• 幻魂

【幻魂】地を駆け、空を舞い、弓を射る

マスター:蒼かなた

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/06 15:00
完成日
2016/04/14 05:04

みんなの思い出

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オープニング

●猫の騎士団
 幻獣の森は今、大量の歪虚の部隊に包囲されていた。森を守る結界はしっかりと機能しているが、上位の歪虚を含む数百の軍勢が相手では長くは持たないだろう。
 この状況に対して人類と幻獣の連合軍が取れる手立ては少なかった。ただでさえ少ない戦力を分け、全方位の防衛を行わなくてはならないのも辛いところだ。
 一方向でも突破されれば、戦えない幻獣達はあっというまに蹂躙されマテリアルを貪り食われることとなるだろう。
 それを許すわけにはいかない。幻獣を守りたいと願う者、歪虚のこれ以上の強化を阻む者、思いは違えどやることは同じだ。
 ここに幻獣の森を守る防衛戦が始まろうとしていた。

 幻獣の森の東部、結界の外となるその外周部には、幻獣の森と変わらず多くの木が立ち並ぶ森が続いている場所があった。
 開けた平原と違い、森の中はどうやっても視界が限定される。道も曲がりくねり、起伏も激しく、何より足場が悪い。そういったこともあって大軍での進攻には向かない地形である。
 しかし、それはあくまで大軍としては向いていないのであり、さらに言うならば人だからこそ相性が悪いとも言える。
 故に、もしここから進攻してくる敵がいるとしたらそれは、森林での戦いに長けた歪虚であることは間違いないだろう。
「皆さん、分かっていますね? 今回は前回と違い防衛戦となります」
 東方面の防衛を任せられたのは猫型幻獣達であった。その隊長を任せられた猫型大幻獣の三毛猫トリィが、隊員である他の猫達に語り掛けている。
「そしてここが最初で、そして最後の防衛線になります。この意味は分かりますね? 私達が倒れれば、その後ろにいるのは戦うことのできない仲間達だけなのです」
 最初にして最後の防衛線。その言葉が猫型幻獣達の頭の中に染みわたっていく。そして、その意味を理解した時に訪れるのは恐怖――
「ですが、恐れることはありません。我らが家を守る為、そこで待つ者達を守る為、そして今戦場に赴いている仲間達を守る為。そう、死を恐れるなかれ。大切なものを守れぬことこそ本当の恐怖なのです」
 ――そして小さな勇気。トリィはその小さな光を輝かせるべく、隊員達を激励する。隊員達もそれに応えるべく、強い光をその瞳に宿して居住まいを正す。
 するとどこからか、怒号のような悲鳴のような、どちらとも取れぬ音が微かに聞こえた。その音の意味するところは、別の場所で戦端が開かれたということで間違いないだろう。
「我々の任務はこの場を死守すること。小型歪虚一匹通してはいけません。総員、抜剣!」
 トリィの号令に従い、隊員達が一斉にレイピアを抜き戦闘態勢に入る。
 別の場所の戦闘が始まった音が聞こえた時を境に、森の中に大量の気配が現れたのを全員が感じ取っていた。
 数は不明。とにかく沢山だ。そしていずれも早く、迷うことなくまっすぐに幻獣の森に向かってきている。
 そして一番に近づいてきた気配の主が、藪の中から飛び出してきた。それは漆黒の毛並みをした狼であった。ただ、口元が大きく裂けたその異形の姿からして歪虚で間違いない。
 そしてこの狼型歪虚に猫型幻獣達は見覚えがあった。
「この歪虚、ルプナートルの配下の!」
 魔人ルプナートル。それは幻獣達にとっては忌むべき存在。狩りと称して幻獣を殺し、戦果としてその耳を削ぎ取っていく怨敵ともいえる歪虚だ。
「やはり奴も現れましたか。森は奴のフィールドですから、来るならこちらだと思っていましたよ」
 トリィは現れた狼型歪虚の対応を隊員達に任せ、周囲に視線を配る。ルプナートルには幾度となく辛酸を舐めさせられてきた。小賢しい、卑劣、姿も見せない臆病者と言われる歪虚だが、そんな歪虚だからこそ何か仕掛けてくるはずなのだ。
「隊長、新手が来ます!」
 隊員の声に思考の海から引き戻され、トリィは隊員の指す方向を見る。木々の間を縫うように接近する影が複数。しかし、随分と小さい。狼型歪虚の半分、いや、そのさらに半分ほどだろうか。
「見た事のない歪虚ですね……総員警戒してください!」
 トリィの声に隊員達が身構える。そして、その小さな影達はものすごい速さでその距離を詰めてきた。
「地面を走っていない? それにあれは……鳥か!」
 時折不自然に揺らめく歪虚の姿、それが翼の羽ばたきだと気づいたトリィが声を上げた。その声が他の隊員達に届いたかどうかというところで、鳥型歪虚達が突撃してくる。
 弾丸のように飛び込んでくる鳥型歪虚達に対して、無数のレイピアが閃く。トリィのレイピアも迫っていた鳥型歪虚の首を貫いていた。
「総員、状況の報告を!」
「負傷者なし、敵歪虚も一匹も通していません!」
 初手としては満足できる結果だ。しかし戦端は開いたばかり。森に潜む気配は減るどころか増える一方。防衛線はまだ始まったばかりである。
「人類の方々の増援まで今しばらく時間がかかります。それまではここを守り切ることだけを考えますよ!」
「了解です!」
 再びレイピアを構えた猫型幻獣達は、迫りくる敵に向かって果敢に戦いを挑む。

●狩人の本領
 今まさに激戦が繰り広げられている森を前に、黒い肌をした人型の歪虚、魔人ルプナートルはじっくりとそれを眺めていた。
 獲物に食らいつかんとする狼達、そして狩りに新たに導入した鳥達の特攻。それを猫型幻獣達は実に見事な連携を持って退けていた。
「やはり狩りの獲物はこうでなくてはな」
 狩人を名乗る以上、ルプナートルは狩れるものから狩っていくスタンスだが、やはり手ごわい獲物を仕留めた時の達成感や高揚感は嫌いではなかった。
 その様子を一頻り眺め、満足に足る獲物だと確信したところでルプナートルは軽く横に手を差し出す。
 するとルプナートルの横に控えていた大狼が咥えていた弓を放り、それは差し出していたルプナートルの手の中に納まった。
「さて、まずはどれを狙うか……」
 矢筒から矢を一本引き抜き、弓に添えながら目を配らせる。そして、丁度良く一歩前に踏み出してきた猫型幻獣の姿を見て、標的を決めた。
 その目には猫型幻獣がレイピアを振るい、飛び交う鳥型歪虚を打ち払う姿が見える。そして更に一歩前にでた瞬間、その足に黒いトラバサミが食らいついた。
「さあ、狩りの時間だ」
 驚愕と苦痛と混乱と恐怖、そのどれもが入り混じった表情をした猫型幻獣に向け、ルプナートルは矢を放った。

リプレイ本文

●防衛線、死守
「退いてはなりません。持ちこたえるのです!」
 無数の狼と鳥の歪虚を相手に猫型幻獣達は善戦していた。しかし、気づかぬ間に設置された罠が彼らの動きを鈍らせ、さらに影すら見えない森の奥から飛来する矢によって確実に傷が増えていく。
 このままではジリ貧になる。それが分かっていても猫型幻獣達の闘志は折れることなく、手にしたレイピアを振るい続ける。何故なら、彼らにはまだ仲間がいるからだ。
 その時1匹の猫型幻獣が罠に掛かり、足に絡みついたロープによって木の上へと釣り上げられていく。そしてその隙を逃すことなく、鳥型歪虚がその猫型幻獣に向けて追い打ちをかけてきた。
 その時1発の銃声が響き渡る。その音に気づいた時、罠に掛かった猫型幻獣に迫っていた鳥形歪虚はまるで破裂したかのように黒い肉片をあたりに撒き散らしていた。
「間に合ったようね」
 猫型幻獣達の背後からその声は聞こえてきた。そちらに視線を向ければ、純白の拳銃から硝煙を昇らせるマリィア・バルデス(ka5848)の姿があった。更に猫型幻獣達の前に複数の人影が躍り出る。
「邪魔するぜ。ここからは俺が相手だ!」
「俺達、の間違いだろう。細かいことだがな」
 マリィアの銃声で動きが止まった狼型歪虚の一匹に、アーサー・ホーガン(ka0471)の大剣が振り下ろされる。避けそこなった狼型歪虚は頭を叩き斬られ、勢いのままそのまま地面に崩れ落ちた。
 更にそのアーサーの脇を抜けてフェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)は雷撃刀を鞘から抜く。その刃は早くもこちらに対応して裂けた大口を開こうとしていた狼型歪虚を捉え、上顎からその上を綺麗に斬り飛ばした。
 そこでフェイルはもう一歩先へと踏み出そうとするが、その時彼の肩にくくりつけてあった魔導短電話からほんの僅かだがノイズが聞こえた。フェイルは体に急制動をかけ、躊躇わず後ろに跳び退いた。瞬間、フェイルがいた場所の地面から黒い槍が空目掛けて突きあがる。
「今のが情報にあったルプナートルの罠……厄介ね」
 迫りくる鳥型歪虚を撃ち落としながらイルミナ(ka5759)は今目撃した罠に対してそう零した。
「まずは傷ついた幻獣達の手当てが優先ね」
「そうですね。その為にもまずは壁を作りましょう」
 エルバッハ・リオン(ka2434)の言葉に青霧 ノゾミ(ka4377)は頷き、2人はそれぞれ杖を取り出すとその先を地面へと向ける。
 瞬く間に杖先で編み上げられた魔法陣は、淡い光と共に輝きその力を発揮する。2人が杖で指した地面が隆起し、大きな2枚の壁が歪虚達の前に立ちはだかる。
 だが所詮は広い森の中で出来た壁。迂回すればすぐそこに猫型幻獣達がいることは分かっている。だから狼型歪虚達は壁の横から回り込もうと走る。
 そして勿論、そう動くであろうことはこちらも承知の上であった。
「賢くても所詮は獣、ってことだな」
 壁の影から飛び出してきた狼型歪虚の首筋を、コウ(ka3233)は迷うことなく短剣で切り裂いた。
「応援のハンターの方達ですね。助かりました」
「お礼何ていいんです。この森を守ろうとする気持ちは、猫さん達と一緒なんです!」
 礼を言うトリィに、ソフィ・アナセン(ka0556)はにこりと微笑んでそう返した。そしてすぐに鋭い目つきをして森の奥へと視線を向ける。
「それにしても、性懲りもなくまたですか……幻獣さん達を狙う歪虚なんて、本当に最悪です!」
「ええ……奴にこれ以上好き勝手をさせるわけにはいきません。幻獣の仲間達は守り抜いてみせます」
 依然として姿すら見せない幻獣狩りの魔人。だが、魔人ルプナートルは確実にいる。その証拠に、また一本の矢が鬱蒼と茂る木々の間を抜けてハンター達に襲い掛かってきた。

 防衛線はハンター達が合流したことによってより堅守なものになっていた。狼も鳥も一匹たりとも歪虚は通さない。
「この調子なら楽に防ぎきれそうだな」
「こちらが動かない限り、罠は発動しないのだからそれが大きいわ」
 アーサーの言葉にマリィアがそう答える。
「これまでのルプナートルとの戦いは、攻めるにせよ守るにせよ動きまわっていましたからね」
「動かずにこの場を死守している限り、ルプナートルの脅威は遠くから射かけてくる矢のみ。そしてそれも……」
 トリィとノゾミが会話をしていたまさにその時、一本の矢が飛んできた。だが、その矢は何かを捉える前に閃いた刃によって両断され、そのまま地面へと落ちる。
「一本だけなら見てから叩き落すのもそう難しくはないな」
 口元を僅かに釣り上げてフェイルは小さく笑う。
 この調子であれば問題なく守り切れる。だが、次から次へと襲い来る歪虚の数は尽きる様子はない。
「そろそろ仕掛けたほうがいいんじゃないか?」
「確かに体力的に余裕のあるうちに攻めたいところだが……敵の勢いが衰えないことには何ともな」
 コウはその言葉と共にアーサーに視線を向ける。それを受けたアーサーは少し考え込み、首を横に振った。
 戦況は膠着していると言っていい。この状況を打破するには、やはりルプナートルを討つのが一番の解決策だろう。
 だが、歪虚の攻勢が弱まらないとそれは難しい。今数名でも防衛線を抜ければそれだけ他のメンバーの負担が増す。しかも抜けるのがハンター達の前衛全員となれば尚更だ。
「あちらが動くのを待つしかないというわけね。実に歯がゆいわ」
 銃の弾倉を交換しながらマリィアはそう口にする。だが今は耐えながら待つしかない。こちらから攻め入るチャンスを。
「あら、どうやらその機会が早速やってきたかもしれないですね」
 そう口にしたエルバッハの視線の先では、数匹の狼型歪虚が木の幹に隠れながらこちらの様子を窺っていた。先ほどまで愚直に攻め立ててきていたのに、今は射撃武器や魔法の射程外で留まっている。
「こちらを誘っているのか? 罠があると分かっていてそれに乗るほどこちらは馬鹿ではないぞ」
 ノゾミはそう口にしながらも、狼型歪虚達がそこまで見え見えの誘いをするとは思っていない。何か策を講じてくるに違いない。そう思い周囲への警戒をより高める。
「……あれは、何?」
 それに最初に気づいたのはイルミナだった。狼型歪虚達の周囲に靄のようなものが掛かったのだ。それはだんだんと濃くなっていき、すぐにそれが紫色をした煙だということが分かる。
「あの色は、狼型歪虚が吐く毒の息です。これだけ距離があれば効果はないはずですけど……」
 狼型歪虚と何度か戦う機会のあったエルバッハはその紫色の煙が何なのかすぐに分かった。だがその意図は読めない。
「……ねえ、あの煙。少しずつこちらに近づいてきていない?」
 そして皆がそれにすぐに気づいた。僅かずつではあるが、確実に紫色の煙がハンター達が守る防衛線に向かって近づいてきている。
「ちっ、そういうことか。このまま待ってたらあの毒の煙にやられる。それを止めるなら前に出るしかないが、そうするとルプナートルの罠が待っている」
 その意図を察したアーサーが舌打ちをする。魔人はやはり思っていたより賢い。こちらが動かないなら、動かざるを得ない状況を作り出す。
「正念場という訳ですか」
 ソフィは手にした杖を強く握りしめ、紫色の煙の先で蠢く影にその杖先を向けた。

●攻撃は最大の防御
 爆炎が毒を焼き散らし、生まれた衝撃波で周囲から紫色の煙を吹き飛ばす。その爆心地近くで不運にも炎で焼かれた狼型歪虚がいたようだが、それには目もくれずハンター達は動き出す。
 だが前へと出ようとするハンター達の邪魔をする為、次々に黒の罠が発動しハンター達に襲い掛かる。
「くぅっ、目に見えないなんてやっぱり厄介すぎる!」
 コウの腕に地面から生えてきた槍が掠る。警戒せずには進めない。だが、そうしていては敵にとってはいい的になってしまう。
「罠が強いマテリアルに反応しているの仮定するならば……これはどうだ?」
 そこでソフィは自分の白衣のポケットから小さな石を取り出した。ほのかな光を帯びているその石は、マテリアルが凝縮された鉱石だ。ソフィはそれを森の中へと放り投げる。すると、鉱石が通過する先々であらゆる罠が発動していく。
「こいつはいい。それならこれもくれてやる!」
 それを見たアーサーは龍鉱石を取り出し、ソフィと同じように進行方向へと投げた。龍鉱石も高純度のマテリアルを含む物質だ。そして予想通り、鉱石が通り過ぎる度に罠が発動していく。
「よし、もうい――」
 アーサーがもう1つ龍鉱石を投げようとした途端、それは疾風の如く現れた。気づいた時には目の前に迫っていた大きな影に対し、アーサーは大剣を構えてそれを受け止める。
 鈍い音が響く。衝突の衝撃で吹き飛ばされたのはアーサーのほうであった。そして衝突してきた黒い影は、音もなく地面に着地する。そこにいたのはこれまで何匹も倒してきた狼型歪虚とよく似ていた。だが、明らかに違う。1回り大きな体躯だけではない。一線を画する強者の気配をその大狼は放っていた。
「――オオォォォン!」
 大狼が咆える。同時にこれまで毒煙の中に潜んでいた他の歪虚達が動き出した。
「このデカイ狼が出てきたってことは……」
「今ルプナートルがいる場所は、手薄でしょうね」
 ハンター達そして猫型幻獣達は互いに視線を交わして、そして1つ頷いた。
「道を開けて貰おうか」
 ノゾミが杖を振るうと、地面が隆起し土の壁がせりあがってくる。それに合わせてエルバッハとソフィも土壁を作りだすと、そこには狼型歪虚に邪魔されない『道』が出来ていた。
「一気に決める。着いてこれないなら置いていくぞ!」
 アーサーは罠のなくなった道に向かって走り出した。その後をフェイルとコウが追う。
「コウ、気を付けて……」
「任せな。援護は任せたぜ、イルミナ」
 3人のハンターが毒の煙の掻い潜って森の奥へと走る。それを見届ける間もなく、残ったハンター達と猫型幻獣達は襲い来る歪虚の迎撃に入った。

 その様子をルプナートルは見ていた。その視界の先で猫の幻獣と耳無し達が配下の歪虚達と戦っている。
「今日の獲物は随分と粘る」
 予想以上だと、ルプナートルは親指で自分の下顎を撫でる。
「それにしても……やはり邪魔だ」
 この狩場にいるのが幻獣達だけならば既に狩りは終わっていただろう。あの耳無し達はどうやら下手な幻獣より強い力を持っている。青木という魔人にも言われていたが、どうして、耳無しと言えど侮れないものだ。
「……先に排除するべきか」
 スムーズな狩りをする為には、その障害は取り除かなければならない。
 『人』という存在に対して認識を改めたルプナートルは、愛用の弓に矢を番えた。

 耳障りな音が鳴る。それを認識した瞬間、フェイルは全力で足場を蹴りつけて宙を舞っていた。
「ちっ、木の上にまで仕掛けてやがる」
 木の枝を飛びながら進むフェイルであったが、そこにまで罠が仕掛けてあるのは予想外であった。
「もうすぐのはずだ。急ぐぞ!」
 アーサーが投げた龍鉱石に反応し、多数の罠が連鎖的に発動していく。その数は段々と増えてきている。それが意味するところは1つしかないだろう。
 と、その時。複数の鳥型歪虚が3人に襲い掛かってきた。そしてその時、アーサーとフェイルの耳に雑音が届く。
「足止めのつもりか? だが、これくらい!」
 コウの短剣が鳥型歪虚の体を引き裂く。が、次の瞬間。斬られた鳥型歪虚の体から黒いロープが飛び出し、その腕に絡みついた。
「なっ!?」
 更にロープの先が地面に落ちた瞬間、それは強い力でコウの腕を引き始める。
「鳥が罠を運んできた?」
「違う。鳥自身が罠だ。防ぐな、避けろ!」
 フェイルが叫ぶ。同時に鳥型歪虚を紙一重で避けた瞬間、その体の中から突き破るようにしてトラバサミが現れ食らいついてきた。
 アーサーは近づかれる前に手裏剣で迎撃。鳥型歪虚はそのまま地面に落ちて動かなくなるが、罠は生きているかもしれない。
 自爆前提の特攻攻撃に3人はそれに対処せざるを得なかった。そして、それを待っていた者がいた。
「――! コウっ!」
「えっ? な――がっ!?」
 風切り音がした時には遅かった。罠で動きを制限されていたコウの肩に矢が突き刺さる。更に2本、3本と矢は連続してコウを狙い飛来する。
 アーサーとフェイルはそれを弾きながらコウのカバーへと入る。
「行ってくれ!」
 だがコウはそれを望まなかった。このままではここに釘付けにされる。そうなったら負けは確実だ。
「……死ぬなよ」
 それだけ言い残しアーサーとフェイルは駆ける。矢が飛んでくる方向はほぼ一定。ならば、この先に魔人はいる。
「死んで、たまるかよ」
 残されたコウはそう呟いた。そして飛来する矢と罠を抱え特攻してくる鳥型歪虚。同時に2つは避けられない。コウは覚悟を決め、短剣を強く握りしめた。

 森を抜けた先にその魔人はいた。黒い肌をした巨漢の男が、弓を構えながらアーサーとフェイルに視線を向ける。
 「見つけたぜ、かくれんぼはもう終わりだ」
「耳無しか。実に邪魔。しかし、興味深い」
 そう言いながらルプナートルは矢を放った。早い。先ほどまで飛来してきていた矢とは比べ物にならない。だが、それでも捉えられないほどではない。
「ぐぅっ!?」
 フェイルはその矢を叩き落す為に刀を振るった。狙いは正確だ。しかし、その威力は予想以上で矢を叩き落したものの、自分も刀を弾かれて大きく体勢を崩してしまう。そして第2射は既に放たれていた。
「させねぇぜ!」
 だがそれはアーサーが割り込み、大剣の肉厚な刀身で受け止める。衝撃波すさまじいが、防ぎきれないほどではない。
 ルプナートルは次々と矢を放ち、それを防ぐ為にフェイルとアーサーの剣戟が閃く。状況は一進一退。だが、2人は少しずつではあるがルプナートルとの距離を詰めていく。そして――
「貰った!」
「むっ!」
 フェイルが一気に接敵し、刃を振るう。縦と横での二連撃。一振り目は弓に当たり防がれたが、二振り目がルプナートルの腹部を斬りつけた。
 ぼたぼたと、ルプナートルの足元に血が零れる。好機。それを確信しアーサーもその追撃に入る。だが、それは叶わなかった。
「なぁっ!?」
「ぐぅ!?」
 突如地面から現れた複数のロープがフェイルとアーサーの体を縛り上げた。先ほどまで罠などなかったはずなのに、それは確かに2人を捕らえ、身動きを封じていた。
「傷を負ってしまった。今日の狩りはここまでか」
 ルプナートルはそんな2人に目もくれず、傷ついた自分の腹部を擦り淡々とした声でそう語る。
「くそ、逃げるのかよっ」
「ふむ、次の狩りはどうするか。単調ではつまらん」
 フェイルの声が聞こえてないかのように、ルプナートルは思考に没頭しそのまま歩いて去っていった。

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MVP一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471
  • ふわもふマニア
    ソフィ・アナセンka0556
  • 狂喜の探求者
    フェイル・シャーデンフロイデka4808

重体一覧

  • 誰が為の祈り
    コウka3233

参加者一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • ふわもふマニア
    ソフィ・アナセン(ka0556
    人間(蒼)|26才|女性|魔術師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 誰が為の祈り
    コウ(ka3233
    人間(紅)|13才|男性|疾影士

  • 青霧 ノゾミ(ka4377
    人間(蒼)|26才|男性|魔術師
  • 狂喜の探求者
    フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808
    人間(紅)|35才|男性|疾影士
  • 無くした過去に背を向けて
    イルミナ(ka5759
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アーサー・ホーガン(ka0471
人間(リアルブルー)|27才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/04/06 12:02:23
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/05 08:06:41