• 幻魂

【幻魂】ねらわれた、あす

マスター:韮瀬隈則

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/06 19:00
完成日
2016/04/14 05:01

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


(また面倒な……)
 辺境の片隅、普段は誰も気にすることのない廃墟に住処を構えるこの下級歪虚のもとにも、その召集令状じみた呼びかけは届いた。

 正直、自分が行ったところで戦況に変わりはないが、応じる気配でも見せておかなければ、下っ端の自分は厄介な立場になるかもしれない。アリバイだと思って動いてみるか。
 ──そういえば。
 しばらく前、この辺境外れからさらに東方へ向かうトラックの隊列があったが、今回の召集で腑に落ちた。あれは幻獣の森に向かったのだ。ハンター相手は気が重いが、幻獣とトラック相手に嫌がらせならできよう。少数精鋭を送り込み、鹵獲のあとはお偉方に献上してしまえばいい。

 怠惰の歪虚になるべくして成った彼は、重い腰を上げる。できるだけ手抜きができないか、そればかりを考えながら。



「先行したチョーさん達の状況次第じゃ、最悪、陣地構築どころか本隊の背後取られて砲撃手段まで奪われちゃうって……それ超ヤバいじゃないですか!」
 プリケッタ・ケモンスカヤが揺れるリーリーの背にしがみつき、併走するハンター達に悲鳴じみた声をあげる。せっかく幻獣とふれあって、可愛いお尻がプリプリ動くのを愛でるチャンスだったのに、緊急事態だなんて!
(せめてリーリーに騎乗してる間だけでも癒されよう……ううう、お尻可愛いですぅ)

 ──第一次防衛戦、南方方面。
 平地にところどころ岩と低木が混じるこの一帯に、間に合わせの陣地構築が策定された。
 敵をくい止めるに無力は承知。砲撃支援を行いながら要救対象者を運ぶ回復陣地。ささやかな兵站で継戦能力を支える、主力部隊への背面支援。
 すでに策定地点へ向かったトラックは確か、武装救急車両と陣地構築機材を積んだ工兵車両だったはずだ。本来ならば、後方陣地詰めとして募集されたプリケッタは先行した工兵部隊と入れ違いで交代し、友軍の負傷者治療に従事予定であった。
 しかしまさか、こんなにも早く迫る軍勢に対抗する必要に駆られるとは。

 幻獣の森では貴重品なのだ。
 と、数時間前のミーティングで、森までトラック隊列を率いてきた中年の男が念をおしていた。
 森の転移門はトラックには小さすぎる。ならばと遠路はるばる運んできたトラックのうち、満足に稼動するのはやっと6台。残りは予定は未定の修理待ちで、当然ながら共食い整備前提だ。
 ハンターズソサエティが武装トラックを事前に手配した理由は、もちろん、最近とくに不穏になってきた幻獣の森周辺の情勢だ。かの組織にしては珍しく強化されたユニット用機銃と装甲を積み、しかしCAMでもアーマーでもないのは速度と荷台が求められた結果である。

 その貴重なトラックと工兵部隊から救援要請を最後に音信が途絶えた。
 同時に、南方方面に迫る敵襲の報。
 プリケッタは作戦要綱の特記事項を思い出す。

『万一、後方陣地に敵が及んだ場合はこれを放棄。
 武装トラックは直ちに撤収あるいは奪還し、鹵獲を阻止せよ。
 状況次第では破壊が優先事項となる』



 低木と岩が連なった一帯を抜け、開けた平地に構築半ばの陣地が見えた。
 めぼしい大岩に土嚢と材木を組んだ低いやぐらとバリケード。隠れるように寄せて停めたトラック6台。遠目では敵の軍勢は見えない。

「え? チョーさん? 工兵の人たちも、大丈夫ですかぁ?」
 静まり返った陣地中心から少し手前の一角──未だ建材が積まれたままの未完成のバリケード(確か、完成予定では、左・中央・右……と三つのバリケードが配置されていたは筈だ)、その建築場所に倒れ伏している数名の兵士。
 異様なのは、彼らの周囲に転がるネギ、ネギ、ネギ。そして剥き出された尻、である。

 顔見知りであるシモン・チョウへ駆け寄るプリケッタが、怪我と衰弱が酷いものの生存を確認。情報確認して焦る。
「マズいじゃないですか! 浸透した敵に陣地中央が占拠されてて、しかも本隊と呼応してるなんて。いくら歪虚化ゴブリンだって、伝令が堕落者とか連れてきたら、武装トラックを奪われちゃいますよ!」
 最悪の予想一歩手前、か──
「完成しているのが中央バリケードとその櫓部分。敵は5匹が篭城していて、中央バリケードの周囲に駐車してるトラックは手付かず、でいいんですね? え? トラックに積んだ野外炊具801号が材料ごと強奪されたって、意味がわかりませんよっ? てか、このネギ、積んでた食材でしょうに、どうしたんです?」

 とにかく、ゴブリンが5匹のうちに奪還しなきゃですよ!
 ハンター達に声をかけ、プリケッタがリーリーに騎乗し一気に中央バリケードを目指す。
 ──その時だった。

 びょうっ!
 風切音を纏い、陣地中央からの飛翔体がプリケッタを襲う。
「きゃっ……嘘っ! 危ないっ!」
 慌てて回避するプリケッタだったが、次の瞬間、驚いて転倒しさらに悲鳴を上げる。
 外したはずの飛翔体が、プリケッタの騎乗するリーリーの背面を追尾し襲い掛かった。ホーミング能力を持つそれは咄嗟にリーリーの尻を庇ったプリケッタの尻に激突し……深く突き刺さる。
 リーリーを後方へ逃がし崩れ落ちるプリケッタの尻から飛翔体を抜こうと、誰かが駆け寄る。
「やめろ……安易に抜くな……っ」
 シモンの弱弱しい制止は届くにはか細い。
 噴出音、そして火球。


「俺達はアレでやられたんだ。抜かなければアレはゆっくりと体力を奪う。だが、安易に抜けば、一気に体力を代償とした攻撃性瘴気を噴出して同士討ちになる……」

 シモンの指すアレ──

 高位の歪虚化ゴブリンメイジにより瘴気とホーミング能力を付与された、野外炊具801号用の食材──ネギである。

リプレイ本文


 一時退避だ、と、ザレム・アズール(ka0878)が咄嗟に放置建材に身を隠し叫ぶ。
「ロングボウ確認。おそらく鹵獲品だ。見えない武器は小型の投擲武器……玉ネギの散乱からみてスリング系。射程は犠牲者の状況からの推測頼りか」
 プリケッタ吶喊からのネギ襲撃。
 射程とバリケードから覗くロングボウが一致する。
 少し奥、陣地方面に倒れる工兵と玉ネギ。弓には装填できず、陣地に砲は見えない。

「ボクの「蒼天」なら射程で勝てるよ。でも、陣地とトラックの配置が厄介すぎる」
 残りはスリング系か…… ルーファス(ka5250)も武器の片鱗を確認し、せっかくの可愛い顔を顰める。『視える』相手になら制圧のしようもあるものを……確認できるのは2張、ゴブリン2匹分だ。無闇に撃てば邪魔をするように停められているトラックにあたる。
「強攻策も仕方ないね?」
 ルーファスの振り返る先、大切な姉マーゴット(ka5022)と未だ素直になれない相手ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)が、建材の陰で怯えるリーリーの頭を抱え撫でている。
「まさか後方支援に来て、こんな碌でもないのと遭遇するなんて、ね」
「被害拡大前にゴブリンを仕留めないと、こちらも挟撃の餌食。強襲敢行も覚悟しなくては、ルーファス達に危険が及んでしまう……っ」
 ユーリとマーゴットは義理の息子にして最愛の弟ルーファスを案じる。場所が割れて困るは敵のみならず。猟撃士である彼もなのだ。
 陣地までの距離、およそ100m──
 座して敵襲を待つ?
 消極戦で消耗してゆく?
 とんでもない!

「あらあらあら。尊厳を賭けた強敵の匂いがぎゅんぎゅんしますね。で、勿論、やるんでしょう? いけに……げふ……囮ともどもの強行突破?」
 ティリル(ka5672)が、判ってるわよ、とユーリとマーゴットを見て笑う。
 既に彼女とペアのリーリーは臨戦態勢。一気に距離を詰める。それしか最適解はない。
 手短にシモンから状況聴取を済ませた夜桜 奏音(ka5754)が報告する。
「悪い報告は、敵残弾。会敵時点で推測4、ですがメイジのエンチャントで増産されます。今現在も。時間経過を放置する余裕は殆どありません。良い報告はネギの挙動です。目視による射撃後、飛来中の迎撃は超回避。ですが、臀部へのホーミングのため方向転換は必須、再度のターゲッティングをネギ自身が行う様子。つけいる隙はありそうです」
 良い報告と悪い報告を聞くならこの順だ。
 すぐ往くのでしょう?と、奏音の手には既に加護符。

「プリケッタ、大丈夫か?」
「……は、はひっ!」
「状況開始後、即時退避し工兵らの回復に回れ。足手纏いの解消と帰りの足確保を同時に行う。なかなかシビアじゃぁないか」
 ザレムの指示に蹲ったままのプリケッタが頷く。
 元は衛生兵だ。回復手段はガン積み、である。


 3.2.1……
 暗黙のカウントダウン。

「危ないというよりアブナい敵ですけど頑張りましょう」
 奏音がリーリーの首筋を撫ぜる。
「支援射撃の極みが護るからね、お姉ちゃん」
 ルーファスとその武器が真紅のオーラを纏う。



「これがソウルトーチの炎の輝きですわ! 存分に私を狙いあそばせ!?」
 リーリーによる吶喊陣形は3騎による魚燐──
 僅かでも距離を稼ぐため。
 更にとある目的のため、陣地真正面を一直線に駆け抜けるその先頭はユーリ。
 ネギ発射が目視によるものならば、彼女を狙いにロングボウがバリケードから覗くはずであった。
 ──飛来するネギ2本!
 構わず進む!
 射手に対し正中する限り、飛来するネギの初撃は当たることはない。
「はい。頭を出してくれてありがとう。ユーリさんはその調子でピッカピカに光って突っ込んでね。そう、Shineって感じ」
 今更頭を引っ込めても無駄だ、と、ルーファスの弓の軌跡は山なりとなって櫓を中心に制圧射撃の雨を降らせる。
 手ごたえは1匹だけか……
 思ったより櫓とトラックが邪魔だ。
 『彼』が浸透するまでは地道に始末するしかあるまい。
「お姉ちゃん、気をつけて……」
 第一波のネギが反転する。
 ルーファスは第二波に備え矢を番える。

「吶喊中、マギーさんは私の斜め後ろに。ネギが反転したら互いに後ろを庇いあいますよ?」
 サッチウィーブでしたっけ?
 魚燐の後方を描く二人。ティリルがリアルブルーの戦術をマーゴットに聞く。対するマーゴットは紅に染まる目で曖昧に頷いて返し、「祢々切丸」の柄を握り締める。
「切り札の任、必ず仕留めるから……援護ありがとう」
「ゃだ、水くさい。それより格好良く決めちゃってくださいね」
 あんなのにやられるの悔しいじゃないですか?
 そら、あんなのが来た! と、反転するネギの気配に振り向く。
「式神ちゃん頼むわよ?」
 光り輝く小鳥がティリルの手から飛び立つ。
 機動にあわせ舞う鳥は、纏わる先が先でなければどんなに可憐なことだろう。
 だが向かう敵はネギであり、護るはケツである──

「ぁぅ! ……これ……は……だっ大丈夫。大丈夫だか……」
 瑞鳥符を突き抜けたネギを、咄嗟に旗袍の裾を捲って自らへ誘引したティリルが、クリーンヒットした自分よりマーゴットを案じる。
「執拗に変な場所を狙ってくるあたり、ウザいのか撃ち落しやすいのか判らないですよね」
 あ、こちらも大丈夫です。
 淡々と奏音が、残り1本のネギを叩き落した降魔刀を持ち替える。
「陣形に隠れていた甲斐がありました。タイミングは非常に厳しいですが……」
 本来剣術は得意じゃないので、剣舞の応用で。
 仕草で前を行く3人に伝える。
 3騎ではなく4騎。魚燐に隠れた奏音はしかし、迫る第二波を警戒する。
「私、ばれてしまいました。距離はもうスリング射程内。次は最大数の射撃が私達と……人質に襲い掛かります」
 倒れた工兵を人質に?
 ゴブリン相手に楽観するな!
 浅知恵でありながら卑怯の極値。それがゴブリンだ。まして歪虚、である。
「その前になにがあっても、マギーを到達させるから」
「義姉さん……」
 振り返り微笑むユーリに少し泣きそうな顔のマーゴットが微笑み返す。
 このひとは何故こうも、私達に尽くすように生きるのだろう。
「式神ちゃん……もう一度、マギーさんを頼むね?」
 ティリルが再度、輝く小鳥を空に放った。
 たぶん誰より一番彼女を護るのが、ユーリさんの幸せなんだろうなぁ、とティリルは思う。背後から感じるルーファスの視線的にも、きっと鉄板だ。


 陣地櫓とバリケードから覗くゴブリンが3匹……
 ルーファスが小さく舌打ちをする。こちらの攻撃を学習されたか? 全員狙いの矢は放てない。
 せめてもとスリングを構える1匹に狙いを定め、シャープシューティングとターゲッティングを重ねて撃つ。武器が落ちた、か?
「お姉ちゃん、ご無事で!」
 番える次の矢は、陣地には向けない。
 視界の片隅に『彼』が到達した。
 ならば自分は、既に放たれた第二波が向かう先──愛しい姉と、悔しいけれど気になる女性に全面の支援を注がなければなるまい。

(予定より手間取ったが、櫓に寄った個体が居たのは幸いだったか……)
 『彼』──ザレムは単独徒歩で点在する建材伝いに浸透を重ね、辿り着いた試作型重機関銃「恵方撒」の有効射程圏内で、銃架替わりに建材を調整すると照準をゴブリンにではなく櫓そのものに設定する。
 精密射撃とは無縁なこの銃は射撃職以外に更に扱い難く、元はザレムとて、工兵を頼りに陣地固定砲台化を前提に持ち込んだ代物である。
 第二波のネギが放たれ、ルーファスに狙われたゴブリンが武器を落としてバリケードの奥に倒れこむ。仕留めきれず、か。最初の制圧射撃から復帰する1匹も鑑みれば、第三波に加わる射撃職は同じく3匹。
「更に知恵をつけて篭城されては困るのでな」
 次の瞬間──轟音と薬莢と建材の破片が、彼と櫓の間を支配した。

 7連装機関銃の咆哮と櫓の悲鳴。
 慌てて飛び降りるゴブリンと傾く櫓に再度恫喝めいた一撃を浴びせ、ザレムは横目で吶喊班を確認する。
「了解。次の状況へ遷移する」
 小さく返礼し、まだ熱い銃身を担ぐ。


 同時刻──
「第二波来ました。迎撃のちに一時離脱します。皆様、ご武運を……」
 横目で倒れ伏す工兵を確認し、奏音を覆う燐光が偏光色に揺れる。
 五色光符陣の視界をも焼く光でどこまで隙を作れるものか?
(素敵なおじさま、私達を護って)
 符に描かれた男性に語りかけ、結界で吶喊する一団を包む。
 閃光が迸り1騎と1人の影が紛れて奔る。
「リーリーで建材に隠れてください。後ほどトラックで迎えに参ります」
 語りかける奏音の声を、更に銃撃音がその気配さえもかき消して。音と光の余韻が消えたころには、地面に伏す工兵の姿はどこにも見えなかった。


 奏音の離脱に小さく返礼する3騎へ、急旋回する3本のネギ、ネギ、ネギ。
 弾かれ焼かれ、しかし追撃を続けるネギの一つを、1本の矢が撃ち落した。
「ルーファスなの?」
「ちょっ、ユーリさん。なに硬直してんの!? ほら踊って踊って!」
 再度急襲するルーファスの矢は、今度はユーリのドレスを捲り上げる。「蓮華」の裾が舞って降りて刺さったネギに引っかかる。
「な……なんで真後ろから援護射撃されちゃってるの? おかしくない、ねぇっ!?」
「リーリーを……走らせ続けるため、だよ」
 マーゴットの答えに、ユーリとルーファスの悲鳴。あちゃー、とティリルが顔を覆う。
「マギーさん、私の五色光符陣展開前に、リーリー庇って「バヤルタエ」の合わせ目を曝すんだもの」
「大丈夫。これで皆、お揃いです」
 私を案じるより、止まらず第三波に備えて。マーゴットの気丈な微笑み。

 速攻に勝る勝機はない──

「メイジを特定した。位置転換しながら行動阻害しているが、第三波分の補充は防げなかった……クソッ! 俺のケツ(ass)より大地(Earth)を狙え」
 連携し人質救出を完了した奏音とザレムが、次は白兵戦だと合図する。
「ザレムさんのデルタレイとティリルさんの風雷陣、奏音さんの五色光符陣で目標指示してくれたら、ボクが支援射撃するから。あ、ユーリさんはそのまま光ってて」
 ほら総出でお出迎えだ。1匹でも減らそうとルーファスが放った矢と1本のネギがすれ違う。
「隠れても無駄。五色光符陣で燻りだすだけだから。ユーリさん、マギーさん、リーリーの背に立って急右折」
 即座にバリケードの陰に逃げ込もうとするゴブリンをティリルが放つ呪符が囲む。
 ごめんね? と小さく囁いて、マーゴットはリーリーの背を蹴り陣地バリケード部分に飛び移る。隣にはユーリ。──だから武器ごしの感触も怖くない。



「まずは陣地手前のトラックを退避! 長射程デルタレイと防御障壁で護るから、機を逃さず発車しろ」
 キーはささったまま。ザレムの喝に奏音が走る。
 光の破片と幾何学形がトラックの周りで交錯する。
 トラックを廻る攻防──つまり歪虚は機動車両の重要度を把握しているということか。
「エンジンかかりました! ザレムさん……続く2台目をお願いします」
 奏音は大きく窓から身を乗り出し、瀕死のゴブリン1匹を五色光符陣で灼く。さらに舞い散る桜花。桜幕符の吹雪が消えたあとには、ザレムも奏音の乗るトラックもその場を遠く離れていた。


 ユーリの跳躍にのせた陣風が、ティリルに目を眩まされた弓職を貫く。蒼く染められた試作振動刀の刀身が彼女の青白い雷に呼応して泣き咽ぶ。
「次は誰? マギーを害するものは私が許さない……」
 弓は片付いた、か?
「この期に及んでまだっ……まだ悪夢を生み出す気ですか!?」
 マーゴットの動きは流れるように陣地を駆ける。
 自分達3名は、既にネギの洗礼を受けてしまったけれど、肉体に埋められたままの悪魔の楔はしかし、恥辱の追撃を防ぐ防波堤でもある。新たなネギの犠牲を出させはすまい。
 メイジから放られた追加のネギを受け取るスリング持ちを斬り、さらに生成したネギを投げようとするメイジに怒声を浴びせる。何の効果も無い、ただティリルの符術支援を仰ぎ、ユーリと剣を重ねて敵を討つターゲット策定だけの合図。けれど愛しい者たちの尊厳を傷つけられたその怒りは本物だった。


 ──誤算。が、あった。
 何の落ち度もない。
 あるとすれば、高位職ゴブリンが歪虚化された理由が、陣地ではなくトラックそのものへの執着だとの看破が一瞬、遅れたことだろうか。

 ネギを積みトラックに接続された野外炊具へしがみついたメイジの腰を、ユーリが振り下ろす蒼白の稲妻が砕く。間髪を入れず防御を捨て繰り出したマーゴットの一之太刀が、今度は脳天からメイジを叩き斬る。
 その断末魔の最後の1秒──無防備だったユーリとマーゴット、そして己とトラックを巻き込んで、メイジは密かに自身へ仕込んだ火球魔法を発動させた。

「マギーさん! ……っさせない!」
 残る1匹のスリング持ちをティリルが放つ風雷の衝撃が貫く。
 直前に自ら突き刺し放たれた紫玉葱の衝撃波を噴出して、斃れて消える。

 そして、南方方面後方陣地を占拠した敵一団は殲滅された。



「直りそうですか? もう部品取りが終わった廃トラックの破壊に着手しないと……」
 奏音がトラック下部に潜り込んで機械修理を行うザレムに進捗を聞く。
「伝令が走ってる以上、長居はできない。走れる体裁だけ整えて撤収だ。プリケッタ。工兵とリーリーの回復はどうなってる?」
「はひっ。3割方の体力で、工兵さんにリーリーは辛いかも? です」
 ふぅ。車体下から体を起こしてザレムは工兵にトラック分乗を促す。消耗後に悪いが陣地の武器類回収と積載も頼む、とも。

 回収できたのは、都合トラック5台。うち3台は要修理だ。
 まぁ巧くやったほうだろう。
「アレも修理不能ですけどどうします?」
 指差す先には野外炊具801号──
(完膚なきまでに粉砕するに決まってるでしょうが!)
 全員の目が語っていた。


 ネギ抜きと回収不能の陣地破壊を兼ねて、ユーリとマーゴットとティリルが連れ立ってお花を摘みに行く。
「流石に個室っぽく体裁は作るけれど、辛い絵面よね」
 普通、術者死亡で無効にならない? ティリルが嘆く。
「絶対人に見せられない……うぅ」
「見られたらもうお嫁に行けないかも」
 ユーリに力無く相槌をうつマーゴットに、鋭い否定の声が飛んだ。
「そんなことない! お姉ちゃんはボクが……」
 慌てて振り返ればルーファスが拳を握り締めて立っていて、しかし2人が悲鳴をあげたのは彼に突き刺さったネギを認めたからだ。
「な、何故ルーファスにネギが?」
「なんでもない。位置転換しそこねただけだよ」
 ティリルが「ははぁん」と笑って状況推測する。
「大事な二人を支援する為に、移動を犠牲に支援射撃し続けたわけねー?」
 慌てて否定するルーファスを義姉と義母が抱きしめた。

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MVP一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズールka0878

重体一覧

参加者一覧

  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 元凶の白い悪魔
    マーゴット(ka5022
    人間(蒼)|18才|女性|舞刀士
  • 竜鱗穿つ
    ルーファス(ka5250
    人間(蒼)|10才|男性|猟撃士
  • 希望を繋ぐ眩光
    ティリル(ka5672
    エルフ|20才|女性|符術師
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/05 21:12:54
アイコン 相談卓
ティリル(ka5672
エルフ|20才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/04/05 21:24:48