【AP】瑞木高等学校1年A組、春!

マスター:瑞木雫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
6日
締切
2016/04/12 19:00
完成日
2016/05/01 17:50

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●瑞木高等学校、入学式
 さくら、さくら。
 瑞木高等学校の敷地内にある満開の美しい桜並木はとても見事で、通路には花弁がひらりと舞い散る。
 その中を幸村 理央(kz0139)は想いを馳せるようにぼんやりと歩きつつ、春の風を感じていた。

 ――今日は4月7日。
 そして理央にとっては初めての生徒達と出会う日でもある、瑞木高等学校の入学式の日だ。

「……、…………」

 出逢いの春。
 新しい生活の始まり。
 そんな彼と、彼の生徒達を応援するように、桜は華やかに咲きほころぶ。

●1年A組の教室
 ――瑞木高等学校1年A組の担任の先生は教室の教壇に立つと、しかめっ面で生徒達を見渡した。
 先生は教師の中では若いと窺える青年で、パリっとしたワイシャツに新品のスーツを身に包み、どこか初々しく緊張しているようにも見えるだろう。
 そして暫くすると、ぶっきらぼうに開口した。
「今日からお前達の担任になる幸村 理央だ。えー…………。
 実は俺も、生徒を受け持つのは初めてだから、色々と至らねぇところがあるかもしれねぇが。宜しくな。以上」
 短く終わってしまった自己紹介。
 すると教室はしん……とする。
「……………」
「……………」
 沈黙が流れてしまい、理央は益々眉間に皺が寄った。ホームルームの時間はまだ長い。
 今日の為に色々と考えてきたつもりだったが、
「教科は国語。苦手なのは数学。趣味は……バイクとか、家庭菜園とか。兎……を飼ってる。………」
 教えるのは兎も角、人前で話すのは元々得意な方ではない。
「――次はお前達が自己紹介する番だ。端から順な」
 自分の自己紹介はあっさりと済まして、今度は生徒達の自己紹介に耳を傾けた。

●オリエンテーションの前夜
「はぁ…………」
 学校付近にある借りているマンションに帰った理央は諸々を終えると、ベッドに沈み込んだ。
 なんとか入学式は無事に過ごせたが……
 明日の事を思うと、気が重いのだ。

 ――『新入生オリエンテーション』。
 それは瑞木高等学校でも、入学式の明日となる4月8日と9日を跨ぐ合宿として実施する。

 親睦を深めるという目的を込められた学校行事――。
 まだ出逢って間もないクラスメイトと共に合宿をするというのは、
 ある生徒にとってはワクワクして楽しいものであるが、
 ある生徒にとってはドキドキして怖いものであるだろう。
 理央はどちらかというと後者の気持ちをよく理解していた。
 学生時代の事はあまりよく覚えていない。
 だが、「早く終わってくれ」と唱えていたような記憶がなんとなく残っている。
 人見知りで一匹狼だった学生時代。こういう行事には苦手意識を想い出してしまうが――
 ……しかし、生徒には自分の時のようなつまらなさが残るのではなく、楽しい思い出となってほしいと願ってしまうのは教師心なのだろうか。

 皆、仲良くなれるといいのだが。
 明日の事を気掛かりに思いながら、寝付けない夜を過ごすだろう――。

リプレイ本文

●春の教室
「俺の気持ちは変わってないからな」
 奈々月・央芽<オウガ(ka2124)>の真っすぐすぎる一途な眼差しに、フィリテ・ノート(ka0810)はどきりとした。見つめ合うと恥ずかしくて、頬が熱くなるのを感じていく。
「う、うん……」
 ――中学も一緒で、瑞木高校の1年A組の教室でも隣同士。
 そんな二人をよく知るリディア・ノート(ka4027)は息を一つ零した。
「はぁ……央芽君は本当に相変わらずですよねぇ」
 央芽とは中学からの気心の知れた友達で、フィリテは双子の姉。双方と深い付き合いだ。当然、央芽がいわゆる一目惚れでフィリテに告白した事も、玉砕した事も知っている。そして現在進行形で、央芽がめげずにアタックし続けているという事も。
 リディアはそんな一直線な所に少々呆れながらも、微笑ましく見守っていた。赤くなっているフィリテの本心が、実は満更でもない事を知っているからだ。
(様子を聞いたり、気を使ったり。妹も大変よ♪)

(ま、まさかエリスお嬢様のお隣になれるなんて……!)
 クルス・ルナ・フレア(ka4723)は嬉しさの余り浮かれてしまいたくなる気持ちを抑えながら、仄かに染まる頬を両手で隠す。
 しかし、だ。専属侍女のクルスが慕うお嬢様ことエリス・カルディコット(ka2572)は、クルスの心の様子に全く気付いていない。――なのにエリスは、クルスのハートをいつも瞬時に射貫いてしまう。
「隣同士になれて嬉しいですね、クルス♪」
 純真な笑顔を向けると、クルスは顔に火が点いたみたいに真っ赤になっていた。

(……知り合い同士の人が多いのかな?)
 暮科 美星<エステル・クレティエ(ka3783)>は周りを見渡しながら、少し心細くなる。
(でも、……頑張る)
 ぐ、と緩く拳を握りつつ、気合。
 その瞬間、ふと隣の席の四面正 美菜<ミィナ・アレグトーリア(ka0317)>と目が合った。
 美菜は三つ編みに結って左右に垂らしたおさげの髪はふわふわ――サイズを間違えてぶかぶか気味な上着と黒縁眼鏡が印象的で、雰囲気がのほほんとしている女の子。
 ほわ、と笑顔を向けられると、緊張していた美星はほっと心が癒されていた。
(お友達になれるといいな……)

 一方、一番後ろの窓際の席に座るボルディア・コンフラムス(ka0796)は周りと話はせず、外の景色ばかり眺めていた。
「……」
 遠くを見つめながら溜息を吐き、物思いに耽っていると――。

 ガラララ。

 教室にぶっきらぼうな若い男が入って来て教壇に立った。男は担任で、幸村 理央と名乗る。そして不器用な自己紹介を済ませると、今度は生徒にも自己紹介を促していた。

 そんな理央をじっと見つめながら、美菜はかく、と首を傾げる。
(ん~? 何だかよく知ってる人に似てるのん)
 だが思い出せそうで、思い出せそうになくて。
「えー。次。――美菜?」
「ほぇっ!?」
 反射的に、すっと立ち上がる。
 呼んだのは理央だった。
 どうやら自己紹介の番らしい。
「あ、自己紹介! えっと、四面正 美菜なのん。趣味はお菓子作りと読書なんよー。宜しくお願いしますのん」
「ん、宜しく。えー、次」
 美菜はぺこりと頭を下げ、着席した。
 彼のこんな素っ気ない感じだとかも見覚えがあるような気がするのに、肝心な事がモヤの中に消えてしまう。
 うーん、と悩んでいると。
「どうか致しましたか?」
 美星が声を掛ける。
「あ。えと、先生が知ってる人によく似てるなぁて思ってたんよ」
「そうなんですか? お知り合いの――」
「次」
「あ、はいっ。初めまして暮科 美星です。趣味は、――」
 美菜は美星の自己紹介を聴きながら、視線を一瞬だけちらりと理央に向けていた。
 やっぱり今は思い出せそうにないけれど――いつか思い出す日が来るだろうか?

「皆様初めまして。エリス・カルディコットです。よろしくお願い致しますね」
 漆黒のゴシック・アンド・ロリータを身に纏い、外国のお金持ちのお嬢様といったオーラを放つ、麗しの気品。
 皆に微笑みかける笑顔のなんと眩しいことか。
 ……と、密かにキュンとしているクルスは何とか平静を装いながら、自己紹介に続く。
「お嬢様の侍女をさせて頂いております、クルス・ルナ・フレアです。宜しくお願い致しますわ」
 クルスもクラシカルな正統派メイド服を着用しており、二人並べばどこからどう見ても『お嬢様とメイド』。
 二人の間からは、仲睦まじさが滲むだろう。

「……ボルディアだ」
 視線を誰とも合わさず、ボソッと言った。
 ――続きは特に無い。
 名を告げると同時にそのまま着席する。
「……お、おい。もっとねぇのか?」
 理央が声を掛けるが、反応は返らない。
 先生としては注意するべきだったのかもしれない。
 だが理央は暫くして次、と促した。
 外の景色を眺めるボルディアの瞳が、なんとなく辛そうな目をしていると思ったから。

「おーっすっ! 俺は奈々月・央芽ってんだ、よろしくなー!!」
 元気溌剌。にかっと眩しい笑顔で、央芽は自己紹介を続けた。
「中学じゃ野球部だ! 背は低いけど、子供の頃からエースで4番! 投球もそうでない時も全力投球だぜっ!
 こっちでも当然野球部入るつもりなんで、応援よろしくなっ!
 それから――
 好きな食いもんはカレー! 好きなスポーツは野球!! 好きな女の子はリテ!!! 一年間仲良くしようぜー!」
「「!?」」
 今、さらっと告白したような。
 クラスが軽くざわついた。
 そして自己紹介がリテことフィリテの番になった時は、やはり注目するだろう。
「あの……、フィリテ・ノートよ。……宜しくお願いするわ」
 もう耳まで真っ赤になりながら、クラスの皆の視線から逃げるように着席する。
 次の番はリディア。
「あたしはリディアです。仲良くして下さいですよー♪」
 彼女は央芽の直球(ストレート)な所には慣れっこな為、告白入りの挨拶の後でも動じる事無くにこっと笑顔を浮かべているのだった。


 1年A組のHRの後、美星は吹奏楽部の部室の前に訪れていた。
 入学式の新入生歓迎の演奏の後、自主練している筈だと理央から聞いて少し前を通るだけだった筈が――。
「あら、もしかして1年生?」
「わっ」
 先輩に声を掛けられ、驚いてしまうだろう。
 それもその先輩は、演奏中憧れるように見ていたフルート奏者の先輩で――。
 美星の胸は高ぶり、瞳をきらきらと輝かせる。
「あの、演奏凄く素敵でした!」
「本当? 嬉しいっ」
 先輩ははにかむように笑顔を綻ばせていた。
「もしかして吹奏楽部に興味を持ってくれたの?」
「はい。実は私中学でフルートをやっていて……やっぱり、人気ありますか?」
「そうねぇ、人気はあるかも。でも、うちの吹奏楽部はやりたい楽器を担当させてくれるよ。先生がね、『最愛の楽器を奪うことは私には出来ない』んだって」
 尊重してくれるという事だろうか。それを聞くと、ちょっと安心。
 そして美星は暫く先輩と話した後、お礼を言ってお辞儀をした。
「部活オリエンテーションにも必ず行きますので、また詳しくお話し聞かせてください」
「うん♪」
 先輩は心から歓迎するように言った。
 待ってるね、と。

●合宿1日目
 ウォーキングの目標地点から望む自然が豊かな山の景色は、長閑で、静かで、とても美しい。
 それは遠くのもの然り、近くのもの然り――。
「あ、綺麗な花……」
 美星は目を細め、持参OKだったデジカメで一枚ぱしゃり。
「本当! とても綺麗ですね」
 エリスも屈みながら、小さな花を愛でる。
(花も綺麗ですが、エリスお嬢様の方がお綺麗ですわ。……なんて)
 クルスが口にはせず心の中で呟いていた――だが、やはりエリスは気付いていない様子。
「おぉ、これってハーブなんですね♪」
 リディアは美星に教えて貰い、緑の葉をじぃーっと観察しながら首を傾げていた。
「物知りなのね!」
 フィリテが凄い、と微笑むと美星は少し照れるように首を横に振った。
「いえ、自宅の庭で母と色々育てているので、それで、ですよ」
 央芽もへぇ、と感嘆している。
「これとかもハーブってやつかな! 結構似てるけど!」
 と、近くに居たボルディアに訊ねた。
「……ああ」
 しかしボルディアの反応は短く返すだけだった。会話は長く続かなかっただろう。
 央芽はきょとんとして首を傾げていた。

 本当は、山を歩くだけっていうたりぃ行事なんか参加してられっかって思っていたけれど――ボルディアは我慢しながら参加していた。
 なぜならどうも担任の新任教師がしつこいタイプのようで、逃げれば付き纏われるのが目に見えていたからだ。そして今丁度、その例が実現するようである。
「ユキちゃんー、男子が逃げたのんー」
「お前らぁぁぁ」
 悪ガキ男子と強面教師の全力鬼ごっこが繰り広げられ、ある意味仲良く駆け回る。――が。
「うぁっ!」
「ユキちゃんっ!?」
 ズテンッ!
 小石にぶつかったのか、理央はこけてしまった。
 逃げていた男子生徒達もこれには驚いたらしい。思わず立ち止まると、別のクラスの先生によって捕まえられていた。
「あぁ! 怪我してるのん。ユキちゃんよく見せて」
 美菜はすぐに理央の傍に駆けつけていた。
 そして腕から血が出ているのを確認し、持ってきていた救急セットを取り出す。
「い、いいって。こんなの軽い怪我だし――って、いててて!」
「傷の手当はちゃんとせんと。悪化したらもっと痛いんよ?」
 理央が拒んでも放っとく事は出来ず、傷口を水で洗い、消毒液を塗ってから絆創膏をぺたりと貼った。
「なんだこのキノコ……」
「これ? パルム言うんよ」
 理央は絆創膏に描かれたキノコのキャラクターをガン見しながら、もやもやしていた。何処かで見た事あるような――。だが今はそんな事を考えるより、だ。
「……ありがとう」
 理央が少し照れながら、そっぽを向きつつ小声で礼を言うと、美菜はえへへと微笑んだ。
 不器用な人だなぁ、と心の中でぽつりと思いながら。



(じゃんけん電車……?)
 ボルディアはレクリエーションの内容を聞くと、眉を潜めつつ青褪めていた。
 そして不安に似た感情がふと沸き上がるとぎゅっと胸を締め付けられ、なんだかとても苦しくなる。
 ――肌と肌が触れ合う程の距離感が、怖いから。
 そんな彼女の気も知らず、ゲームは開始する。
 じゃんけんゲームとは――、
 負けた人は勝った人の後ろに続いていく。
 その際、人の手と肩が触れあうのは避けられないゲームなのである。
(くすぐったくないかな?)
 そして美星がリディアの肩に手を乗せ、ちょっとそわそわしている刹那。
「あ……」
 ボルディアが我慢の限界に達し、やってられっかよ、と言い残して飛び出して行ったのを目撃する。
 ――その時のボルディアの表情はどこか辛そうで、寂しそうで。


「……クソッ。いつまで俺ぁ……」
 レクリエーションから抜け出したボルディアは、深く溜息を吐いていた。
 そうして赤毛の前髪を摘みながら弄りつつ、昔の事を思い返す。
 ――小学生の時は、髪と肌の色から差別的な扱いを受けていた。
 その事が深く影響して他人から距離を置くようになり、中学生となった時には荒れた生活を送って。
 中学校から遠く離れた留学生を多く受け入れる瑞木高校で、何かが変われるかもしれないと思っていたけれど。
 友達の作り方も分からないし、結局威圧してしまっている。
 ――駄目だと思っている。
 そしてもう駄目だと確信に変わった。
 同じホテルに泊まってる他校生だろうか……いかにもガラの悪そうな学生がわざと因縁をつけようとしている眼差しで歩いてくる。
 ボルディアは察知した。
 自分はこれから喧嘩を売られるのだと。
(あぁ……ここで手ェ出したら退学かな。ま、それもいいか……)
 全てを諦め吹っ切れるように、他校生に睨み返す。
 そして喧嘩を買おうとした――その時だった。
「おいてめぇら何やってんだ!!」
「げっ、他校の先公か!?」
 理央が凄んでいる形相で走ってくるのを見ると、他校生は慌ててこの場を逃げ去っていく。
 かくして喧嘩をする事はなく場は収まったが……。
「なんで来やがった!」
 ボルディアは横槍を入れられてむっとしていた。――だが。
「心配だったからだろうが……!」
 全速力で走ってきた為息切れをしている理央を見て、俯く。
「……」
「なぁ。何かあったのか? まだ担任になってばっかだし、先生としても頼りねえかもしんねぇけど……。放っとけねぇよ」
 少し沈黙していたボルディアは、心配されて、力が抜けていた。
 そして、ちゃんと言おうと思った。
 自分が今何を思い、何を悩んでいるかを――……。
「俺は……、」


 ディスカッションのテーマは、『明日の調理実習に向けての打ち合わせ』だ。
 皆共通でカレーを作る事になっているが、カレーに入れる具などは生徒達――班で考える事になっている。
 その為の相談という事である。
「ピザも好きだぜ! でもやっぱしカレーだな。カレーっ! フルーツポンチなんかも欲しいなー」
「フルーツポンチなら作った事があるので、私が担当しますね」
 央芽のリクエストに応え、美星がこくりと頷く。
「パブロバとラッシーも作りたいんよ~」
「おおお! いいわね! 賛成ですよー!」
「ふふ♪ リナったら本当甘いものが好きね」
 甘い物が大好きなリディアは、美菜の提案に目を輝かせながら賛成していた。それにフィリテがくすりと微笑む。
「バリエーションが豊富になる様に、トッピングもたくさんの種類をご用意したいですね♪」
 エリスは時間が許す限り、トンカツや焼きナス等を作りたいと挙手を。カレーにプラスのトッピングがあるのは満足感もたっぷりだ。
「それでは私も、お嬢様と共にトッピングを担当しようかと。家ではよくエリスお嬢様と一緒に料理をしていますので、お任せくださいですわ」
 クルスが胸元に手を当てて言った。料理上手そうな二人のタッグは頼もしく、皆の期待も膨らむだろう。
 そして皆の話し合いが大体纏まり役割分担の段階に入る頃、ボルディアが黙々とメモを記す。
「……誰が何やるか、口で言っただけじゃすぐ忘れちまうだろ」
 皆はちょっと驚いていた。今迄距離を置かれていたのが、少し歩み寄ってきてくれたようで。場は暖まり、皆がにこっと笑う。
 こうして皆の希望や作りたいもののリストは綺麗に纏まり、順調に作成された。
「……では、リストも完成しましたし、先生に届けてきますね」
 そう言って、美星は席を立つ。リストは一旦、理央に見せる事になっている。
 先生達が具材の買い出しに行く為兼確認のチェックの為に、だ。

 ライスは飯盒炊飯で、カレーのルーは『甘口チキンカレー』と『辛口シーフード』の2種。トッピングに、とんかつ、焼きなす、ポーチドエッグ、林檎チップス、ピクルス。デザートにパブロバとラッシーとフルーツポンチ。

 美星が持ってきたリストに目を通した理央は、OKを出した。そして――。
「このアンケートって美星が作ったんだよな?」
 ディスカッションを円滑に進行する為にと美星が作ったアンケート用紙を視つつ、目を細める。
「すげえ分かりやすいし、皆の希望も確り拾えてると思う。GJだ」
 その結果の中には、一人一人の希望を確認する事も然りだが、なるべく希望を取り入れようとする美星の思いが滲んでいたような気がして。
 ――それから。
「そういえば吹奏楽部、どうだった?」
 入学初日に伝えてこっそり見に行った吹奏楽部の感想を、それとなく聴いてみる。
「先輩がとても、優しくて。部活体験の日も是非来てねと仰っていただけました」
 そんなふうに零す表情はとても柔らかい。
 どうやら美星は、早速この学校でやりたい事を見付けたらしい――それが嬉しくて。そこはかとなく、わくわくしている様子を見つめながら、理央は微笑みを浮かべていた。


 ――ホテルのとある男子部屋にて。
 男子達は元気よくはしゃぎながら遊んでいた。
 央芽もその輪に混じり枕投げをしたり、騒いだり。全力で楽しんでいた。が……
 央芽は今、決心したように立ち上がる。
「俺。会えたら告白するんだ!」
 告白するというのは勿論、フィリテにである。
 そして央芽の好きな女子の事は、あの自己紹介以来1年A組では周知のこと。
「マジか!!」
「頑張れ、央芽! 後で結果教えてくれよなっ」
 すぐに仲良くなった男子生徒達に応援されながら、央芽は「おう!」と頷いた。
(リテ……)
 溢れる想いは止まらぬばかり。

 早速部屋を出た央芽は、ホテル内を回ってみる事にした。
 そしてもし本当に出会えたなら――
 その時は伝えよう。
 自分の、想いを。


「良いお湯でしたね、フィリテ姉さん♪」
「そうね、リナ♪」
 ホテルの温泉にゆっくりと浸かった仲良し姉妹は体が温まってほっとしつつ、部屋に戻る為ロビーを歩いていた。――すると。
「あ……。会えたッ!!」
「え?」
 央芽がフィリテ達を見付け、大声を出した。
 湯上りで髪が濡れている姿にドキドキしつつ――頬が段々赤くなり、真面目な面持ちとなっていく。
「リテ、ちょっといいか? 大事な話があるんだ」
「え、えっと……?」
 フィリテは突然のことに、おろおろとしていた。
 一方のリディアは色々と察したらしい――
「じゃあ、あたしは先に部屋に戻ってますね♪」
 にこっと笑って、その場をさっと後にする。
 斯くしてこの場に残ったのはフィリテと央芽の二人きり――。
「? 央君、話って……? どうしたの? わっ」
 此処ではなんだから、場所を移す為に彼女の手を引っ張った。
 央芽の話というのは他でもない。
 ――今迄もずっとアタックし続けてきたけれど。今日は、リベンジをしたかったのだ。
「好きだ、リテ」
 恋も野球も全力投球。
 そんな彼らしい真っすぐな告白。
 フィリテの頬は薔薇色に染まっていた。
 胸も張り裂けそうになるくらい、どきどきしている。
「ん。あはは。えっと、えっとね。……ん。嫌いじゃない、と思う……わ。あたし、央君のこと」
 ぽつりと零す本音。
 以前に告白された時は、気持ちを聴くだけでいっぱいいっぱいだったけれど。
 どうやらフィリテの心はゆっくりと、変わり始めているようだ。


 ――ホテルのとある女子部屋にて。
 消灯まではまだ少し早いけれど、布団を敷いた頃。
 女子達は恋バナで盛り上がっていた。

「皆さんは気になる相手とかいますかー? ちなみにあたしは募集中(泣)」
 リディアはとほほ、と零す。
「好きな人ってことなのん……?」
 美菜は首を傾げる。
 今はあんまりぱっとしていないようだ。
「……」
 ボルディアは聞いてはいる、という様子。
(好きな、人……)
 クルスはというと、そわそわもじもじしていた。
 頬をほんのり染め乍ら、隣に居るエリスへと視線をちらり。
 すると目が合って、エリスは微笑みを浮かべた。
 ――きゅん。
 赤くなった顔がばれないように、クルスは枕を手に持って顔を埋める。
「美星様はいらっしゃいますか? お好きな人」
 ふとエリスが訊ねる。
「わ、私ですか……?」
「あ。この反応……さてはいらっしゃいますね♪」
「そ、そういう事ではっ――」
 エリスとリディアが顔を見合わせ、ふふっと笑った。
 そしてその時ちょうど、フィリテが部屋に帰って来たようだ。
「フィリテ姉さんおかえりなさい♪ 央君の用事どうでした?」
「え? 央君? 大した用でもなかったわ♪ あはは、は」
 何事も無かったかのように笑顔で誤魔化す――けれど。
 妹のリディアには通用しなかったようで。
「あたしは姉さんが幸せなのが一番ですよー」
 と、意味深に告げると、フィリテは耳まで真っ赤になってしまった。
 そして隠れるように布団に潜るのだった。

「――あ。もうこんな時間。そろそろ私は部屋に戻りますね」
 エリスは部屋に戻らないと、と立つ。
「え、同室じゃなかったのん?」
 てっきり同室だと思っていた美菜達はきょとり。
「ええ、実はそうなんですよ。……という訳で、皆様おやすみなさいませ。明日のカレー、今からとても楽しみです」
 皆はこの時――いや、帰りのバスでエリスが自ら打ち明けるまで全然知らなかった。実はエリスがれっきとした男子だったということを。
 ただ勿論、メイドであるクルスは唯一知っていた。では何故お嬢様と呼んでいたかというと彼の趣味で余計な偏見を持たれないように――という事だったらしい。
 性別なんて関係はない。エリスはエリスであるのだから。
 クルスはお慕いするエリスを誇らしげに語るのだった。

●合宿二日目
 今日は今回の合宿の肝とも言える、皆でカレーを作る調理実習だ。

【ライス】はオウガとリディアでミィナが補佐に回り、【カレー】はボルディアとフィリテとエステル、【トッピング】はエリスとクルス、【デザート】はエステルとミィナが担当する事になっている。

「……貸せよ。俺が切る」
 野菜を切る係に自ら進んで担当するボルディア。
「いいの? お願いするわ。ありがとー♪」
 フィリテは笑顔でお礼を言った。
 ボルディアは少し気恥しくて、照れながら視線を逸らす。

 ボルディアは包丁に慣れているようで、ジャガイモも人参も玉ねぎも、手際よく綺麗に刻んでいく。
「慣れてらっしゃるんですね。家でもよく料理をなされるのですか?」
 美星が訊ねると、ボルディアはこくりと頷く。
「ああ、うちは男ばっかの家庭だから」
「それじゃあ御兄弟がいるの?」
 フィリテが首を傾げると、ボルディアはまた頷く。
「ん。兄が――」
「じゃあボルディアさんは妹さんなのね♪」
「そう、だな」
 三人は楽しそうに会話をしながら――。

 美星は切った玉ねぎを弱火でじっくりと炒めていた。
 美菜が辛いのは駄目なようだから、と少しでも甘味がでるように。

「玉葱は狐色まで炒めるとして、ジャガイモはどうしよう。んー……煮るに任せるって方向でいいわね!」
「そうですね。そうしましょうか」

 カレー班はテキパキと調理を進めていた。


 そして、ライス班。
「1合で大体1人1日分だから…3合かな? いっぱい食べたい人もおりそうだから5合位かなぁ?」
 美菜がかく、と首を傾げた。
「いや、もっと必要だな」
「もっとですね!」
 央芽とリディアが即答すると、美菜はきょとんとした。
「もっとなのん?」
「あたしってこうみえて結構食べるんですよ! 店を潰したという伝説?を持つ母の娘ですからっ」
「無茶苦茶食うから偶に心配になるけどな。(――っていうか密かに恐れるレベル)」
「そうなのん」
 美菜は話を聞きながら納得したようで、のんびりと米を追加する。
 ざざざー。
 美菜の大量投下に、リディアは大喜びしていただろう。


「クルス、今日は私の方が美味しいと唸らせますからね?」
「ふふふ、期待していますわお嬢様。あ、調味料は此方です」

 トッピング班のエリスとクルスは普段からよく共に料理をする仲でもある。
 しかしエリスは、だからこそ対抗心を燃やしているようで――拳を緩く握り張り切っていた。
 その一方でクルスはというと、いつも通りにこやかにさり気なくサポートをしながら、一緒に料理できる時間の幸せを噛み締めている。

 辛さを引き立てる為にと、林檎を刻んで炒め――りんごチップスや即席ピクルスを準備するクルス。
 エリスは一生懸命、トンカツと焼きナスとポーチドエッグを作っていた。

 粗びきのパン粉で衣はサクッと硬めに。焼きナスはゴマ油を吸わせ、ポーチドエッグはレモン果汁でさっぱり濃厚な味付けに。

「もう少し時間があれば、良い物を作れたのですが……」
 と、エリスは零すけれど、どれもとても美味しそうだ。
「そんなことありません、充分過ぎるくらいですわ。とんかつも焼きナスもポーチドエッグもどれも美味しそうで……流石エリスお嬢様です……!」
「そうですか? クルスに褒められると、嬉しいですね」
 二人はほのぼのと微笑みあう。


「んーまだかなー。暇だなー」
 央芽は飯盒で炊いている最中、根気よく番をしていた。
 ちょうどその時フィリテもカレーのルーをぐつぐつ煮込んでいる最中で――
 目と目が合い、フィリテは顔を赤くする。

 デザートを作っているのは、美菜と美星。
 美菜がパブロバとラッシーを。美星がフルーツポンチを。

 パブロバは小さめにしてつまめるようなサイズで作成。無糖ヨーグルトと牛乳を混ぜ合わせて作るラッシーには、ジャムやメープルシロップを用意する。
 フルーツポンチは缶詰と生の苺を刻みシロップとサイダーに混ぜ注ぎながら、予め作っておいた牛乳寒天と一緒にクーラーボックスへと入れて冷やす。

「ラッシーはさっぱりして美味しいですよね」
「ん、さっぱりな味が美味しいのん。でも一番のおすすめはメープルシロップ入りの甘いラッシーなんよ」
 美菜と美星は仲良く会話を弾ませていた。


「味はこんな感じでいいかしら。あ♪ ねえねえ、少し味みてくれる?」
 カレーもそろそろ充分煮込めた頃。
 フィリテは、甘口のルーの味見をリディアにお願いした。
「うん! すっごく美味しいです!」

「先生もどうですか……?」
 美星が辛口のルーの味見を理央にお願いした。
「お。いいんじゃねえか?」
 つまりこの反応――すげぇうまい! という意だ。

「おーっ! ってことは、完成か?」
 央芽がそわり。
 そう。
 彼らのカレーは完成した。特に問題なく、順調に調理できたのは彼らのチームワークと話し合いの賜物であるだろう。
 目標は大成功で達成した。
 そしてそして――。


 お待ちかねの実食タイムだ!

「「「いただきまーす!」」」

「美味いっっ!!!」
 央芽は感動を覚えて思わず叫んだ。
「美味しいですねー♪」
 リディアもほっぺが落ちそうになる。

 楕円の皿の中央にライス、左右にチキンとシーフードを半々に盛った美星も、どちらの味も美味しくて瞳をきらきら。
 お子様カレーが限界だという程、辛いのが苦手な美菜はというと、卵黄とマヨネーズとポーチドエッグとラッシーと――という辛さ対策の徹底ぶり。
「ユキちゃんラッシー気に入ってくれたのん?」
「ああ。悪くねえな」
「お替りもあるんよ~」
「ん」
 お言葉に甘え、お替りを貰う理央だったが――
「あれ、味が……」
 ちょっと変わったか? と、首を傾げる。
「あ。ユキちゃんのさっきのはね、メープルたっぷりだったんよ」
「なっ……!」
 実は甘党――っていうのは、理央にとって秘密にしたい事だったらしい。
 特に何も言われてないのに、
「べ、別に甘ぇのが特別好きな訳じゃねえよ。辛ぇのとか甘さ控えめとかだって好んで食うし……!」
 なんて言い訳を始めていた。
 が、ボルディアの様子をちらりと見れば、ほんの少し嬉しそうに微笑む。
「――生まれは外国の島で、ガキん頃は毎日泳いでたから、……泳ぎは得意だ」
 ボルディアの改めての自己紹介にへぇ、と感嘆する央芽。
「そうなのか! 得意なら競争とかしてみてぇなっ! っつーか、安心したぜ。あんまり俺らと話したくねぇのかなって思ってたから」
「それはその、……悪ぃ。別に話したくねぇとか、そういう事じゃ、ねぇよ」
 ボルディアは今や、班の皆の中に溶け込んでいたから。
 過去の境遇ゆえ皆と仲良くなるのが怖いと感じていた生徒が頑張って一歩踏み出した光景には、喜びを感じずにはいられない。

 ――悪戯心というのは突如起こる事もある。
 ここまで何事にも動じていなかったクルス。だが。
「はい、あーん♪」
「えっ」
 エリスが突然、カレーをすくったスプーンをクルスの口元に運んだ。
 これぞちょっとした悪戯心なのである。
「え、えええっ? あ、あの、えっとこれはその……まさか、伝説の……!?」
 クルスはひどく動揺していた。
(まさかエリスお嬢様が……私に……っ!!)
 でもそれは嬉しい動揺だ。
 頬を熱くしながらドキドキする。
 そして勿論、このチャンスを逃すわけにはいかない。
「可愛いですね♪」
 照れながらぱくりと頂いたクルスにエリスは微笑みかけ、鼻をちょんと突いた。
「か、からかわないで下さいなぁぁぁ」
 クルスが、はわわと赤面。
 傍からは女の子同士の戯れのようだが、可愛いイチャイチャのようにも映っただろう。
「リテ。俺もあーんしてほしいな」
「え、えええ……っ!?」
 急に央芽に頼まれ、ぽっと赤く染まるフィリテの頬。
「み、皆が見てる前でなんて……っ」
 そんなの恥ずかしくて出来ない、と照れるフィリテだけれど。
 央芽が「だめ?」と聞くと、返事が弱くなっていく。

(な、なんだ……と)

 理央は生徒達のイチャイチャ(?)を目の当たりにしながら、動揺していた。
 先生、どうやらそういう仲良しな戯れ合いには見るのもするのも慣れていないようで、頬を赤くしている。
 こう見えて、なかなかのウブであるらしい。

「ユキちゃんユキちゃん」
「! ……ん?」

 美菜に声を掛けられ、ふと振り返る。
 すると瞬く間にかぁぁと赤くなっていった。
「はい、あーん♪」
 美菜が理央の口元に運んだのは甘いパブロバ。
「お、大人をからかうんじゃねえっての……!!」
「うん?」
 そういうつもりはないのだと思い知らされる、天然な微笑み。
 理央はどうしたらいいか分からなくて動揺し、益々真っ赤になっていくばかりだった。

 ――そんな食卓光景を眺めつつ。
「皆さんらぶらぶ(?)ですねぇ」
 リディアがぽつりと零し、笑っていた。
「違いねぇ」
 ボルディアも少しだけ頬を緩める。
 美星もくすりと微笑みながら、班の皆と共に――。
 温かくて楽しいひとときを過ごしながら、美味しいカレーの味を味わっていたのだった。


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MVP一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエka3783

重体一覧

参加者一覧

  • 幸せの魔法
    ミィナ・アレグトーリア(ka0317
    エルフ|17才|女性|魔術師
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 恋人は幼馴染
    フィリテ・ノート(ka0810
    人間(紅)|14才|女性|魔術師
  • 援励の竜
    オウガ(ka2124
    人間(紅)|14才|男性|霊闘士
  • ピロクテテスの弓
    ニコラス・ディズレーリ(ka2572
    人間(紅)|21才|男性|猟撃士
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 盾の矜持
    リディア・ノート(ka4027
    人間(紅)|13才|女性|闘狩人
  • エリスとの絆
    レヴェリー・ルナルクス(ka4723
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 幸村先生に質問!
エステル・クレティエ(ka3783
人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/04/10 01:03:00
アイコン 相談のテーブル
エステル・クレティエ(ka3783
人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/04/12 14:59:33
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/07 00:26:16