【壊神】リベルタース~雑魔掃討作戦

マスター:草なぎ

シナリオ形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~100人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/13 22:00
完成日
2016/04/17 17:13

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 グラズヘイム王国西方、リベルタース。
 黒公爵シヴァの要塞ブラフマーが上陸して半月が経過した。その間、ハルトフォート砦のドワーフ司令官ラーズスヴァンは、「あの」漆黒のピラミッド要塞を確認し、二十四時間体制の監視を付けた。王国では目下ベリト関連の法術陣のごたごたでシヴァに関してはハルトフォートで対応する必要があった。半月。ブラフマーは鎮座し続け、周辺を汚染していた。さすがに砦に歪虚が到達することなど無いが、報告を確認する限り、シヴァ麾下のネームド歪虚は並みの歪虚ではなさそうであった。
「シヴァの麾下にはそこそこ手駒が揃ってるらしいな……」
 ラーズスヴァンは、先の戦いで上級歪虚を打ち破ったリンスファーサ上級騎士卿を見やる。リンスファーサは軽く頷き、形の良い眉を歪めて美貌をしかめっ面で卓上の地図を確認する。
「ブラフマー周辺の歪虚、雑魔の侵略範囲が広がっています。占拠された場所の民には避難を命じましたが……まだ村は点在していますから」
 すると、傭兵隊長の偉丈夫グリズルドがうなった。
「砦の兵にも限界がありますしな。まさか全軍で出払って雑魔を掃除するわけにはいきませんし……」
 もう一人の上級騎士の男、バーダが地図上の駒、ブラフマーを指差す。
「この要塞は移動できるわけですから、こちらからもプレッシャーを掛けるしかないのではありませんか? 相応の。さすればこのピラミッドも場所を変えるかもしれません」
「ふうむ……」
 ラーズスヴァンは顎髭に手を掛けると、思案した。すでに心は決まっていた。ドワーフは言った。
「リンス、ハンターオフィスに行ってくれるか。リゼリオとの連絡を取ってくれ」
「承知しました」
「分かっているのか?」
「この状況を打開するために、兵を集める。そう言うことで宜しいのですよね」
「分かってりゃいい」
 ラーズスヴァンはひらひらと手を振った。リンスファーサは敬礼して、近郊のハンターオフィスへ向かった。

 機動要塞ブラフマー周辺……。
 全長一キロ弱の巨城は、微動だにしていなかった。負のマテリアルから発生した雑魔の行動範囲はすでにブラフマーから最長で一キロ以上にまで達していた。ブラフマーの周辺ではアイテルカイトの上級歪虚戦士が警戒に当たっていて、雑魔たちを怒鳴りつけて殴ったりしていた。雑魔は千差万別で、人型の傲慢、死人型の暴食、ゴーレム型の嫉妬、巨人型の怠惰、ドラゴン型の強欲、異形型の狂気、獣型の憤怒などが群れをなしていた。知能には個体差があるが、いずれにしても雑魔の知能に限界はあるが。アイテルカイトの上級戦士は人語を話し、両端から刃の生えたヴァジュラを装備していた。
 と、ピラミッドの一角が少し開いて、そこからアイテルカイトの歪虚騎士が姿を見せた。
「ジェーリンガム卿……」
 戦士の顔に緊張が走る。
 ジェーリンガムはシヴァ麾下にしばしば見られる黒衣に黒い甲冑を身に付け、納刀したヴァジュラの魔具を帯びていた。黄金の角を生やした精悍な顔つきの男のアイテルカイトであった。険しい顔をしている。
「変わりは無いか」
「は……」
「油断は出来ん」
「人間など……」
「いつでも動けるようにしておけ。雑魔など放っておけばいいがな。近く私にも出撃命令が下るやもしれん」
「了解いたしました」
 ジェーリンガムは頷き身を翻すと、ピラミッドの中に戻っていった。

 その頃……ハンターオフィスではソフィア・メイデルン(kz0177)がリンスファーサと依頼の確認を行っていた。
「では、リベルタース沿岸のブラフマー周辺の雑魔のクリーンアップ大作戦と言うことで宜しいですか?」
「そう言う言い方をしたければすればいいが」
 リンスファーサは苦笑していた。
「数が数だからな。まあ、ブラフマーを動かすことが出来ればいいだろう。それだけのプレッシャーを掛けることが出来ればな」
「了解しました。では、早速依頼の方は手配させて頂きますね。お疲れ様です! 卿!」
「宜しく頼む」
 画面の向こうの女性は敬礼して消えた。
「さて……と」
 ソフィアは依頼の情報を取りまとめると、キーボードを叩き始めた。やがて、ハルトフォート砦からの救援依頼がハンターオフィスに掲示されることになる。

リプレイ本文

●一日目
 空は灰色だった。
 ラセルナム村――。
「しっかしまあなんつう大軍だ……。依頼人はハンター百人くらいでも構わないんだろ? 俺たちを使うねえ」
 榊 兵庫 ( ka0010 )は言ってやれやれと吐息した。
 J ( ka3142 )ことジェニファーは、ラーズスヴァンに掛け合って、夜警のために砦の兵士を二十数人程度出してもらった。ラーズスヴァンから「二十人で良いのか?」と確認されたほどであるが……。
「頼って頂くのは結構なんですがね~」
 ジェニファーは肩をすくめた。特別報酬でも出ないだろうか……などと悪戯っぽく考えてしまう。
「シロはみんなの役に立ちたい一心なの。間に合ってよかった~♪」
 白樺 ( ka4596 ) がいうと、万歳丸 ( ka5665 ) は拳を打ち合わせた。
「怪力無双の本領発揮だな! 思い切りやらせてもらうぜえ!」

 カリアラ村――。
 徒着した柊 真司 ( ka0705 )は、出立前にバイクと銃の手入れをしていた。長丁場になりそうだった。星輝 Amhran ( ka0724 ) は柊に歩み寄ると、「あ奴と行くのであろう? おぬしも苦労が耐えんな……」と肩をすくめた。
「あ奴はここにいるんだけどなお嬢。どう思う真司」
 紫月・海斗 ( ka0788 )であった。星輝は肩をすくめた。
「おお聞こえておったか。それは悪かったのう」
 柊は二人のやり取りに苦笑しながらバイクの具合を見ていた。
 アウレール・V・ブラオラント ( ka2531 )はソリッドハートの兜を片手に、金髪をかきあげた。
「今はこの地の歪虚掃討に力を尽くそう。それも主君に仇名す者たちの討伐に繋がると思えば……奇縁なものだ。ハンターをやっていれば」
 近くで拳銃の手入れをしてたミオレスカ ( ka3496 )はかすかに笑みをこぼした。
「不思議なものですよね」
 エルディラ ( ka3982 ) はブラフマーを遠目に見ていて肩をすくめた。
「シヴァとやらの城は随分と地味じゃな? 夢幻城は飛んでおったが、ただ地面を滑るだけかあの黒いでかぶつは」
「とは言え、このように雑魔を生成されてはたまったものではないな……」
 コーネリア・ミラ・スペンサー ( ka4561 )は吐息して少し邪魔な髪を払った。
「シヴァですか~。イケメンでも歪虚さんはお断りですぅ~」
 星野 ハナ ( ka5852 )は笑っていた。エルディラとコーネリアは即座に手を振っていた。「無い無い」
「きゃは♪ でも凄い大軍ですよねえ……」
 天道 遮那 ( ka6113 )は碧眼でブラフマーを見ていた。
「僕にとってはシヴァは宿敵以外の何者でもないね……。何にせよ、先ずはしっかりとやることをやらないとね」
 天道の静かな気配に、星野はその顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか天道さん」
「大丈夫だよ」
 天道は優しく笑った。

 ザグルド村――。
 ルカ ( ka0962 )はただ静かに待機していた。パルムが主の緊張を察してか、元気づけようと周りで騒いでいる。ルカがつんとパルムを突くと、ペットは少し抗議してムニムニパンチを繰り出してきた。ルカは微かに笑った。
 レイス ( ka1541 ) と鞍馬 真 ( ka5819 )は、まだ攻撃が始まる前であったので、軽く棒きれを振るって運動をしていた。ルカはその様子を見て、静かにしていた。レイスの動きにも鞍馬の動きにも無駄がなく、二人の一振りごとに風が鳴っていた。二人の実力は伯仲。連撃を十合以上にわたって打ち合い、距離を保っていた。二人は軽く笑った。
「さすがだな」
「きみこそ」
 レイスと鞍馬はルカのもとへ歩み寄って来た。
「すぐに始まるだろう」
 レイスが言うと、ルカは「そうですね……」と頷いた。
「さて、どんなものかな……」
 鞍馬は棒きれを地面に捨てて、水を一口含んだ。

 トートラスト村――。
 アルスレーテ・フュラー ( ka6148 )は基本はダイエットである。すでにバランスは取れているが、頑張っている。レイオス・アクアウォーカー ( ka1990 )と棒槍で打ち合っていた。アルスレーテは果敢に打ちかかっていくが、レイオスは余裕で受け流していた。レイオスが一瞬力を込めて帽を繰り出すと、アルスレーテの手から棒が飛んだ。
「ひゅう♪ やる~レイオス」
 マリィア・バルデス ( ka5848 )はマシンガンの手入れをしながら口笛を吹いた。
 セリナ・アガスティア ( ka6094 )は手を叩いていた。
「面白いですね! アルスさん頑張って!」
「ではレイオス、もう一本頼もうか」
 そこへバイクでザレム・アズール(ka0878)が到着した。
「やあ」
 ザレムはレイヴンクラウンを脱ぐと、仲間たちのもとへ歩み寄って来た。
 マリィアが立ちあがった。
「あらザレム」
「マリィア。みんな」
「随分と急いでるな。ザレムはどこへ行く気なの?」
「今各村を回っているところだ」
「何してるの?」
「俺的にはだ。この人数で戦闘に専念するのは無理があると思っている。俺が敵なら戦直後に要塞を前進させ村全て潰す。これはこのまま行くと、典型的な藪を突いて蛇を出すことになりかねん。シヴァと言う奴がどれほどのものかは知らないが、あの巨城を見ろ。あれがまともに動き出したら止められん。掃除作戦を成功させるには人間が雲霞の如く押し寄せてウザいから移動しようと思わせねばならないんだよ!」
「随分ヒートアップしてるな」
「ま、そこでだ。俺は、今こうして村を回って、残っている村人たちや兵士に夕方に村中に篝火を焚いておけと依頼して回っているところなんだよ」
「じゃあ……夜に大軍が来たように見せようってわけ?」
「その通り。これが人類の本気の威力偵察だと思わせなくては、あれは動かないと思う。古典的な方法だが、これは単純ですぐにできるし、昔から使われてきた効果も期待できる策だからな」
「ふうん……大変だな。まあ、頑張って」
「ちょっと行ってくる。ここを回って、あと二つ……。あとで俺も適当に合流する」
 ザレムは村の中へ入っていった。

 黒の夢(ka0187)――通称アンノウンは、戦場の東部中央近辺にいた。愛騎はイェジドのスカー。周りに狛犬のオメガとアルファが待機している。アンノウンはスカーを撫でてやりながら、狛犬らと戯れていた。
「スカー、オメガ、アルファ、よろしくなのなー」
 黒狼の毛並みを撫でてやれば、スカーは嬉しそうに喉を鳴らしていた。そうしながらアンノウンは金瞳で戦場の先を見やる。
「…………」
 その瞳は、静かに地平の先を見ていた。
「アンノウン」
「ん?」
 アンノウンの視線の先に、ゴースロンに騎乗したジャック・J・グリーヴ(ka1305)が姿を見せた。
「ジャックサマちゃん」
「たそがれてんのか?」
「あはは、そう見えるー?」
「見えねえがよ」
 ジャックは笑った。
「しかしまあ……あの巨城。俺様の庭に土足で乗りこんできやがって……誰だ?」
「吾輩も良く知らないなのなー」
「ふーむ……ここは少し本気で行くか」
「えー? どこまで行くの?」
「ちょっとな……敵の親玉の顔一つでも拝めないかと思ってな」
「あんまり危ないことしちゃ駄目なのなー。吾輩が言っても止めないだろうけど」
「いや、ま、シヴァってのか? それとやるつもりはないが……」
「気を付けてなのなー」
「そっちもな」
 ジャックはゆっくりとその場を離れた。

「よお!」
 エヴァンス・カルヴィ ( ka0639 )は、ほぼ同じ位置にいたボルディア・コンフラムス(ka0796)に声を掛けた。
「エヴァンスかい。何だ、あんたもこの辺からか」
「まあな。ちょいと暴れてみようかと思ってる」
「俺もだ! てか、まあ、連動しつつだがな」
「ああ、それはそうだがな」
 エヴァンスは笑っていた。ボルディアは肩をすくめた。
「まあ、ここまで放置していたハルトフォートもちょっと怠慢だな……。ハンターとしては燃える展開だが」
「まあ仕方あるまい。リベルタース全域にも目を配らにゃいかんのだろ」
 二人の猛者は戦闘開始を待った。

 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は、丘の上で扇片手に煙管をふかしていた。桃色の髪がなびく。
「しかしまあ……掃除とはよう言うたもんじゃのう……」
 蜜鈴はくすりと笑った。黒いネイルが妖術士のようである。
 ナナセ・ウルヴァナ(ka5497)はその傍らで、双眼鏡で敵の布陣を確認していた。ハルトフォートから確認した最新の敵軍の位置と照らし合わせて再度チェックする。
「問題は無い……ようですね。あれはドラゴンですか……?」
 ナナセは頷く。
「しかしナナセは良いものを持っておるのう。このテントは何と言うのじゃ」
「ティピーと言って、辺境の部族たちが昔から使っていたものなんです」
 ティピーはテント内で火を焚くことも可能であった。ナナセが長期戦に備えて用意してきた。

 そして、いよいよ戦闘が始まる。ハルトフォートの兵士達が散って、旗を振って全ての戦線に攻撃開始の合図を出した。兵士達は村を固め、ザレムが伝えて回ったように村人たちと篝火の準備に入った。ハンターで打って出る者は攻撃を開始した。まずはそれぞれに迎撃から始めた者は様子を見つつトランシーバーで可能な限り連絡を取る。また、夜襲に参加する案が事前に出されており、それぞれに夜襲に参加するものはその算段を付けていた。

 ジェニファーは村にいったん待機した。夜襲に備えてのものであった。その間兵士たちや村人たちと篝火の準備を手伝った。村のあちらこちらに油をしみこませた松明や大きく燃える巨大松明を設置した。初日は完徹するつもりであったので、ほどほどに動いたが、万全の準備をしておく。
 榊と万歳丸、白樺、丘を下って来たナナセらは合流し、正面のドラゴン一体に向かって行った。眠っていたレッドドラゴンはぴくりと瞼を上げると、次に襲ってきた衝撃に身をよじった。ナナセの一矢が背中を直撃したのである。ナナセは榊と万歳丸、白樺が接近するのに合わせて、矢を連打した。ズン! ズン! ズン! と矢弾が直撃してくる。四メートルのレッドドラゴンは咆哮すると、二足で立ちあがり怒りに任せてファイアブレスを吐いた。
「万歳丸!」
「おうよ! 白樺下がってろ!」
 榊と万歳丸は二手に分かれると、レッドドラゴンを挟撃した。レッドドラゴンは慌てふためいて大地を激しく踏み鳴らした。二人はそのまま馬を走らせ距離を保ち、ドラゴンの外周をぐるぐる回って、タイミングを合わせた。榊と万歳はドラゴンの側面から突撃した。
 榊は十文字槍を渾身撃で撃ち込み、万歳丸は聖拳を叩き込んだ。貫通。ドラゴンは炎を滅茶苦茶に吐いて消滅した。
「大丈夫ですか~?」
 白樺が駆け寄ってくる。榊は軽く手を振った。
「軽いやけどだな。これくらいなら平気だ。あとでまとめて回復してもらった方が良い」
 ナナセがやって来た。
「お見事です」
「なーに。ドラゴンつっても雑魔だな。どれ、もうちょっと側面の歪虚を削っておくか?」
 四人は少し西進した。雑魔の群れが見えてくる。数は四、五十体。
「どーすっかな……」
 万歳丸はうなった。まあ、恐らく行ける。理論的には瞬殺可能かもしれないが、更に背後にジャイアントサイクロプスの姿が見えるし……。
「仕方ねえな。いったん引き撃ちで雑魚は減らして帰るか?」
「援護します」
 ナナセは矢を番えた。
 榊はそのまま前進した。万歳丸はいやいやながらもアサルトライフルを使った。白樺は後方で待機して、万が一に備える。
 動き出したのは群れを成している下級雑魔だけだった。榊は縦横無尽に槍を振るい、万歳丸は問答無用で蹴散らした。ナナセは矢を連射し、連弾スキルを一回だけ援護に使った。次々と消滅していく歪虚。
「よし! ここまでだ! いったん村に戻ろう!」
 ハンターたちは撤退した。

 蜜鈴は丘の上から敵状を観察していた。雑魔の群れはざわざわと群れているが、大きく動き出す気配は無い。
「ふうむ……どんなものかのう……」
 蜜鈴の力から言って、下級雑魔に後れをとるはずはないが、さすがに目を凝らせば見えるブラフマー、そしてまず一当てもせずに雑魔の群れの力をはかることもできない。歴戦の蜜鈴と言えど、慎重にことを進める。
「まずは打って出た者の報告を待ってからかのう……夜襲にしてもじゃ」
 蜜鈴は煙管をふかして扇であおいだ。

 柊、星輝、紫月らは雑魔の群れを突破すると敵陣左翼に襲い掛かった。
「行くぞ」
 柊はアンティキティラを片手に振りかざした。デルタレイを解放する。三本の光線が雑魔の群れを貫通した。異形の狂気、暴食の死人、ゴーレムの嫉妬が瞬時に消滅する。
「やるねえやるねえ真司! 俺も負けてられないな! 撃って撃って撃ちまくるだけだぜ!」
 紫月はバイクのアクセルをふかせると、そのまま神罰銃を撃ち込んだ。ドウ! と、ジャイアントを銃弾が貫通する。紫月は「やっほう!」と叫んでバイクを走らせる。
 星輝はその様子を見やりながら、周囲を確認していた。ゴースロンを操り、敵状に目をやる。
「さすがに広いの……いやはや。あの要塞を肴に一杯やりたいところじゃな」
 星輝はいったん手綱を緩めると、ゴースロンをゆっくりと回頭させた。柊と紫月の戦いぶりを見やる。
「真司! 合わせろ!」
「はいよ」
 柊は吐息して紫月と攻撃を合わせた。柊はマシンガンに持ち替え、銃弾をばらまいた。紫月も神罰銃を連射する。
「やり放題だぞ。く~たまんねえ! ほとばしるパッション! 冒険!」
「あいつ……乗り過ぎだな……」
 柊はそう言いつつもマシンガンで下級雑魔を一掃していく。紫月も一帯の雑魔を一掃する。
「お嬢! 手伝えよ! ちょっと次はでかそうだぜ!」
「2.5枚目半、わしに期待するな。死ぬまでは」
 星輝の呟きは紫月に聞こえていないが、三人が向かって行くのは五体の大型合成獣の群れ。
「一発かますか」
 柊は加速すると、ファイアスローワーで二体の群れを薙ぎ払った。キメラの亜種のような歪虚を焼き払った。
「あれ……お嬢来ないのか……?」
 紫月は背後でのんびりと付いてくる星輝に目をやり、キメラらしきものに銃撃を開始した。
「これはなかなか……酒を持ってくるべきじゃったかの」
 星輝は悠然と敵軍を見やりつつ馬を進めて行く。
 柊はマシンガンで、紫月は神罰銃で、五体のキメラ亜種を一掃した。
「この辺りが頃合いか……。柊! 2.5枚目半紫月! 引くぞ! ここまでじゃ!」
 星輝はやや前進して二人を呼んだ。二人の男たちはそれでバイクを旋回させると、後退した。

 アウレールはゴースロンKolossを加速させる。エルディラもバイクを走らせ、コーネリアと天道は駆けた。雑魔の群れが広域に散っているのが見て取れる。
「行くぞ!」
 アウレールは巨人に向かって加速し、戦槍で貫いた。振り下ろされる拳を鎧で受け止め、バスタードソードを薙ぎ払う。巨人の足を分断して、崩れ落ちたところを槍で止めを刺した。
 エルディラは慎重に見極めていた。バイクを走らせ、接敵はしないように歪虚とは距離を保ち、アウレールの様子を見ていた。アウレールは次なる獲物に向かっている。まだ初日である。これから要塞にも接近するかもしれないことを考えると、マギステルの自分はスキルを温存するに越したことは無い。
「さてさて……」
 エルディラは「ふむ」と吐息して戦場を見渡す。
 コーネリアは接敵すると、ゆっくりと前進し、アサルトライフルの引き金を引いた。銃撃がほとばしり、ゾンビを粉々にして行く。腰のあたりにライフルを構え、冷然とトリガーを引き続けた。弾倉から物凄い勢いで銃弾が銃身に送り込まれ、そのまま飛び出した銃弾は歪虚を貫いて行く。こうなると海兵隊さながらである。コーネリアは戦場を歩き出し、アサルトライフルで射程に入った獲物を異形だろうが獣だろうが巨人だろうが容赦なく撃ち抜いて行った。
 天道も接敵すると、降魔刀で傲慢の人型の闇の塊を切り裂いた。天道は戦場を見渡した。
「広い、な……」
 さすがにこの距離にこれだけの兵となると摩擦もばらつきが多い。数十メートル先の敵はまだ接敵範囲ではないし、敵も味方もそれぞれに間をはかる機会があった。雑魔の力は見た目では分からないが、過信はせずに敵を選んで行った。
 そこへコーネリアがやってきた。
「天道、援護しよう。さすがにクルセイダーでうろうろは危険かもな。私が支援する」
「ありがとうコーネリアさん」
 天道はコーネリアの援護を受けながら前進した。次に小型のドラゴンに向かった。コーネリアが銃撃する。天道は回り込み、降魔刀でドラゴンの首を切り落とした。
 アウレールは戦場を縦横に駆け回り、続々と雑魔を狩っていく。中央の猛者たちと連絡を取ろうとする。
「ボルディア殿! 中央の状況は!」
 ……雑音が流れてくる。……大丈夫だ!……来い!……こっちも!……ザザー。
 アウレールはKolossの向きを変えると、手綱に鞭を入れた。

 ミオレスカは遠目に見ていたが、よくは分からなかった。村の警護に当たり、弓を携え、ホルスターには拳銃とオートマチックを備えて緊急事態にいつでも対応できるようにしていた。ミオレスカは巡回しながら、色々考えを巡らせていた。そう……色々なことを。視界には戦場を捕え、時折胸の内では今までのことを振り返ったりしていた。今は……ここに立っている自分。強くなったのか、どうなのか、よく分からないが、傲慢の天使も言っていた死の恐怖……。ミオレスカはまだ若い。未来への希望にあふれていた。眩いばかりの希望。ミオレスカは村の中を顧みた。星野らが村人や兵士たちと作業している。
 星野はいそいそと村の施設強化に務めていた。
「では、残った人たちで村を守りましょー! えいえいおー!」
「おー!」
 村の西側にみんなでバリケードを気付いて行く。木を切り出してきて、西側にどんどん柵を築いて、また障害物になりそうな物を積み上げていく。
「よいしょ~よいしょ~!」
 荷車などを押して、西のバリケード化を進めて行く。
「ではみなさんは~、これが終わったら、夜まで待って篝火を焚いてもらって~、東の森へ全力ダッシュですぅ~!」
「へい」
「そっちの若いイケメンさん達! バリケードが出来たら、順次弓を持って配置に着いて下さいね! よろしくですぅ~☆」
「ラジャ!」
「それからみなさんにお願いです! 二人一組になって、何かあったら大声で叫んで下さい!」
「はーい!」
「ミオレスカさ~ん」
「は~い?」
「とりあえず、弓が使えるイケメンズを屋根の上に配置して頂けますか? そっちはお任せしますので~」
「分かりました」
「さてさて~、では私は二時間ほど仮眠させてもらいますね~。よろしくですぅ~」

「では宜しく頼む。また戻って来るのでな……」
 レイスは村人たちに休憩所や治療所の確保を頼んでおくと、鞍馬とルカと出発した。まずは前面の雑魔の群れである。
 ……それにしても大した数だな。レイスは二本の槍を振るいながら思いをはせた。戦槍「ボロフグイ」、絶火槍「クルヴェナル」。いずれもレイスが鍛え上げた武器である。今となってこいつは離せなくなってしまった愛槍。目の前の歪虚達は今更驚くこともない。世界を無に帰そうとしているそうだ……。レイスにそんなことなど理解できようはずもないが、こうして戦っている間は、無心でいられる。それは戦いの中の癒しでもあり、歪虚と言う世界共通の敵と戦っているという存在の証でもあった。戦闘そのものはレイスは必要とあらばいとわないが、世が平和であるに越したことは無い。
 レイスは無造作に歪虚から槍を引き抜いた。歪虚は闇へと還元していく。
 鞍馬は? あいつはリアルブルーから来たという……。俺には想像もつかん……。
 その鞍馬は魔導拳銃を放ち、小太刀で歪虚を撃破していく。……それにしてもよくぞここまで増えたものだな。シヴァとやら、リアルブルーにも神話は存在するが……どういった経緯で破壊神などと名乗っているのか……。
 鞍馬は小太刀を薙いだ。ん? レイス?
「レイス、どうした」
 鞍馬は馬を寄せた。レイスはバイザーを指で上げると、槍を軽く振った。
「いや……よくもまあ、湧いたものだなとな」
「ああ、全くだな」
 二人の男は、一帯の雑魔を掃討すると、ルカを呼んだ。
「ルカ!」
 ルカは魔導バイクを寄せてきた。
「お二人とも、さすがですね。お強いです」
「このまま西側の一部を食い破ろうと思うのだが、どうだろうか」
 鞍馬が言うと、レイスは思案顔で頷いた。
「俺は大丈夫だ。ノーダメだしな。ルカ、大丈夫か?」
「はい。私なら平気です」
 ルカが頷くと、鞍馬が言った。
「よし、では行こうか。ルカ君は気を付けて。戦場は広い。異なる戦域がブロック単位で存在しているようなものだからね。余裕はあるから落ち着いて」
「了解しました」
 三人は西へ前進した。雑魔の群れを蹴散らす。ルカもライフルで雑魔を葬り去っていく。ルカの目に映る鞍馬とレイスは逞しい男たちであった。次々と雑魔を葬り去っていく。ルカも遠目に見ながらちょっと支援したり、自分で銃撃を行ったりと、忙しく動き回った。
 やがて、五体ほどの吸血鬼が三人の前に立ちはだかる。吸血鬼は集団でいて、黒い外衣に身を包み、青白い肌をしていた。シュルルルルルル……。と声を出して、牙を剥いてきた。
 ルカは銃撃を行った。吸血鬼の射程外である。ドウ! ドウ! ドウ! と、鞍馬とレイスが加速するのに合わせて銃撃する。
 レイスは二槍を振るい、鞍馬は拳銃と小太刀で、吸血鬼を圧倒した。
 ルカはライフルで吸血鬼たちを揺るがせた。
 そして三人は吸血鬼を駆逐すると、いったん後退した。村へと帰還する。

 レイオスは和弓を引き絞り、矢を解き放った。ヒュウウウウウウウン! と矢弾が飛んで行き、傲慢の雑魔を一撃で撃ち貫いた。
「続いて第二射。行くぞ!」
 レイオスは二発目を撃った。これも巨人を打ち倒した。そして三発目。これはゴーレムを貫通した。
「撃ち放題だな」
 レイオスは気分爽快。クラスが近接系なだけにあまり弓が撃ち放題と言う状況も少ない。レイオスはバイクを移動させると、どんどん矢を撃ち込んで行った。
 マリィアはバイクを走らせると、大型ゴーレムの集団に接近していく。
「それじゃあ、始めましょうか」
 マリィアはマシンガンを持ち上げると、凄絶な勢いで撃ち始めた。激しい銃撃がゴーレム達を粉々にして行く。
「行って。セリナ、アルスレーテ。支援は任せて」
 照準から顔を上げたマリィアは首を傾けて、二人を促した。
「了解しました! 行きましょうアルスさん!」
「オッケー!」
 セリナとアルスレーテが愛騎に鞭を入れて加速する。ドドド! ドドド! 人馬の怒涛。眼前のゴーレム。どんどん大きくなってくる。
 セリナは符を装填した。
「胡蝶符!」
 蝶に似た光弾が飛び出し、ゴーレムに激突する。蝶が光となって炸裂し、ゴーレムを破壊した。
 ――ガオオオオオオオオオ! ゴーレムが咆哮した。巨大な拳を持ち上げ、地面に叩きつけた。威圧的に無機的な眼光が光を帯びる。
 アルスレーテは金剛でマテリアルを纏うと、続いて拳を突き出した。
「青龍……翔咬波!」
 ドゴオオオオオオオ! マテリアルの奔流がほとばしり、ゴーレムを貫通した。ばたばたと倒れる巨大ゴーレム達。
「まだ残っていますね! しぶとい!」
 セリナが移動して、回り込み、火炎符を叩き込んだ。燃え盛る符がゴーレムを焼き焦がす。
「はああああああああ……!」
 アルスレーテは突撃してゴーレムの胴体を拳で撃ち貫いた。崩れ落ちるゴーレム。
 そこへ殺到するマリィアのマシンガン。ゴーレムを打ち砕き、支援を受けたセリナとアルスレーテらは大型ゴーレムを撃破した。
 レイオスは弓から刀に持ち替えると、バイクで突撃し、下級雑魔を次々と葬り去っていく。百メートル四方に散っている歪虚を刀身の露に変え、バイクを走らせ、一帯を制圧した。
「マリィアだ。レイオス、今日中に多少中を破っておきたい。いけるか」
 トランシーバーに声を掛ける。
「了解した!」
 レイオスは加速した。
 アルスレーテとセリナはいったん休憩していた。まだ全然余裕だが、ちょっと楽しくなってきた。
「行けそうですねアルスさん」
「そうねえ……意外とゴールは近いかもしれないわねえ……これは。未来が先が見えてきたかしら」

 アンノウンは戦場中央、スカーを前進させながら、詠唱を開始した。
「善きこと……善きこと……みなを愛す善きこと……何事も全てが今、上手く行きますように……全てが今……善き方向へと進みますように……全てが……」
 そして見えてきた雑魔の群れ。アンノウンは次の詠唱に入った。
「熱き者……ほとばしるパワーとなって……舞え……」
 アンノウンの吐息からこぼれ落ちる火の球。それを手にかざして一振りする。炎の蝶が舞い、歪虚の群れを薙ぎ払った。
「スカー、いったん後退」
 アンノウンは一時後退すると、確認した。歪虚達は焼き尽くされている。まだあちこちに点在している。
「素晴らしき事……光あれ……勇気と感謝に祝福あれ……みな愛しき者たち……仲間たちに祝福あれ……」
 アンノウンはスカーを走らせた。
 そのまた近くを、エヴァンスとボルディアが駆け抜けていく。
「あああああああああ……!」
 エヴァンスは加速して、テンペストを一閃した。巨人が真っ二つになる。そのまま馬を走らせ、異形を切り裂き、また巨人を切り裂き、死人巨人を両断した。さらに加速する。勢いを付けたエヴァンスは、咆哮して巨人ゴーレムを叩き切った。そのまま西へ前進する。
「燃える! ……燃やせ! 俺の闘志をな!」
 下級雑魔をラウンドスイングで一閃したボルディアは、そのまま暴れ回って一帯を制圧した。そのまま西に突撃する。
 エヴァンスとボルディアの二人はそのまま敵陣中央を突き破り、いったん旋回した。待ちうけていたドラゴンの群れにいったん旋回する。そのまま中央に戻る。
 アウレールとマリィア、レイオスらが合流してくる。トランシーバーで連絡を取り合う。
 電波増幅で中央にもいたザレムが仲間たちに声を掛ける。
「このまま中央を食い破れそうだが。全部は厳しいかもしれないな」
 ザレムは試作型重機関銃「恵方撒」を設置すると、銃撃を開始した。凄まじい銃撃である。ガトリングではないが、物凄い勢いで銃弾が発射されて行く。薬きょうが地面に転がっていく。歪虚は接近してくるが、文字通り粉々と化した。ドガガガガガガガガガガガガガガ――!
 アウレール、マリィア、レイオス、エヴァンス、ボルディア、ザレム、アンノウンらが敵陣中央に巨大な穴を開けていく。
「こんなもんじゃまだ足りない! おらあああああ!」
 エヴァンスは傲慢の剣士と打ち合った。ギャリイイイイン! 傲慢の剣士はエヴァンスの一撃を止めた。
「そうだ! しっかり受け止めろ! 俺の一撃をな!」
 エヴァンスはそのまま続く一撃で傲慢剣士を叩き切った。よろめく剣士。
「ぬうううううあああああ!」
 咆哮するエヴァンス。テンペストを豪快に振って傲慢剣士の上体を吹っ飛ばした。
 爆風となって吹き荒れたボルディア。寄って来た中央の下級雑魔をラウンドスイングで薙ぎ払って行くと、巨大な狂気型の異形歪虚に目を付けた。浮いている。ざらついた感覚を感じたボルディアは、それを本能的に、異形が放っているマテリアルの干渉であると察知した。
「ならば……」
 ボルディアは目を閉じた。ざらついた感覚が消える。視界を遮断すればいいらしい。戦場の喧騒がやけに静かに聞こえる。だが、目の前に浮かんでいた歪虚の気配だけは感じていた。するすると触手を伸ばしてくる異形。ボルディアのウラガンクーペが爆ぜた。かっと見開くボルディア。触手が切りさかれ、異形は咆哮した。
「気配までは消せねえかあ!」
 そして変な感覚も消えた。
「おおおおおおおおおおおお……!」
 ボルディアは巨大な異形に突進した。ウラガンクーペを叩き込む。すれ違いざまに、ボルディアは異形を爆砕した。

 ジャックは敵陣を突破して、ブラフマーに接近した。傲慢の歪虚兵がちらちらと見える。他に七眷族の強そうな雑魔が見える。すでに敵の最終防衛ラインを突破していたジャックに、雑魔の群れが異変を感じて蠢いて来た。
「しゃあねえな……」
 ジャックはマテリアルを燃やして獅子が如き雄叫びをあげた。
 ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン――!
 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン――!
 オオオオオオオオオオオオオン……。
「何だ!」
 ピラミッドから男が声を上げて飛び出してきた。ピラミッドの一角が開いて黒衣の歪虚が姿を見せた。ジェーリンガムであった。ジェーリンガムはジャックを発見して、ヴァジュラに手を掛け、止めた。
「ううむ……」
 ジェーリンガムは頭をさすって、歪虚兵に何事かを命じ、またピラミッドの中へ戻っていった。
 そして目的を果たしたジャックは逃げ出した。

 この辺りまでだった。初日の感触としては十分だった。ハンターたちはいったん全員撤収する。

●夜の出来事
「さーてと! 真司! 行くぜ!」
「行くってどこへ? 休まないと」
 紫月のテンションにあきれた様子の柊。
「何か夜襲とかって話が出てたけどさ! この村にいる女子は今入浴タイムだろ!」
「お前なあ……」
「さあ! 行くぜ! レッツゴー! いざ、女湯へ!」
 紫月は意気揚々と柊を伴って闇の中を歩き出した。
「なあ、可愛い歪虚ちゃんよ、良い子だから絶対今来るんじゃねえぞ? 俺は今からお楽しみタイムなんだからな?」
 紫月は呟きつつ進んで行ったが、そこでカラカラカラカラ! と星輝が仕掛けていた鳴子が鳴って、ドス! と、地面に矢が突き刺さった。
「敵襲ー!」
 と笛の音が鳴り響く。
「しまった! 畜生! 真司!」
 柊の姿は既にない。
 慌てて逃げ出す紫月。キャンプで男泣きする紫月の肩に手を置いた柊。その目は「何も言うな」と語っていた。

 篝火に炎が灯された。戦場の東に突如として炎の列が浮かび上がった。

 そして――。

 ジェニファー、白樺、万歳丸はこの方面から夜襲を敢行。
「…………」
 松明片手に進むハンターたち。
 これは非情な難事であった。何と言っても視界が月明かりのみ。
 歪虚達を見つけるのも難事であった。敵は光っているわけでもなく、暗視ゴーグルのようなものがこの世界にあるわけでもなく、距離感が全くつかめない。
 事前に入念な下調べを日中行っていたジェニファーであったからこそ、無難にブラフマーに接近で来たと言える。
 波が打ちつける。浜辺に出た。ジェニファーはデルタレイで亡霊たちを消失させると、万歳丸が加速して白虎神拳で歪虚兵を動けなくする。
「これぞ二の打要らず……ってなァ!」
 続いて止めを刺す。
 ジェニファーは要塞周辺で蠢いていたドラゴンや巨人、歪虚兵らを獄炎で焼き払った。
「どうやら……夜襲は想定していなかったようですね……」
 ジェニファーは松明でブラフマーを照らす。
 巨城だ。影が天に向かって伸びている。
「おい!」
 歪虚兵が駆け寄ってくる。ヴァジュラから刃が伸びる。歪虚兵は咆哮した。
「危ない! 逃げましょう!」
 ジェニファーは獄炎で歪虚兵を焼き払ってから仲間とともに逃走した。

 星野は燃え盛る炎を背に、敵陣を見ていた。初日からみんなぶっとばして大戦果を上げていた。だがこれも全体の作戦のうちである。雑魔が大挙して押し寄せれば、村に到達し、止める術は無かっただろう。
 星野は月を見上げた。夜襲組の無事を祈る。

 エヴァンスとボルディアはザグルド村から夜襲に向かった。こちらは、さすがに昼間ほどには活躍できなかった。というか暴れることは出来なかった。敵も味方も視界ゼロでは動きようがない。蜜鈴も苦しかった。視界がゼロでは、中々……厳しいものがある。
「まあ仕方あるまいのう」
 何とか言いながら、見つけた雑魔には問答無用でブリザード七発は全て使いきった。夜の中、雑魔たちは冷気の嵐で息絶えて行った。さすがに格闘戦をやる余力は無かった。
 と言いつつ、発見した歪虚は三人とも討ち取っていった。いずれにしても、少なくとも、敵にやたらと夜に活動的な歪虚がいないことが分かっただけでも良しとする。

●二日目
 攻勢に転じる前に、夜襲組からの報告があった。そして、前日戦った者たちの再認識共有。
「歪虚達は恐らくは、積極性に欠けるものと思われます。一日中見ていた感想ですが」
 ジェニファーは言った。
「そして、俺達が戦った感じだと、大規模作戦なんかに比べたらずっとランクが落ちる。見た目はでかくても、マテリアル量は大したことは無いな」
 エヴァンスが言った。
 そして、ハンターたちは大攻勢に出ることを決断する。
 ……と、その前に。
「おーい! 見てくれ!」
 ザレムだった。仲間たちが何だ何だと集まってくる。
 見れば、敵要塞の位置が昨日よりも北に移動しており、雑魔たちがほぼ置き去りにされている。
 逃げる気か。
 ハンターたちは反撃に出た。

 ミオレスカはスキル全開で突撃した。銃撃が混乱する雑魔たちを薙ぎ払って行く。
「逃がしませんよ……!」
 ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! 銃弾を雨あられと浴びせかけ、歪虚たちを蜂の巣にしていく。
 エルディラもうっぷんを晴らすかのように魔術全開。
「大地の聖霊よ。我が求めに応じ、その大いなる力を貸し与えたまえ。生み出す子らは鋭く重く。世を喰らわんとする邪悪の悉くを貫き砕け。五式『舞飛礫』!」
 石つぶてが歪虚を打ちのめし、さらにファイアーボールで追い打ちをかける。
 コーネリアも残っていたスキルを全て放出。
 星野も突貫。持っていた符を全て使いきる。
「わーい! 後は撃ち放題です~! 火炎符! 五色光符陣!」
 舞い散る符の嵐。炸裂する炎と光は破壊の光と爆風となって歪虚に襲い掛かった。
「オレには気が済まないことあるんだよ!」
 レイオスは戦列を離れると、ブラフマーのふもとへ行き、刀でブラフマーの壁に自分の名前を彫った。
「よっしゃあ!」
 そうこうする間にも、星野は最後の大暴れ。きらきら輝く炎と光の中で、踊り、舞い、符を連弾していた。
「私最高です~! にゃふ~! 踊りまわって、燃えよ歪虚達! せいやあ!」
 ビュンビュン! と符が飛んでいく。
 蜜鈴も手持ちのスキルを総動員。
「舞うは炎舞、散るは徒花、さぁ、華麗に舞い散れ」
 炎の種子が一つ。 芽吹き蕾を作り大輪の華炎となって歪虚に花開く。 開ききった花弁は紅蓮の炎を散らし周囲を炎獄へと誘うという。 散った後は欠片も残らぬ一瞬の仇花。スキル華炎。さらにライトニングボルトも全て使いきった。
 これにアンノウンも加わっての魔法乱舞。
 これで雑魔の中央は完全に破壊された。前日活躍できなかったハンターたちが、特に魔術師たちが中央の歪虚を消し炭に変えた。

 残党とも呼べる雑魔の群れが南北に分かれてうろたえていた。ハンターたちはこの広大な戦場の利を生かして、後は各個に撃破していった。
 榊、白樺、万歳丸、ジェニファー、ナナセらは南から突入した。ナナセはスキル全開でどんどん矢を撃ち放って行く。二本同時にどんどん撃っていく。五人は残る歪虚を破壊する。
 柊、紫月、星輝、天道らも村から飛び出し、北側から掃討していく。天道はそまま走って、ミオレスカと合流した。ミオレスカは北へ向かって銃を撃ちながら前進していた。天道はドラゴンを切り裂き、ミオレスカは支援銃撃を行った。
「ミオレスカさん!」
「天道さん、ようやく勝てそうです」
「どれだけの距離を移動しているか……ちょっと感覚が麻痺しますね」
 天道は苦笑した。
 ルカ、レイス、鞍馬らは前進していった。歪虚を討ちとっていく。
「行きましょうアルスさん!」
「そうね」
 アルスレーテとセリナは突貫した。さらにマリィア、ザレム、アウレールらも突撃する。
 エヴァンス、ボルディアは言わずもがな、ジャックもワン・オブ・サウザンドを抜いた。
 あちこちらでマテリアルの光と銃撃、剣撃、魔法が炸裂し、雑魔たちは二日目の夕刻には全滅した。

 そして……。

 漆黒のピラミッドが動き出す。ヴィシュヌが要塞内部で起動した。ブラフマーのピラミッドブロックの、接合ラインに沿って青い光が走った。一瞬、ブラフマーは淡く青く光った。そして、海中に没していったのであった。

●三日目
 ハンターたちは三日目は爆睡した。

●帰還
 ……ハンターオフィス。
「よお」
 ソフィア・メイデルン(kz0177)は、帰還したジャックを見て驚いた。
「もう終わったんですか?」
「敵さんの顔も拝んで来たぜ。似顔絵を描いてやろう」
 ジャックはそう言うと、遠目に見たジェーリンガムの様子を羽ペンで描いて行った。
「ま、そうは言ってもみんなくたくただわ……。俺様も帰って寝るわ~。じゃな」
 ジャックはひらひらと手を振って、ハンターオフィスを後にした。

 超絶熱戦激戦であった。

(了)

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  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 自爆王
    紫月・海斗(ka0788
    人間(蒼)|30才|男性|機導師
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師

  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 愛しい女性と共に
    レイス(ka1541
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
    人間(蒼)|30才|女性|機導師
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 今を歌う
    エルディラ(ka3982
    ドワーフ|12才|女性|魔術師
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 曙光とともに煌めく白花
    白樺(ka4596
    人間(紅)|18才|男性|聖導士
  • Sagittarius
    ナナセ・ウルヴァナ(ka5497
    人間(紅)|22才|女性|猟撃士
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    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ベゴニアを君に
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    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
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ボルディア・コンフラムス(ka0796
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