると銀色の長髪が顕になる。男は恭しく一礼し、ステンドグラスから差し込む月光を見上げた。
「実験体ベルフラウさんですね? お迎えに上がりました」
「イルリヒト機関の者か?」
「いえ違います……ああ、そうとも言えるかもしれませんが……。さるお方の指示で、アナタをお迎えに来たのです」
「私はイルリヒトには戻りません。――たとえ、絶火隊の人が相手でも」
 聞き慣れない言葉に首を傾げるゲルト。男はかくりと肩を落とし、外套の内側に手を伸ばす。
「ご存知でしたら話が早い」
「殺すのではなく連れ帰る? スバルをどうするつもりだ」
「アナタには関係ありませんので、ハイ」
 次の瞬間、男の外套の内側から細長い刃が突き出しゲルトの腹を貫いた。
 刃は伸縮するのか穴だけ残して消え、血を流したゲルトが膝を着く。
「最強の吸血鬼の血を受けたアナタは貴重なサンプルなのです。そう安々と死なせるわけがないでしょう? その血、肉の一片まで人類に貢献して頂かなくては……」
 目を見開き飛びかかろうとするゲルトの拳を掴み、足払いを放つ。男は片手でゲルトを放り投げると、外套の内側から細長い形状の剣を取り出した。
「に……げろ、スバル……」
 音もなく駈け出した男はまだ間合いも離れたままで剣を振るう。
 刃はひゅんと風を切ると、スバルの髪を僅かに切り落とした。刃が伸びたのだ。
「剣……いや、鞭? 可変式武装……ナサニエル院長の!」
 反撃も可能だが、力を抑えなければ完全に歪虚として自我を失ってしまう。
 そうなれば目の前の男も、ゲルトさえも殺してしまう可能性があった。
 血の盾も使わずにまともに袈裟に斬りつけられると青い血が吹き出し、空中で凝固する。
「駄目……溢れてしまう!」
 結晶化した血は槍を成し、目の前の男へと襲いかかった。
 男は巧みに鞭のような剣を振るい、結晶槍を打ち払う。
「対吸血鬼戦闘に慣れている……?」
「ハイ。一応、本職ですので……」
 まるで自我を持つかのようにうねる、連なる刃。その二撃目がスバルを切り裂くと、教会に少女の悲鳴が響き渡った。

リプレイ本文

 背後から飛来する青い閃光が男を襲うが、それを男は振り返らずに剣で弾き飛ばした。
 弾かれた槍は空を回転し、主であるレイス(ka1541)の手に戻る。同時にヒース・R・ウォーカー(ka0145)、シェリル・マイヤーズ(ka0509)の二人が襲いかかると、男は跳躍しスバルの頭上を飛び越えて壇上に降り立った。
「どこの誰か知らないけどやってくれたようだねぇ。ボクの依頼人に手を出し、戦友を刺してくれたようだねぇ」
 切っ先を突きつけるヒースに対し、男の返答は斬撃であった。
 連結する無数の刃は蛇腹状に蠢き、ヒースではなくシェリルを狙う。しかし剣はシェリルを捉えられず、スバルを抱いて背後へ回避する。
「問答無用……しかもボクではなくシェリルを狙ったな?」
 視線を鋭く変えたヒースが踏み込む動作に合わせ振るわれたしなる刃は、しかしヒースの残像を裂くに終わった。
 懐に飛び込んだヒースの斬撃を男はどこからか取り出した短剣で受け、衝突したマテリアルが火花を散らす。
「あの、どちら様ですか?」
「それはこちらの台詞だねぇ。名乗りが必要なのは……おまえだろう!」
 男がヒースの斬撃を腕で受けると同時、ヒースの身体が大きく後方へ跳ね飛ばされる。
「ヒース!」
 肩を並べたレイスに無言で頷く。スバルは既にシェリルが確保しており、ハッド(ka5000)も護衛についている。
「うむ、命に障りはなさそうじゃな。しかしあまり状態は良くない……戦闘が長引けば暴食の衝動が動き出すじゃろ」
 謎の男とスバル、双方を交互に眺め神楽(ka2032)は困惑していた。
 この状況は考えれば考える程複雑で、未来への貢献や欺瞞を考慮すれば、直ぐに割り切るのは難しい。
「なんでどいつもこいつも迷いなくいきなり動けるんすかね……と、とりあえず」
 気絶したまま血を流しているゲルトがまずい。神楽は一旦戦闘から身を引き、彼に手当を施すと決めた。
「邪魔をしないでください。高位の吸血鬼を研究できるまたとない好機なのに……」
「どこの誰かも明言しない奴より、共に命を預けて戦った友を信じるのがボクのルールでねぇ」
「そんな大層な仕事をしているなら仮面ぐらいとって堂々と名乗ってみせろ。それとも外せないか?」
 レイスの言葉に仮面に手を当てる男。シェリルはスバルを支えながら眉を顰める。
「仮面を外せない騎士……絶火隊。へーかは今、いないのに……カッテの指示なの?」
「彼は火を束ねる器にありません。ご安心下さい……マイヤーズさん」
 名を呼ばれ思わず目を丸くする。男はそのままヒースに視線を移し。
「絶火隊の候補として皇帝により密かに選出されていた数名のハンター達……日陰者の私でも存じています。勿論水城さん、あなたの事も」
 睨み合いの中、水城もなか(ka3532)は名を呼ばれても表情を変えなかった。
「こちらの素性はお見通しですか……それならば話が早いですね」
 もなかはヒースとレイスの間を通りぬけ、男の傍らに立つ。
「私も火消しの称号を与えられた者です。今回はあなたの仕事に協力しましょう」
「それは助かります。正直困っていました。“絶火隊同士は戦ってはいけない”のがルールでして」
「私はまだ見習いですけどね……」
 もなかは表情を変えず、ハンター達を指差し。
「大人しくスバルさんを引き渡して下さい! 人でなくなり歪虚となっても貴女にはまだ活躍の場が残されています。モルモットとして人類に貢献する……喜ばしい事ですよ!」
「それは貢献ではなくただの犠牲だ。その歪みを認めてしまったら世界は何の為にある? 犠牲が必要になる度に、“今までそうだったからお前もそうなれ”とでも言い続けるのか?」
「人類だの正義だのの味方なんて知った事じゃない。例え相手が絶火隊だろうが、ボクの敵は斬る」
 レイスとヒースはマテリアルを迸らせながら鋭く睨み返す。もなかはすっと腕を下ろし、冷や汗を流した。
(この人達……私が敵に回ってても全然躊躇とかしないんですね……いえ、そう思ってましたけど……)
「これが……へーかの望みなの? それは本当に……ヒトの為なの?」
「倒れた皇帝にも無力な皇子にも、私に指示をする権利なんてありませんよ」
「そう……よかった。もしそうなら、へーかやカッテが怒るかもしれないから。でも、そうでないのなら……」
 頷き、シェリルは立ち上がる。
「お前のやっている事は、へーか達の意志とは違う。セカイは悲劇で出来てる……けど、ヒトがヒトの心を失う事をへーかは許さなかった」
 あの日帝都で彼女と対峙するよりずっと前から、伝えられてきた事がある。
「誰かの幸せの下に誰かの絶望がある。それがセカイの真理だとしても……護るって決めたんだ」
「あ~、もう! 難しく考えるのはやめっす! とりあえずベルフラウちゃんを助けるっすよ!いつも刺されてるお前も手伝えっす!」
 神楽に無理矢理起こされたゲルトだが、さっぱり状況がわかっていない。
「ともかく、奴らに任せてスバルを移動させねば……ぬおおうっ!?」
 スバルを抱えようとしたハッドだが、突如スバルの皮膚を突き破り隆起した血の結晶が襲いかかる。
 慌てて手放すがスバルは地には落ちず、背中から飛び出した血の翼が槍を成し、側に居たハッドとシェリルを攻撃した。
 黒ずくめの男は剣を鞭のように振るい、レイスとヒースを攻撃する。しかし二人の速度を捉えきれない。
 蠢く剣の包囲網を掻い潜り男へそれぞれ襲いかかるが、男は斬撃を左右の腕で受け止める。
「なんだこの手応えは……?」
「肉……じゃないねぇ?」
 次の瞬間、レイスの身体へ無数の光の帯が集約。その身体を空中に固定した。
「何!?」
 男が繰り出す突きはレイスの脇腹を貫通したままどこまでも伸び続け、レイスを教会の壁に叩きつけると、先端部分だけを分離し串刺しにした。
「レイス……くっ」
 そんなヒースの腕に巻き付いたのはもなかの鞭だ。男がヒースの胸に拳を撃ち込むと、光が爆散。ヒースの身体は吹き飛び、長椅子を幾つか壊しながら倒れこんだ。
「や、やりすぎなんじゃ……」
 冷や汗を流しながら首を横に振るもなか。男は素早くスバルへ向かうが、その間に神楽とゲルトが立ちはだかる。
 一方、ハッドとシェリルはスバルの攻撃に対処していた。
 スバルが抑えているのか本格的なものではなく、二人であれば十分いなせる程度ではあるが、無視はできない。
「ええい……いとあはれよの……! ヒトに仇成す事なぞ望んではおらぬだろ~に!」
「私が取り押さえる……」
「であれば、ここに王の慈悲を示そうぞ! 唸れパルムん……伝説の魔球となりて王道を開きたまえ!」
 マテリアルを帯びたパルムを投げつけるハッド。血の槍がそれに反応し、涙目で悶えるパルムと衝突する。
 その隙を掻い潜り飛び込んだシェリルは両腕を広げ、スバルの身体に抱きついた。
 突き出した結晶が食い込み血を流しても気に止めず、シェリルはスバルを強く抱きしめる。
「スバル……私の血を飲んでいいから……目を、覚まして!」
 一瞬気を失っていたヒースが飛び起きると同時、レイスも腹に刺さっていた剣を引き抜いて着地する。
「大丈夫か?」
「これくらいなんて事ないさぁ」
 蛇のようにしなる剣撃を盾でいなす神楽に合流した二人が一度別方向へ跳び、同時に三方向から襲いかかる。
 しかし次の瞬間男が腕を振るうと、三人の動きが止まった。目には見えない壁のようなものが攻撃を中断させていたのだ。
「うぇっ!? 何すかこのスキル!?」
「神楽!」
 ゲルトが変形させたトンファーから銃撃を行う。これは見えない壁を通過し、男は腕で受け止める。
「遠距離攻撃なら通じるんすか……なら!」
 ライフルを構える神楽。ヒースも拳銃を抜き、壁に向かって連射する。
 更にレイスは壁を蹴って跳躍すると、真上からマテリアルを込めた槍を投擲した。
「危険ですね……こちらへ」
「え? ……ひゃっ!?」
 ぐっともなかを抱き寄せると、男は高速で剣を振るい遠距離攻撃を弾き飛ばしていく。
「ふぁ……あっ、あうぅ……っ」
 シェリルの悲鳴に一瞬意識を背後に向けるハンター達。そこにはスバルに押し倒され、執拗に首筋から血を吸われ悶えるシェリルの姿があった。
「シェ、シェリルん……色々な意味で大丈夫か?」
「だ、だいじょう……ぶ……あ、ああ……っ」
 しなびたシェリルとは対照的にスバルは瞳を赤く輝かせ起き上がった。しかし確かに表情には理性がある。
「今のうちじゃ、離脱するぞスバルん!」
 ハッドはスバルの手を引いて教会を後にする。その様子に男は手にマテリアルを集め、大地に叩きつけるように放出した。
 無数の光の槍がハンター達を引き裂くと、男は背後へ跳び再びステンドグラスの下へ。
「今のは……セイクリッドフラッシュか?」
「っすね。ってことは、奴は聖導士っす」
 レイスの言葉に頷く神楽。シェリルは青ざめた表情で立ち上がり。
「見ての通り……スバルはもう逃がしたよ」
「そのようですね」
「……どうして? スバルの血を持ち帰るだけじゃいけないの?」
「歪虚から切り離された部位はそう長く待たずに消滅してしまうんですよ。ご存知でしょう?」
 ハンター達は眉を潜める。確かに知っている。それが歪虚の定石だ。
「あなた達がやっている事は人類への反逆ですよ」
「世の為人の為、その理想は結構だが、やり方が粗雑に過ぎる。絶火隊? 錬魔院? 帝国……? 上等だ。我は『放浪庭園』が長、レイス。世界から反逆者と呼ばれようと、俺は俺の世界を諦めない」
 投げつけた槍は男の頬を掠め、壁に突き刺さる。
「退け。ここまでの抵抗に遭えば言い訳も立つだろう」
「そっちの手の内はもうわかったっす。三下の俺でも次は余裕で看破できるっすよ?」
「いえ。認めましょう……あなた達は強い。ですが勘違いはいけません。我ら火を継ぐ者は、命令で動いているわけではない。言い訳など誰にする必要もないのですから……」
 剣でステンドグラスを砕き、そのまま壁に刺さった剣に手繰り寄せられるようにして浮かび上がる男。
 男はステンドグラスの向こう側へと姿を消した。……腕に抱えたもなかと共に。

「皆さん、ありがとうございました。そしてすいませんシェリルさん……吸い過ぎました」
 ハッドに連れられ教会に戻ってきたスバルの言葉にヒースは目を伏せ。
「ボクなりに色々調べてみた。歪虚を元に戻す方法、おまえを生かす方法……。前例はある。だけど、どれもその場凌ぎにしかならなかった」
 例え生き延びたとしても、悪意がなかったとして、歪虚は存在するだけで人を不幸にしてしまう。
「もう、何も手段がなくてお前が望むのならば……ボクがお前を殺す」
「本当に、ないのかな……? できるなら、生かしてあげたいよ……」
 俯くシェリルの肩を優しく叩き、ハッドはウィンクする。
「吸血鬼代表たるオルクスんが暴食の本能を抑えておるのじゃ。方法はあろ~よ。スバルんは何故我らを呼んでくれたのじゃ?」
「え……?」
「ぶっちゃけると、ヒースんの事はどう思っておるのじゃ? もしイルリヒトの仲間ともオルクスんとも違う感情があるならば、それは恋じゃろう」
 誰も予想していなかった言葉に驚く一同。しかし神楽だけは頷き。
「ゲルトはどうなんすか? ただの友人に脱走兵扱いされて付き合うわけねーっす!」
「い、いや……俺は」
「スバルはもう十分誰かにとっての特別なんすよ! 少なくともお前に死なれると悲しむ馬鹿を俺は一人知ってるっす!」
「神楽さん……」
「前に言ったっすよね。未来が暗闇でも、今ここにある光は本物だって。だったら足掻けっす! 自分で言った事ぐらい守れっす!」
 困ったように笑い、スバルは目を瞑る。
「恋かどうかはわかりませんが、私にも大切な人は確かにいます」
「我輩とて既に“心友”ぞ! 同じ戦場で死線を乗り越えた仲間じゃろ?」
「私も……な、仲間……だよ?」
 照れくさいのか、らしくないと思ったのか。ぎこちなく呟くシェリルにヒースは苦笑を浮かべ。
「おまえら……。でも、本当に方法はあるのかぁ?」
「まだ試したことのない手段はいくらでもあるっす。浄化術や今流行の龍鉱石とか……それに、人里でなくとも生活できる場所ならあるじゃないすか」
 仲間達の死線が集まる中、神楽は力強く頷く。
「スバルが自分自身を見つけた場所。ブラストエッジ鉱山っす」
 想像もしなかった可能性に驚くスバルへ、ヒースが取り出したのはタンホイザー。聖機剣と呼ばれる武器だ。
「ハンターにも使える聖機剣だ。おまえが居たから出来た完成品。おまえの存在を証明する一品さぁ」
「私の……生きた証……?」
「もう少しだけ……歩いてみるか?」
 震える手で握り締めた剣はとても冷たくて。
 懐かしさと悔しさと、優しさと勇気に満ち溢れていた。

「あなた、加減していましたね」
 正直な所、あの強烈な乱戦の中においてもなかは力不足であった。
 仲間への遠慮もあったが、そんな事を考えている余裕などないくらいに彼らもこの男も強かったのだ。
「今回の件……陛下はご存知なのですか?」
「いいえ。私を救って下さった彼女はもういない。絶火とは、己の信念に従い人類を守護する者……言ったでしょう? 命令ではないと」
 男は花の仮面に手をかけ、ゆっくりと振り返る。その素顔には大きな傷跡があり、もなかは思わず息を呑んだ。
「何もしませんから、その隠した刃は収めて下さい」
「……最初からわかっていたんですか?」
「ええ、まあ」
「ならばどうして私を……この件の黒幕は誰なんです? 返答如何によっては、陛下へ報告させてもらいます」
「してどうするのです? 今の彼女に……」
 確かに、きっと今の皇帝にこの男を御する力はないだろう。勿論、今のもなかにも。
「私以外にも何人か、枷が外れ動き出した者を知っています。水城さん、あなたがどう動くのか興味があります」
 困惑するもなかに背を向け仮面をつけると、男は地平線の朝日を見つめ。
「不偏の正義などあり得ない。故に絶火は相剋せねばならない。あなた達若者がどんな正義を見せてくれるのか、少し楽しみなのです」
 てくてくと、ややしょぼくれた背中で男は去っていく。
「さようなら、今はまだ燻ぶる火の種よ。縁があれば、また会いましょう……」
 追いかけても、きっとこの刃を振るっても、あの男からは何も聞き出せないだろう。
 強く握り締めるナイフの切っ先は小さく震えていた。それは無力さか恐怖か、或いは……。

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MVP一覧

  • 大悪党
    神楽ka2032

重体一覧

参加者一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • 愛しい女性と共に
    レイス(ka1541
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 特務偵察兵
    水城もなか(ka3532
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士
  • 夢への誓い
    ハッド(ka5000
    人間(紅)|12才|男性|霊闘士

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/03/29 21:42:46
アイコン 作戦相談所
ヒース・R・ウォーカー(ka0145
人間(リアルブルー)|23才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/04/01 18:09:42